PandoraPartyProject

シナリオ詳細

素敵な君に逢いたくて

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ここは練達。旅人たちの技術を集結させたある意味では『夢の都』。電子的なモニターに映し出された宣伝ムービーはテレビジョンと呼ばれ、日々、訪れる人々の目を奪い続ける。
 幻想や鉄帝では見られぬ機械――機会と言っても歯車がかみ合う原始的なものではない。デジタルと呼ぶに相応しい――が立ち並ぶ中、一枚のビラがひらりと落ちた。

 コンセプトカフェ『シンデレラジョーク』新規オープン!
 日時:XX-XX-XX
 場所:XXXXXXXX


 練達に新規開店することになったコンセプトカフェ『シンデレラジョーク』の店員が一向に集まらない――助けてイレギュラーズ!
 そう告げた山田・雪風(p3n000024)は日々の暑さからまだまだ夏の装いの儘、特異運命座標達へと泣きついた。事情はどうあれ彼もローレットの情報屋だ。彼からの『お願い』となれば正式な依頼として練達より来たものなのだろうが……。
「シンデレラジョークという店名は美しくも、何所か引っ掛かりを感じるのは気のせいでしょうか」
 穏やかな調子で憂いの色の瞳を細めた夜乃 幻 (p3p000824)は依頼が記載されたA4用紙を手にしながら首を捻る。
「ジョーク、と言われると何か冗談なのでしょうか……」
「店名はオーナーがつける物だし気にしなくてもいいかもしれない?
 あ、それより俺は店員には向かないかもしれないけど、パンなら用意できると思う」
 パンならカフェにも出せますね、とアニー・メルヴィル (p3p002602)は白髪を揺らしピッタリのお仕事だと嬉しそうに目を細めた。華やぐ気配の彼女に上谷・零 (p3p000277)が堂々と頷いている。……その足元で、彼の相棒オフィリアがもしゃもしゃと零のズボンを食べていた。
「木立もカフェのお手伝いしたい? んー……美味しい木の枝はないかもしれないけど」
 フラン・ヴィラネル (p3p006816)に嗄れ声で何かを伝えんとする子ロリババア木立は何かに気づいていたのかもしれない。
 依頼書と共に掲載されていたビラは白いドレスに身を包み、愛らしい雰囲気を存分に感じさせるコンセプトカフェだ。乙女ならば12時の鐘で帰るシンデレラを想像し、舞踏会を思わせるテイストなのだろうと認識することだろう。
 少なくとも、炎堂 焔 (p3p004727)はそうだった。
「ドレスとか着れるかなー?」
 運悪くカフェのビラに『パルスちゃん』がモデルとして掲載されていた事も可愛いカフェでパルスちゃんと同じ様な恰好で可愛いお給仕さんになれるなんて夢を見させるのだから。
「カフェの手伝いね。うんうん。ラクチン――……」
 其処迄言葉を繋げた後、伏見 行人 (p3p000858)は『何かに気づいた』。
 ちょっと、と声をかけようとした行人の方にブヒヒと笑ったゴリョウ・クートン (p3p002081)と眼鏡を光らせた新田 寛治 (p3p005073)が首を振る。
「言わなくていいのか?」
「まあ、その方が面白れぇだろ」
 傍観者の様な口調で話していますが、勿論ゴリョウも巻き込まれます。
「弊社としてもファンドの企画チャンスかもしれませんし――写真集を作成すれば売り上げも見込めるでしょう」
 Project by PPP,Ltdと書いておけば難を逃れる可能性がある気もしますが勿論巻き込まれます。
「ならいいか……」
 気づいたもの、気付かぬもの、それぞれはさておいて――

 この、コンセプトカフェ『シンデレラジョーク』
 どのようなコンセプトかといえば……TS――transsexualであり、大のTS好きを自称する依頼人がそういうお薬が練達にはあるんじゃよ、と微笑んでいるという事を雪風は現場に到着するまで言わないのでした。

GMコメント

 リクエストありがとうございます。日下部あやめです。
 山田が「いや、そういうのアリだと思います。ウッス」と申してました。

●コンセプトカフェ『シンデレラジョーク』
 練達に新規オープンする愛らしいシンデレライメージのカフェです。
 内装は豪奢な雰囲気に仕立てられ、TS(性別が反転した)の従業員たちがお出迎えします。シンデレラも裸足で逃げだす位にびっくりする性別反転の従業員たちを思う存分愛でれるカフェだそうですよ。
 新規オープン一日目という事で『衣装は従業員の好みでOK』というオーナーの謎の発言によりドレス類だけではなく水着やチャイナ服、なんだかちょっと性癖が滲む様な服まで様々用意されています。全年齢向けのカフェなのでおさわりは厳禁。

●せいべつがかわっちゃうおくすり
 オーナー(へんたい)が作成したお薬です。
 依頼を受けた以上、皆さんちゃんとお飲みくださいね。

●お客様
 オーナー(へんたい)の同志たちです。TSが大好きです。
 ・おさわりしようとする人
 ・女の子(元は男の子)を異様に愛好する人
 ・↑を異様に愛好して口説いてくる人
 ・男の子(元は女の子)同士の恋愛(BL?)を求める人
 ・男の子(元は女の子)に女の子な恰好をさせたい人
 ……という業が深すぎるお客様方です。優しくしっかり接客してあげてください。
 その他何かあれば、こういうお客様もいらっしゃるというていでプレイングを戴ければと思います。

●山田君
 特異運命座標を逃がさぬように一緒についてきました。
 TSは理解はありますが特段好物ではないそうです――が、人手が足りないならお薬飲みます。そうだね、ついてきた責任だもの。お名前を呼ばれない限りは描写は致しません。

 しっかりお仕事に励みましょう!
 それでは、よろしくお願いいたします。

  • 素敵な君に逢いたくて完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2019年09月14日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
アニー・K・メルヴィル(p3p002602)
零のお嫁さん
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘

リプレイ


 カランカランとベルが鳴った――さあ、ようこそコンセプトカフェ『シンデレラジョーク』へ!

「山田ぁ! 俺をぉ!! 騙したなぁ!!!」
 がしり、とその細すぎる肩を掴んだ『フランスパン・テロリスト』上谷・零(p3p000277)は激しく揺さぶった。右へ左へ、『サブカルチャー』山田・雪風(p3n000024)は視界を動かしながら「え」や「あ」と絶えず繰り返した。
「騙しては――ないかな――」
「カフェのお仕事って聞いて憧れのお仕事! 新作スイーツの味見! なーんて夢見てたのにー!?」
 可愛いカフェのお仕事ってわけじゃないの、と『繋ぐ命』フラン・ヴィラネル(p3p006816)は大いに不満を伝えた――が、実際の所はそういう機会は中々にない訳で、どこか楽しい気持ちになっている事は否定はできなかった。
「店員さんが足りてないって聞いた時点で普通のお店じゃないって気づくべきだったね……。でも引き受けちゃったからやるしかないし、何だかちょっと楽しそうだよね!」
『それは兎も角』とでも言う様に『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は気を取り直してシンデレラジョークで行われる業の深い行いを許容していたのだろう。
「あっ、雪風ちゃんも手伝ってくれるよね♪」
 ――まあ……。
「なかなかに業が深いと思う、が……こういう機会でもないと開かない扉だ、積極的に行こう」
『北辰の道標』伏見 行人(p3p000858)が穏やかな調子でそう言った。ニヒルな笑みを浮かべた青年はあろう事か『新たな扉』を開く可能性を示唆していた。
 勿論、そう言った性癖の者がいるのは否定はできないのだろう。嫋やかで美しい淑女が実の所、行人の様な青年であったりだとか――そう、男装の麗人であった『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)がその姿形を『男性』に変えてしまったりだとか。
「これが……」
 それは夢見るような美しい瞳で鏡を映し込んだ時の反応であった。己の体を触り、ふと、蝶々の羽を瞬かせた彼女は自身の下半身をじっと見つめる。
「流石に着替えないとキツイですね……この腰に生えたワームみたいなものはなんで御座いましょう?」
「それは苦痛を伴う可能性がある為にタッチすることは控えることはベストでしょうね。
 コンプライアンスにも差し障る可能性がありますが、業務に必要な情報であればマニュアルを開示しましょう」
 意識の高そうな言葉で一先ず幻の狂気と思われる『天然』を防いで見せた『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)。PPP.Ltdの叡智が無ければ一人が重傷を負って脱落してしまっていたかもしれない――
「ぶははははっ! 面白いじゃないかい!
 アタシの仕事はカフェの調理担当。つまり厨房のおばちゃんさ!」
 自身の体が女性の者に変わろうとも『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は差して変化はないと言う様に腹をぼん、と叩いた。厨房のゴリョウおばちゃんは得意の料理であらゆる嗜好の珍客をも受け入れて見せようと胸を張る。
「クートンおばちゃん……なんだか、不思議ですね~。
 TSがお好きとは……いろんな方がいるのですね~。私が男の子になる……ふふ、ちょっと面白そうです」
 こてりと首を傾げ朗らかな笑みを浮かべた『お花屋さん』アニー・メルヴィル(p3p002602)。淡い紫水晶の瞳は店内に設置されたステンドグラスの美しさを映し込みうっとりと細められた。
「せっかくですから楽しみましょ! 零くん、今日はお洋服をお借りします」
「いやぁ、意外と俺の服も役立つもんだなぁ。どうぞどうぞ」
 にこりと微笑むアニーに自身は衣装の中から露出度の低い巫女服で良いかとげんなりした調子で――少し雪風を恨めしそうに見ている――告げた。
「な、なんだか妙な緊張感が……汚さないようにしないと!」
 甘酸っぱい気配と共に――コンセプトカフェ『シンデレラジョーク』開店いたします!


 カランカランとベルを鳴らし入店したのは寛治。彼自身は最初に薬を飲む事無くサクラとして店内に紛れ込むという提案をしていた。何故ならばビジネスにはある程度のクチコミも必要だ。ニッチ出あればあるほどにそう言った根回しは必要だ。
「おや、あれは――」
 寛治はゆっくりと顔を上げる。きらりと眼鏡を輝かせた彼の反応に面白半分入店した者や『そう言ったご趣味』の方々がつられて顔を上げた。
 其処に立って居たのは行人だ。
「彼は旅人。成程、その探求心の行く末でこうして性をも超越したという訳ですか」
 大柄であり、確りとした体躯は今はすらりとした長身の女性へと変容していた。体の線は丸みを帯びた事で女性らしさと怜悧な吐く示唆を感じさせた。顔つきや髪の長さは変わらないが声音は女性らしく愛らしい。
「ンンッ」
 咳払いをした行人が此度旅をすることとなったのは『TS世界』というのだから旅という者は何が起こるかは分からない。肌を晒さぬようにかっちりとした給仕の衣装は男性ものだ――どうして? 『スカート』を履く強靭なる精神なんて持ち合わせていないからだ!
「いつもは旅人、今は給仕の行人です。宜しくお願い致します」
 うっすらと施された化粧は決して下品な程ではない女性陣(今は男性)のお手の物だろう。
 興味深いと頷く寛治。バックヤードではその様子を見ながらフランが焔をちら、とみて「凄い盛況だね」と呟いた。
「皆がどんな風になるのかすっごい楽しみだったんだ
 ボクは10代前半に見える可愛い系の少年になったってオーナー(へんたい)さんに言われたよ。男の子になったらお胸がなくなって体のバランスが変わ……らない? なんで?」
 己の心の傷を抉るかの如く焔のぼやいた言葉にフランは「えー?」と首を傾げる。女の子は柔らかな曲線を描いて抱き締めると良いにおいがすると思い込んでいる山田雪風少年は焔とフランの言葉(ゆめをこわす)を聞きたくないと言う様にしゃがみ込んだ。
「男の子の身体ってがっしりして……あれ、なんだか胸の辺りはあんまり変わってないよう……な……泣かないもん。ねっ焔先輩!
 自分のことは何回かはあたし、って呼ぶだろうけど途中から僕、にできるはず!」
「うんうん。だ、大丈夫!」
 あんまり違和感ないね、なんて笑う二人に違和感しか感じない零は雪風と同じくしゃがみ込んでいた。
「その……」
「……何」
「なんか、ごめん……」
「や、山田ぁ!!」
「でもいいと思う! ほら見て、俺可愛い!?」
 世にはやけくそという素晴らしい言葉があるのだそうだ。楽しむ少女二人(こころにきず)の一方で、世間で流行の美少女の義体を手に入れるすばらしさをいち早く手に入れた雪風は零に笑みを溢した。
「有るべきものが無くなった上になんか胸まで……これ一日で戻るよな? 永遠にこのままとか言わないよな?!」
「お、俺に聞かないで」
 オーナー! と叫びたくなったが、もう時すでに遅し、だ。アニーが「ホールにいかないと……!」と零を呼んだのである。
 もじもじとした調子の零と彼の服を着て居る事で緊張をして居るアニー。それを目ざとく見つけるのがファンドマネージャーという者か。
「あの二人、カップルでTSですか。パートナーのいつもと違う姿に、新鮮な高揚を感じているようです」
 ――TSソムリエの静かな言葉にどよめきが起こる。
「僕はアニー。TS学園の3年生。どういうわけか男の子になったんだ。
 フランは同じ学園の後輩なんだけど、僕が肝心な所でドジなせいで……いつも心配かけちゃってるんだよなぁ。今日こそはしっかりして先輩の威厳というものを見せつけねば!」
 やる気十分で挨拶をしたアニーの言葉に誘われるようにホールに飛び出したフランは「先輩は手芸が趣味なんだ。可愛い所あるだろ?」と冗談めかす。
 ヒュッ、とどこかで息を飲んだ音がした。きょとりとしたアニーが探せばそれは着席していた女性のものだろうか。
「お嬢様? さ、お水をどうぞ」
 思わず息を止めた女性につかさずフォローを入れた幻。筋肉のついたその身体は普段の淑やかな姿と比べれば精悍だ。「私の執事だわ」とぼやいた女性客に幻は唇に指先を当て「さあ?」と冗談めかす。
「成程、お目の高い同士がいた者ですね。あの男性スタッフ、元は男装の麗人ですか。中々に、深い」
 寛治(ソムリエ)の言葉に女性客は男装の麗人である女性が『その身を男性』に変貌しているという特異なシチュエーションに興奮を覚えたかのように椅子から立ち上がる。
「い、衣装のリクエストは――!」
「ええ。承りますがメニューをどうぞ? 素敵な料理と共に『衣装』を変化させましょう」
 手を上げた女性の様子を遠巻きで見詰めながら零はヒュッと息を飲んだ。メニューリクエストが入れば稼ぎにはなるが彼にとってはTSしてても女装は女装だ。
「料理が出来たよ! 山田も行ってきな!」
「え、ええ……」
 クートンおばちゃんの言う事は絶対だ。食堂のおばちゃんをイメージしたその姿にどん、とホールへと押されればもう『お手伝いしないわけにはいかない』と山田の表情も曇りゆく。
「ク、クートンおばちゃん……」
「何、慌ててんのさ。『雪風ちゃん』だって遊んできな!」
 無茶を仰る。


 可愛い女の子の服だって沢山。焔はどれにしようかなと悩まし気に衣装を見遣る。
「あ、零く……ちゃん! こっちきて!」
 衣装チェンジの為にと一度下がっていた焔がひょこりとバックヤードから顔を出す。零はそれに気づき「どうした?」と彼女へと問い掛けた。
「巫女服って慣れてないと着るの難しいよね。ちょっとズレてきてるから着付け直すね―――」
 その時、焔は気付いてしまった。ぺたんとした己の胸よりも尚、TS零くんの方がふくらみがあることに。
(う、ううん? ボク、今、男の子だし? そ、そんな、ボクだってこれ位はあるよね? ね? うん、きっとある、あ――)
 ぎゅう、ときつく締められたそれに「ちょ、ちょっと痛い」と声がかかり焔は死んだ目の儘で虚無の笑みを浮かべた。
「あ、ごめんね。力入れすぎちゃった」
 虚無だ……。虚無の儘、零を送り出して洋服を見遣る。さあ、そこに有るのは素敵なものばかりだ。先程幻に衣装チェンジを願っていた女性が居た事もあり、女性ものの愛らしい服装も『着る可能性』あるのかなあと焔は首を傾ぐ。
「そんな変態さんはいないよね!」
 一先ずは軍服の様を着用してホールに戻れば寛治がドヨめいた。
「褐色の男の子、普段は元気系の少女ですね。脚が実に良い」
「脚!?」
 脚フェチであろう青年が立ちあがり焔に着目する。ソムリエの独り言はこれほどまでに影響を与えるものなのか。元気系褐色少年焔に対して寛治はきらりと眼鏡を輝かし――「やあ、そこの貴方、今日は仕事何時に上がりますか? 良かったら二人で食事でも」
 寛治の声を遮るように「ぶははは!」と笑い声が響く。割烹着を身に纏ったおばさん系オーク、ゴリョウの登場だ。
「ぶわはははっ! 少々おイタが過ぎたようだねぇ! さぁ、お仕置き部屋行きだよ!」
 お玉片手に寛治の首根っこをひっつかみ、伸びた髪を頭の上でまとめた『かぁちゃん』の腕っぷしに客たちは「おお……」と小さく声を漏らす。
 そう、TSカフェという慾に塗れた空間であるために、こうした対応も必要なのだ。そう言った事があるというのを身をもって示したソムリエはこっそりとバックヤードで敏腕女性Pに様変わり。
「あのー、このシチュエーションっていうのは……? BLって書いてるんですけど」
「ああ、それはね! えっと、びーえるってのをアニーくんとフランくんがしてくれるんだよ!」
 メニューを頼めばそれが見れると聞いた女性客が手を上げてお願いしますと乞う。『びーえるってなんだろう?』と首を傾げた焔が「アニーくん! フランくん!」と呼んだ。
「はーい?」
 料理を運んでいたアニーがくるりと振り返る。料理に美味しくなぁれと魔法をかけると笑ったアニー先輩が魔法をかけてぺこりと礼をする最中にうっかり足を滑らせる。
「あっ――」
「アニー先輩」
 そっとフランがアニーの腰を支える。ぐい、と腕を引いたまま空いた壁へととん、と背を付けたアニーが『壁ドン』だと慌てた様に顔を上げた。
「もう、先輩は僕がいないとダメなんだから……」
「わわっ!? フ、フラン! ちょ、ちょっと……近いよ?」
 頬を赤くしたアニーの顎をくい、と持ち上げたフランは囁くように――しかし顧客にはばっちり聞こえる様に――云う。
「女の子の先輩もかわいかったけど、男の子の先輩も好きだよ」
「ッ、お、お客様だって見てるんだぞ……!? こういうのは二人きりの時に。
 ほ、ほら……フラン……ボタンの糸が解れてる。僕がちゃんと付け直すから。控室、いこ……?」
 二人きりだろ、と囁くそれにどよめきと女性客が卒倒しそうな程に真顔になっていることに気づく。そそくさとバックヤードに戻っていく最中に、ふとフランは擦れ違った雪風の袖を引いた。
「ちゃんと女の子のぱんつ履いてるかな……ちょっと通りすがりにめくってみよう! 雪風先輩!」
「ギャッ」
 に、と笑ったフランにスカート捲りをされた雪風はひとまず着用していたセーラー服を慌てて抑える。胡乱な瞳で周囲を見回して「いやいやいや!?」と慌てた様にフランの肩を掴む。
「あれ? 雪風先輩女の子なのに男の子パンツなの? おーい、おばちゃーん! 雪風先輩パンツ間違えてるー!」
 明るいフランの声に「ああ」と叫んだ雪風がゴリョウの許へと走って去っていくのを見ながら零の血の気が引き、クールキャラである行人は静かに胸を撫で下ろす。
 世の中にはギャップ萌えという言葉があるらしいと幻は訊いた。ウェルカムボードに練達の技術を集結させて自己紹介ボードを作っていたがその『印象』を変えるような妖艶さを彼女は醸し出す。
「このメニューで女装なんて指定しないで下さいね。
 特にチャイナ服なんてスリットが深くて恥ずかしいんです」
「――!!」
 お分かりいただけるだろうか。妖艶な雰囲気のクールな元が男装の麗人であるTS青年が照れているのだ。手を上げた女性客が「チャイナで!」と高い商品を頼み続ければ、チャイナ服を着用して少し照れた雰囲気で目を伏せる。
 シルクハットの麗人が愛らしいチャイナのスリットから足を覗かせるのだ。女性客が「ンッ」と口元を抑えたのも無理はない。
「ッ金の為だよ畜生!」
 ツンギレというジャンルなのだと客たちは言っていた。「レイちゃ~ん」と呼ぶ客が新たに訪れた客へと自己紹介を求める。
「レイです! パン作りが得意! よろしく!!」
 着用させられたミニスカシスター服に彼はキレそうになりながら涙目で叫んだのだった……。
「そういえば、お姉さんはどんな感じに変化したんですか? できれば普段の口調で話してください!」
「……オレ? オレはあんまり変わってないかもね。でも剣が重たくってね。
 ……オレはオレだけど、精霊たちも少し警戒してしまってるみたいだ」
 女性客が瞳を輝かせTSしたという設定を押し出すように女性姿で男性としての行人を求める。そんなTS美女の背を眺めながら、彼の後ろに居た男性客がそっと手を伸ばす。
 ぞ、背筋に走った衝撃に「あらあらまあまあ、お戯れを……」と冷たい瞳で見ることしかできない行人。同性にこうやって触られるなんて誰が予想したであろうか。
「クートンおば様、不届き者でございます」
 淡々とチャイナ服姿(しかし外見は男性だ)の幻が告げる。
「お客様! 困ります! あーっ! お客様!
 あーっお客様!! 困りますあーっ!! 困ーっ!!」
 ぐ、と行人の腰を出した顧客を見つけてアニーが慌てた様に走り寄る。ぐん、と顔を出したクートンおばちゃんが「おやまあ!」と声を顔を出す。
「ごめんなさい、彼は仕事中なの。良かったら、マネージャの私がお話伺いますわ?」
 柔らかに微笑んだ寛治は行人にウィンクし、そっと外へと出ていったのだった――

 ホールの人数が減った事でまとめ髪を降ろした妖艶な美女姿のゴリョウ。美魔女としてホールに突然現れた彼にどよめきが起こるがそれを『食堂のおばちゃん』である事を知る幻は「素敵な奇術ですね」と笑うだけだ。


 閉店時刻になり、落ち着いた店内を見回してフランは1日だけの『不思議なイベント』を記念に一枚残そうよと特異運命座標達を呼び寄せる。
「疲れた……」と小さく呟いた零はふと胸の中を占めた不安を思いだす様に雪風へと掴みかかる。
「山田ァッ! 本当に!? 戻る!? 本当に!?」
 ――その結果は……戻るとは聞いたけど面白いから、まあいいやと雪風は「ははは」と笑うだけだった。

 おあとがよろしいようで。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 この度はリクエストありがとうございました!
 TSというジャンルは山田にとってもドキドキだったので練達でさらにお勉強しておきます。
 男性/女性のトランスも皆さんとても魅力的でした。

 また、ご縁がございましたら。
 どうぞ、よろしくお願いいたします。

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