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シナリオ詳細

はつこゐ花の標

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 宵の色がとぷりと落ちる。天蓋に飾られた星々に一縷に伸ばされた白。棚引く雲が月を隠し、静寂の狭間に波打つ白いフリルはレェスと共に夏の風になびいた。
 クスクス――唇から漏れるのは少女の周囲に或る残虐な光景と比べれば余りにメルヒェンな響き。
 頬を撫でた金の髪に擽ったいと目を伏せて少女は云った。

「きれいだね? 『言ってた通り』」

 深緑の若木を指先で撫でて少女は目を伏せる。
 僅かな砂の気配に一縷の憎悪を滲ませながら彼女は足元に転がった市街から伸びる花に歓喜する。
 嗚呼、嗚呼、ご覧になって。
 いのちが芽吹く時を。鮮やかなる花を!
 白き都に咲く花の美しさも素敵だったけれど、美しい木々に鮮やかな色彩差すのも美しい。
 クスクス――少女は振り仰ぐ。そして、その場から姿を消した。
 残るは美しい花畑と、其処に迷い込む長耳のちいさなちいさなこどもだけだった。


 その幻想種は名をメルエットと云った。
 鮮やかなひまわりをその両眼に映し込んだかのような陽色の瞳に、セピアの思い出乗せた長髪の小さな子供。
 彼女はひとつ、幸福を抱えていた。胸いっぱいの溢れ出る感情。
 そのこころには恋を抱き、いとしいひとへのプレゼントを探し森を歩む。
 その先に――花が咲いていたのだ。美しい鮮やかな花。

 みて、きっとセリードも喜んでくれるはず!

 そう微笑んで走り寄ったが最後、視界が眩りと歪んでいく。
 見上げたところには砂が緩く舞っていた。


『アンラックセブン』――それは混沌世界で指名手配される狂気の集団なのだという。
 その一人に数えられる幼い少女。『花の聖少女』を冠し、世界が少女に与えた唯一の贈物によって人生の歯車が軋んだ天義の娘。
 それがキャンディと呼ばれる少女なのだという。『サブカルチャー』山田・雪風(p3n000024)は彼女の事を純粋悪であると称した。
 花を咲かせることのできるギフトに、花を愛した心優しい一人の少女――結末が、一番に美しい花が生者に咲き誇る花であることに気づくまでは愛らしいだけの一人のむすめであったはずなのだ。
 彼女には目的意識として花を咲かせる事しか存在していない。花を咲かせる以外、無駄な殺生をすることもなければ、花を咲かせる対象に対しての忖度もない。美しい花が見たいから肥料とするだけなのだ。
「あー……でもさ、生きてる人間や死体から花が咲くって、やっぱり不気味だと思う。
 天義では討伐隊がでたりしたそうなんだけどさ、キャンディは『その国に留まる必要性』はなかった――から、今はアンラックセブンのロストレイに言われて『肥料が沢山いる場所』に向かったみたいなんだ」
 それが深緑、と雪風は混沌世界の地図を指さした。
 現在の深緑は幻想種が誘拐され、ラサへと流れ、そして各国へと奴隷として売り払われている。
 深緑とラサ。緩く続いた同盟関係に罅が入らぬようにと特異運命座標達が事件の対処に当たっているが、それを聞きつけたが如くキャンディが足を運んだ――『運んだあと』なのだろう。
 深緑とラサの国境。鮮やかな緑が砂に交わるその場所に向けて美しい花が咲いている。
 その花は『奴隷商人』や『奴隷の幻想種』が元になっているそうだ。
「奴隷商人に花を咲かせてくれたんならありがたい! ってなるんすけど、そうでもなくて。
『そこに、人が居たから咲かせた』って事だと思うんだよね。一緒に居た奴隷の幻想種も犠牲になってるから」
 ただ、その花は深緑の中に花開いたままであり、人気無い迷宮森林に飽きたキャンディが撤退した後でも尚、幻想種達は花を追い掛け辿ってしまう。
 その花を辿り、そして行き着く先には『キャンディが去った事を確認した奴隷商人』が立って居るのだ。
「一先ずは奴隷商人の対処をお願いしたいんすよね。
 そんでから……キャンディは『人が多くなれば花を咲かせにやってくる』と思う」
 それは特異運命座標と奴隷商人の間で戦闘が勃発した場合は介入の危険性があるという事だ。
「奴隷の子を保護する目的もある上で、魔種みたいな、いや、それ以上かも。そんな狂気を孕んだ存在に介入されても護るべき対象があるという事は危険が跳ね上がるだけだと俺は思ってる。だから、早期での対処をお願いしたいんだ」
 美しい花の香りが近づく前に。
 奴隷商人から小さな子供を奪還してやってほしい。

GMコメント

 日下部と申します。よろしくお願いいたします。

●成功条件
 ・奴隷となったメルエットの奪還
 ・奴隷商人の撃退

●メルエット
 陽色の瞳にセピア色の長髪の幻想種。幼く、はつこいをしたばかりです。
 大好きなセリードの為に花を摘む目的でキャンディの花畑にやってきたところを奴隷となりました。戦闘能力はありません。

●奴隷商人×3、配下のモンスター×5
 奴隷商人グループの男とその配下として連れられる犬型のモンスターです。
 凶暴であり、主人を護る為に立ち回るモンスターの背後で奴隷商人達は立ち回ります。
 基本的には前線にモンスター、後衛に奴隷商人の形となるでしょう。
 戦闘能力はそれなりであり、油断は禁物です。

 ・『眠りの砂』
 奴隷商人たちの使用する道具。彼らの主導者が用意したものだと思われます。
 眠くなる~気絶させる等の効果がありメルエットはこれを使用されています。
 また、特異運命座標は『精神力』にて撥ね退ける事も可能です。強い気持ちをお持ちください。

●『花の聖少女』キャンディ
 アンラックセブンのひとり。幼い少女。『天使の花畑』と呼ばれるギフトでどこにでも花を咲かせることができますが人間に咲く花に魅入られ『無差別な殺人』で美しい花を見ます。
 花を咲かせたいだけなので無駄な殺生はしませんが倫理観が可笑しいのは確かです。
 ターン経過により騒ぎを聞きつけて戦闘に介入する恐れがあります。
 過去、ゲツガ・ロウライト率いる討伐隊が相手にした際の情報は以下

・花を傷つけた物は何人たりとも(魔種であろうとも)憎悪の対象
・善悪の区別なく、花を咲かせる事だけが主目的である
・戦闘能力は『花を咲かせる』という事象に対することだけに異様に高い

●キャンディの花畑
 深緑とラサの国境に続く様に咲いている花たちです。元々は奴隷商人や、奴隷たちであったかと思われます。
 美しく、輝かんばかりの花が咲いています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

どうぞ、よろしくお願いいたします。

  • はつこゐ花の標完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年09月12日 22時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
レオンハルト(p3p004744)
導く剣
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
ジルベルト・アダムス(p3p007124)
小柄に優しい
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者

リプレイ


 ひらひらと、舞うレェスとフリルの美しさは野に咲く花々のよう。
 少女は歩む。欺瞞と独善に満ちたいとおしさをその胸に――


「さて、少女のはつこいの物語はどんな結末を迎えるのか
 きっと感動の物語になりますよ? ふふふふ」
 物語を愛するかのように『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)はうっとりと言った。薄光の蝶々を髪に飾らせて語り部の如く彼女は周囲を見回した。
 深く芽吹いた緑の中に、ヘンゼルとグレーテルが悩まし気に撒いたパン屑が如く花が散らばっている。その花を追いながら永劫の美を持つ者――幻想種と呼ばれる――たる『終焉語り』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は紅の瞳を細めて悩まし気に呟いた。
「旅人の知り合いから聞いたことがある。時に、人として生まれながらあまりに『人』の在り方からズレた者が現れる、と――確か……そう。『逸脱者』と呼んでいたか」
 逸脱。人に非ず。そう呼ばれる人でありながら思想さえもが別である存在。
 その存在の名を、『聖剣解放者』サクラ(p3p005004)は知っていた。何時かの日、彼女の祖父ゲツガ・ロウライトが相対したという『逸脱者』――アンラックセブンと呼ばれる人で有り乍ら狂ってしまった存在――その名を口にして彼女は手にした聖剣を握りしめた。
「……幻想種を狙っているって事だし、他人事じゃないよね。
 絶対に助けないと――頑張ろうね! サクラちゃん」
 彼女の昏い面持ちを励ますように『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)はにんまりと微笑んだ。 柔らかに笑みを浮かべる彼女は儚き花と呼ぶに相応しき静謐さを帯びている。
 そうした永劫の美を害する事件が頻発している事を憂う様に『断罪者』レオンハルト(p3p004744)は漆黒の斬首剣を握りしめた。
「ハーモニアが美しいことは認めるが、長い歴史で紡いで来た交流を数人の悪意で途絶させるもりか? ……断じて許せるものではないな」
「ハーモニア。そう! ハーモニアの! ロリ! ウォォォ!!!
 心優しきロリを奴隷にするだと!? 羨まけしからん!!!」
『小柄に優しい』ジルベルト・アダムス(p3p007124)は怒鳴る様にそう叫んだ。大いなる熱砂の悪意をその身に纏う彼は赦さん、と強い語調で言う。
「ロリに手を出すなど例え天が許しても『エヴァ・クルス教』の教祖であるこの俺が許さん! 神の裁きを与えてやる! 眠りの粉? そんなものロリショタの愛の前では効かん! 俺の愛を甘く見るなー!」
 ――彼のその発言は少々はエゴも雑じっているだろうが、その信念は熱く、自身の研ぎ澄まされた強い意思(レーダー)はこの森のどこか、花を辿り歩む一人の少女を探している。
「ロリ。ふむ、幼い少女。ましてやその少女が愛する者へと送る花を選ぶのだ。
 助けぬわけにはいかぬ。愛と平和の為に――それが人間という者だろう?」
『ラブ&ピース』恋屍・愛無(p3p007296)は白い手袋を指先に這わせながら静かに息を吐いた。
「幻想種を狙う人攫い。ラサの歴史を。その在り方を踏みにじる行為だ。許すわけにはいかぬ」
「そうだな。全てを踏み躙る行いも人に咲く花なんざも、悪趣味だ。
 胸糞悪い奴隷商人なら兎も角、ガキが犠牲に……なんて未来、防いでやる」
 掌に力を込めて、『死を呼ぶドクター』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)はそう言った。


 ぱたぱたと蝙蝠が宙を舞う。ささめきごとを繰り返す草木の音を聞きながら、セピアの思い出乗せた長髪を探す。陽の色の瞳はきっと、いとしい人への想いを抱えて花ヲ探している事だろう。
 常闇に溶け込む漆黒をその身に纏いレイチェルは長耳を隠す――幻想種と見紛う美貌の彼女の唇からはぞろりと吸血種の牙が覗いた。
「メルエットちゃんはどこだろう……? リースリットさん」
「ええ、行きましょうか」
 常は明るく朗らかな笑みを浮かべるスティアもこの時ばかりは嫋やかな百合の如き淑やかさを身に纏う。金の髪を靡かせてリースリットはスティアに緩やかに頷いた。スカートをひらりと揺らし悠々と花を辿る様に歩み出す。
(アンラックセブン……は自然災害のようなものとして、その行動をうまく利用するとは、奴隷商人もよく考えたものです。
 確かに妨害も受けにくい方法だけれど……そう甘くはいかない、という事をこの場で示さねばなりませんね)
 そう、アンラックセブンという存在が相手に組したわけではないのだ。あくまでその存在を利用して悪事を働かんとしているだけだ。
『幻想種』で『2人だけ』。そうして歩めば奴隷商人たちは美しい幻想種を攫うが為に手を尽くす事だろうと考えていた。深緑を勝手知ったる様に歩めば、彼女達はローレットの特異運命座標と認識される事も無いだろう。
 耳を澄ませながらサクラは陽動としてリースリットとスティアが商人との接触するまでの凡その時間を考える。相手に『犬』が居るならば気配を察せられる可能性もあるかと愛無は『愛と平和』の為にリべリオンに包まれた拳でそっと石を拾い上げる。
「何を?」
「……少女と商人の間に割り込めた。ならば、意識を引くのも、此方の都合だ」
 勢いで石をリースリットとスティアの前へと投げ入れる。モンスターがぐるると喉を鳴らし狩猟をする獣が如く『幻想種を目敏く』見つけた事を好奇であると認識した。
 二人の幻想種に接触した奴隷商人が撒いた砂。眠りこけた様に目を伏せて、朦朧とその脚を覚束なくしたスティアとリースリットの様子を遠巻きに眺め愛無は小さく笑った。
 蝙蝠による伝達と、そしてジルベルトの愛情(サーチ)は的確にメルエットの位置を認識していた。
「キャンディたんが『ヤバい存在』なのは理解した。理解はしたのだが……ッ
 それはそれとしてキャンディ嬢というロリッ娘とは戦いたくない……」
「災厄の様な少女だもの。見逃すわけにはいかないわ」
 首をふるりと振ったサクラ。彼女自身祖父伝手に確認をしたアンラックセブンの一人『花の聖少女』という歩く災厄の狂気は自身の事のように理解している。
 緊張に掌に汗が滲み、強き意思を宿した瞳は奴隷商人たちの動きに注目したまま動かない。
「えっ、敵だから戦わないと駄目? どいひー!?」
 茶化すようにわらったジルベルトにレオンハルトは「その少女はどうして道を違えたのだろうな」と小さく呟いた。
 人が狂気に堕ちるのは何らかの理由があるのだろうとレイチェルは考える。彼女とてそうだった。彼女とて愛故に破壊をしたのだ。唇に指先宛てて「さあな」とだけ呟いたその声は彼女の身に刻まれた鮮烈たる緋の光によって掻き消えた。


 野犬を思わせたその存在に四音は「まるで赤頭巾を襲う狼さんですね」と嘯く。少女の背には翼を思わす様に対の手が組まれ硬質な気配を感じさせた。
「罠か――!」
 奴隷商人の声に「どっちが」とレイチェルが牙見せ笑う。その瞳が細められ緋が包むその刹那に、周囲に張り巡らされたのは美しき花を護るべき保護結界。
 麗しの花を描いた扇子をぱちりと閉じて「メルエットさんを助けないといけないのにこんな所で眠っていられないよね!」と快活な笑みを浮かべる。
「罠、と仰いましたか? 淑女に対する行いにしては無作法が過ぎるようですが」
 顔を上げたリースリットの形のよい唇が動く。静謐讃えた翠が胸元でゆらりと揺れた。
 Pledge・Letterを振り翳したレオンハルトが距離を詰め犬を振り払う。舞い上がる砂の気配に屈することなく強気『断罪』の意思で騎士は奴隷商人を睨みつけた。
「こんな道具に頼るか、薬が寄こす安き眠りなど効かん。
 道具に頼り、悪意で稼ぐ、その所業、最早言葉で命を紡げると思うなよ?」
 前線立ち回るレオンハルトを確認しながら桜牡丹――鬼と紛う剣戟を放つサクラは耳を澄ませる。小さな足音がひとつ、ふたつ、と規則正しく近づいてくるのだ。
「キター!」
 大仰に声上げたはジルベルト。花畑を抱えた彼は祈るようにその身に熱砂の悪意を携える。告解は神父足る物必要技能だが彼の者は少し違う。幼い少年少女への情熱が眩くも奴隷商人の意識を奪い去る。
「汝、己の業を語りたまえ――!」
「人間とは時に自身の欲求に素直だ。成程、それも『人間というものだろう』」
 愛無は小さく頷きメルエットの早期保護を狙うが為に奴隷商人たちの視線を夢中にさせる。
「砂。成程、砂か」
 眠りを誘うそれは多発的に起こる事件で商人たちが皆使用するものだった。愛無が『使用する以上は何等かに繋がっている』と認識したのと相違ない見解を確認するようにレオンハルトは「雇い主は誰だ」と静かに問い掛けた。
「ザントマン――こんなの聞いちゃいないぞ!」
 奴隷商人達は、イレギュラーを悔やむ様に特異運命座標を見遣った。そう、彼らはザントマンと名乗る存在に『言われてやってきた』のだ。
 アンラックセブンと呼ばれる少女が一人、森の中で花を咲かせる。彼女は一般人であろうと特異運命座標であろうと魔種であろうとその欲求が為に『花を咲かせる』事だろう。だからこそ、これがチャンスだと。特異運命座標は彼女の存在を察知したならば『其方に手を割いて幻想種の誘拐はしやすくなる』と。
 そんなこと――聞かなくても理解できると言う様にレイチェルは顔を上げ、どろりと己の躯より鮮烈なる紅を放つ。
「――咲き誇れ、鮮血の赤。華の如く」
 奴隷商人達へと突き刺さるが如く血の槍が大地より伸び上がる。鮮やかなるその気配に奴隷商人達が一歩下がるが、彼らにとって予想だにしない『特異運命座標』の早期的な接敵は彼らの連携を大きく乱した事だろう。
 癒しを歌うスティアはきょとりとこちらを見詰める陽の色の瞳の少女に気付き顔を上げる。
「メルエットちゃん?」
「あ、う」
 ぱちり、と何度も瞬いた彼女にジルベルトは「ここは危険だ!」と身振り手振りで伝える。
「花を集めに来たと思うんだが、これで一先ず手を打ってはくれないか!」
 美しい花を選んでおいたとジルベルトが手渡した花束にメルエットは不安げに彼を見上げ、スティアの手を握りしめながらこくりと頷いた。
 せめて、少女だけでもと狙いを定めた奴隷商人の前で四音はこてりと首を傾げる。
「私にとっては命を賭ける位大事なことなんですよ?」
 周囲よりモンスターの姿が掻き消え、焦燥を浮かべた奴隷商人の前へと滑り込み、赤き槍を以てその動きを制するレイチェルがぼそりと小さく呟いた。
「……ま、ガキが傷付くのは嫌なンだ」
 モンスターが牙を開き飛び掛かる其れをレオンハルトは受け止め乍ら舌打ちをひとつ。
「二度とやらぬと今誓うなら、五体満足で出頭させてやるが?」
 彼自身も傷を負いながらも前線での戦いに徹していた。舞い上がる砂の中、奴隷商人を狙う様に月光の輝きを帯びた刃を振るい上げたサクラは前線へと飛び込んだ。
「逃げるのは追いませんが、態々逃がす心算もありません。
 まあ、一人二人この場で捕らえるか処断できれば、残りは逃げられてもリスクの計算位はする事でしょう」
 淡々と告げたリースリットに「ああ」と頷く様に告げた愛無。そうだ、愛と平和のためならば此処で『その牙を剥いた』。


 深追いをするわけではない。只、ザントマンという存在はより狡猾であり彼らにその言を信じさせる者なのだろうという事を感じさせた。
「――金の重みが、命の重みだ。金貨袋より重いといいな?」
 囁く様な愛無の声を聴き、逃げ出す奴隷商人を見送ったサクラは森の奥よりフリルとレェスを揺らしながら現れた一人の少女の姿に目を見開いた。
「ッ――『キャンディ』」
 撤退するだけなのに、と言う様にサクラが言ったその言葉にスティアは大きく頷いた。彼女に任される事は絶対的な信頼だとスティアはその胸に刻む。
「メルエットちゃん、こっち!」
 メルエットの手を引いて走るスティアを支援するように四音は花から逃れる様に森の木々を抜ける。
「この紋章に覚えはない?」
 きょとりと瞬いた少女。ぱあと瞳を輝かせた彼女は唇に音を乗せて「素敵なお花のひとだわ!」と微笑んだ。嗚呼、そうだ、彼女は人(ようぶん)を認識している――ゲツガが討ち損ねた相手だ。その際にさぞ美しい花を彼女は見た事だろう。
「……嗚呼、本当に子供、なのですね。それでこの狂気、これが所謂『逸脱者』というものなのだろうか」
 リースリットはその背に走った狂気の気配に小さく笑みを溢した。私語を繰り返す草木のかおりに紛れる様に走る特異運命座標は皆、『触れるべからず』と彼女の存在を理解していた。
「賄賂ではないけどこの花束でこの場を見逃してほしい。
 君の咲かせる花には劣るかもしれないが誰かに贈る為に咲かせた花も美しい事を知ってほしいから」
 そう告げるジルベルトにキャンディは首を傾げぱちり、ぱちりと瞬く。
「でも、人に咲く花ももっときれいだよ」
 その言葉と共にジルベルトの背にぞわ、と走る気配がある。
 キャンディは追わない。逃げる者を追う程に情熱が無ければ無駄な殺生を行う訳ではないという事であろうか。
 騒めく木々の音を聞きながら、レイチェルは恐怖をその表情に貼り付けたメルエットの頭をぽん、と撫でる。彼女と似た長耳を見せたレイチェルは宵の外套から救いの手を伸ばす様に少女の背を撫でた。
「……怖かったよな、もう大丈夫だ」
 頷き涙を流すメルエット。その涙を拭いたいという衝動にかられながらもジルベルトは『触らず』を徹底する。
 花の中、くるくると回りながら花束を見詰めたキャンディは唇に空音を乗せた。

 ――ま、た、ね――

 その音をに背筋がぞわりと粟立つ気配を感じたサクラにジルベルトは「あれが、『花の聖少女』」と小さく呟く。
「私に花の綺麗さというのは理解できませんけど、誰かを魅了するということは、そうなんでしょうね。
 最期に花となって人を感動させる。それも物語としては意味有る死なのかもしれません
素敵ですよね? ふふふふ」
 まあ――それが『正しいかなんて理解はできませんけれど』。そう言う様に語り部は言葉を閉じて目を伏せた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 この度はご参加誠にありがとうございました。
 キャンディさんはまた――いずれかの機会に『遊びに』来る事だろうと思います。

 またご縁がありましたら。
 どうぞ、よろしくお願いいたします。

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