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シナリオ詳細

勢力争いの行く末は

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 傭兵……ラサ傭兵商会連合のとある商人街。
 この街の流通を牛耳るドン・ピノーテが暗殺された後、ノラガナを新たなドンにと擁立する勢力が出始める。
 ノラガナの手腕と人脈は皆が認めるところ、だからこそ、彼女に街の流通を取り仕切ってほしいと考える者は多いようだった。
 それを面白く思わないのは、ピノーテの組織No.2だった男、アウグストである。
 彼はピノーテ亡き後、その息子のカルメロを新たなドンに立てて自らはその傀儡とならんと動いていたようである。
 カルメロに父の持っていた商才、人脈はない。
 一応、彼は商人として働いてはいるが、父のように裏の稼業にまで手を染める気などなかったのだ。
 アウグストはそんなカルメロをなんとか説得して、2代目ドンに据える手はずを整えた。
 だが、街には思った以上に、ノラガナ擁立派が多い。
 『わざわざ』外部に依頼して、ピノーテを暗殺してもらったというのに、これでは……。
「あの女……始末せねばならんな」
 彼はドンの椅子に座り、組織員を呼び寄せる。奴の命を奪え、と。

 とある日の昼間、突然放たれた銃砲。
 それによって、酒場に詰めていた護衛が1人倒されてしまう。
 幾度か、イレギュラーズ達が依頼を受けている酒場のママさん、ノラガナは今、窮地に立たされていた。
「……ピノーテの手の者かい」
 敵によっては酒場の中へと突入し、テーブルを盾にしてノラガナを狙って銃を発砲してくる。
 ピノーテ亡き後、酒場の仕事もかなりやりづらくなっていたノラガナではあったが、これだけ銃撃戦で荒らされては酒場は完全に休業しなければならなさそうだ。
「全く、アタシは表に出ず、のんびり暮らしたかったというのにさ」
 周囲の声にも、さほど乗り気でなかった彼女だが、この後の食い扶持を考えれば、人々の声に応えざるを得なさそうだ。
 だが、まずはこの事態を乗り切る必要がある。
「とは言ってもねえ……」
 銃を手にノラガナも応戦するが、向こうはどうやら若い手練れの女性ヒットマンを雇っているらしい。
 護衛してくれていた女性達も銃で撃たれ、次々に倒れている。
「これは年貢の納め時かね……」
 自身の命が奪われるのも、時間の問題だとノラガナは感じ始めていたのだった。


 幻想、ローレット。
 そこに現れたのは、前回の依頼で初の暗殺者依頼を遂行したレノ少年だった。
「先日はお世話になりました」
 ドン・ピノーテを暗殺依頼を受けていた彼はまず、前回の礼をイレギュラーズへと告げる。
 初依頼後、自信がついた彼は精力的に活動を行っているそうである。
 今回、彼は別件で幻想を訪れたこともあり、礼を告げに来たことと合わせ、ローレットに依頼があるという。
「ママを……ノラガナママを救ってほしいんです」
 最初、大きなパイプを作る目的でローレットに接触を求めてきたノラガナ。
 彼女はとある商人街において酒場を営んでいるが、それ以外にも街の流通にも携わっており、食材だけでなく武器の売買にも一枚かんでいるのだとか。
 また、拾った子供の育成、人材派遣も行っているなど、仕事の幅は広い。
 レノもそうだが、ローレット所属の『砂の仔』ジュア(p3p000024)もそうして育てられた1人らしい。

 話を戻して。
 そんなノラガナだが、今、街の抗争に巻き込まれている。
 ピノーテ亡き後、新たなドンとしてその息子のカルメロ擁立派と、やり手ママであるノラガナ擁立派で街が割れているのだ。
 どうやら、後者の方が勢力としては強い。
 この為、前者カルメロ派が強硬策に出ようとしているようなのだ。
 そして、レノはこれは内密にと念押しした上で、この場のイレギュラーズ達へと小声で告げる。
「カルメロ派を強く推しているのは、ピノーテ一派のNo.2アウグストです。……彼はドン・ピノーテ暗殺の依頼者でもあります」
 ――まさか、内部に主犯がいたとは……。
 そんな声がイレギュラーズの中から漏れる。
 レノはこのまま幻想で仕事がある為、救出には加われないが、近いうちに襲撃があるのは間違いないとのこと。
「えっと……、どうやら、同時にアジトも叩くべきですね」
 そこで、話を聞いていた『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)が割って入る。
 彼女は力こそ弱いが、予知の力を持つ。
 そのアクアベルの未来視によると、ノラガナを護るだけでは、事態は解決しないとのこと。
「最悪、街を巻き込む大抗争となります」
 できれば、アジトを同時に叩き、黒幕であるこのアウグストを捕らえるか、命を絶っておくべきだろう。
 これ以上、街を巻き込む事態にはすべきでない。
 速やかにノラガナ救出と、ピノーテのアジト制圧を行いたい。
「それでは、よろしくお願いいたします」
 頭を下げるレノ少年は、ノラガナと街の行く末をイレギュラーズ達へと託すのだった。

GMコメント

イレギュラーズの皆様こんにちは。なちゅいです。
関係者依頼ですが、どなたでもご参加いただけます。
状況如何ではありますが、
今回、ノラガナママさん関連の依頼の完結編の予定です。
事態の解決にご協力を願います。

●状況
 この地域には、新たなドン抗争が起こっております。
 現状、亡きドン・ピノーテの後釜を巡り、ノラガナ擁立派とピノーテの息子、カルメロ擁立派とが争っています。
 勢力としてはカルメロ派は少数派ですが、武力的にノラガナの排除に乗り出していたようです。

 今回は、ノラガナの救出と対抗勢力のアジトの制圧の両方が必須です。
 悪名を増やすのであれば、ヒットマン、アウグストの殺害も問題ありません。
 ただ、人の生死を奪うに当たっては考えの違いもあるので、ある程度仲間内で話しておくことをお勧めします。
 また、両方の戦場は行き来に時間がかかる為、独立しているものと認識を願います。

 余談ですが、今回の依頼の前日譚として、『初仕事は暗殺依頼』(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/1836)があります。
 今回の依頼を遂行するに当たって必読ではありませんが、シナリオの理解を深める為に読了をお勧めします。

●戦場・敵
1.ノラガナの酒場
 2~30人ほどの客を収容できる規模の酒場。
 なお、カウンター奥から地下室に向かうことができ、そこでノラガナが育てる子供達もいます。
 5人の護衛は倒されており(まだ命はあるようです)、ノラガナも万事休すの状況です。

◎ヒットマン・ルフィナ
 20代、猫の獣種女性、平均的な見た目のガンマン。
 感情をほとんど表に出さず、暗殺任務をこなします。

・バウンティフィアー……(A)物中単・連・レンジ2以上
・コンセントレイトスナイプ……(A)物超貫・万能
・アサルトスナイプ……(A)神遠単・必殺
・D・ペネトレイション……(A)物超貫・失血・万能・レンジ4以上

○カルメロ派構成員×6人
 ナイフ、剣、銃などで武装した人間種ばかりの組織構成員。女性のみのようです。
 個人の技量は並みといったところですが、連携も行う為、末端員と侮ると痛い目に遭います。

2.カルメロ派(ピノーテ一派)アジト
 街に大きな屋敷を構えており、そこが住居兼アジトとなっています。
 地上階はごく普通の住居ですので、地下を目指してください。
 広い地下室に裏取引の資料などがあり、奥にドンの椅子があり、アウグストが鎮座しています。

◎カルメロ
 前シナリオで殺害されたドン・ピノーテの息子。
 20代男性。父の遺品であるサングラスを着用。
 父が亡くなったことで2代目ドン担ぎ上げられはしましたが、裏稼業に手を染める気は今も消極的です。
 商才や銃の腕などは今一つといったところです。

・魔弾……(A)神中単
・マグナム弾……(A)物超貫・万能

◎アウグスト
 ピノーテ一派No.2。ドン・ピノーテ暗殺の依頼者です。
 50代痩せ型、人相が悪く、非常に金にがめつい男です。
 カルメロを2代目ドンに立て、傀儡にしようと目論んでいるようです。

・焔式……神近単・火炎
・魔砲……(A)神超貫・万能
・マジックロープ……(A)神遠単・麻痺
・ロベリアの花……(A)神遠範・呪殺・毒・窒息
・怪しげな護符……(P)充填

○カルメロ派構成員×20人
 同上、ナイフ、剣、銃などで武装した人間種オンリーの組織構成員。こちらは男性ばかりです。
 屋敷に散開している状況なので、数は多いですが、個別に相手ができれば問題なく撃破できるでしょう。

●NPC
○ノラガナ……美魔女と言われる程の年齢の女性。
 砂漠兎の獣種、褐色肌。退廃的な雰囲気を感じさせます。
 傭兵の砂漠、とある商人街で酒場を切り盛りしております。
 幼子を集め育てて、各所に派遣売却といったこともやっています。
 ジュア(p3p000024)さんの元ブリーダーです。

 本人はこの勢力争いに巻き込まれた形なのですが、今回は自身の酒場で対抗勢力からの強襲に遭います。
 一応、格闘と銃で戦うことは可能ですが、本職には敵いませんので救出は必須です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

それでは、よろしくお願いいたします。

  • 勢力争いの行く末は完了
  • GM名なちゅい
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年08月29日 23時40分
  • 参加人数10/10人
  • 相談5日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)
受付嬢(休息)
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
オジョ・ウ・サン(p3p007227)
戒めを解く者
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)

リプレイ


 傭兵、ラサのとある街。
 これまで、ローレットへと幾度か依頼を出してくれていた酒場のママさん、ノラガナ姐さん救出の為、イレギュラーズ達が全力で救出に当たる。
 その作戦の為の班は2つに分けられる。
「ノラガナを保護しねえとな」
 赤茶色の髪の少年の外見をした『アニキ!』サンディ・カルタ(p3p000438)がその目的を簡潔に告げる。
 こちらは、酒場を襲撃されているノラガナの救出班。こちらの状況は非常に切迫している。
「……とんでも無い事になっちまったな」
 銀糸の髪に白磁の肌、金銀オッドアイの麗人、『死を呼ぶドクター』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)は思わず、本音を漏らす。
「ノラガナはダチの母上。助太刀するに決まってるだろ?」
 抗争に巻き込まれた形のノラガナは対抗勢力であるカルメロ派の構成員の雇ったヒットマン達に命を狙われているらしく、全速力で現場へと向かう。
「……やれやれ。どこの世界でも抗争の形式は変わらぬか」
 頭脳明晰、冷静沈着な研究者の男性、『『知識』の魔剣』シグ・ローデッド(p3p000483)は悪態づきながらも、レイチェルの傍を走る。
「…………」
 命を奪う、奪われるといった抗争に身を投じた暗色のドレスを纏う長い黒髪の旅人、『氷結』Erstine・Winstein(p3p007325)はしばらく口を噤んでいた。
 今回参加した依頼において、人の命を奪うかもしれないこと、そして、それによって自らの名声に悪影響が及ぶことを懸念していたようである。
「殺しで全て解決するとは思わない。救出と制圧を優先的に心がけましょ」
 現場が近づき、Erstineは口を開く。
「でも勿論、必要なら……躊躇なくやるわ」
 彼女の瞳にはもう、迷いは見られなかった。

 それと同時に、今回の黒幕を叩くべく直接そのアジトを襲撃する班も別働で動いている。
「ヒュー!! コレが鉄火巻ッテやつデスネー!!!」
 巨大なウツボカズラを思わせる捕虫袋に入った疑似餌の可愛らしい子供といった見た目の『RafflesianaJack』オジョ・ウ・サン(p3p007227)が楽しそうに叫ぶ。
 おそらく、本人は鉄火場、いや、修羅場といいたいのだろうか。
「今日はぁ~ オジョウサン~ ヤッチマウでスヨ~~~~!!!」
 気合十分のオジョに続くメンバー達は冷静な態度だが、依頼に対する意気込みは十分。
「やれやれ、暗殺の手伝いの時点で大概だったが、それがこうも大事になるとは」
 些か、今回の事態に驚きも見せていた金の長髪、機械の四肢を持つ『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)。
 彼女も友人の母上を助ける依頼とあって、やる気を見せている。
「ま、頭がいなくなりゃ、普通は色々あるよな。俺ぁ、仲間に恵まれてラッキーだったぜ」
 ラサ出身の傭兵団「クラブ・ガンビーノ」団長の長子である黒髪、色黒な青年、ルカ・ガンビーノ(p3p007268)が本音で語った。
 団長が行方知れずとなっており、代理を預かるルカ。その口ぶりから、さぞ仲の良い傭兵団なのだろうと感じさせる。
「暗殺までしておいて、肝心のその後が駄目で、強硬策とかダメダメだねー」
 元ローレットの受付嬢、金髪に褐色肌の幻想種、『受付嬢』クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)が今回の黒幕にダメ出ししていた。
「まー、どんな馬鹿でも自分の意見を通せるから、暴力っていうのは怖いんだけどねー」
 それでも、今回の相手は暴力で意を通そうとしたことを、クロジンデは指摘して。
「それは、逆に暴力で意を通される側にも為り得るってことは覚悟できてるかなー?」
 果たして、今回の敵は何を考えての行動なのか、是非確かめたいところではある。
 そこに合流してきたのは、馬の獣種、半人半馬のケンタウロスを思わせる『静謐なる射手』ラダ・ジグリ(p3p000271)だ。
「まさかこんな騒動に巻き込まれているとは、後腐れなく終わらせて、酒場再開の手伝いをしたいね」
 ラダはこの短時間に依頼人の契約書の外観について知るべく、依頼人のレノを介して仲介人と接触していたのだ。
 ――近く、亡きドン・ピノーテの率いていた一派のNo.2、アウグストは失脚する。
 さすがに直接の証拠を得ることはできなかったが、ラサの大商人アルパレスト家の紹介状を見せた後、ラダのエスプリ『アルカポネ』の力を使ったコネクションによる説得は無駄にはならなかったようで、証言を得ることはできた。
『……ああ、ドン殺害はアウグストの野郎の差し金にちげえねぇ』
 アウグストはどうやら自らの足がつかぬよう、2人の仲介人を挟んでいるようだったが、さすがに自らから遠い関係の相手の口までは封じられなかったようだとラダは聞き出していた。
 なお、その仲介人はほとぼりが冷めるまで、国外に脱出するそうである。
「……とのことだな」
 アジトへの道中、ラダが仲介人との内容を仲間達へと告げる。
 後は実際にその書面が確認できれば、黒幕も言い逃れはできなくなるはずだが……。
「ハッ……乗り掛かった船ってか。仕方ねえ、最後まで付き合ってやろうじゃねえか」
 白髪に白髭、浅黒い肌の『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)は豪快に笑い、黒幕アウグストの悪事を露見しに動くのである。


 すでに、酒場からは銃撃音が聞こえてくる。
「……ピノーテの手の者かい」
 褐色肌の獣種である酒場のママさん、ノラガナはヒットマン達とカルメロ派構成員6名からの襲撃を受けていた。
 敵は店へと入り込むなりテーブルを盾として、店に詰めてくれていた護衛が次々に撃たれてしまったのだ。
 店の中に蝙蝠らしきものが飛来し、状況を確認する。
 何かに気づいたカルメロ派構成員が狙撃するが、蝙蝠はそれをさらりと躱して店の外へと飛び出していく。
 ただでさえ、ドン・ピノーテ亡き後、次にこの町の流通を取り仕切る新たなドン候補として自分の名前が挙がり、擁立派が護衛をつけてくれるなどしてくれていた。
 おかげで、酒場には常連すらも近寄らなくなり、商売が非常にやりづらくなった。
 追い打ちをかけるように、襲撃してきたヒットマン達は酒場の壁やテーブル、カウンター裏の棚や酒瓶にまで穴が開き、酒が流れ出してしまっている。
「全く、アタシは表に出ず、のんびり暮らしたかったというのにさ」
 カウンター裏からは地下室に行けるが、そこには子供達がいる。
 彼らの食い扶持の為にも、生計を立てる手段を考えねばならない。
 護身用の銃を構え、どうしたものかと考えていたノラガナへと放たれる銃弾。
 そこに壁を物質透過して、シグがカウンターのノラガナ目指して最短距離で進み、彼女のカバーに当たる。
「来てくれたのかい。助かったよ」
 ノラガナの表情が幾分が和らぐが、シグは気を緩めることなく身構え続ける。
「……後ろだ」
 そっけなく、カルメロ派構成員達へと言い放つヒットマン・ルフィナ。
 すると、半数の構成員が入り口側からくる者達へと向き直り、銃弾を発してくる。
 正面から飛び込むサンディが店の奥を目指すが、ルフィナがこちらに気づいたせいか、移動しづらくなったのが痛い。
「勘がいい奴だな……」
 サンディはやむを得ずこちらに注意を引く3人に近づきながらも、高速回転して巻き起こす小さい竜巻を浴びせかけていく。
 ――出来る限り早く、敵を減らしてノラガナの救出を。
 Erstineも自らの生命力を血の刃と変え、この場の襲撃者達の無力化へと銃弾飛ぶ店内を駆け出していくのである。

 アジト班も、少し遅れて敵地へと乗り込むこととなる。
 そこは、今は亡きドン・ピノーテの屋敷。現状は、その息子カルメロが名目上では主となっている。
 この地下がピノーテが闇取引を行うこの一派のアジトとなっているのだ。
「しゅ、襲撃だ!」
 カルメロ派構成員達がイレギュラーズ達の襲撃に気づいて応戦してくる。
 迎え撃ってくる敵へと、ルカはにやりと笑いかけて。
「歓迎ご苦労さん、でもってサヨナラだ」
 敵の機先を制するべく、ルカは自律自走式の爆弾『SADボマー』を投げつけていく。
 巻き込まれる敵はそれに吹っ飛ばされるものもいたようだが、ほとんどが応戦の為にとこちらへと銃口を突き付けて銃弾を発してくる。
「フッフッフ……」
 仲間の中央に位置するオジョは胸を張って笑う。
「なにかトもろイオジョウサンデスが……、今日はツヨキデス!!! ナゼナラ!!」
 その前には、すっごく強そうなオジサンがついているからである。
「いくデス! グドルフ!!!」
 オジョに促された手前のオジサンはというと。
「証拠隠滅される前に、アウグストの裏取引証拠を押さえておきてえな」
 抑えるべきは、アウグストがドン・ピノーテ殺害を依頼したという証拠だ。
 グドルフも向かい来る構成員へと拳を叩きつけ、ダブルラリアットで向かい来る構成員達を薙ぎ倒していく。
 さらに、彼は回し蹴りを叩き込み、敵を卒倒させる。
 吹っ飛ばした敵目掛け、オジョは心の奥底にある悪意を殺傷の霧へと変え、追撃として構成員達へと振りまいて倒していく。
 一行は屋敷内の構造まで、しっかりと把握しているわけではない。
 ラダは通路の角や部屋の出入り口で奥を探りつつ、なるべく足を止めずに隊の中央辺りでの行動を心掛ける。
 敵が出現したらラダは距離を取り、ゴム弾を使って構成員の命を奪わぬよう気を失わせてしまう。
 一行の後方からはクロジンデが仲間を追う形となって、進軍を続ける。
「こっちだよー」
 超視力と温度視覚で周囲を警戒して、クロジンデは構成員がいる方向を仲間に指し示しつつ地下室を急ぐ。
 だが、やむなく避けられぬ相手がいれば、クロジンデも容赦はしない。
「充填もあるし、全力で叩き潰すよー」
 クロジンデは見えない悪意を放つことで、邪魔をしてくる構成員を先手必勝でサッサと排除して先へと進む。

 アジト班として、ピノーテの屋敷へと乗り込んだイレギュラーズは6名。
 ゼフィラは1人、仲間と別れて隠密行動を行っていた。
 彼女はワイズキーを使って裏口の扉から侵入し、アジとの捜索を行う。
 仲間達が構成員の注意を引きつけてくれていることもあり、ゼフィラは比較的スムーズに地下室へと潜り込む。
 ただ、そこに構成員の姿がないはずもなく。
「何っ!?」
「ど、どこから入ってきやがった!?」
 この場にいたのは、2人。それぞれ、ナイフ、剣、銃で連携して侵入者であるゼフィラを排除しようと襲ってくる。
「参ったな……」
 できるだけ手早く、裏取引の証拠をつかみたかったのだが……。
 ともあれ、ここで倒されるわけにもいかない。
 ゼフィラは仲間達が到着するまで、威嚇術で敵の撃退に当たっていく。
 1人が発砲して牽制してくる手前で、ナイフを振りかざした1人が切りかかってくる。
 敵もあと1人多ければ、連携が厄介な相手となったろうが、幸いにも1対2。
 ゼフィラは銃弾を浴びながらも、手前の1体を幾度か銃弾で撃ち抜き、大きく仰け反ったところで、威嚇術で仕留めてしまう。
 後は銃撃戦。しかし、業を煮やした構成員が剣での攻撃に切り替えてきたところで、ゼフィラはこちらも威嚇術で昏倒させてしまった。
 なんとか2体とも倒すことに成功したが、ゼフィラ自身もかなり傷を負ってしまう。この戦いでパンドラの力に頼る気がない彼女にとって、これ以上の戦いは危険だ。
「出来れば、証拠を押さえておきたいけどな」
 地下の大部屋は左右にいくつか小部屋があり、そこに机や棚が設置されている。
 それらを漁り、ゼフィラはピノーテ派が行う取引の資料を確認していく。


 酒場での攻防は激しさを増す。
 店内入口から中央に陣取るカルメロ派構成員とヒットマン・ルフィナ。銃をメインに攻撃してくるのはいずれも女性ばかりだ。
 それらへとErstineも近づき、強欲なもの『グリードマン』を刃となして切りかかる。
 ……が、彼女は敵の足止めをと牽制攻撃を繰り返す。
 カウンター側と入り口側の双方に敵がいる形となっている構成員達は応戦に当たってその狙いを分散させてはいたが、それでも目的であるノラガナには銃弾が集まっている。
 カウンター内のシグはノラガナを守り続け、さらにこの場を死守して地下への入り口を塞いでいた。
「ジュアの母上の危機なら……、俺も『医者』として尽力しよう」
 レイチェルはノラガナの傷を気にかけつつ、シグの傷を癒す為にと治癒魔術をかけ続ける。
 敵の数がまだ多い状況もあり、レイチェルも回復に専念しながらも、カウンターのシグの元を目指す。
 サンディもまたシグとカバー役を交替する為、突撃する形で構成員へと暴風を浴びせかけながらも店の奥を目指す。
 カウンター奥にいるシグとノラガナと合流し、完全に挟み撃ちの布陣を作るのがサンディ含む酒場班メンバーの狙いだ。
 ノラガナを狙っていた構成員達だが、サンディはそれも気にかけ、口上をあげて。
「泣く子も黙る大怪盗、サンディ様とは俺のことだ!」
「……させない」
 そのサンディへとすぐに狙いを定めるルフィナ。
 やや距離が近いこともあってか、彼女はサンディの胸部目がけて発砲する。
 ただ、サンディは避けようとはせず、その銃弾を受け止めてすら見せた。
 その直後だ。なんと、銃弾の一部がルフィナ目がけて跳ね返ったのである。
「何……?」
 飛び散る弾丸を浴び、体に傷を負うヒットマン。
 なお、サンディの胸の傷は徐々に塞がっている。自己再生、高速再生のスキルが大きく影響しているのだろう。
 その間に、サンディとレイチェルは店を駆け抜け、カウンターにまで到達していた。
「……ガキんちょ共には手出しさせん。少なくともガキは無関係だ」
 相手が地下への入り口にも視線を向けていたことから、レイチェルはその動きを牽制すべく紅蓮の焔を燃え上がらせていた。
 入り口側に残るは、Erstine1人。
 その状況を見たルフィナの判断は素早い。
「入口の敵の排除を。あちらは私が」
 素早く位置を変え、ルフィナはノラガナを狙おうと位置取っていく。
 彼女の計算は実に素早く、効率的だ。
 ルフィナは敢えて自分だけが攻撃することによって、サンディの反撃スキルによる被害を軽減させ、さらに、的確にノラガナを狙おうとしていた。
 また、6人いる構成員達には脱出経路の確保をさせ、Erstineを集中して発砲、さらに刃で切りかかろうとしていた。
 飛んでくる銃弾に刃。Erstineもこれでは分が悪い。
 応戦を続けるErstineはカウンター奥のノラガナへと視線を向けて。
(ノラガナさんは、どう考えているのかしら)
 出来るなら、ノラガナに尋ねてみたいのは、彼女が殺しを望むのかどうか。
 だが、カウンター内では、すでに仲間がノラガナのカバーに入っている。
 Erstineも構成員の数を減らして、直接ノラガナと話をしたいのだが、なかなか状況が許してくれない。
 そんな時だ。
 気づけば、カウンター内からシグの姿がなくなっている。
 ノラガナのそばへと到着したサンディがカバー役を引き継いでおり、店内からもシグが消えていた。
 すると、直後にシグは物質透過で入口方面の壁の角から現れて。
「少し離れてほしいな」
 その要望に傷つくErstineが構成員から距離をとると、シグは雷球のような物体を纏まる敵へと飛ばす。
 幻想理論「過冷却集電弾」。
 炸裂すると、構成員達の周囲に強大な静電気を発生させ、その身を痺れさせてしまう。さらに、相手を凍らせる効果までついてくる。
 それを見て、Erstineは動けなくなった1人へと蹴りかかり、その場へと卒倒させてしまったのだった。


 とにかくスピード重視でサクサクと進むべく、正面から突入したアジト班は屋敷の地下を目指す。
 前線、ルカが滅茶苦茶に暴れ、至近距離の敵を殴り、蹴り、ぼこぼこに殴りつけていく。
 構成員達も距離を詰められれば、銃からナイフ、剣に武器を切り替えて刃を突き付けてくる。
 いくら屋敷が大きいからとはいえ、ドン・ピノーテがアジトともしている場所なら、人の出入りはあったはず。
 メンバー達は周囲を探索しながらも、その場所を手早く特定し、地下室へと駆け込もうとするが、わらわらと立ち塞がるカルメロ派構成員が実に面倒だ。
「おらおらあ! 掛かってきな、雑魚ども! このグドルフ・ボイデルさまが相手してやるぜ!」
 叫ぶグドルフは向かい来る敵をガンガン殴り倒し、仲間達が進む道を強引にこじ開け、地下室まで走り抜けていく。
 走り抜ける途中、オジョもノーモーションで敵を弾き飛ばす衝術を放ち、向かい来る敵を吹っ飛ばして先へと進む。
 構成員を倒しつつ、彼らは発見した地下室へと突入していく。
 先にゼフィラが侵入したこともあり、さらに4人がその場へと集まっており、地下室入ってすぐの場所で交戦が繰り広げられる形だ。
 そばの事務室らしき場所ですでに敵を撃退したゼフィラが資料を漁っているのだが、他メンバー達はそれに気を取らせぬ形で構成員の無力化を目指す。
「いい位置だな」
 敵が集まっているのを確認し、ラダは大口径ライフル『Schadenfreude』から鋼の驟雨をこの場の構成員達へと浴びせかけていく。
 「他人の不幸は蜜の味」といった意味を持つその武器。
 傷つき、体勢を乱された敵の攻撃の射程に入らないよう気がけるクロジンデ。
 ここまでのタイミングで、クロジンデは矢面に立って傷ついていたルカやグドルフを練達の治癒魔術で癒やしていたが、攻撃できるタイミングは殺傷の霧を振りまいて、敵を無力化していく。
「おっと、忘れないうちに」
 また、クロジンデは地上への階段をこの場にある物で塞いでいき、簡単に増援が通れないようにしてしまう。
 この場に残る構成員は仲間のスキルに巻き込まれぬよう距離をとっていたルカが相手へとつかみかかり、組技で地面へと沈めていく。
 さらに、グドルフもラリアットで張り倒し、壁に激突させて気絶させてしまった。
「こんなもんか?」
 現状、倒してきた構成員は息があるはずだとグドルフは見ている。
 もっとも、小一時間程度ではまず間違いなく目覚めることはないだろうが……。
 ともあれ、仲間の希望もあるので不殺を通してきているが、この先はどうなるか分からない。
 なにせ、ここからが本命となる黒幕との戦いなのだ。

 大部屋に設置された棚を漁っていくゼフィラ。
 裏取引の資料が大量に発見されるものの、彼女が抑えたいのはこれではない。
 なかなか、決定的な資料が発見できぬ中、こちらへとオジョ、クロジンデがやってくる。
「とりあえず、いっぱいいっぱいお腹に詰め込みマスネ!」
 オジョは目につく書類、本、写真などをギフト『メクルメクアマイミツ』の力で食虫袋へと詰め込んでいく。
 腹の中に入れるのは問題ないのだが、オジョにとっては食べ(溶かさ)ないようにする方がより気を回ねばならないことらしい。
「どんどん確保していくよー」
 クロジンデも手早く証拠資料の確保をと動いていたが、この辺りは殺害されたドン・ピノーテも触っていた資料だろう。
 オジョは奥へ奥へと移動し、アウグストが先程までいた小部屋にあった資料まで飲み込んでいく。
「ん……?」
 そのオジョが全て食べた机の引き出しの底。
 巧妙に隠された2段底になった場所をゼフィラは発見して。
「あった……」
 そこに隠されていた書類を発見し、ゼフィラは満面の笑みを浮かべるのだった。

 地下室は大部屋での騒ぎに、小部屋で居眠りしていたアウグストは気づくのが遅れたらしい。
「何だ、何が起こっている!?」
 そいつは同じく駆けつけてきた父の遺品であるサングラスを着用したカルメロを差し置き、ドンの椅子に座ってカルメロに尋ねる。
「屋敷に、侵入者が……」
「何だと!? 警備の連中は何をしている!?」
 だが、この場に残る構成員は僅か3人。彼らは実務作業を行っており、屋敷の状況を把握してはいない。
 そこに駆け込んでくるルカとグドルフ、そしてラダ。他メンバー達が資料を漁る時間を稼ぐ形となる。
「ラサでトップ張ろうってんなら、腕っぷしもあるよな? 試してやるぜ」
 その前へと立ち塞がる構成員達。
 そして、2代目ドンとして、カルメロも前に立つ。
「そこのタヌキ野郎は、おめえを操り人形にしてえだけのクズよ。今すぐ手ェ引け」
 グドルフが鼻で笑って椅子にふんぞり返って座る男を指さし、カルメロに告げる。
「な、何を言って……?」
「そうすりゃ、ぶちのめすのはこのアウグストの野郎、一人で良くなるんだよ」
 戸惑うカルメロにグドルフがさらに続けるが、今度はアウグストが鼻を鳴らして。
「ふん、世迷言を……」
 アウグストは立ち上がり、自らも杖を握って魔術に長けた力を見せつけてくるようだ。
「我々をどうしようというのです……!」
 表では、ピノーテを支える素振りをアウグストは見せ続けているのだろう。
 カルメロは彼へと信頼を見せ、イレギュラーズ達の言葉に耳を貸す素振りはない。
「やれ、そいつらを始末しろ!」
 ここは敵のアジトだ。仮にイレギュラーズが負ければ、秘密裏に始末するには彼らにとって都合がいい。
 だが、寝起きや雑務中の彼らは失念していた。
 この場になぜ増援が現れないのか、どうしてイレギュラーズ達がここまで侵入しているのか、を。
 グドルフが自身のアドレナリンを爆発させて、戦いの為に最適なコンディションにまで体を高める間に、ラダが大口径ライフルから敵を抉る死の凶弾を撃ち込み、構成員達とアウグストを纏めて撃ち抜いていく。
 それでも銃や刃で応戦してくる構成員にはルカが近づき、ひたすら殴りつけ、蹴りつけ、押さえつけていく。
 さらに、戦闘準備が整ったグドルフが邪魔な構成員を張り倒そうとぶちかましていく。
 畳みかけられる攻撃に、構成員達も連携をとる間もなくなすすべなく倒れてしまっていた。


 銃弾が飛ぶ酒場での攻防も、終わりが見え始める。
 ノラガナのカバー役を引き継いだサンディが彼女をヒットマン・ルフィナから守り続けていた。
「防御技術、再生……。そう簡単には負けねぇさ」
 サンディも万全を期して、この戦いに臨んでいる。
 しかしながら、守りを固め、再生能力があっても、的確に狙い続けて効果力をぶつけ続けてくるルフィナの攻撃を受け続けるのは分が悪い。
 そのサンディをレイチェルがハイ・ヒールで回復に当たり続ける中、メンバー達は構成員らの数を減らしていく。
 シグが圧縮した空気を壁として構成員数人を吹っ飛ばすと、Erstineが蹴りを繰り出して女性構成員を倒してしまう。
 サンディも防御しながらも、「多連装ミサイルポッド」を発射する。
「…………くっ」
 ルフィナもヒットマンとして、ノラガナを仕留める自信はあったのだろう。
 だが、しばらく続く銃撃戦。
 回復できないルフィナは傷つき、ジリ損になってきていた。
 シグが構成員を1人、投げつけたマジックローブで1体を押さえつけたところで、彼はそのヒットマンへと問う。
「君たちがどういう理由でその命令に従い、如何なる背景を持つのか……見せて頂こう」
 問いかけながらも、シグはルフィナがこの場にいる経緯に関してリーディングを試みる。
 彼女はレノと同じ組織に所属するヒットマンであり、その殺害依頼は2人の仲介人を介していたらしい。
 依頼人は……、ピノーテ派No.2、アウグスト。
(ノラガナとは無関係か。暗殺技術は組織で得たものってことか)
「リーディング……」
 自らの思考を読まれたことに気づいたルフィナは、眉を顰める。
 あくまで彼女にとって、これはヒットマンとして果たすべき任務だ。
 Erstineも自らの血の刀で追い込んだ敵を蹴りつけてさらに1体を倒し、敵の包囲を縮めながらもノラガナへと近づく。
 丁度、シグ、レイチェルペアが接近していたこともあり、再び2対2で挟み打つ。
「あなたは殺しを望むの?」
 先程から抱いていた疑問を、Erstineがノラガナへと尋ねる。
「アンタは……」
「あなたは殺しを望むの? あなたが望むなら……あなたの身に危機が迫るなら……私は、躊躇いなく殺るわ」
 すでに、交戦も佳境に入っている状況ではあるが、Erstineはこれだけは確認しておきたかった。
「見てたよ。アンタ、殺したくないんだろう?」
 質問を質問で返すノラガナ。Erstineが素直に頷くと、それを聞いたノラガナは小さく笑って。
「なら、その気持ちを大切にするといいさ」
 ノラガナは今回、依頼者ではない。
 自分を守ってくれただけで充分だと彼女は告げる。
 それを聞いたErstineは飛んでくる銃弾から、咄嗟にノラガナを護って。
「……オーダーだもの、当然よ」
 すでに傷ついていたErstineは胸部に銃弾を受け、崩れ落ちていった。
「…………」
「しくったぜ……」
 自らの傷を強烈に修復していたサンディはカバーが遅れてしまう。
 彼はさらなるカバーの為にとノラガナの前で身構えていた。
 その間にも構成員の相手を、シグ、レイチェルペアが進めていて。
 残るはヒットマン・ルフィナのみとなっていた。
 彼女は退路を断たれたことを確認しつつも、依頼を完遂しようと入口側の2人の攻撃をやり過ごしながら、ノラガナを狙い撃つ。
(ノラガナとルフィナの銃の扱いは少し違う。思い過ごしか)
 実は、育てた子供に狙われているのではいう懸念もレイチェルにはあったが、相手はあくまでヒットマン。依頼に関してドライに対するだけの女性ではあったらしい。
 とはいえ、なかなかの強敵であり、簡単に倒せる相手でもなさそうだ。
「――往くぞ、シグ。反撃開始、だ」
 すると、呼びかけに答えたシグが「魔剣の主」の効果対象をレイチェルとする。
「今こそ契約を履行しよう……。我が最愛の契約者よ」
 そして、シグはその身を剣に変え、レイチェルの手に握られる。
(……オーダーは絶対。俺のオーダーはノラガナを護る事。汚れ役は俺だけで良い)
 そんな決意を抱いて、敵を紅蓮の焔で包み込もうとするレイチェル。
 身体に炎が引火し、体内へと毒が巡っていく中、ルフィナは集中してレイチェルを狙う。
「させない……」
 狙いすます彼女の一撃は胸部を撃ち抜いてしまう。
 だが、レイチェルも踏みとどまり、『神』の呪いでルフィナの体を侵す。
 呪いに蝕まれるルフィナも苦しそうだが、彼女を止めねばノラガナが危ない。
 ルフィナがなおも銃を構えたタイミング、剣状態のシグが空気でできた壁をぶつける。
 幻想理論「空轟壁」によって、構成員が吹っ飛ばされる様を幾度か見ていたルフィナだが、彼女も傷が深まっていて満足な動きができない。
 飛んでくる空気の壁を避けられず、ルフィナは思いっきり酒場の壁までふっ飛ばされてしまって。
「……くっ」
 ついに、ヒットマン・ルフィナも気を失い、崩れ落ちてしまった。
「やれやれ、終わったかい」
 ふーと息をつくノラガナ。だが、店は荒れ放題で、とても営業できる状態ではない。
 同じく、シグも人の姿へと戻り、レイチェルはカバーに当たっていたボロボロのサンディや倒れたErstineの手当へと回る。
 一方で、ノラガナはイレギュラーズ達が介入する前に倒れた護衛達を気遣う。
 いずれも重傷だが、手当をすれば何とか間に合いそうだ。
「助かったよ。……よく死人を出さずに救出してくれたね」
 サンディが一人一人縛り付ける女性構成員達もまた、息がある。
 命の奪い合いであったはずの戦場でこうした結果となったのは、安らかに寝息を立てるErstineの心遣いがあってのことだろう。
 そして、地下から聞こえてくる子供達の声。
「おっと、すっかり忘れてしまっていたね」
 ノラガナは銃撃に怯えていたはずの子供達に元気な姿を見せるべく、地下へと向かっていった。
 店内に残るメンバーは、駆けつけるノラガナ擁立派の人々を目にしながら別班のことを考える。
 あちらは、うまくこの黒幕を抑えることはできただろうか。

 地下室での戦いも大詰め。
 残っているのはアウグストとカルメロの2人のみ。
「食らえ!」
 アウグストが所持する杖から発してくるのは、光線のごとき魔砲。
 魔力もかなり高いようで、下手な立ち回りでは体を撃ち抜かれてしまいかねない。
 皆、そんなアウグスト狙いの中、振るえる手で銃を握るカルメロへとルカが一喝する。
「覚悟もねえやつが半端な事すんじゃねぇ!」
 それに、身をすくませるカルメロ。
 彼らの命を奪わぬようにとイレギュラーズ達も攻撃を繰り返すが、さすがにアウグストは戦闘慣れしている。
 自らの傀儡としようとするカルメロをうまく前に出し、イレギュラーズ達を近づけさせない。
 そんな戦いの中、ゼフィラが小部屋から飛び出して。
「やあ、カルメロ氏。礼儀のなっていない訪問ですまないね」
 彼女が自身ありげに話しかける間、クロジンデが仲間達の癒しへと当たる。
 戦っていたラダも一旦戦いの手を止め、成り行きを見守る。
 出来るなら、カルメロに先代暗殺について真実を伝えたいところなのだ。
 先程、入手した書類をゼフィラはこの場の2人に見せつけて。
「ここにある通り、あなたの父君の暗殺から今回の抗争まで含めて、そこのアウグストの暗躍の成果というワケだ」
 ゼフィラもまた、アウグストがカルメロを傀儡にでもするつもりなのだろうと告げた。
「そ、それは……」
 書類に押された印は間違いなくアウグストのもの。
 仲間達は戦闘態勢を崩さず、静観の構えだ。
「証拠で足りないなら、あとでリーディングでも使おう。今は矛を納めてほしい」
「な……」
 驚きを隠せぬ様子のカルメロ。
 なお、ゼフィラは、暗殺の実行に自分達が関わっていたことまでは伝えていない。
 元々、自分達に回ってきた依頼はノラガナからのものであり、直接関係したものではない。自分達の身分も伏せていた為、ローレットの介入が噂になるかもしれないが、公然とした証拠はない。
(父の敵として、戦闘を続行されたら困るのでね)
 ゼフィラは心の中で思う。悪いが、私も結構な悪党なのだ、と。
「アウグスト……?」
 さすがに、父の殺害にアウグストが関わっていたとなれば、話は変わる。
 カルメロの中に生まれた不信感。
 それに気づいて、アウグストが唸る。
「ぐぬぬ……、かくなる上は……!」
 飛ばす炎でその書類を燃やそうとするアウグスト。
 だが、ゼフィラが身を引き、ルカが飛び掛かる。
 カルメロが応戦しないのを見つつ、ルカはアウグスト目がけて憎悪の爪牙を薙ぎ払い、痩せた体躯を傷つけていく。
「ツマミグイ! スルデス!」
 さらに、オジョが捕虫袋から赤い管を伸ばして、アウグストの体をつまみ食いしようとする。
 刹那、恍惚としてしまったアウグストへと、グドルフが山賊の刀でガンガンぶった斬っていく。
「……っ! ぐうっ……」
 我に返るアウグストは、侵入者がただの相手でないことをようやく実感して、彼もまた悪意を殺傷の傷としてイレギュラーズ達へと浴びせかけてくるが、もう遅い。
 ラダはカルメロを護るように位置取り、ゴム弾を放ってアウグストの討伐に尽力する。
「あなた達は……」
(報復合戦は阻止したいし、これを機に停戦できれば最上)
 その為に、まず目の前の男を止めねばならない。
 出来るなら、捕縛して暗殺について吐かせたいところだとラダは考えていた。
「私はレイチェルから借りた宝石で毒を無効に出きるのでね」
 先ほどの殺傷の霧の及ぼす毒から自らを護りつつ、ゼフィラも仕掛ける。
 書類を護りながらも、ゼフィラもアウグストの至近から回転式拳銃『Model27』の弾丸を見舞っていく。
 戦闘慣れはしているアウグストではあるが、痩せた体躯に後方での立ち回りもあってか打たれ弱い。
 集団で攻め込めば、敵も思った以上に早く息を荒くしてしまう。
 仲間の回復に当たり続けていたクロジンデは、アウグストが追い込まれていることを察して攻撃には参加せずにいた。
「殺りたくないって人が居るなら、出来る限りは配慮しないとー」
 仕事は円滑に行うべきだからねーとは、クロジンデの弁である。
「おのれ、ようやく、ようやく、組織を我が物に……」
 そんな敵に、ルカは感情すら抱くことなく立ち振るうが。
「アンタの生死なんざ、どうでもいいが、仲間への義理立てってもんがあってな」
 ルカは相手へとつかみかかり、首を絞めつける。
「ぐあああああっ」
 激しく抵抗していたアウグストだったが、やがて力尽き、泡を吹いて倒れてしまったのだった。


 アジトにて、事後処理へと当たるイレギュラーズ達。
 やや呆然としていたカルメロへと、メンバー達は改めて暗殺事件の詳細に関しては伏せつつ事情を話す。
「親父は敵を作りすぎましたからね。いつかこうなる予感はありましたが……」
 身内から暗殺依頼が出されていたことに、カルメロは少なからずショックを覚えていたようだ。
 そして、それらを説明していたラダはさらに、仲間達が確保した資料を手に、ノラガナを襲撃がほぼ同じ時刻で起こっていたことも話す。
「それを止めるのが私達に寄せられた本来の依頼だ」
「まさか、そんな……」
 それについてもカルメロは信じられない様子だった。
 だが、しばらくして、酒場に向かっていたメンバーがノラガナやヒットマンを連れてきたことでさすがに信じる気になったらしい。
 まだ伸びたまま縛られたアウグストを見つめるオジョがちょっとだけ食べたいと本音を漏らすのを止めつつ、重傷のErstineが傷を押して尋問に引き渡すことをこの場の全員に提案する。
「口を割らないかもしれない。それでも殺して罰するよりは生きて罰する方が情報を得られるはず」
 彼女はついてきてもらったノラガナの方を見つめて。
「……何より、ノラガナさんの思いも伝えられるし」
 そんなErstineの姿に、サンディがノラガナへと告げる。
「純真な子だな。眩しいくらいによ」
「ああ、それだけアタシ達が汚れちまったんだろうけどね」
 Erstineの望むとおりに事件は解決した。それだけに大怪我を負っても満足そうな表情をしているように見えた。
 そう語るノラガナへと、Erstineが話す。
「互いの思いを伝え合い解決の糸口を探すのは……いけない事? 考えが甘い事?」
「ふふ、いいさ。アンタはその信念を貫くといいさ」
 微笑ましげに語ったノラガナは、カルメロと話を始める。
 この先、街の流通に関してはピノーテ派が失脚し、ノラガナ派が力を強めることとなると思われる。
 しばらくは、ノラガナが新たなドンとなりつつ、カルメロを育てる形となるのだろう。
 これまで孤児を育ててきたノラガナだ。すでに大人となったカルメロだが、彼もまたその一員に加わることになりそうである。
 ようやく、この町での抗争も終息に向かいそうだが、グドルフはノラガナ、カルメロへと近づいて。
「また小競り合いがあったら呼びな。暇だったら来てやるよ」
 彼は誰がトップかなど、興味など全くないようだが。
「──ま、少なくとも、あの男よりかは美人が仕切ってた方がマシさあ!」
 オジョがツンツン突いているアウグストへと視線を向け、ノラガナが肩を竦めて苦笑してしまっていたのだった。

成否

成功

MVP

エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)

状態異常

エルス・ティーネ(p3p007325)[重傷]
祝福(グリュック)

あとがき

リプレイ公開です。
MVPは、一行の方針を決めるきっかけとなったあなたへ。
街の流通は今後、ノラガナによって、再編成されることでしょう。
これにて、シリーズ完結です。ご参加いただき、ありがとうございました!

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