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シナリオ詳細

揺り籠の/砂海/砂嵐の使者
揺り籠の/砂海/砂嵐の使者

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●劣悪なるオアシス
 大陸中央部に広がる砂漠地帯の広大さは最長で一国が有する領土を上回る。
 故にこの砂漠を根城としているラサ傭兵商会連合に属する者達は皆、これを横断或いは移動する際は必ず『足』を重視するのは当然である。
 稀に砂山の中に埋もれている白骨の主はこの砂漠地帯に適応できなかった生物か、砂漠の掟を軽視した末路と認識されているのだ。
 例えば、幻想からラサを訪れようとしていた小貴族の一団が砂漠を舐めた結果――砂嵐一つに全滅させられたり等が、そうだ。
「ぜひー……ぜひぃ……ひゅー、げほげほっ…………」
(俺は……死ぬのか。こんな所で……何も無い砂の大地に埋もれるのか、この黄砂を舐めて、終わるのか……)
 不運にも――貴族の男は生きていた。
 砂漠のど真ん中。よりによって陽は真上にあり方角も解らない。当然、水も食糧も無ければ外套すら着ていない。
 暑さに堪えかねて服を脱いだ代償は大きい。砂嵐から生還し一刻、既に男の上半身は赤く腫れ上がっていた。
「あぁぁぁ……はっ、ひゅ……――」
 目を開けている事が辛い。だが、もしかするとあの砂丘を越えれば町が見えるかもしれない……そんな期待が彼を辛うじて動かしていた。
 一歩、二歩。
 三……四…………六……。
(死にたくない、喉が、眼が、肌が、痛い痛いいたい……誰か助けてくれ、誰かいないのか、あそこに……)
 震える足はいつの間にか沈み、膝を摺り動かす。
 そうして砂丘の頂点にまで這い上がった時。男はそのまま砂丘を転がり落ちて行った。
 眠くなって来た――こんなにも暑くて熱くて、痛くて、渇いているのに。
 なぜか路地裏で出会った男娼の顔がチラつく。ああ、そういえば闇市でつかまされたせみのぬけがらは何処にしまったのだったか。
「か……ひぃ、ひゅ…………ぁ?」
 転がり落ちた先。顔に当たる"冷たい感触"が男の意識を覚醒させた。
「え、は? みぅ? みず! みずらぁ!! あっひゃ、みずだぞぉおぉぉおぉおぉ…………」

 どぷん。
 男は掠れた声を震わせ歓喜の音を奏でながら突如現れた水溜りの中に顔を突っ込んだ。
 顔全体が冷たく。耳から頭の中まで溶けるように染み込んで来る。
 キモチイイ。気持ち良い。このまま、沈んでいたい。
 身体は次第に水溜りの中へと滑り落ちるように浸かり行く。
 やがて水深2cmもない中に、彼は意識だけでなく肉体も溶け込んで行くのだった。


●砂嵐の使者
 首都ネフェルストからそう離れていない砂漠地帯でトレーダーキャラバンが次々に襲撃される事件が相次いでいた。
 これに続き、今度は砂嵐に飲まれた砂漠の来訪者達が相次いで消息を絶つ事件が頻発する。
 生存者は皆無。死者に口無しとまでは言わずとも、謎の襲撃者は砂漠を往く者全てを傷付けているという事実以外は殆ど情報を得られなかった。
 被害に遭った商会その他関係者達は傭兵団等へこれの調査を依頼。こうなれば事件の解決までそう時間が掛かることは無い。
 この時はまだ、誰もがそう思っていた。

「……見つけたぞ、砂嵐を確認した。
 妙だな。竜巻と言うには勢いがない、だがつむじ風とするには砂が上空まで立ち上がり過ぎている。
 そもそも風が殆ど吹いていない中これは……」
 素早く手記に何事か書き記す、外套を身に纏う男はパカダクラを走らせる。
 後に続く同じ様相の者達。彼等はネフェルストで雇われた傭兵団が編成した調査隊である。彼等に与えられた任務は砂漠を八部隊で探索し、件の事件の手掛かりを発見する事だった。
 そんな中、怪しい小規模な砂嵐を見つけた男達は接近を試みた。
「近付き過ぎるなよ。中が見えん、これが魔物棲むテリトリーか何かなら危険だ」
「隊長ォォッ!! 足元ぉ!!」
「は――? ぐわぁ!?」
 砂漠を移動する砂嵐を慎重に追走していたその時、部隊の指揮を執っていた男が突如落馬した。
 パカダクラの悲痛な断末魔。宙に投げ出された隊長格の男は何が起きたのかも分からずに砂丘へ突っ込む。馬に振り落とされたのだ。
 瞬間。
 砂漠の中心地帯に不釣り合いな『水音』をその場の全員が耳にした。

「…………なんだ、この化け物は……!?」
「~~ッ!! スライム、いやこれはウーズかアメーバの類か! 悪夢みたいなデカさだ、総員退避! ジャック、こっちだ!!」
「隊長! 砂嵐の内部から"騎兵"が、モンスターです! 数は6騎、こちらへ接近して来てます!」
「騎兵だと……?!」

 傭兵達の間に緊張が走る。正体不明のエネミーと突発的戦闘を繰り広げるなど、冗談ではない。
 ましてや彼等の眼前に広がっているのは――照り返しで気付かなかったが――明らかに常軌を逸したサイズ、パカダクラを一瞬で溶かし尽くす強酸性を秘めた液状の魔物。
 そして案の定、共生関係にあるのか砂嵐から飛び出して来た騎兵達は平然と巨大スライムの上を駆け抜けて行く。
 よく見れば騎兵の姿は所謂『ケンタウルス』の形態を模した黄砂で構成された体に見えた。まさか、足元は微かに浮いているのか。
 騎兵は迅い。その疾走力たるや、傭兵達が撤退を選択して十秒の間に距離を詰めて来ていた。
「くっ、止むを得ん……信号弾を撃て! 後退しながら交戦する、抜刀せよ!」
 隊長格の男が叫ぶ。数瞬の猶予、男は仲間のパカダクラに騎乗しながら片手間に素早くここまでの流れを手記に記した。
 喉が、渇き始めていた。

●砂の悪魔を撃退せよ
 ラサ、首都ネフェルストの一画にあるバザールをイレギュラーズ達は歩いていた。
 彼等を取り囲んで共に移動しているのは武装した獣種の傭兵達である。
「依頼に応じてくれた事、感謝したい。
 君達を頼ったのは他でもない、つい最近突然現れたモンスターの群れを撃破或いは撃退して欲しい」
 イレギュラーズを導くのは傭兵団『記録のオウル』をまとめる団長の男。マヌル猫の因子を濃く見せる男はニンマリとも仏頂面ともとれる表情を浮かべ、バザールの隅に開いていた茶店のテーブルに着いた。
 彼が卓上に置いたのは血が滲んだ一冊の手記だった。
「ワタシの部下がどうにか敵の情報をまとめてくれた。生存者がゼロになるような酷い戦闘の最中にね。
 ああ、追悼は要らない。既に済ませた――君達に求めてるのは依頼の成功のみ、それ以外は要らない」
 イレギュラーズは淡々と言い放った依頼人の言葉に頷きながら、手に取った手記を開いた。
 中に記されていたのは、調査時間や歩数単位での詳細な座標、敵の特徴、そして手記の持ち主が遺した言葉。
『団長、妻と子を頼む』
 たったそれだけの一文が、目の前の猫種の男の心情が如何なるものかを物語っていた。

「そこに記されている通り。敵は過去確認された事の無いモンスター達だ。
 敵は二種、推定30mクラスの巨大ウーズに砂嵐を連れた騎兵隊。この騎兵は砂で構成されている為か物理的攻撃の効きが鈍い。
 巨大ウーズだが……弱点が見当もつかない。他国で似た様な種の文献があるようだが、参考になるかも怪しい。
 何よりこれらの関連性が一切不明だ。こんなものを人工的に使役できるかも不明、ただ倒す事しか出来そうにない」
 そしてそれすら難度が高い。そう団長は付け加えて、店員が運び込んだ飲み物を一息に飲みほした。
 彼は話を続ける。曰く、このままでは部下が浮かばれないのもあるが多くの商人や旅人が犠牲になる可能性が高いと。
 これを解決できるのは、恐らく魔種を退けられたイレギュラーズだけだろうとも。
「……我々が調査し、外部の被害者連中から聞いた話を統合するならばモンスターの発生時期は日中の半ば。
 太陽を頭上に連れて行動しなければならないので、相応の装備や対策を取るといい。
 加えて、ウーズは砂嵐を追いかけるように移動している。
 騎兵と戦闘になった場合のみ砂嵐はウーズ共に停止、このウーズは自ら能動的な動きを見せないが、まあ騎兵を倒した後でどう来るかだろうね。
 あとは手記の通り。我々は君達に殆ど投げてしまう形になる、それは正直忍びない気持ちもある……何か手伝いたい」
 団長は懐から出したクルミを卓上に置いてイレギュラーズを見た。

「例えば、爆薬を貸し出す事も出来る」

GMコメント

●依頼成功条件
 敵勢力の撃退もしくは撃破

●情報精度A-
 全体的情報量は少ないですが、それだけ敵が単純に脅威でもある事を示唆しています。
 敵を攻略する糸口を掴む事が重要。逆に言えばそれ以外で不測の事態は発生しません。

●砂漠地帯
 被害に遭った商会やその他関係者達の情報を統合するに、確たる敵の出現時間は陽が頂点に達した頃。
 そして多少の誤差はあれど、出現地点は首都ネフェルストに近い砂漠の中心部と予想されている。
 多少と表現しましたが細かに言うならば数百m単位になるため、ニアミスを考慮すると予め先手を打って待ち伏せや罠の類を仕掛けるタイミングが難しくなっています。

 砂海の足場は相応に悪く、僅かに回避を鈍らせる。それ以外に関して言えば辺りには高さ6mの砂丘は珍しくない故、いかに超視力でも半径60mしか見渡せない事がネックとなる。
 当然ながら、何らかの耐性なくば砂漠の熱にじわじわと体力を奪われる事もある。
 物に困るようなら依頼主の傭兵団に貸し出しを頼む事も手だ。

●砂の悪夢達
 関連性は一切不明。しかし明らかに何かの意図を伺わせる様な性質を持ったモンスター達。

・『巨大ウーズ=ペサディリャ・ラゴ』
 約30mに広がって移動している液状型モンスター。
 外見は完全に湖のそれであり、見ただけでは透き通った水溜り。中心部など、全容を視認しようと思うなら上空からでもないと不可能だ。
 交戦記録からは能動的な行動を見せなかったものの、衝撃を加えると反射的に水柱が立ってどんな対象も包み、引き摺り込む性質が見られる。
 見た限りでは完全に物理攻撃を無効化していそうだが……傭兵団の見解では『これだけの質量を動かすのなら核がどこかにある筈』らしい。
 強烈な酸性を有している。

・『砂の悪魔』
 6体。いずれも大型のケンタウルス型の風貌で、頑健かつパワフル。体躯に匹敵する騎槍とシールドを両手に携えている。
 騎兵を思わせるシルエットは伊達ではなく、高反応・高機動。恐らく戦闘に入れば並みの機動力では逃走不可。
 体躯や武装を構成しているのは砂で、浮遊の性質を持っている。その為、【毒・出血・足止め無効】が予想される他に物理ダメージをカットしている。
 交戦記録によれば見かけ通りの攻撃以外に騎兵同士での連携が目立ち、特に距離を取ろうとする者を真っ先に囲い込もうとする。
 ・突撃槍(物中単・【移】【飛】)
 ・ジャンプ(物近単・【移】)
 ・共鳴振動(特特レ……レンジ2以内の仲間の数だけ防技補正に+)

▼手記に記された情報の一部
 『砂嵐の内部に入る事は推奨できない。視界が断たれた挙句に全身を暴風と砂が襲うあれは、存在そのものが暴威だ』
 『騎兵の体内に何かキューブ上の石が動いているのを見た。あれはなんだ、核か?』
 『砂で出来ているならば、水か何かで固めればいいのだろうか……少なくとも原形を崩せば……』

●作戦における支援
 依頼主達傭兵団は本件にあたって何点かの支援ができると提案しています。
 傭兵を共に戦わせる事は出来ませんが、物資の援助なら可能です。
 爆薬は携行型の物を(重量の問題から)1人につき1点まで、その他アイテムは物に寄ります。外套や水等の、馬くらいまでのイメージです。

▼爆薬
 手投げ弾式。破片を散らすのではなく爆風によってダメージを与える。
 物中域に固定ダメージ。但し起爆するのは着弾地点にて1ターン経過後。使い処と意図が噛み合っていなければ戦闘中に発揮できる効力は薄い。

 以上。

 ちくさんブレードです。よろしくお願いします。
 少々ややこしく見えますが、シンプルに目に見える全てを破壊して欲しい依頼となっております。
 スキルやアイテム等工夫を凝らしたりアドリブその他も判定として+に見て行きます。

 皆様のご参加をお待ちしております。

  • 揺り籠の/砂海/砂嵐の使者完了
  • GM名ちくわブレード
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年09月10日 23時00分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

銀城 黒羽(p3p000505)
ド根性ヒューマン
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
天才になれなかった女
フレイ・カミイ(p3p001369)
ニル=エルサリス(p3p002400)
クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)
幻灯グレイ
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
さいわいの魔法
オジョ・ウ・サン(p3p007227)
RafflesianaJack
ミドリ(p3p007237)
雑草

リプレイ

●砂漠の足跡を辿って
 足裏に纏わりつく砂は微かに重く。踏み締める度、陽光に熱された熱砂の返礼が為される。
 掠れた声、野ロリババアの断末魔めいた吐息が連続する。
 そこには一様にローブや外套を被り、疲労を抑える為に宙を往く者の姿もそこには在った。
 ラサの砂漠に広がる砂丘地帯をイレギュラーズ一行は探索していた。その目的は、近頃連続している事件解決の為である。
 得体の知れぬ魔物。
 砂嵐と共に砂漠を蠢く偽のオアシス──これらの悪意の核は何処に在るのか。
「暴きましょう──神がそれを望まれる」
 パタム、と。手の中にあった手記を『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は閉じる。
「変な砂嵐にウーズに……、何が起きてるんだろうね……命をかけて調べてくれた人のためにも解決しないと!」
 イーリンを乗せた漆黒の牡馬が嘶く地表から僅かに遠く。飛行偵察に務める『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は近くを飛び交う『幻灯グレイ』クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)のファミリアーへウインクする。
 クローネはその姿に小首を傾げて応える。
「砂の悪魔、ね──そして砂海に沈むは水の悪魔……悪魔たる所以はどのようなものか。
 ……もっとも、今私の頭上で照りつけているものが一番悪魔じみてるがね……」
「Pi! PiPiPi~! PiPiPi! PiPi……Pi!」
 忌々し気に照り付ける陽の下でぴょいと跳ねる『雑草』ミドリ(p3p007237)が『砂漠の悪魔! 怖いねー! 怖いけどやっつけなきゃ、だね!』と短い手足をぱたつかせる。
 愛らしい姿を見せる彼(?)だが、その心情には彼なりに退けぬ決意があった。
 此度の依頼に結びつくまでに失われた命の数は少なくない。この一連の事件の背景には沢山の傷付いた人がいる。
 その犠牲をミドリは無駄にしたくなかった。
「PiPiPi~? PiPi……PiPi!」
 砂丘を転がって来た乾燥植物に覆われた花を受け止めたミドリがナンパするように話しかける一方、彼とは少し違う植物型の『RafflesianaJack』オジョ・ウ・サン(p3p007227)はぐったりとした様子でその姿を眺めていた。
「フー……フー……熱イ、ですネェ……」
「うちの少し水筒あげるお。砂漠をナメたらヤベーイからぬ、水分補給は大事大事」
 舌でも出す様に茹で上がった感じの疑似餌チャンがべろんと垂れ下がっている所。心配になったニル=エルサリス(p3p002400)が手持ちの水筒から少し水をかける。
「ウーズに砂の悪魔とまた厄介なのが控えてる、そっちとやり合う前にバテねえようにしないとな」
「ウボだかウズだか知らんが、向こうから攻撃してこないならこっちのもんだ! 分からん事はこれから視て行きゃ分かるだろう、ガッハハハー!」
「頼もしいわね、そこに居なければ」
 索敵、探索。それぞれ適した並びを意識して進む中で『ド根性ヒューマン』銀城 黒羽(p3p000505)が先頭を行く。
 その後ろでちゃっかりイーリンの跨る黒馬の影に入っているフレイ・カミイ(p3p001369)は気持ち余裕そうな表情を見せている。

 さて、と。馬上にて揺れるイーリンは色調が白く、内側が黒く変色した外套の下で思考する。
(砂の悪魔……体内を移動するキューブ。それが核なら、核を守るために移動させている。
 ではウーズはなぜ一撃受ければ水柱を起こす? それはただの捕食なのかしら――?)
 彼女はモンスターに関する知識を掘り起こす際に『ブロブ』という種の存在に思い至る。
 生態は多岐に渡り、比較的生息域の広いスライム型モンスター。ウーズの本質はこれに近いのではないかとイーリンは推測する。
 比較的、過去確認されているスライム型のエネミーは行動原理が理に適った性質のモノが多い。だとすれば砂嵐とウーズの共同的関係にも何らかの『理』が存在するのだ。
 しかし推測の域を出ない。
 自然なる産物か、或いは悪意が産み落とした物か。そこには真実と共に攻略の糸口が在るだろうと確信していても……未だ啓示は下っていないのだから。
 ならば、そこに至るのに要する精度を高められるのは仲間――

「PiPi! PiPiPi~?」
「あれ? ミドリ君何か見つけたのかな、どうしたの?」
「Pi……」
「それは……例のウーズに?」
「PiPi!」
 枯れた花を抱え、ちょっぴり悲しそうに持ち上げるミドリの姿にアレクシアが何が起きたかを察する。
 ミドリが言うには。砂漠を共に旅していた友達が砂嵐に飲まれてしまったのだと、エアプランターなる花が語ってくれたらしい。
 砂漠を駆け行く花すら踏み躙る所業にアレクシアは憤りを覚えた。
「あのね、私達はこの子をこんな目に遭わせた魔物を探してるんだ……他に何か知らないかな」
「PiPiPi……」
 囁くように問いかけるアレクシアと共に、ミドリが頭から生えている葉を揺らす。
 今は自然と疎通の取れる彼等にしかわからない。沈黙よりも多くを語るが、静寂よりも変化は無く。言葉よりも断片的なイメージが先行してしまうのは致し方の無い事だった。
「んぉお?」
 ――だが、無駄ではない。
 "それ"を初めに感じ取ったのは、砂丘の上から周辺を警戒していた超感覚有するニル。首を傾げる彼女は微かに囁き声のような風が吹いた気がしたのだ。
 次いで、何かを聞き届けたアレクシア達が顔を見合わせ。再び花へ視線を落とす。
「……PiPi!」
 砂漠においては凡そ目を向けられる事の無い小さな命。
 時に、そんな小さな物が思わぬ識を持っている事もあるのだ。イーリンは【知識の砦】を手に筆を取ると黒馬の側へ寄って来た仲間の得た情報へ耳を傾けるのだった。

●『渇け』
 黄砂を渦巻く嵐。
 事前に聞かされていた通り竜巻に近いその様相は直径30m程度の暴威を纏っている様だと、ファミリアーを通して視たクローネは認めた。
 そして忘れてはならぬ存在――砂嵐の陰に半ば隠れ広がる流水が如き強酸の悪魔もそこにはいた。
「たしかに双方確認した……ッス。一度敵対状態にならないと騎兵の姿までは確認できない様ですが……」
「こうして見ると砂漠を流れるデッケー水溜りだぬ。なんだかアハ体験してる気分になってきたお」
「ホー……近づけば騎兵が出て来るって聞いてたが、言うほどでもねぇな。鳥は狙ってないみてぇだしな」
 砂嵐の進行方向から外れている背の高い砂丘に伏せながら様子を伺うニルとクローネの言葉に、フレイが被せるように告げる。
 そこへ、クローネが首を傾げ。
「あと、ウーズの中央で砂を掻き分けるように空洞が進行方向に従い続いている……上から見て、何かが掘り進んでいるとも思えないッスね。
 ……ウーズの一部が地中に突き立てられている……?」
「核ではないのね?」
「この距離で見違えることは無いでしょうが……どうも形容し難い感じッス」
 ましてや、使役するファミリアーは二つ。察知されぬであろう距離が開いているとはいえ、超視力を有する自身と五感を繋げているクローネの言に間違いはないだろう。
(ミドリ達の情報に、ウーズの体積が一部地中に……。だとするなら、あの砂嵐が――)
「―――"ああ、そういう事"」
 そこで唐突に彼女は閃いた。
 否、これはイーリンの得た情報がそれぞれ繋がり合わさった事で果たされた必然的帰結。至ってしまえば実に捻りの無い中身だと、彼女は眼下を往く『砂と酸の怪物』を見下ろして頭を振った。
「なにがそういう事なんだ」
「どっちにしろ、私達は嵐を取り巻く砂を除けないといけない。
 あなたの言う通り。あれは鳥は狙わなくても私達を狙うのだから」
 フレイが水を煽りながら問うと、イーリンは懐から一動作で召喚し抜き放った戦旗を砂丘の頂に立ち掲げて応えた。

「……合図が出たな。それじゃ行くとするか、アンタも無理しないようにな」
「そこはお互いにね!」
 イーリン達の潜む丘の対岸。砂丘の頂から真紅の輝きが上がったのを合図に、黒羽とアレクシアらが囮となるべく姿を晒した。
 砂嵐は、頭上舞うクローネのファミリアーよりも距離の離れた二人の姿を捉えた。
 巨大ウーズの停止に次いで針路をアレクシア達へ傾け、六騎の砂の騎兵が射出される。その機動力たるや、騎槍を突撃姿勢のままに構えウーズの上を翔け眼前に迫る勢いは砲弾と変わらぬ圧力を有していた。
 何より、射程内に捉えた瞬間に急加速する様は完全に砲撃のそれである。
「ぐッ……おおぉ!!」
 直後に殺到する三本の騎槍を受け止めた黒羽の身体が宙に浮き、同時に鮮血が散る。
 称賛されるべきは足を地に突き刺し己が身体で絡め取るように威力を分散させ、耐え切った黒羽の不屈の耐久力だろう。
 刹那に闘気を全身から放出する黒羽の視界奥、アレクシアもまた同様に梅花の中で騎槍の穂先下で吶喊する。
「相手してもらうよ! 踏み躙られた砂漠の花たちにかけて――これ以上誰かを傷つけさせない!」
 重なる結界。黄の花弁に混じり数多の花が咲くかの如く、アレクシアを中心に薄紫の花を描いた魔法陣が展開した。
 二人の闘気と魔術とが砂の騎兵達を捉え、絡み付いた時――回って来た自分達の手番を見逃さず、隠れていた仲間達が砂丘を一斉に飛び越える。
「烽火は上がったわね。行きましょう」
「マズは砂……ノ……アクム……? ヲ担当デスネ!」
 器用に片手で手記の背表紙へ筆を仕舞い懐へ押し込むイーリンの脇をオジョウサンがぴょっと一っ跳びで駆けて行く。
 続く前衛。
「今回の敵はでーえすしーが効きにくそうな相手だお」
「確かに殴る蹴るの攻撃が効かねえって風体だな……が、そりゃあもうどうすればいいか答えを教えてくれちまってるようなもんだ」
 フレイと並ぶニル、彼等の拳がギシリと固められる。
「だおだお、倒れるまでぽこちゃかすりゃええんだぬ!!」
「死ぬまで、殴って、蹴って、ぶっ飛ばす! 死ぬまで殺せばいずれ死ぬ!! さっさとくたばれ――!!!!」
 後方のオジョウサンから噴出した毒霧を屈んで避けながら猛然と距離を詰め、クローネが撃ったソウルストライクに続いて左右から一挙に拳が突き出される。
 一種の悟りの境地とも取れる脳筋めいた真理は、迷いなく拳先に最高の威力を乗せて砂の騎兵を打ち飛ばした。
(――! きっとあれだ、あれが騎兵の『核』!)
 フレイ達の力任せな一撃が余りの威力を発揮する中。砂の爆風に紛れてアレクシアは眼前にキューブ状の……光り輝く宝石のような物を視た。
 手を伸ばす。砂が原形を取り戻す前に引っ張り出してやろうという試みた結果、彼女の指先が石に触れ―――

 ――【あァ……海洋の時と違いこれは想定外、残念ですが中継はお終いですねェ】――

「……っ! 今のは……」
 バヂンと爆ぜるように指先が弾かれる感触。アレクシアの頭の中に一瞬、暗がりに佇むローブ纏う男の姿と声のイメージが残響の如く刻まれる。
 後に残ったのは、砂の残滓のみ。

●渇け――!
 開戦の鬨。
「(追悼はいらないって言ってたけど、ぼくは祈るよ)
 命をかけて悪魔を倒す鍵を持ち帰ってくれて、ありがとう……かたきは、ぼくたちが取るよ!)」
 小さな体は臆することなく、砂粒吹き荒れる中にも駆けて行く。

 うんと力を振り絞って放つ魔砲。新緑の光がアレクシアと黒羽に集う砂の騎兵を複数巻き込み、続くクローネのソウルストライクが騎兵を蒸発させる。
「……これで二騎。見かけによらず硬いせいか」
 クローネが眉を潜ませる。完全に敵がアレクシア達に釘付けとなっている状況下で集中攻撃を加えて数十秒、それで二体目である。
 その背景にあるのは敵の特性、一定の距離内に在る騎兵の数だけ活性化するが故だろう。
「ガァァ――ッ!! 柔らか硬ぇ! コアをぶっ潰せばそれで仕舞いなんだろうが、ちょこまかと動いておちょくってんのか!!」
「見た感じ、攻撃姿勢を取る前ならキューブが背中のほうに回ってるけど微妙に反応負けして狙い辛いんだお」
 力任せに騎兵へ叩き付けられる水の入った革袋。中身が爆ぜ漏る寸前、憎悪滾る爪牙を以て馬の半身と胴を掻き切るフレイに合わせニルの鉄拳が砂を更に爆散させる。
 宙を舞うキューブへ前衛の手が伸びる物の、空振るか或いは砂の身体に腕が埋まるという珍事を起こす。ウガァ、と叫ぶフレイが騎兵ごと腕をニルの方へ振り回すのだった。
 濛々と砂煙が広がって行く。
(――ウーズに動き無し、それより気になるのはアレクシアがさっき言っていた事。
 『キューブに触れた時に何か視えた』という事はやっぱりアレは何者かが意図して造り上げた、造魔といった所かしら)
「PiPiPi!」
「ん、ありがとうミドリ――ラムレイ」
 あぶない、とイーリンに飛ぶ声。黒羽の闘気から逃れたらしい騎兵が一騎、頭上へ飛び立った後に黒馬跨る彼女へ急降下するランスの一撃が奔る。
 重い一撃を打ち返すのではなく、いなす。戦旗抜き放ち迎える彼女と愛馬は呼吸を同じくして、ミドリの援護魔砲によって体勢を崩した騎兵へ黒霧纏う旗竿の一撃が見舞う。
「よーーーくミルト……ホラ……なかに……ナニカ見えるンデスヨネ……? トラえたデスヨーー!!」
 瞬間、オジョウサンの中から顔を出した疑似餌娘の後ろから伸ばされた赤い管がイーリンと対峙していた騎兵のキューブを絡め取り。動力の源と思われる魔力を吸収しながらガキリとヒビを入れた。
【「…………!!」】
 砂飛沫上げて霧散する騎兵。
 イーリンはオジョウサンの様子を一瞥するが、アレクシアの時とは違い何も起きた様子はない。
(無粋な覗きは去ったと見るべきか)
 或いは黒幕に通じる手掛かりだったのかもしれない。だが良くも悪くも早期に何者かの干渉を逃れる事が出来たと考えるなら、作戦は成功を収めたと言える。

 ――そこで、不穏なる水音が戦域外で鳴るのだ。
 砂丘を崩す勢いで騎兵と戦闘を続けているイレギュラーズの後方で蠢く影。砂嵐が僅かにその規模を縮小し、怪水のみが砂の上を滑り移動する。
 誰も動かぬ物に気を配る者など居はしないだろう、なれば後は圧殺と強酸による暴威の下に蹂躙するだけで――今は退席している術者の目的は達せられる筈だった。
 そう……誰も、このウーズを気に掛けていなければ。そうなる未来も有り得たのである。
「ンー? ウワー! 皆サン、後ろカラウーズが来テマスヨーー!!」
「PiPi……!」
「……この状況で厄介なのが」
 オジョウサンの警笛に一同が振り返る。
 機動力はほぼ皆無。しかしこのままでは布陣を崩されるのは目に見えている。
「水を差されるのも癪ね……本当はもう少しエレガントに事を運びたかったけれど仕方ないか。
 黒羽、例の――頼んだわ」
 後衛が身構えたのも一瞬。イーリンは即座に黒羽へ目配せすると共に、一塊の包みを放り投げる。
 緩やかに宙を舞うそれは放射線を描いて。
 アレクシアの結界が軋みを挙げ、騎兵の槍が押し込んだ刹那。振るわれるフレイの横殴りの拳に伴い跳ね飛ぶ砂飛沫。頭上を飛び越えた包みを垣間見た彼が、前衛達が一斉に黒羽の方へ視線を向けた。
 包みを、血に塗れた手がガッシと掴み取る。
 未だ残る騎兵の数は三騎。クローネのソウルストライクとミドリの魔砲が火線を残し飛来する中、アレクシアとニルの手がそれぞれ中空を回転していたキューブをその手に掴み、握り締めた。

「……なるほど。
 敵さんの正体は"リスクに見合う効果"が期待できる性質だったわけかい、司書さん。
 んじゃ、骨を断つとするか――」
 一騎の騎兵が振り下ろした騎槍が肩口にめり込むも、黒羽の全身から溢れる黄金の闘気は潰える事無く。
 カチン、と。
 包みの中で何かが起動した直後、比喩でも何でもなく彼と騎兵の姿は爆炎と共に吹き飛んだ。
 閃光に次いで瞬く紅蓮の衝撃波の中でバキリと砕け消え失せるキューブ体。
「―――いってぇ……が、そうも言ってられねぇんだよなぁ!!
 司書さんよ、どっちだ!」
 爆風の中から飛び出し、焦げ付いた体を奮わせる黒羽の声が戦場を迸る。
 それは一種の合図である。
「【巨大ウーズの正体は砂嵐を『頭部』に据えた巨大な魔物よ。砂嵐が顎だとするならウーズ部分が胃袋のね】
 ……狙うなら、砂嵐の中よ――!」
「っんだそりゃ!! 七面倒くせぇ……ッ、だが俺様の見立てが正しけりゃそれはつまりこういう事だろ!!」
 ウーズの上を一息に駆け抜ける黒羽。
 イーリンが示した真相を頼りに覚悟を決めた彼の手元へ、クローネやアレクシアの投げた包みが集まる。風と砂が肌を刻むのも無視して黒羽はそれら爆薬を抱き渦中に飛び込んで行く。
 ずるりと波打つウーズ。オジョウサンがロべリアの花を吹き付ける一方で、包みを振り被るフレイの姿が映る。
 血肉のみならず無機物も溶かし尽くす強酸の湖。その中央へ放り込まれた爆薬も、例外なく数秒で溶かされる事だろう……だがそこへ新緑の光弾が突き立った。

「PiPiPi……Pi」

 魔砲放った小さなミドリが呟いた言葉を最後に、二柱の爆炎がウーズと砂嵐の中央でドーム状に広がったのだった。
 それは例えるなら入口と出口の両方から火を投げ込んだ様な物。
 暫くして、砂漠に駆け巡った衝撃波の中に破砕音が混ざったのをニルが確認したのだった。

成否

成功

MVP

銀城 黒羽(p3p000505)
ド根性ヒューマン

状態異常

銀城 黒羽(p3p000505) [重傷]
ド根性ヒューマン

あとがき

返却遅くなり申し訳ありませんでした。依頼は成功です。

お疲れ様でしたイレギュラーズの皆様。
熱砂の中、(GMの)想像を絶する壁役が複数上手く立ち回り、更に全員程良く戦闘での連携や情報精度の強化などお見事でした。
深緑と傭兵の間で繰り広げられる砂の陰謀は今後どうなるのか。
また少しずつ動きを見せているようですが、皆様も今一度休息を。

ご参加ありがとうございました。

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