シナリオ詳細
イレギュラーズ・アドバイザリー:天義改革計画
オープニング
●グレゴリアの憂鬱
『冥刻のエクリプス』の最も恐るべき影響は、神聖なる『天義』──聖教国ネメシスの中枢が、魔種によって喰い散らかされたことそのものではないだろう。むしろ、その混乱が生み出した人心の乱れこそ、魔種らの生んだ最大の不協和音であったと考えられる。
聖女は魔種に反転し、不正義の不名誉は回復された。多くの者はそれらが全て憎むべき魔種らによる謀略であったと、あるいは聖人とて人の身たるゆえの神の試練と納得したに違いあるまいが、一方で信じた者が掬われたと感じる者が一定数現れたこともまた、決して否定などしきれぬのだ──特に、これまで治安を維持してきた聖騎士団が王都防衛に駆り出されたまま戻らず、長く彼らが討伐してきた魔獣らに脅やかされるようになった街、グレゴリアにおいては。
「お前は道具屋の息子アンドロ! 家族揃って敬虔だったお前がどうして盗賊の一味に!」
「親父も、お袋も、行商中に盗賊に襲われて死んだ。全ての財産を失った。どれだけこの国で『善良』であり続けても、神は俺たちを見放したもうたのだ。だから――」
天は自ら助くる者を助く。幸福を手に入れようと思ったのならば、その手で誰かから奪わなければならないのだとアンドロは言葉を絞り出し、それから隣人に向けて手斧を振り下ろす――。
――だがそれが命中する直前に、純白と黄金の鎧の人物が現れて、アンドロの手斧を弾き飛ばしたのだった。
剣の紋章の楯に赤マント。その人物の名をアンドロも、隣人の男も知っている――『ジルベール卿』。
童話作家アシュトン・ルネ・ルサージュの代表作、『正義の騎士 ジルベール卿』に描かれたままの姿の人物は、魔種らの軍勢に取り囲まれた聖都フォン・ルーベルグに希望のパンドラが輝いたのとまるで呼応するように現れて、各地で盗賊や魔物に苦しむ民衆を助け始めたと噂されている。
事件を聞きつけた領主が到着した頃には全てが終わり、賊たちは全て捕縛された後だったと報告書には記されていた。領主は『ジルベール卿』に感謝して、逗留して世直しに力を貸してくれるよう懇願したものの、卿の答えは生憎こうだ──。
「その申し出は、悪を討つことでしか正義を示すことのできぬ私には、身に余る光栄である。……しかし、その私の力を必要とする人々がこの世にはおり、私は行かねばならぬ」
それを聞いて落胆する領主に対し、卿はひとつの予言を残してみせた。
この街の乱れはこの国そのものが乱れているからに他ならない。この街に正義を取り戻したいと願うなら、見聞の豊富な者を招くのが良いだろう、と。
かくて、領主は依頼書をしたためる。
「我が街、グレゴリアに治安の乱れあり。ローレットの特異運命座標らに、綱紀粛正のための助言を求めたし」
- イレギュラーズ・アドバイザリー:天義改革計画完了
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- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2019年09月01日 22時30分
- 参加人数8/8人
- 相談11日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●政策会議
特異運命座標らが通されたのは、厳粛な雰囲気の長机の部屋の、一番の下座よりは幾分上手の席だった。たとえ自ら招いた賓客なのたのだとしても、ロストレイン、アークライト……ローレットからの依頼受理通達に含まれていたそういった名をはたしてどのように扱うべきか、彼らが持て余した結果であろう。
「『恩人』たる“ジルベール卿”の奨めをこうして形に出来たことを、喜ばしく思う」
長机の最奥で8人を迎える領主の表情は、どこか歯切れ悪そうに見えた。特異運命座標らをこの場に呼ぶこと──ひいては童話の聖騎士の名を騙る不審な男の助言を鵜呑みにすること自体に疑いの目を向ける反対者らの手前、これ以上の待遇を行なえば通るものも通らなくなる、との判断であったのかもしれない。
反吐が出る。
この国に今の惨状をもたらしたのは、そのような都合のいい正義観ではなかったか?
見るべきものを見ず、聞くべきものを聞かず、政敵を蹴落とし保身するための“正義”……これだから『『幻狼』灰色狼』ジェイク・太刀川(p3p001103)は、この国の法というものが気に食わぬのだ。
「この中に、街角の子供たちの顔を思い浮かべられる奴はいるか?」
集まる有力者らに問いかけたなら、誰もが渋い顔を作った様子が見てとれた。最も改革に意欲的な者でさえ、彼らがどのような状況に置かれているのか、直視せずにいたのではなかろうか? 路地には食うにも困った子供がちらほらとおり、ジェイクが手持ちの食料を分けてやったなら、ほっとしたような顔を浮かべるというのに!
「魔物どもと魔種教団さえなくなれば、子供たちを皆笑顔にしてやれるのです!」
グレゴリア教区の司教だという人物が立ち上がり、彼らを殲滅する方法こそが特異運命座標らに求められているものなのだと力説してみせた。
「なるほど。治安の改善と交易路の復活。確かにそれがグレゴリア復興の鍵であることは、私どもも認識しております」
まずは肯定してみせたのは『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)。
「まさしく、交易リスクが治安の悪化を生じ、それが新たな交易リスクとなる悪循環を断ち切ることこそ、私どもの提案するグレゴリア復興プランの要旨であるのです」
「おお……! 正直、つい先ほどまでは部外者に何が判るものかと疑っておりましたが、どうやら杞憂であったようですな!」
司教は手を叩き、寛治に次の言葉をせがむ。では……ひとつ、咳払い。
「第一の提案、『自警団』について、実現性の調査を担当したノエミよりご説明させていただきましょう」
●最初の提案
会合の場にやって来たときの『恩に報いる為に』ノエミ・ルネ・ルサージュ(p3p007196)の表情は、どことなく物思いに耽っているようだった。それもそのはず、ノエミはまさに『正義の騎士 ジルベール卿』の作者アシュトンの娘であって、そしてかの創作童話の最初のファンなのだから。
けれども寛治に名を呼ばれたならば、そんなものまるでなかったかのように優雅に立って一礼してみせる。
「聖騎士様たちに帰れぬお役目があるのでしたら、この街の人々の中で戦える者を募って、自警団を結成すればいいのです」
そう切り出したノエミに対し、グレゴリア側一同の反応は、まったく不可解とでも言いたげなものだった。
戦力がないなら作り出せばいい……そんな当たり前の指摘をされたところで、何かが変わるわけもない。できるなら、とうの昔にやっているのだ――そう鼻白む彼らはしかし、はたして本当に最善を尽くしたのだろうか?
「まず私は、森からやって来るという魔物が、どんなものなのか調べてみました」
すると判ったのはその『魔物』というのが、実際にはゴブリンや狼といった相手だということだ。全くの素人では歯が立たぬかもしれないが、性質をよく知る者による指導さえあれば、追い払ったり狙われぬよう遠ざけたりする分には一般市民にもできる。
「実際、街の外に出なくてはならないが出られず困っている者たちがいたので、試しに僕が一緒に魔物討伐をしようと呼びかけてみたんだけどね」
そう横から補足して、その際の出来事を語るのは『おにいちゃん』カイト・C・ロストレイン(p3p007200)。
「確かに、誰もが最初は恐ろしがって、そんなことはできるはずがないと首を振りはした。けれどもこのままではジリ貧になることは皆解っていたし、僕が誰一人として死なせるような真似はしないと誓ったことで、ようやく重い腰を上げてくれたよ。彼らが連携をものにするまではしばらくかかったが、もう少し訓練と実戦経験を積めば、問題の魔物たちをどうにかするくらいは僕なしでもできるようになるだろう」
「ロストレインの言葉など、どうして信じられようか?」
誰かが憎々しげに言い放ってみせた。それは、彼の父と妹の不正義を兄に問わぬという天義国王にして法王フェネスト六世の意向に、異を唱えることであるのだろうか……? そう『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)が問うたのならば、答えは「いかな陛下とて神ならず、万が一過ちを犯された際に支えることも臣下の役目」なるものだ。
……では、もしも王さえもが誤りうるのであれば、もしもこのまま困窮が続き、市民が次々と罪人や魔種教団に転ぶようならば、この場に集まるグレゴリア上層部の誰もが罪を犯したことになりやすまいか?
幻がそう問うたとしても、保守派は――革新派もだが――自らの考える正義こそを唯一として、だからこそまずはそうでない者たちを除かねばならぬのだとばかり主張する。喧々諤々の糾弾が始まる。日和見主義的に議論を静聴していた領主が、バンと音を立て両掌でテーブルを打つ!
「愚か者どもめ!! お前たちがそうしてばかりで何も変えられぬから、儂は恥を忍んであの正体の判らぬ騎士殿に――そしてローレットに依頼を出したと言うに!」
議場はしんと静まり返り、それから領主は特異運命座標に一礼して言った。
「今日は、これ以上は冷静な議論などは望めますまい。申し訳ないがこの続きは、日を改めてということにさせてはいただけませんかな?」
●切り崩し工作
特異運命座標らには豪華な来客の間が宛てがわれており、予定より幾分早い余暇が彼らに訪れた。見事な調度品の数々をよく見れば、至るところにこの国の教義モチーフが盛り込まれている様子が解る。
けれどもそういったものを楽しんでいる暇はない。特異運命座標らには次の会議までになさねばならぬことがあり、それをせねば次回も平行線で終わるのだろうから。
たとえ強大な魔種を退けたのだとしても、天義の危難はこれからが本番なのだ。そんな気が『信仰者』コーデリア・ハーグリーブス(p3p006255)にはしてならない。実際、彼女がハーグリーブスの伝手を使って耳にしたところによれば、この街の治安は魔種どもが天義の各地で闇に潜んでいた頃よりも、彼らを討ち滅ぼした後の今のほうがよっぽど酷い。
それを保守派は魔種どもが不正義の種を蒔くのを止められなかったせいと言い、革新派は伝統に弓引いてでも魔種どもの後始末をせねばならぬと主張し、魔種教団はこの街の惨状と魔種を失ったという事実を短絡的に関連付ける。
この国の行く末を嘆くという点では変わらずに、ただ着眼点と、同時に幾ばくかの体面と利権が彼らを反目させ合っていた。時にはゆき過ぎ、独善となることはあれども、誰もがその者なりに善良であるのがコーデリアの母国、聖教国ネメシスという国だ……そして領主の一喝により体面を気にせず翻意する土壌が生まれかけた今、着眼点と利権についてをどうにかすれば、きっとこの街は将来の天義の在り方について、ひとつのモデルケースとさえなりうるはずだ。
そう考えるコーデリアの要請に応じて『天義の希望』リゲル=アークライト(p3p000442)が訪れたのは、保守派きっての強硬派と知られる、とある貴族の下だった。
「私は、リゲル=アークライトと申します。ローレット在住にして、天義の騎士……『冥刻のエクリプス』では最前線で剣を交えた一人です」
「無論、知っておるとも。シモーネ・コンティーニである。貴殿のお父上におかれては、お悔やみ申し上げる」
リゲルの名乗りに応えた貴族シモーネも口や顔には出さないが、おそらくはリゲルの父シリウスの罪を憎んで、その息子がこうして訪ねてきたことさえも疎んでいるのであろう。
しかし、とリゲルは語るのだ。
「魔種ベアトリーチェとの戦いにおいて、不正義とされてきたコンフィズリー家――リンツァトルテ様が、聖剣の力でもって魔を退けてくださいました」
神が決して咎人を赦さぬのであれば、どうして聖剣が力を取り戻したであろう?
「そして絶対悪とされていた魔種――我が父シリウスが彼を守り続けてくれたからこそ、我が国を守り抜くことができたという事実があります」
「魔種を退けた英雄殿が、私に不正義を容認せよと仰せか?」
「そうではありません……正義の人の不正義が退けられねばならないように、不正義の人の正義にも耳をお傾けいただきたいのです」
法王の各家に対する寛大な措置こそが、まさしくそれに対する答えであろう。さもなくばこの国に住まう誰もが断罪されねばならなくなって、後には聖教国という名の荒野が残るだけだ。法王さえもが過つならば、市井の民が過たぬわけがないのだから――。
もし、それでも不正義への強硬姿勢を崩せば不名誉になると言うのであれば、寛治がそれに代わる名誉を用立ててみせよう。自警団に対する統帥を担う者も必要であるならば、彼らの活動があっても安全確保しきれたとは言えぬ街道に商人を通す際、その管理と庇護を受け持つ責任者も欠かせない。特異運命座標らの提案に不正義の疑いアリと言うのなら、欺瞞があれば意欲的に探し出せるであろう保守派こそ、計画の監督役に据える価値がある──。
そんな主張を寛治だけが説くならば、耳を傾ける者は乏しかったかもしれなかった。彼は表面では耳心地の良い文句で売りながら、顧客と自身の利益を最大化するために、違法でも虚偽でもないいかなる手段をも──例えばグレゴリアの期待値をあらゆるコネにて喧伝し、復興債投資を募ることで投資家とこの都市の利益を得るよう図るなども──厭わぬ男だ。
……しかし特異運命座標らの中には、ハーグリーブスがある。コーデリアは決して天義外部から忌憚なき意見を述べられる立場ではない……が、それ故に彼女の言葉を用いれば、正義のための清貧とも、利益のための不正義とも違う、正義の原資としての富、利益の基盤としての正義こそが天義という国を形作っているのだと説くことができる。実際、彼女が手を回して調べた限りにおいては、結局はこの状況ではどんな利権を持っておれども、利益に変えることなどできぬのだから。
今は亡き父が魔に堕ちた分まで、必ずやこの国を再生させる。
そのために力を貸してほしいと片膝をついて頭を下げたリゲルに対し、シモーネがどう思ったかは判らない。
けれども万事を尽くしたとしても最後は正義と不正義の話になるのなら、リゲルには、こうするしか誠実さを証す方法はない――。
●2回目
結局、会議の続きが催されたのは、数日経った後のことだった。この街の指導者層の歩みは遅々としていたが、一方でその遅延が革新派にとって追い風になっていたというのは、果たしてどのような皮肉であったろう?
街の政府が判断を決めあぐねている間にも、自主的にカイトの下に集まった人々は、毎日のように自らの信じる正義を――自らの手で魔物らを討伐し、未来を掴み取る選択を実行してみせる。そのような草の根活動が成果を挙げていたことは、ただでさえ切り崩し工作を受けていた保守派の主張の屋台骨を揺るがしたのみならず、一度は魔種教団の門戸を叩き、彼らの下で戦闘訓練を受けていた者らにさえ、真に学んだ暴力を使うべき場所は何処かと知らしめる。
魔物らの減少。魔種教徒らの改心と奉仕。早くも目に見える結果が現れてしまい、人々がそれを支持しはじめたことは、保守派にとって自警団設立案に反対することのほうが危険なことになってしまった。
だが……彼らが賛成に転じたのは自警団に関することだけだ。彼らにとってはやはり、悪の芽は片っ端から摘まねばならぬ……そこで特異運命座標らの第二の案だ。
「僕から提案するものは、『刑務所』でございます」
幻が語るのはただの懲罰房としての牢獄ではなく、罪人が不正義を行なわぬよう監視しながらも、彼らに労役と技術訓練を課す場としての更生所であった。
「しばらく交易の滞った今、商人の方々によれば食料品と日用品……それから自警団のための武具が足りないと申します。罪人をただ罰するのではなく、価値あるモノを生産させ、市がそれを売る――それは市全体の生産性を高めるのみならず、罪人は出所後にその技術を用い生活できることにより、再び貧困からの罪を重ねずに済むのです」
「貴族や聖職者が率先し、職人や商人の真似事をせよと申すか!」
とある貴族が声を荒げたが、商人ギルドの長が宥めて言った。
「なぁに、ならば全て私めにお任せ下されば良いだけのこと。もっとも我らがその提案に乗れるかは……罪人どもに、はたしてどれほど真っ当な仕事ができるか……ですがな」
「なら、罪人に森を開墾させちまえばいい」
横から口を挟んだのはジェイクだ。
「とにかく、盗賊などやらなくてもいいだけの仕事が用意できりゃいい。刑期の終わりに自分が開墾した分に応じた農地が手に入ることにすりゃ、どうせなら率先して働いてくれるさ……食料も自給できるようになり、余った分を売りに出せば経済にも貢献する。さらに森と街道の間に農地ができりゃ、魔物が街道まで出てくる可能性も減る。もちろん罪人である必要はねえ……使える奴は誰だって雇やいい」
問題は……そのための金を誰が出すかということだけだった。混乱で孤児や寡婦が増えている中で、その生活を保障し、犯罪に走らぬよう教育を施す孤児院や女子修道院の新設も急務……だというのにここに集まる有力者らは、その財産からすればはした金にすぎぬ私財を投じるのが誰か、おそらくはこの後何ヶ月も議論を重ねねばならないに違いない!
「だったら……手っ取り早く経済効果を得られる方法を使えばいいのだわ!」
●未来への提言
ビシッと指を突きつけてみせたのは……『お節介焼き』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)だった。
「①楽しい日を過ごすことで、明日への希望を持つ!
②これから経済を回復させるのだという意思を示して、街じゅうに団結を呼びかける!
③そして街の外から観光客を集めて、経済効果を発揮する!
……などなど、さまざまな効果を見込めるイベントがあるのだわ……それは、『お祭り』!!」
少しでも訪れた人がお金を落としてゆくように、数日間続けられればいいだろう。天義の伝統を破壊していると非難されない範囲で、各国や、異世界の祭典を採り入れて――もちろん華蓮が実家で巫女さんをしていた時の祭りも――注目を浴びるような形式が見つかればなお良し。ついでに出店はグレゴリア内の商人だけでなく、他の町からも募るようにしたならば、入市税は観光客だけから得るものよりもずっと増す!
「今後も、定期的にお祭りができれば、きっといい観光資源になるのだわ!」
そのためには街道の完全確保は絶対条件で、祭りにかける予算と負担を思えば、経済回復の後で実現すべきものの類ではあった。けれども経済基盤の発展や社会福祉の拡充といった長いスパンの計画からしてみれば、遥かに短期間に実現まで漕ぎ着けられる……そして何よりも重要なのが、この『お祭り』自体がこの街の有力者らにとって投資に足るもの、あるいは苦難の中にある人々の楽しみや、ある種の喜捨にもなれるということ!
「辛い状況だけど俯いてばかりじゃだめ、楽しい一日を過ごして明日からまた頑張るの。お祭りって、こういう時のためにあるんだって思う!」
そう説いた華蓮に対し、領主がしかし祭りとは唐突すぎるのではと問うたなら、聖地巡礼……という言葉をノエミが呟いた。
結局、彼女がどれほど聞き込みをしても、“ジルベール卿”の正体も足取りも掴めず仕舞いだった。けれどもそれゆえこの街の卿は、逆説的にファンにとって“本物”になりうる素質を秘めている。
今はこの論理を理解する必要はない――何故なら祭りの実現性を検討する時期は、しばらく後になるからだ。いや……自警団以外の全て提言は、これから改めて俎上に載せねばならぬのだから。
そして、その裏で――。
●魔種の不幸
カイトだけはただ一人、魔種教団に乗り込んでいた。
辺りには倒れ臥す信徒たち。教団の頭らしき人物は、脅えて彼に命乞いをする。
「僕は、君たちが何を信仰しようが否定はしない」
だから彼はその男を殺しはしないが――しかし、一つだけ解らせておかねばならない。
「僕は……いや、俺は。魔となった父を殺すのも。魔となった妹を殺させたのも……」
最後にはそう言った地獄が待っているのに、それが正義になるものか。
彼は男の首筋を盾で打ち……それから独り、彼らのアジトを後にした。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
……以上が、グレゴリアにおいて行なわれた全2回の諮問会議の全容です。
今回の提言に対するグレゴリア当局側の反応を纏めると、以下のようなものになります:
◎保守派の切り崩し
◎自警団設立による魔物対策
◎魔種教団の首謀者らしき人物の捕縛
◎魔種教徒の改心
○交易の復興
○投資の募集
○祭りの開催
△刑務所による職業訓練の実施
△孤児院等の福祉施設の増設
?魔種教徒残党への対策
?魔種教徒ら犯罪者への寛大な措置
※ ◎ … 実施済 ○ … 実施方法を検討中 △ … 実現性を検討中 ? … 未定
保守派を切り崩したことにより、個々の反対者は依然として残れども、派閥としての反対派はほぼ消滅したと考えていいでしょう。
もっとも、それにより頭ごなしに立ち消えになる案はなくなりましたが、△ばかりか○や◎の項目であっても今後細かいところで価値観の相違が現れて、最終的には有効性を失う代物になってしまう可能性はあります。
現状のままでもグレゴリアは天義の平凡な街くらいの形には落ち着くでしょうが、それ以上の発展が見込まれるかは未知数のままです。発展してくれないと新田氏のPPP, Ltdと顧客に大打撃となるのでご注意ください。
もっとも、これからのグレゴリアがどうなるのかについて語られる機会が今後あるのかどうかは、私には全く判りませんが……。
GMコメント
この度はシナリオリクエストありがとうございました。
悪化の激しい天義のいち地方都市グレゴリアの領主は、治安改善のため、天義の常識やしがらみに囚われない政策提案を特異運命座標に依頼しました。
現在のグレゴリアが置かれている状況は、以下のようなものです。
・治安の悪化
聖騎士団が現在も聖都復興のために徴集されており、周辺の森の魔物が街道を襲っています。さらに、これにより困窮した人々が盗賊と化すことでも交易の寸断に拍車がかかり、それがますます人々の困窮をもたらすという負の循環が始まっています。
・魔種教団の誕生
困窮した人々の中には、天義の正義を疑い、天義政府の転覆を目論んだ魔種らこそ救いの道だと考える者が出てきはじめています。彼らは自らを『魔種教徒』と呼称し、魔種のように暴力に従って生きることこそ正義と考えていますが、実際には反転はしていません……ただし、彼らが本物の魔種と接触すれば、その時は『原罪の呼び声』によりまとめて反転してしまうでしょう。
・強硬保守派の存在
にもかかわらず、グレゴリアの指導者層の中にはローレットからの助力を快く思っておらず、悪の芽をいかなる手段を以っても摘み続けることこそが治安維持の要と考えている者たちも多くいます。彼らの協力を得られずしては、いかなる助言も効力を発揮できないでしょう。
なお領主自身も『ジルベール卿』の言葉には半信半疑で、改革派と保守派の中間の中立派にすぎません。
本シナリオは主に領主の主催する政策会議を扱いますが、それに向けた調査や根回しなどのプレイングがあれば、より良い効果を見込めます。
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