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シナリオ詳細

<薄明>薄暮より来る者
<薄明>薄暮より来る者

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●????
 かすれる視界で、ぼんやりとソレを見続けてどれくらい経っただろう。
 ぎゅるると鳴る腹の音も、最早聞きなれてしまった。
 座る床の冷たくて硬い石畳も、ぴちょんと響く水滴の音も、部屋の輪郭さえ曖昧にする暗さも、見慣れてしまって、何の感慨もない。
 コッ、コッ――と、石畳を踏みしめる音が響く。
 この音も――いや、この音は久し振りだ。
 時間の長さなんてもううろ覚えだ。何日いや、何時間、或いは何週間だろうか。
 起き上がろうとして、石畳を滑るキンという音も、そういえば何時ぶりだろう。
「――――――ほう、生きていたか」
「――――ォ」
「ふんっ。言葉を忘れたか……まぁ、だが――まだマシだ。あの使えぬ女よりはな」
「――――――ァ」
「なに気にするな、まだ生きている。まだ、な」
 格子に近づこうとして、ガツンとした衝撃につんのめる。
 叩きつけられた石畳への衝撃も、もう痛みとして感じない。
「はっ、痩せっぽっちになったもんだな。
 助けてやった時にはブクブクと大層な体格だったが?」
「――――ゥ」
「何を言っているのかさっぱりわからん。
 ――――だが、一つだけ聞いてやろう。小僧」
『母を助けたいか?』
 それは、なんてことの無い言葉だった。
 それは、多くの者が応と答えるであろう、言葉だった。

 ――――たとえそれが、あまりに善くない者であろうとも。

 ――――――だから、それでも、私は、答えたのだ。

 ――――――――――甘い、甘い言葉に。

『貴様ら答えれば、私は貴様の母を救ってやろう』

「――アァアア」

 その瞬間、心臓が痛くなった。
 ズキズキと、続いて、ドクン、ドクン――と、脈打った。
 まるで、滞っていた血が急速に全身に迸るように。
 次に感じたのは、力の増幅。
 異常なまでの血の濁流に、身体が張り裂けそうだった。
「アァァアアアアァァアアアァ」
 声が、不思議と出た。
 本の僅かな痛み。――あぁ、そうだ。これが痛みだった。
 金属が割れる音がして、石に当たる音がした。
 ようやく思い出した痛みが、声が、寒さが、次々と埋め尽くされていく。
「アァァアア」
 ビキビキと、鎖骨あたりに何かがめり込むような痛みを――感じた気がした。
「くははは! いいぞいいぞ! それでいい。
 それでこそ、生かしておいてやった甲斐がある」
 そのうち、燃え上るような怒りだけが、感じ取れた。

●薄暮より来る
 幻想の南に小さな空白地帯がある。
 そこは嘗て、とある貴族が管轄していた場所。
 家名をオランジュベネと言ったその貴族は、かの盗賊王との争いのどさくさにまぎれ、魔種として隣にある貴族領を攻撃した。
 巨大な火の巨人を引き連れた貴族はイレギュラーズの大活躍により敗北し、失踪。
 その管轄地域は統治者のいない空白地帯と化したわけである。

 オランジュベネ家の当主に狙われた貴族――ブラウベルク家。
 ブラウベルク領と呼ばれる管轄区――その中心地たるブラウベルクで、テレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)は忙しそうに情報の整理を行なっていた。
 ――コンコンと、ドアをノックする音がして、少し。
 大型の男が顔を出した。
「姫さん、少しいいか?」
「ええ、出来れば急いでいただければ幸いですが、団長さんの話とあれば」
 さらさらと書いていた資料を脇に置いて、男の方を見る。
「それで、ユルゲン団長、何があったのです?」
「はい、旧オランジュベネ領にて暴動事件が発生しました。
 偵察に送っていた仮に契約した傭兵からの情報です」
 そう言って傭兵団長ユルゲンが言うと、テレーゼは一瞬目をまたたかせて、立ち上がる。
「分かりました。それでは、ローレットの皆様に鎮圧をお願いしましょう」
「はい。それがよいかと」
 テレーゼはそのまま依頼書を書きだそうとして、ふとユルゲンの方を見る。
「まだ何か……?」
「それが……偵察したらしい傭兵からの情報で……」
「歯切れが悪いですね」
 きょとんとして小首をかしげる。
「……怪物が、いたと。その怪物の声に誘導されるように、暴徒達が町で暴れているそうです。
 その怪物がオレンジ色の毛に覆われ、蒼の瞳をしているとのこと」
「なるほど、でもそれなら別に――」
 そう言いつつ、訝し気に細める目には、微かな動揺が見えた。
「はい、それで、その……鎖骨の下辺りに、蒼い菱形の宝石がめり込まれていたと……」
 その言葉を聞いた瞬間、少女は自らの足に力が入らなくなるのを感じて、そっと机に手を置いた。
「そう、ですか……あの子と継母は伯父が大金払って釈放させたと聞きましたが……
 そうだと、思いますか?」
「可能性は少ない。ですが、全くないと言い切れもしないだろう」
「あぁ――そう、ですか」
 少女はそう呟いて、深く溜息をついた。

●暖かなる日を
 君達はテレーゼに招聘されてブラウベルクに訪れていた。
「こんばんは、皆様。今、ブラウベルクに隣接する
 オランジュベネ領と呼ばれていた場所を中心に、暴動事件が多く起きています。
 皆様にこのうちの一つを、鎮圧していただきたいのです」
 そういうって君達を見るテレーゼの風貌は濃い疲労が見える。
「現場はオランジュベネの旧領の一つ。
 そこで、10人ほどの人々が暴徒と化して脅かしています」
 そう言って君達の下に資料を提示していく。
 中でも目を引くのは、毛むくじゃらのナニカの絵だ。
「その絵のナニカは、もしかすると、私の異母弟――だったかもしれないモノです。
 ソレに突き動かされるように人々は暴れだしたとのこと……恐らくは、魔種なのでしょう」
 目頭を押さえ、疲れた様子を見せテレーゼは、君達に視線を巡らせた。
「宜しくお願いします。
 ソレを放置することは皆さんとしても看過できないでしょうから……」
 そこまで言って、少女は頭を下げた。

GMコメント

こんばんは皆さま。

ラサで何やら動いているらしいですが、幻想でもちょっぴり事件です。

というわけで、早速。

※注意※
こちら、HARD依頼になります。おきをつけくださいませ。

●オーダー
1:暴徒の鎮圧(生死は問わず)
2:トロールボーイの討伐

●戦場
幻想の南部、オランジュベネ領と呼ばれていた管轄区の町の一つです。
人々は既に避難しており、問題なく戦えます。

●敵戦力
・トロールボーイ
全身をオレンジ色の毛で覆い尽くされた5mほどの巨人。
毛むくじゃらの中に、目と思われるぼんやりと蒼の光が灯り、
人であれば鎖骨があるであろうあたりに菱形をした蒼の結晶がめり込んでいます。
魔種です。
HP、神攻、防技、抵抗が非常に高く、命中、EXAが高めのトータルファイタータイプ。半面、反応、機動、回避、EXFは低めです。
なお、何かしらの弱点があるもようです。
影の人形たち(P):残存HPが最大値の6割を下回るまで、ターン開始時に影で出来た人形を1体召喚します。通常攻撃でも倒せる雑魚ですが、かばう、ブロック、マークなどの動作を行ないます。攻撃行動はしてきません。
影より刺す(A):神中単 威力中 【暗闇】【ショック】
影を抉る(A):神至単 威力大 【暗闇】【石化】
影に呑む(A):神自域 威力中 【暗闇】【凍結】

・暴徒
10人ほど。
実力としては大したことはありません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <薄明>薄暮より来る者完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2019年08月21日 22時25分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

夢見 ルル家(p3p000016)
ロリ宇宙警察忍者巡査下忍
コラバポス 夏子(p3p000808)
一兵卒
石動 グヴァラ 凱(p3p001051)
風巻・威降(p3p004719)
悲劇を断つ冴え
村昌 美弥妃(p3p005148)
不運な幸運
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
戦神
彼岸会 無量(p3p007169)

リプレイ


  踏みしめる大地は夏の心地よさを感じさせ、空気は暖かく、照りつける陽光に汗がにじむ。
 その暑さをより一層に激しく感じさせるのは、十中八九こちらまで聞こえてくる怒声のせいだろう。
(相対すれば相対するほど……ってやつだよこれ。
 会話は成り立たない、交渉の余地もない、お互い譲れない
 ないないづくしでキリがない)
「呼び声にやられたか だとしても …だ!」
 見えてきたのは人々が避難しているであろう大きめの屋敷に殺到する10人と明らかに目立つ巨人の姿。
 グロリアスを軽く振るって調子を確かめた『一兵卒』コラバポス 夏子(p3p000808)はそのまま大地目掛けて叩きつけ名乗り口上を上げる。
 竹を割ったかのような激しい炸裂音と名乗りに7人ほどの村人がぐるりと振り返る。
「元々人間だったというのが不思議な感じデスが危険なことには変わらないデスぅ
 ……アレのこと、テレーゼさんはどう思ってるんでしょぉ」
 その様子を横目に 『不運な幸運』村昌 美弥妃(p3p005148)は飛びぬけてデカい物を見て感嘆の息を漏らす。
 けむくじゃらの姿は、一見して人であったことなど分かりづらい。
 さておきと、フォールーン・ロッドに聖なる光を集め、少しばかりこちらを見た後で再び屋敷の方に意識を向けた暴徒を照らし出す。
 それに続けるようにして、『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)は気功を巡らせ、更なる二人を絡めとっていく。
 その横を他の5人が走り抜けた。

「なるほど……蠍事件の時に伝え聞いたやつより幾らか小さいとはいえ、確かに巨人だ」
 トロールボーイへ近づいた『悲劇を断つ冴え』風巻・威降(p3p004719) はそうぽつり呟きながら自らの生命力を贄に生み出した妖刀を振るう。
 呪いの込められた斬風が走り、巨人の身体を構築する毛を大きく靡かせる。
 ぼんやりと浮かんだ蒼の光が、威降の方を向いた。
「ォォオオォォォ」
 巨人が吠える。大気を震わす音と共に、彼の背からぬっと影が現出する。
 それはゆっくりとイレギュラーズの方へ動き出した。
 感情の見えぬ――否、そもそもあるのかさえ定かではない巨人トロールボーイは、影を連れて威降の方へ歩き出す。
「戦神が一騎、茶屋ヶ坂秋奈! 有象無象が赦しても、私の緋剣は赦しはしないわ!」
 見た目セーラー服を纏っているようにしか見えない『戦神』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)が、高らかな声を上げる。
 しかし、トロールボーイの視界に彼女の存在は入っていなかった。
 それを好機とばかり、秋奈は走り抜け、トロールボーイの側面を取った。
 直後、踏み込み。諸手に握るは『戦神』部隊に正式採用されている武装のレプリカ。
 緋色の二刀が、緋色の閃光を走らせ、切り口と共に数多のオレンジ色の毛が宙を舞った。
「アァァ――」
 何かに苛立ちをぶつけるように、トロールボーイが叫び、直後にトロールボーイの影から棘のような黒が現れ、威降目掛けて襲い掛かった。
(弟御かも知れない存在の討伐を願わなければならぬとは心中察するに余りあります)
 黒いゴシックドレスの裾から、溢れ出すようにして霧状の触腕を生み出しながら、 『ロリ宇宙警察忍者巡査下忍』夢見 ルル家(p3p000016)は思考する。
「それでは、母上から受け継いだ邪神パワー、お見せします!」
 軽く腕を振るえば、霧は鞭のように疾走し、影を絡めとっていく。
 動きを封じ込められた影は、そのまま弾けて消えていった。
(標的の素性に興味、なし。
 受諾したなら、ば……オーダーに従い、目的を完遂する、まで)
 黙考する石動 グヴァラ 凱(p3p001051)は、静かに巨人の真ん前に布陣する。
 両の拳を軽く合わせるように叩きつけ、墨色の炎が絡む半壊した機械鎧を着装する。
 遥か遠き世界にて、語られる神話の一節。
 その身は万象を焼き潰す<廃城の偽神>が如く。
 握った拳を、凱は静かに叩きこむ。己が出来るには、ただソレのみであるゆえに。
 憎悪によって磨き上げられた尋常ならざる手甲を、微かに開いたたままに叩きつける。
 尋常ならざる魔種の筋肉量が、凄絶なまでの破壊を小さく押し殺してしまう。
「――――ァ」
 振り仰ぐ。魔種の蒼い灯と目が合った気がした。
 彼岸会 無量(p3p007169)は敵の様子を静かに認めると、ゆらりと刀を抜く。
「まるで一寸法師にでもなったかのような思いです。法師にいい思い出はありませんが」
 紅呑童子切――斬った相手の血を吸う妖刀を剣客は構える。
 滑らかな黒髪に内包する赤が魔種を捉えた。
(憐れ)
 例えどのような場所どのような敵であろうと、己が刃を曇らせることはない。
 ただ、斬るのみ。
(何を願い何を求めその様な姿に身を窶したのか私には知る由もありません。
 しかし、私が以前見た魔種には強き意志があった)
「怒りに塗れるだけの貴方に、何が叶えられましょうや」
 軽い踏み込み、その一瞬で、無量は敵の間合いの更に内に到達していた。
 長大なりし一刀より放たれるは、半端な技術を無視して走る殺戮の一閃である。
「――――ォォォ!!!!」
 魔種の雄叫びが轟き、戦いの始まりが告げられた。
 ひょっこりと、影から一つ、人形が姿を現わす。
 「ァァァ――!!」
 巨人が叫ぶ。その直後――トロールボーイの影が円形に膨れ上がり、秋奈、無量、凱の3人を呑み込んでいく。
 絡め取られた足が凍てついたように動きにくくなり、漆黒が視界を包んでいく。

 ――――ワタシノ ジャマヲ シナイデ クレ

 包み込まれた影の向こう、そんな声がした――気がした。
「ォォォ――」
「みなさん! 大丈夫ですか!」
 天へ吠えるトロールボーイの周りに現れた影人形に再び霧状の鞭を走らせたルル家は呑み込まれていった者達へ向けて叫ぶ。
「なるほど……これならば呑み込まれた甲斐もあるというものでしょうか」
 暗闇を払い、剣客は空虚な瞳を巨人へ向けた。
「――ォォォオオ」

 ――――ハハ ウエ モウスコシ オマチクダサイ 

 その声がコレのモノか幻聴かは分からない。
 シャンと音を立てて大太刀を構え、懐にて丸太のような脚部目掛けて大太刀を薙いだ。
 雄叫びが聞こえる。
 トロールボーイの影の内側から、秋奈は跳びあがり、赤いマフラーを靡かせながら静かに二刀を構え、身を躍らせながら頭上から緋色の閃光を走らせた。
 そういう声ではない。それに加えて、此処にいるイレギュラーズの多くは原初の呼び声など意に返さぬ異世界よりの来訪者であった。
 トロールボーイが若干ながら胴体を屈めたその瞬間、凱が手を微かに開くようにして構えた。
 この距離ならば、暗い闇とて意味をなさない。踏み込み十の指を叩き込む。ぞわりとする無数のオレンジ色の毛の奥、分厚い筋肉を抉り取るように引き抜いた。
「アァァ!!!!」

 ――――チョコマカト ウゴクナ

 トロールボーイが天を仰ぐ。その姿を中距離辺りから見ていた威降は再び作り上げた妖刀を構えていた。
 トロールボーイの視線がこちらの方へ向いてくる。
 それに合わせるように、威降は妖刀を薙いだ。
 見えない呪いが空気を裂き、トロールボーイの胴部辺りを抉り取る。
「ォォォオン」

 ――――ァァ コワレテ ナイ

 トロールボーイが苦しむように胸元にある菱形を庇うように腕を動かした。
 ぼんやりとした双眸が、威降へと集中する。
「ァァアァ!!!!」
 雄叫びと共に、トロールボーイが動き出す。
 ルル家は魔種の方へ近づきながら宇宙力を限界以上に放出し、多重銀が分身してトロールを取り囲むと、一斉に己が武器をぶちまける。
 ある者が拳銃でぶち込み、ある者が長距離からライフルで、ある者がナイフで――無限を疑うような多重の攻撃を受けた巨人がよろめいた。
 広がっていた影がトロールボーイの形に収束していく。
「ガァァァ」
 激情に満ちた巨人が手をかざし――直後、威降へと影が伸びて棘を作り走る。
飛びのいて躱した威降の腹部と脚部が微かに棘に貫かれた。

 ●
 一人の暴徒が、手に持っていた剣を振り上げ近づいてくる。それを穂先で捌きながら、夏子は叫ぶ。
「家族や仲間に! 誇れるんだろうなそんなんでぇ!」
「うるせぇ! なんなんだよお前ら! 邪魔だぁ!」
 血走った目で、こちらを見る男の懐にグロリアスを叩きつけると共に、馬鹿デカイ発砲音が響き、男が後ろへと飛んでいく。
 更に続くように農具や武具を片手に暴徒達が立ち向かってくる。
 思いっきり打ち込まれる数多の攻撃を受け止めながら、夏子は静かに彼らを見据える
「来なきゃ追わない。来るなら……容赦もできない!」
 叫び、反撃に打ち込むグロリアスが、再びけたたましい炸裂音を上げた。
 夏子へと殺到する暴徒達の横を、遠巻きに見るようにしてこちらを見る者がいる。
 美弥妃は鍬を片手にこちらを血走った目で見る男に魔杖を向ける。
 聖なる祝福の光が、男へと降り注ぐ。生者の命を刈り取ることなき暖かな光に身を包み込まれた男は、まぶしそうに眼を閉じて、蹲るように倒れていく。
「しかしともあれ、まずはお仕置きの時間でからでありますな」
 エッダの方へ近づいてくる二人の暴徒が片方の懐に潜り込み、螺旋を描く拳を叩き込む。
 ぐるりと回転した男が地面に落ちていく。
「ふざけやがって! 俺達が何をしたってんだよ! ちくしょうめ!」
 叫びながら、エッダの方へ近づいてくるもう一人が叫ぶ、
 手に持っているのは、棍棒の類であろうか、遮二無二突っ込んでくる。
 エッダは振りかぶられた棍棒に合わせるように腕を前へ伸ばす。
 螺旋が棍棒を弾くように外へ打ち込み――踏み込みと共に、鳩尾へと拳を当てる。
 ぐりりと、立ち上がるのが困難になりそうな強烈な一撃が、男に刻み込まれた。
 美弥妃は魔杖を構えると三度となる聖なる光を降ろす。光は夏子へと立ち向かっていく鎧姿の男へと降り注ぎ、腕を顔の前に持っていった男に、グロリアスが伸びて叩きつけられた。
 男が崩れ落ちていく。
「嬢ちゃん達、ここは僕に任せて!」
「無理は禁物デスからねぇ?」
 美弥妃の言葉に、夏子は軽口代わりに槍をくるりと回した。


 少しばかり、時が開いた。
「さて、僕一人だ。役割分担ってね」
 槍をくるりと動かせば、残り3人となった暴徒達がこちらへ向かって突撃してくる。
 夏子は理力障壁を展開すると、横合いに殴りつけてきた女を打ち付けると、そのまま体重移動で女を別の男の前へ動かす。
 つんのめった女と男がもつれあって倒れこむその一瞬、グロリアスをぐるりと薙ぎ払った。
 数度目の応酬に、その二人が沈黙する。
「それじゃあ、最後の一人だ」
 構えを直す。最後の一人は、この中では真っ当な騎士――のように見える人物だった。
 自分と同じ槍使いらしきその男とじりじりとすきを窺っていく。

 ルル家は巨人へと近づくと、そのまま触腕を振るう。
 裾から走った霧状のソレは結晶を庇うようにあるトロールボーイの腕に絡みつき、ぎりぎりとしめつけ――ようとしたところに割り込んだ影の人形が、パンと爆ぜて消えた。
 それが最後の影人形だった。
「――ォォ」
 ぼんやりと浮かぶ魔種の光が、こちらを覗いていた。直後、トロールボーイの拳がルル家へと叩きつけられた。
 身を抉り取らんばかりの強烈な一撃に、身体が軋む。
 明滅する視界、身体が石になったように動きが取れなかった。
 体勢を崩して後退するルル家に変わるように、エッダはトロールボーイの前へ躍り込んだ。
「しかし、薄気味悪い奴でありますな。一体何をしたいと言うのか」
 気を操作して魔種の視線を自らに誘導すると、向いてきたぼんやりとした蒼い光にそう漏らす。
(蒼い結晶を守るようにしてマスぅ?)
 ルル家に天使の祝福を与えながら、魔種の動きを見ていた美弥妃は首を傾げた。
 弱点であるのならば守るように動くのは当然と言えば当然だ。
 けれど、その動きはどちらかというと大事な宝物を守るような、そんな物に思えた。

「聞いた話に拠れば、貴方は母と釈放されたのでは無いのですか? 母は何処に?」
 無量は静かに問う。何となく、察してはいる。
 だが、それを聞くことはコレを倒すのに一番の隙を生み出せるはず。
「ォ――ハ――――ァ」
 魔種の瞳が無量を見下ろす。
 それを見て、無量は理解した。漏れた息は憐憫か、あるいは諦観か。
「――――ォ――――アァァァ!!!!」
 空を見上げた魔種の咆哮が激しく耳を打つ。
 ソレの声は聞こえなかった。
 結局、あれはこの化け物の理性の欠片にすぎぬ。
(最早、言葉を語ることも出来ませんか)
 すらりと構える紅吞童子切。錫杖を模した柄頭がしゃらんと音を立てる。
 ――我が身、死地に陥れて後に生く。
 高い抵抗能力を有したこの巨人は、それ故に幾度に渡って自分達の誘導を無視してきた。
 おかげでというべきか、自らの境地は死地にあった。
 一歩、前に出る。静かに紅呑童子切を薙いだ。
 狂気の沙汰、人の外。
 極限にまで鋭さを増した一撃が吸い込まれるように結晶目掛けて走り抜けた。
 威降は至近距離にまで近づくと、剣を走らせた。
 それは無拍子で放たれた一撃は神速を以って蒼い結晶に打ち込まれていく。
「貴方の復讐は代わりに果たすのもいいかもね。まっ、縁があればだけど」
 秋奈は巨人の足辺りを走り抜けるようにして駆けあがると、結晶目掛けて緋色の軌跡を打ち込みながら、そう残す。
 ぼんやりと見据える魔種の目が見開かれたようにも見える。
「此処で逃がせば、被害は拡大する、か」
 もうとっくに気力は尽きている。
 けれども拳を握り直して、凱はトロールボーイの膝を完全に打ち砕く。
 魔種の咆哮は、聞こえなかった。


「そうですか……」
 ルル家達は戦いを終えると一旦、ブラウベルクに寄っていた。
「きっと、あの魔種は自分の母親があの町にいるって教えられてたんだと思うわ」
 秋奈は何となく思っていたことを言葉にした。微かに無量と凱が同じような意思を示す。
「だとしたらいやらしいねえ……それに、ソレをしてどうするんだ?」
 夏子の問いに答えはない。
「ところで、この蒼い結晶ってなんだったんでしょぉ」
「それは私があの子の誕生日に送ったプレゼントですよ。
 自由に出来るお金なんてなかったので、ものすごく安いものですけれど」
 美弥妃が壊れてしまった蒼い結晶の一部を見上げながら言うと、依頼人――テレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)が後ろから声をかけてきた。
「お疲れ様です、皆様……ええ、間違いなく、私があの子へ送ったプレゼントです」
 手触りを確かめて、少女が微笑んだ。
「それを守るように彼は戦ってました」
 ルル家の言葉にテレーゼの目が見開かれた。
「――それは、嬉しいです、ね……」
 苦し気に笑う少女の後ろで、西日が差している。
 露骨に嫌らしい悪辣な意識が、その西日の向こうに見えた気がした。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

遅れてしまって申し訳ございません。

お楽しみいただければ幸いです。

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