PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<bc'Swl>AIR

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ぴちゃん
 嗚呼、今日も天気が良い。熱中症に気をつけなければ。
 そう心に留め置きながら踏み入れた森は、木々が道に影を落として。緑に囲まれてることもあって、森の外よりいくらか涼しげだ。
 ぴちゃり、と踏んだ水たまりが涼しげな音を立てる。周りには探している薬草が見つからないが、まだここは森の入り口に近い場所。誰かが採って行ってしまったのだろう。
(全部採るのは、森にとってあまり良くないんだけどなぁ)
 根絶やしにしてはいけない。生態系を壊してはいけない。それは巡り巡って、どこかで歪みが出てしまうだろうから。
 この程度ならそこまで深刻ではないかもしれないけど。そう思いながら池へ立ち寄ったその人物は、そこでようやく何かがおかしいと感じ始めた。
「池が……枯れてる」
 大きくはないが、かといって決して小さな池でもない。日照りで蒸発した、なんてレベルでもない。
(むしろ、雨でも降って水嵩が増していないと)
 水たまりの跳ねる音を思い出す。あれは雨によってできたそれではないのだろうか──。

 ──不意に、その人物は『水に閉じ込められた』。
 声を出すことも叶わず、鼻から、口から、水が入り込み体を満たす。
 これは何だ。一体何なんだ。1つわかるのは、このままでは危険だということ。
 その直感に突き動かされるがまま、がむしゃらに手を伸ばす。見えるのは水に揺らめく視界──そして自らの死。体の外側が熱い気さえしてくる。
 それは決して、気のせいではない。
 全身を走るのは焼け付く痛み。身の内へ流れ込んだ水が次いで内臓を焼く。
(いやだ)
 嫌だ嫌だ嫌だいやだ嫌だ嫌だいやだいやだ嫌だいやだ嫌だ嫌だ嫌だいやだいやだいやだいやだいやだいやだ!!!!!!!!!
 湧き上がる思いと共に吐き出されたのは水──ではなく、朱色のそれ。あっという間に身を取り巻く水が薄め、掻き消していく。

 やがて、何もなくなった頃。それはぷるん、と小さく震えてみせた。


●ガタガタガタむしゃむしゃむしゃ
「いやー、今回もって感じで、もぐもぐもぐもぐ、もぐもぐもぐもぐもぐもぐ」
 ひたすら団子を頬張る少女。彼女──レター・ノートと共に、イレギュラーズは馬車で移動していた。
 8名と同行者が乗ることのできるサイズではあるが、大変狭い。なぜかと言えば、まあ置ける限りの場所にレターが買い込んできた食料があるからで。
「この団子美味しかったな。もぐもぐ」
 積んであった団子を綺麗に平らげ、今度はマドレーヌの山へと手を伸ばすレター。甘味の気分であることが見て──それ以前に買い込まれたそれらでわかる。
「餅ってさ、むしゃむしゃ、弾力あるよね」
 突然の言葉にイレギュラーズの視線がレターへ向く。彼女は口の動きを止めず「違う?」というように首を傾げてみせた。
「今回の子もねぇ、もぐもぐ、そういう感じ。もぐもぐもぐ、餅ってしっかり歯を立てないと、ごくごく、切れないでしょ、むしゃむしゃむしゃ」
 食べるか喋るかどちらかにしてくれ──毎回誰かしらが、或いは全員が思うのだが、まあ言い出すも言い出さないもその者の自由。少なくとも、言われてやめるような性格でもないだろう。
「あ、次そっちのお饅頭食べたいな」
 それそれ、と指差されたのはイレギュラーズのそばにある、大きな風呂敷包み。仕方なしに持ち上げれば、ずしりと重い感触が腕に伝わったことだろう。
 渡せば喜んで包みを解き、山のような饅頭を消費し始めるレター。
 同行すると言ってはいるが、その実ただのピクニックなのでは?
 そう思われても仕方ない光景だ。レターへ同行のワケを聞くと──。
「森の先にさ、もぐもぐ、港町が、むしゃむしゃ、あるんだよね。むぐむぐ、それでそっから海洋に行けるわけだけど、もぐもぐもぐもぐ、海の幸も、むぐ、食べたいなって!」

GMコメント

●成功条件
 モンスター『アイル』の駆除

●情報精度
 当シナリオの情報精度はAです。
 情報は全て確かとなります。

●アイル×6体
 水の塊。スライムのような感触のそれです。触れると溶けます。
 自らで何でも包み込み、消化、吸収します。それは止まることを知らず、ただ貪欲に消化できるものを探しています。
 反応は低め、特殊抵抗は高いです。

《≒飢餓感》
 ターン経過で進行、飢餓感が大きくなるほど体を構成する液体の質が変化します。具体的には防御技術の上昇。
 飢餓感がある程度溜まると反応が上がります。
 また、飢餓感の大きさに応じて捕食(下記参照)の頻度が上がります。

《≒捕食》
 アイルが何か消化・吸収することを捕食と定義します。
 この攻撃が命中すると、アイルの防御技術が上がります。
 また、捕食することによって飢餓感が増大します。

●フィールド
 森の中です。非常にのどかですが、アイルという存在を察知して動物たちはいち早く逃げています。
 目を凝らせば、森の中にある不自然な空白がすぐ見つけられるでしょう。

●レター・ノート
 今回の依頼人であり同行者。戦闘は不可。森の手前で待っています。
 非常に大食らいの少女。

●ご挨拶
 愁です。お久しぶりです。レター・ノートちゃん可愛いよね。
 アイルの体はスライムのようにぷるっぷるですが、その中身は塩酸のようなものです。顔にかかったら多分危ない。とても危ない。
 ご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。

  • <bc'Swl>AIR完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年08月18日 22時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
泳げベーク君
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
弓削 鶫(p3p002685)
Tender Hound
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者

リプレイ

●満たされない。
「むぐむぐ、いってらっしゃーい」
 饅頭を食べながら手を振るレターを背に、イレギュラーズたちは森へ1歩を踏み出した。風呂敷に包まれた大量の饅頭は果たして討伐終了まで残っているのか──じゃなくて。
「皆、念の為にこれをつけておいてくれ」
 こんなこともあろうかと、と『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)が取り出したのは。
「耳栓と……」
「……洗濯ばさみ?」
 仲間たちが受け取りながら首を傾げる。各々の手に耳栓が1対と、洗濯ばさみが1つ渡ることとなった。
「こうして、……こうするんだ。取り込まれた時に、体内の損傷をある程度は防げるかもしれないからな」
 耳栓を装着し、洗濯ばさみで鼻を摘まむリゲル。ちょっと鼻声になるし見た目は大変アレだが──命には代えられない。
「なるほど、取り込まれた時対策か。確かに大切だな」
 ありがとう、と礼を言ったのはリゲルのパートナー、『優心の恩寵』ポテト チップ(p3p000294)。早速着けておく者、敵を視認してからとポケットへしまう者と様々だが、一先ずは敵を探すところから始まった。
「人を閉じ込めて溶かす水か……厄介だな」
 ポテトは感情探知で森の中を探りながら、そう言葉を零す。後方で感じ取れる飢餓感──空腹はきっとレターのものだろう。
「ああ、ここで退治しておかなければ。皆、ポテト、頼りにしているぞ!」
「あぁ。リゲルも頼りにしてる」
 視線で頷き合う2人。そこには絶対の信頼が垣間見えた。
 ポテトと同じものを感じながら『鴉羽演舞』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)はポテトから距離を取り、けれどその姿を見落とさないほどの距離感で飢餓感や焦燥感と言った感情を探していく。
「……この間のレター殿の依頼と同じ様に、アイルという生物も絶えず餓えに苦しむ質なのでござろうか」
 食べても食べても飢餓感に苛まれ、さらに何かを食らっていく──飽くことなき飢餓感。
(親近感は湧くが。異常事態ではないのか?)
 『ラブ&ピース』恋屍・愛無(p3p007296)は道中に水溜りがないかと視線を巡らせながらも、そう思わずにはいられない。そして視線は咲耶へ向けられて、彼女の呟きへ答えるように言葉を零す。
「似たような依頼を何度か見かけたが。特定種だけならまだしも……」
 不特定多数の生物が、同じように飢餓感に苛まれている。そして一様に、他の生物を食らって食らい尽くさんとしているこの状況は──やはり、異常事態だ。
 首を振った愛無は辺りの気配を探ってみる。けれどそこに在るのは動けぬ植物ばかりで、動く生命体の気配は感じられない。
「脅威に対して敏感な動物たちは、いち早く逃げているようですね」
 あまりにも静かすぎる森に『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)は目を細める。静けさに満たされているという事は、不審な物音に気付きやすいという事。そして、自分たちの気配にも気づかれやすいという事。
(個人的には親近感を湧く生態ではあるんですけどね)
 けれど、怪物退治は物語のお約束だ。立場が違えば、四音自らが退治されることもあったかもしれないが──イレギュラーズである彼女が退治されることはそうそうないだろう。
(まあ、仕方ないですよね)
 かの怪物には悪いが、ここで退治させて頂こう。今の私たちは食うか食われるか──命を奪い合う関係なのだから。
「性質だけを聞けばスライムのそれだけど、危険度は桁違いよね……」
 『私は屈しない!!』アルテミア・フィルティス(p3p001981)の表情から険は取れない。どこにいるのかもわからない敵を前に、気を抜くわけにはいかないのだ。
 放っておけば生態系を壊し、森を消すだろう。人里に降りれば被害は計り知れない──そう思えば、尚更。
「リゲル、何か不自然なところはないか?」
「そうだな……」
 ポテトの問いにリゲルが辺りを見回す。そしてつと指差したのは茂みだ。
「その茂みの向こう。草が綺麗になくなっているようだ」
「……奥まで続いているわね」
 茂みの向こう側をアルテミアが覗き、その先を見て呟く。未だポテトも咲耶も声を上げないことから、恐らく標的はまだ遠いのだろう。
「そちらを索敵してみましょうか」
 『Tender Hound』弓削 鶫(p3p002685)はファミリアーを呼び戻し、再び空へと解き放つ。翼を広げた鳥は草のなくなった道の上を真っすぐに、そして木々より上へと飛んでイレギュラーズからは見えなくなった。
(これはまた、随分と真っすぐに……あら、)
 ファミリアーの視界を頼りにその先を見た鶫は目を瞬かせた。
 何か不審な音が聴こえたわけでもなく、濡れた跡や這いずった跡を見つけたわけでもない。けれど──水溜りか、池か。そのようなものに、この道は続いているのだ。
「水溜りらしきものがあるのなら、行ってみても良いのでは? こちら側は未だ手掛かりがないでござるからな」
 鶫の言葉を聞いた咲耶がそう告げ、一同は地肌の向きだしになった道へと歩を進める。
 ──やがて。
「「──!」」
 ポテトと咲耶が視線を合わせる。その意味に、仲間内へ緊張感が走った。
「まだ、水溜りらしきものに異変はありませんよ」
「注意して進みましょう」
 鶫と四音の言葉に頷きつつ、一同は慎重に水溜りへと近づいていく。──不意に、アルテミアが叫んだ。
「皆、下がって!」
 咄嗟に飛び退ると、ぶよんぶよんっと液体の塊が落ちてくる。素早く耳栓などを装着したイレギュラーズは武器を構えた。
「溶かされる前に斬ればいい! 皆、行くぞ!」
 リゲルが踏み込み、銀閃が煌めく。ぷるん、と震えたその前にアルテミアが立ちはだかった。行かせまいと立ちふさがる彼女は強い意志を瞳に秘め、2振りの刀を構える。
「何としてでも、ここで討伐しきるわよ」
「うむ」
 アルテミアの言葉に頷き、咲耶が地を素早く蹴る。手に持つ絡繰が形を変えたのは──忍者刀。それは素早く、鋭くアイルへと突き立てられる。
 くるりと後方へ退けば、アイルの傷口からは透明な液体が吹き出した。ぶるぶると震える様は怒りか、それともやはり、餓えか。
「……っ」
 アルテミアに向かってアイルの体液が飛ぶ。じり、と肌の焼ける嫌な感覚。アルテミアの眉間にしわが寄せられるが、その足が後ろへと動くことはない。
 そんなアイルの攻撃──いや、食事風景を、四音は興味深げに見つめていた。
(やはり、親近感がわくんですよね。私もここに来る前は似たことしてましたし)
 人間のように『どうしても倒さなければ』という思いにならないのはそのせいだろう。勿論、依頼を受けた以上は倒すのだが。
 四音から飛ばされた術がアイルの体へと沈む。ぼこん、とアイルの体がへこむが、それはすぐに見えなくなってしまった。
「餅……餅、ですか」
 その様子を見た鶫がぽつりと呟く。レターが餅のよう、と言っていたがあれは餅より弾力があるのではなかろうか。
(……まあ、餅だというのならば)
「ビームで焼いてみますか」
 相手の死角と思しき場所を確実に見定め、兵装を召喚。強力なビームが森の中を駆け抜け、的確にかの体を貫いた。
 ぼっかりと大きな穴を体に開けて。大きく震えたアイルは、──大きく伸びあがった。


●満たされたい。
 餓えている。
 餓えている。
 餓えている。

 満たされない。
 満たされない。

 嗚呼。もっと。もっと、もっと、もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと。


●足りない。
「アルテミア!」
 ヒールしていたポテトの声が上がる。名を呼ばれた主は──アイルの、中。
「今回も餌認定されていればやりやすいと思いましたが、そうはいきませんか」
 いや、餌認定されても複雑だけれどと思わなくはないのだが。
 『見た目は鯛焼き中身は魚類』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)が蹴りを入れるも、アイルの体は少しへこんで元通り。
「少し痛いかもしれませんが……これで引き剥がします!」
 鶫の放った弾頭がアイルのすぐ近くで炸裂し、びりびりとアイルの表面を波立たせる。瞬間浮き出てきたアルテミアの腕を、四音が咄嗟に掴んで思いきり引き寄せた。
 咳き込むアルテミアへポテトのミリアドハーモニクスが降りかかる。温かな癒しの力に顔を上げれば、ポテトが微笑みを浮かべた。
「誰も倒れさせはしない。……代わりに、攻撃に関しては任せたぞ?」
「──ええ、勿論! 頼りにしているわ」
 微笑み返し、再びアイルの抑えに回るアルテミア。捕食できなかったアイルは近くの草木や石を取り込み、ぐずぐずに溶かしていた。溶かしきるとぷるん、と小さく揺れる。
「痕跡を見るに、他にもまだいる筈。気をつけて!」
 鶫が皆へ注意を促しながら攻撃を加える。こんな敵に奇襲をされたらたまったものではない。
(異質極まりないですね……生命のサイクルから逸脱し過ぎています)
 食って食って食って食らう。食らい尽くす。自らの埋められぬ穴を満たそうとするかのように。
「皆さん! 増援です!!」
 ベークが視界へ収めた姿に叫んだ。とっくに人の姿を取っていたベークは耳に耳栓、鼻には洗濯ばさみを装着しているが、そろそろちょっと痛くなってきたかもしれない。
(とはいえ、中身から溶かされるのは嫌ですからね!!)
「こちらは私が受け持つわ!」
「かかってきなさい餅!! お前らの餌はこっちですよ!!! ……自分で言ってて悲しくなってきましたね……」
 前方からやってきた新たな1体と、最初からいた1体をアルテミアがブロックする。背後からやってきた3体を引きつけたのは美味しそうな匂いのせいか、それともそれ以外の要因か──まあ何にせよ、ベークが引きつけた。
 そして側方から来た1体を引きつけたのはこれも何の因果か、愛無であった。それはベーク同様に食材適性を持つが故かわからないが、辛抱強く耐えられる自身に気が向いたのは都合がいい。
「鶫」
「ええ」
 短く言葉を交わし、回復手のポテトと四音が3人のフォローに回る。鶫は直線状へアイルの数体を収めると、再び兵装を召喚した。
「さて。これで、一気に蒸発してくれると良いのですが」
 貫く光。1体へ集中的に与えられる攻撃に愛無がディスピリオドでとどめを刺す。
「わああああ!! 次こっち!! こっちお願いします食べられたくない!!!!」
 悲痛なベークの叫びに振り返れば、かの姿がアイルへ取り込まれかけている。涙目のベークを引きずり出し、紫苑がハイ・ヒールをかけた。その間、アイルの前に立ちはだかるのは剣をギフトで聖剣の如く光らせたリゲルだ。
「俺は美味いぞ! ただで喰われてやるわけにはいかないけどな!」
 冷気を纏った1撃がアイルへと叩きこまれる。液体を撒き散らす敵はぶるぶると震え、辺りの草むらを丸ごと飲みこんだ。
 確実に食える物へと食指が伸びたのだろう。あっという間にそれらが消化され──けれど、アイルの震えは止まらない。まるで足りないと主張するかのように。
「皆、畳みかけるぞ!」
「こちらは任せて。ここは通さないわよ」
 残ったアイルの2体を改めて押し留め、アルテミアが決して逃さまいとブロックする。彼女の体力を考慮しながら、途中でその役目を代わったのは咲耶だ。
「アルテミア殿、1体受け持つでござるよ」
「ええ、お願いするわね」
 木の根元を溶かし、丸ごとその体へ収めて。それでも足りないと震えるアイルを前に、咲耶は音なく構えを取る。
「これより先は通さぬよ」
 仲間たちの元へ行かせることも、森の先へ進ませることもない。──お前はここで、倒されるのだ。


 最後のアイルへ剣が振り下ろされ──べしゃり、とその輪郭を崩していく。液体に動きがなくなったことを確認して1秒、2秒。完全に動きを止めたそれに、一同は長く安堵の息を落とした。液体が少しずつ蒸発していくのを見て、愛無と咲耶は持って来ていた瓶にその液体を収める。
 ──だが。
「む? ……これは」
 何かに気付いた咲耶が咄嗟に瓶を手放す。宙へ放られた瓶は地に落ちて割れる──ことなく、液体に包まれた。
「こちらもか」
 愛無も這い出して来る液体を見て、瓶を手放したらしい。飲みこまれた2つの瓶は溶けてなくなり──やがて、その液体も蒸発するようにして消えてしまった。
「さて、これでは調べて貰う事もできないでござるな。……先ほど見たという水溜りはどうなっているでござろうか」
 小さく溜息をついた咲耶は、足を先へと進める。仲間のファミリアーから見えたという水溜りはすっかり干上がり、何もない穴となっていた。
(何もなくなっている……もしや、アイルと関係が……?)
 そう考えるものの、証明できるものがない。何か少しでも調べられるものを、と咲耶は穴へ降り、底の土を採取した。
「何かの感染源があるならば、押さえておきたい所だが。魔種による反転現象のようなモノならば、結果も望めないだろう」
 何らかの元凶がいる。それが飢餓感を振りまいているのだと、愛無は思わずにいられない。そして、皆が思う。
(こんな厄介な存在──)
「──一体、どこから来たのでしょうか?」
 その胸の内を代表するように、鶫の言葉が零れ落ちた。


●満たされたかった。
 森の手前で待っていた少女は、森から戻ってきた姿を見ると手をぶんぶんと振った。──空いている片手に3本の団子串を持ち、口を動かしながら。どうやら饅頭はなくなってしまってしまったらしい──じゃなくて。
 イレギュラーズがアイルを討伐した報告をすれば、「良かった」と咀嚼音混じりに言葉を紡ぐ。
「して、レターさん。今回のコレも『発注ミス』なので?」
「もぐもぐもぐもぐ」
「……聞いてます?」
 じとりと半眼になるベーク。勿論! というようにレターは頷いて口を開いた。
「聞いてるよもぐもぐ、もぐもぐもぐそんな感じだよもぐもぐ、人型になっても美味しそうな匂いしてるね」
「毎回この『美味しそう』談義するんですか??」
 そう問うベークの瞳は若干生気がない、ような気がする。きっと気のせいではないだろうが、彼がその匂いをさせている限り──つまりはそのギフトを持っている限り──この『美味しそう』談義はされるに違いない。だってこの場にいる誰しもが、言葉には出さねどそう思っているだろうから。
「さて。次は、海の幸を食べに行くんでしたか?」
 四音の言葉にそうだよ、と咀嚼音混じりで答えるレター。食うか喋るかどっちかにしてくれ。
「レター殿の健啖家ぶりはあいかわらずでござるなぁ……見ている此方も腹が空いてきそうでござる」
 咲耶は苦笑を浮かべて腹をさする。運動(戦闘)もした後と思えば尚更、腹の虫が鳴き始めそうで。
「それならもぐもぐ、むしゃむしゃ、このまま海洋までもぐもぐもぐついてくる?」
「私は同行というか、見学しますよ」
 思わぬ誘いに目を瞬かせた咲耶。その隣で四音が小さく手を上げる。その表情は楽し気で──。

「何か新しい物語が始まるかもしれませんから」

 ──その声音も、とても楽しそうだった。

成否

成功

MVP

アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女

状態異常

なし

あとがき

 足りない。足りない。

 足りなかったんだ。

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