PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<薄明>薄明かりを越えて

完了

参加者 : 8 人

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オープニング


 ――――ブラウベルク領。
 幻想の南部に位置する小貴族の家である。
 吹けば飛ぶといわんばかりの、没落に近い小さな貴族だ。
 そんなブラウベルク家が管轄区の西には、オランジュベネという貴族との領地が接している――いや、接していた、というべきか。
 現在、オランジュベネ家は当主が消え、その管轄地域は統治者不在の空白地帯と化していた。
 そして――その空白地は今、とある少女のありとあらゆるコネと苦労の上で、包囲網を築かれている。

 その日は今はまだ晴れ渡っていた。
 オランジュベネとブラウベルクの国境線、草原に流れる小さな河川に築かれた検問所。
 晴れ渡り、天に陽が灯る麗らかなりし平和な国境線――そこでいま、怒号が響いていた。
 薄明かりの空、蒼に至らぬ薄く赤みを帯びた地平線を背に、迫る人々は20を超えているだろうか。
 彼らは一様に同じ装備、似た武器を携えていた。

「落ち着け!! 下がれ、下がれ!! さもなくば撃つぞ!!」
 簡易の検問所を挟んで銃を携えた人物が叫ぶ。
「通せ!! 何の理由があって私達を先に進ませないのか!」
 それを受けた反対側で、一団の長らしき人物が抗議の声をあげた。
「何度言わせる。ソレは出来ないと言っている。今の君達の様子を見ればなおのことだ。
 そもそも、どこに隠れていた? オランジュベネの騎士」
「隠れるも何も、我々は何もしていない。
 それよりも、早く出せ。我らの主はそれを望まれる!!」
 一段の主――騎士の叫ぶ声に、銃を持つ男は静かに銃を構えたままだ。
「我々もテレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)様より下命を頂いている。
 何らかの異変がある様子があれば通すな。
 それでなくても問題がありそうであれば通すな」
 銃を構えた男はそこまで言って肩をすくめる。
「貴方がたは、どう見ても異変の様子があるし、そうでなくとも明らかに正気じゃない」
「我らは正気である!! 速く通せ!!」
 一団の男は再びそう声を上げ、銃を構えて引き金を――引く前に、銃声が鳴った。
 それまで叫んでいた男が崩れ落ちた。
 しかし、それを受けた他の兵士達が、気炎を上げて叫ぶ。
「貴様ぁぁぁ!! 貴様!! ここを抜けたら貴様だけは殺してくれるからそこになおれ!!」
 副隊長であろうか。どこからか出てきた壮年が血走った目で銃を撃った男に叫ぶ。
「テレーゼ様に連絡はしたか!」
 銃を持った男はそれに反応せず、後ろのいる味方へそう叫んだ。
「連絡しております!」
「耐えるぞ!! こいつらを検問所のこちら側に踏み込ませるな。なんとしても耐えるんだ!」
「そうは言ってもここは検問所にすぎません。
 城塞もなく、柵は簡易です。守るのに不適切です」
「分かってる! それでもだ! 巨人の事件を忘れたか!
 ここを抜ければ、最悪あれがまた起こると思え!」
 銃を持った人物が叫ぶ。それを受けた兵士達が、奮い立ったように雄たけびを上げる。

 ――――薄明が、兵士達を照らしていた。


 幻想の南部、ブラウベルク領と呼ばれる管轄区――その中心地たるブラウベルクに君達は招聘されていた。
「お越しいただきありがとうございます。テレーゼと申します」
 招聘した本人――テレーゼは指導者らしき堂々さを見せて椅子から立ち上がり、君達に礼をした後、傍に控えていた眼帯の男に資料を手渡した。
「実は今、我が家の管轄区――ブラウベルク領というべき一帯と、
 私達の真西にあったオランジュベネ家の貴族領などを中心に
 ほぼ同時多発的に暴動事件が起きているのです」
 眼帯の男から資料を受け取った君達が用意されている椅子に座るのを見て、テレーゼも着地する。
「先には隣国の天義で、それ以前にはこの幻想で、似た事案が起きたことは、私も知っています。十中八九、これは魔種の仕業でしょう」
 少女はそう言うと、静かに溜息をついた。
「今回、皆様にお願いしたいのは、今まさに、旧オランジュベネ領から、このブラウベルク領へと踏み込まんとしている暴徒達の鎮圧です。
 これまでの魔種の原罪の呼び声? とやらのことを考えるに、彼らを説得するのは難しいでしょう」
 そこまで言って、少女は少しばかり君達に申し訳なさそうな顔を見せる。
「今回の魔種の首謀者は十中八九、私の伯父――イオニアス・フォン・オランジュベネでしょう。
 伯父のオランジュベネ家とブラウベルク家は、かつて同門でした。
 当主と後継者の死に始まったお家騒動の果て、生き残ったのが私達の二つの家系だったのです」
 そう言うと、少女は大きなため息を吐いた。
「伯父はいつの頃からか、オランジュベネ家の再興に縋るようになり、そのためにブラウベルク家を併合しようとしていた――いえ、今もしているのでしょう。
 だから、ごめんなさい。これは――ある意味、ただの権力争いです」
 そう言って少女が大きく頭を下げた。
 ――とはいえ、ただの貴族同士の権力争いならいざ知らず、これは“元”貴族の魔種と人間種の争いだ。
 もしも仮に、幻想の南部に魔種の勢力圏が築かれれば、それは先の天義や先のサーカス団事件には遥かに劣れど、厄介なことになりかねない。
「伯父はオランジュベネの領国の内側に潜伏しています。
 ですが、今はまだ、情報が少ないのです。どこにいるまでは分かりません。
 きっと、鎮圧を進めていけば、何かが引っかかるでしょう」
 どれだけ万全の準備を重ねようと、いざ動いた一瞬には隙ができる。
 そうであるというのに、包囲網を敷かれ、自らの動きを封じられている敵が、万全など不可能だ。
「――すいません。ともかく、皆様にお願いしたいのは、国境線にいる暴徒達の鎮圧です。
 なにやら、彼らは騎士であったとか。嘗ての伯父の部下――だったのでしょう。
 もしかすると、何かしらの手がかりもつかめるかもしれません」
 そう言って、少女は落ち着くように何度か深呼吸をして。
「伯父は私の家族(りょうみん)に傷をつけ、特異運命座標(ゆうじん)たる皆様を傷つけかけた。
 その皆様にまたも傷つくやもしれない場所に行けというのは、心苦しいですが……どうか、お願いします」
 そう言って君達に視線を向けたテレーゼの表情は、年相応の女性の物にみえた。


GMコメント

こんばんは、イレギュラーズの皆様。
そういうわけで、2周年から数夜明けての唐突なシリアスをお送りします。

それでは、早速。


●オーダー
必須:暴動事件の鎮圧
出来れば:情報の獲得
情報の獲得については、必須ではありません。
くれぐれも、重きを置きすぎてしまわないようにご注意ください。

失敗条件:検問所を突破され見失う。


●戦場

 小さな河川を前に設置された検問所です。
 河川と橋を挟んでおり、川から検問所までは30mほど陸地を設けた後、向かいの検問所があります。
 検問所は柵で囲まれています。川に飛び込み、別の場所で柵を越えるのは出来ないわけではありませんが、今の彼らにそんな理性はないです。

 敵は皆様の登場時、ブラウベルク側の検問所手前にある30mの領域に居ます。

●敵
20名ほどの兵士+騎士隊副隊長。
オランジュベネ家の騎士とその兵士であっただろう者達。
隊長格と思しき騎士は倒れましたが、それにより統制はなくなってしまっています(元よりあったかと問われればなかったですが)
彼らはどうやら、何かに怒っている様子。

敵性戦力としては、実力は普通です。
数が多いのでお気を付けください。

●味方戦力
検問所の守衛×10
銃を装備した守衛のみなさんです。
一応、味方の戦力ですが、基本的に検問所を守ってもらうのに徹した方がいいでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <薄明>薄明かりを越えて完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年08月26日 21時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

焔宮 鳴(p3p000246)
救世の炎
ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
岩倉・鈴音(p3p006119)
バアルぺオルの魔人
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
回言 世界(p3p007315)
狂言回し

リプレイ


 銃声が轟き、狂気を帯びた怒声が上がる。
 兵士が叫び、攻撃を受ける暴徒が検問へと突撃してくる。
「元騎士であろうと、理性を無くし暴徒と化してしまえば……それは排除すべきものなの」
 もふもふふわふわとした金色の耳をピンと立てて『炎嵐に舞う妖狐』焔宮 鳴(p3p000246)が身を翻しながら声をかける。
「何者だ!」
「僕たちはローレットのイレギュラーズです。テレーゼさんの依頼で参りました」
 マルク・シリング(p3p001309)は責任者の男からの問いに簡潔に答える。
(権力争いか……俺はそういう世界とは無縁の生活だからよくわからないが……
 知り合い……テレーゼさんが辛そうだから手を貸す……それだけだ)
 本体たる鎌を担ぐように持って『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は静かに思案する。
(ここを突破されちゃったら、きっとたくさんの人が酷い目にあっちゃうよね、ボク達がここで止めないと)
 炎そのものを鍛え上げて創り上げた槍――カグツチ天火を準備しつつ『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727) は思う。
「猫さん好き仲間のテレーゼちゃんからの頼みだもん、頑張るよ!」
 焔の言葉を聞いた衛兵が不思議そうにきょとんとした様子を見せる。
(厄介だなぁ、幻想ってのは。俺らと違って敵を倒しゃオッケーって訳にゃいかねえもんだ)
 そんなことを考えるルカ・ガンビーノ(p3p007268)は故郷のことを思う。
「なかなかハードな依頼だ……が、貴族に恩を売るチャンスでもあるしな……。
 死なない程度に頑張るとするか」
 直接的な攻撃手段を持たぬ『付与術の魔術師』回言 世界(p3p007315)だが、自分なりの支援術をやろうと意気込んでいた。
「そうね……状況から言って、検問所を突破されれば
 どれ程の被害が出るか分かったものではないわね」
 幻想貴族の出でもある『私は屈しない!!』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は二振りの愛刀を抜いた。
「待たせたなっ! 扉を開けてもらえるか?」
 異世界の魔神が記したとされる魔術所を紐解きながら『放課後のヴェルフェゴール』岩倉・鈴音(p3p006119)は宣言と共にそう告げる。
「ここは私達にお任せを。貴方達は守備に徹してください……背中は、任せましたよ?」
 それに続くように鳴はふわふわの金毛を動かして門の向こうへ歩いていく。


 世界は自らの手に持つストラディバリウスを弾いていく。穏やかな音色の響きがイレギュラーズと守衛たちに身軽さを齎していく。
 それに続くように鈴音は魔術書を紐解いた。異世界の魔神が記したとされるその魔術書より輝いた仄暗い光は、鈴音の生命力を削って守衛たちを強化していく。
 守衛がマルクの指示を受けて扉を開けると、向こう側にいた兵士達が守衛の集中砲火に放たれ、後退していく。
 変わるように突撃するイレギュラーズの後ろで柵が閉じる音がした。
 マルクは魔導書を紐解いた。いつの間にか、意識が溶けていく。
 訪れた静寂の中で、マルクは祈りを描く。
 誰かを救う為に誰かの命を奪う――それは答えなき命題である。
 それでも零れ落ちる命を一つでも掬い上げるよう、マルクは祈り続ける。
 祈りは音となって戦場を走りぬけ、兵士達に晒されていく。
(殺さず、情報も聞き出したいところですが……数的不利はなんとも……)
 鳴は少し考えてつつ取り出したのは、一冊の本。それは酷く焼け焦げた日誌を修復して再生させた霊書だ。
 霊書の緋色の輝きが炎を溢れさせ、炎は頭上にて槍を形成していく。
 ごうごうと輝く炎はイレギュラーズに――あるいはその後ろにある出口に目掛けて突撃してくる兵士達を一斉に巻き込み焼き払っていく。
「て、てめえら! なんだよ、ちくしょうが!」
 指揮官らしい人物が叫ぶ。それを見て動いたのはサイズだった。
 残像のように影を展開しながら、敵陣を縫うようにして走り抜ける。
 構えを取ったそのまま、ほんのりと血の色に染まった鎌の刃が魔力によってより一層と色を濃くした一刃を薙ぎ払う。
 魔力で染め上げられた一撃が、副隊長を大きく斬り上げた。
「悪いけど、民を守るためにもここを通す訳には行かないのよ」
 兵士二人の前へ躍り出たアルテミアは片方の兵士へ一歩踏み込んだ。
 青く輝く炎が剣を覆い尽くすと共に、剣舞を始める。青い炎は兵士の身体を焼きながらも、その一方でアルテミア自身を焼き付ける。
 その隣、もう一方にいる兵士がアルテミアへと剣を振り抜いた。浅い傷が、アルテミアを襲う。
 焔はカグツチ天火を大きく振るう。音を立てて振り上げられた神の火の槍が、紅蓮の斬撃となって走り抜ける。
 人間が使える規模にまで調整したその一撃は、それでも強烈な斬撃となって周囲を焼いていく。
「ちぃっと痛ぇが我慢してくれよ、なっと!」
 ルカは敵兵が密集する場所、焔が炎で焼いた場所にSADボマーをぶち込んでいく。
 自律式の爆弾はころころと転がって敵兵の足元で爆発していく。
「くそ、何もんか知らないが、覚悟しやがれ!!」
 敵の指揮官が叫び、イレギュラーズ目掛けて銃声が轟き、雄叫びと共に兵士達が突撃してくる。
 幸いというべきか、統率なき兵士達の攻撃はまばらで一人一人に加えられる攻撃は大きなダメージにはならないが、数が減って行けば行くほど危険になっていくことには変わりないだろう。

 世界は自らの場所を調節しながら、ストラディバリウスを引き奏でる。
 勇壮な曲調の名曲がイレギュラーズの耳に届けば、心の奥から沸き立つような熱い物が生まれていく。
 アルテミアは敵が自分達を無視して検問所へと殺到する気配を感じ取ると、集中していく。
「騎士を仕向けておいて自分は何処かに隠れているなんて、オランジュベネ子爵は臆病者ね。
 あぁ、もう貴族では無いのだから『元』子爵だったわね?」
 それはやがて辿り着くかもしれないような、極限への変質。その姿で放たれた挑発は、検問所へ殺到しようとしていた敵兵の多くの注意を引いた。
 殺到する猛攻が、アルテミアへと集中していく。槍兵の突きを躱し、致命傷になりそうにない剣兵の斬撃を敢えて受けて前に進んで明らかに危なそうな銃兵の射線から逃れる。
「焔宮君、横へ!」
 鈴音は指示を出汁ながら魔術書にて作り出した浄化の鎧をアルテミアの身体に包み込ませていく。
 強化と支援を受けたアルテミアの剣が敵兵の攻撃を防ぎ、或いは捌いていく。
「アルテミアさん」
 鈴音の言葉に従うように頷きながら、鳴はアルテミアへ声をかけて魔力を高めていく。
 アルテミアへと殺到する敵陣。
 立ち位置を変えながら、再び顕現した緋色の槍は風を切り、炎の尾を引きながら強烈な一撃となって複数の者達を薙ぎ払う。
 怒声と悲鳴と、剣戟の音が深く大きく混じりあい、戦場の音は複雑に絡み合っていく。
 サイズは敵指揮官へと突撃した後、徐々に後退しながら自分へ迫って来る敵と切結んでいる。
「邪魔だ!」
 血色の鎌が影を走らせ軌跡を描き、一人の兵士を斬り上げる。嘗て染め上げられた妖精の血は、たった今新たに降り注いだ兵士の血などでは微塵も焦ることなどない。
「行かせないよ」
 焔はカグツチ天火を片手にアルテミアへ行かなかった兵士達の方へ走りこむと、円を描くように振るう。
 車輪のようにあふれ出た炎は身を翻すと共に放射され、斬撃となって迫ってくる敵兵を焼いていく。
 ルカはアルテミアへと迫る敵陣の中でも奥の方、銃兵らしき者達がいる場所に向けてSADボマーを放り投げた。
 気づくのを遅れた兵士達は頭上から降ってきた爆弾に晒されて怯んでしまう。
「ごめん! 巻き込むから避けて! 3、2、1、今!」
 そんな時、マルクの声がした。その直後、無音の旋風が走り抜け、殺到していく兵士達へと到達していく。
 避けて、とはいうが、この狭い戦場でそれをするのはかなり難しいことであると言わざるを得ない。
 それでも前衛のイレギュラーズは各々の手段で危なげなく躱していく。
 アルテミアへと殺到していない兵士達のいくつかは、本能的にか、急速にイレギュラーズの後衛へと攻撃を与えようと動き始めつつあった。
 ただでさえ狭いこの戦場では敵だろうと味方であろうと混戦を免れない。


 時がわずかに流れた。
 如何に達人級のイレギュラーズと言えど、2倍を超える敵を相手となると、多少の傷を負うことは仕方がない。
 それでも幾つもある強力な攻撃は、戦況を覆しつつあった。
 鈴音は戦場全体を見つめながら魔術書を紐解くと、最前線で戦うアルテミアに浄化の鎧をかぶせていく。
 世界はストラディバリウスを奏でると、音の音色が舞い踊り、前線で戦うアルテミアに降り注いでいく。
 鈴音と世界、二人の支援を受けたアルテミアは体勢を立て直していく。
 青炎を迸らせたアルテミアは二人の敵を相手に剣を振るう。
 不知火の青白い光が青炎を纏って美しい軌跡を描いて滑るように兵士に叩きつけられ、双刀『煌輝』がバランスを崩したそいつに強烈な一撃を見舞う。
 焔はアルテミアが抑え込んでいたもう一人の敵兵の振り下ろしに合わせるように槍を沿える。
 溢れる闘気が火焔となってカグツチ天火の炎を更に掻き立てる。
 敵に割り込み、一歩前へ。
 文字通り火の化身のように髪全体が燃え上がるようになった焔がその兵士に燃え移ったかと思うと、悶え苦しみながら倒れていく。
 鳴は目を閉じていた。
 呪詛を奏でて生み出された緋色の炎は矢と化して一人の兵士へ飛び、炸裂した兵士がバランスを崩すと共に、どんよりとした瞳に代わっていく。
 サイズは血の如き色の魔力を最大限に開放しながら敵の指揮官と切り結び続けていた。
 敵の指揮官の振り下ろしがサイズに振り下ろされる。
 サイズは一歩後ろに下がった後、構えを取る。鮮血の輝きが高まった瞬間、身体を捻じるようにして思いっきり横に殴るように打ち込んだ。
 ルカはそれに続くように走り抜けると、敵の指揮官に取りついて締め上げていく。
 極められた兵士が悶えた後、だらりと動きを止めた。
 マルクは自らの調和を賦活の力へ変換し、サイズへと降り注いでいく。
 優しい光が傷を癒していく姿を見ながら、マルクの視線は敵味方を問わず傷ついた人々の方へ向いていた。


 マルクは戦いが終わった後、まだ息のある者達を縛り上げると、その傷を癒していく。
 例え敵でも救える命ならば救いたい――マルクはその気持ちのままに回復を施している。
「主の声を聞いた声を聞いたから進みたくなったのか? いつからそうなったんだ?」
「何時も糞もあったものか! 我らの命は産まれた時からイオニアス様のものよ!」
 からからと笑って、鈴音にそう答える。
「お前らの主、イオニアスっつったか? そいつは今どこにいる?」
「さぁ、どこだろうなぁ! 探してみろ!
 そっちの貴族様はあの方を逃げ出さないようにしたんだろ?
 だったら、そのあとはアンタらがやるべきことだろうよ!」
 ルカの問いに、副隊長の答えは不確かだった。
 命令を受け取ったのなら、どこかで、何ら間の形で接したはず。
 そう考えての問いであったが、何もせず答えてくれるほど優しくはなさそうだった。
「あなたが知らないなら別にそれでもいいわ。
 どうせ臆病者だし姿を見せてないんでしょ」
「――――あぁ!?」
「姿を隠してこっそり暴動を行なわせるなんて、自分が前に出る自信がない臆病者でしょう」
「あぁ、違いねぇ。で、お前は何をするつもりだったんだ?」
「は、なんでそんなことを教えなきゃならん」
「テレーゼさんに害をなそうとしていたのかな……?」
 サイズの問いに、副隊長の目の色が変わった。
「その名を、我々の前で口走るな!! あの卑怯者の屑娘め!!
 彼奴が邪魔をせねば今頃我らは国に我らありと示せていたというに!」
 激高する副隊長が暴れはじめると、直ぐに鈴音が取り押さえる。
「……閣下。申し訳ございません、閣下……」
 不意に、副隊長が涙を流し始めた。
「閣下――どうか、閣下の栄光を、達してくださいませ!」
 天を仰いでそう叫ぶ。
「閣下のご威光が地を満ちる日を、私はお待ちしておりますッ!!」
「ま、待て!」
 世界はその言葉を聞いて、思わず制止する。世界だけではなく、他のイレギュラーズも反応するも遅い。
 言い切りと共に閉ざされた副隊長の口から、赤黒い血がぽたりと流れて、暴れまわる身体が動きを緩めて――止まった。
 急いでマルクとサイズが回復を試みるも、失われた命までは救えない。
 だが、言い知れぬこれでは終わらない感覚をイレギュラーズ達は覚えていた。


「……そうですか。その者を失ったのはたしかにもったいないですが、地に満ちる……」
 少しばかりテレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)は沈黙して考えると、イレギュラーズ達の方を向いた。
「ともあれ、ありがとうございます。
 皆様、ひとまずはゆっくりと休んでくださいませ」
 依頼人に情報を届けに行くと、未だ疲労の色を隠さないテレーゼがそう言って笑う。
「そうだ、ブラウベルグさん……だったか、寝不足だと聞いたんで。こんなこともあろうかと持ってきていたんだが……」
 きょとんとするテレーゼに世界はポケット一杯にため込んだお菓子を取り出した。
「まぁ。ありがとうございます。では、お時間がある方は、少しばかりお茶でもいかがですか?」
 ぽふっと手を叩いて、テレーゼが微笑んだ。


成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

大変遅くなり申し訳ございません、イレギュラーズ。

さて、もう少しばかり戦いは続きそうです。

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