シナリオ詳細
騎士道精神の残骸事件
オープニング
●昔、昔のとある英雄譚
「昔、昔の事じゃった。我らアーマード子爵領には、とある騎士がおったのじゃ……」
子ども達に紙芝居で語り掛けるのはアーマード子爵領領主である。
紙芝居には英雄の絵が出ているので、英雄譚のようだが……。
「ワシのおじいちゃんのおじいちゃんの……何代前かは忘れてしもうたが、我ら子爵領を守るアーマード騎士団の団長が英雄だったんじゃよ。え? なぜ英雄かって? それはのう……」
子爵はページをめくる。次のページには革命の絵が描かれていた。
「我ら子爵領はあろう事か、革命が起きたのじゃ。革命という内乱に遭い、子爵領は滅茶苦茶になったのじゃった。しかも近隣の貴族領や関係のない魔物まで攻めて来て、もはや我ら子爵領は終わりの時を迎える所じゃったのだよ……」
子ども達がワクワクドキドキしている中、子爵は次のページをめくる。
次のページには勇ましい英雄とその騎士団が革命を鎮めていた。
「そこで登場! 我らが英雄ナイトフッドじゃ! ナイトフッドという当時の騎士団団長は、それはもう凄まじい強さとカリスマをもってして、革命家も攻めて来た貴族も魔物も全部倒したんじゃ!」
わー、と子ども達の歓声が上がる。じゃが、と子爵は次ページをめくる。
次のページは暗殺事件の内容だ。
「アーマード子爵……つまりワシの先祖が革命の末に暗殺される所じゃったのだよ! そこで英雄ナイトフッドが暗殺間際で身を挺してかばったのじゃ! その結果、英雄は亡くなってしもうた」
しゅんとする会場の中で、じゃが、と子爵は最後のページをめくる。
最後のページはお祭りの絵が描かれているが……。
「それ以降、英雄ナイトフッドを祀る英霊祭が我ら子爵領では行われる事になったのじゃよ。我が領の子ども達よ、いいかな? 将来は英雄ナイトフッドみたいな立派な大人になって我らが子爵領の発展に身を捧げるのじゃ!」
わー、ぱちぱち、と拍手と歓声が上がる。
アーマード子爵領では、英雄ナイトフッドの英霊祭が近日中に開かれるのだ。
本日の紙芝居はその前夜祭みたいなものである。
●アーマード子爵領の殺人事件
英霊祭が開かれる数日前の事……。
アーマード騎士団の若手の騎士達(20歳以上)は飲み屋でやけ酒を飲んだ後、むしゃくしゃしていた。
「ちきしょうー! 何が英霊祭だよ! 英雄ナイトフッドっつうの? あんなのどこが偉大だっつうんだよ!」
2人目の騎士が不機嫌に相槌を打つ。
「そうだな。俺もガキの頃は子爵から紙芝居とかで聞かされたがよ……。要するに子爵は子爵領の為に死んでくれる兵隊が欲しいんだろう? だから、君主の為に死んだ元騎士団長はとても偉い人だから尊敬するように、みたいな煽り方をするんだろうな?」
3人目の騎士もうんざりしながら頷く。
「そうそう。もはや大国の影もない『幻想』の地方子爵領の騎士の家に生まれた時点で人生なんか詰んでいるのさ。大きくなったって、田舎の騎士団の三流騎士を定年までやるか、戦で死ぬかで人生が終わるんだろう? は、バカバカしい!」
ところでこの3人、酔っぱらいながら歩いているが……。
寮へ帰る道を歩く途中、英雄ナイトフッドが埋まっている子爵領墓地付近まで来ていた。
墓地には英霊を祀る立派なお墓が立っている。
「おい、ちょっといたずらしてやろうっつうの?」
「ぐはは、おもしれえな、それ?」
「いいね? せっかくだから派手に荒そうか?」
3人はお墓に小便をかけ、墓石を蹴り倒して、十字架をへし折った。
翌日……。
子爵領墓地付近でアーマード騎士団の若手3人の斬殺死体があがった。
3人は鋭利な刃物で身体がばらばらに切断されていたという。
●殺人事件の真相
アーマード騎士団の若手が殺害された事件は進展のないまま連続殺人事件へと発展した。
狙われるのは決まってアーマード騎士団の団員の誰かだ。
犯行現場は常に墓地周辺であり、犯行時刻も決まって夜だ。
現場は基本的に立入禁止だが、騎士団の寮へ帰るには墓地付近を通らないといけない。
おそらくその道中で狙われたものと騎士団当局は見ている。
この事件は、子爵領全体を震え上がらせ、さすがの子爵をも悩ませていた。
子爵は騎士団長と団員達を子爵邸に呼んで会合を開く。
「これは、ワシの代が始まって以来の大ピンチではなかろうか? 墓荒しから始まり、若手騎士3人の殺害、さらに連続殺人事件へと発展しておる。いったい、犯人は誰じゃ? そして狙いは何じゃ?」
騎士団長は渋い顔で静かに答えた。
「最初の犯行は現場検証から察する所、英雄ナイトフッドの墓が荒らされた件に関する報復でしょう。犯人は英雄を深く尊敬している人物でしょうね。ですが狙いがわからない事件です。犯人はなぜ、我々騎士団を片っ端から狙うのでしょうか? しかも毎回、殺害に成功している所からして相当腕が立つと思われます。最終的には、アーマード騎士団の壊滅が目的なのかもしれません……」
ともかく、ここで議論をしていても始まらない。
「ふむ。ならば良い案を思いついたのじゃが……」
子爵は苦肉の策として、騎士団長を囮に使う事を提案した。
本日の夜、墓地付近を騎士団長が歩いていれば必ず襲われるはずだ。
もし、騎士団の壊滅が犯行の目的であるなら、騎士団長は格別の餌であるだろう。
その夜……。
騎士団長が墓地前で待機していると……。
「貴様……よくも、我が墓を荒らしたな……!! 騎士道精神に則り、貴様に罰を与えよう! 子爵様の為にも死んで償うのだ!」
あろう事か、現れた犯人は英雄ナイトフッドそのものだった。
だが彼はかなり昔に死亡しているはずであり、姿も透けているが……。
騎士団長は察した。
英雄は墓を荒らされたので怨霊となって殺人を繰り返しているのだと。
「むむむ……。あ、あんな所にアーマード子爵がいますよ?」
騎士団長が隠れている子爵を指でさすと、怨霊も振り返った。
「うひゃー! 逃げろー!」
騎士団長は一目散に逃げた。勝てる相手ではないからだ。
付近で待機していた騎士団員達も慌てて一緒に逃げた。
「こらー! 待つのじゃー! ワシを囮にするなー!」
子爵も超速度で逃げた。相当な年だが逃げ足は一流だ。
一応、犯人は割れたが……。
あんな怨霊、どうやって倒すのか?
子爵は逃げながらも閃く。
(そうじゃ……。ローレットのギルドを使えば……!?)
●英雄の怨霊を討伐してくれるかしら?
『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)は、イレギュラーズを集めた上で、現在までにアーマード子爵領で起きている連続殺人事件の全てを話した。
「……と、いう訳なのよね。現在、その子爵領はスカーレットな連続殺人事件の問題で混乱状態よ。それにしても、犯人が皆の尊敬の的である英霊ナイトフッドというのがブラックにきついわよね」
ところでプルー、何気にアーマード子爵の知り合いでもあった。
既に手詰まりの子爵はもはやローレットに依頼する以外、他になかったらしい。
「このまま放置しておいたら怨霊は本当に騎士団の壊滅をナチュラルカラーにやりかねないわ。しかも忘我状態でバーニングなレッドに暴れているらしいから、子爵の方もいつ殺されてもおかしくはないわね。騎士団と子爵亡き後、子爵領なんて原色のように鮮やかに壊滅する事でしょう。つまり、これは、一貴族領の存続の危機よ? あなた達とは何の縁もゆかりもないグレーな貴族の話でしょうけれど、すぐに助けに向かって貰えないかしら?」
あなた方は、今回、怨霊となった地方の英雄と対決する事になるだろう。
厳しい戦いになるだろう事はそれとなく予想できる。
それでもあなた方は、子爵領で平穏に暮らす人々の為に骨を折ってくれるだろうか?
- 騎士道精神の残骸事件完了
- GM名ヤガ・ガラス
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年07月20日 21時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●開戦
今宵もアーマード子爵領墓地で怨霊が目を覚ます。
百鬼夜行の如く、怨霊騎士団が次の殺人へ向かう……。
「その剣で『己の名誉』を護るのがアンタらの騎士道か? なら示してくれよ。そんなちっぽけなもん、悉く防いでやるぜ!」
怨霊達の前に飛び出して名乗り上げて挑むのは『紅蓮の盾』グレン・ロジャース(p3p005709)だ。かつての英雄を前にグレンの胸は鼓動が高鳴る。
(高潔な騎士道精神には正直、憧れる。だが騎士道が尊ばれるのは、誰もがそう在ることができないからなんだ……)
前衛にいた騎士達は抜刀し、グレンをじりじりと囲み、斬り掛かる!
グレンだけで5人の騎士を引き付けられるか!?
「お墓を荒らすのは酷いよ。ちゃんと罰せられないといけないと思う。でも、だからって人の命を奪って良いわけじゃないんだ!」
騎士達は、別方向から突然現れた『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビーに気付くのが一足遅かった。アレクシアの手元から赤い魔力を宿す綺麗な花が咲き乱れて騎士達を襲う。
赤花の餌食になった騎士達の中には闘争本能を誘われて怒り出す者もいた。
やや後ろに中衛のハンナ・シャロン(p3p007137)と『愛の吸血鬼』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)がいる。ハンナはタクトで魔弾を生成して敵中衛にいる銃騎士達を狙い撃ちながらも、内心、複雑だ。
(最初の犠牲が報いを受けたのは仕方ない事だと思います。ですが、これ以上の無駄な血を流させる訳にはいきません! 領の人々の安寧と騎士様の名誉の為、推して参ります!!)
一方のユーリエは銀髪の吸血鬼の姿に化し、その力を覚醒させる。
「英雄の怨霊を討伐したら、英雄殺しになっちゃいそうですね……あはは。でも、私たちがなんとかしないと!」
吸血鬼は苦しみながら暗黒の霧を発生させて敵中衛を狙い撃つが……。
どういう訳か、銃騎士全員が全力で後退して行く……。
ハンナが即座に提案する。
「深追いせず現状の陣形のまま戦いましょうか?」
ユーリエも同感だったようだ。
「ですね。敵は数が多いですので、届く距離の敵をなるべく早く倒しますか?」
味方陣地後衛には『『幻狼』灰色狼』ジェイク・太刀川(p3p001103)が戦闘開始前に用意してくれたバリケードがある。後衛の位置から、周囲の味方をエスプリで鼓舞し、歌うのは『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)だ。
「ああ♪ 呪わしき♪ 絶望の海よ~♪」
呪詛を敵陣に贈り込む歌声が澄んでいる半面、心の中はあまり穏やかではない。
(実父が死霊術師だから墓を荒らした人達にはあまりいい感情を持っていません。しかし、ここまで酷い事になってしまったのは気の毒に思います。早々に終わらせて、騎士の霊達には再び眠って貰いたいですわー)
「静寂な夜に蘇り♪ 君を呪う愛はゾンビ心~♪」
淡いバラードを歌い味方を援護するのは『魅惑の魔剣』チェルシー・ミストルフィン(p3p007243)だ。彼女はどちらかと言えば、子爵に拘りがあるらしい。
(子爵の奴、責任とか感じてるのかしら? 自分の理想を押しつけた子供が大人になって、それが原因で死んだなんて笑えないわね)
歌姫達の横で『見習い騎士』ケイト・ブリューゲル(p3p001585)が逃げて行く銃騎士達を睨んでいた。銃騎士達は森林に逃げ込み長い射程から狙撃するのかもしれない。
「残念だけれどあなた達のやりたい事をやらせる程お人好しじゃないのよ、私! だ、か、ら、これでも喰らいなさい!」
戦闘モードで氷髪凍眼になったダークナイトは、遠くの距離も広範囲に狙い撃てる破壊の魔雹を撃ち込んだ。遠方のとある一点で神秘攻撃が飛び散らかり銃騎士の後退を防ぐ。友軍のこれまでの追撃で1人は倒せたようだ。
ケイトは、はぁー、とため息をつく。
「英雄が聞いて呆れるわよね。報復ってだけなら分かるわよ? けど、罪もない後輩を襲う騎士だなんて、英雄どころか騎士の風上にも置けないじゃない!」
前衛が盾となり、中衛や後衛が動き出す頃……。
ジェイクはバリケードを抜けて、英雄に向かって全力で走りながらもふと思う。
(最初の馬鹿3人が死んだのは、自業自得で同情の余地はねえ。だが、英雄にこれ以上の殺戮をさせるわけにはいかねえよな)
ジェイクは英雄を前にして、愛銃を構えて叫ぶ。
「おい、ナイトフッド! おめえの相手はこの俺だ!」
燃える狼が突撃するかのような銃撃を轟かせて挑発する。
挑発の意味以外にも、状態異常を入れられれば……という目的もあった。
「ち、本当に物理攻撃は効かねえか……」
ナイトフッドは、眼光がぎらりと輝き抜刀する。
「よかろう……。いざ、勝負……!」
そして、剣を掲げて部下達に告げる。
「全軍に告ぐ……! 只今より我々アーマード騎士団は……子爵領要塞を全力で守備する……! 領への侵入者を皆殺しにするのだ……!」
怨霊騎士団がラジャ、と大声で返事し、敵陣は士気が高まった。
●対銃騎士
銃騎士を4人も後退させてしまったのは痛手だったかもしれない。
バリケードを盾にしながらも、友軍は銃騎士達の熾烈な狙撃を喰らう。
しかしケイトが事前に先手を塞いだので、遠距離までの射程からだが。
「反撃するわよ? こちらも遠距離攻撃で蜂の巣にしてやるわ!」
ケイトは手元で沢山の魔力を蓄えると、直線距離で砲撃を全射する。
かなりの距離をも飛ぶ魔の大砲玉は敵陣に向かって突っ込んでいく。
「『ディスペアー・ブルー』の2番、歌いますわよー。おお♪ 悪霊の♪ 絶海の蒼よ~♪」
ケイトに続き、呪詛を歌うメリルナートも遠距離神秘攻撃で支援する。
呪いの歌が遠方で炸裂し、銃騎士達を追い詰めていく。
「混沌より生まれし我が魔の刃、受けてみなさい!」
チェルシーは一応、後衛の位置にいるが、実は対騎士戦の戦闘も支援している。
背にある羽の魔剣を射出し、ギフトで関係を結んだユーリエの攻撃に追撃して敵を撃つ。
このまま上手く銃騎士達を倒せるか……。
銃騎士の神秘銃撃が連続してバリケードが破壊されてしまった!
バリケードの崩壊と共に後衛3人の陣形が崩れ落ちる。
敵陣はそれを見逃さない。
怨霊の猛烈な神秘銃撃がメリルナートを襲う。
「きゃあー!」
今のままが続けばメリルナートが……。
「やむを得ないわ! 私に任せて!」
ケイトが前に出てメリルナートを庇い熾烈な銃撃を一身に浴びる。
「ぐはっ……!!」
ケイトが膝をつくが、銃撃は止まない。
それでも冷静さを取り戻したメリルナートは調和の活力を生み出しケイトを癒す。
一方、チェルシーはユーリエの支援どころではなくなった。
崩れたバリケードから、がらがら、と何とか出て来る。
出て来たと同時に仰天、味方が大ピンチだ!
「よくも仲間を……。このお化け野郎共! 死人は大人しく墓へ帰りなさい!」
勢い良く発射された魔剣の神秘攻撃が銃騎士を迎撃する。
今の反撃でまた1人撃ち倒した。
……結局、ケイトが負傷する形を引き換えに残る銃騎士達全員を落した。
当然、味方の回復には力を尽くした、敵を倒す事にも全力を出した。
「私はここまでみたいね……。私はいいから、残りの敵を仕留めに行って……」
「何言っているのよ? 帰るわよ!」
満身創痍のケイトをチェルシーが支えて歩こうとするが難しい。
「あ、あなた方はー!」
メリルナートが驚くのも無理はない。現役騎士団が遠くから隠れて見ていたのだ。
団長が走って来た。
「申し訳ありません。本来なら私共が戦うべきなのですが……。せめて、ケイト様の手当ては任せて下さい!」
そういえば情報屋の情報精度にやや不明点があったが、そうか、現役騎士団の参戦が不明点だったのか……。しかも子爵までいる。
「じゃ、ここは任せるわ。でも、ケイトを死なせたら承知しないわよ!」
「騎士団が付き添うならもう大丈夫ですわー。さあ、英雄を倒しに急ぎますわよー!」
歌姫達はその場を任せて去り、英雄討伐へ向かった。
●対騎士
開戦直後、グレンは連続で集中攻撃を浴びたが鉄壁の防御技術で難なく防いだ。
彼は巨大な壁の如く、敵騎士2体をマークして味方には近づけず……。
決死の盾となり、ユーリエとハンナを庇う。
実はちょっと痛いが、まだまだ余裕の表情で笑っていた。
グレンは気合を入れて叫ぶ。
「俺の『剣』が通じねえゴーストは厄介だが、俺にとっちゃ関係ねえ。この身は仲間の『盾』で在れば上等だ!」
騎士達は自慢の剣が効いていない青年に対して死にながらもひやりとした。
ならば、これで落ちろ! 二段斬り! 魔法剣!
(仲間達、早くモブを片付けてくれな? 英雄戦まで落とされる訳にはいかねえから!)
5人いた騎士の内2人はグレンが引き付けている。残る3人はアレクシアが引き受けていた。彼女も防御技術は長けていて、花の結界にも守られているので、未だに健在だ。赤い花の神秘攻撃をまた撃ち込み、敵の怒り状態もそのまま続いている。言い換えれば、今、目の前の敵3人はアレクシアしか目に入っていない。
「そこ! 隙だらけですね!」
やや後ろから、ハンナが魔弾を撃ち込む。
騎士は1人倒されても、別の騎士が怒りに身を任せ、アレクシアを斬り続ける。
統率の取れた騎士達は続けて二段斬りを放ち、連続攻撃や痛い所への追撃も入る。
アレクシアのパンドラの欠片が弾けた。
「きゃあ! ……それでも、みんなは傷つけさせないよ!」
でも劣勢はそう長くは続かない。
「前にいる人達、気を付けて下さい!」
吸血鬼ユーリエは身を切るように常闇の霧を発生させる。規律正しく列の位置にいた騎士達を霧に包み込んで、生命のない怨霊の体力を蝕む。
しかもチェルシーのギフト支援攻撃も発動し、魔剣ミストルフィンまでもが炸裂。ここまでの攻撃で騎士3人は落ちている。
現状、グレンが1人引き付け、アレクシアは1人引き受けている。
(そろそろ味方の回復が気になるところだよね?)
隙を突こうと悩むアレクシア……。
行動力をセーブしていたハンナがここぞとばかりに高威力の魔力撃も惜しみなく撃った。
その結果、アレクシアは、手が空き、後退する。
「困難にも倒れることなき白黄の花よ!」
アレクシアは調和の力を引き出し、近くで守り続けているグレンへ治癒を施す。
そろそろヤバかったグレンも回復が来てほっとする。
もう一発、強いのでも確実に単体を撃てば最後の騎士も倒れるだろう。
「もう一息ですね、皆さん!」
ユーリエも必殺の血色の鎖を絡ませて騎士を除霊した。
ところで、チェルシーからの追撃は来なかった。
ユーリエが振り返ると、チェルシー達は大変だったようだ。
だが、現役騎士団も支援に来たので大丈夫だろう。
●対英雄
ある意味で一番損な役目を引き受けたのはジェイクだったかもしれない。
ジェイクは開戦直後から他の班が敵陣を倒し終える今まで、ずっと、1人で英雄を押さえていた。
英雄が前に行こうとすれば前を通せんぼする。
英雄が後ろに下がればジェイクも移動して追う。
右にも左にも行かせなかった。
当然、痺れを切らした英雄は剣術でジェイクを滅多切りにする。
ジェイクは斬られながらも英雄に強気で語り掛ける。
「墓を荒らされて怒る気持ちもわかる。誇りが傷つけられ悔しい思いもしただろう。だが、おめえは偉大な騎士じゃなかったのか?」
ジェイクは防御技術を駆使し、足止めに全力を尽くした。
それでも英雄の攻撃は止まない。ジェイクは語り続ける。
「おめえが守りたいものはアーマード子爵領じゃないのか? 領土を守っている騎士共を殺してどうするんだ?」
英雄は会話を理解しているかどうかわからないが、必殺の一手に出る。
怨霊から魔剣の一撃が振り落とされて、ジェイクは、ふらりとした。
それでも語り掛ける事を止めない。
「もう二度と墓を荒らさせないし、もっと立派な墓を子爵に建てさせてやる。だから、アーマード子爵領の英霊としてゆっくり眠ってくれ!」
おそらく英雄にはまともに言葉が伝わっていないのであろう。忘我状態の怨霊は、騎士団の奥義を使い、敵の防御を取っ払うべく剣を振り回す。
防御技術の崩れに対して抵抗力があるジェイクだったが、今のは痛い。
(はは、獣の嗅覚が告げているぜ……。そろそろやべえかもな……。盾役が来るまで耐えられるといいんだが……)
次の必殺の一撃でジェイクのパンドラの欠片が弾け飛んだ……!
ジェイクが目を覚ますと、彼の前にはグレンが立っていた。
今度はグレンが盾となり英雄に挑む。
「誇りを穢す墓荒らしの報いは、なるほど然るべきだ。だが、落とし前はつけさせたろうが! これ以上の犠牲を出すのは看過できねぇ。アンタ自身に、アンタの名を穢させはしねぇ!」
魔剣の猛威にも負けず、アレクシアは清花の神秘を咲かせ、仲間達や自身をも癒す。
そして彼女の言葉で怨霊と化した英雄へ語り掛ける。
「貴方は子どもたちが憧れる英雄なんだ! お墓を荒らされて怒るのはわかるけれど、こんな形で手を汚さないで! 貴方の想いは必ず伝える、だからもう眠って!」
「邪魔をするな、子爵様の敵よ……」
英雄は奥義の剣を振り回し、ジェイク、グレン、アレクシアを狙う。
悲しいかな、忘我状態の英雄に熱い言葉の数々は伝わっていないのか……。
グレンは守護聖剣の妙技で崩れ攻撃を防いで立て直る。
「俺に任せてくれ!」と、傷ついたジェイクやアレクシアを守りながらも、英雄へ言葉を送り続ける。
「命を賭して主君を守ったのは、己が名誉の為か? 死して英雄になりたかったからか? 違うよな、そうじゃないだろ。アンタが仕えた主の為だろ!? アンタの主君がより良い未来を作ると! 命を懸けるに値すると、そう信じたからじゃないのか!?」
死んでいるはずの英雄はむしゃくしゃしていた。
実は言葉が伝わらなくても、皆の思いは何かしら伝わっていたからだ……。
「ふん、若造め、これで落ちろ……!」
必殺の魔剣がクリティカルで冴え渡る。
パンドラの欠片が弾け飛び、グレンは辛そうに笑いながらも、言葉を掛ける事をあきらめない。
「誰かを護る為に……。それが騎士道ってもんだろうが! 護るべき誇りがなぜ大切な物だったか、思い出せってんだ!」
グレンがそれだけ叫ぶとさらなる奥義が……。
出る前に一瞬、剣がぴたりと止まった。
隙間ない英雄の攻撃に気圧されていた後衛の仲間達は反撃に出る。
「これで眠っていただけると助かるのですが……ナイトフッド様を除霊します!」
ハンナは聖なる魔術の一撃―壱式『破邪』―を全力で撃ち込んだ。
英雄は眩い光と共に浄化される。
「この戦いが終わったら私も英雄ナイトフッドという存在を伝承として語り継ぎましょう! 貴方の生き方が『幻想』の騎士達の手本となりますように……!」
本日最後の吸血鬼化をしたユーリエは、緑色に輝く右手の鎖を光らせながら、深紅色の鎖を投擲して英雄に絡みつける。鋭利な血液の刃と化した鎖は英雄の残りの体力を容赦なく絞っていく。
そこに魔剣の一撃が遠方から追撃に来た。
チェルシーから「私も忘れないでよね」と言わんばかりの暴れ魔剣が届いた。
さらにメリルナートから奏でられた絶対冷気の神秘は、怨霊の魂すらも凍り付かせる。
いや、「既に鎮魂歌でしたわー」と言う方が状況的には正しいかもしれない。
キラキラと天へ消えて行く英雄に向かってアレクシアがギフトを通して叫ぶ。
「ナイトフッドさんの想いや伝えたかったこと、必ず子爵さんに伝えるよ! こんな悲しいこと、二度と起きないようにね!」
●事後
翌日の朝、皆でお墓の整備や掃除をする事になった。
ジェイクは新しい墓石を英雄の墓へ置くとため息をついた。
「ふう、おめえには怨霊ではなく英霊として再び眠りについて欲しいと切に願うぜ」
グレンは新しい十字架を備え付けの場所に置いてにこりと笑う。
「残骸を正しい姿に、ってな」
ユーリエは掃除道具を持って来て皆に渡す。
「さて、お掃除でもしちゃいますか!」
お墓がとても綺麗になった後、それぞれが祈りを捧げた。
ケイトは騎士として騎士を弔う。
「死者は死者らしく……いいえ、騎士ならば騎士として正しい姿で眠りなさい」
ハンナも強い願いを込めて祈る。
「今度こそちゃんと眠れますように……。犠牲になった方達もどうか安らかに。怒りも悲しみもここに置いていってくださいね」
チェルシーは横で祈っている子爵を試した。
「今の心境は? 反省の色がないなら、次は今回死んだ騎士があなたを殺しに来るわよ?」
「ふむ、反省しておる」
念の為ギフトで確かめたが嘘はない。
「あのね、子爵さん……」
アレクシアがギフトで受け取った英雄の思いを子爵に伝えたら彼は泣いた。
メリルナートは祈った後、鎮魂を行うべく、英雄への賛歌を歌い始める。
「昔、昔の英雄譚♪ 騎士のナイトフッドの物語~♪」
メリルナートの創作だが、歌姫同士で理解が繋がったらしい。
チェルシーが続きを一緒に歌う。
「君主の為に死んでこそ♪ 騎士道精神でありました~♪」
歌姫達に習い、皆で合唱した後、改めて黙祷を捧げた。
今年の英霊祭は遅れて開かれたが、以後、怨霊が化けて出る事はなかった。
了
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
この度はシナリオへのご参加ありがとうございました。
とある子爵領の英雄の怨霊という強敵が相手でしたが、見事に打ち破りました。
これで当分、アーマード子爵領には平和が訪れる事でしょう。
なお、今年の英霊祭では、皆さんの石像や紙芝居も出し物にあるそうです。
GMコメント
●目標
ゴースト・ナイト(英雄ナイトフッドの怨霊)を討伐する。
部下のモブ・ゴースト・ナイト10体も合わせて討伐する。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●ロケーション
戦闘場所は、『幻想』国内にあるアーマード子爵領の子爵所有墓地とその周辺です。
墓地はゴースト・ナイトの主な活動場所となります。
夜になると、次の犠牲者を出すべく、人斬りに動き出します。
このまま放置すると、領内の墓地以外でも殺人事件を起こすかもしれません。
墓地は魔法の光でライトアップされていて、閑静な場所で森林に囲まれています。
夜の墓地ですので、付近に特に人はいません。
●敵
ゴースト・ナイト(英雄ナイトフッドの怨霊)×1体
今回の事件の真犯人であり、敵勢のボスです。
元は地方の英霊でしたが、墓荒し事件をきっかけに怨霊となって現役騎士団の人々を斬り殺しています。次の殺人を阻止すべく、イレギュラーズが動き出します。
怨霊となり生前よりも強くはなっていますが、生前の自我はなく忘我状態です。
戦闘方法は以下。
・剣術(A):剣によるデフォルト攻撃です。物至単ダメージです。
・必殺の魔剣(A):一撃必殺です。「必殺」と「呪縛」とCT高の神近単ダメージです。
・アーマード・ブレイク(A):アーマード騎士団長の奥義です。「ブレイク」と「崩れ」の物自範のダメージです。
・団長の統率(A):ゴースト・ナイトの部下達に号令を出します。
・物無(P):怨霊の力で物理攻撃を無効にします。
モブ・ゴースト・ナイト×5体(騎士タイプ)
ゴースト・ナイト(英雄ナイトフッドの怨霊)のかつての部下達です。
墓地で眠っていましたが今回の事件をきっかけに怨霊となって目を覚ましました。
ボスと同じく忘我状態です。
ボス程強くはありませんが、忠義に厚く、統率の取れた集団です。
戦闘方法は以下。
・剣術(A):剣によるデフォルト攻撃です。物至単ダメージです。
・魔法剣(A):剣による応用攻撃です。神近単ダメージです。
・二段斬り(A):剣術を一度に連続2回放ちます。物至単ダメージです。
・物無(P):怨霊の力で物理攻撃を無効にします。
モブ・ゴースト・ナイト×5体(銃騎士タイプ)
こちらもゴースト・ナイト(英雄ナイトフッドの怨霊)のかつての部下達です。
同じく怨霊として目を覚まし、忘我状態です。
こちらのタイプは銃を使い距離のある攻撃を得意とします。
強さと忠誠心と統率力は騎士タイプと同じくらいです。
戦闘方法は以下。
・銃術(A):銃によるデフォルト攻撃です。物中単ダメージです。
・魔法銃(A):銃による応用攻撃です。神遠単ダメージです。
・狙撃銃術(A):ライフルによる狙撃攻撃です。物超遠単ダメージです。
・物無(P):怨霊の力で物理攻撃を無効にします。
●GMより
真夏の夜にこんばんは、ホラーバード系GMのヤガ・ガラスです。
今回は真夏らしく、ホラーサスペンス風のシナリオでお送りしています。
飽くまでそれ「風」です。
実は「推理物」ではなく「戦闘物」なんですよ、これ!
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