シナリオ詳細
氷獣サロ
オープニング
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肌が痛さを感じるほどに寒い大吹雪の夜。カルム村の中心に突如として現れた白く巨大な獣は、全身を大きく震わせ咆哮した。
「グギャァアアアアアア!!」
大きく開かれた口から放たれた青白い光線が、目の前の人間どもを包み込み、瞬く間に氷像と変えた。
「う……ア、ウオァアアアア!!」
目の前で家族を失い、半狂乱した農夫がクワを振り上げ獣に突撃すれば、獣は鋭く蒼い瞳で睨みつけ、大きな爪を軽く振るう。
真っ二つに裂かれた農夫の身体が崩れ落ち、辺りの雪が赤く染まった。しかし延々と降り積もる雪は、その赤色もすぐに覆い隠してしまうだろう。
獣は延々と村に死を振りまいた。爪を振り下ろし、巨大な尻尾を打ち付け、冷気を放ち、氷の刃を幾百と降り注がせて。
この一方的な虐殺が獣の怒りによるものか、この地を自らの縄張りにする為か、唯の気まぐれか。それは村の誰にも分からなかった。
ただ確かな事は、この獣が自分たちの手に負える相手ではない事と、逃げなければ死ぬという事だ。
「ゼエ、ヒイ……!! 死なねえ、俺は絶対に……!!」
だから、男は走っていた。生きる為、そして助けを求める為。最早助けを必要とする人間は、村に残っていないかもしれないが。
もう、ほとんど死んでしまった。
「くそ、あの腐れデカブツブサイクアホボケカス腐れがぁ……!!」
「グギャギャアアアアアアア……!!」
「うるせえ!!」
男は獣への恐怖と怒りを原動力に変え、唯ひたすらに走り続けた。吹雪で視界は白く染まり、自分がどの方角を向いているかも定かでは無かったが、それでも走り続けた。
そして気が付けば男は辿り着いていた。死の間際で発露した底力と、幸運のおかげで。
勝てるはずも無いあの白き巨獣に、勝てるかもしれない奴らがいる場所。ギルドローレットに。
●
「パステル・ブルーな天気が続いているわね。指先も凍ってしまいそう……さて。今日はあなた達に、クリストローゼな依頼を持ってきたわ。とても危険だけど、あなた達なら上手くやれる……気がするわ」
プルー・ビビットカラー(p3n000004)は小さな笑みを零し、イレギュラーズ達に視線を向ける。
「幻想国の辺境に、カルム村という小さな村が『あったわ』。だけどつい昨日の事。大吹雪と共に現れた一匹の獣……氷獣サロの手によって、完全に滅んでしまったわ」
氷獣サロ。誰が名付けたか知らないが、とにかくその名で通っている。
「サロは数年前から存在を確認されていたモンスターよ。これまでにもいくつかの村や集落を滅ぼしてきて、幻想の『まだマトモ』な貴族様達の手によって討伐隊が派遣された事もあったらしいけれど……その全てが成す術無く敗走、という結果に終わっているわ」
氷獣サロは数年前から決まって冬になると姿を現し、何処かの村なり集落なりを襲撃。虐殺を終えるとその場にしばらくの間留まり続け、春になると何処かへ姿をくらましてしまう。
「そして今年の標的が、カルム村だったという訳ね。この冬が終わればサロは再び姿をくらます……筈だったけど、もうサロには次の春は訪れない。何故なら今年の討伐隊は一味違うから。そうよね?」
そう言ってプルーは艶やかに微笑んだ。
「サロは全長8メートルを超す、巨大な四本足の獣よ。その全身を分厚く強固な氷の鎧で覆い、その身を護っている。その一方で口から放つ冷気の光線や、空から無数の氷の刃を降り注がせる魔術といった、凶悪な威力の攻撃も多く持ち合わせているわ。フロスティ・ホワイトで、とっても危険な相手でしょ?」
プルーが言う様に、今回の相手はかなりの強敵だ。だがそれでも、負ける訳にはいかない。
「まともな襲撃を受けてなお、サロがその場に留まり続けるとは限らない……春を待たずしてカルム村跡を立ち去る可能性もあるわ。そうなれば次の冬まで恐らく居所は掴めず、カーディナル・レッドな悲劇が繰り返される」
この戦いは、これまでの犠牲者の弔いの為だけの戦いではない。次の悲劇を起こさない為の戦いでもあるのだ。
「だから、絶対に勝って。そして全員無事に帰ってきてね。……無茶を言っているかしら? いえ、そんな事は無いわよね。みんななら、きっとやれる筈よ」
そしてプルーは再び緩やかに微笑むと、イレギュラーズ達を送り出すのだった。
- 氷獣サロLv:2以上完了
- GM名のらむ
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2018年03月01日 21時35分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
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獣の雄叫びの様な猛々しい音と共に、延々と雪が降りしきる。止むことのない大雪は村の残骸を隠し、村の人々の死体を隠していった。
降り積もった雪の上を歩き続け、カルム村に到着したイレギュラーズ。白く染まる視界の中、カルム村の中心部に身を横たえる氷獣サロの姿を確認した。それは氷獣サロがイレギュラーズ達の存在を認識するのと、ほぼ同時であった。
長い前置きは必要無いだろう。理由があるにしろ無いにしろ、氷獣サロは殺戮の獣でもある。そしてイレギュラーズ達もまた、この獣を殺しに来たのだ。次に何が起きるのかは明白だった。
「グギャァアアアアアア!!」
その叫びに込められたのは、獲物を見つけた歓喜か。縄張りを荒らされた事に対する怒りか。
闘いが始まった。
●
氷獣を包囲するように3つの班に分かれたイレギュラーズ達。そのそれぞれで光が灯された。この光は氷獣を倒す導光となってくれるだろうか。
そして氷獣は咆哮する。空気が大きく震え、白い空から無数の氷刃が降り注ぐ。
「カハハハッ! いやはやこれほど早く強敵と邂逅できるとは重畳である! 吾の美少女力の糧となっていただこう!」
刃が腕に突き刺さる。しかし『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)は快活な笑顔を絶やさずに雪の上を突き進み、氷獣の懐に。仲間達も息を合わせ、氷獣の元へ接近する。
「初手は頂くのである! 貴様のその氷の鎧に、今の吾の拳がどこまで通用するか試させていただこう!」
低い姿勢からの跳躍。そして繰り出したアッパーカット。氷獣の下から繰り出した百合子の拳が、氷獣の腹を強く打つ。
「リベリスタ、九条、侠。倒させて貰うぜ――氷獣サロ!!」
百合子の拳に氷獣の巨体が揺れる。直後、『無道の剣』九条 侠(p3p001935)は二刀流の構えを取る。ゴーグルによって、微かに確保された視界。そこに捉えた氷獣の姿を逃さぬ様、侠は一気に飛び掛かる。
「何処もかしこも氷に覆われている……だが、ここならどうだ!!」
侠が狙いを付けたのは、氷獣の丸太の如く足。捨て身の勢いで放たれた二連の斬撃が、その鎧の薄い足の先を深く斬りつけた。
「ギギャアアアアア!!」
「…………」
再び叫びを上げる氷獣を、『双刃剣士・黒羽の死神』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)は静かに見据えていた。恐らく目の前の獣は、クロバがこれまで見た敵の中でもかなりの力を持つ。それを、本能が理解していた。
クロバの手は震えていた。それが恐らく寒さに所以するものではないという事は明らかだ。だがそれでも、クロバは刀を構え眼前の獣に飛び掛かる。
「双刃欠殺――斬り裂け、抜殺!!!!」
その剣先を捉えた者はその場には居なかった。凄まじい速度で放たれた抜刀からの斬撃が、氷獣の身体に刻まれ、確かな痛みと傷を与えた。
「ギギィ……!!」
「なかなかの巨体と力……これが数年間も討伐隊を退けている氷獣サロ、であるか……なに、相手がいかに強敵であろうとやることは変わらぬよ」
『甲種標的型人造精霊』歳寒松柏 マスターデコイ(p3p000603)は、巨大な弩を構えていた。視界を遮る大吹雪。その中心に佇む氷獣の、一挙一動を逃さぬように狙いを定めて。
「いつも通りに行かせて貰うぞ……いつも通りに全力で命を賭けてな」
引き金が引かれると、鈍い轟音と共に大きな矢が放たれたそれは強風に煽られながらも、氷獣の胴体に着弾。それと同時に矢は砕け散ったが、強い衝撃は氷獣の大勢を大きく崩した。
そしてイレギュラーズ達の攻撃が次々と放たれる。防寒具を使っても尚、僅かにしか軽減されない異常な寒さ。しかしイレギュラーズ達は自らを奮い立たせ、いくつもの攻撃を命中させた。
だがその直後、氷獣は威勢良い叫びと共に尻尾を振るった。氷獣の近くに立つイレギュラーズ達が次々と打たれ、その数人が吹き飛ばされる。
「……!! 今のは結構危なかったでス。ですが罪の無い民草に危害を加えるような害獣に、負けるわけにはいかないでス!」
『鉄腕メイド』アルム・シュタール(p3p004375)は、尻尾の一撃を盾で受け、衝撃を緩和する。そしてそのまま盾を構えつつ、アルムは氷獣の正面から接近する。
「これ以上、気まぐれに人を殺させはしないでス!!」
鋼の腕は極寒の影響を退ける。勢いよく振り下ろされた大楯が氷獣の兜を打ち、強い衝撃が微かなヒビを入れた。
「……ッガァァアアアアアアアアア!!」
直後、氷獣は口を大きく開いて絶叫。青白い光線が放たれ、数人のイレギュラーズの身体の体温が一気に奪われる。
「ッ! これは確かにキツイ……けど、凍える事が無いのは有難いわね」
光線が直撃したものの、耐性により凍気の影響を退けた『ツンデレモドキ』リナ・ヘルキャット(p3p003396)。手にした杖に赤い炎を灯し、氷獣の巨体を見やる。狙いはアルムの手でヒビを入れられた氷の兜。
「覚悟はもう決まっているわ……私の本気、受けてみるが良いわ!!」
杖の先から放たれた業火の大矢。鋭く放たれたそれは兜の中心を穿ち、更にヒビが大きくなった。
「ギギィイイ……!!」
氷獣は牙を剥き出しにして低く唸り、恨みがましくイレギュラーズ達を見回す。その瞳には、明確な憎悪が宿っていた。
「まあ、斬られ殴られ撃たれれば、怒る気持ちも分からなくは無いけど……君がいると春を迎えられない人達がいるんだ」
『神様の狗』アムネカ(p3p000078)はダガーを構え、雪に紛れて氷獣の足元に肉薄。そのまま短くも鋭い一撃を抉りこむ。
「ギギギギャア!!」
「……!! 流石にそれは、受けてあげられないかな……」
直後、氷獣はアムネカに向け爪を振り下ろす。しかしそれを素早く察知したアムネカは跳躍し、グローブを嵌めた手を振るう。爪がアムネカの首を捉える寸前、叩きつけられたグローブが爪の軌道を逸らした。
「ギィィイイイイイ……!!」
氷獣は地を強く蹴り、跳躍。一気にイレギュラーズ達から距離を取ったかと思うと、再び空から無数の氷刃が降り注いだ。
「早々何度も受けていられる攻撃ではないでござるな……だけど、まだまだ耐えられるでござる」
『忍豹』豹藤 空牙(p3p001368)の背に氷刃が突き刺さり、大量の血が流れだす。しかし空牙は冷静に息を整えると、反撃に出るべく雪上を駆けた。
「幾つもの村を滅ぼすほどの魔獣……死に物ぐるいでやる必要がある事など、最初から承知してるでござる」
姿勢を低くし、一気に腹の下まで潜り込んだ空牙。跳躍と同時にその鋭い爪を素早く振り上げ、連続で叩き込む。
氷獣はギョロリと血走った目を彷徨わせる。恐らく身体の下に潜り込んだ鬱陶しい獲物を叩き潰そうと思ったのだろう。だがそれよりも、眼前にチラつくカンテラの灯りが目についた。
「ギギャッ!!」
そして目の前のそれに巨大な爪を振り下ろした。カンテラの主、『青き戦士』アルテミア・フィルティス(p3p001981)の肩口が引き裂かれ、足元の雪が赤く染まった。
「……痛いわね。だけどまあ、狙いは上手くいったみたいね。獣は所詮、獣って事かしら」
アルテミアは呟いた。視界不良の中灯りが有れば、優先標的に成り得る。高い知能を持つ敵ならば効果は無かったかもしれないが、少なくとも眼前の獣には一定の効果がある様だ。
「今まで無念の敗走を繰り返した討伐隊の方々の為にも、ここで討伐させてもらうわ」
足元の大雪の影響は、アルテミアはあまり受けなかった。しっかりとした踏み込みで氷獣に迫り、剣を構える。
「ここよ」
素早く放たれた刺突。氷獣の足元の一点に力が集中し、薄い氷を突き破る。深々と刃が突き刺さり、氷獣の冷たく青い血が流れだした。
「ッギギャアアアアアアアアアアア!!」
氷獣は叫んだ。恐らくは憤怒を込めて。降り注ぐ氷刃は、心なしかその勢いが増しているような気もした。
氷獣の猛攻は、既にイレギュラーズ達に多くの傷を与えた。流れ出す血は、ジワリジワリと命の灯に陰を落とす。
「面白い……」
『漆黒の赤焔』雷霆(p3p001638)は呟き、不敵な笑みを浮かべた。最高の逆境、最高の難敵。それこそが彼の望むものだった。
闘いが続くにつれ、雷霆の全身を包み込む焔は猛り昂っていく。この地の極寒も、最早雷霆には何の影響も及ぼさないだろう。
「死力を尽くし挑ませて貰うぞ、サロ!!」
正面から飛び掛かり、焔を纏った拳を氷獣の脳天に叩きつける。瞬間、確かな手応えと共に氷獣の兜は粉々に砕け散り、氷獣巨体が倒れ伏す。
「グギャギャギャアアアアアアア!!!」
氷獣はすぐさま跳ね起き、叫びながらイレギュラーズ達を鋭い眼光で見回す。額から流れ出す青い血が顔を流れ落ち、凍っていく。
吹雪はより一層激しさを増していた。まるで氷獣の怒りに呼応し、荒れ狂っているかの様だ。
この吹雪は、いつになったら止むのだろう。
●
接近からの攻撃。攻撃からの離脱。イレギュラーズ達は一定のリズムを保ち、氷獣サロに攻撃を繰り返していた。
イレギュラーズを3つの班に分け、範囲攻撃に巻き込まれる人数を減らすという作戦はかなり有効に働いたといっても過言ではないだろう。降り注ぐ氷刃は出血を伴いかねない強烈な攻撃だ。出来る事なら一撃でも当たりたくは無い。
また離脱時には扇状の陣形を保つという作戦は、視界不良かつ足元が不安定な状況では連携が取れず崩れかねないものだったが、灯りによる仲間の位置の把握と、陣形維持を意識した立ち回りの者が多かったため、こちらも有効に働いたと言えるだろう。氷獣の放つ光線も、相当な威力を持つ攻撃だ。
もしこれらの作戦が無ければ、既にイレギュラーズ達は全滅していてもおかしくは無かっただろう。
だが。それでも。これらの作戦を以てしても。
氷獣サロが危険で、強大な相手だという事に変わりは無い。
「グギャアアアアアアアアアアア!!」
この獣の咆哮は何度目か。わざわざ数えたものはいなかっただろうが、氷刃が降り注ぐのは3回目だと覚えていた者はいたかもしれない。
「血が……それにどんどん寒くなっている気がする……本当に、この冬はよくないよ…………」
アムネカの背と足を刃が掠めた。流れ出す血を抑えつつ、アムネカはダガーを構えた。
「生者も死者も、永い雪は辛い。だから、冬はここで終わらせるよ」
狙うは、氷獣の図太い大脚。度重なる攻撃により鎧が剥がれた一点を精確に突き、深く抉り刺した。
氷獣は怒り叫んだ。そして尻尾を大きく振るい、イレギュラーズ達に打ち付けた。
「グ……!! まだ、まだよ。私はまだ、倒れるわけにはいかない!!」
飛びかけた意識を、リナは無理やり保ち続けた。だがもうそう長くは立ち続けられないだろう。気力を振り絞り、リナは杖を構えなおす。
「これ以上の犠牲者は出させない……!! あなたはここで滅ぶのよ、氷獣サロ!!」
氷獣の身体に杖が叩きつけられると同時に放たれる白い魔力。それはたちまち巨大な白炎へ姿を変え、氷獣の身体を焼き焦がす。
「グギギャアアアア!!」
氷獣は叫んだ。これまでと変わらぬ様子で。あとどれだけの体力が残っているのか、推し量るのは困難だった。
「であったとしても、拙者らがやるべき事をやるだけでござるな。しぶとく凶刃を振るい続けるというなら、此方もしぶとく立ち続けるでござる」
失った血は少なくない。ついさっき刻まれた傷口が凍り付いている。だが空牙は普段通り、冷静に。氷獣に攻撃を仕掛ける。
「そして拙者は、忍としての使命を全うするのみ。意地でも、お主だけは葬る――!!」
氷獣の隙を突き、空牙は氷獣の大脚を起点に高く跳躍。狙いすました鋭い一閃が、氷獣の首筋を深く抉る。
氷獣は低い唸り声を上げると、再び巨大な尻尾を振るう。それは氷獣の至近距離に立つアルテミアの元にも迫るが――。
「……それはもう、見飽きたわ」
当たれば決定打に成りかねない状況。だがアルテミアは持ち前の反射神経を活かし、咄嗟に跳躍。足元を通過した尻尾を蹴り氷獣の上方まで更に跳躍。剣を構え、眼下の氷獣を見据えた。
「これ以上、誰も殺させない……私も、あなたの為に死んでやるつもりはないわ」
落下の衝撃を乗せた刺突。それは既にボロボロと崩れ始めている氷の鎧を突き破り、氷獣の背を深々と突き刺した。
青い血が噴き出した。この大吹雪の中でもその血に触れれば、痛いほどに冷たい事が分かる。しかし雷霆の身に纏った雷状の焔は、そんな血すら蒸発させてしまう。
「ギギッギギャアアアアアアア!!」
「グ…………!!」
大爪が振り下ろされた。強烈な一撃が雷霆の身体に更なる傷を刻んだ。だが。
「ハ……それがどうした! 貴様の力はこんなものでは無い筈だ……もっと、もっと俺を楽しませてみろ!!」
流れ出す血を気にも留めない。雷霆は自らを斬りつけた大爪に業火を叩きつけると、粉々に打ち壊す。
氷獣はそれでも暴れ狂う。止まる事を知らないかの様に。最早イレギュラーズ達は壊滅寸前だ。数人のイレギュラーズ達は既にパンドラによる復活を使用していた。だがその前に、如何なる手段を以てしても目の前の怪物を倒さなければ。
そして氷獣は再び氷刃を降り注がせた。そしてアルムは、その刃から仲間達を庇う。
「ク……アア!! これ、以上ハ……だけど、ワタクシハ……!!」
民草の、そして仲間を護る楯として、闘い続けなければならない。その思いに呼応するかの様に、アルムのパンドラは強い光を発し、その肉体に僅かな力が戻った。
「さア、これからが本番でス……!!」
力強く盾を構えなおし、アルムは再び仲間たちの楯とななった。
「ふむ、もはや我々は絶体絶命か。ハハハ、面白くなってきたではないか」
相当追い詰められたこの状況。だがこちらも既に氷獣を相当追い詰めていると、マスターデコイは感じていた。
氷獣の叫び、動作の端々から、怒りとも憎悪とも違う。焦り、あるいは生への渇望の様なものが感じられたからだ。
「あと少し……あと少しで吾輩達は勝利を掴めるであろう。だがそれを成す為には底力と――僅かばかりの運が必要であろうな」
マスターデコイは駆け、至近距離から氷獣の腹目掛け矢を連射した。氷の鎧に次々と大穴が穿たれ、氷獣の身体に矢が突き刺さった。
「グギャギギギアアアアアアアア!!」
大きく尻尾が薙ぎ払われる。その一撃を首に受けたクロバ。だがクロバもまた、倒れず闘い続けるという固い決意を持っていた。紅い黒羽のマフラー、クロバのパンドラからその力が解放される。
「――は、ハハハッ……!! どうした、まだオレは生きているぞ!!!」
そもそも死ぬ気などない。クロバには約束がある。そして――不本意だが、顔を見れなくなると面白くない奴も。
「オレは死なない……この場で死ぬのはお前だけだ、怪物!!」
嵐の様な勢いで放たれる無数の斬撃。全身を刻まれた氷獣の身体から、また青い血が飛び散った。
だがまだ氷獣は死なない。全身傷だらけではあるものの、それでも生きている。
氷獣は吼えた。イレギュラーズ達を殺す為に。青白い光線が、百合子を中心としたイレギュラーズ達を包み込む。
「――!! この様な好敵手を前にして、こんな所で倒れられようか!」
気を失いそうな一撃。百合子はしかしそれを気合――長きに渡る訓練によって培った『気合』で踏みとどまる。己の意識を保てている事を認識した百合子は、すぐさまカンテラを氷獣に叩きつけた。
「カハッ! 燃えるがいい! 皆にも貴様の姿がよく見えよう!」
僅かに怯んだ氷獣の鼻先に、百合子の膝がめり込んだ。メキメキと何かが折れるような音が響いたかと思うと、氷獣は顔から血を噴き出しながら大きく巨体を揺らした。
「ギ……ギギ……ギギャアアアアアアアアアアアアアア!!」
氷獣は苦痛を帯びた叫びを上げ、雪上を跳ねた。氷の刃を降り注がせ、叩き潰す様に何度も尻尾を振るう。
アムネカ、アルテミア、空牙、雷霆、百合子。瀕死の獣の猛攻に、次々とイレギュラーズ達が倒れていく。しかし実際の所、ここまで10人揃って闘い続けられていた事の方が異様だ。それはイレギュラーズ達の力と作戦の賜物であろうが――ここにきて、全てが崩れ始めた様に見えた。
「……俺はこの剣を学ぶと言った時に誓ったんだ……どんな理不尽があろうと、どんな苦難があろうと……立ち向かうべき相手には全力で挑むって……」
ユラリと立ち続けながら、そんな言葉を自身が発していると、侠は気づいているのだろうか。唯確かなのは、幾多の傷を受け意識が朦朧としていようとも、侠は戦う意思を捨てていないという事だ。
「……あの時助けてくれた爺さんみたいな男に俺はなる! 負けられねえ理由があんだよ、俺には!」
「ギギャアアアアアアア!!」
カッと目を見開く侠。降り注ぐ氷刃を剣を駆使し次々と斬り落とし、駆け出した。
「助けてくれ何ざ俺は祈らねえ。俺は、誰かを助けられる男になってやる!!」
跳躍し、侠は剣を振るった。強い意志が込められた一閃は、氷獣の首を完全に捉え――そして、斬り落とした。
宙に浮いた氷獣の首を、地面の大雪が優しく受け止めた。首を失った胴体は、滝の様な勢いで青い血を噴き上げながら、ゆっくりと倒れた。
いくつもの村を滅ぼし、いくつもの討伐隊を退けた怪物。氷獣サロは、イレギュラーズ達の手によって討伐された。
依頼は完了した。決して無傷では無かったが、イレギュラーズ達は確かな勝利を掴んだのだ。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
これにて依頼完了です。お疲れさまでした。ギリギリの戦いでしたが、皆様の『力』が氷獣サロのそれを一歩上回った様です。
激しい戦いの中でパンドラ復活を使用した人、深い傷を負った方々も多いですが、ゆっくりと傷を癒して下さいませ。
またのご参加、お待ちしております。
GMコメント
のらむです。巨大な氷獣を討伐してきてもらいます。逆に狩られる側にならないよう、ご注意を。
●成功条件
氷獣サロの討伐
●カルム村跡地
一夜にして滅びてしまった辺境の村。崩壊した建物に大雪が積もり、もはや一面は真っ白く染まってしまっています。
大吹雪の地に氷獣が現れるのか、氷獣が大吹雪を運んでくるのか。どちらかは分かりませんが、氷獣が村を襲撃してから皆さんと戦闘を行うまで、ずっと大吹雪が続いています。
足元は大雪でかなり不安定(常時機動力-1、反応-10)、常軌を逸した寒さで身体は凍え(常時凍結付与)、大吹雪によって視界はかなり悪いです(常時命中回避-10)。
上記のマイナス補正は有効なスキル等によって軽減、消滅する場合があります。
また、氷獣サロは足元の大雪と寒さの影響は受けませんが、視界の悪さの影響は受けるようです。
●氷獣サロ
毎年冬になると現れ、人々を虐殺する怪物。これまで派遣されたすべての討伐隊を敗走させた、大きな尻尾を持つ四本足の怪物。
HP、防御技術、神秘攻撃力がかなり高い。またその巨体により、『マーク・ブロック』による移動妨害が不可能。攻撃スキルは以下の通り。
・大爪(物至単)
・尻尾薙ぎ払い(物近列)+飛
・氷漬光線(神貫レンジ3)+氷漬
・氷刃雨(神中域)+出血
・氷槍(神遠単)
以上です。皆様のご参加、お待ちしております。お気をつけて。
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