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シナリオ詳細

<冥刻のエクリプス>我、害為すものを断つ
<冥刻のエクリプス>我、害為すものを断つ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 乱れた天義という舞台に、大いなる魔種という大女優が訪れようとしていた。

 数々の月光人形達を破壊し、原罪の呼び声の被害者を食い止めてきたイレギュラーズ。彼らの活躍により、天義の民の心には、少しずつ希望が訪れていた。
 しかし、状況は確実に悪化している。
 乱れた天義を其の手中に落とそうと、大いなる魔種「ベアトリーチェ・ラ・レーテ」が動き出したのである。
 一方、天義は一枚の岩が剥がれるように、内部分裂を起こしかけていた。
 『コンフィズリーの不正義』に加え、サン・サヴァラン大聖堂に未だ籠城している枢機卿アストリア。彼女らの目的は、すなわち天義そのものの政変。
 魔種と、天義と、天義の背信者。この三つ巴に、イレギュラーズはメスを入れていく事になる。



「今回集まった理由はもう判っていると思う」
 グレモリー・グレモリー(p3n000074)は珍しく真面目な表情で、集まった8人を見た。
「天義に魔種が攻め込んでくる。それも今までの比じゃない、とんでもなく強い魔種だ。名前はベアトリーチェ。どういう訳か天義を執拗に狙っていて、先の月光人形も彼女の仕業だと推測されている」
 さらり、と地図を広げる。天義首都フォン・ルーベルグの地図である。赤い丸が一つ、大きく記されていた。
「君たちには、後援救護をやってもらいたい。今回は色んな場所で戦いが起きるけど、救護個所は一つだけなんだ。ありったけの薬剤と救護道具――此処から持ち出す許可もおりてるから、好きなだけ持って行っていい」
 言うとグレモリーは万年筆を取り出し、様々な場所に丸をつけ、赤い丸に矢印を引く。
「首都を狙っているのは魔種だけじゃない。天義の中で政変をもくろんでる人たちの私兵も敵と言っていいだろうね。人間から受けた傷、魔種から受けた傷、アンデッド――ベアトリーチェは不死者を扱うという情報が入ってきてる――から受けた傷、それぞれに対応できるようにしていてほしい。」
 後方支援は決して華々しい仕事ではない。だが、そこさえ盤石であれば被害を最小限に食い止める事が出来る。
「大女優の姿を拝めないのは少し残念だし、天義を良からず思っている人たちも多いと思う。でも、天義の人たちも、そういう教えのもとに育っただけで、死にたい訳じゃないはずだ。その為には君たちの力が必要。お願いするよ」

GMコメント

 こんにちは、奇古譚です。
 ついに大いなる魔種が其の手を天義に伸ばしてきました。
 皆さんにはその後援をしていただく事になります。

●目標
 負傷者を救護せよ

●立地
 フォン・ルーベルグ内に設置された簡易救護所になります。
 既に数人の兵が負傷し、毛布の上に寝かされ、従事する救護者から手当てを受けています。救護している者はおよそ5名です。全く足りていません。
 衛生状態は悪くありませんが、薬剤や救命道具が不足しているとの情報があります。
 此処は絶対的に安全です。運び込まれた患者が暴れる以外、襲撃を受ける事はありません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●救護
 激戦が予想されます。次々と怪我人が運ばれてきますので、8人(+天義の救護従事者)でうまく役割分担することが大切です。
 また“原罪の呼び声”に侵された者が運ばれてくる可能性もあります。上手く取り押さえましょう。(不殺スキルがあると活躍するかもです)

●救護対象者
 天義の兵xたくさん

 兎に角激戦が予想されます。軽傷から致命傷まで、様々な人間が運び込まれるでしょう。
 助からないと思った場合の判断は、イレギュラーズの皆さんに委ねられる事になります。


 死ななければどうという事はない。

 アドリブが多くなる傾向にあります。
 NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
 では、いってらっしゃい。

  • <冥刻のエクリプス>我、害為すものを断つ完了
  • GM名奇古譚
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年07月09日 23時15分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
守護する獣
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
リインカーネーション
錫蘭 ルフナ(p3p004350)
猫派
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
お節介焼き
グレン・ロジャース(p3p005709)
紅蓮の盾
矢都花 リリー(p3p006541)
壺焼きにすると美味そう
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
繋ぐ命
ネーヴェ(p3p007199)

リプレイ

●診療開始
 天義首都、フォン・ルーベルグ。
 雨が降り始めるように鬨の声があちこちであがり、攻め入る魔種・アンデッドとの戦いが始まる。
 突貫で作られた救護施設は広く、今は静かだが……時をずらして戦場さながらになるだろう事は、その場にいた看護師全員が覚悟していた。

「いてぇ……! いてぇよぉ……!」
「まずは止血を! 布紐を持ってきて!」
「はいっ!」
 そして運ばれてくる、血と戦の匂いを漂わせた怪我人。悲鳴を上げるもの、呻くもの、声すら出せず痛みにもがくもの、心中で狂気と戦うもの……挙げればきりがない。
 痛いと嘆く患者の腕に走った傷は深い。看護師は懸命に止血処置をするが……
「駄目……! 血が止まらない! このままじゃ」
「貸せ! 俺がやる!」
「!」
 ふと、聞きなれない声がした。
 同時に布紐を奪われて、ぐっと力強く止血処置が施される。そのまま鬱血するのではないかという程引いて締められ、やっと男の傷は血を流すのをやめた。
「よし、このまま縫合するぞ! おい、しっかりしろ! 飲めるか!?」
「大丈夫だよ! 腕は繋がってる、だから気をしっかり持って!」
 『追憶に向き合った者』ウェール=ナイトボート(p3p000561)は男の口元にポーションを傾け、その喉に流し込む。『繋ぐ命』フラン・ヴィラネル(p3p006816)が男を励ます中、看護師が周囲を見渡すと、救護所のそばに大きな馬車が止まっていた。
「まだいける! 怪我人を連れてきてください!」
 リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が数人の患者にヒールを施しながら、更に其の白い手を伸ばそうとしている。
「全く、どうせ治ったらまた行くんでしょ。まあ、此処で死なれたら目覚めが悪いから治すけど」
 憎まれ口を叩きながらも、『猫派』錫蘭 ルフナ(p3p004350)が軽傷の者にヒールを施していく。
「大丈夫よ、みんな治すわ! その代わり、此処の掃除をしてから戦場に戻ってね!」
 『お節介焼き』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)が救いの音色、天使の歌で重傷者から治してゆく。範囲内に軽傷者も含めれば、結構な数を治療できる。軽傷を癒してもらった者たちはお礼を言いながら、散らばった血まみれのガーゼや包帯を掃除していく。
「様子のおかしい奴はこっちに運んでくれ! しっかりしろ! こんな呼び声なんかに負けんじゃねえ!」
 頭を抱えてぶつぶつ呟いていた男に、『天義の希望』グレン・ロジャース(p3p005709)が力強く説得を続ける。おそらくは狂気にあてられたか――それをこちら側へ引き戻すのもまた、治療。取り押さえているのは『壺焼きにすると美味そう』矢都花 リリー(p3p006541)。彼女もぶつぶつ呟いてはいるが、愚痴なので安心してほしい。
「マジ戦場だし……魔種絶許……ほんと、怪我人増やすとか有り得ないし……」
「よし! 縫合が終わった! ネーヴェ、場所は確保できてるか?」
「はい、……こちら、です。ゆっくり、運んで……」
 清潔な毛布を敷いて場所を確保しておいたネーヴェ(p3p007199)の案内で、腕を傷つけられた男は一旦其処に寝かせられる。ポーションによる回復と縫合を受けてなお、痛みは彼の気力を削いでいるだろう。気力が戻るまで寝かせておくとの判断であった。
「あ、ああ……! 来て下さったのですね……!」
「遅くなって済まない。でももう大丈夫だ」
「様子のおかしい患者はいないか? そういうのが来たらアンタらも危ない、俺たちを呼んで離れていてくれ」
 ウェールが看護師に頷く。グレンが心配そうに言うが、まだそのような患者の報告はない。おそらくこれから増えるのだろう。まさに看護師にとっては天の助けに思えた。神よ、天の援けに感謝します。看護師は聖印を切り、簡易な形で祈りを捧げた。



 治療の間は絶対泣かない。スティアはそう決めていた。泣いてる暇があれば治療をするんだ、泣くのはすべてが終わった後だ。
「――っ! 皆さん、大丈夫ですか! 重傷者から順に運んでください!」
 天使の歌で重傷者を治療し、また入れ替わり、重傷者を治療する。終わりのないルーティンワークに思えるが、きっといつか終わりが来る。スティアはそう信じて、音色を奏で続ける。
 空いた時間には、味方が滞りなく技能を奮えるように胡蝶を舞わせ。薬品を整頓し、使えそうなものがあれば看護師と協力して患者に使用する。目が回るほど忙しいとはこういうことだろうか。けれどあきらめてはいけない、泣いてはいけない。だって、これは、戦いなんだから……!

 別に、誰かのためだとか、そういう殊勝な感情が僕にはある訳じゃない。
 ルフナは患者の腕に包帯を巻きながら考える。剣を握ったままの天義の兵。彼もきっと、この治療が終われば前線に戻っていくのだろう。
「……今度は死んじゃうかもしれないのに。ほんっと、ウザいよね」
「すまない。……けれど、俺たちは例え死んだとしても、この国を守りたいんだ」
 ルフナの不機嫌を読み取ったのか、壮年の兵士は苦笑する。誰かのため。何かのため。――む、とルフナは口元をへの字にして、終わったよと包帯の上から傷口を叩く。
「少しでも感謝してるなら、菓子折でも持ってきなよね。あと」
 “いつもの”フォン・ルーベルグも案内してよ。ね、約束。天義の民なんだから、約束を破るなんて不正義はしないでよね。

「其処! 土汚れがついてるのだわ!」
「す、すまない!」
 軽傷の兵士たちは、治療が終わったらお掃除を手伝うこと。其れが華蓮ルールである。お掃除を甘く見てはいけない。在りし日の野戦病院で一番の死因となったのは「不潔からくる感染症」だったともいう。かの偉大なる看護師も、不潔を嫌い、滅菌を徹底したという。
 家事全般を得意とする華蓮は、メカ子ロリババァに屑籠を背負わせて掃除する。清潔こそが基本! そうでなくては誰も救えないのだわ!!
 ――そんな彼女のところへ、3人の兵士が近寄ってきた。

「――誰か! 来るのだわ! 呼び声なのだわ!」
「!」
 グレンは己のすべき事を心中で反芻していた。だから、この事態にも直ぐに反応することが出来た。
 華蓮の呼び掛けに駆け寄ると、3人の兵士がいた。2人が1人を取り押さえている状況だ。この2人も手傷を負っている。
「魔種と戦ってたんだが、こいつが突然喚きだして……!」
「えひひひ、えひひひひ! 欲望はすべてむき出し! むき出し! 隠すことなどなにもない!」
 口から唾液を飛ばし、喚く男。どう見ても正気ではない。
 慌てて駆け寄ってきたネーヴェが、咄嗟に名乗り口上をあげる。
「わ、わたくしが相手します……! 他の方をこれ以上傷付けないで……!」
「お、おい!」
「……い、言ってしまいました。あとは、どうか」
「全く……判ったよ、俺の後ろに隠れててくれ」
 グレンが思わず振り返ると、ネーヴェが見上げてくる。ぎょろり、と狂った兵士の目がネーヴェに向いて、がばりと男は起き上がる。
「うさぎさんの耳かわいいねえ~! 触ってもいいのかな? だって欲望はむき出しにするもんだもんな?」
 男の異様な空気に、救護所全体に不安な空気が漂い始めるのを、ネーヴェとグレンは感じていた。其れはほかの場所で治療している仲間もそうだろう。
 その時のために自分がいる。グレンは声を張り上げ、応じた。
「うさぎの耳にはたやすく触っちゃいけねえし、この子には指一本触れさせねえよ! 俺たちは負けねえ、諦めねえ! アンタをここに連れてきた同志の事を思い出せ! あいつらは傷だらけになっても、アンタを治療してほしいって此処まで来たんだぜ!!」
「……どう、し……どうし……そうだ、俺は、魔種と、戦って、此処を、まも、まも、まもももも、もひ、もひもひ……!」
「……! あの方……!」
「ああ、一回眠らせりゃ戻ってこれるかも知れねえ! ネーヴェは其処でじっとしてろよ!」
 思い出せ、同志と剣打ち交わした日々を。思い出せ、あの情熱を。敵の甘い誘惑なんかに負けるんじゃない、其れは甘いだけで酔って潰す最悪の酒だ。どうせ飲むなら勝利の美酒を! 華々しく咲き誇る薔薇のような、天義の輝かしい勝利を!
「う、ううおおおお……! やめろ、やめろ、俺は、俺はこの天義を……!」
「そうだ、負けるな! 呼び声なんかに負けるんじゃねえ……!」
 其れはグレンの誓いの言葉。絶対に守る、絶対に引き戻す、其の誓い。男はぐるぐると眼球を回し、必死に狂気に抵抗し……意識を手放す、という選択肢を選んだ。
「おっと! ……ふう」
「……大丈夫でしょうか」
「まあ、あれだけ戻りかけてたなら大丈夫だろ。念のため、離れた場所に寝かせて傷の手当てをしようぜ。さっきの二人もな」
「はい……!」
 グレンの瞳には、決意の炎がともっていた。
 もし彼が目覚めても狂気に侵されていたら――俺の手を汚してでも。
 仲間の手は、絶対に汚させない。



「助けてくれえっ!!!」
 軽傷者の手当てをしていたウェールの耳に届いた、悲痛な悲鳴。
 手当てを手早く済ませて駆け寄ると、まず目に入ったのは赤い色だった。砕けた鎧、真っ赤な血だまり、二人の兵士。
「隊長、隊長!! 救護所に着きました!! あと少しです、必ず助かりますから!! ――隊長は俺を庇ってやられたんだ!! 剣を持った…アンデッドに……! お願いだ、助けてくれ! 隊長を、お願いだから」
「落ち着け! 一先ず両方とも処置が必要だ……スティアさん! 手分けして治療を」
「うん……! あなたはこっちに来て。落ち着いて、大丈夫だから」
「隊長…! 隊長ぉ…!」
 スティアがまだ望みのある方の兵士を連れていく。彼女のヒール技術なら、任せておいて安心だろう。
 問題は――
「……どう思う?」
 そっと近付いてきていたリリーに問う。……リリーは感情を殺し、ぼんやりとした瞳で隊長と呼ばれた患者の呼吸や脈を確かめると……
「……トリアージ、限りなく黒に近い赤」
「そう、か」
「……運ぼうか?」
「いや、ぎりぎりまで諦めたくない。治療をする」
「わ、私も手伝う!」
 周囲にブレッシングウィスパーで活力を分けていたフランが駆け込んでくる。恐れず怖じず、兵士の血まみれの手をぎゅっと握って。
「私も昔大怪我したけど、今はこんなに元気なんだもん……! きっと隊長さんも大丈夫! 信じて!」
「――始めよう」
 ウェールが手袋を付けた。これは最初に物理的処置を施さねばならない。そう決断した結果だった。

 兵士の鎧をはがすと、酷い傷が現れた。鉄錆びた剣で突き刺され抉られたような傷。腐食が始まっている。
「酷い傷。取り敢えず腐食部分を切除するよ」
 尋常ではない空気を感じて割り込んできたルフナが、容赦なくメスを入れていく。腐食部分より気持ち大きめに肉を切り取る。後で縫合するのだ、後顧の憂いを取り除く方が優先だ。
「ウェールは他の傷をお願い」
「判った」
「念のため、ブレイクフィアーするよ!」
 フランが周囲の空気に立ち込める不安と恐怖を取り除く。其れは単なる景気づけではなく、腐食を抑える意味も持つ。
「しっかりして隊長さん…! 目を開けて!」
 兵士は目を閉じたままだ。フランがもう一人の兵士が連れていかれた方を見ると、スティアと看護師による手厚い治療を受けていた。あれだけの声量で叫べたのなら、彼は大丈夫だろう。けれど――
「ほかにも深い切り傷が多いな……最前線で戦っていたという事か」
「だろうね。リリー、どう?」
「……ダメ。段々、黒に近付いてる……」
 淡々と話しながら、治療を進めていく3人。フランは武骨な手をぎゅっと握って、其れが握り返されるのを今か今かと待つ。ヒールは試した。届かなかった。結末はうっすらと見えている、其れでも、まだ、諦めきれない。
「……切除終わったよ。縫合するね」
「頼む。華蓮さんが清潔にしてくれていて助かったな」
「そうだね。“不潔が一番の敵なのだわ!”って言ってたもんね」
 ルフナが手早く縫合に移る。特別な部屋や結界を用意せずに済んだのは、華蓮によるこまめな掃除と滅菌管理のおかげだ。
「……」
「……」
「……、お願い……」
 祈るようにフランが呟く。一方、直接治療をしているウェールとルフナは、最悪のパターンを想定していた。認めたくはないが、傷が深すぎる。どろりと零れる血も、吹き出す元気すらないというのか。
 リリーは淡々とそれを見つめる。彼のトリアージが黒になったら、連れて行くのが彼女の役目。出来るなら、其の人数は少ない方が良いけれど……

「……う」
「! 隊長さんっ!」
「……此処は……」
 彼が目を覚ますと、其処は戦場ではなかった。消毒液と包帯の香り、騒がしい靴音。けれど、前線より静かな此処は……
「救護所だよ。……ね、痛くない?」
「……そうか、ああ、痛くないよ……」
 隊長は笑って見せた。“縫合した傷口からなおも血をどろどろ流し、清潔なシャツを汚す有様で”。見下ろしてくる幾つかの瞳。そうか、彼らがイレギュラーズか。と、彼は妙に澄んだ頭で考える。
「……俺は、助かった訳じゃないんだな」
「…………」
「……すまない。目覚めてくれただけでも、」
 ありがたい? すごいこと?
 ウェールは拳をぎりりと握りしめた。此処で彼を怒鳴りつけ、其の生命力を回復出来たらどんなに良かっただろう。でも、出来ないのだ。流れた血が多すぎた。胸の一撃が深すぎた。……言い訳ばかりが並ぶ。クソッタレ!
「……俺を連れてきた兵士に、伝えてくれないか」
「何を?」
 フランの白く細い手は、兵士にはとても暖かかった。其れは死にゆく己の手が冷たいだけなのか。ああ、こんなにいとけない子も、戦っているんだな。
「彼は、息子に似ているんだ……けれど、どうか、責任を感じないでほしい。犠牲の出ない戦などない。今回はたまたま其れが俺だっただけだ。もし償いたいと、思うなら、」

 ――。

「……え?」
 フランは瞬きをした。風がひゅうと吹いて、静かな救護所のテントを揺らしていく。
「ね、ねえ。隊長さん。続きを言ってよ……償い方が判んないままじゃ、あの兵士さんが可哀想だよ……ねえ! 隊長さん!」
「……フランっち。もう、連れて行く」
「駄目だよ! まだ、まだ……隊長さん!!」
「フランっち」
「……っ……う……!」
 彼女の鮮やかな瞳に、みるみる涙の膜が張る。泣くな。泣くな。周囲に混乱が起きるから、泣くな。力なくなった男の手から自分の手を引きはがし、顔を覆った。リリーが男を連れて行く。
「……クソッ……!!」
 重苦しい沈黙が落ちる。助けられる命があれば、助けられない命もある。其れだけの事だと切り捨てるのは簡単だ。けれど切り捨てられないからこそ、彼らは此処にいる。少しでも助けられる命を多くするために。
「……助けよう」
 フランが呟いた。
「まだまだ兵士さんは来る。……助けよう! もう、こんな思いはしたくないよ!」
「……判ってるよ。だから僕は、何があっても治療を続けるからね。呼び声にあてられた奴は任せる」
「ああ。……助けよう、これから来る命全部」

 膝を折ってはいられない。傷ついた命はまだやってくるのだから。
 ウェールは救護所を見渡す。其処には多くの人がいて、未来をつかもうとあがいていた。傷付き、痛み、其れでも明日を掴むのだと、戦っている。
 フランの肩をぽんと叩き、ウェールは次の患者を診に戻る。ルフナもまた、黙して患者の様子を見に行く。
 フランはぐっと拳を握ると、涙が落ちないように上を向いた。
 負けるな。頑張れ。
 戦の音はまだ続いている。なら、立ち止まってはいられない。



 イレギュラーズのおかげで、救護所はつつがなく患者を収容・治療して回り続けている。
 生きたいという願いを一人、また一人に分け与え、掴ませながら、彼らは治療を続ける。
 舞台女優(ベアトリーチェ)よ、見ているか。
 これが、人間の原初の欲望だ。

成否

成功

MVP

華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
お節介焼き

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした。
 さて、この大局が何処へ傾くのか――其れはまだ判りませんが。
 イレギュラーズの皆さんのおかげで、救える命は格段に増えた事でしょう。
 それでも救えない命はありますが。笑って逝けるのと、悔しいまま逝くのとでは、それは大きな違いでしょう。
 MVPは華蓮さんにお送りします。その場の清潔さを重視する。お見事です。
 ご参加ありがとうございました。

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