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シナリオ詳細

<冥刻のエクリプス>オペレーション・ブロークンブラッド

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●百甲騎士団の崩落
 銀の鞘より剣を抜き、大地を駆ける甲冑の騎士。
 真っ赤なスケルトンモンスターの首をはねとばし、大きくのけぞったスケルトンのあばらを駆け上って跳躍する。
「バケモノどもが。聖都に指一本触れさせん!」
 高く掲げられた剣が聖なる光を帯び、鉄をも切り裂く力となって『バケモノ』へと振り込まれた。
 が、しかし。
 剣は真っ赤な腕に掴まれた。
 肘から先が鮮血のように赤い、少女の腕であった。
 流れる血のようなどろりとした長髪の間から片目を覗かせ、世にも壮絶に笑う。
 開いた少女の目は赤一色に染まっていた。
「ザンネンだねぇー。かわいそうだねぇーー。こーんなに頑張ったのに」
 少女の手は剣の刃を受け止めたまま、かすり傷一つ負うこと無く、どころか刀身を凍った花のようにばりばりと握り砕いてしまった。
 騎士の首を掴み、地面を蹴る。
 カクテルドレスの裾が広がり、卵から雛が抜け出るかのように血色の翼を広げていく。
 背中を突き破って伸びた翼を羽ばたかせ、大空へと舞い上がる少女。
 騎士ははるか上空で首を握りつぶされ、後方の仲間たちめがけて放り投げられた。
「団長――!」
 慌てて身体を受け止める騎士たち。焦りに満ちた顔を上げれば、汗が顎よりしたたり落ちる。
 槍を構えた血色のスケルトン歩兵たちが整然と前進してくるのが見えるだろう。
 血色の杖をライフルのように構えた赤いローブの邪教徒たちの列が見えるだろう。
「…………」
 喉から血を吹きながら、団長と呼ばれた騎士は震える手を上げ、そして力尽きた。
 それが撤退のハンドサインであることに気づき、騎士たちは歯を食いしばる。
 邪教徒たちの魔術砲撃が、スケルトン歩兵たちの突撃が迫る。
 騎士たちは叫びをあげ、魔の軍勢から撤退を開始した。
 その目に未だ、希望の光をのこしたまま。

●希望の光を灯せ
「彼らは、このままじゃ戦えないわ……」
 ぼろぼろに傷ついた騎士たちが都の仮設救護室に集められていた。
 教会を間借りした部屋はけが人ばかりで、そのうち半分は命を落としたかこれから間もなく落とすものであった。
 生き延びた騎士たちも酷く心を折られ、床に座り込む者ばかり。
 プルー・ビビットカラー(p3n000004)はため息をついて包帯を手に取った。

 月光人形。コンフィズリーの真実。天義で起きた無数の事件は今、ひとつの内戦に集約されようとしている。
 魔種の中でも指折りの大物『煉獄篇第五冠強欲』ベアトリーチェ・ラ・レーテが作り出した月光人形は多くの狂気と混乱をまき散らし、事件に乗じて法王の座を狙う魔手アストリア枢機卿と悪徳執政官エルベルトによる大規模なクーデターが引き起こされた。
 緊急防衛体勢をとった首都フォン・ルーベルグだがベアトリーチェ派の魔種たちによる進軍を食い止めるには、国家の兵力は壊されすぎていたのだ。
 もし彼らの侵攻を許し首都と法王を制圧されたならば、ネメシス聖教国は魔種のものとなり『滅びのアーク』を急増させることになるだろう。つまりは、世界の滅びが迫るのだ。

 顔の半分を包帯で覆った騎士が、イレギュラーズたちの前へ立った。
「赤い翼の魔種とその軍勢は我々百甲騎士団の防衛線を突破。
 現在サンミリアルド通りを移動し中央制圧を狙っています。
 奴らは……っ」
 胸を押さえ、激しく血をはく騎士。
 プルーが彼を押さえ、近くのベンチへと座らせる。
「いいわ、休んで。あとは私が説明する」
 血の付いた手をぬぐい、イレギュラーズたちへと振り返るプルー。
「赤翼教団。魔種『BW(BLOOD WING)』を信仰する邪教徒よ。
 彼らはBWのために身と血を捧げ、モンスターによる軍勢を作り上げたわ。
 彼らはさっきも言ったように首都を防衛する天義百甲騎士団と衝突。指揮官だけをピンポイントで虐殺していくという作戦によって騎士たちの心を折り……この有様というわけよ。
 幸か不幸か騎士の戦力はまだ残ってる。必要なのは戦う意志(士気)……今ここでそれができるのは、あなたたちだけなの」
「イレギュラーズ。あなた方がこれまで見せた勇姿は我々の伝説です。子供の寝物語に聞かせるほどに」
 ベンチに座ったまま、胸を血に汚した騎士があなたを見た。
「だから、あなたが指揮をとってください。
 我々は……あなたについていきます」

GMコメント

■■■オーダー■■■
 騎士団のリーダー(分隊長)となり、侵攻してくる魔種の軍勢を撃退してください。
 皆さんには一人につき5人ずつの騎士が割り当てられ、それを分隊という戦術単位にまとめます。
 全員合計8分隊40人。これを一個中隊として運用し、ほぼ同等の規模をもつ魔種の軍勢に立ち向かうのです。

■■■士気向上パート■■■
 赤翼教団の軍勢を前に、騎士たちは心を折られています。
 そんな彼らの士気をあげ、奮い立たせることで劣勢をはねのけることができるでしょう。
 方法は各個人の性格や特技に任せます。
 美味しい料理を作るのが得意な人もいれば仲良くなって元気付ける人や勇ましい音楽で奮い立たせる人、特徴的な演説で士気を高める人もいるでしょう。個性の出しどころでもあります。
 これは自分の分隊にのみ行なってもいいですし、誰かと合同でやっても構いません。

■■■編成パート■■■
 PCそれぞれが分隊長となり、騎士の中から自分の分隊メンバーを編成します。
 『編成方針』と『指揮コマンド』を決定し、戦いに備えてください。

●編成方針
 プレイングにはどんなタイプの騎士を揃えるかを書いてください。
 細かく指示を書きすぎると戦術その他がおろそかになるので、100~200字くらいを目安にしてみましょう。
 『全員ヒーラー縛り』『防御に特化したタンクチーム』『火力特化砲撃部隊』といった具合です。困ったら『バランス型』と書いておけば間違いありません。
 極端過ぎるオーダーでなければ大体応えられる筈です。

●指揮コマンド
 兵は自律的に戦闘行動をとるためスキルその他の細かい使用指示は必要ありません。
 その代わりとして以下のコマンドをプレイング冒頭で指定して下さい。
 『統率集中』:指示を送ることに集中します。PCの各種判定が大きく低下しますが、その分兵各自に大きなボーナスがかかります。兵への指示を沢山書きたい人向け。
 『率先戦闘』:PCが率先して戦い、兵たちはそのフォローに徹します。PCの判定にボーナスがかかります。自力で戦うの好きな人向け。
 『臨機応変』:兵に指示を出しつつ要所要所で率先する、統率と率先の中間にあたるコマンド。ダイス目はそのまま。指示を沢山出したいが自分でも沢山動きたい人向け。

■■■戦闘パート■■■
 赤翼教団とサンミリアルド大通りにて真正面からぶつかります。
 敵の軍勢はこちらと同様8個分隊。
 それぞれのリーダーに邪教徒がついています。
 それ以外の兵はスケルトン歩兵で補っているようです。

●邪教徒
 スケルトンモンスターを引き連れて戦闘を行ないます。
 『神遠範』『神中単』のスキルをそれぞれ保有しており、それ以外の能力にはばらつきがあります。

●スケルトン歩兵
 鮮血を捧げることで生まれる『血色の骨』でできた歩兵。
 槍やライフルなど一般的な武器を使用する。
 1分隊につき6~8体揃えている。

●BW(BLOOD WING)
 赤い血色の翼をもつ魔種。カテゴリーは強欲。
 自分が支配した邪教徒で天義をいっぱいにしたいという支配欲をもっている。
 軍団を指揮しつつ、自分は自由に動く。
 百甲騎士団と戦う際は各分隊長をピンポイントで破壊し、最後には中隊長を全員に見えるように虐殺してみせることで戦意喪失をねらってきた。
 イレギュラーズたちを狙ってくる可能性が高い。
 戦闘能力はほとんど近接戦闘に絞られている。戦闘方法もかなりシンプル。かつ、とても高い。戦闘を行なう際は格上相手の戦法を用意する必要がある。

  • <冥刻のエクリプス>オペレーション・ブロークンブラッド完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2019年07月08日 22時40分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

八田 悠(p3p000687)
あなたの世界
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
藤堂 夕(p3p006645)
小さな太陽
スー・リソライト(p3p006924)
猫のワルツ
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手

リプレイ

●百甲騎士団の再編
 指揮官クラスの騎士たちを失った天義百甲騎士団は教会仮設救護拠点に詰まっていた。
 ここが世界の行き止まりであるかのような閉塞感と、これから自分たちは苦しんで死ぬしかないという絶望感。
 絶望は人から選択肢を奪い、無限の虚脱をもたらすものだ。
 だがそういうときこそ本能的に、希望の光をまぶしく感じるものである。
「どうぞー。ゆっくり飲めば、身体が温まりますよ」
 ピンク色の看護婦めいた格好をした『小さな太陽』藤堂 夕(p3p006645)が、重傷をおった騎士たちを回って包帯を交換したり薬湯を飲ませたりしていた。
 看護。医療とはまた別の、衛生という技術である。むろん傷や肉体を清潔に保つことに留まらず、食品が身体に害をもたらさぬように整えたり、精神が死なぬよう整えたりといった様々な分野を統括する言葉である。
 ある世界における戦時病院での死亡原因のトップが絶望による自殺であることを見抜き彼らを根本的に救済した看護界の神の名を、おそらく元地球女子高生である夕は知っているだろう。
 はからずも、彼女はそれと今同じことをしていた。
「今から戦いに行く人だけじゃありません。帰りを待つ人も、しっかり守って見せますよ!」
 ほら見てと言って振り返ると『チアフルファイター』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)がギターを、『天義の希望』スー・リソライト(p3p006924)が手足の鈴を鳴らしてどこか陽気に舞い踊っていた。
「がんばろ!英雄とかそんなの関係なく、アンタ達の守りたい物のために全力で!
 アンタ達だって今まで生きてきて沢山の事があった、こんな終わらせ方させない! 絶対勝つよ!!」
 励ますように演奏の調子を上げていくミルヴィ。一方でスーは無邪気な様子で踊り、いまだ動ける騎士の手を引いた。
「ほら、目線を上げて? 貴方達が守りたいと思ったものは、なぁに?
 何も無いなら、逃げれば良い。それでも、貴方達はここにいる。
 私が、私達が希望になるから。だから……手を貸して、ほしいな」
 勇気や正義を引き出すようなダンスに、騎士たちの心が上向いていく。
 やがて曲調が変わり、勇ましい聖歌へと変わっていった。
 『幸福を知った者』アリア・テリア(p3p007129)が伴奏を乗せていく。
「おいたわしや。尊敬する中隊長を喪った皆様のお気持ちはいかばかりか。
 ですが我々は戦わなければなりません。国の為、愛する者の為、そして我々が信じるもののために!」
 『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)が中央に立ち、奇跡のようによく通るハイソプラノで歌い始めた。
 精神衛生(メンタルヘルス)という分野において、宗教はきわめて高い効果をもつ。地球の歴史の話でいえば、精神衛生という言葉が生まれるよりずっと昔から存在し、その分野を体系化して担っていきたのが宗教である。小規模なものはともかくとして、世界三大と言われるレベルの大手宗教となればあらゆる精神の失調に対して治療法を持っていると言われる。
 それはここ混沌世界においても例外ではない。むしろ、あらゆる技術が神のリミッターにかけられたこの世界だからこそ、こうした着実な方法が有効なのだ。
 精神腐敗や混乱が散らばる天義という国の、おそらくは『良いところ』である。
 そんな音楽に合わせるように、再編した自分たちの兵隊を集めて『無影拳』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)たちは演説を始めていた。
「アナタたちは負けていない!
 この様子を見て何を言うのかと思うヒトも居るだろう。けれど負けてはいない! まだ勝負はついていない!
 ギセイは払ったろう! だけど、そうやって耐えたアナタたちのおかげでローレットは間に合った!
 今回は前回のようにはいかない。シキ官であるオレたちをヤツが殺すことは出来ないからだ。オレたちは強い!
 勝者ってのは最後に立っていた者のことだよ! そして、オレたちなら勝てる!」
 勇ましく、そして強く演説を行なうイグナート。
 一方で『沈黙の御櫛』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は静かに、そして厳かに演説をうった。
「聞け、天義の騎士。マリアはローレットより、来た。お前達を立ち上がらせ、戦に勝つために。
 だが、恐怖も、絶望も、あるだろう。マリアは寛大、だ。逃げることは許さないが、望むなら、お前達の心を縛り、強引に、率いよう。何も臆すことなく、勇敢に、戦わせてやる。
 答えろ。強引に操られ戦うか、己の意思で共に、勝つか」
 勝利を。そう叫ぶ騎士たちの士気は、イレギュラーズたちが教会に駆けつけたときとはまるで別人のようだった。
 戦争が人間の行なうものである以上、必ず士気は関わってくる。士気向上が戦争の勝利にとって重要な要素であることは、地球の各歴史に散らばるプロパガンダや楽隊の存在が証明していることだろう。
 そんな中で、『祖なる現身』八田 悠(p3p000687)はあえて優しく、包み込むように騎士たちに接した。
「さて、まずは弱音や不安を吐いてしまおうか。
 どんなことを口汚く言ったっていいよ、それが終わったら僕の話を聞いてね」
 圧倒的な力に一度は屈した者たちを受け入れ、その新たな支柱となるための接し方である。ゆえにこの後に続く文言は決まっていた。
「じゃあ今吐き出したのは無理に克服しなくていいよ。
 君たちをそのままで勝たせてあげよう。
 上手くいったら君たちのおかげ、失敗したら僕のせいだ
 頼りたまえよ、僕はその為に来た」
 安心と信頼。勇気はいつも、それを火種にして燃え上がる。それが物語の常識であり理論である。
 悠はその仕組みを、生まれながらに知っていた。
「さあ、行こうか」
 ゆっくりと浮かび上がる悠。
 突き進み、教会の扉を開く。
 差し込む日差しを、包帯だらけの騎士たちは勇ましく見上げた。
 悠が、イグナートが、エクスマリアが、夕が。
 ミルヴィが、メリルナートが、スーが、テリアが。
 それぞれの騎士分隊を引き連れて歩き出す。
「「反撃だ!」」

●サンミリアルド通りの戦い
 馬車四車線の大通りに人は無く、路肩へ等間隔に並ぶガス灯が不安に明滅を繰り返している。
 日の傾く夕刻の、逢魔が時に訪れる、真っ赤な波のごとき魔の軍勢。
 魔種BLOOD WING(BW)とそれを崇拝する邪教徒。そして彼らに率いられた赤いスケルトン歩兵たち。
 一度は破れ絶望した軍隊に、今、イレギュラーズ率いる百甲騎士中隊が立ちはだかる。
 ミルヴィは運命にあらがう音楽をかき鳴らし、部隊の先頭に立って歩み出る。
「総員抜刀――迎え撃つよ!」
 総勢四十人の部隊が一斉に走り出し、大通りを揺らし始める。
 対して、BWはにやりと笑って手を高く掲げた。
「全軍流血――薙ぎ払え」
 邪教徒たちは翼のナイフを腕に当て、勢いよく血を吹き上げていく。
 吹き上がった血液は大量の矢となり、突撃する騎士中隊へと降り注いでいった。
「この部隊のシキ官はオレだ! ムシの様に飛び回っていないでオレを殺して見せろ!」
 イグナートは大声を張り上げると、闘志を炎のように燃え上がらせた。
 身をまるごと隠せそうな四角形の盾を装備した五人の部下たちはイグナートの前へ出て整列。盾を隙間無くつなげて翳すと、降り注ぐ血矢の雨を防御した。
 そこへ剣を振りかざしたスケルトン歩兵たちが文字通りに飛びかかり、ぶつかってくる。
 衝撃に押し巻けないように歯を食いしばる騎士たち。
 イグナートは彼らを振り払うようにして突き進んだ。
「隊長、敵が邪魔でBWまでたどり着けそうにありません。このままでは奴の自由を許してしまう」
「露払いは任せてください! ゴーゴー!」
 夕は光の翼を展開すると、騎士たちに一斉砲撃を命じた。
 対戦車ミサイルのごとき無骨で巨大な杖を肩に担ぎ、神への祈りを唱える祓魔師たち。
 彼らの祈りに応じ、ホーリーシンボル弾頭が無数の放物線を描いて邪教徒たちへと降り注いだ。
 聖なる爆発の中から反撃として飛来する無数のライフル弾。
 ライフル弾を右へ左へかわしながら、夕は光の翼を広げたまま敵邪教徒の一人に拳を繰り出した。
 インパクトの瞬間に引き起こされる光の爆発。
 ドーム状のそれを確認しつつ、テリアは騎士たちに『演奏開始』の命令を放った。
 小規模のマーチングバンドとして編成された天義聖楽兵たちの演奏が仲間たちの士気を向上させていく。
 支援を受けたメリルナート隊は前進。ライフルと魔術砲撃によって攻撃してくる敵邪教徒分隊へとディスペアー・ブルーの呪歌を放つと、それに連なるように百甲聖マスケット隊による射撃が行なわれる。
 ぶつかり合いという意味では、士気の高いイレギュラーズ側が有利。頭数と総合戦力という意味では、同規模の兵と魔種をあわせたBW軍の側が有利だった。
 この二つの要素から現状は互角。ここから差が付くのは恐らく、イレギュラーズ側の戦術と統率力に他ならないだろう。
「全軍魚鱗の陣形を維持。イグナート隊をやじりにしてBWへ突き立てるんだ」
 やや浮遊したままヒールをばらまいて進む悠。
 周囲を固めるシスター部隊はホーリーシンボルを握り治癒の祈りを続けながら、嵐の中を歩むかのように懸命に突き進んでいく。
 悠は状況がよく見えていた。
 味方八個分隊と敵八個分隊。魚鱗の陣で攻めるこちらに対し、BW軍は主力であるBWを中心に鶴翼の陣形を組んで包囲する作戦を採り始めた。
 こちらとしては好都合。
 しかし、BWがイグナートの挑発に素直に乗ってくれる保証はない。ここで邪教徒の分隊をぶつけて足止めされてしまったなら、自由に動き回れるBWと包囲した軍勢によってこちらの戦力が一つずつ順番に破壊されてしまうだろう。
「あわよくば敵を包囲するつもりだったけど……どこか一つでも食い破られたらまずい。全軍方円の陣を組んで回復防御! 砲撃担当者は対象を集中して敵の頭数を減らすんだ!」
「敵分隊長を、隊ごと貫通し、叩く――」
 エクスマリアは騎士たちを強化し支援砲撃をさせると、自分の前方から素早く退避させた。
 まるで海が割れるかのごとく開かれたラインから、エクスマリアは『鉄血・魂鋼』による砲撃を放った。頭髪で編み込まれた大砲から発射された業の力が、スケルトン歩兵を貫いて邪教徒へと命中した。
 開かれた無防備なラインを突き進むように無数のスケルトン歩兵が突撃してくるが、踊るように割り込んだミルヴィがすかさず『六方昌の魔眼』を放った。
 視線によって刻まれた魔力は人であろうが人ならざるものだろうが関係なく肉体を支配し、スケルトン歩兵たちの動きを縛り付けた。
 その隙にミルヴィ配下の騎士たちが剣を繰り出しスケルトン歩兵を一体ずつ着実に撃破していく。
 自分の戦い方を知っている者は、その活かし方も知っている。
 そういった意味ではスーも同じだ。
 バランスの良い五人組に守られつつ、スケルトン歩兵の中をかき分けるようにリーダーの邪教徒を目指す。
 ステップの踏み分けによって魔術を発動させると、邪教徒へ幻惑する魔術を仕掛けていった。
 地球の中国や日本にも足踏みの手順によって印をきる術があるように、足踏みはそれだけで魔術の要素をもつ。ことここ混沌においてはそれが『神による一般化』の波をうけステップマジックとして確立していた。
「範囲攻撃を差し止めれば、つぶし合いで有利になるよね!」
 ミルヴィとスー。方向は違えど戦闘のタイプは同じ『ダンサー』であった。
 力と力。兵力と兵力。
 しかし単純なぶつかり合いではない。イレギュラーズおのおのがそれぞれの個性を活かし特化しあったことで、自由な連携をうみ破壊一辺倒のBW軍を押していた。
 とはいえ、優勢とは言い切れない状態ではあった。

●暴虐と侵略
 イレギュラーズ側が成功したことは、イグナート隊がBW隊に接触し行動の抑制にかかれたこと。
 作戦としてはこの間にBW配下の邪教徒及びスケルトン歩兵の中隊を『各個撃破作戦』によって完全に壊滅し、BW単体になった所で全部隊総力をもって撃滅するというものであった。
 それにあたって失敗したこと(ないしは作戦から欠けていたピース)は、BW及び各敵分隊の引き離しと、叩かれてはまずい分隊の保護だった。
 イグナート隊が周辺防御を片目ながらBWをブロックし攻撃を引き受け続けるという作戦は、BWに手近な部下二個分体を押しつけられるという形で封殺。
 BWはイグナート隊の回復及び砲撃支援を担当していた夕隊に強襲を仕掛け、部隊をほぼ壊滅。悠隊に飲み込まれるようにして保護・回収された夕隊の重傷者は素早く安全な距離まで離脱。
 実質的に孤立したイグナート隊へ、BWは改めて襲撃をしかけることで彼の部隊をほぼ壊滅させてしまった。
 この戦いにおいて最も重要な存在はBWをおいて他にない。この一体だけで戦況を左右しかねない存在であり、BWを抑えている間にもはや覆せない程に戦況を決定づけることが完全勝利に必要なタスクであった。
 一方で各個撃破作戦は『集中攻撃を行ない合う』という意味のスラングとしては成功したが、『孤立させた敵部隊をより大きな戦力でひとつずつ壊滅させる』という意味での成功はしなかった。
 破壊一辺倒のBW軍と防御・回復・バフを併せて慎重に攻めるイレギュラーズ軍は結局の所人数の削り合いとなり、最終的に少数の敵部隊と少数だけ残ったイレギュラーズによる即席再編部隊によるぶつかり合いへともつれ込んでいった。
 そして……。

「かわいそうだねぇー。一度負けたのにまた痛い思いをするなんてー」
 翼を広げ、飛び上がるBW。
 イグナートは流れる血をぬぐい取り、ギラリと目を輝かせた。
 助走をつけての跳躍。ジェットパックを起動しBWよりはるか高所をとっての飛燕天舞を繰り出した。
 攻撃はBWの翼をわずかにかすり、噴射がつきたことで安全降下を行なうイグナートの首がBWに掴まれた。
「そんな飛び方、驚いたねぇー」
「――ッ!」
 強烈なパワーで地面に投げられ、叩き付けられるイグナート。
 骨の砕ける音を内側から聞きながら、イグナートは最後の力を振り絞って闘気を発射。
 防御したBWめがけ、メリルナートが横合いから襲いかかった。
 呪歌によって発射されたアブソリュートゼロが命中。
 防御姿勢のまま墜落したBWは、地面を殴るようにして不時着した。
「みなさま、今のうちに安全な場所へー」
 メリルナートはアブソリュートゼロを連射しながら重傷者や戦闘不能になった騎士たちを撤退させ、一人でBWへと襲いかかった。
(本番はここから……!)
 集中攻撃をはかるべく、怪我した腕を庇いながらフロストチェインを発射するテリア。
 一方反対側からは戦闘不能になった騎士たちを下がらせ単身で突撃するスー。
「ここが正念場だよっ! みんな、いい!?」
 テリアの放った氷の鎖がBWの腕に巻き付き、舞うように繰り出されたスーの剣がBWの胸に突き刺さる。
 有効打。手応え。
 その、直後。

 爆発のような衝撃と共に地面が空を飛んだ。
 より正確に述べるなら、大暴れしたBWによって舗装道路が大胆に砕け、空へと飛び上がった。いびつなクレーターと化した大通りの中をBWがジグザグに飛び回る。
「まずい……!」
 仲間が死亡につながるレベルのダメージを受けるのを阻止すべく突入したミルヴィが、黎明剣イシュラークを繰り出してBWの翻弄にかかった。
 ミルヴィの描く白い軌跡とBWの描く赤い奇跡が幾度もねじれ絡み合い、舞い散る砂と石の風景に伸びていく。
「けが人は僕たちが回収する。あとは任せるよ」
 悠は重傷を負った仲間たちをタンカを装備したシスターたちによって素早く回収すると、BWの追撃をカウンターヒールで防御しながら大通りを中央側へと撤退。
「私は残ります!」
 腕まくりをし、ぼろぼろになったナース服を見せつけるように立つ夕。
「せめて一発――!」
 夕は虚空から救急車を一台召喚すると、迫るBWめがけて真正面から叩き付けた。
 そこで、ようやく、BWの腕がぼろりと砕けるように落ちた。
 蓄積したダメージが限界に達しようとしているのだ。
「出番、のようだな」
 エクスマリアがむくりと起き上がり、ここぞとばかりに頭髪を編み上げた純然たる力の塊をBWへと叩き付けた。

 激しい音をたてて舗装道路の塊が地に落ちる。
 その中央には、全身が砂糖菓子のようにばらばらに砕けたBWの死体があった。
 ここは危険だ。中央へ撤退しよう。
 誰かがそう言い、皆がそれに同意した。
 サンミリアルド通りにおける中規模防衛戦は、大きなダメージを受けたもののイレギュラーズと天義騎士たちの勝利で終わったのである。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)[重傷]
黒撃
アリア・テリア(p3p007129)[重傷]
いにしえと今の紡ぎ手

あとがき

 ――サンミリアルド通りの戦いに勝利し、中央への魔種進行を阻止しました。
 ――これによって中央に撤退していた多くの重傷者が襲撃されることなく、安全を得ることができました。

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