PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<冥刻のエクリプス>イレギュラー・クルセイダーズ
<冥刻のエクリプス>イレギュラー・クルセイダーズ

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●Before Impact 01
 正義とは何か。
 悪とは何か。
 世に絶対と言う物は絶対に存在しない、と厭世者は言う。
 正義も悪も、道化芝居の如きものなりとあざ笑う。
 おお、おお、その世をすねた愚か者に、我々は言おう。
 絶対正義は存在する。
 それは神に祝福されし我が国家、天義の存在により実証される。
 神の代弁者たる天義には――法王、シェアキム・ロッド・フォン・フェネスト六世には、その絶対正義を謳うことができるものなり。
 我々は断罪する。
 悪しきものを信じたものを、悪と断罪する。
 正しきものを疑ったものを、悪と断罪する。
 不正義を絶てぬものを、悪と断罪する。
 正しきを迷うものを、悪と断罪する。
 断罪する! 断罪する! 断罪する!
 冷徹に。教義に則り。神の声に則り。ただただ断罪するものなり!
 栄光なる正義はここにある。神の意志は今ここにある。
 シェアキム・ロッド・フォン・フェネスト六世がここに命ずる。
 断罪せよ! 愚昧なる悪魔どもを! 愚昧なる異端者どもを!
 その命に代えても、血反吐を吐き、地獄の釜の蓋を開き、その肉体食らいつくされようと! 我らが正義に殉じて果てし者は、死後楽園の門を叩く者なり! 恐れるな、恐れるな! 我ら絶対正義を布くものなり!
 断罪せよ!
 王宮執政官エルベルトを!
 アストリア枢機卿を!
 そして――跳梁跋扈する魔種どもを!
 獅子身中の虫たる彼奴らの首を刎ねろ! 偽りを嘯く悪魔の羽を切り落とせ!
 おお、断罪の時は今ぞ!
「故に――我らはその国民一人に至るまで、貴様らに屈することは無い」
 足音が、近づいてくる。それは風に悍ましき血の臭いを載せて。
「図に乗るなよ、異端者どもが」
 足音が、近づいてくる。
 ああ、悪魔が、悪魔がやって来る――。

●Before Impact 02
 魔種、アリギエリにとって、ベアトリーチェは崇拝対象にして永遠の乙女の象徴である。
 アリギエリは天義のごみ溜めに生まれた。そこには自分と同じ『人間失格者』が大漁に蠢き、ただただ絶望に惚け、生きるに任せ、死ぬに任せていた。
 アリギエリはどうであったか。少なくとも希望などは持ち合わせてはいなかったが、絶望にかまけていたかと言えばそうでもなかった。ただ、何か、言い表せぬぎらぎらとしたものを抱えて生きていた。そのぎらぎらとしたものが、『欲望』と呼ばれる、人が当たり前に持っているものだと知ったのは、彼女がある冬の夜、気まぐれにベアトリーチェに拾われ、『反転』した時であった。
 それまで行き場のなかった欲望は、その時、初めてその名をつけられた欲望は、その対象を目の前の魔種、ベアトリーチェへと向けた。
 この女が、欲しい。
 そう思った。
 喜んでほしい。
 怒ってほしい。
 哀しんでほしい。
 楽しんでほしい。
 愛してほしい。
 叩いてほしい。
 触ってほしい。
 憎んでほしい。
 殺してほしい。
 抱いてほしい。
 ほしい。ほしい。ほしい。ほしい。
 彼女の持つすべての感情が。すべての感覚が。すべての、すべて、彼女、ベアトリーチェのすべてが。
 欲しくてたまらない――!

「天義に憎しみがあるか? と聞かれれば――」
 アリギエリは、斬りかかってきた騎士の刃を見もせずに避けると、その手を、騎士の額へと掲げて見せた。それだけで、男はすべての生命力を吸い取られて、干からびたミイラと化す。
 天義王宮へと攻め入ったアリギエリ以下数体の『ダンテス・タイプ』と呼ばれるアンデットたちは、堂々と正面より入城。そのまま周囲の人間をあらかた殺しつくし、優雅に、踊る様に、歩を進めていく。
「正直どうでもいいわ。愛の反対は無関心って言うものね。興味がないの。だって愛していないもの。私が愛するのは、愛を求めるのは、お姉さまだけなの」
 へらへらと笑った。ぎちぎちと身体を締め付ける、ラバーボンテージスーツは、ベアトリーチェの抱擁である……と、彼女は思いこんでいた。
 実際の所、ベアトリーチェがアリギエリをどう思っているかは不明である。が、アリギエリにとって、そんなことは些細な事だ。
 欲しいと思えば、それでいい。そして相手がどう思っていようと、いずれ手に入れる。強欲って言うのは、そう言う事だ。
 鼻歌交じりで殺戮を繰り返しながら、アリギエリは行く。愛するあの人の命を果たすため。
 このどうでもいい国を転覆させて、滅びのアークを満たすため。

●Before Impact 03
 走れ、走れ、走れ走れ走れ。
 イレギュラーズ達は走った。暴動に悲鳴を上げる市街を抜けて、さらに先へ。
 天義にて発生した一連の事件、その首謀者は魔種、ベアトリーチェであった。彼女に人間的な『支配欲』があるかどうかは不明だが、いずれにせよ、天義と言う国家の破滅を狙っていることに間違いはない。ベアトリーチェは麾下の軍勢を使い、直接的な攻勢に打って出たのだ。
 加えて、獅子身中の虫たる王宮執政官エルベルト、そしてアストリア枢機卿も動き出し、ローレット、そして天義騎士たちは、各方面への対応に追われることとなった。
 その騒乱の最中、手薄となった警備の隙をつき、魔種と思わしき一団が王宮へと向かったという連絡がもたらされたのだ。
 この極限の状況において、遊撃部隊として行動可能なのは、ローレットのイレギュラーズたちだけである。
 騎士たちの無念と声援を受け、イレギュラーズ達は一路、混乱の街を王宮へ向けて駆けだしたのだ。
 やがてイレギュラーズ達が王宮へとたどり着いた時、それを出迎えたのは死屍累々と横たわる警備兵たちの姿である。干からびたミイラのような、あるいは力でねじ切られたかのような、様々な遺体が乱雑に放り投げられ、石畳にしみこむ血が、ここで起きた惨劇を思い起こさせる。
 イレギュラーズ達は意を決し、王宮内へと侵入した。道に迷うことは無い。ゆく先々には、血と死体がぶちまけられているからだ。
 惨劇の廊下を、走り抜ける。やがて王宮の中心、その扉を、イレギュラーズ達は潜り抜けた。

●Impact Now
「あら、増援?」
 ラバーボンテージスーツの女は、へらへらとした笑みをイレギュラーズ達へと向けた。イレギュラーズ達の前方には、王直掩の精鋭騎士たちが、何とか異形のアンデッド兵の攻撃を防いでいた。
「ローレットの、か」
 男――法王、シェアキム・ロッド・フォン・フェネスト六世が声をあげた。
 イレギュラーズ達は、ここは自分たちに任せてほしい事を告げる。フェネスト六世旗下の精鋭騎士たちは、その言葉に応じると、じりじりとフェネスト六世を庇いながら後退をはじめた。
「逃げるのね、偽りの正義の王」
 女――魔種、アリギエリは笑った。フェネスト六世は不快気に鼻を鳴らす。
「無駄吠えが過ぎるな。飼い主の程度が知れる」
 フェネスト六世はイレギュラーズ達へと視線を向けてから、
「努めよ、特異運命座標。そこの駄犬に現実と言う物を教えてやれ。……まぁ、全滅しても構わんが、こちらの準備を整える程度には、生きのこれよ」
 傲慢ではあったが、声援であったことは事実だろう。フェネスト六世は部屋の奥、隠し通路の先へと消えていった。性格もあるのだろうが、その表情に逃走する者の必死さは感じられない。何らかの手立てを残しているのだろう。おそらく、『最期の手段』を。
「……追わなくていいわよ」
 追おうとしたアンデッド兵を、アリギエリが制した。ぐるり、とその眼がイレギュラーズ達へと向いた。ぎりぎりと、ラバーボンテージスーツが音を鳴らす。
「こっちのワンちゃんたちは、どうせ行かせてはくれないでしょ。後ろから殴り掛かられても面倒だし。だったら、さっさと殺してしまった方が早いわよ」
 にへら、とアリギエリは笑った。気の抜けるような笑みであったが、しかしその内に、凄絶な殺意を込めていることが、イレギュラーズ達には感じ取れた。
「ベアトリーチェ(おねえ)さまの為……ワタシがあなた達を、愛(つぶ)して、愛(バラ)して、愛(ころ)してあげる」
 そしてアリギエリは、アンデット兵『ダンテス・タイプ』達と共に、イレギュラーズ達へと襲い掛かってきたのであった――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 混乱に乗じ、天義法王『シェアキム・ロッド・フォン・フェネスト六世』襲撃事件が発生しました。
 対応に向かった皆さんは、魔種『アリギエリ』と配下のアンデッド兵と遭遇します。
 この魔種たちを撃退し、法王を救い出してください。

●成功条件
 すべての敵の撃退

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 また、純種には『原罪の呼び声』の影響を受け、反転する危険性があります。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●状況
 天義王宮中央、謁見の間が舞台です。
 戦場は充分に広く、何らかの戦闘ペナルティが発生することはありません。
 眼前に立ちはだかる魔種とアンデッド兵、すべてを撃退してください。
 なお、すべての敵は、イレギュラーズ達を撃退することを最優先に行動するものとします。

●エネミーデータ
 『愛しい貴女の』アリギエリ ×1
  特徴
   ベアトリーチェ麾下の魔種。非常に強力です。
   属性は『強欲』。原罪の呼び声も、それに強く影響されます。
   判明している使用スキルは以下のとおり。
   ソウルスティール:神中単・HP吸収
   バインドラブ:神中単・体勢不利
   フレイムグリード:神遠範・炎獄
   原罪の呼び声『狂強欲』:パッシヴ。次の二つの能力を持つ。
    1.強欲の呼び声に応えた純種を反転させる。
    2.アリギエリの行動開始時に自動的に発生する。
      全てのイレギュラーズはBS抵抗値補正なしで特殊抵抗判定を行う。
      判定に失敗したイレギュラーズに『詳細不明』のBSを与える。

  ダンテス・インフェルノ×2
   特徴
    超怪力を付与されたアンデッド兵です。
    アリギエリよりは弱く、三種のアンデッド兵の中で一番タフです。
    主に物近単+『飛』スキルを使用します。

  ダンテス・プルガトリオ×2
   特徴
    全身に銃器を埋め込まれたアンデッド兵です。
    アリギエリよりは弱く、三種のアンデッドの中では一番素早いです。
    主に物遠単+『流血』スキルを使用します。

  ダンテス・パラディソ×1
   特徴
    治癒能力を持たされたアンデッド兵です。
    アリギエリよりは弱く、三種のアンデッドの中では一番脆いです。
    主に神中単+『治癒』『BS回復』スキルを使用します。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

  • <冥刻のエクリプス>イレギュラー・クルセイダーズ完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2019年07月09日 23時15分
  • 参加人数 10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
死力の聖剣
リュグナー(p3p000614)
虚言の境界
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
天才になれなかった女
メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
武器商人(p3p001107)
闇之雲
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
五行絶影
シラス(p3p004421)
お気に召すまま
久住・舞花(p3p005056)
月下美人
カイト・C・ロストレイン(p3p007200)
六枚羽の騎士

リプレイ

●強欲の声
 天義王宮。その中央、謁見の間にて、今、両者はにらみ合っていた。
 彼方――異形の屍人を配下に控える魔種、『愛しい貴女の』アリギエリ。
 此方――ローレット部隊より馳せ参じたイレギュラーズ。
 イレギュラーズ達は魔種、アリギエリを警戒しつつ、じりじりと歩を進める。緩んだ笑みを浮かべたアリギエリは、しかしその様子を見送った。やがてイレギュラーズが、法王の消えし通路をふさぐように態勢を整えると、アリギエリはあくびをかみ殺して見せる。
「よくできました。それで準備は良いかしら」
 アリギエリの言葉に、『月下美人』久住・舞花(p3p005056)は静かに息を吐いて、続けた。
「追わずにこちらに向かってくるのなら結構。手間が省けます」
「後ろから駄犬に噛みつかれるのも、気に障るのよね」
 その言葉は、法王に言われたことの意趣返しか。
「駄犬かどうか、試してみましょうか」
 挑発するように言いながら、舞花は油断なく、敵を見据える。魔種とは、それ単体で充分に強大な相手である。その能力にあかせ、暴れるだけにしていてくれれば対処は楽ではあるが、このように警備の手薄をついての暗殺を目論む程度の戦略感を持ち合わせているわけだ。これは、ベアトリーチェとやらの指示か。いずれにせよ知能を持つ猛獣とは、厄介極まりない。
「その前に貴女、その辺の死体に助言でも聞く? まぁ、何の役にも立たないでしょうけれど。ロクに抵抗もできずに死んだ、文字通りの犬死の連中よ」
 その緩んだ笑顔は、癖であるのか、あるいは油断が故か。だが、それが何方だとしても、イレギュラーズとしては決して油断のならぬ相手であることを、アリギエリの向けた視線の先――『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は、身をもって痛感した。
(「……霊魂に接触するのを読まれた……いや、はったりかしら? 得体が知れないわね」)
 手が震えるのが分かった。これより始まるのは、ギリギリの綱渡りだ。向こうはどうだか知らないが、こちらが背負っているものは法王の命、自分の命、仲間の命、国の存続。たくさんの大きなものを背に、おっかなびっくり、落ちないように――あまりにも大きい背負いものに、自然と手が震えてくる。
 恐怖か。緊張か。あるいは武者震いか。武者震いであるならいい。恐怖であるなら、今は抑え込め。泣き言も、恨み言も、終わってから存分に吐き出させてやる。
 不覚、イーリンの口元に、笑いが浮かんだ。この震えが、笑いが何であれ、やるしかない。すべての手を打つ。死ぬのなんて、死んでもごめんだ。
「……訂正してください」
 『反逆の騎士』カイト・C・ロストレイン(p3p007200)は、声をあげた。その言葉の端には、静かな、しかし明確な怒りの色が込められていた。
「犬死、と言ったことを。彼らは法王を守るために――正義を為して散っていった、騎士たちだ」
「正義、ね?」
 へらへらと、アリギエリは笑う。
「正義、正義、正義! この国の正義とやらにはうんざりしない? ワタシはするわ。ねぇ、不正義のロストレインさん? 貴方のお父上と妹君は、とても素敵だったわ。もちろん、ワタシのお姉さまには敵わないけれど」
 ――侮辱するか!
 その叫びを、カイトは飲み込んだ。家に、家族に、無礼を働くか。だが、それを訂正する資格は、今の自分にはない。そのように、カイトは考える。今は、ただ、正義を為す――裏切りの一族と、その家名を汚されようと。カイトは、その手に刃を静かに握りしめた。Grand Order。正義を為せ。なさぬままに、その刃、収めること能わず。なさぬままに、その身、死すこと能わず。それは宣誓であり、呪いである。
「あらあら坊や、やる気みたいね」
 ゆるり、と、アリギエリがその手を振るう。腐臭を漂わせながら、5体の屍人――ダンテス・タイプが方向をあげる。もはや対話の時ではない。今よりここは、聖なる戦いの場所。
 異端なる悪魔と、変則なる十字軍。
 その最前線が、ここなのだ。
「来るぞ……気をしっかり持て、皆!」
 『優心の恩寵』ポテト チップ(p3p000294)が号令をあげる。これより相対するは、強欲なる狂気の魔種。常人ならば、場に同席するだけで狂気に堕ちるであろう、特大級の呼び声を擁するバケモノだ。
 その影響は、いかに旅人であったとしても、完全に逃れられるものではあるまい。気をしっかり持て――気休めにしか思えぬその言葉が、おそらく唯一まともな対策であることが、魔種と相対するという事の絶望をよく表している。
「まずは優しく、愛(ミダ)してあげる」
 駆け抜ける、声! いや、それは実際の声ではあるまい。ただただ、脳みそをを掻きまわすような悍ましい何かが、頭蓋の内で暴れまわるように感じた! 最も悍ましいのは――その吐き気を催すような感覚すら、気を抜けば『心地よい』と思ってしまう事だろう。そして一度その方へと手を伸ばせば、あとはその声に引き寄せられるままに『反転』し、転落していく――!
 対抗する手段はそれこそ、『気をしっかり持つ』しかない。故に魔種とは――悪魔の声とは、恐ろしいのだ。心にほんの僅かな綻びでもあれば、瞬く間に地へと叩きつけられるであろう。
 その時――イレギュラーズ達の視界に、輝く何かが映った。まるで荒れ海に差す灯台の光のようなそれに、イレギュラーズ達は意識を集中する。闇夜にもがくように、僅かな光に手を伸ばし、必死で声の誘惑に耐える。
 輝くそれは、『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)の掲げる、一振りの『銀の剣』であった。
「法王陛下を、皆を必ず守る――それが俺の正義だ!」
 叫ぶ。自らを奮い立たせるように。仲間たちを泥中から引き上げるために。
「強欲の力が甚大であろうと、俺たちは砕けはしない!」
 その宣言のままに。
 イレギュラーズは誰一人屈することなく、此方へと踏みとどまったのだ!
「合格ぅ!」
 へらへらと笑いながら、アリギエリが腕を振るう。まるで巨大な爪持つ掌のような炎が、イレギュラーズ達へと襲い掛かった。身を嘗め尽くす炎。しかしリゲルはその剣を振りかざし、その炎を切り裂いて見せる。呼び声の影響か、些か体の動きが鈍い。だがそれでも、炎がイレギュラーズ達を焼き尽くすことなど、無い!
「砕けはしないと、言ったッ!」
 リゲルが刃を振ると、アリギエリのそれに負けぬほどの燃え盛る火球が、ダンテス・パラディソ、そしてアリギエリへと襲い掛かる。
「あはは、激しぃ♪」
 笑うアリギエリが手を振るい、魔術障壁を展開。降りしきる火球の嵐を、空中にて受け止めて見せる。衝撃が爆風を巻き起こし、謁見の間を激しく揺らした。パラディソの安否には興味がないのだろう、パラディソの肉体を火球が焼くが、パラディソはわずかにうめき声をあげるのみだ。
 腐った肉が焼ける臭い、石畳を焼き付ける匂い。双方の業火を合図に、今ここに、戦端は開かれたのである。

●死線・始る
 敵の婦人は、指揮官たるアリギエリ、そして前後衛アタッカーであるインフェルノとプルガトリオ。それをカバーするヒーラーであるパラディソだ。イレギュラーズは真っ先に、パラディソを落とすべく行動を作戦を決行する。
「だと思った! 放っておくわけないでしょぉ?」
 断続的に打ち放たれる焔を、イレギュラーズ達は足を止めぬことで回避して回る。
「読まれることなど、承知の上――!」
 叫ぶ『五行絶影』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が、壁面を蹴り跳躍。刹那のタイミングで壁面へプルガトリオよりの銃撃が着弾した。跳んだ汰磨羈は、空中にて印を組み、パラディソへとすり合わせた霊気を撃ち放つ。陰陽二極、すり合わされた極はそのはざまに『無』を生み出し、無に触れしものを両断する。音もなく、切断の無極がパラディソの左腕を薙いだ。ぐちゃり、と音を立てて落下した左腕を、パラディソの腐った眼がぼんやりと見やる。
「拾って付けなさい。ワタシは触らないわよ」
 アリギエリの言葉に、パラディソはのたのたと腕を拾い上げると、無理矢理左腕を切断面に差し込んで見せた。果たして両腕歪な形となったその姿に、汰磨羈は小さく舌打ちをして見せる。
「魂なき躯体……それ故に厄介だな」
「でも便利よ? 忠実って感じ!」
 アリギエリの采配に応じたプルガトリオたちが、汰磨羈へと銃撃を仕掛ける。乾いた音がパラパラと鳴り響き、汰磨羈の背後、壁に無数の穴をあけた。いつまでも同じ場所にとどまっている汰磨羈ではない。
「死者を冒涜するか、痴女め!」
 へらり、とアリギエリが笑う。ぎぃ、と身体のボンテージがなった。
「こちらがお留守ッ!」
 舞花の姿が陽炎のごとく揺らめくと、パラディソへと一足飛びに接触した。刹那、翻る斬撃。一閃がパラディソの腹部を薙ぐと、ドバドバと腐った臓物が落下。
「プルガトリオ!」
 アリギエリの言葉に、プルガトリオが舞花へと向けて銃撃を開始。回避は困難か。舞花は『斬魔刀』をくるりと翻し、その銃弾を尽く弾いて見せる。だが、その衝撃に、腕に痛みが走った。
「あら、やだ。軽業師って感じね?」
 なおも無邪気に笑うアリギエリ。その表情から余裕の笑みが消えることは無い。
「呼び声に惑わされるな! 奴の狙いは、こちらの集中力を『氷漬』けさせることだ!」
 ポテトが叫ぶ。呼び声の副産物(バッドステータス)は、こちら能力低下である。ポテトの大号令により、イレギュラーズ達の精神は再び戦闘状態へと研ぎ澄まされ、清浄なる状態へと戻る。
(「だが……それも毎度、定期的にとなると辛いものがある……!」)
 内心、ポテトが歯噛みする。殴りつけるかのような呼び声は、未だに不定期に、油断した足元をすくうように襲い来るのだ。傷の回復も担わなければならぬポテトであるが、どちらを優先するか、その重要性は普段の比ではなかった。とはいえ、ポテトは適切な行動を選択している、とはいえる。
「……くそっ!」
 『天義の希望』シラス(p3p004421)は恐怖に身震いする足に力を込めて、パラディソへと駆けだした。まだコイツの相手をしている分にはいい、などと思ってしまう。アリギエリ。奴の『圧』は、以前相手にした魔種とはまた質が違った。
(「まるでサーカスのジャコビニやクラリーチェのように……くっ、怯えるんじゃぁないぞ、俺!」)
 力強く足音を鳴らす。パラディソへと接敵する。戦闘術、『閃翼』。その構えから放たれる、不意の破裂音(猫騙し)が、パラディソの腐った眼の注意をひいた。
「いいぞ……こっちだ!」
 つられるように、パラディソがふらふらとシラスへと向かって歩き出す。
「間抜けな子……! インフェルノ、何をしているの! あの目障りな子を――」
「そうはさせないよ」
 声とともに駆け抜けるは、『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917) だ。メートヒェンはインフェルノへと接敵。くるり、と回転すると、そのまま横なぎの蹴りを放った。インフェルノはぐえ、と声をあげて激しく吹き飛ばされる。
「ここは法王の謁見の場だ。メイドとして、生ごみの持ち込みはご遠慮願いたい、と忠告させてもらうよ」
「あら、ごめんなさい? すぐに片付けるわ! インフェルノ!」
 残るもう一体が、メートヒェンへと襲い掛かる。振りぬかれた拳へ、メートヒェンは両手をついて飛び跳ねるように回避。おまけとばかりに、顔面に蹴りの一撃をお見舞いしてやる。メートヒェンは蹴りの勢いを利用して距離をとる。
 どちらのインフェルノも、致命傷には遠いようだ。
「やれやれ、タフだね」
 軽口一つ。
「軽やかな物だ」
 告げる『戯言の灰』リュグナー(p3p000614)が声をあげる。にいっ、と唇を釣り上げ。瞳を覆う包帯の隙間より、怪しい輝きを漏らしながら。
「ではこちらも一つ――目を奪って……いや、奪われて見せようか」
 狂気の視線が、パラディソを睨みつける。狂気は狂喜として伝染する。それは、抗えぬ自惚れ。思いあがれ、さすれば泥中にその身を預けん。
 パラディソの、ただでさえぐちゃぐちゃの頭の中に、さらなる精神的なショックが与えられた。パラディソは、もう、すでに訳が分からなかった! シラスを追い、しかし沸き上がる狂喜の感情が、それを狙う事すら困難とさせる!
「ふぅん……なかなかやるじゃない」
 楽しげに笑うアリギエリへ、イーリンは返した。
「情報は――貴女が犬死と笑ったもの達から得たわ」
 ぴくり、とアリギエリの眉がゆがむ。その視線を、正面からイーリンは受け止めた。その手に『神話殺しの御伽噺』、それを強く握りしめて。
「どう? 死したる犬に噛まれた気持ちは。これが、私たちの矜持。神がそれを望まれる……人を、舐めるな」
 にぃ、と。
 アリギエリは笑った。
 恍惚とした笑みである。
 ふるふると体を震わせて――端的に言おう。アリギエリは絶頂した。
「いいわ、貴女……その目! その目! ええ、ええ、仲間には――なれないのよね。なら、私が飼ってあげる。両手両足を殺いで、首輪をつけて、ギャグボールはお好み? 目隠しは? 生かさず殺さず、ワタシの物にしてあげるわ? 死んだら死んだで――また蘇らせてあげる? どう?」
 本気か、嘲笑か。くねくねと身体をくねらせ、ぎりぎりとラバーボンテージスーツを鳴らすアリギエリの恍惚とした高速の言葉に、イーリンはさすがにげんなりと眉をひそめた。
「有り難くないプロポーズね。お断りよ」
「貴女の意思は、どうでもいいの。私は強欲。必ず手に入れるわ」
「ヒヒヒ、これは負けられなくなったねぇ、司書の方」
 楽し気に――その興味は、イーリンとアリギエリ、両者へと向けられているのだ――『闇之雲』武器商人(p3p001107)は笑った。
「最初から、負けられない戦いだったわ。……抑えられるのね?」
 イーリンの言葉に、武器商人は、ヒヒ、と笑った。
「できるかと聞かれれば、できると答えるのが商人と言う物さねェ。まァ、お任せあれ」
 ゆらり、と武器商人はアリギエリの前へと立ちはだかる。再びへらへらとした表情で笑うアリギエリは、
「あら、ダンスのお誘い?」
「そうだねェ、踊りながら――少しお話しないかい?」
 ヒヒヒと、武器商人は笑う――。
「あいつは武器商人が抑えるわ! 今のうちに!」
 イーリンの叫びに、応じたのはカイトだった。
「今こそ俺は……ロストレインは、正義を為す!」
 錯乱を続けるパラディソ、その正面にて、カイトは跳躍。パラディソの後ろをとると、振り向きざまに剣を薙いだ。
 斬撃が、パラディソの頭部を切り飛ばす。
 ぐえ、と悲鳴を上げて、パラディソが、地に倒れ伏した。
 戦局が、少し動いた――。

●死線・続く
 死闘は続く。回復を絶たれた魔種一派ではあったが、それでももとよりタフな生命力を持つゾンビと、怪物級の魔種のチームである。そこからやすやすと崩れるようなものではないだろう。
 だが、少なくとも機先を制したのはイレギュラーズ達である。この勢いを殺さぬまま、攻め続ける必要があった。
「――斬るッ!」
 吠えるリゲルの刃、絶対零度の凍気を伴う斬撃が、プルガトリオの胸部を切り裂く。腐肉ごと、胸部から突き出した銃口が切り飛ばされ、ガアア、とプルガトリオが吠える。
 お返しとばかりの銃撃が、リゲルを狙って放たれたリゲルは頭部を腕でかばいながら走り射線をそらす。いくつかの銃弾が鎧に食い込み、痛みが神経を駆け巡った。
 同様、プルガトリオの攻撃を引き付けていたシラスにもまた、雨あられの如き銃撃が降り注いでいた。
「厄介だ……けどなぁッ!」
 とにもかくにも、一秒たりとも足を止めてはいられなかった。止まれば、死ぬ。それを理解していたからこそ、走り続けた。脳裏に響く、強欲の誘惑! 必死ではねのける!
「お前は何だ、自分の名前を言ってみろォ!」
 叫び、プルガトリオへと向けて跳躍した。その言葉は、自分に言い聞かせるために。
 そうだ、そうだ、お前は何だ、俺は、なんだ!
 俺はシラス、俺は『天義の希望』! そうなると願った。そうなると誓った。故にこんな所で、足を止めるはずがない! 故にこんな所で、堕落にふけるわけがない!
 宙を蹴って加速。プルガトリオの眼前に高速で接近。シラスはすべての力を込めて、拳を突き出した。べぎり、と骨が折れる音が聞こえる。自身の拳ではない。突き出された拳の一撃が、プルガトリオの背骨を粉砕していた。引き抜き、蹴りだす。プルガトリオの死体は勢いのまま弾き飛ばされ、そのまま動かなくなる。
「いったん下がれ、シラス! 傷を!」
 ポテトが叫ぶ。プルガトリオを始末できたシラスであるが、決して傷は浅くはない。厚意に甘え、一度その身を引く。
「残るは3……!」
 敵陣の包囲を続ける汰磨羈が声をあげる。壁面を蹴って加速、プルガトリオの腹の内へ。
「轟炎……二刀ッ!」
 決戦兵器たる『霊光器・双剣型両義律界『陽虔』』そして『霊光器・双剣型両義律界『陰劉』』、その白と黒の刃をクロスさせ、斬りつけるや、爆発的な闘気が炎となり、プルガトリオの傷口を焼きつつ吹き飛ばす。謁見の間の壁に激突したプルガトリオが、その身を炎に焼かれながらも立ち上がり、動き出す、
「そこで、寝ていろ」
 間もなく、舞花がプルガトリオの首を刎ね飛ばした。くるくると宙で回転する
プルガトリオの生首を、斬魔刀の鞘で以って殴り飛ばし、粉砕せしめる。
「……やだわ。もう少し持ってくればよかったかしら」
 ぎぃ、とアリギエリがその手を掴むと、中空より無数の黒い液体のゴムが現れ、武器商人に襲い来る。接触したものを拘束する魔力のゴムが、武器商人のかざした魔銃にぐるりと巻き付く。
「おやおや、執念深げなものをお持ちのようで。ヒヒヒ、やはり面白いねェ」
 笑う武器商人――アリギエリはその様に、言いようのない何かを覚えた。何か、自らを凌駕する悍ましい何かと相対したかのような感覚。いや、それもまた、錯覚であろう……アリギエリはそう思った。
 一方、残る魔種陣営の手下は、インフェルノ2体のみとなっている。
「大掃除も、もうすぐと言った所かな?」
 メートヒェンが、インフェルノを蹴り上げる。ごり、と首の骨が折れるが、ぐにゃりとしたその首のまま、インフェルノは拳を振り上げ、メートヒェンへと殴り掛かる。最小限の動きで、メートヒェンは打撃を受け流した。石畳がえぐれる。受け流したとはいえ、メートヒェンはダメージをもらっている。それは決して、浅いものではない。
「直撃したら……とは考えたくはないね」
 苦笑するメートヒェン。
「だが……それも終わりだ。対価をいただくときが来た」
 リュグナーが声をあげる。その手にもつは、死神の鎌。ゆらりと揺らめく、実体なき、収穫の鎌だ。
「この国を守らんとするこの者達の生き様には興味がある。故に、我が戦友の未来のため……ご退場願おうか!」
 ふわり、と鎌を振るう。さあ、収穫の時は来た。放たれた精神の銃弾が、インフェルノの胸に風穴を開ける。動かぬ心臓を破壊され、インフェルノはどう、とあおむけに倒れた。インフェルノの眼に、リュグナーの姿はどう映ったであろうか? それは今となっては分らない。だが、今この時、リュグナーは死に場所を失った魂を収穫する、死神であったことに違いはなかった。
 残り――。
「1ッ!」
 治癒の術式を飛ばし、イーリンが叫ぶ。駆ける、カイト。鈍く輝く魔剣。戦乙女の祝福の下、魔剣はすらり、とインフェルノの身体を斬りつける。一刀。足りぬのなら、何度でも斬りつけよう。二斬、三斬、斬、斬、斬!
 とどめの刃が、インフェルノの喉笛へと叩き込まれた。ぶしゅう、とお推移を垂れ流し、インフェルノが倒れ伏す。
 これにて、魔種陣営は壊滅――残すはアリギエリ、奴のみ。
「――お姉さま!?」
 と――。
 アリギエリが、叫んだ。
 イレギュラーズ達にはこの時、知るべくもない事ではあるが、法王らによる最後の手段――『天の杖』による砲撃が開始されたのである。
 そして、その天の杖による戦局の大きな変動、その知らせが、アリギエリへともたらされたのである。
 アリギエリが、わなわなと身体を震わした。ギリギリとそのスーツを鳴らし、髪を掻きむしる。浮かべたものは、怒りであった。
「何をした……何をした! お前らッ!」
 憎悪と、怒り。それは、イレギュラーズへ、そしてその背後に待つ法王に向けられていたのであった。

●死線・決する
「さァて……? 心当たりはあるけれど、確証はないのでねェ!」
 ヒヒヒ、と武器商人は笑う。ぱん、と手を叩き、その口を三日月のごとく歪め。
「サァ、サァ、少しお話をしようか、愛しい愛しいアリギエリ。一方通行の愛はさぞ心地が良かろうね、わかるとも。あの永遠の淑女はとても愛しいよねぇ? ――ところで。我(アタシ)はずっと愛するタチだけど、キミはーー手に入れたモノには飽きるタイプ?」
 は――。
 と。
 アリギエリは息を吐いた。
 決まっている。
 愛するのだ。永遠に。
 決まっている。
 だがどうしても、そう、口にすることができない。
「だろうねェ」
 武器商人は、笑った。
「だってキミは――強欲を気取りながら、何一つ、手にしてないじゃぁないか! だからわかるまいよ! 自分がそれを手に入れた時どうするかなんて!」
 パクパクと。
 口を開ける。
 反論の言葉など出てこない。
「――キミは強欲でありながら、その対象を決して得られぬものにしてしまった――故にキミは、永久に飢え続けるわけだね! 色欲か、嫉妬か、と思ったけれど、これは驚き! 君はどちらかと言えば暴食より――飢餓ゆえの、強欲! 面白いねぇ! 故に! 愛おしい――」
「だ――まれぇぇぇぇぇぇッ!!」
 至近距離で爆発する焔が、武器商人を飲み込んだ。爆炎に飲み込まれてなお、武器商人は奇妙な笑みを浮かべながら、ふわり、と後方へと跳び、着地して見せた。
「殺す――殺す! お前たちは! 一人残らずッ!」
 荒れ狂う暴風のような炎が、周囲の一切を吹き飛ばす。敬愛すべきベアトリーチェの期待を裏切ったことの怒りと絶望。そして己が本質を見抜かれたが故の周知。生じた負の感情が、すべてを嘗め尽くす強欲の焔と化して、アリギエリの周囲に顕現していた。
「……あれは、やり過ぎだ」
 汰磨羈が呆れたようにぼやくのへ、武器商人はケタケタと笑った。
「ウブな子には刺激が強すぎたかね。しかし――」
「殺意がこっちに向いているのは、好都合だ」
 リュグナーが告げる。その言葉通り、最悪は、アリギエリに此方を突破され、法王を襲撃される、という事態である。
 現状、些か後ろ向きな言い方になるが、こちらが全滅するか撤退するまで、アリギエリはここで暴れ続けるだろう。
「どっちにしても、本気の奴とは戦わなければならないんだ」
 リゲルが、言う。手に輝く銀の剣。
「ここで奴を倒し……正義を為す!」
 カイトが、言う。手に輝く誓いの剣をかざし。
「さて、大掃除も大詰めだね。隅から隅まで、綺麗に行こうか」
 メートヒェンが、構えた。
「了解よ。まさに正念場ね」
 舞花が、構えた。
「こういう時は……なんていうべきかな?」
 シラスが、言った。
「決まってる」
 ポテトが、笑った。
「神がそれを望まれる――行くわよ、皆」
 イーリンが、言った。皆が頷き。一斉に、駆けだす。
「吠えるなぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 アリギエリの絶叫! 叩きつけられる高濃度の呼び声が、イレギュラーズ達の脳裏を叩く。気が遠くなり、手が、脚が萎えるのを、必死に踏みとどまる。
 広範囲をカバーする、巨大なラバーの両手が、両側面から、押しつぶすかのようにイレギュラーズ達へと襲い掛かった。
「右!」
 リゲルが、叫ぶ。
「ヒヒ、じゃあ、左かねェ!」
 武器商人が、応じた。とっさに両端に跳んだ二人が、ラバーの右手を/左手を、銀の剣を/青い灯火を以って、抑えにかかる。
「合わせる!」
「任されたわ!」
 汰磨羈、そして舞花が空を走る。上段/下段より振りぬく焔の刃/神速の抜刀が、この時、アリギエリの防御をすり抜け、その肌に深き切り傷を負わせた。
 呆然と、己が肌についた傷を見やるアリギエリ。
「ぐっ……お前達! お姉さまのための肌に! お姉さまのためなのにッ!」
 自らを巻き込むことすらいとわぬ焔が、汰磨羈と舞花を弾き飛ばした。
「知るか……安心しろ。”彼女”も、すぐにお前の許へ送ってやる」
 態勢を整えつつ、挑発の言葉を述べる汰磨羈を、アリギエリは血走った眼で追った。
「まだだ、息を付かせるな!」
 ポテトの大号令が響き渡り、シラスとメートヒェンが続く。汰磨羈と舞花の斬撃を受けてなお、魔種の気は衰えることを知らない。
「は……ホント、バケモンだぜ。胃が痛くなる……!」
「では、終わったら胃薬を用意するよ」
 軽口の応酬をはさみつつ、シラスとメートヒェンが突撃した。流星の如き抜き手が、とっさに突き出したアリギエリの右手を貫いた。ぼたぼたと流れ出す、アリギエリの血液。間髪入れず、飛び跳ねたメートヒェンの回転蹴りが顔面を捉え、そのまま派手に後方へと吹き飛ばす。
 常人であれば七度は死んだであろう衝撃をまき散らして、アリギエリは地を滑った。すぐさま立ち上がる。だが、そのボロボロになり乳房すらまろびだしたボンテージスーツの様子を見れば、決して軽いダメージなどではなかったことは用意に察知できる。
「があああああっ!!!」
 悲鳴とも、怒号ともつかぬ声をあげて、アリギエリが焔をまき散らす。だが、その炎は、先ほどまでのそれにくらぶれば些か温い。
 その生命力と共に、発揮する力もまた、確実に低下しているのだ。
「愚かで、哀れな悪魔よ。此度、お前が奪えるものは、我の視線のみとしれ」
 爆風を裂いて、狂眼の視線がアリギエリを貫いた。アリギエリの脳裏を駆け巡る、異常なる全能感。それが偽りであることを、アリギエリは分っていた。だが、魔王の眼は、そのようなささやかな抵抗すら無力化し、無力の内へと沈めるのだ。
「決めてくると良いわ、ロストレイン」
 イーリンが、言った。あえて、そう呼んだ。それを、カイトが望んでいたような気がしたからだ。
 イーリンが、治療術式を、カイトへと飛ばす。
 カイトは頷いて、駆けだした。
 手にした、正義の剣を。
 すべてがスローモーションの世界で。
 カイトは、アリギエリと目が合った――気がした。
 うんざりするこの国の正義、と――。
 アリギエリは言った。
 あるいはアリギエリは、この国の被害者であるのかもしれない――。
 そう、思った。
 手を差し伸べるべきなのか。
 少しだけ、迷った。
 でもきっと、それは――アリギエリも、望んではいないだろう。
 この国に救われることなど、望んではいないだろう。
 だから――。
「これがロストレインの正義だ!!」
 断罪することこそが、せめてもの手向け。
 きっとその方が……この国を憎んだまま、逝ける。
 振りかぶった刃が、アリギエリの身体を、斜めにないだ。
 勢いを殺さぬまま、ぐるりと回転し、今度は横なぎに、アリギエリへと斬りつける。
 鮮血が、迸った。
 がぼ、と、アリギエリが血を吐いた。
 その手が、何かを掴もうと、天を仰いだ。
 その手がつかんだものは、何もない。
 何も掴めぬまま――。
 カイトの刃は、断罪を、悪魔に与えた。
「……やった、のか」
 カイトが呟いた。
 わずかな、静寂。
 もはや動くことのない、悪魔。
 イレギュラーズ達が、それを理解するのに、ほんのわずかな時間が必要だった。

 この時、不確定なクルセイダーたちの手により。
 ――正義は、為されたのである。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様の活躍により、正義はここに、執行されました。

PAGETOP