シナリオ詳細
<冥刻のエクリプス>ラ・ルス
オープニング
●祈りの行方は
フォン・ルーベルグ南西部。
ほんの二時間前まで、すぐ近くで戦いが起こっていた。
魔種、と呼ばれるものと、天義の騎士たちの死闘だ。爪痕は凄惨であり、町の一角はほとんど瓦礫の山に変わっていた。
教会もまた、全く被害がなかったわけではない。魔種が放った邪悪な術の余波で、壁の一部や慎ましいながらも美しかった屋根飾りが、屋根の一部ごと吹き飛んだ。
門も石塀も役目をはたしていない。ともすれば邪魔なので撤去したいのだが、まともに動ける男手がない以上、どうしようもなかった。
シスター・レレは唇を噛む。
神官が不在の間の出来事だった。近所の人々が折を見て祈りにくるだけの、たった二人で管理している小さく平凡な教会だ。すでに五年つとめているレレだけでも十分だろうと判断して、彼はこの混乱渦巻く天義のどこかに行ってしまった。
仕事だ。仕方ない。
無事だろうか。不安で仕方ない。
なにより――この状況。
負傷した騎士たち。帰る場所を失った三十四人の老若男女の市民。
おなかをすかせたものがいる。大切なひとを目の前で失ったものもいる。
大なり小なり怪我だってしている。戦いで。或いは逃げる最中に、落ちてきた瓦礫にあたって。
レレは、癒しの力を持たない。できることといえば正義を信じ、神に祈るだけだ。
(私は、なにもできない)
教会にある物資はありったけ出した。それでも、手も物資も足りない。泣いたり呆然としたりしている人々に、手伝って、など言えるはずがない。
レレは神に仕える身だ。こんなときこそ、慈愛の心を以て人々の助けになるべきだ。
地面に座る母に抱かれ、赤子が泣いている。もうミルクがない。
薄っぺらい布に横たわる騎士が呻いている。もう薬草も包帯もない。
お腹が空いた、と子どもがぐずる。もう食べ物がない。
近くの教会に連絡はとった。物資の補給を要請した。
だが、事情はどこもほとんど変わらない。どこかを助ければこちらが苦しむ。
分かりきっていたことだったが、言葉を濁され、レレは自ら連絡を切った。
(神よ……)
藁にもすがる思いで、最後の心あたりに頼る。
誰の命も終わらせないために。
●今、ここに。
「皆さん、大至急行ってほしいのです!」
慌ただしく『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は大量の書類とともにやってくる。すべてをテーブルに置いてから、ほとんどを掻っ攫った。
「あ、こっちは違うのです。請求書なのです」
「請求書?」
なんの、とイレギュラーズのひとりが首を傾ける。
「救援物資なのです。お薬と毛布、食料がたくさんなのです。もうすぐ……あ、届いたのです」
扉が外から叩かれ、ユリーカが対応に出る。すぐに戻ってきて、説明を再開した。
「馬車を用意しましたが、自前の運搬手段があるならそちらを使用していただいて構わないのです。可能な限り迅速に、たくさんの物資をフォン・ルーベルグ南西部の教会に届けてほしいのです」
「魔種と戦闘し、負傷者も出ているのか。癒しても構わんのだろう?」
「もちろんなのです!」
依頼のメモを見たイレギュラーズに大きく頷き、ただ、とユリーカは可愛らしい顔を厳しくしかめた。
「その魔種、まだ生きているのです」
「……取り逃した、のか」
「そうなのです。近くにくるかどうかは不明ですが、一応、内部にいる情報屋さんからありったけの情報をもらったのです。十分に警戒し、事にあたってほしいのです!」
- <冥刻のエクリプス>ラ・ルス完了
- GM名あいきとうか
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年07月08日 22時40分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
瓦礫が目立つ教会の前に、馬車とHMKLB-PMがとまる。ローレットが用意したものだけでなく、イレギュラーズの私物も混じっていた。
おかげでそれなりの規模の商隊のようになっている。もちろん、どこにも隙間ができないよう、当初の予定よりも多くの荷を積んできた。
「こんにちは!」
飛ぶように馬車から下りた『白金のひとつ星』ノースポール(p3p004381)が、呆然としている人々に明るく声をかける。
「注文品の配達だ。物資と武力であってるな?」
尾花栗毛の人馬である『静謐なる射手』ラダ・ジグリ(p3p000271)は、自らの背にまで限界量の荷物を背負っている。
「ローレットからやってきましたー。もう大丈夫ですわー」
御者台から下りた『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)は、のんびりと言いながらラダの背から手際よく荷を下ろした。
「落ち着け! 特に怪我人は動くんじゃねぇ!」
聞き知った名にざわめき、体を起こそうとした騎士たちを『緋色の鉄槌』マグナ=レッドシザーズ(p3p000240)が一喝する。
「なにが、あったかは、分かってる、よ。あとは、任せて、ね」
「そういうことだ。安心して助けられろよ?」
勇気づけるように浅く頷いた『孤兎』コゼット(p3p002755)の言葉に、『アニキ!』サンディ・カルタ(p3p000438)が片目をつむった。
「ってことで見回りに行くけど。出てくるなら今だと思うぜ、責任者さん?」
人々がひしめく庭の先、扉が開け放たれたままの礼拝堂に向かって『天義の希望』シラス(p3p004421)が声をかける。
焦燥しきった様子の修道女が、目を見開いて、ふらりと現れた。
「こんにちは。レレですね? 手伝っていただけますか?」
走り抜けた風に、『星片の跡』エルナ(p3p007051)の白衣の裾が翻る。
コゼット、サンディ、シラスが巡回に出る。
ラダは小さな教会の敷地に散らばった瓦礫を除き始めた。
「お掃除するの?」
泣き腫らした目の少年に声をかけられ、ラダは肯定する。
「ああ。散らかっているよりいいだろう?」
「……手伝っていい?」
「助かる。だが、怪我をしない程度にな」
首を縦に振った少年が、塀だった拳大の欠片を持ち上げた。
見渡せば、ちらほらと瓦礫の除去を行い始めた者たちがいる。
「……私たちがきっかけになったのか」
ただ呆然とするのではなく、動くための足掛かりに。
「レレさん、炊き出しをしましょう!」
人々が緩慢に動き出す中、視線を泳がせるレレの手を引いて、ノースポールは食料を詰めこんだ馬車に移動する。
「用意できるだけ用意してきました! なにを作りましょうか? それなりに料理はできるので、なんでも指示してくださいね!」
「私……」
自らが要請したとはいえ、予想を超える救いを、彼女はまだ受け入れ切れていない。
「私たちがきたからには、もう大丈夫ですからね!」
頑張りましたねと、言外に労いをこめてノースポールは笑う。
「あ、そうだ。お菓子もあるんです」
お菓子、という言葉を耳にとめた子どもたちが反応する。
肩越しにそれを確認して、少女は馬車の隅から出した箱に手を入れ、レレの手のひらにひとつ置いた。
「レレさんも、はいっ!」
「……ありがとう、ございます」
泣き出しそうになって、レレはどうにかこらえる。
まだ仕事は終わっていない。むしろ、これからだ。
「具だくさんのシチューとふわふわの白パン……でもいいですか?」
「はい!」
塗り薬や包帯が詰められた箱を持ち、マグナは小さく息をつく。
「あっちはどうにかなりそうだな」
立ち直ったらしいレレとノースポールが炊き出しの用意を始めている。
ユゥリアリアとエルナは治療のために走り回っていた。ラダは瓦礫を退けつつ、礼拝堂の壁の補強をしている。
「さぁて」
どの箱にどういった用途の薬品が入っているのかは、移動中に確認してあった。大勢の怪我人を相手にしたことなどないため、限られた時間内でできるだけの用意をしておきたかったのだ。
おかげで、積み荷の場所も量もほぼ完全に把握している。
「すみません、彼女の手当てをお願いしてもいいですか?」
「あ?」
青年が木陰でぐったりと横たわる女性を指さす。マグナは眉をひそめた。
「足が折れていて……」
「見りゃ分かる。アンタの治療もいるだろってことだ」
マグナのメガ・ヒールが青年の腕を治療する。
息をのむ青年を置き去りにして、今度は女性の側に腰を下ろした。
ユゥリアリアは微笑んで、騎士の包帯の交換を終える。
重傷患者の手当てはほぼ終わっていた。あとはマグナとエルナに任せても大丈夫だろう。
歌姫の足取りは軽く、礼拝堂へ。
ひとつはあるだろうと踏んでいたそれは、難なく見つかった。
「お借りしますわー」
神の像に断って翼の形の楽器を拝借し、暗い顔をした子どもたちが身を寄せあっている場所に迷いなく行く。
すとんと座ったユゥリアリアに、五人分の視線を集まった。
「――――」
美しい歌声が響き渡る。
天義の子どもたちもよく知る童謡だ。本来は鍵盤楽器による演奏に手拍子がつく。
体を左右に軽く揺らし、ユゥリアリアは穏やかな表情で歌い続ける。
ひとりが、ぱん、と手を鳴らした。
連鎖するように子どもたちが手を叩き、歌い始める。あちらでも、こちらでも、子どもが、大人が、歌う。
「誰かが俯いているのを見ると、誰もが俯いてしまいたくなるものですー」
だからこそ顔を上げて歌う。暗い雰囲気を吹き飛ばす。
「懐かしいなぁ」
呟く騎士の目から涙がこぼれる。エルナは口の中で言葉を繰り返し、瞬いた。
「娘が好きだったんだ、この曲」
「……娘さんは」
「助けられなかった。嫁もなぁ。家の、下に」
魔種。
その攻撃から迅速に避難できた者もいれば、犠牲になった者もいる。
「守れなかったんだ。俺はだめだなぁ」
「違う。決して『だめ』などではない」
嗚咽をもらす男に、エルナは静かな、しかし確たる声で言う。
「貴方の傷は決して浅くはありませんでした。懸命に戦った証です」
「……そう、かな。俺はだめな夫で、父で、騎士じゃなかった、かな?」
「魔種に果敢に挑んだ貴方を、そう評する者はいません。……食事ができたようですね。持ってきますので、安静にしていてください」
握り締めたこぶしを開いて、エルナは炊き出しの方へと向かう。いつの間にか調理する人の数が増えていた。
ノースポールから預かったほら貝を片手に、コゼットは瓦礫の間を歩く。
「……まだ、ない」
悪意はまだ感じとれない。イレギュラーズの訪れに気づいていないのかもしれない。
わずかに目を細めた少女の視界内で、シラスは大きめの瓦礫を退けた。
「っぃしょー。あーあー、連絡連絡。こっちはまだ異常なし」
声をかける相手は、肩に載せたウサギだ。ノースポールと聴覚を共有した動物を通し、こちらの情報を逐次伝える。
同時に、瓦礫を撤去して馬車の通り道を作っていた。
背負ったジェットパックで軽く飛びつつ、サンディは周辺に目を凝らす。
家だった残骸が散らばるばかりで、人影は見あたらない。――いや。
「シラス、コゼット!」
「ん」
「生き残りか?」
邪魔な瓦礫を足掛かりにコゼットが跳ねてきた。シラスも身軽に障害物をかわし、サンディの元に駆けつける。
地に足をつけたサンディは、積み上がった石材を慎重に撤去していた。この下から、救助を望む誰かの思いが流れてくる。
「おーい! 助けにきたぞ、もう大丈夫だ!」
「ゆっくり、こっちに、きてね」
瓦礫の下、壁だったものに倒れかかった棚の下に、女性と少女が身を小さくして座りこんでいた。その細い隙間にコゼットは手を差し伸べる。
まずは少女が。続いて女性が這い出そうとした瞬間、棚がバキッと嫌な音を立てた。
「危ねぇ!」
とっさにサンディが女性の手首を掴んで引っ張る。間一髪、彼女の足が棚の下敷きになることはなかった。
「ありがとうございます……!」
「怪我は、ない?」
「歩けるか? みんな向こうの教会に避難してるんだ」
「みんな……。あの、そこに騎士はいましたか?」
少女と手を繋いだ女性の問いに、三人はほとんど同時に頷いた。
「魔種と戦った騎士たちだろ? 避難してるぜ」
「手当て、してるよ」
「もしかして、知りあいだったりする?」
シラスの問いに、女性はわずかに口許を緩める。
「夫かもしれなくて……」
「きっと、心配、してるよ」
「ああ。早く行ってやりな」
にっと笑ったサンディと、手を振るコゼットに背を押されるように、二人は歩きやすい道を選んで教会に向かう。
「ポー、聞こえるか? そっちに二人行ったから、よろしく」
シラスがウサギを通して連絡をとった直後、弾かれたようにコゼットが西の方を見る。一拍と間を置かず、サンディも感じとった。
耳障りな雑音――隠すつもりもない悪意。
「早い……」
「おっと、まさか俺たちを無視するつもりじゃねぇよなぁ?」
疾風の如く教会方向に走り抜けようとしたそれの足元に、サンディは髑髏のカードを刺した。
「貴様らは」
「ローレットの精鋭サマだ。強いぜ?」
こっそりウサギを逃がしてやりながら、シラスは不敵に笑う。
天義の騎士は邪悪な笑声を低く放ち、剣を抜いた。
「強い。強いのか」
「そりゃあもう。なぁ、残党狩りに精を出す見上げた騎士さんよ。ひとつ俺の槍と遊んじゃあくれねえか」
「……ほう。面白い武器だ」
サンディが構えたのは死滅の必殺槍だ。レプリカとはいえ、それが異様であり、業物であることは、騎士――魔種クルテッドの目にも明らかだった。
「いいだろう、相手をしてやる」
その言葉を開戦の合図とするように、ほら貝を高く吹いたコゼットが騎士に向かって跳ねる。
「見回り班、魔種と遭遇しました!」
ウサギを通してシラスから伝えられた報告を、ノースポールは緊張とともに伝達する。
「大丈夫、すぐに戻ってきますのでー」
傍らに置いた大槍を素早く掴み、楽器を近くの子どもに託して、ユゥリアリアは立ち上がった。不安そうな少年少女に、にこりと笑んで手を振る。
「行ってきます」
瞳を揺らすレレに、ノースポールは励ますように顎を引く。レレは浅く頷き返した。
「皆さん、礼拝堂の中へ。外は危険です」
どよめいていた人々を、エルナが礼拝堂に誘導する。
「ひとついいか。魔種……、例の騎士に有効な手立てを知っている者はいないか?」
しんがりを務めている騎士たちに、ラダが問いかけた。
それぞれ顔を見あわせていたが、やがて若い騎士が名乗り出る。
「あいつ、左に弱いんです」
「左?」
「左目と左耳が……。むかし、怪我したんです。……こんなことするやつじゃなかったのに、なんで……っ!」
顔をゆがめ、泣き崩れかけた騎士を他の騎士が支えた。
彼の肩に、ラダが労うように手を置く。
「ありがとう、助かる。彼のことは私たちが必ずとめよう」
「泣いてばっかりもいられねぇ」
まだ少年の面影を残す彼の背を、マグナがやや強めに叩く。
「ここに攻めこまれたとき、市民を守れるのはアンタたちだ」
「……俺たちが……」
「いいか、天義の騎士ども! 魔種相手に戦って、生き残れただけでも大したもんだ。怪我が治ったんなら、ここの市民のことは頼んだぜ!」
自分たちと同じ騎士が敵に回ったことと、それに敗北したことを想い、沈んでいた騎士たちがマグナの言葉にはっとする。
彼らの胸に、今一度、誇りの炎が灯った。
「エルナさん、皆さんをお願いします!」
「はい。……どうか、ご無事で」
イレギュラーズの無事を祈る少年に各々が肯定を示し、駆けていく。
入れ替わるように、女性と少女が歩いてきた。
横に振られた剣をコゼットが寸でのところで回避する。
「ふははは!」
クルテッドの背後に回ったシラスが極限の集中状態に入り、渾身の貫手を放つ。
それに重ねるようにサンディが放ったカードが騎士の剥き出しの頬を裂く。
「いいぞ!」
「く、ぅ……っ!」
「コゼット!」
刺突を回避したコゼットにクルテッドが掌底を叩きこむ。直前に自ら後ろに跳んでダメージを軽減したコゼットは、痛みを堪え足元に作り出した黒い氷を踏み砕く。
魔種と成った騎士の攻撃は早く、重い。
「もっとだ、もっと見せてみ……っ!?」
銃声が一発。
騎士は、反応できなかった。
「なるほど、情報は確からしいな」
瓦礫の影から凶弾を放ったラダが次弾の用意をする。
よろめいた騎士にノースポールが直進した。撃ちこむ拳は衝撃波を帯びる。
「が……っ」
「遅くなりました!」
「全員無事か!? 無事だな!?」
白い翼で羽ばたくようにノースポールが後退した直後、騎士の体が炎上する。
自らの命を削って業火の一撃を食らわせたマグナは、クルテッドを睨みつけていた。
「ここからですわー」
ユゥリアリアの歌声は、聞く者に不思議と勇気を与える。コゼットの傷そっと癒された。
「なるほどなあ?」
敵の弱点を悟ったサンディが、指の間に挟んだカードをひらりと振る。
「終わりに、しようね」
とん、とコゼットが跳ねた。
「押し切るぞ!」
シラスが大きく踏みこむと同時、クルテッドが大笑する。
「面白い、実に面白い!」
戦闘の音は教会の中まで、それほど大きくはないとはいえ聞こえてきていた。
「大丈夫です。ここに被害が及ぶことはありません」
可能な限り優しい声でエルナは人々に語りかける。
「だからどうか、不安にならないで。気を強く持ってください」
万が一、ここにいる者たちが原罪の呼び声を受ければ、目もあてられないことになる。
「騎士の方々……そしてレレ。貴方たちの行いや祈りは、決して無駄なものではない。その思いは、支援活動を通し、皆さんと接して、十分に伝わってきました」
騎士を、シスターを、人々を。
黄金の双眸で、エルナは順に見る。
「……貴方たちのことは、ボクたちが必ず守ります」
逃げ遅れてきた女性の隣に座り、少女を膝に抱いていた騎士が立ち上がった。
太い声が童謡を歌う。ユゥリアリアが繰り返し奏でていた一曲だ。
手を叩きながら子どもたちもそれに習う。炊き出しを手伝っていた老婆が箱を持ち上げた。
「チョコレートが欲しい子はいないかい!」
「寒い子はいないか? 毛布を下に敷けばおしりも痛くならないさ!」
「天義の騎士の名にかけて、たとえ奴がここに現れたとしても、これ以上、不正義なる者に貴殿らを傷つけさせはしない!」
人々がすし詰めにされた礼拝堂がにわかに活気づく。レレも声を張り上げて歌っていた。
虚勢に近い空元気だ。それでも、そうしてでも立ち上がろうとする人々は眩くて。
星屑の精霊種は目を細くした。
「認めよう、お前たちは中々の手練れ。我が相手に相応しき実力者だ!」
包囲され治癒を封じられ、防具やあらわになった顔に深い傷を負ってなお、騎士クルテッドは狂喜する。
虚空に魔力の玉が現れ、四方八方に放たれた。ラダが教会に向かいかけた魔力の塊を撃ち、相殺する。
「っとにしぶとい……!」
息を切らすシラスが口の中で舌を打った。
「自分より強いものと戦いたい、な」
マグナの身に刻まれた刻印が光を帯びる。
騎士が抱く欲を、マグナは理解できた。それは彼の内にもある。普段ならきっと、この戦いも楽しめただろう。
だが、今は。
その欲のせいで傷ついた人々のことを知ってしまった、今は。
「くだらねぇ」
あえて吐き捨てるように、マグナは言う。
騎士が口を閉じ、ゆるりとマグナに目を向けた。
「んなくだらねえ願いのために、あいつらを傷つけたのかよ。てめぇとの戦いは、楽しむ気にもなんねぇ」
「この戦いを愉しめぬとは、愚かな!」
「楽しくない、よ」
「ええい邪魔だ!」
魔力の弾幕を放とうとしたクルテッドの前でコゼットが跳ねる。一閃は軽やかにかわした。
支援の呪歌を口ずさむユゥリアリアが騎士を凍らせにかかる。シラスの貫手、サンディの暴風が炸裂し、ラダの銃が大嵐の如き声を上げ弾を撃つ。ノースポールの銃弾は流星に似た軌跡を描いた。
「死にな」
微かな頭痛を押し殺し、マグナは業火の術式を発動する。
●
礼拝堂の扉が外から開かれたとき、エルナはとっさに連絡用の鳥を召喚し、ほら貝を片手に立ち上がった。
現れた人影を仲間たちだと認識し、その晴れやかな表情に安堵するよりやや早く、人々の歓声が上がる。
「深手を負っている方から治療させていただきます」
言うが早いか、エルナはノースポールに支えられているコゼットを癒し始めた。
「近隣に大きめの教会はないか? あるなら移動した方がいい」
物資や人手を一か所に集めようと、ラダは提案する。
レレや騎士、市民たちも同意し、それぞれができる範囲内で避難準備を手伝った。
「よーし、サンディ様の大活躍を聞きたいガキどもはこっちの馬車だぜ!」
少年を中心とした子どもたちが、騒ぎながらサンディの後についていく。
「レレ。神官の安否も調査しておく」
一足先に移動先に向かい、先方と話しあうつもりのラダが端的に言い残し、駆け出した。
レレはその後ろ姿に深く頭を下げ、振り返る。
まだ多くの荷を積んだ馬車と、HMKLB。騎士や人々も乗りこんでイレギュラーズは手綱を握っている。
「ありがとうございます」
神に、彼らに。
感謝の言葉を捧げ、レレも荷台に向かった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした。
避難先の教会は快く人々を受け入れ、物資を受けとりました。
帰ろうにも帰れなかった神官とレレも無事に再会、近隣の教会からも避難民の受け入れや物資援助の要請がきているようです。
騎士クルテッドの討伐もありがとうございました。
ご参加ありがとうございました、お疲れさまでした!
GMコメント
はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。
誰ひとりとして欠くことのないように。
●目標
肉体的、精神的に傷ついた人々を可能な限り癒す。
炊き出しなど、シスター・レレの手伝い。
魔種クルテッドの討伐。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●ロケーション
皆様が現場に到着するのは昼過ぎです。数時間で夕方になります。
ところどころ壊れてしまった教会です。
一般市民と天義の騎士たちが負傷、および空腹状態でいます。
シスター・レレが頑張っているようですが、圧倒的に手と物資が足りていません。
また、手負いの魔種がやってくる可能性が大いにあります。
●NPC
『シスター・レレ』
27歳の女性。敬虔なる神の徒。
指示に従い頑張って手伝いますが、一度にたくさんのことを言いつけると失敗します。
料理や応急手当程度の治療はできます。
原罪の呼び声の影響を受けます。耐えきれる可能性も、耐えきれない可能性もあります。
『騎士たちと市民たち』
全員純種です。深浅の差はありますが、肉体的、精神的に傷を負っています。
大切な人を失った方も少なくありません。
●魔種『騎士クルテッド』
天義の騎士。教会に身を寄せている騎士の中には、彼と旧知である者もいます。
より強い者と戦いたいという欲望を持ちます。
近距離型ですが遠距離のスキルも持っています。高いHPと防御を誇ります。
騎士たちを全滅させられると確信し、一時的に撤退する振りをして見逃しました。
自分にわずかな傷をつけるので手一杯の騎士たちが、自分と同等にやりあえる強者の庇護下に入ることを願って。
治癒の能力を持つらしく、騎士たちが与えた傷はほぼ癒えています。
●他
人助けと戦闘です。少し慌ただしくなるかもしれません。
皆様のご参加をお待ちしています!
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