PandoraPartyProject

シナリオ詳細

お前もエディになれ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●すべてはeになる
 依頼を受けたイレギュラーズが目的の区域に入った瞬間、顔面を除いた全身の至る所が強烈な痒みに駆られる。
 何かが皮膚の中から這い出てくる感触、それは次第にワサワサと皮膚の上を這いずっていく様なものに変わる。
 そうしている内に尾てい骨……尻の辺りに妙な感触が伝わり、思わず手をやった。すると尾骨の辺りに何かが生えかけている事に気づく。

 ――尻尾だ。犬科ブルーブラッド特有の、雄々しく立派な尻尾。
 ハッとして自分の腕を見ると茶色い毛が徐々に生え始めていた。どうにかこれに抗おうとそれを引き抜くが、みるみる内にまた生えて体毛を引き抜く痛みだけの徒労に終わる。
 厄介な魔術的な呪いか何かか。イレギュラーズは無理矢理に特定の、雄のブルーブラッドに姿形を変えられた。
 周囲を見回せばその区画の市民は当の昔にその変化を経ていた様で、諦観の表情を浮かべたり、混乱の余り他人に暴行を働こうとしている者さえいる。
 ……なんか自分の姿が変化したのに乗じて、恍惚とした表情で同じ姿同士抱きしめ合っていたり下着泥棒を働いていたりしていたりする者も居たが些細な事なので気にすまい。

 ともかくとして“数時間前”に聞いた現象はこの事であろう。この区域の住民は、老若男女問わず須(すべから)くブルーブラッドになっているに違いない。自分達も含めてだ。
 そしてその元凶を見つけ出さねば。この阿鼻叫喚は収まらぬだろう。
 しかしさて、どう見つけたものか……イレギュラーズはローレットで聞いた話を思い返す事にした。

●数時間前
「頼みたい事がある」
 プランクマン(p3n000041)。彼女がいつもとは違った口調で、イレギュラーズに話しかけてきた。
 また何かの遊びか? ギルド員の一人が笑ったが、プランクマンは「そうではない」と生真面目な表情で言葉を返す。
「厄介な魔物の類に不意を突かれて姿形を無理矢理変えられた。“プランクマン本人”曰く、ドッペルゲンガーの亜種という事らしいが」
 プランクマンの姿をした女性は、魔物の性質を説明する。

 魔物の種別名は『パステルゲンガー』。
 この魔物は、街の区画ひとつ分の住人を全て同じ『特定の人物』の見た目に変えてしまう奇妙な魔物だ。
 その攻撃から逃れる方法は今の所判明しておらず、同じ様な姿形をした人物達からパステルゲンガーを見分けて直接叩くしかないという。
 ……とはいえ、話に聞くドッペルゲンガーそのものほどパステルゲンガーという魔物自体は厄介な種族ではない。
 何せ彼らにはその思考まで真似たり、投影したりする気は無いのだ。それどころか皆同じ姿であるはずなのに、パステルゲンガーだけは見た目や服装が何処か一部位ほど違う法則にある。それが制約なのか、意図せぬものかはともかく。
 その辺りを気をつければ、元凶を見抜くのは容易いだろうという事だ。

 それらを生真面目に説明する彼女であるが、いつものおどけたプランクマンと違って妙な印象を受ける。大人っぽいというか、普段から露出が多いのも相俟ってなんというか……。
 その視線に気づいたのか気づいてないのか、プランクマンの姿をした女性は静かに頷いた。
「それに、プランクマン……彼女だって女性だ。俺は冤罪をかけられても挽回はまだ出来ようものだが、女性にとってはそうでない事もある」
 先程話したよりも下賤で良からぬ事にだって使える。暗にそう指摘した。そういうのはあまり考えたくない事だが、このまま被害が広がっていけば有り得ない話ではない。
「君たちに尻拭いをさせる様で悪いが、どうにか街に被害が広がる前に決着を付けてやってくれ。頼ん――」

「やめんかゴルァアアアアア!!」
 ギルド中に突如として低い唸り声が響いた。
 何事かと見れば、『狗刃』エディ・ワイルダー(p3n000008)が声を荒げて何者かに飛びかかっていた。
 飛びかかられていたのは……なんとリリファ・ローレンツ(p3n000042)だ! エディは彼女の腕を押さえつけられて、今にも齧りつかんばかりの剣幕で押し倒されているではないか。
「私の恰好で変なことするなっていったでしょうがああああああ!!!」「あれ、嬢ちゃん。胸少し成長したかい?」 「え、ホントですか? って、なんでサイズ知ってんだオイイイイイイ!?」

 ……何かエディがリリファの装いを猛烈に諌めている様であった。まぁ、先の情報から事情は察せられるが。何も知らないギルド員からしてみればリリファに襲いかかってるエディの図としか見えない。
「…………………。まぁ、彼の名誉は俺の方でどうにかするから気にしないでくれ……」
 彼女はその光景を見て、困った様に唸りながら頷いていた。

GMコメント

 某GMに唆された稗田ケロ子です。おれは悪くねぇ!
 他の依頼同様パステルゲンガーという魔物が発生しましたが、目立った悪事を働いている様子はないみたいです。
 ですが区画の住人達はブルーブラッド(エディ・ワイルダー)の姿形に突然変えられて混乱しているのは事実であり、どうにかこれを収めねばなりません。

 ネタ寄りEASY依頼ですのでシチュエーションを楽しむという意味合いでは難易度緩め。姿形が変わった事に乗じて何かやるなり、遊ぶなり。

●環境情報
 畜産が主産業の区画。多数の牧場と家畜に放牧を手伝う犬、飼料を守る猫も多くいるが、これら動物達はご主人様の姿形や匂いが変わってわりかし混乱中。
 なんだかキレイなお姉さんとお酒やジュース飲んでいちゃいちゃする様なお店ある様だけれど、現状だと……。
 時間は昼間。区画に居る住民、イレギュラーズは全てエディ・ワイルダーの姿形、服装になっている。
 
●エネミー情報
狗刃を真似たパステルゲンガー:
 周辺に居る人物をすべて同じ姿形にしてしまう魔物にして今回の元凶。
 この区画のパステルゲンガーは法衣を着て、王侯貴族の様な身なりをしている。何故かエディ・ワイルダーに化けている。
 その服装や言動はまるで「我こそがこの獣人達の王である」という振る舞いだ。
 それに託つけて美女美少女のハーレムを築きたいとも宣っているが、周囲には雄のブルーブラッドしか居ない訳で……。機会があれば他のパステルゲンガー達と合流したい様子。
 なおエディ・ワイルダーの姿を真似ていても戦闘力は一般人並。

●NPC情報
プランクマン?:
 プランクマンに姿形を変えられてしまった誰かさん。冒頭で情報提供。現場には着いてきません。
 自分が誰であるかは一切語ろうとしない。その正体はいったいだれなんだ……。

街の住民達:
 現場の人達はブルーブラッド(エディ・ワイルダー)に姿形を変えられています。
 反応は十人十色。事が収まるまでおとなしくしていたり、無骨者同士が因縁付けて殴り合っていたり。
 動物大好きな元カオスシードがモフモフ堪能してたり、悪ガキが姿形皆一緒だから分からないだろうと何か盗んでたり。他にも様々。
 パステルゲンガーを倒せばそれらすべて収まるでしょうが、諌めてみるのも選択肢かもしれません。

●注意事項
・『お前もリリファになれ』『お前もプランクマンになれ』の両シナリオと同一日という設定です。
・同一キャラですべての依頼参加しても走り回った扱いにするので問題は無いです。王様びっくり超高速依頼交代。

  • お前もエディになれ完了
  • GM名稗田 ケロ子
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2019年07月03日 21時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
Q.U.U.A.(p3p001425)
ちょう人きゅーあちゃん
グレイル・テンペスタ(p3p001964)
青混じる氷狼
ブーケ ガルニ(p3p002361)
兎身創痍
天狼 カナタ(p3p007224)
夜砂の彼方に

リプレイ

●我ら獣人にて
 白昼。本来ならば、動物達や飼い主は陽光をその身に受けて日向ぼっこでもしている時間帯だろうか。
 しかし周囲を見てみれば動物達は怯えた様に柵の隅で座り込んでいる。何故こんな様子でいるかといえば、ひとえに飼い主達の姿形や匂い、声までも別人だからだ。皆、雄のブルーブラッドの姿になっている。しかも同一の。
「……主人がわからないか。まあ、姿形が変わってしまえば無理もない」
 家畜達が怯えた姿を見て苦笑する『彼方の狼』天狼 カナタ(p3p007224)。今はエディ・ワイルダーの姿だが、大柄なコートをぶかぶかと着ているので仲間内ならなんとか彼だと分かる。
 さて、羊や犬猫ならともかく牛や馬など力の強い家畜となれば厄介だ。怖がって攻撃されたり、あるいはじゃれついたりされるだけで飼育員が大怪我をする事が日常茶飯事なのだから。
「おぉい、そんなに近づいたらあんた危ないよ」
「心配はいらない。動物の扱いは慣れている」
 飼い主らしき人物に避難する様に諭されるが、逆にカナタは大型の家畜に近寄って「どうどう」と声を掛けた。
 馬に前足で小突かれそうになるものの、カナタも動物の扱いには手慣れたものだ。それを軽く避けてから、落ち着く様に家畜達へ言いつけた。
「そうだな……一番大事にしてくれてる奴が主人、それなら何時も通りだろう?」
 疎通技能を持っている御陰か、ある程度は通じたみたいだ。彼らは悩んだ後に、何故か余所の家へと一斉に目を向けた。
「近所の娘さんのほうが優しい? じゃあ今日からソイツっぽいのが主人だな。それでいいんだ」
 それを聞いて真に受けた飼い主が「それは困る!」と慌てている。カナタは愉快そうにくっくっと喉を鳴らして、冗談交じりに交換条件として『なんかキラキラした、偉そうなこの姿のやつ』の話を彼らに尋ねた。

「……本当に……エディさんはいろんな事に……巻き込まれてるね……この件が原因で……良くない噂が……立たないといいんだけど……」
 阿鼻叫喚の街中を見回して不安がるエディが二人。正確に言えば『青混じる白狼』グレイル・テンペスタ(p3p001964)と『追憶に向き合った者』ウェール=ナイトボート(p3p000561)。彼ら特有の白い上着を着ているのと、機械狼を連れているから、たぶんそうだ。
 街の住民はその一部が姿形が変わったのを良い事に火事場泥棒を働いたり後腐れを気にせず殴り合ったりと、悪い意味で順応している様だ。彼らは元々柄のよくない人間なのだろう。それ以外には、同じ姿同士で抱き合っている姿もチラホラ……。
「もしも雄もイケてたら大変なことになってたな……」
「…………」
 グレイルは「むぅ」と顔を曇らせる。知り合いの姿で悪事を働かれるのはあまり良い気分はしないらしく、依頼目標の前に彼らを止めるべきかと思案する。
 グレイルの表情を見て、ウェールは静かに頷いた。そうして、澄ました口調で悪漢を諫めに入る。
「おい、今すぐ殴り合いなんてやめるんだ」
「なんだお前は?」
 ウェールは悪漢から機嫌悪そうに睨み付けられる。容姿が容姿だけに、妙に鋭い眼であるが、実力まで本物を模倣しているのでなければイレギュラーズであるウェールにとって恐れる事はない。
「自分は……俺はエディ・ワイルダーだ。この区画のどこかにいる法衣を着て、王侯貴族の様な身なりした俺と同じ顔の魔物が元凶なんだが……」
 多少の脅しに怯まないウェールの態度にムカッと来たのか、悪漢は言葉の途中で彼に殴りかかる。
 だがウェールはその瞬間、いつの間に構えていた鞘から刀を一閃。陽光が袈裟に走り、ざんばらり。翻筋斗(もんどり)を打って男は倒れ込んだ。
「……だ、だいじょうぶ……?」
 まさか殺しちゃったのではあるまいかと不安そうに見るグレイルだが、ウェールもイレギュラーズとしては手練れの部類である。他人目には刃が胴一閃に貫いて見えたが、相手の命に別状は無いらしい。
 呻き悶える悪漢の胸ぐらを掴み上げ、ウェールは続けて話を始める
「……体を動かしたいならその魔物をぶん殴ったらどうだ? その魔物をどうにかしない限り、一生元の姿に戻れないかもしれないぞ? 捜索を手伝ってくれるだけでも早く元の姿に戻れるぞ」
 これを見て、火事場もとい下着泥棒は悪漢がエディ・ワイルダーとやらの注意を引いている内に逃げだそうとするが、誰かがその肩をポンと叩く。
「……下着を盗られたら……疑い掛けられた人もそれを晴らす人も……すごく、すっごく大変だから……持ち主に返そう……ね?」
 下着泥棒は何故かグレイルに異様に凄まれ、苦しげに呻いている悪漢を横目に見てから大人しくお縄についた。
 さて、まぁ彼らは彼らでパステルゲンガーに繋がる情報を問いただしたのだが、下着泥棒の方からは存外興味深い事が聞けた。

「女モノの下着を集めとるやつがおるぅ?」
 地元のダチコーに対して事情聴取の最中に素っ頓狂な声をあげる特徴的な口調のエディもとい『兎身創痍』ブーケ ガルニ(p3p002361)。
 相手のダチコーは皆一様に顔を見合わせ――同じ顔だが――何度も頷いた。
 曰く、女性の下着を持ってくれば元の姿に戻してやると宣っているブルーブラッドが居たという話だ。彼らも人伝に聞いた体だが、下着を盗んでいる奴はそれに唆されたのであろうという。
「はぁ、エディはんが以前にその手の冤罪かけられたっちゅうのは聞いてますけど、難儀な話やなぁ……」
「元がどんな人かは知らないけど、こっちにとっちゃ良い迷惑さ。早く解決してくれよ」
 ダチコーからそんな愚痴を言われる。わかったわかった、と柔らかく宥めるブーケ。
「せやなぁ……解決する為にもこの犬顔だけれど服装が違う人や、この区画の者ではなさそうで、様子も不自然な人を見たかとか教えてくれへん? あとTFした時の感想どうぞ」
「てぃーえ……なに? 脱線してない?」
「え、脱線? 大事なことやろ。誰かにとっては」
 ともかく、同じ姿形だが服装が違う人は先ほど見かけたとダチコーは言う。ここから非常に近い。ブーケは幸先が良いと喜び、その地点へすぐに出向く事にした。

「なんだ、ブーケじゃないか」
 ダチコーに案内された先に居たのは、ぶかぶかなコートを身に纏ったエディ・ワイルダー。カナタだ。
「……ちゃうねん。ちゃうねん」
 自慢げに指さすダチコー。ありがちなオチに行き着いて、非常に残念そうに首を振るブーケ。カナタはそれを見てまた喉を鳴らす様に笑う。
「そう残念がるな。こっちは方向くらいは調べがついたからな」
 とりあえず、グレイルやウェールとも合流し、彼らが捕まえた下着泥棒を使って直接そのパステルゲンガーを探す事にした。

●奔走組
「すごい、エディさんがいっぱいだー!」
 きゃあきゃあと嬉しそうに声をあげる『ちょう人きゅーあちゃん』Q.U.U.A.(p3p001425) 。Q.U.U.A――キューア当人もエディの姿をしているのだが、それはさておき。
 街中の人々は事前情報の通り、やはり自分の姿形が変わった事を何処か疎ましげに振る舞っている。
「ほかのくいきのひとたちよりげんきがないねー?」
「ここの区画の人たちは姿替えられたのを認識してるのか……厄介だな……」
 キューアと共に区域へと辿り着いた『リリファ・エディ・プランクマン』サイズ(p3p000319)。同時多発的に起こったパステルゲンガー事件を駆け巡っているのだが、ブルーブラッドに変容させられた彼らは安穏無事というわけではなさそうだ。他より少し時間が経って混乱が始まっているのだろうか。
「エディさんスタイリッシュだから、みんなスタイリッシュになって、みんなかっこいい!」
 暢気な事を。サイズはそう思いつつも、自分も自分で時期的にこの姿はちょっと暑い……。
 そう考えている最中、頭上からエディの声がした。もとい、仲間の誰かが呼びかけてきた。
「なんだ、やっぱり君達か」
 高台から偵察を行っていた『空歌う笛の音』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)。どうやって登ったのか不思議だが、彼を伺うに能力の発動に不都合は無さそうだ。それを見て高台へと飛び移るサイズ。
「そっちは何か見つかったか?」
「違和感のあるヤツをチェックしてたけど。……うん、本物なわけじゃないから全員違和感があるね」
 こう全員同じ姿形をしていては探し辛い事この上無い。せめて方角辺りの目星があればいいのだが。
「とっとと解決してエディさんを安心させてやりたいけれど、案外見つからないものだな」
 アクセルもそれに頷いた。実力は然程でもないと聞いていたが、知恵が回るタイプの魔物なのだろうか。
「ところで……サイズ君、体の大きさを測ってたみたいだけど、どうしたの? 新しい悪戯?」
 そう聞かれたサイズは、悪戯じゃないさと風に首を振る。
「勝手に体借りてる? からそのわび? に防具なり服なり作るためにな」
「はぁ、なるほど。オイラはてっきり……」
 話し合っている内に、ふと気付いた。キューアが居ない。……ちょっと待って。あの子、何処に行った?
 二人が困惑している最中、昼の夏空にピカピカとした電光の如き文字が浮かび上がった。――キューアの魔術か。
 空に描かれた文章は以下の通り。
『きれいなおねえさんがいるおみせにあつまれー(≧▽≦)』

●吾輩は狗である。
 吾輩はブルーブラッドである。名前はまだ無い。
 何処で生まれたかとんと見当がつかぬ。三匹で街にやってきた事だけは記憶している。……吾輩も年だろうか、とんと記憶が薄れていて――

 法衣を着たブルーブラッド。もとい、エディを模倣したパステルゲンガーは街にイレギュラーズなるものがやって来たと聞き及んで一応隠れ潜む事にした。パステルゲンガーはか弱い生き物だ。傭兵相手には分が悪い。これは逃走ではない、戦略的撤退だ。そんな事を自分に言い聞かせながら。
 人間の街には綺麗なお姉さんが酒を酌してくれる店があるとパステルゲンガーは聞いていた。しかし何処も彼処も雄のブルーブラッドしか居ないではないか。あれは、なんだ。マニアック過ぎる。自分はもっと、こう。胸が極端に大きかったり小さかったりする女の子が……。
 そんな風に店から店へと隠れる様に渡り歩いている最中、背後からはしゃぐようなブルーブラッドの声。
「おにさんつかまえたーっ!」
 何者かはパステルゲンガーに対して膝かっくん。
「ははは、こんな子供のイタズラで我が動じるとでも……」
そのまま高速反復で膝かっくん。物特レ。逃げようとしても範囲20m。
「いい加減にしろこのクソガキぃ!」
 レンジ2の膝かっくん繰り出しまくる相手の姿を確かめようと勢いよく振り向くパステルゲンガー。しかし怒りの形相はすぐにだらしなく弛んだ。
「アタクシ、清水エディ子だぜ! ……ですわ! まあ、素敵なエディ様がそちらにいるじゃねぇのだわ! ……少々、ご一緒しても?」
「エディ子さんだよ! かっこよくて、かわいいでしょ! きにいった?」
 そこに居たのはキューアと、清水エディもとい『清水【好きな名前を入れてね!】』清水 洸汰(p3p000845) 。
 これは中々、かわいげのある小躯小柄のブルーブラッドの雌ではないか。愛らしい子犬達も連れていて。キューアの魔術に一時的に視覚を惑わされたパステルゲンガーは、大変気を良くした。
 ……とはいえ、これで騙せるのも限度1分。その時間内にどうにか仲間の元へ連れて行こうとする洸汰。
「ね、ねぇエディ様。わたくしとこっちに来てくれねぇですわ?」
「いえ、ここで逢ったのも何かの縁。お嬢さんがた、どうか一杯奢らせて下さいませんか……」
 エディ・ワイルダーの容姿と声色でキザったらしい事を言い述べるパステルゲンガー。しかもブルーブラッドの少女二人を口説いているのだから凄まじく絵面がヤバい。なんか付け焼き刃で嗜んだのかキツい香水まで付けていて鼻も曲がりそうだ。そうこう手間取っている内に数十秒。
 この場でとっ捕まえるべきかと思案する二人であったが、突如として狗の遠吠えが聞こえた。キューアや洸汰の連れてきたペットの声ではなさそうだが。
「何奴!?」
 振り返った先にいたのは……ぶかぶかなコートを身に纏った雄のブルーブラッド。
「他人の姿を借りて女を口説くなどと、見るに堪えないな」
「おまけに、下着集めさせとるなんてなぁ……」
 一人だけではないらしい、関西風の喋りをする者が増えた。
「女を口説くは男の義務ぞ。そしてこの人物は下着集めが趣味と聞く。我の行動に何ら間違いはなかろう。そうであろう? お主らも元の姿に戻りたければ、道を空けるが良い」
 威張り散らかすパステルゲンガー。見た目ばかりは威厳がある。しかし彼がそう脅しつけても、事前に情報屋からその実力もどうやったら変身が解けるかも聞いているのだからイレギュラーズには大した意味が無かった。
「…………」
 グレイルは、女やら下着やら宣っているエディを見て妙な気分になった。彼の姿を真似てそんな事を言われれば、グレイルの経験からやはり良い気分はしない。一般人には使わない様にしていたが、魔物相手ともあればグレイルも手加減はしなかった。
「ぬぁあ!?」
 グレイルが魔術で創り出した狼に襲われて、驚きのあまり飛び上がるパステルゲンガー。
「貴様らがあのイレギュラーズとやらか!!」
 ここで彼らが雇われ傭兵だという事に気付いて、脱兎の如く逃げ出すのである。
「あ、逃げた」
「とうそうほんのうってヤツだね!」
 はーっはっはっは、どうせ綺麗な女はこの街におらなんだ! 他のパステルゲンガーと逢って存分に楽しんでくれるわ!!
 エディの高笑いが路地裏に響く。そんな事をされれば尚更変な誤解が広まりかねない。合流しても彼の思惑通りに行くかはともかく、イレギュラーズは本格的に逃げられる前に食い止めようと駆け出した。 
「ほーるどあっぷっっ!!!」
 突如、何者かがパステルゲンガーの後頭部めがけて突撃してきた。
 アクセルだ。高台から飛び降りるが如く形でパステルゲンガーに楽器を叩きつけたのだ。至極の逸品の楽器で。
「トドメを刺すのはダメらしい、んだったかな。あれ、どうだっけ?」
 その後ろから、威嚇術を用意してパステルゲンガーに近づくサイズ。他の者達もパステルゲンガーを取り囲む。
「ぐ、ぐうう……」
「エ、俺の姿形を真似て、一体何がしたかったんだお前は……」
 瀕死のパステルゲンガーを目の前にして、一応自分がエディだという体で問いただすウェール。
「一生に一度でいいから……美形になってモテてみたかった……」
 倒れ伏しながらその様に言葉にするパステルゲンガー。
「……哀れな」
 気持ちは分からなくもないけど、そんなやり方はダメだろう。サイズはそう心の中で呟いた。

●そうしてどうなった?
 倒れ伏したパステルゲンガーの体が消滅したかと思えば、区域に侵入した時の逆戻しの形でイレギュラーズの身体は変容していった。
「また毛が生え変わったん、感触が気持ち悪!」
「いっつ、へんしんイリュージョンッ!!」
 体毛が生え替わる感触にきゃあきゃあ騒いでいるブーケ。と調子の良い感じにポーズを取っているキューア。
「もしもう元に戻れなかったらオレどうしようかと」
 主人の帰還を察知して『ふええ』と嘶くトビンガルーもといパカお。どうやら、この子にとっても主人の見た目が変わった事は不安だったらしい。
「おぉ、留守番ありがとな。パカお!」
 パカおの心境を察してか察していないのか、頭をぐりぐり撫でる洸汰であった。ふえええええ。

 街中の騒動は落ち着き、柄の悪い人間は悪事の最中に姿が元に戻った為かそのままお縄だ。抱き合っていた動物好きのカオスシード達は、まぁ多少気まずい空気になった程度か。
「あぁ、あのモフモフをもう一度抱き締められないかしら……」
 カオスシードの一人がイレギュラーズ達にねだる様に擦り寄った。そうは言われても、パステルゲンガーはもう倒してしまったのだが。
「ご婦人がた、またもふもふできるようローレットに依頼する事をお勧めする」
 エディを紹介するつもりで言葉にしたウェールであるが、どうにもカオスシード達の様子がおかしい。なんか手をワキワキしている。
「……あの、なんで僕らが取り囲まれてるの……?」
「おい、オイラよりそっちの狼さん達の方が、モフモフしてるぞ」
「えっと、うちは生え替わりの時期やから堪忍して……?」
 街の住民に包囲されたブルーブラッドの五人。明らかに、そのもふもふを抱擁させてくれと言わんばかりの目で見てくる。(正確には一人はウォーカーだが)
「はは、まぁ。女性の抱擁を断るのも野暮というものだな」
 大人の余裕を見せるカナタ。彼が受け入れたのを皮切りに、住民はイレギュラーズへとにじり寄ってきたのであった……。

 
 ――余談。
『ブルーブラッドの男性を抱かせて下さい。○○の牧場主』
「……なんだこの誤解を招きそうな依頼書は」
 ギルドローレットにて、例の住民がモフモフ成分補給の依頼を出して来たのだが、それを眺めていたエディ・ワイルダーがまた女性ギルド員に誤解を受けたのは、いつもの話。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 稗田ケロ子です。
 こうして、ひとりのパステルゲンガーは無事に討伐されたのでありました。
 リリファちゃんに襲いかかってた件については、まぁ本人がどうにかするでしょう……うん……。

 ……もふもふ。

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