PandoraPartyProject

シナリオ詳細

さらば、我が恋よ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●君へ、
 その姿は、変わらぬままだった。
 美しい笑みに、幼い少年から少しずつしか変わらぬ背丈。
 対する私はもう、随分と大人になったのに。
 幼い頃に手を引いて走ったあの日。
 余所者であった来訪者の私を友人と呼んでくれた愛しいあなた。
 私が『外』へ戻る時に、あなたは誓ってくれましたね。

 また――
 ああ、けれど、あなたは未だ、あの時の儘ではありませんか。
 私は、こうして、年老いていくのに。
 もう、愛してはくれないでしょう?
 私はこの言葉を口にしてあなたに拒絶されるのが怖かった。
 好きでした。最後の恋にしたかった。
 好きでした。あなたが、私の名前を呼ぶだけでよかったのに。
 あなたと同じ時を生きる女が憎かった。
 あなたと同じように年を老いていく女が憎かった。
 嫉妬に狂ったのです。ただの、年老いていく女の妄執でした。
 こんな血で汚れた手であなたに愛を伝えることはできないのに、諦めきれなくて。

 だから、おわりにしましょう。
 私の恋と一緒に、あなたをあの時の姿でおわらせて。
 あいしていました。
 さようなら。

●もしも
 もしも、その種が同じであれば不幸とは起きなかったのかと『サブカルチャー』山田・雪風(p3n000024)はそう問い掛けた。彼はアニメや漫画が好きだ。そうした題材にも『種族の差』というものが描かれる。
「俺は、旅人で、不思議な事が起こり得ない魔法もない様な世界から来ました。
 だから、実感はなくて、フィクションの中の様な事にしか、思えない――んすけど」
 種族違いの恋。
 成長の違い。
 だからこそ、愛することをやめてしまった。
「こうして、混沌に来て、事件を調べるたびに思い知らされるんすよね。
 もしも、俺が――いや、ないかもなんだけどさ――恋をしたら、同じことに悩むかもしれないのかなあ、て」
 雪風は何処か、困った様にそう笑う。
 彼はとある幻想種と旅人の恋物語について、口にした。
 幻想種の少年、その名前をメルトというらしい彼は、幼い頃に魔女として各地を回る幻想種が連れ帰った旅人の少女と出会った。
 その名前を美晴というらしい――雪風は、その名前から同郷かなあとぼそりと呟く。
 美晴は召喚され、身寄りがなく魔女の弟子となる為に深緑に身を寄せたのだそうだ。
 幼い頃、二人は幼い恋をした。手を繋ぎ、笑い合い、秘密を共有するだけの、可愛い恋。
 いつしか時が過ぎ、美晴が『外』へ出ることとなった時にメルトは口にした。
『君を愛してます。だから、また――』
 その恋は、其処で終わるはずだった。淡い、思い出として。
「けれど、美晴さんは戻ったんです。深緑に。
 そこで、成長してしまった自分と、緩やかな時を生きるメルトさんの差に絶望してしまった」
 大人となった美晴と、まだ幼いメルト。
 美晴は『あの恋を終わらせていなかった』――ひょっとすると、メルトもそうかもしれない。
 曇り切った心には、もう何も届かなかった。
「美晴さんは、メルトさんにもう愛されないって。年老いていく自分とは生きる命の物差しが違ったのだと絶望したんだそうです」
 愛されていたかった。
 同じ種であればよかったのに。
 旅人(せけんしらず)じゃなく、同じ世界にせめて生まれて居たらよかったのに。
 出会わなければ、良かったのに。
「そうして……そうして一人の女が殺人鬼に成り代わりました。
 愛されていたかったと願った、一人の魔女。何物にもなれない、美晴さんの儘の殺人鬼」
 旅人でなければ反転して性質を変えていたのかもしれない絶望は彼女を只の殺人鬼に突き動かした。
 八つ当たりだったのだろう。彼と同じ時を生きる女を殺した、無残に、その美しさを奪う様に。
「……次は、別れを告げるのだそうです。もう、殺すこともつらいから。
 メルトさんが死んで、自分もそうして死ぬ。今回のオーダーはメルトさんの保護っす」
 メルトさんの姉、そして『美晴の師匠』からのオーダーなのだという。彼女はこれ以上の被害を押さえたいとそう願い、そして、言った。

 ――美晴も、メルトを殺すことは望んでいないと思うのです。

「俺は、人を殺すまで突き動かされるほど、人を好きになったことはない、けどさ。
 それだけ好きになった人を殺すなんて、本意じゃないと思う」
 だから、と雪風はたどたどしく言葉を選ぶ。
「これ以上、その恋を、汚れさせないで、欲しいんだ」
 好きだと、もう一度伝える勇気があったならこんなことにならなかったのだろうか。
 徐々に離れる外見の差と、命の長さ。
 もしも、自分がそうなった時に愛してると伝える勇気はあるだろうか――?

GMコメント

 密やかに愛を終わらせて。
 日下部です。どうぞ、よろしくお願いいたします。

●成功条件
 ・殺人鬼『美晴』の捕縛or殺害
 ・幻想種『メルト』の生存

●殺人鬼『美晴』
 旅人。『草木の魔女』
 フルネームでは吾妻・美晴(アズマ・ミハル)。混沌に来てから魔女となりました。
 幻想種を狙う連続殺人鬼。深緑に住まっていた経験がある為土地勘があります。
 幼い頃に出会ったメルトと幼い恋をして、将来を誓いましたが、老いていく自分と緩やかな時の中に居る彼との差に絶望し、ひとごろしとなりました。
 何故、と問われれど彼女にはきっと応える事はできません。恋の衝動は、何処までも深い闇だからです。
 でも、純粋に愛していました。好きでした。この命の最後のの恋にしたかった。

●魔女の僕*5
 美晴の付属品です。熟練の技で身に着けた僕たちの制御能力は高く、美しい花や蔓を武器にする精霊を模しています。
 美晴を護る様に立ち回り、遠距離ファイターの美晴の守護に当たります。

●メルト
 幻想種の少年。美晴とは外見の年齢差で20近く差ができました。であった頃は同じ年頃であったようです。
 彼自身は美晴に狙われていること、美晴が連続殺人鬼であることは知りません。
 彼が美晴をどう思って居るかも分かりませんし、時を経て美晴がどのような姿になったのかも彼は知りません。

●花と緑の庭園
 メルトの姉であり美晴の師である幻想種の小屋がある庭園です。メルトは姉により小屋に保護されていますが、『姉(師)が関わっていることを美晴が知る事は避けるべき(暴走の危険がある)』と判断した姉は現在姿をくらましています。
 メルトの保護は親愛なるローレットに一任されており、美晴の生死についても一任するそうです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • さらば、我が恋よ完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年06月11日 21時40分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
エリーナ(p3p005250)
フェアリィフレンド

リプレイ


 拝啓、あなたへ。
 純粋に愛していました。好きでした。最後の恋にしたかった。
 それは、痛い程にわかるから。不相応な恋をしているから。
 だから――だから拒まれる恐怖を知っている。


 その時、メルトは扉を開けて首を傾いだ。咲き誇る花々に露を落とした草木の美しい場所、魔女のアトリエと呼ぶに相応しいその場所に5人の少女が立っている――その姿は若々しい者も多く、同族の姿があることに少年はほ、と胸を撫で下ろした。
「姉さんの言っていたお客さん?」
 修道女の姿をじろりと見遣るメルトに『ほのあかり』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)は穏やかな笑みを浮かべ『ローレット』だと名乗った。
 その名を、幻想種の少年は知っていた。幼く見える彼であれど長きを生きる種とし老いの遅い体に成熟した精神を宿しているようだ。深緑へ傭兵より招き入れられた隣人の招待客。そん名を流暢に言葉を噛み合わせた彼に『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034) は柔らかな笑みを浮かべた。
 彼女より発される善の気配と胸のあたりを温めるかのような穏やかさにメルトの警戒は僅かに下がる。『フェアリィフレンド』エリーナ(p3p005250)と『旋律を知る者』リア・クォーツ(p3p004937)はメルトに挨拶をしたのち、室内のカーテンを閉めた。星屑散らばらせた宵色のカーテンが室内を包み込めば暗室の様な仄暗さが周囲を包む。
「昏いだろう?」
「ええ、そうね。けれど見たくないものを見ないという事には適して居そう」
 リアの言葉にメルトは首を傾いだ。姉より『危険が迫る可能性がある』と聞かされていたメルトは迷宮森林に侵入者が訪れたのだろうかと認識していた。
「ところで、何が来るんだい?」
「我(わたし)達からは何とも言えないわ。けれど、貴方の想像とは大きく離れないと思うの」
 愛らしい兎のぬいぐるみの頭を撫でつけて『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)は静かにそう言う。首を捻ったメルトは巷で噂された殺人事件の犯人が周囲に出没しているのだろうと何となく的を付けていた。
「ところで、お嬢さん。その鳥は?」
「可愛らしいでしょう。警戒には警戒をと思ったのだわ。外で仲間が周辺を見て回っているけれど――」
 ゆっくりと、目を細める。少年は思い出話をする様に「ミハルみたいだなあ」と口にした。ちり、と僅かに胸が痛む気配にリアが表情を顰める。
「ミハル?」
「……ああ、ごめん。幼馴染が居たんだ。姉さんの弟子で旅人で――僕の昔好きだった人」
 きっと、大人になって居るから僕なんて忘れただろうけど。
 そう笑った少年に『いいえ、貴方の事を未だ好きなんです』とは誰も、穏やかな微笑みのクラリーチェすら。言えなかった。


 お節介。
『隠名の妖精鎌』サイズ(p3p000319)にとっては、本件はこの言葉に尽きた。種の違いは命のものさしの違いであり、そもそもの常識の違いだ。その悲哀をよく知り、その胸に刻み付けたサイズにとっては『全てを終わらせる』べきなのだと結論が出ていた。
 乙女の恋を応援する事はなく全てを無に帰す。その当たり前を行わぬというならば仲間の行動を見届けるだけだ。彼の中の常識もやはり、他の種――善悪混濁すローレットらしい事なのだが――とは違う確固たるものがあったのだろう。
「大人になっちまったお姉さんと、ずっと子供の姿のままの子か……」
 パカおの背を撫でつけて、周囲の警戒に当たった『雲水不住』清水 洸汰(p3p000845)は小さく呟く。『青き戦士』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は僅かに聞こえた洸汰の声にゆるりと空を眺めた。
「……元の世界に居たオレの友達も、ほとんど、大人になってからはオレと離れちゃったんだよな。オレは寂しかったけど、そーゆーもんだからしょーがねーって、その時は思うしかなかったけど」
 そう、そう言う者なのだと、アルテミアは知っていた。種違いの恋など、この世界では有り触れていて、その成功例は山ほどある――エリーナの両親やスティアの両親のように長きを生きる幻想種と他種の婚姻はアルテミアの知る限りでも多い。
(けど、旅人にとっては違う。それは理解できる。
 理解『できる』けど、美晴の『今の想い』は気にくわないの)
 息を潜める。
 遠く、歩む音がする。
 小屋より出た特異運命座標八人。アルテミアはその姿をしかと見据えた。
 黒い髪に、茶色の瞳、一般的な人間種と変わりのない姿。影を落とす表情を魔女帽が深く隠している。唇が何か紡いだ時、周囲に精霊がふわりと浮き上がる。
「来た」
 サイズの言葉と共に洸汰は声を張り上げた。
「お前が『草木の魔女』か?」
「だとしたら?」
 女に一気に距離詰めた洸汰は理力障壁を展開した。不動の構えで美晴の連れた精霊たちを通さぬようにと身を張った彼の隣をすり抜けるように一体の精霊が飛ぶ。
(ほんとに『ひとごろし』って雰囲気だな……。
 オレみてぇに年下に見える人や、他の幻想種を見たら、あのミハルって人、どうなっちまうんだろう)
 洸汰の杞憂は現実となる。精霊は距離詰めてクラリーチェへと向かっていた。
 彼女の脳裏には、一つの会話が思い返される。

 ――美晴さんはいまどうしてるんですか?――
 ――最近は物騒だから、どうか健康であればいいな。悍ましい事件に巻き込まれなければいいけれど――

 嗚呼、その悍ましい事件の首謀者がその美晴だなんて、とクラリーチェの紫苑の瞳が細められる。
「どうして私を攻撃するのか聞いてもいいですか?」
「あなた、幻想種(あのことおなじ)ね」
 囁く様な声音は毒を孕む。神秘との親和性を上げるクラリーチェの頬に薄く傷が走る。幻想種というだけでリスクが大きくなることをエリーナは予見していた。
 前線で受け止める洸汰と幻想種三名への福音。それが美晴には尊いもののように映った。
(……お父さんとお母さんも寿命の差について悩んだりしたのかしら……)
 幻想種、長寿――寿命の差。口にするのも憚られる様な美晴の中の絶対的な条件。
(美晴を受け入れなれない、拒絶すると本当に心から願うのなら、美晴はここで終わらせてあげた方がいい)
 リアは確かにそう、考えていた。メルトにはこれは聞こえているだろうか。美晴と呼ばれた女の声も、特異運命座標達の言葉も。
 精霊との戦いの中、リアは「美晴」と呼んだ。
「……とても辛かったんでしょうね。恋の炎に身を焼かれる辛さ、貴女の苦悩、まだあたしには分からないかもしれない」
「そうかもね」とは言わなかった。美晴はリアの言葉をのんびりと聞いている。
「だけど、メルトの想いを知ろうともせずに、自分で勝手に幕を下ろそうなんて間違っている。貴女が彼の事を愛しているというのなら、今一度メルトの想いをちゃんと聞きいてほしい」
「――……いいえ」
 首を振る。頑なな彼女の魔法がクラリーチェを襲う。
「それは、種族の差からですか?」
「ええ。そう。愛してなんて言えないわ」
「生き物はいずれ土に還ります。愛し合っていても避ける事の出来ない別れがあります。
けれど、人は先に起きる悲しみを知りつつも、縁を、愛を育む生き物です」
 それを草木の魔女が知らないわけがないでしょうと、クラリーチェは言った。些細な事なのだと――混沌では種の差は大したことではないと彼女は口にする。
「人殺しとの差は? どうすれば埋められるの?」
 レジーナは首を振る。サイズが一撃放ったそれを精霊が受け止め、ひらりと舞い踊る。
「想いを伝える事を諦めて殺せばいいなんて考えないで……。まだ、その気持ちを捨てないで」
「そうよ。罪を償って、生きて彼の下へ戻った時、今度こそ貴女の『本当の想い』を伝えなさい」
 スティアとアルテミアの言葉を聞きながらリアは唇を噛んだ。
 人知れない恋をしている。叶う事ないと思う、途方もない道の途中。道程は遠く、どれ程までにその心を軋ませるか、知っている。
「好きなのよね」
 問い掛ける。スティアはそれを純粋な思いだと認識していた。
「好きよ」
「どうして、その恋を捨てるの?」
 アルテミアは苛立ったように言う。
「辛かったの。我儘な女だと笑ってちょうだい」


「残酷だよ」
 サイズは言った。やめてやれ、と。
「残酷よ」
 美晴はその言葉に返した。曖昧に笑ったその瞳が小屋に向けられる。
「いるでしょう、彼」
 それに、洸汰は返すことができなかった。長い黒髪を揺らした美晴にアルテミアが肉薄する。青白い妖気が美晴の握った杖に纏わりついた。
「だとしたらどうするの?」
「殺すわ」
 至近距離で見遣る美晴の茶色の瞳は濁った色をしているとアルテミアは感じた。刃が僅かに押し返される。力づくで杖を押し返した美晴が踏み込む様にアルテミアに魔弾を叩きつけた。
「殺すに決まってる」
「どうして? もう愛してくれないから? それは貴女が思ってるだけでしょ。
 勝手な決めつけで、生きる物差しが違うだなんて旅人と純種の違いが分からなかったわけじゃないでしょう!」
 声と共に一打、交える。伸びる蔦がアルテミアの体を薙ぎ倒す。それを受け止めたスティアが歌を紡ぐ。
「そうだよ。殺したいなんて本心じゃないでしょう。貴方は本当はどうしたかったの?
 メルトさんに会って戻ってきたよって伝えたかったんじゃないの?」
「そんなの」
 当たり前じゃないと。乙女の声が漏れた。唇を噛み締めた美晴が飛び込むレジーナを弾くように杖を振り上げる。
「どうかそんなに自分を苛めないであげて。貴方がまだメルトさんを愛しているようにメルトさんだって貴方を愛してるかもしれないんだよ」
 スティアは指に飾ったリインカーネーションをなぞる。父と母、その種違いが愛し合ったように。きっと、美晴とメルトの恋だって成就するはずだと信じて居たかった。夢物語、乙女の妄想、そんな言葉で片づけたっていいとスティアは思って居た。恋なんて――そうしたふんわりしたもので出来上がっているのだから。
「だから?」
「だから、って」
 洸汰が息を飲む。
「だから、どうしたっていうの。彼が私を愛してたら? 伝えて幸せになれって?」
「そうです」
「人殺しが?」
 クラリーチェ、スティア、エリーナ。三人の幻想種は互いに自身らの傷を確認し合う。その苛立ちと姿を変えぬ種という『彼と同じである事』への嫉妬心をその身で受け止めたエリーナは「それでも」と唇を震わせる。
「これ以上が無ければ、生きてさえいれば」
「償えとでもいうの」
「ええ、言うわ。メルトが貴女を好きでいてくれるなら、貴女が生きる標になるなら」
 リアは周囲の感情を探査していた。不透明、メルトは言いつけを護り小屋にいるからか美晴への感情は読み取れない。嗚呼、けれど――強い不安を感じる。
「私の罪をメルトに背負わせないで」
「……重たい荷物は一人では背負いきれないわ。ほんの手助けでいいの」
「駄目よ」
 美晴は言う。
 どうしてだろうか、その脳裏には幼き日に笑っている彼が浮かんでいる。笑顔だ、ただ、何事もなかったように手を差し伸べてその場所から連れ出してくれる。
「メルト」
 口にしたその名前が何所までも、軽く感じられて。
「駄目なの」
 戻れないのと、涙を流す。
「ふふ、莫迦ね。久しぶりに会ってどうしたらいいかわからない女の子同然よ汝(あなた)」
 レジーナは困った子供を見るようにそう言った。その頬に手を添える。攻撃の手は止んでいて、美晴はレジーナの瞳を覗き込んだ。紅い、慈愛に満ちた瞳だった。
「汝の想いは強すぎたのね。
 だから諦めることもできず、心が押し潰されたのね。それを我は軟弱とは言わないわ」
「バカみたいでしょ」
「ええ、莫迦よ」
 美しい花が萎れる。精霊たちは掻き消えて、草木は当に息を潜めた。
 からりと杖が落ちる。美晴は本当にね、と小さく笑った。
「でもね、我だってそんな恋をしてるわ。だから拒まれる恐怖を知っている。もし――もしよ、もし、辛いなら」
「ねえ、私がこの荷物を降ろしたらどうなるの?」
 美晴の言葉にクラリーチェは声を震わせた。
「貴方の罪は、法により裁かれるでしょう。それが『貴女の罪』を償うため。
 ですがその前に。メルトさんに伝えませんか? あなたの愛を」
「そうして、メルトに傷を付けたくないの。私は死ぬべきでしょう?」
 サイズはほら、と言った。
 説得をして、その恋の終止符を打つ事なく狂気に狩られて暴れだすだろうと。
 美晴は笑う。ぼんやりと眺めた花は美しく、子供の頃に何時か手にしたものだったなあと彼女はくすくす笑った。
「そうね。貴方の言う通りで残酷な仕打ちだわ。私は私に片を付ける」
 ゆっくりと立ち上がる。殺すつもりなのでしょうとサイズに美晴は言った。
「殺すといいわ」
「どうして?」
 クラリーチェの瞳が、泪を滲ませる。恋は落ちるものだと書物にはあった――絵本では何時だってお姫様は幸せになれたのに。
 最後の恋にしたかった、と美晴は言った。そして、彼女は困った様に笑った。
「好きなの。まだ。けれど、伝えたくはないの」
「生きて居れば何かがあるわ。ねえ、酷い男だったともう忘れなさい。
 それから、さっさと手を切って他の恋でも見つけなさい。それくらい手伝ってあげるから」
「忘れて良いというの? ……そうして、一人償えばいいの?」
「良いわ。忘れましょう。愚か者は恋を忘れるべきなの」
 そう口にされたとき、美晴はサイズにごめんね、と言った。
「死ねないみたいだわ」と。
「……そんな結末、有り得るのか」
 美晴は言う。もう恋はしない、これが最期だから。
 混濁していく意識の中、彼女の手を握るスティアはその思いを穢さないでいたんだね、と笑った。
「がんばったね」
「ええ」
「本当に、メルトさんと会わなくていいの?」
 リアが開いた掌を撫でる。美晴は「ひとごろしの罪を一世一代の恋の相手に背負わせたくないの」と笑った。
 一世一代の恋だった。
 好きだった。愛してた。最期の恋にしたかった。愚か者だと笑われたって良かった。
 ただ、金輪際。これでおしまい。大切なあなたには、この荷物は背負わせない。
 償わなければならない重たい荷物は一人きり。いつか、死にたくなったとしたら誰にも悟られぬように。
「ミハルがきっぱりメルトを諦めたら良かったのか、メルトの気持ちが、最初から聞けたら良かったのか。……どーしたら、皆幸せだったんだろうな?」


 小屋へと入った。暗幕の様な部屋の中で少年が一人佇んでいる。
「聞こえてたよ」
 メルトは言う。
「けれど、僕も臆病で、愚か者なんだ」
「……そう」
 スティアは只、声を潜めた。
 きっと、彼は愛していると美晴に手を差し伸べる事を怖がった。それだって、責められたものじゃない。メルトの瞳にはスティアの輪郭が曖昧に霞んでいく。嗚呼、外見の通り子供みたいじゃあないか。愛だ恋だと口にしてみれば余りにもちっぽけで、陳腐だとメルトは膝を抱えた。
「ごめん」
「……謝る事じゃないわ」
 リアは言う。痛いほど感じる感情は、確かな愛情と、ちっぽけな不安だった。
「貴方は、決断をしたのよ。立派な事。重たい荷物は、誰でも背負えないものね」
 よく見れば小屋の中にはクレパスで描かれた子供の絵が飾って合って。
 それが、幼き日の二人だという事に気づいたとき、外には静かに雨が降り出した。

成否

成功

MVP

善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル

状態異常

なし

あとがき

 まずはお疲れさまでした。
 タイトル『さらば我が恋よ』。しかし、皆さんはその恋を諦めるべからずと手を差し伸べて下さいました。
 素直な事を申しますと、人を殺した故に断罪されるものかと思っておりましたが、その心に寄り添ってくださる方の多さに驚かされました。
 MVPはその心に一番寄り添った貴女へ。

 また、お会いできますことを楽しみにしております。

PAGETOPPAGEBOTTOM