シナリオ詳細
霧の塔への誘い ー III ー
オープニング
●不審な老人からの手紙
霧の塔が消えて、早二ヶ月。
謎に満ちる迷宮と言えば果ての迷宮と、そんな様子を見せ始めたローレットに、不意に不審な老人が現れたのは今朝のことだ。
「霧の塔を攻略しているという者達がいるのはここで良かったのかな?」
「ええ、確かに攻略に参加しているのはここローレットのイレギュラーズよ。どちら様かしら?」
訝しげながら『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)が老人に尋ねると、老人は一枚の手紙を取り出し、差し出した。
「……ラブレターかしら? 悪いけどおじいさまは守備範囲外よ」
巫山戯てそう言うリリィだが、その声は小さな震えを持っていた。
それもそのはずで、手紙を渡す老人はまるで悪魔が誘惑するような禍々しい光を湛えた瞳でリリィを見据えていたからだ。
恐る恐る――意識はしてないが、それはまるで強制のようで――リリィが手紙を受け取ると、途端老人は飄々とした雰囲気を纏い破顔する。
「ふぉっふぉっふぉっ、それをそのイレギュラーズとやらに渡しておくれ、素敵な黒衣のお嬢さん」
「ええ……でも、霧の塔はまだ――」
現れていない。そう言い切る前に、老人が指さして言う。
「近いうち現れるぞ。最後の謎を携えてな。
それは、これまで楽しませてくれた礼じゃ。そして次も楽しませてもらうよ」
「――待って、貴方何者……!?」
「情報屋じゃよ、霧の塔専門の。
名前は……そう――儂の名はモルディ。モルディ・ベイじゃ」
「その名前――! ちょっと待ちなさ――! ……い」
老人は霧散する。まるで霧が消えるかのように。
リリィは受け取った手紙を見つめ、そしてイレギュラーズを集めるため連絡を入れるのだった。
●三度目
幻想各地に現れる霧の塔は、『モチャフ・レイヤスク』と呼ばれる魔道士が研究の末に作り出した塔と言われている。
だが、そこには多くの謎と霧の塔に監禁され殺された人々がいることが分かっている。
妻を監禁されその行方を追っていたダルト・ゴードンは、手記にこう残していた。
『霧の塔の情報を売り歩く情報屋”モルディ・ベイ”と名乗る男に注意するべきだ。奴は知りすぎている』
老人が名乗った名前と同じ名前であり、注意すべき人物であることは間違いない。
「レイヤスクの秘宝が眠るという霧の塔。次の階層を攻略すればいよいよ最終層となるわ。
老人は言っていたわ、これが最後の謎になるって」
リリィが手紙を取り出し中を開く。ギッシリと文字と記号が記入されたその手紙をイレギュラーズに見せた。
「この手紙を誰が書いたか。そこは重要ではないわ。
問題はこの悪趣味に楽しんでいる文面の中に、真実ヒントがあると言う事ね」
文面にもあるとおり、それはそれを解読するには手間しかない。頭を使うわけでもない、ただの時間の浪費だろう。
だが、これを解読しなければ、霧の塔に挑むことは出来ないのだろう。
一つ、この文面は霧の塔内部に入ったときに見ることを想定されているようだ。
文面中にある『塔』と呼ばれるものは恐らく内部に入らなくては目にすることができないだろう。
「とにかく、今回もスポンサーであるアテスト・モリガンさんが攻略を求めているわ。物品の要求はなくなったから謎を解くことに集中してもらえばよさそうね」
今回は先行する冒険者もいない。ぶっつけ本番となるだろう。
「まずは霧の塔が現れるまでに、この手紙の暗号を解読しましょう。そう難しくはないけれどただただ手間ね……手分けして行いましょう」
イレギュラーズはコピーされた手紙を受け取り、再度目を向けるのだった。
●手紙
一重にこの塔を建てることが出来たのは多くの協力者のお蔭である。
方法は幾つもあったが、謎めいた演出を行うのに多くの犠牲者を出した。
疑いを持つ者もいたが、それもまた一つの演出となったようだ。一階層ではそれ
をそのまま謎として見たが楽しんでもらえただろうか?
さて、謎解きはこれが最後となっている。これまでの謎には苦労したと思
うが、正真正銘これが最後である。これまでに十分な力と知恵を示したと
思うが最後の遊戯だ。存分に楽しんで貰いたい。予め言っておくと、そう目
の色を変えて挑む必要はないはずだ。簡単な暗号解読であり時間がかかる
という話なだけだ。この手紙とともに君達の前には一つの塔があるは
ずだ。奇怪な塔に見えるかね?その塔こそが霧の塔の全容であり全て
だ。秘宝を求めるのならば、よく観察するが良い。よく見れ
ば分離することが出来るのがわかるはずだ。そう必要なのはそれらをひ
換え取っ替え組み替えることにある。簡単だろう? 前の階層より気
が楽さ。方法?それを悩むか探すのが君達の役目であり
私の楽しみだ。とはいえ、一つ前の階層のよう
にノーヒントでは納得がいかないだろう。心配する必要はないせ
いかいを記す事はできないが、以下に乱暴煩雑な暗号を
書き記して置こう。答えを書いて欲しいって?解読が面倒だと感じたわけだね?
そう思ってくれたのならばそれは私にとって最高のご褒美だ。
さぁ、見事解き明かし秘宝を手に入れてくれたまえ。では幸運を祈る。
――手紙は二枚目となり、文字と記号の羅列が並んでいるのがわかる。
果実は此処に在る
■__①23 リろり 凜海空
_■_4⑤6 おんろ 月ン部
__■78⑨ あい五 愛偽ご
■__①23 オろ 俺の空
_■_4⑤6 おレろ 久礼
__■78⑨ さン 酸
__■78⑨ いジ 遺児
では秘宝はどこに?
①23時報■__極78⑨獄4⑤6およち__■別離①23立つ瀬■__血の跡_■_天の塔■__妨害__■蛙①23きこく__■瑠璃4⑤6一に三■__封じ78⑨レンタ■__をお夫①23世界_■_今宵
■__レトリック4⑤6鈍器①23極楽78⑨無垢_■_にのに①23きこく__■瑠璃4⑤6血を捧■__点__■転■__極__■獄①23平地_■_衛藤①23アイツ_■_タツミ■__命じる_■_今宵
■__点__■転■__極__■獄4⑤6およち__■別離①23落ち目■__血祭り__■ウル①23きこく__■瑠璃■__をお夫■__点__■転①23情報78⑨常①23平地_■_衛藤■__倒壊4⑤6神罰か①23世界
●霧がかった塔は現れる
…………ブウゥゥ――ンン――ンンン………………。
どこからとも無く蜜蜂の唸るような音が幻想の空へと響き渡る。
霧の塔。
それが、幾許かの期間を開けて、再度姿を現した。
秘宝が眠るというその塔は、手紙の誘いと共に冒険者達を待ち受ける。
最後だという謎は、果たして――
- 霧の塔への誘い ー III ー完了
- GM名澤見夜行
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年06月10日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●手がかりを追って
霧の塔。
その探索に関わることになれば、直接的な謎解きもさることながら塔を作り上げた制作者の意図、そしてその思惑へと誘われることとなる。
三回目となる霧の塔への誘いは、手渡された手紙と共にいくつかの謎と怪しさをもたらした。
イレギュラーズは手紙の暗号解読と共に、これまでに手に入れた情報の精査、そして追加の情報を探すこととなる。
幸運だったのは霧の塔の出現が遅かったことだろう。これによって時間を掛けて様々な情報を整理することができた。
『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)と『沈黙の御櫛』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は霧の塔に関わる資料を集めた。
浮き彫りになったのはゼフィラが予想したとおり監禁された冒険者達の存在だ。
「どこを見ても出てくるな……この名前は」
多くは手記などで霧の塔に挑んだ記録だが、その端々に見られるのは情報屋『モルディ・ベイ』の名だ。多くの者がこの情報屋を通して霧の塔へと誘われていた。
「モチャフ・レイヤスクについては、やはり記録が見当たらない。……不自然だ。意図的に消された印象を受ける」
名を馳せた魔道士ならば、記憶が残っていてもおかしくはないはずなのにとエクスマリアが言う。
同時に、『モルディ・ベイ』に関しては気になる情報が見つかった。
「近年は情報屋としてこの名を名乗っているようだが、時を遡っていくと……」
「なるほど、冒険者として共に霧の塔へ挑んだ、そんな記憶が残っているのか」
二人の言葉に『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が「何か引っかかる」と目を細めた。
「冒険者、情報屋として霧の塔へ誘う……秘宝を餌に……」
「何故そんなことをする……? メリットはなんだ?」
「モチャフとモルディ、二者が同一と考えれば――」
監禁されていた女が遺した言葉。『裏切り者』の意味も見えてきたように思えた。
情報を精査しながら暗号解読も進んでいた。
暗号自体は解け始めればそう難しいものではなかったが、なるほど確かに時間がかかる。
解けた暗号を一覧にして、イレギュラーズは首を捻っていた。
「『多数の霧が天上へと辿り着くとき、秘宝への最後の扉が開かれる』。クロハネ様はどう思われますか?」
『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)の問いかけに情報屋のリリィは少し悩んでから以下のように答えた。
三層に恐らく霧を生み出す装置があると言うこと。それは天国、煉獄、地獄に分かれていること。暗号はそれら装置(オブジェクト)を正しく組み替えて霧を操作するのではないかと。
想像の範囲はでない。手紙にあるように本来は霧の塔内部で見る必要のある謎なのだろう。
暗号は解読できた。そう、時間はかかったがすんなりと解読できた。
だが、解読中に浮かび上がった追加の暗号、そこに記された『秘宝を求める者よ、引き返せ』という言葉。これがイレギュラーズには引っかかるものだった。
秘宝へと誘いながら、引き返せとはどういうことなのか。
また、暗号の解読が容易かったことも、逆に疑いをもたらした。特に聡明な者はこれらの暗号がフェイクであり、さらなるアンサーが残されていることを疑った。それが余計に時間を浪費させたと言える。
もし、その様子を手紙の主が見ていたのならば――きっと悪趣味な笑顔を見せていたに違いない。
…………ブウゥゥ――ンン――ンンン………………。
聞き慣れてきたその音と共に、霧の塔が姿を現した。
●霧の塔三層 ―Mist Ziggurat―
暗号解読が出来ていることもあり、時間的猶予のある今回は情報の精査の為に一層に在った南東の部屋へと向かい資料を精査した。
新たに見つけた資料にはこうある。
――霧の塔はモチャフ・レイヤスクの研究成果であると同時に、モチャフが生涯追い求めた秘宝を手にするためのものであると。
「秘宝の為の研究か……ねぇミルヴィ。この研究、何がここまで駆り立てたのかしら。どんな秘宝を求めたというのかしら」
イーリンの言葉に『チアフルファイター』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)は「うん」と小さく頷いて、
「……アタシは難しい事はさっぱりだけどサ、雨の後には霧だけじゃない、太陽さえあれば虹だって出るんだから……! そんな虹を求めたんじゃないかな……!」
「虹……虹か……」
七色に輝く秘宝。そんなものがあれば確かに見てみたいと、イーリンは頷いた。
資料の精査が終わった一行は階層を上がっていく。
向かうべきは三層だ。
二層へと辿り着き、剣の道の先へと進む。扉を開き、三層への階段へと足を踏み入れた。
「――?」
霧で出来た階段を登りながら、『観光客』アト・サイン(p3p001394)は朧気に違和感を感じた。その正体は不明だったが――
そして三層に辿り着くと、そこは一つのフロアだった。これまでのように複数の部屋や、通路は見受けられない。
その中央に、異様な雰囲気を放つオブジェクトが塔のように鎮座していた。
「なるほど『塔』ですね」
「この周囲に置かれてるのが地獄に蓋をする為のものかねぇ?」
幻と『闇之雲』武器商人(p3p001107)がオブジェクトを確認する。
「魔力を帯びた霧ッスね……成分的に害はなさそうッスけど、これ動かせるッスかね?」
『繊麗たるホワイト・レド』クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)の言葉に一同は周囲へと警戒しつつ、
「まずは持ち上げて分離させて見ましょう。
これまでの前例から見てきっと――」
幻の予想は的中している。一同が警戒しながらオブジェクトへ触れると、周囲の濃霧が形を作り、霧のモンスターへと姿を変えていく。
「予想通り……! それじゃちょっと邪魔させないようにするヨ!」
「オリジナルの魔導生物の類いか。だが、どことなく既存生物の形も散見できるな」
ミルヴィが敵の注意を引き、エクスマリアがモンスター知識を動員してその行動パターンを曝いていく。
「アト、貴方が寝てる間ずっと解読してたんだから、キリキリ働きなさい」
「ああ、わかっているよ、司書」
イーリンの発破に頷きながらアトは考える。
(暗号は解読できている……だが、慎重に行うべきだろう。
暗号が指し示す物、その意味、思惑を見抜く……その必要があるはずだ)
イレギュラーズは役割を分担し、動き始めた。
霧の塔第三層での謎解きが始まったのだ。
●霧の塔三層 ― Select ―
「マリア! 十字砲火よ! 武器商人の位置は把握してるわね?」
「心得た、行くぞ」
イーリンとエクスマリアの十字砲火が霧の魔物を霧散させていく。
「いくらでもおいで。キミたちならいくらでも相手をしてあげるさ」
「こっちこっち! 中央には行かせないからネ!」
霧の魔物の敵視を集めるミルヴィと、それを庇う武器商人はベストコンビだ。
四人の活躍によって、オブジェクト操作班は十分に謎解きに集中することができたと言えよう。
「着色光はしっかり機能してるようッスね。皆の位置がわかって安心ッス……」
「それじゃ始めようか。
中央のオブジェクト、曰く塔の全て――オブジェクトの操作で塔自体の変化が起こる可能性もあるな」
「『その塔こそが霧の塔の全容であり全て』か。なるほど、考えられる話ではあるね」
ゼフィラの言葉に頷きながら、アトは中央のオブジェクトをよく観察する。芸術品のような意匠の円筒ではあるが、ただの円筒だろうか?
「では慎重に……そして素早く並べ替えると致しましょうか」
ギアゼロを用いて行動速度、そして思考速度を高めていく幻が、まずオブジェクトの分離を始めた。
オブジェクトは全部で三つ。それぞれ特徴的な意匠が施されている。それは暗号にあった天国、煉獄、地獄を意味していた。
「塔の全容……塔は四層……待て、オブジェクトは三つか? 四つ目が存在しない?」
「手紙にも暗号にも天国、地獄、煉獄の三つだな」
アトとゼフィラの言葉に戦闘中のミルヴィがぽん、と手を叩いた。
「天国は下界を見つめている……あっ! 天国と地獄はあるのに現世はないンだ!」
「現世……現世か……」
思考を続けながらオブジェクトを組み上げていく。
「まずは”地獄”に円盤をはめ込み最下へ置きましょう。続けて――」
幻は一つ一つ確実にオブジェクトを並べ替えていく。
”地獄”に蓋を嵌めると、中央周辺の霧が濃くなった。そしてその霧達はどんどんと天井へと登っていく。
”地獄”の上に”煉獄”を置く。よく観察すると”地獄”と”煉獄”の隙間から霧が漏れている。なるほど蓋をしない限り隙間は生まれるようだ。
「最後に”天国”を上にで御座いますね」
幻が”天国”を”煉獄”の上に置く。”天国”の上に空いた穴から霧が立ち上って広がった。
「…………何も起きないッスね?」
「暗号は『煉獄の霧を天国へと集めよ』だったはずだ。ならば――」
「なるほど、蓋、で御座いますね」
蓋を”天国”の上部へと置く。
「……何も起きないッスね?」
「いや、待て。見るんだ――」
アトが指さすと、上部に置いた”天国”が徐々に浮かび上がっていく。同時にフロアに充満していた霧が”煉獄”上部に吸い込まれるように動いて行った。勢いは凄まじくあっという間にフロアの霧が晴れていく。
「――だが、まだまだ動きそうだぞ?」
「そっか! なら――!!」
フロアの霧は晴れた、しかし霧の魔物は依然として現れる。ミルヴィは機転を利かせて中央へと魔物を引き寄せる。
「なるほど、確かにこいつらを倒した時に”霧”が生まれるわね……!」
イーリンの言葉に武器商人が頷く。
「まだまだ魔物は湧き出るようだね。しばらくは狩り(ファーム)と行こうか」
霧の魔物を集めては倒す。そうした行動を繰り返す中アトは考える。
(地獄の竈に蓋をして、煉獄に霧(たましい)を落とす……やがて霧(たましい)は天国へと登っていく……)
霧の動きを見て思う。”天国”より生まれた霧が下へと落ちていくことに。”天国”上部に蓋をしたことで、”煉獄”より立ち上った霧は天国を押し上げるが、同時に”天国”下部から霧が落ちているのだ。
「清められた魂の戻る先……現世か……」
果たして現世はどこにある。”煉獄”と”天国”の間に空いた場所。そこが現世だと言うならば――そしてそれが塔の全容だというのならば――その場所はどこに……?
「――動きが止まりましたね」
霧の魔物の数が減り、ついに湧かなくなった時、幻が”天国”が止まったことを確認した。
「……天国へ霧を集める……ということは」
幻がふと気づき、天国の下部に蓋を嵌めた。これで部屋に存在していた霧がすべて”天国”に封じられたことになる。
”地獄”の上に”煉獄”、そして空間が空いて浮き上がった”天国”。
「これであってるのかしら? 煉獄って現世の上だったりしない?」
「どうかな。塔の設計者の解釈次第な気もするけれどね」
煉獄は地獄へ落ちる程の罪を犯していないものが、天国へと昇る前に残された罪を浄化する場所になる。
煉獄へ昇るか、煉獄へ落ちるか。少なからず塔の設計者は現世の下にあるものと考えたのだろう。
「あとは天国に集めた霧を天上へと飛ばせ、だったか?」
ゼフィラの確認にクローネが「うんうん」と頷く。
「つまり蓋を取る……ッスね」
「蓋を取ったら霧が広がって、ふりだしに戻る……なんてならないといいねぇ」
武器商人の冗談は、しかし最悪の予想でもあってイレギュラーズは苦笑を禁じ得ない。
「とはいえ、ここまでの手順はあっているはずでしょう。ここは覚悟を決めて行くのが賢明でございますね」
幻の言葉に一同は頷いて、そうして浮かび上がった”天国”から蓋を取り外した。
”煉獄”の霧と混ざり合った多くの霧が、”天国”上部から螺旋を描きながら真上へ立ち上っていく。それはまるで塔を貫く柱のようで――
全ての霧が天上へと昇ったとき――…………ブウゥゥ――ンン――ンンン………………――という、聞き慣れた音と共に、フロアの奥に上の階への階段が現れた。
「これで終わり、か?」
ゼフィラが言葉を漏らす。だがこれで終わりではないことはわかっていた。
解読中に浮かび上がった追加の暗号『秘宝を求める者よ引き返せ』。
秘宝は目の前、最後の階段を上がれば目にすることが出来るはずだ。だがそれを前にして引き返せとはどういう意味なのか。
「ここからで、ございますね」
幻が鋭く解読した暗号、そして複製した手紙の文字列に目を落とす。
奇術士たる幻だからこそ、暗号にまだタネが残っていると疑う。暗号が意味すること、その思惑が隠されていると感じていた。
「どう思う、アト?」
「……違和感だ。
司書、思い出して欲しい。いつも扉が出来たときはアナウンスメントがあったはずだ」
新たな階層へと至るとき、常にそのアナウンスが流れていた。
しかし今回はそれがない。アトはそれが気になっていた。
「まだ扉は現れていないということか?」
「恐らく……そして僕らには選択が委ねられたというわけだ」
「前へ進むか……引き返すか、でございますね」
暗号通りならば引き返すが正しいだろう。だが、それを信頼してよいものなのか? イレギュラーズは疑心暗鬼に駆られる。
「手紙の文面は塔内部に入ったときに見ることが想定されている。
即ち手紙はこの場にあって然るべき者……真実のヒントだね。外部に持ち出す必要なんてなかったはずさ……思惑はそこにあるんじゃないかねぇ」
武器商人は手紙自体は信用するべきだという見解を示す。だがそうであるならば――
「引き返せ。暗号を信用足る物とすれば、この意味は警告のようにも思える」
秘宝へは手を出すな、近づくな。
エクスマリアの言うようにそれは警告と受け取れるものだ。
「……基本に立ち返ろう。
オーダーは四層への扉を見つけること。現状”扉”はまだ見つかっていない」
アトの言葉に一同は頷く。
「僕らに求められている選択は二つ、上りか下りどちらかの階段へ進み扉の確認をとること。そしてこの場に留まり時間切れを待つかだ。
『引き返せ』が警告ならば時間切れの選択こそが正しいだろう。だがそれはギルドのルールに反するものだ」
故に、ここで待つという選択肢はない。同時に、恐らく片方を選べばもう片方は消える――これはそういう罠だと悟った。
「進むか、引くか……手紙を信用するか否か、ね」
イーリンが目を細める。此処に至るまでに入手した情報を精査する。インスピレーションを働かせ”答え”への道を辿る。
「塔の全容……地獄、煉獄、天国……現世……」
イーリンの呟きにアトは、僅かな気づきを持った。
「二層から三層へ上がった時の違和感……あれはもしかして……」
アトの言葉に、イーリンが閃いた。観察し、思考を続けて居た幻も可能性に気づいた。
「オブジェクトが塔の全容なのだとして、一層から地獄、二層の煉獄と当てはめたとき――」
「三層は現世、四層を天国と見立てることができますね。
でも、もし、”三層こそが天国”なのだとしたら――」
「そうだ。違和感の正体。空間の捻れ、転移、そういったものが発揮されるのならば、”四階”にあたるこの部分こそが三層」
”天国”は浮き上がり、”煉獄”との間に空間を作り上げていた。
で、あれば……四層の扉は『引き返した』先にある――
覚悟は決まった。イレギュラーズは踵を返し、”下り”の階段を降りていく。
そうして、そのアナウンスが流れた。
――記録。ミストジグラット最終層への進入が確認されました。
ファイブミニッツ後に現象化を中止致します。
その後魔力充電の後、現界に再度現象化、その存在を固定化致します――
●待ち受ける者
そのフロアには扉がなかった。
階段を降りきってその場所に辿り着くと、霧掛かった二つの石像がイレギュラーズを出迎えた。
そしてその中央にその老人はいた。
「ほっほっほっ、如何だったかな? 手紙の暗号は楽しめたかな?
儂は最高に楽しませてもらったよ。頭を悩ませ時間を浪費する姿、引き返せなんて思わせぶりな言葉に乗せられて思考を巡らせる様、ああなんと愉快なものじゃった」
モルディ・ベイ。霧の塔専門の情報屋と名乗る老人は、心底愉快そうに笑う。
「答えへ辿り着かねば此処にはこれぬ。そう言う仕掛けじゃ。実に見事天晴れじゃ」
モルディ・ベイはくくくと笑いながら、鋭く――そして禍々しい瞳を向けた。粟立つ肌に思わずイレギュラーズが武器を構える。
「慌てるな。どの道今回はここまでじゃ。
……さて、お宝を前に何が待つと思う? くくく、そうじゃ、宝を守る番人との戦いじゃよ。
謎解きは最後と言ったな。その通り、謎解きは終わり最後の戦いが始まるのじゃ!!
準備を整え待つがいい、冒険者! ”最後”の冒険に相応しい末路をくれてやろうぞ!!」
高笑いを上げるモルディ・ベイの姿が霧がかっていく。
聞き慣れた音が響き渡る――霧の塔が消えるのだ。
「そうそう、これだけは言っておかねばな」
消えかかる最後に、その男はこう名乗った。
――儂の名はモルディ・ベイ。
かつてはモチャフ・レイヤスクと名乗った霧の塔の生みの親じゃ――と。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
澤見夜行です。
答えはオープニングに記したとおりそれが全てでした。簡単にはしましたがちょっと意地悪な感じでしたね。
ただ十分な思考と気づきが散見されたので、とてもよかったと思います。
MVPは十分な思考と気づきをもっていたアトさんへ。答えに一番近かったと思います。
依頼お疲れ様でした。
次回は純戦な完結編になると思います。(五回予定は四回になりました)
GMコメント
こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
突如現れた塔型ダンジョン。
全四層のこのダンジョンを攻略しましょう。第三回です。
全五回くらいの予定でしたが次で終わります。謎解きはこれが最後です。
●依頼達成条件
四層への扉を開く
●情報精度
今回は情報精度はBです。
提示された情報に嘘偽りはありません。それが全てです。
ですが塔自体に何が仕掛けられているかはわかりません。
●三層について
メタ情報となります。
三層は大きなフロアの中央にぽつんと円筒のオブジェクトが立っています。
オブジェクトは高い塔のようにも見え、それが暗号の手紙に書かれていた『塔』のことだというのがわかります。
周囲にはオブジェクトと同じ直径の円盤のようで平たい蓋のようなものが六つ置かれています。
どうやらオブジェクトは三つの部位に分かれ重ねられるようだ。
上から”上を睨む”意匠の部位、”下を見つめる”意匠の部位、”上と下を見る”意匠の部位となっている。動かすことは可能だ。
オブジェクトからは霧が発生しては霧散している。霧はオブジェクトの上と下から漏れるように出ている。
中央のオブジェクトの周囲にはまるでそれを守るかのように霧の魔物達が犇めいている。
中央のオブジェクトを操作するにしても、魔物と戦い続ける必要があるだろう。
●暗号について
チェックはしているので大丈夫だとは思いますが、三層でやるべきことは暗号に書かれています(GMの不手際がなければ間違いないはず)。
相談中に手分けして解読してみてください。勘のよい人であれば、以下のリリィが頑張って解読した情報だけで答えはわかるかもしれません。
■解読した暗号の一部
地獄は空を睨む
煉獄は底を見下ろし天を仰ぐ
天国は下界を見つめている
煉獄の霧は自身と周囲の霧を空へと飛ばす。
地獄の霧は他の霧を霧散させる。
多数の霧が天上へと辿り着くとき、秘宝への最後の扉が開かれる。
なお答えが記載されていることから、”正しい手順”を示さなければ失敗もありえるでしょう。
●戦闘地域
幻想北部に出現した、霧の塔内部になります。
かなり広大な塔です。障害物はなく戦闘に支障はありませんが、濃霧によって視界は不明瞭と言えるでしょう。
そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。
皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
宜しくお願いいたします。
●それは不意に手紙に浮かび上がった
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