シナリオ詳細
<クレール・ドゥ・リュヌ>愚か者の花束
オープニング
●
神よ。
我が身はその御身が為に。
我が命はその御身が為に。
全ては神が為、それが敬虔なる我らの在り方。
俺の全てを捧げたというのに――それなのに、娘さえ奪うというのですか。
ただ、一人の女として幸福になって欲しかった愛しい娘。
彼女の世界(みらい)さえ、欲するというのですか。
ああ、神は。
神は、なんと強欲なのか。
●
とある滅んだ村の話。
聖人たる守護騎士。誰からも愛される人柄で会った彼が、豹変し村を滅ぼした。
それは聖女であった『聖女の殻』エルピス(p3n000080)は幼い頃に聞いたことがあった。
そして、その守護騎士『ジルド・クロード・ロストレイン』の名を耳にして、自身と交友のある一人の少女に思い当たったのだという。
「――アマリリスさまは、ジャンヌさま……かの守護騎士ジルドの娘さまでいらっしゃるのでしょう」
エルピスは不安そうに、そう言った。
近頃、聖都を騒がせる黄泉還り。その一件でローレットが確かにつかんだのは「フォン・ルーベルグを中心に狂気に侵された人に寄る事件が多発している」という事だった。
エルピスに変わって情報収集に奔走している山田が「幻想の一件と似てる」とぼやいたことをエルピスは不思議に思って居た。
「わたしは、知らないのですが……幻想の――過去の事で、同様な事があったのでしょう。
『嘘吐きサーカス』がそうであったように、今の聖都にも確かな危機が伝播している」
エルピスは声を震わせる。急激なる<滅びのアーク>の高まり。
彼女は恐怖に手を震わせ、『原罪の呼び声(クリミナル・オファー)』がその命を狂わせていると聖職者然とした雰囲気が惧れを口にした。
「感染を広めている存在が居るのでしょう――?」
山田曰く『アンテナ』となる存在がいるだろう、とのことだった。
それを知りながら、エルピスは云う。
「聖女は知らぬ人も救う旗印です。しかし、より近しい大切な方が居たならば、わたしの感情は揺るがぬとは言えません。
『還ってきた』彼らが、悪意的であり、悪魔的であれば、これほどまでに心を痛めることはなかったかもしれません――生前の記憶に、人間性に、知性に、どうしても、わたしはその人が戻ってきたと信じてしまう」
エルピスは唇をきゅ、と噛み締めた。
「ローレットが対応していなければ、もっと、この『不運』は広まった事でしょう。
先ずは、そのことに感謝しながら、我々は次の事に挑まねばならないのです」
そう、この聖都を揺るがす真相を探らなければならない。
聖都より幾許か離れた場所――その村は狂気に濡れ、今にも溢れ出そうとしているのだそうだ。
『月光人形(クレール・ドゥ・リュヌ)』と呼ばれる黄泉還りの形。その傀儡たちは『生前の記憶と、関わった人間が持つイメージ』で出来上がる只の人形だ。
生前と似た自我を保つところがエルピスの云う『心を痛める』所なのだが――原罪の呼び声を発するそれらが魔種に先導され村を飲み込んでしまったのだ。
「その村の事を、調べました。
飢餓に襲われ、一人の少女を聖女として担ぎ上げた『よくある村』。
そこに突如として魔種と、その村の飢饉で亡くなった村人たちが姿を見せたそうです」
聖女様の祈りで救われた。村人たちはそう思っただろう。雨が降らぬと泣き濡れ、惜しみながら死んでいった人々を慈しんだ。
そうしていたその村で、魔種が一人生れ落ちた。祈りの、聖女。
彼女は村に訪れたひとりの魔種の手を取り――そして、その身を魔に転化させたのだという。
「――月光人形が外に出ぬように。そして、転化した聖女より溢れ出る魔の気配を消し去る事こそが、今は必要なのです」
エルピスはそこまで口にして暴徒を治めることこそ最優先だと繰り返す。
しかし、不安げに。朧げに。心を痛める様に言う。
「ひとりの魔種、といいました」
扇動者。
「わたしは、彼の名を知っていました」
その男は。
「――守護騎士、ジルドさま」
その扇動者の名前こそが、ジルド・クロード・ロストレイン。
その足取りを追いながら、今は『救い』を与えなくてはならないだろう。
歴史は繰り返す。
聖女、聖女、祈りの形。
一人の女として生きてく未来を失った憐れな彼女に、きっと、彼は救いを与えた。
それなのに。
それだけなのに、どうして狂気はついてくるのだろう……?
- <クレール・ドゥ・リュヌ>愚か者の花束Lv:5以上完了
- GM名日下部あやめ
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2019年05月28日 21時50分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●
生贄羊。代替品。
誰も彼女を見て居ない。
何故ならば、彼女は神の供物であり、聖女という聞こえの言い宝石で飾られた人形だから。
神だ、救いだと鬱陶しい。酔うな謳うな。
ならば。
ならば――聖女として生きた事は間違いだったのだろうか。
祈りが万能だというならば、どうして人は死ぬのであろうか。
神様が居るというならば、暗澹なる世界に光明を差し込ませる事を為すべきが只の一人だというだろうか。
「……神の声は聞こえましたか? 祈りの奇跡は? 救いは?」
金の瞳は呆れを含み、神と相反する翼を揺らした『繊麗たるホワイト・レド』クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)はドレスの裾を叩いた。荒廃しきった土地を煽った風はレェスに埃を被せ草木の息吹を忘れさせる。
「『聖女の祈りで飢饉が救われた?』 ――そんなの、反転(きんき)の影響かもしれないのに」
永久の夜に昇る月がその瞳の色を鮮やかにする。『お気に召すまま』シャルロット・D・アヴァローナ(p3p002897)は銀の髪を揺らし『聖女の村』を見回した。
聖女、祈り、救い――そんな言葉、この国では有り触れている。誰もが知り得た国家の在り様。人身御供と何が違うのかと問われればクローネは同じだと口を酸っぱくするのだろう。
決して美しいともいえぬ空色に、一筋が走る。小鳥の囀りと、ひゅうと吹く風の気配に『爆弾』ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)はきょろりと瞳を動かした。
「さて」
「……村は、どうなのかな」
指先擽るリインカーネーション。『本当に守りたいものを説く少女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は紺の魔導書をぎゅ、と抱き締め偵察として先遣するファミリアーの様子を伺う。
年老いた影の国の馬の背を撫でて『観光客』アト・サイン(p3p001394)は外套についた埃を払う。荒廃した土地も、聖女の祈りの村でさえ、前人未到とは言い難きその土地に『観光』しに来た彼は今にも呼吸を忘れてしまいそうなほどに唇を戦慄かせた聖女の横顔を見遣る。
「アマリリス?」
「……いえ」
『天義の守護騎士』アマリリス(p3p004731)は花瞼を伏せる。その事情を彼女の境遇を知る者ならば察することができただろう。
唇を閉ざしたままの『聖女の殻』エルピス(p3n000080)の傍らで『ヒト』の姿を模した『天棲鉱龍』ェクセレリァス・アルケラシス・ヴィルフェリゥム(p3p005156)は翡翠の髪を風に流せ静かに息を吐く。
「民なくして国家なし。でも不正義不正義と喧しい愚か者多くねこの国……」
「そう、なのでしょうか」
エルピスの問い掛けにェクセレリァスははあ、と大仰な溜息を吐いた。彼女はこの国で生まれ、ェクセレリァスは異邦人だ。そう思えば、自身が『識らぬ国家』を論ずるのは可笑しいのかもしれないと少女のなりをしながら竜は言う。
「やっぱ自分達で自分達の存続を危ぶませるのは呆れるというか……まあ、ね」
「ええ……分からない。『聖女』……身を捧げ、祈りを捧げ。民を救う存在……その果てがこれ」
静まり返ったその村は祈りで救われたにしては余りに虚無に満ちていて。『緋道を歩む者』緋道 佐那(p3p005064)はェクセレリァスの呆れを確かに感じ取る――嗚呼、そこに有る未来は輝かしいものではなかったか。
「………分からないわねぇ」
●
偵察を行ってる時刻に身を焦がれる感覚がする。
呼び声がじわりじわりと滲む――白のキャンバスにインクを落としたようにして。
「……魔種、聖女が気になるけれど」
どうしたものかしら、と息を潜める佐那にェクセレリァスは詰らなさそうに繁みより顔を出した。ヴェノムとクローネによる偵察は二人では村全体の確認には時間がかかる。
「暴徒とは、魔種の影響によるものなのでしょう」
エルピスに医療知識を有するクローネが胡乱に頷いた。Dawnflowerを指先遊び、彼女は「……余り時間をかけすぎるのもよくないですね……」と立ち上がる。
「東は?」
「……聖堂付近が一番『多い』……」
ヴェノムはそれに同意だと頷いた。聖堂、魔種リリアが居るその場所に暴徒は多く集まり、そしてその傾向から月光人形が共に居る可能性も考えられる。
「そこに、もしかしたら――」
「ああ、アマリリスの『お父さん』も居るかもね」
声を震わせたアマリリスにアトは溜息を交らせてそう言った。
聖堂へ向け歩を進める一同の中で、アトは馬上より状況を確認し、シャルロットはその身に宿した技能で宙を舞う。
喧騒の中、人々の様子を伺うスティアは皆さん、と穏やかな調子で声かける。
「落ち着いて話を聞いて頂けませんか?」
暴徒の中でも乗せられた人々へは説得や言いくるめで対処ができる。
アトが中心となる扇動者を捕縛し、見せしめだとクローネが口にする、それだけでも周囲からは脅威が一度退けられた。
「事態の元凶は排除され、当面の危機は去ったよ。だから落ち着いて我々の話を聞いて欲しい。
君らは魔種に踊らされただけだ。よって咎め立てすべきじゃない。断罪すると言う者が居るなら私は君らを守る為に戦うさ」
魔種、不倶戴天の敵の名を口にしたェクセレリァスに信じられないと村人が言う。
首を振ったェクセレリァスに佐那は緩く頷いた。
「探している人が居るの。応えて、くれるかしら……?」
佐那に続き、シャルロットが緩やかに前に出た。
「奇跡を見た者に問う、奇跡で帰ってきた者は、誰?」
問い掛けるシャルロットに暴徒は言う。『村を荒らすお前に等言うか』と鋭利な言葉を投げ込んで。石が飛ぶ――村人たちを無力化することは易いが、その数は脅威に他ならない。
聖女を護るべくして戦う暴徒たちは皆、呼声の影響を受けているのだろう。クローネは呼声とはこれほどの者かとその金の瞳を瞬かせる。
「……力づくでいくしかないですね……」
「ああ、集団真理を利用してね。捕縛を目的にするよ」
アトの言葉にクローネは緩く頷いた。聖堂へ近づくにつれて脅威の数が増えていく。
(聖女と、黄泉還りを護るための暴徒化――それが呼声か)
ェクセレリァスが納得した様に呟けば、スティアの瞳が揺らぐ。
「……リリアさん。あの子は聖女である事に疲れてしまったのかな。
皆の期待に応えられない自身の無力さに……せめて今までの頑張りに報いてあげたい」
「報いる、か。……人は万能じゃないっすからね……。
聖女だと担ぎ上げられて……重荷を背負いすぎたのかもしれない……」
クローネの呟きにスティアはそうだね、とアマリリスとエルピスをちらりと見た。
聖女。そう呼ばれた人々は、どうしても狂ってゆく。
歯車がずれるように――『人の祈り』は欲望に似ているじゃないか。
「これで、2人――あと2人は?」
「『聖堂の中』か」
ゆっくりと歩を進め、重い扉を開く。あっけなく開いた扉の向こう。礼拝に訪れるかのように人々が祈り、その中心たるステンドグラスの前に白の少女が立っている。
「ふーん、彼女がかな。例の、アレだね、代用品」
煽るようなアトの言葉に、一人の女が顔を上げる。
そこには祈りを捧げる女が一人、それを聖女『リリア』と呼ぶ者が居た。
「貴女が――魔種」
佐那が確かめる様に言えば、リリアの瞳が揺るぐ。何所かを見て、刹那気に声を震わせて。
「神は、わたくしに殺戮しろと仰るのですね」
「さあ? ……報われない人生の終着点がソレなら、救いも何もないわね」
嗚呼、けれど、佐那は確かに高揚していた。魔種――リリアだけではない、何所かに確かに肌に感じさせる強敵の気配がある。
(……私は私で、欲に生きすぎかしら。ねぇ)
デモニアは慾に飲まれる生き物だという。ヴェノムの様に腹を空かせ敵の強さを喰らうが如く、佐那もその狂気を肌で感じ興奮を覚えている。
「さあ、聖女相対だ」
そう、嘯くようにしてシャルロットは云った。暴徒たちの中には月光人形は二名しか存在しなかった――聖女と共に在るのか、とシャルロットは認識した。
「黄泉還りは『神のご意思』とでも?」
「ええ、そうでしょう。……ならば護らずにはいられますまい」
純白の衣服に、赤が垂れる。それが棘有る薔薇を握る聖女の指先より堕ちたのだと気づきスティアは背徳を感じる。
「……でも、その人たちはこの国を可笑しくするのに……?」
「可笑しいのはこの国でしょう。わたくしの祈り無ければ、願いなければ、救われぬなど――」
だから、彼女は剣を手に取ったのだという。
そうして、村人たちは彼女を護る。どうして――? 狂気の声が言ったのだ。
< ―― 彼女を護らねば、この村は救われぬ ―― >
振るわれる攻撃は単調で、それでも村人の数が脅威なのだと特異運命座標は識っている。嗚呼、だから、厚く彼らの対応をすると決めていたのだ。殺さない、その命を護り魔種に踊らされぬために。
リリアが嗤っている。その向こうに見えた影に、『聖女は目を見開いた』
●
やっと見つけた、とアマリリスは――ジャンヌは云った。
ジルド・C・ロストレン。彼が見て居る。リリアと呼ばれた女を守護するために。
自分ではなく、『自分と似た境遇の、声にこたえた女』を見て――
「ジャンヌ?」
呼び声が、する。
「君は、どうして、そうなったのかな」
嗚呼、そんな、そんな言葉をかけないで『お父様』
「生きたい」と誰かが願った。「殺さないで」と誰かが言った。「どうして」と問われた――それを仕事だと、正義だと割り切った。それがこの国の在り方で、ジャンヌ・C・ロストレインなのだと。
「私は、愚かです」
一を捨て、全を取る。焔に塗れた村での父の悲哀をアマリリスは感じ取ることができなかった。
「成程、貴方の娘はとても貴方に似ている。そのナイーブさがそっくりだ」
冷ややかな聖堂で水を打つようにアトが言う。周囲に暴徒を侍らせ、神に祈りながらもヴェノムに対して攻撃を投げかけ続けるリリアが壊れたラジオの様に声を震わせ笑う。
「ナイーブですって! ああ、ジルドさま、可笑しいわ――民へ憂う気持ちはこれほどまでに伝わってないだなんて!」
「……憂うだけで救われるんですか……。自分だって救えやしない」
ドレスの裾が舞い上がる。氷の鎖が飛び込む中、クローネは聖堂内の暴徒たちが障害になるとぎり、と唇を噛んだ。
「ああ、そうだ。優しさという立派な帷子で身を包むその実、重さに耐えきれない。
鎧を脱げず役割からも降りられず、ただ心の中で泣き続ける――『そっくり』じゃないか」
アマリリスが振り返る。ジルドとアトの顔を見比べて下手な笑みを浮かべて見せて。
「だが、貴方の娘は……いや、イレギュラーズのアマリリスは、貴方みたいに薄っぺらな身の程知らずではないと思うんだよねえ。そこは似なくて良かったと思うよ、ほんと?」
「……いい友人を持ったね、ジャンヌ」
柔らかな声音にアマリリスの唇がきゅ、と噛み締められた。色が変わるほどに、白く、想いを噛み締めた彼女にアトは言いくるめの効果が得られぬかと拳を固める。
「余所見はいけないっすよ?」
可能性は余りに脆い。運命に乞うヴェノムの奇蹟は神に愛された淑女には届かない。
「余所見るしかないでしょ。アナタ――死ぬじゃない」
「さあ? 君も、僕も、その運命は誰が決めた? 神か? 運命か?
僕は『神を踏み躙る化け物』だ。丁度いい、こんな運命、唾棄してやる。救われろよ、『聖女紛い』」
聖女リリアがぐぱりと口を開く。人為らず者の様にその唇からは不幸を謳って。
ヴェノムの指先がUnderDogに添えられる。負け犬と、その名を呼んだ『クソッタレ』な刃を振り回して。
「ところで。覚悟はいいかい?こっちはとっくに済ませてる」
距離を詰める。
ゼロ。
――聖女の頬に掠める気配。
「覚悟なんてもう、とっくに」
リリアの声が嗤う、嘲るような音色を響かせて。ヴェノムのその胎に穴が開いた。
赤い。
スティアの目が見開かれる。聖域のほの灯りが余りにちらちらと輝く。
「――――!」
生きている者たちの、慟哭と共にリリアとヴェノムの赫が混ざり合う。
支えるためにスティアはここに立っている。歌い、祈り、全てを捧げてでも言ったじゃないか――『一緒に帰ろう』と。
ジルドがリリアとヴェノムの間に立っている。それは守護の剣か、救えなかった不幸を嘆くようにして悲し気にその瞳を揺らがせて。
「リリア」
救いを囁いたその声音にリリアが目を伏せる。
「お父様、聖女様は――リリア様は、私と同じでしょう?
私が聖女になったのは村の為、民の為、良かれと思った。……お父様は、喜んではくださってなかったの? これは『私のエゴ』だったの?」
頭が痛い。頭が、割れそうだとアマリリスが俯いた。
その隙に入る様にスティアが両手を広げる。出来る事を為したいと願う彼女の背にぞわりと気配が走る。
「アマリリス、さん……?」
聖堂内の暴徒をすり抜けて、リリアへと狙い定めたアトはその攻撃をジルドが受け止めんとしたことに気づき一度交代する。
「悪いけど、貴女に時間をかけてもいられなくなったわ。言い残したいことがあるなら、聞いてあげる」
シャルロットの声にリリアはきょとんとした瞳を向け、只、笑った。
「――それ、どちらの言葉でしょうか」
白が揺らぐ。鮮やかな白を受け止めた吸血鬼としての動き。シャルロットがその身翻し、リリアに一打を食らわした。
リリア自身を護る様にして蠢く暴徒たちを佐那が鋭い眼光を持っていなす。ェクセレリァスは暴徒たちの鎮静化と共にその彼らの後ろで『守られる月光人形』を視界の端に捕らえては離さない。
そうだ、とェクセレリァスは鮮烈なる色を見る。ちらついた赤は、誰のものか。
一手が足りないと佐那が歯噛みした。
「ジャンヌ」
呼び声が、する。
じいん、と、広がる。何かが――鎧に包まれた指先から力が抜けていく。
優しいジルドお父様、『こう言えば』きっと、きっと分かってくださるはずなのに。
「お父様! もうやめて!
例え聖女と、守護騎士と、望まれようとも、このジャンヌは、お父様がお傍にいらっしゃるだけで幸せだったの――!!」
「ああ、僕にとっては君が幸せであって欲しかった。
ジャンヌ、もう、君が心を痛める必要はないんだ」
アマリリスの膝が崩れ落ちる。父にとっての幸せは、アマリリスにとっての幸せ。
なら、彼が言う『これ』は……?
おいで、ジャンヌ。
「アマリリス、だめだ」
アトの声が、遠ざかる。
「成すべきことを成すためには、生き残らないとね」
佐那の声も、遠ざかる。
その先に愛しい恋人も大切な相棒も居ないのに。
「……ああ」
クローネは察した。そうして、その魔力の行く先をリリアへと向ける。
「貴女」
「……言ったじゃないですか……『只の一人の人間』なんだ……。
……聖女だの魔種だの関係ない、人として終わらせてやる……それが私達に出来る最善」
リリアもアマリリスも只の一人だった。恋をすれば焦がれ、痛みには傷付き、涙を流す、只の有り触れた人であったのに――使命と、期待がその身を押しつぶすこと位『分かって』いたじゃないか。
「背負いすぎるなって」
言った、とェクセレリァスの小さな声が聞こえる。月光人形の心の臓深くに届けたら威光がステンドグラスに反射した。
聖女が祈りを捧げ神が降臨する、鮮やかな七色。
その下で、桃色の髪を揺らした聖女は、笑った。
――逃げて。
じわり、と。滲む気配は白い羊皮紙に黒きインクを溢したかのように。
コーヒーにミルクを注ぎ込み混ざる様にして彼女の中の彼女が父へと手を差し伸べる。
「アマリリス!」
投げ込む手榴弾の煙に被さる様に天使の羽が周囲へ舞った。鮮やかな、白と黒。
聖女の頬に涙が伝っている。スティアがエルピスを庇う様に立ち、眩む景色の中、佐那の手が震えた。
「ジャンヌさま……?」
か細く、生きて良いと差し伸べられた手を思い出したようにエルピスが呟いた。
「言ったよ、ちゃんと無事戻ろうって」
ェクセレリァスの声にアマリリスが首を振る。花瞼が落ちる、夢見るように――アトはその顔を見て『しあわせ』そうに見えた。
傷だらけの儘、アトは「冗談言うなよ」とアマリリスに苛立ちを口にする。
でも、戻れない。その先に愛しい人が居なくても、父が、呼んでいるから。
ねえ――しあわせであれば、それで、よかったの。
伽藍、と落ちる音がした。
成否
失敗
MVP
状態異常
あとがき
この度はご参加ありがとうございました。
聖女、きせきのひと。誰かの願いのかたちを、そういうのでしょう。
呼び声が発生しておりました。性質を変え、その生き方を変えた義務の幸福の聖女様。
これから貴女がどうなるかは――また、でしょうか。
MVPは覚悟完了。あなたへ捧げます。
どうぞ、救いがありますように。
※以下運営より補足します。
本シナリオでは『原罪の呼び声』判定が発生しています。
公平性を期す為、アマリリス(p3p004731)さんに送付された特殊判定を下記に記載します。
お客様の参加中のシナリオ『<クレール・ドゥ・リュヌ>愚か者の花束』において特殊判定が発生しました。
お客様のキャラクターは『原罪の呼び声』を受けています。
////////////////////////////////////////////
「ジャンヌ、幸せかい?」
神よ。
我が身はその御身が為に。
我が命はその御身が為に。
そう、アマリリスも思って居る。自身が『聖女』となる事で全てが救いであると。
「ジャンヌ――君は、どうして、そうなったのかな」
アマリリスの悲痛なる声は、只、ジルドには響かなかった。
命を賭してでも護りたいと願った愛しい子供達。ジャンヌと、ヨシュアと、幸福な毎日を過ごすことができれば良かったというのに。
煤に塗れたあの『汚泥』の様な村は、神が為と娘の自由までを奪ったのだ。
「ジャンヌ、俺はねえ、君には幸せになって欲しいんだ」
救うためにその心を痛める事なきよう。
「ジャンヌ、俺はねえ、君の笑顔を護りたかったんだ」
ジャンヌとヨシュアが笑ってお父様と呼んでくれる、当たり前を――
それが手に入らぬというならば。
神よ。
残酷なる神よ。
「誰かの為に犠牲になる必要はないんだよ、ジャンヌ。
俺が、沢山、親愛なる神の為に戦った――俺が、君とヨシュアを護るために歩んできたんだ。
それなのに、君までが正義(エゴイズム)に手を染める必要はない」
だから、幸せになろう。
もう一度、やり直そうじゃないか。
幸福な毎日を。
君が聖女であることを望むならば、君を護る騎士として父は刃を振るおう。
君が聖女であることを望むならば、その祈りを阻む者全てを退けよう。
君が聖女であることを望むならば――君を『利用しようとする』者なきよう、君の祈りを聞き届けよう。
「もう、きみが手を汚す必要はないんだ。
だれも、殺さなくていい。だから――」
だから。
おいで、ジャンヌ――そう、父は手を伸ばした。
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この呼び声の属性は『強欲』です。
原罪の呼び声は魂を揺さぶり、その者の在り方自体を改変する危険な誘惑です。
お客様はこの声に『応える』か『拒否する』かを任意に選ぶ事が可能です。
5/22一杯までにこのアドレスに答えをご返信下さい。(一緒に台詞等を書いてくださってもOKです)
返信がない場合『拒否した』とみなして進行されますのでご注意下さい。
尚、原罪の呼び声に応えた場合、キャラクターは魔種となりキャラクターの管理権がお客様から離れます。不明及び死亡判定に準ずる『反転状態』にステータスが変化しますので予めご了承の上、ご返答下さいますようお願いいたします。
※メール自体の他者への公開は構いません。
また応じた場合、まず間違いなく簡単に戻れるような状態にはなりません。
又、反転状態について改めて補足いたします。
反転状態につきましては以下のような措置が取られます。
・基本的に死亡に準じます。死亡判定に準じる為、経験値の継承対象となります。
・関係するストーリーが早々に、或いは解決への連続性をもって進展するようなことはありません。時期は未定です
・今後、状況に応じて運営側の判断で魔種として登場する場合があります
・そういった場合、何らかの判定が行われる場合があります。またプレイングなどの提出が求められる場合があります
・全く戻れる保証はありません。というより、世界観設定的に『戻れた事例は存在しません』
反転は死亡判定に準じますので、ほぼ死んだものと考えて適切です。
従いまして、今後の弊社側対応や状況変化につきましては上記を念頭に置いておくようお願いいたします。
以上、宜しくお願いいたします。
GMコメント
日下部あやめと申します。
本件は『魔種の足跡』である、呼声に触れた暴徒を治めることです。
●成功条件
・暴徒の鎮静化
・聖女『リリア』の討伐
ジルド・C・ロストレインはどこかに潜んでいますが積極的には姿を現しません。
●聖女の村
飢饉に襲われた事で聖女の祈りで村を救おうとした有り触れた場所。
まだ、年若い少女は祈りで村を救ったとされました。
飢饉で亡くなった人々と魔種が姿を現した事で、事態は一変、村は暴徒だらけになっています。
●月光人形×4
飢えで亡くなった子供や老人の4人。
自覚なく狂気を広めています。彼らは皆『騎士様が助けてくれた』と口にしています。
●聖女
祈りで村を救った聖女。彼女自身の祈りで村は救われましたが同時に魔種の呼び声に飲まれました。
名はリリア。彼女はより強い呼声に呼ばれ魔種となっています。聖堂を根城にしているようです。
また、彼女を討伐する理由は『魔種』であるから。彼女には何らかの守護者がいるようです。
●ジルド・C・ロストレイン
アマリリスさんの父。魔種。心優しき守護騎士。
その姿は穏やかであり、美しい翼をもつ魔種ではありますが、娘と同じ境遇で会った聖女を救うために村へと訪れました。
彼の手で放たれた月光人形と彼自身の呼び声が伝播し、聖女リリアが魔種化。一気に暴徒が周囲を占拠しました。
彼自身は息を潜めてリリアを守護していますが、積極的に戦闘には手出ししません。
●エルピス
村人対応などで同行します。遠距離型。ヒーラー。指示があれば従います。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
どうぞ、よろしくおねがいします。
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