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シナリオ詳細

<クレール・ドゥ・リュヌ>悲しく愉しいカプリッチオ

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「黄泉返りの事件が、全然収まらないのです」
 困ったように眉尻を下げる『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)。今回持ってきた依頼書もやはり天義の1件だ。
 死人が生き返る──そんな事件に関わったイレギュラーズは決して少なくないだろう。そしてその数だけ水面下に埋まった爆弾は処理された、というわけだが。
「……おかしな話だよね。あの国、そういうのは厳しい人間が多いと思ってたけど」
 考えるように視線を伏せた『Blue Rose』シャルル(p3n000032)に「そうなのです!」とユリーカが力強く頷いた。
 天義は規律正しい者が非常に多い。黄泉返りが禁忌であることは百も承知、そんな人物が多いはずなのだ。
「ざんげさんに確認したところ、<滅びのアーク>が急に高まっているって言ってたらしいのです。……まるで、サーカスの時みたいに」
 サーカス──嘘付きサーカス。あちらは大々的に人を集め、サーカスという旗印のもと狂気感染を拡大させていた。最も、こちらは表立った動きではなかったが。
 いずれにせよ、『原罪の呼び声』によって天義首都フォン・ルーベルグがおかしくなっているのは確実だろう。
「でもでも、皆さんの頑張りがなかったことになるわけではないのです。むしろ皆さんが頑張ったからこそ、今の状況に収められているのです」
 天義の上層部が動けない中、ローレットが動かなければ被害はどれだけに膨らんでいたか。そうならずに済んだ今、さらに黄泉返りへの対処が求められている。
「黄泉返りした人はもう、少ないとは言えないと思います。でもその中でボク、気になる話を聞いちゃったのです」
 曰く。大剣を背負った隻眼の少女が、黄泉返りした人々の後をついて回っているのだという。少女を警戒するような人影があれば──その頭を剣で刎ねながら。
「イルミナ、という名前の魔種をご存知でしょうか? 以前、幻想で暴れてから行方知れずになっていた女の子なのです」
 片目を負傷したイルミナは武器を置いて逃走。彼女の大剣は町の地面に深く刺さって抜くことができず、つい先日までその状態だった。
 その大剣が奪い去られ、たいした時間も置かずに大剣を持つ少女が天義に出没した。
「イルミナは以前、他人の悲しみを見るために人を殺していたのです。今回もきっと……」
 彼女の根本にあるのは変わらぬ思い、なのだろう。


 悲しい、哀しい、可哀想。
 私のはいらないわ。あなたのかなしいをもっと頂戴。全部全部イルミナが見てあげる。聞いてあげる。

 1度死にながら、元の記憶や意識を宿しているように見える人間的なソレ。滑稽に人を演じ続けるソレ。
 劇に興味はないけれど、ソレが作る悲しみは偽りに見えるかしら?

 それに──ここにいればいつか来るでしょう? イレギュラーズ。
 目を見えなくしたのはあなたたちのせい。見えるかなしみは半分こ。
 だから、お返し、してあげる。ふふふ、ふ、ふ。

GMコメント

●Danger!!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●成功条件
 イルミナの撃破、或いは撃退

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●魔種『イルミナ』
 15,16歳程度の姿をした少女です。特に目立った特徴がないことから元は人間種と予想されます。他者の悲しむところを見たいようです。
 片目の視力を、以前イレギュラーズと交戦した際に失っています。基本的に人の話を聞いているようで聞いていません。
 身の丈ほどもある大剣を携えており、イルミナ自身も人間離れした身体能力を持ちます。
 魔法(神秘攻撃)の才能はなかったようですし、命中はそれほどでもありません。しかし回避、防御技術、攻撃力が高く、次いでHPが高めです。十分気をつけてください。
 また、以前より何らかの特殊能力が増えたかどうかは不明です。

●黄泉返りの人間
 生前の記憶などを保持しているようです。放っておけば逃げていきますが、殺そうとすれば立ち向かってくるでしょう。
 たとえ非力な女子どもであっても戦う力があります。心情的に刃を向けることになるのならそれも構いません。が、オーダークリアが第1です。

●ロケーション
 天義首都の外れへ向かう途中の道。広く、人気もありません。
 ただし遮蔽物もまたありません。敵味方ともよく見えることでしょう。

●ご挨拶
 愁と申します。久しぶりにイルミナが登場です。過去作が気になる方は『他者の悲しみ』をご参考下さい。読まなくても大丈夫です。
 ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • <クレール・ドゥ・リュヌ>悲しく愉しいカプリッチオLv:10以上完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2019年05月29日 22時25分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

巡離 リンネ(p3p000412)
魂の牧童
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)
救いの翼
クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)
幻灯グレイ
ダークネス クイーン(p3p002874)
悪の秘密結社『XXX』総統
リーゼロッテ=ブロスフェルト(p3p003929)
リトルリトルウィッチ
シラス(p3p004421)
超える者
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの

リプレイ

●月光人形と
「あの野郎、また現れやがりましたか……ご丁寧にぶっ刺した剣まで引っ張ってきて!」
 天義の首都を駆けながら『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)は前方を睨み据える。中心から遠ざかり、まだ離れんとする1本道に人の影はほとんどない。
 そして人気のないそこを歩いている人間が、黄泉返りの『月光人形』なのか、それとも只の人であるのかは──ただ通り過ぎるだけでは判別し難い。
 話しかけ観察すれば、不自然な様子にその存在を看破することもできたかもしれない。だがイレギュラーズたちにとって、今は月光人形よりも優先すべき存在が道の先にいた。まだ見えない、ずっとずっと先に。
(もっと露骨に不自然な存在だと思っていたけれど)
 個体差があるのかも──『ピオニー・パープルの魔女』リーゼロッテ=ブロスフェルト(p3p003929)はその瞳に、その記憶に通り過ぎる人々の表情や仕草を焼きつける。今は分からずとも、いずれ何かのきっかけになると信じて。『魂の牧童』巡離 リンネ(p3p000412)は駆けながら行く人来る人の様子を観察する。少しでも怪しい挙動が見られた人物を見つけると、『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)へそっと声をかけた。
「あの人、怪しいかも」
「承知致しました」
 幻は1つ頷くと視線をその人物へ。頭の上からつま先まで──勿論走っていて視界が動くから、可能な限りではあるけれど──視界へ収め、瞬間的に記憶へ収める。それは今ではない、いつかへ活かすために。
(幻想で交戦記録のある魔種の生き残りか……)
 久住・舞花(p3p005056)の意識はほんの僅かの間、自らの内へ。戦いになれば考える暇などないだろうから。
(この騒ぎに乗じてタイミングよく出てくると言う事は、魔種たちにはやはり裏で繋がっている──繋がりの勢力があるという事かしら)
 個ではなく、組織として。
 ふと舞花は顔を上げた。鋭い聴力が声を拾い上げたのだ。
 ──イルミナ、それじゃ物足りないわ──
 嗚呼、嗚呼。この先にはイルミナ(魔種)がいる。どのような状況であるかはわからないが、それだけは確かに。

 そして声が聞こえたということは──戦いももうすぐだということだ。


●狂想曲
 イルミナは退屈そうにふわりと欠伸を1つ。隻眼に映るのは──正確には死んだとされる者と、生きた人間。
「イルミナ、それじゃ物足りないわ」
 結局人形は人形。イルミナの心を震わせる悲しみは見せてくれない。『要らないモノ』と位置付けて、イルミナは大剣を握った。
「どこかへ行って、ベアトリーチェのお人形。薄っぺらな悲劇なんてイルミナはいらないの」
 月光人形はもう1人を連れ立って、どこかへと足を踏み出す。2人の背中を見てイルミナは溜息のように言葉を零した。
「足りない、足りない。悲しいのはステキなこと。綺麗な悲しみだけで埋め尽くしたいのに──。

 ──こうやって、怖い目で見てくる人がいるから。ねぇ、イレギュラーズ?」

 イルミナがくるりと振り返った先で『悪の秘密結社『XXX』総統』ダークネス クイーン(p3p002874)が不敵な笑みを見せる。
「くくく…、役者は揃ったぞ。さあ来るが良い、我らは逃げも隠れもせぬ!」
「逃げないの? 隠れないの? 嫌だわ、それじゃイルミナは悲しみが見られない。あなたたちを待ってはいたけれど、そんな怖い目で見ないで?」
 イルミナの言葉に『閃翼』シラス(p3p004421)呆れたように肩を竦めた。そして、彼女の肩越しに見える2人へ視線を向ける。
 遠ざかっていく2人はこちらを振り返らず──こちらもまた、追いかけることはない。少なくとも、今は。
「……悲しみなんて世界に溢れかえってるのによ。その手で作ってでも拝みたいなんて良い趣味してるぜ」
「溢れてる? まだ、まだ足りないわ。ねぇ、あなたを殺したら悲しんでくれる人はいるかしら?」
 魔種の言葉に一瞬脳裏をよぎるは、よく行動を共にするお気に入りの──そこまで思い浮かべて、シラスはその先を考えることをやめた。
 彼女に答える必要も、彼女の思い通りになることもない。
「上等だよ、その残り目もブッ潰してやる」
 びくりとその視線に肩を揺らすイルミナ。打ち鳴らされる手拍子は、不吉な何かを纏って魔種の判断力を奪わんとする。
「さあ! 悲しみの夜に曙光を! 推して参りますわよ!」
 暗鬱と剣呑とした雰囲気を壊すが如く、『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント(p3p006204)のきらめきパワーが仲間の士気を上げた。同時にリンネが詩を諳んじる。──それは破壊を肯定し、世界を魔性に変える詩。
 詩を聞くが早いか、ダークネスの自在剣がイルミナの足があった場所へと振り下ろされ、更にその影から舞花が魔種へと接近する。紫雷を纏った刃を届かせんがために。
「あからさまな動きを見せたのは……ローレットを釣り出すのが狙いか。片目の借り、此方が誘い出されたという所かしら」
「さあ、どうかしら? どうだっていいわ。イルミナ、悲しみが見たいの。特に今は、あなたたちの悲しみが!」
 完全に回避することができなかったそれにイルミナは顔を歪めながら、大剣を振り上げる。しかし振り下ろされる直前、銀髪の人影が──利香が2人の間へ滑り込んだ。
「お久しぶりですよ! それとも私の顔なんて覚えてないですかね!」
「──いいえ、いいえ、忘れないわ、忘れるわけないの! 目を、失った時のこと!」
 展開された盾で正確に大剣を受け止めた利香。イルミナはその顔を見ると嬉しそうに笑う。その視線は真っ直ぐ利香の瞳へ、正確には自らの失った方と同じ瞳を見つめて。
 そんな姿に『応報の翼』ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)は「ああ、」と小さく声を漏らして。
(みんな、あなたぐらい分かりやすければ良かったのに)
 黒か白か、0か1か。そんな二元論の世界であったなら。けれど実際はそうでないから、やりにくくて仕方がないのだ。そう、月光人形も然り。
 ミニュイは力強く地を蹴り、魔種へ肉薄していく。
(もしかしたら。この国はそういう願いの産物だったのかもね)
 だから魔種が目をつけたのかもしれない──その"魔種"である少女へ、ミニュイは敢えて見えている方向から煉気破戒掌を放つ。急所を庇ったイルミナの耳へ、幻の声が密やかに忍び込んだ。
「僕とは趣味が合いませんが、そんなにみたいなら魅せてあげますよ。──夢の中でね」
 イルミナの視界に飛び込んできたのは幻の奇術。どこか惹き寄せられてしまいそうなそれを彼女が回避すると、幻はすぐさま次の奇術を見せて。
「僕の夢幻(無限)に続く攻撃を、避けきることができるでしょうか?」
 幻の止めどない奇術がイルミナの余裕を削いで──嗚呼、魅せられずにはいられない。
(貴女はどんな夢を見るのでしょうね……?)
 びくりと体を震わせたイルミナは、自らの望む夢の中。けれどその時間は長くない。
「輝きと共に破滅をもたらせ──炎王の魔剣!」
 炎の剣が真っ直ぐに、イルミナまで飛来する。それが飛んでいくのを見ながら、リーゼロッテは小さく鼻を鳴らした。
「人間観察して一人でにたにた笑う位に留めてれば良かったのに。はた迷惑だわ」
「全くだ。悲しい目が見たいって? 鏡でも見てろ、バーカ!」
 リーゼロッテの言葉にシラスがうんうんと深く頷く。
((……けれど))
 タントと『繊麗たるホワイト・レド』クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)は思わずにいられない。……イルミナの、過去を。一体どのような人生だったのかと。
 だが、タントは頭を振った。
「……ええ、ええ。同情など不要で無用ですわね」
 どのような経緯があったとしても、彼女は魔種。人々を脅かす敵。
「そうッスよ……少なくともこのひと時、悲しんではいられない……」
 反転前が善か悪かなど、答えを出したところで何も満たされやしない。──イルミナも、クローネも。
 だからどれだけ自らが悲観的であっても、今この時は悲しまない。それがクローネにできるせめてもの事だ。
「……少なくとも、貴女は笑ってる方が似合ってますよ、タント……」
「……はい!」
 クローネの言葉にタントは振り向き、口元に笑顔を浮かべて力強く頷いた。そして視線を戻せば、炎の剣が消失した場所でイルミナがゆらりと立ち上がる。
(わたくしは人の悲しむところなど、見たくありませんもの)
 我らの正義のために、そして何より──とタントはクローネの方をちらりと見なおして。
(……悲しむ顔など、見たくも、見せたくもありませんわ)
 ──自分を含む誰かが悲しまなくて済むように、最善を尽くすのだ。
「……こわいめ」
 不意にポツリとイルミナが呟く。
「こわいめ、怖いめ、こわい目、怖い目。見ないで……全部全部、潰してあげる」
 大剣を無造作に構え、──ブォンと風が唸る音。
「……っ!」
 躱した者、受け止めた者、受け止めきれなかった者。イルミナの周囲で呻き声が上がる。すぐさま動いたのはタントだ。そのきらめきがダークネスへ、賦活の力として与えられる。
「回復はお任せあれ! 皆さま、なんとしても誰1人欠けずに勝って帰りますわよ!」
「……そうッスね……誰かが、悲しまないためにも……」
 悲しむようなことになれば、この魔種は喜んでしまうから。
 クローネの放った氷の鎖がイルミナへ、真っすぐに伸びていく。それをひらりと避けたイルミナへ、リミッターを外したかの如くスピードを上げた幻が手を広げた。
 奇術も戦いも──まだ、始まったばかり。

 幻の奇術がイルミナを、特に目や耳といった『五感』に関わる場所を狙っていく。
「目が見えなくて随分イレギュラーズを恨んでいるそうですが、もう片目も見えなくなったらどう思われるのでしょうね? そうそう、耳もいらないでしょう?」
 歌うように告げる幻はにこりと笑ってみせる。イルミナが忌々し気に睨みつけるも、その前には未だ利香が進行を許さずにいた。仲間へも及ぶ範囲攻撃を庇ってみせ、隙あらば妖艶なる乱舞で以って攻めに入る彼女はやや疲弊した様子だが──まだ、戦える。
「いいえ、いるわ! 失くしてしまう前に、あなたたちをそうしてあげる! イルミナはもっと悲しみを見て、聞いて、感じるの……!」
「悲しみ、悲しみか……」
 先ほどからずっと繰り返すそれに、舞花は薄らと目を細める。ただひたすらに欲しがるその様は、暴食か、強欲か……といったところか。
「残念だけれど、貴女の楽しみは共有できないし、看過も出来ない。イルミナ、貴女を討ちその哀しみを終わりにさせていただきます」
 鋭い一閃。防御を許さぬそれがイルミナの柔肌を裂く。そこへ間髪いれず飛んできたソウルストライクはリンネの強靭な精神力そのもの。半身引いて交わしたイルミナに、しかしすかさず響いた猫騙しの音が判断力を乱す。彼女の視線は、注意は音の元へ──シラスへと注がれた。
「行かせません!」
 間髪入れず利香が道を塞ぐ。邪魔よ、と吐き出された言葉と同時に薙がれた大剣は利香の顔を歪めさせて。
 嗚呼、けれども。利香の周りを常に漂う甘い香りは、敵(イルミナ)にとって内側から蝕まんとする猛毒。それは利香が傷つけられるほどに強く香って。
 見える側から襲い掛かってきたミニュイの攻撃に顔を顰めれば、見えぬ方──死角からダークネスの声が朗々と響き渡る。
「我が目には貴様の言う悲しみなど映らぬ! あるのは只前を往く剛毅のみ! この目、悲しみに染められるものならば染めて見よ!」
 放たれるクイーン・ストラッシュを辛うじて回避し、しかし更に続いた白き雷にはもう逃れる余裕を持ち合わせない。
「罪に罰を、罰に愛を。──慈愛神の裁き」
 全力のそれに焼かれる姿に、しかしリーゼロッテの表情は思わしくない。ここまでやらねば中々当たらないことをこの戦闘で実感しているからだ。
(片目だってのにうろちょろと……!)
 あとはひたすら根気強くいくしかない。勝利へ急けば不意を突かれるだろう。
「さあ、まだまだ油断せずですわー!」
 再びタントの華々しいきらめきが仲間の士気を上げる。リンネもまた、回復の合間に黙示録の詩を紡いで。タントの傍らにいるクローネは再び氷の鎖を放ってイルミナを捕らえる。
 すかさず距離を詰めたシラスは魔種へ烙印を刻んだ。一瞬──そう、一瞬の間だけ余計なもの一切を削ぎ落して、戦闘以外の事が抜け落ちていく。
「その目、その目よ。イルミナの嫌いなもの。嫌いで怖いもの!」
 シラスしか見えていないイルミナが大剣を彼へ向かって振り下ろす。脇腹に走った焼ける感覚に歯を食いしばれば、後方からリンネのストラディバリウスが救いの音色を奏でて。
「シラスさん、こちらへ!」
 利香が背後へとシラスを庇い、文字通り体を張ってイルミナの攻撃を受け止める。
「まだまだ……終われませんよ! 今度こそ絶対逃がすものですか!」
 回復手がいるといえど、1人で盾役を務める利香のダメージは少なくない。気を抜けば砕けてしまいそうな膝を叱咤し、利香は再び盾を構える。
 シラスへの怒りが解け、イルミナは周囲を蹴散らすかのように大剣を振り回す。それに傷つけられながらも、ダークネスは力強く笑ってみせて。
「くくく……、どうした? 貴様の悲しみとやらはこの程度のものか…?」
 すかさずタントの回復がダークネスを癒し、彼女は再び剣を構える。渋面を浮かべるイルミナへ、リーゼロッテは得意げな表情を浮かべてみせた。
「逃げるなら今の内よ? こんなわざと誘うような真似をして逃げるなんて、最高に滑稽だけどね!」
 イルミナの視線がこちらを向く。口が三日月のように歪んで──。
「! しまっ、」
 敵へ立ちはだかるのではなく、味方を背にした利香の脇をイルミナがすり抜ける。身軽な動きでリーゼロッテへ肉薄したイルミナはひと息に大剣を横へと薙ぎ払った。
「イルミナ、そういう言葉も目も嫌いよ」
 寸でのところで倒れず踏ん張ったリーゼロッテへ、天使の福音が舞い降りる。すぐさまブロックへと戻った利香を前に、イルミナは眉根を寄せた。
「ああ、もう。みんな、怖い顔してるわ。イルミナ、そんな顔が見たくて望んだわけじゃないのに」
「けれど私たちは──イレギュラーズは来たよ、貴女の元に。終わりを運びにやってきた。
 ──そう、ここをお前の死地にするために!」
 これ以上歪んだ思いを、純粋たる狂気をばらまかれないように。
 リンネの言葉が、鼓舞が仲間の力を押し上げる。余裕なんてこれっぽっちもないけれど、ともすれば倒れてしまいそうだけれど──もう少しで押し通せる、そう全員が感じた瞬間にイルミナは踵を返して。
 けれど、逃亡は許されない。
「……逃がさないよ」
 金色の鋭い視線がイルミナを射抜く。前からはミニュイが、後ろからは変わらず利香が。挟み撃ちになってしまえば、逃げる術は空しかない。
 当然飛ぶ手段など持たぬイルミナは目の前の障害を退けるべく、大剣を振りかざした。


 ──嗚呼。

 ──何がいけなかったの?

 ──みんなみんな、だいっきらい。せかいもきらい。

 ──嫌いなものが不幸になるのは。悲しい気持ちになるのはダメなこと?

 ──わからない。わからな、

 ──……。


 見えぬ悪意が、イルミナを追いつめて追いつめて──その命を奪っていった。
 他者の悲しみをこれ以上なく愛していた少女はもういない。身の丈ほどもある大剣が、持ち主を喪ったことを知らしめるかのように──ガシャンと、地へ転がった。

成否

成功

MVP

リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王

状態異常

リカ・サキュバス(p3p001254)[重傷]
瘴気の王
ダークネス クイーン(p3p002874)[重傷]
悪の秘密結社『XXX』総統
リーゼロッテ=ブロスフェルト(p3p003929)[重傷]
リトルリトルウィッチ

あとがき

 お疲れさまでした。
 イルミナの物語はここで終わりとなります。どうしてもプレイング全てを拾いきれませんでしたが、どなたも良いプレイングでした。

 サキュバスの貴女へ。魔種を前にタンクを務め、踏ん張った姿にMVPをお贈りします。

 またのご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

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