シナリオ詳細
<クレール・ドゥ・リュヌ>間違った神の鉄槌
オープニング
●インタビュー・ウィズ・メディカ
「姉様? 姉様は汚らわしい裏切り者です。早く叩き潰さなければなりません」
聖母のごとき柔らかな笑みで、シスターメディカは記者に述べた。
これはある日の記録。過去の話である。
大きな砂糖壺から角砂糖を一握りとると、紅茶の揺れるティーカップにひとつ、ふたつ、みっつ……カップの縁から紅茶があふれる寸前まで落とすと、ティースプーンでゆっくりとかき混ぜていった。
「覚えています。あれは私が今よりもう少し若くて、もう少し弱かったころ、母様は汚らわしい海の者と不貞を働いたのです。ああ、なんて汚らわしいことでしょう」
ティーカップから一滴たりとも茶をこぼすことなく口へ運んでいくと、メディカは頬に手を当てた。
「もし私に今の力があれば。いまの信仰があれば。今の立場があれば。きっと母様をこの手で断罪できたのに。未熟さを悔やみます。とても、とても」
メディカはカップの中身を飲み干すと、ぺろりと縁を舌先で舐めた。
「けれどそれだけの力があったはずの姉様は、逃げました。母様の不貞を知りながら、汚らわしい罪を知りながら逃げたのです。
ああ、汚らわしい裏切り者の姉様。姉様もあの日断罪されるべきだったのです。
だから……」
砂糖壺に手を入れ、角砂糖を握り、握りつぶし、ざらざらと口へと注ぎ落とすメディカ。
「一刻も早く叩き潰さなければなりません。きっと、私の手で。かならず、私の手で」
●月光人形とクリミナル・オファー
「天義首都で『黄泉がえり』事件が頻発していたことは知ってるよね?
死者が在りし日の姿で帰ってくるというやつだよ。この事件を何件も解決して貰ったけど……あの時点で解決しておいて本当に良かったね。
もし放置していれば、今とは比べものにならない大惨事になってた筈だし」
所変わってここはギルド・ローレット天義支部……という名のただのバー。
コーヒーカップやワイングラスが並ぶ中、イレギュラーズたちは『黒猫の』ショウ(p3n000005)から次に受ける依頼の説明を聞いていた。
「死亡不可逆は世界のルール。何かカラクリがあるとは踏んでいたけど、よりによって魔種の仕業だったらしいね」
ざんげに確認をとった所『滅びのアーク』が急激に高まっている。
天義では天義らしくない狂気的な事件が頻発してる。
「黄泉がえり事件とタイミングがばっちり合うよね」
より調べを進めてハッキリした。
奴らは蘇った死者でも神のルール違反でもない。
『月光人形』――強欲の魔種がもたらした悪意の産物だ」
依頼内容はその『月光人形』の討伐。
亜麻色の髪。どこか柔和な表情の女性。
名をリティモア・スピリッツ。
……アーリア・スピリッツの、実の母であった。
●波のゆくさきへ
「母様は帰ってこられました。神が母様の罪をお許しになったのです。
忠実に不正義を断罪し続けた私への、神の報償なのです」
教会の神父が床に伏していた。
肩から上はなく、大きなハンマーによってたたきつぶされ、絨毯を赤黒く染めている。
シスター、メディカ・スピリッツは目を閉じハンマーの柄を握りしめた。
「神はいつも私たちを見守ってくださっている、その証。
なのに、神を疑う信仰なき人々は私たちをもみ消そうとしているのです。
そうですよね、母様……!」
振り向くメディカに、若い女性がおっとりと頷いた。
爽やかなライム色のドレスを着た、在りし日の母リティモア・スピリッツであった。
「神の報償を。神の証明を、なんとしても守るのです。
神を汚す不正義を……断罪するのです!」
強く、狂ったように目を見開くメディカ。
その声に、教会についていた騎士たちは声を上げて剣を掲げた。
聖アンダモルト教会における、クーデターの始まりであった。
- <クレール・ドゥ・リュヌ>間違った神の鉄槌完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年05月27日 21時20分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●逃げたっていい。それが未来へ進む力になることもある。
宗教の自由化によってメンタルヘルスが形骸化した世界で生きていくと、宗教というものの意義を忘れそうになるらしい。
どころか宗教や神をいかがわしいものだと考えたり、洗脳やテロや集団狂気を連想するようになるともいう。
一度は神に等しい信仰を受けた聖鳥。『慈愛のペール・ホワイト』トリーネ=セイントバード(p3p000957)は思う。
信仰は元々、安寧のためにあるのだと。
心乱れた時、自信を失ったり将来に不安になったり、判断ができなくなった時に頼る医者のようなものだと。
故に結婚や葬式や育児のような人生の端々に現われるのだろうと。
命が余りに安いこの混沌の世で信仰は確かに必要なのだろう。
けれど、信じるものを間違え、それを否定されたなら……。
「不正義とか正義とかややこしくて頭がこんがらがってくるわね」
「私には神も想いも、そこから分からないよ」
トリーネを胸に抱きかかえ、『氷の精霊』氷彗(p3p006166)は目を伏せた。
「『私の大事な仲間を傷付けるってことなら容赦はしない』……それでいいかな?」
「私もそのつもりよ!」
翼を広げてみせるトリーネ。
「神自身が作った死のルールをたった一人の努力なんかで覆す筈なんてないでしょうに……悲しいお人」
剣の柄に手を添え、ゆっくりと撫でる。
壊れた人間の特徴を、ある者は『はじめから壊れていること』と指摘したという。
その説によるならば、断罪者シスターメディカははじめから壊れていたのだろうか。
それともこの世界そのものが、既に壊れた何かなのか。
少なくとも、それらを出生や世界のせいにできるほど、彼女たちの心は狭くは無いらしい。
「美少女であるならば姉妹殺し合うなど日常茶飯事。むしろ、殺し合ってよしとなったら喜ぶまであるが……」
『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)は腕を組み、僅かなきらめきをもって目を見開いた。
「この世界の常人はそうではないのであろう?」
「さあて、ね」
『宵歩』リノ・ガルシア(p3p000675)は薬指の爪を眺めながら目を細めた。
「愛憎は表裏一体ともいうけれど……ふふ、あまり語ると怒られそうだわ。
それにしても死人と同じ顔の人形だなんてちょっと悪趣味が過ぎるわねェ」
そう思わない? と視線で話を振るリノ。
『酔興』アーリア・スピリッツ(p3p004400)はカクテルグラスを大きく傾けて中身を飲み干すと、髪色を赤く染め上げた。
カウンターテーブルに空のグラスを置き、背の高いチェアから立ち上がる。
それまで遠かったチェロの演奏が、油絵の宗教画が、オレンジ色のライトが、静かなバーの店内の空気が、現実のように近く感じた。
「そうねぇ。早くかたづけて飲み直しよぉ」
とろんとした顔で笑って、アーリアはバーの出口へと歩いて行く。
リノは目を瞑って小さく首をふり、空になったビールジョッキをカウンターに置いた。コインを残し、席を立つ。
トリーネを抱いた氷彗も、利香や百合子も同じように席を立った。
そんな中で、アーリアの背を見つめる『旋律を知る者』リア・クォーツ(p3p004937)。
(平気な顔をして見せて、こんな時でも他の人を気遣って……でもね、あたしには聴こえるのよアーリアさん。貴女の旋律が……悲鳴のような嘆きの旋律が)
けれど言葉にすべきではないのだろう。
リアはノンアルコールカクテルを半分まで空にすると、チップを置いてアーリアに続いた。
「やっぱり、アーリアさんは私の尊敬する……お姉ちゃんです」
「ええ。行きましょウ」
『堅牢なる楯-Servitor of steel-』アルム・シュタール(p3p004375)はこっくりと頷いて、腰に下げた剣を小さく叩いた。
扉を開ければ春の日差しが肌を刺す。
遠くで、ネコの鳴き声がしたきがした。
●退路を捨てた時、人は過去しか見えなくなるらしい。
祈りの声とパイプオルガン。
時計仕掛けの鐘が鳴った、その時。
白い鳩の飛ぶ音と共にアンダモルト教会礼拝堂の扉が力強く開いた。
両手を組んでいたシスターメディカは振り返り、目を僅かに開き、驚きに見開き、そして更に狂ったように大きく見開いた。
「――姉様?」
左右非対称に笑うメディカと、おっとりと微笑むままの母リティモア。
鎧を纏った騎士たちは一斉に扉のほうを向き、両手で大胆に突入したアーリアに注目した。
喉の詰まるような顔をして、しかし、息をめいっぱいに吸い込む。
「天義よりここに不正義の者がいると依頼を受けたわぁ、おとなしく投降しなさい!」
「なん…………ですって?」
笑顔を歪め、メディカはハンマーを手に取った。
「不正義? あなたが? 姉様がそれを? これほど貢献した私に? 姉様が? ね、姉様、が……不正義?」
叫び出しそうな顔で、メディカは威厳深く騎士たちに呼びかけた。
「神を汚す不正義。信仰深き我らの手で、断罪するのです!」
騎士は剣を鞘から抜き、鎧の面覆いを下げて突撃を開始した。
三人がかりの突撃を、しかし、割り込んだアルムが盾と剣によって受け止める。
「貴女方が下らぬ大義の為、正義の為と宣うならば……。
私は友の為、仲間の為にこの身、この盾を以て、貴女方に立ちはだかりましょう。
私の護り。容易に砕けるとは思わぬ事です!」
騎士たちの圧力に押されそうになるが、トリーネが高く鳴き声をあげたことでアルムの身体にスタミナが戻り、勢いをつけることで騎士たちを押し返した。
「おうおう、貴殿らが不正義の輩か。神妙にお縄につけぃ!」
助走をつけて飛びかかった百合子が、腹への左ストレートを叩き込む。
鎧と盾で防御こそしたものの、騎士の防御を貫いた百合子の拳圧が騎士を身体ごと吹き飛ばした。
その頭上に飛び乗り、トリーネが力図よく声を上げた。
「アーリアちゃんと仲間の私達が成敗しにきたわ! 今よアーリアちゃん!」
「……」
アーリアは黒手袋をはめ込むと、腕を這う毒蛇を騎士の一人へと飛びつかせた。
しっかりとメディカを、そしてその向こうで微笑み剣を抜く母の顔を見やる。
「さあ、いらっしゃい」
「姉様!」
ハンマーの強烈な打撃。
庇いに入ろうとしたアルムを一息に吹き飛ばすほどの、強烈な打撃だった。
「また再び不正義を断罪するチャンスをくださったのですね。断罪されなさい姉様! 汚らわしいアリア姉様!」
「その名前は捨てたわぁ」
再び繰り出そうとするハンマーを手首ごと押さえて、アーリアはとろんと蜂蜜酒のように片目を細めた。
「飲んだくれのアーリアおねえさんよぉ」
「正義を捨てて逃げたくせに!」
「それの何がいけないのかしらぁ!?」
ぶちんと何かがきれる音がして、メディカはアーリアに掴みかかった。
その時である。
動き出そうとしたリティモアのすぐ後ろ。ステンドガラスが派手に砕け散った。
ハッとして振り返るリティモアが舞い散る逆光の中に見たのは、白と黒の人影――もとい、リノと利香による強襲であった。
咄嗟に翳した剣が利香の夜魔剣グラムと激突し、勢い余って転倒する。
二度ほど転がって素早く膝から立ち上がった利香の一方で、ナイフを逆手持ちで交差させたリノのナイフがリティモアの首を襲う。
頸動脈を正しく切断――した筈だったが、首を押さえただけで血らしい血も出なかった。
月光人形の特徴なのか、それともこの個体だけの特徴なのかは定かで無いが、少なくともただの人間でないことはよくわかった。
「――あら、便利なお人形さんね」
こきりと首を動かし、顔面を狙って剣を繰り出すリティモア。
リノは防御用に残していたナイフで剣を受け、あえて力を流すようにその場から転がってから飛び退いた。
ネコ科動物のように地に片手(に握ったナイフ)をついてブレーキをかけ、リティモアを挟んで反対側の利香は剣を突きつけるように構える。
「邪魔はさせないよ」
教会裏口の扉が蹴破られ、氷彗が猛烈な速度で駆け寄った。
真冬の朝にみた雪景色のごとく白い、雪月花の刀身が引き抜かれる。
「――奥義・雪華乱撃」
氷彗の本来もつ氷精霊としての力を呼び覚まし、凍てつく剣で切りつける。
リティモアの腕が切り離されて転がったが、対抗するように氷彗の方へと剣が突き刺さった。
細身の剣が深々と刺さっていくが……。
(アーリアさんは……いや、味方は誰も絶対に倒れさせない)
リアの楽器演奏が始まり、氷彗の傷を修復していく。
そうして、氷彗とリノ、そして利香の剣がそれぞれリティモアの身体に突き刺さった。
リティモアはおっとりと笑ったまま、そのまま、泥となって溶けるように消えた。
●幸せな夢が覚めたなら
悲鳴と呼ぶには歪みすぎていた。
発狂と呼ぶには真っ直ぐすぎた。
様々な感情と思想と、その矛盾が爆発した、それは人間の心が破裂する音であった。
「アーリアさん!」
振り込まれたハンマーを受け止めるべく割り込む利香。
盾でしっかり受けたはずが、次の瞬間には足が宙に浮き、木製ベンチ数台を粉砕しながら教会を縦向きに転がっていた。
すぐさま顔を上げ、剣をついて起き上がる利香。
両目を見開き、開ききった瞳孔に狂気の光を走らせ、目尻から血のような涙を流したメディカが、強く利香の方をにらんだ。
「お母様に何をしたのです! 悪魔!」
「殺したんですよ。見えませんでしたか」
今度は受けきれる。利香は強烈な打撃を盾で受け、しっかりと足を踏ん張った。
「あなたが母だと思っていた泥人形を殺して土に返したんですよ」
「嘘を――つくなァ!」
利香の首を直接掴み、投げ飛ばすメディカ。
援護に入ろうとした騎士たちに、リノとアルムが割り込むように剣とナイフを突きつけた。
「野暮はいけないわ、そういうヒトって好かれないのよ?」
「そウ。邪魔をするのハ 無粋と言うものですヨ?」
「どけ!」
顔面を狙った突きをのけぞるように交わし、鋭い回し蹴りで騎士の腹を突き飛ばすリノ。
同じように顔面を狙われたアルムは盾の傾斜で受け流して相手の腹を晒させると、滑り込むように剣を下段から打ち込んだ。
「ここは私共に任せて。アーリア様はどうぞ悔いの残らぬよう、思うままに振舞って下さいませ?」
ほほえみかけられたアーリアは、黙ったまま頷いて、そしてメディカへと駆け寄った。
捕まえようと斬りかかる騎士に、トリーネが飛びついて攻撃を受け止めた。
具体的には翼を頭上に振り上げて刃を受け止める形で止めた。
ほぼ止めきれずに頭に刃が刺さったが、強がって声をあげることで傷口が修復されていく。
「ふっふっふ、無駄よ無駄ー! アーリアちゃんと戦いたいなら私とアルムちゃんをどうにかすることね!」
横を駆け抜けるアーリア。
それを見送るように別の騎士を阻むと、氷彗は打ち込まれる剣を刀で弾いた。
飛び退き、氷のつぼみを生成しては騎士へと発射していく。
「無事に帰って、祝杯をあげようね。私もお酒には自信があるんだ」
騎士の剣が次々と打ち込まれ、身体がぼろぼろに傷ついていくが、それでも氷彗は道を譲ること無く、そして表情も崩すことなく刀を突きつけた。
「よそ見する隙は、与えないからね」
「そういうことだ」
一方で、百合子がゆっくりと歩み出て騎士とアーリアの間を阻んだ。
「お前の相手は吾である。よそ見すらば疾く死ぬぞ」
「笑止」
剣の突き――を、百合子は美少女力を纏った拳で真正面から受け止めた。
激突した刃と拳が金色の火花を散らし、続けて打ち込まれた上段斬りの刃を百合子の拳が再び迎撃した。
むろん。防御のための迎撃ではない。現に百合子の拳は血を流している。
だがしかし。打ち込まれた力は騎士へと伝達し、騎士は顔を歪ませて吐血した。
「貴様、何を」
「言ったはずだ。疾く死ぬと」
「メディカ」
名前を呼び、振り返るメディカに、アーリアは黒手袋による拳を打ち込んだ。
顔面に直撃し、派手に殴り倒されるメディカ。
その様をしっかりと見つめながら、リアは強く演奏を続けた。
(今、この瞬間もアーリアさんは本当は苦しんでるってのに、勝手な事ばかりゴチャゴチャと! くそっ! これだからこの国って嫌いよ! なんで……なんで実の姉妹同士でこんな……!)
あふれそうな感情を抑えて、心の中で強く『お姉ちゃん』と呼びかけた。
リアの気持ちに応えるように、アーリアは右手をぱたぱたと振り、再び拳を握り込む。
一方のメディカの手からはハンマーが転げ落ち、口の端から血を吐きながらもアーリアをにらみ付けて立ち上がる。
「姉様――どうして!」
メディカの拳がアーリアの顔面を打ち、対するアーリアの拳もまたメディカの顔面を打った。
「どうして! 姉様ばかり! 姉様ばかりが!」
「……」
左手でメディカの拳を受け止める。
血の涙を流すメディカを間近でしっかりと見つめた。
「正しいのは、私の筈なのに」
「……」
アーリアの拳が再び、メディカを殴り倒した。
血を流し、仰向けに倒れるメディカ。
アーリアはよろめき、リアに支えられながら、目を瞑ったメディカの顔を見下ろしていた。
「少しは姉妹らしく、なれたかしらぁ?」
●メディカが正しかった唯一のこと
これは後日談ではない。
八人の女が怪我だらけでバーに入り、長いカウンター席へ一列に座り、それぞれパープルカラーのカクテルドリンクを注文した。
アルコールの有無はともかく、同じ色をしたグラスが並ぶなか、女たちは(トリーネも含めて)一様にそれを飲み干した。
バーテンの格好をしていた男はそれをひとしきり観察したあと、被っていた覆面を脱いだ。
「いい知らせと悪い知らせが二つずつある」
「いい知らせから」
髪をパープルカラーに染めたアーリアが僅かに身を乗り出して言うと、男は……異端審問官スナーフ神父は咳払いをして言った。
「我々が依頼したのは『月光人形の破壊』であり。それは満足に達成された。アンダモルト教会では悲惨な事故が起こり騎士数名と担当神父を含め死傷者が出た……という報告が、ネメシス聖教会へとなされた」
「…………ん?」
頬をやや赤くした利香が首を傾げた。
「クーデターはどうなったんですか」
「クーデターなど起こっていない」
「…………」
リノがくつくつと笑った。
「『信仰深き神の鉄槌ことアンダモルト教会のシスターがクーデターなど起こすはずがないから』かしら?」
「…………」
沈黙が回答であった。
腕組みをして瞑目している百合子。その横でトリーネがちびちびとドリンクをつついていた。
「それで? 二つ目のいい知らせは?」
「『神の鉄槌』は死んでいない」
ガタン、とアルムが立ち上がろうとして膝をぶつけた。
テーブルに突っ伏すアルムの背を撫でるリア。
「……どういうこと?」
「国から隔離された施設で治療を受けている。ネメシスには存在しないことになっている施設だ。それで、悪い知らせだが――」
「目を覚まさないんでしょう?」
アーリアがグラスに入ったチェリーのくきをつまんでそう言った。
「…………」
沈黙がその答えだった。
そして二つ目の悪い知らせも、同時にはっきりとした。
空のグラスを手で包むように持つ氷彗。吐いた息に、グラスの表面に霜がはった。
「最後まで信じた正義を自分で違えたんだ。目を覚ましても深い後悔と自虐にさいなまれるはずだよ。けれど、それが本当の意味での『罰』なんだと思う」
罪は罪であることが最大の罰であり、それを知ることが贖罪である……という言葉がある。
スナーフ神父は覆面を被り直した。
「二杯目は奢ろう」
チェロの演奏が、やっと聞こえてきた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――mission complete!
GMコメント
・成功条件『月光人形』リティモアの破壊
条件を達するために、教会でクーデターを起こしたメディカ・スピリッツとそれに賛同した騎士数名を撃破しなければなりません。
メディカを含め騎士たちは月光人形の放つクリミナル・オファーによって狂気に冒されています。話し合いの余地はないとみていいでしょう。
対人戦闘の準備をしてください。
■■■戦闘状況■■■
アンダモルト教会礼拝堂で決起を行なっているメディカ及び騎士たちを倒すため、礼拝堂に直接強襲を行ないます。
侵入口は普通に考えて後部の扉、側面の窓、正面のステンドグラスの三箇所になります。
室内はそこそこに広いが全長25メートル程度なので使用スキルのレンジに注意して下さい。
詳しくは戦闘マニュアルのレンジ表を参照してください。
クーデターに賛同しなかった騎士たちは別の場所に拘束されていますが、こちらは後回しでいいでしょう。(先にこちらを解決しようとすると本命を取り逃がす恐れがあるためです)
■■■敵対存在■■■
・メディカ
大きなハンマーを用いたパワーファイター。
いくつかのBSへの耐性と強い特殊抵抗。加えて防御技術。それに依存したダメージソース武器に戦う。
不正義断罪に対しきわめて積極的であり、教会でも立場が高い。
極端な原理主義過激派思想をもち、武勲から同質の思想をもつ騎士たちを統率しえた。
姉アーリアに対して強すぎる確執をもっており、もし戦闘になれば執拗に狙いをつけると思われる。
・リティモア
細身の剣で戦う。
本人の意志や性格にかかわらず『月光人形』に備わった命令として抵抗戦闘を行なう。
戦闘能力はそこそこ。高くも無いが低くも無い平均的なもの。
受け答えは曖昧で本人記憶も曖昧であるため、偽物の人形とみた方がよい。
クリミナル・オファーの感染源であり、共感や好意などによって反転や狂気化のおそれをもつ。
・騎士
数名の騎士。およそ5人。
全身を鎧で防御し、主に剣を武器に戦う。
個体によって戦闘能力やスペックにばらつきはある模様。
油断しなければ負けない筈だが、逆に油断したり侮ったりすると危ない。
【アドリブ度】
ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。
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