PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<クレール・ドゥ・リュヌ>履行される約束

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●戻ってきた親友
 聖都フォン・ルーベルグ。
 『黄泉返り』の噂は消えることなく、新たな事態を引き起こしていた。
 狂気に染まった聖都市民による狂乱の事件。
 同時多発的に起こるこの事件に、民の不安は最大限煽られていた。
 ペティ・サウラス。聖都に住むこの元冒険者も同様の不安を持っていた。
(聖都に住まう規律正しい者達が、このような凶行に及ぶとは……一体どうなってしまったのか)
 冒険者としての勘か、言いしれぬ予感を感じていたペティ。
 どうか早く落ち着きを取り戻して欲しいと祈りを捧げていた、その時。
「ペティ……」
「――!?」
 音も無く侵入してきたその人間に、ペティは驚愕の表情を向けた。
 それはガーネット・オルキス。共に長い冒険をし、そして死に別れた親友だったからだ。
「ガーネット……ばかな、どうして」
 『黄泉返り』。ハッとその単語が脳裏を過ぎった。
 本当にこんなことが起こりうるのか。だがしかし、目の前にいるガーネットはあの時のまま――死に別れたあの時の。
「ガーネット、お前、どうやって戻ってきたんだ」
 問い詰めるわけではなかった。だが、思わずそう言葉を付いてしまった。
 ガーネットは悲しそうに首を振るう。「わからない」そう答えるように。
「ただ、ね。ゆっくりと思い出を語っている時間はないんだ。そう、こんなことはしたくないけど……仕方ないんだ」
「おまえ、何をいって――」
 瞬間、ペティの脳裏に響き渡る甘く邪悪な囁き。
 精神を狂乱させる悪魔の声が、脳裏に響き渡り脳髄を揺り動かす。
「がっ……! おまえ、なにを、して……!!」
「こんなことはしたくなかった……! 仕方がないんだ!
 ……でも、どうせやるなら約束を――あの時の約束を果たすために……!」
「や、約束……」
 二人の約束。冒険者になったときに交わした親友の契り。
 生も死も超越し、いつまでも同じでありたいと願った若く幼いその約束を、ペティは何十年かぶりに思い出した。
「受け入れてペティ、そうすればボクたちは一緒になれるよ」
「やめろ……やめてくれガーネット……ッ!!」
 狂気に抗う男の悲鳴が、聖都に響き渡った。


 聖都に不穏な空気が満ちるその時、ローレットではイレギュラーズ達が召集されていた。
「この感じ……かつての<嘘吐きサーカス>が居た頃のメフ・メフィートを思い出させるわね」
 『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)の言葉に、『蒼剣』レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)が頷いて、口を開いた。
「ざんげにも確認したが<滅びのアーク>が急激な高まりを見せているらしい。そんな状況も”あの時”とまさに同じと言うわけだ」
「つまり、『原罪の呼び声(クリミナル・オファー)』が発生しているという状況なわけね。それも強く。
 それでフォン・ルーベルグがおかしくなっていると……」
 だとしても分からない点がある。
 サーカスの時は、その旗印たるサーカス団の存在があったが、今回はそういった存在が表にでている気配はない。
「黄泉返り……それと同時に起き始めた狂気絡みの事件……ということは」
「ああ、立て続けに起きた二つの事件が無関係とは考えにくい。
 フォン・ルーベルグの異常性の連続性から考えて戻ってきた誰かが『アンテナ』なのさ」
 魔種の能力など知らないし、これも推測にすぎないが、とレオンは前置きし、
「自分にとって全く関わりの無い赤の他人と、自分にとって大切な誰か――より感情を揺さぶるのがどちらかなんて、魔種がどうこう以前に分かり切ってる」
 そうして少し悲しげに目を細めて、
「嗚呼、ただ……きっと誰にとっても不幸なのはな。
 オマエ達の調査によれば、『黄泉返り』が別段敵対的、悪意的じゃなく、生前の記憶や記録、或いは時に人間性や知性を残していると推測されている事か――もし、連中が操り人形なら、それは尚更『冷たい』話さ。
 奴等はそれをそうと知りながら、大切な誰かを狂気に落とさなけりゃならないんだから」
「ひどく、そして悲しいやり口ね……そんな責め苦どちらの心にも影が落ちるわ」
 リリィはやるせない思いに目を伏せる。
 レオンは「ただな――」と続けた。
「――ローレットが対応していてマジで良かった。してなかったら水面下に潜んでた爆弾は今の比じゃなかったぜ」
 それは自慢でも何でも無く、事実一つの光明でもあった。
「つまり今回も特異運命座標ちゃんたちの出番と言うわけね。
 聖都で幾つも事件が起きてるもの、それの対処に当たって貰うわ」
 ピックアップされた場所は、ペティ・サウラスと言う男の家だ。
 悲鳴を聞きつけて自警団が中を覗いたようだが、狂気を拡散させる怪しい女性に排除されたらしい。
 家主は今だ抵抗を見せているが、心が狂気に染まるのも時間の問題だろう。
 素早い解決が必要に思われた。
「そう難しい依頼ではないかも知れないけれど、状況が状況よ。
 油断せずに頑張ってね」
 依頼書を受け取ったイレギュラーズは、そうして聖都へ向けて出発するのだった。

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 聖都を覆う不穏な空気。
 狂気の拡散を止めて下さい。

●依頼達成条件
 ガーネット・オルキスの撃破
 
●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 不測の事態は発生しません。

●ガーネット・オルキスについて
 ペティと共に育ち冒険者となった女性。現状の年齢は死亡時の二十代前半に見える。
 生前は天真爛漫なボクっ子で、見た目によらず前衛での戦いが得意だった。
 ペティとは親友であり恋愛感情はない。
 誰かに命令されているかのように狂気を拡散させているが……。
 戦闘となると狂気感染者として自衛に努めます。
 近距離圏内の対象へ狂気を拡散する攻撃の他、至近距離主体の攻撃を加えてきます。
 
●ペティ・サウラスについて
 ガーネットと共に育ち冒険者として生きている男性。現在三十代後半。
 聖都市民であり、神聖術にも通じる魔法使い・僧侶タイプで、無茶な突撃を繰り返すガーネットを良く補佐していた。
 ガーネットが命を落としてからは冒険者としては廃業していた。
 ガーネットの狂気拡散に抗ってはいるが、その内心約束を果たすことも必要なのではないかと考えている。
 状況次第ではペティが狂気に染まる可能性もあるでしょう。

●想定戦闘地域
 聖都フォン・ルーベルグでの戦闘になります。
 建物内での戦闘から自然に外へとでることになるでしょう。
 周囲に建物は多いですが、視界は良好。戦闘は問題なく行えます。

 そのほか、有用そうなスキルには色々なボーナスがつきます。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。

  • <クレール・ドゥ・リュヌ>履行される約束完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年05月29日 21時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アルペストゥス(p3p000029)
煌雷竜
サンティール・リアン(p3p000050)
雲雀
エンヴィ=グレノール(p3p000051)
サメちゃんの好物
デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
共にあれ
アト・サイン(p3p001394)
観光客
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
ニーナ・ヘルヘイム(p3p006782)
Spica's Satellite
シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)
花に願いを

リプレイ

●その約束は――

 ――いつまでも一緒に。そう生きるも死ぬも……二人は一緒でいよう――

 頭の中に響く狂気の合唱。
 混濁する意識の中でペティ・サウラスは冒険者となったその日、親友でありかけがえのない相棒たるガーネット・オルキスと交わした約束を思い出していた。
 ガーネットは冒険中、魔物との戦いで呆気なく死んだ。即死に程近く、最後に言葉を交わす余裕もなかった。
 此方を見つめる悲しそうな表情で、何かを言いたげに口を開いて、息を引き取った。
 あの時、ガーネットは約束の履行を求めたのだろうか。
 生きるも死ぬも一緒に。
 あの約束を果たさなかった自分を恨み、履行する為にこうして戻ってきたのだろうか。
 ペティは後を追うことを考えなかった訳ではない。けれど、ガーネットを故郷へ連れ帰り、墓へと埋めて、そうして別れを告げた時――生きねば、とペティは漠然と思ったのだ。ただそれだけだった。
「ペティ……受け入れて。そうすればボク達は一緒だよ。二人は一緒に――また二人でいられるんだ」
「……ガーネット……俺は……」
 狂気が精神を染め上げようと膨れあがっていく。苦しみから逃れたい一心で――約束の履行を果たすために――何もかも受け入れようと諦めようとしたその時、玄関のドアが騒然と開かれた。
「その果し合いちょっと待ったぁ!」
 狂気の侵攻を止めるかのように努めて明るい声で『雲雀』サンティール・リアン(p3p000050)が声を上げる。
「――! 誰!?」
 ガーネットの警戒を無視して、『観光客』アト・サイン(p3p001394)と『ふわふわな嫉妬心』エンヴィ=グレノール(p3p000051)がペティとガーネットの間に割り込む。
 アトはペティの狼狽える瞳をしっかり見据えて、気を取り戻させるように両肩を掴んだ。
「誰! あなた達誰なの! 邪魔をしないで! ペティ!」
 ガーネットの誰何をアトは完全に無視する。そして冷静にペティへ語りかける。幻想に拠点を置くギルドローレットから来た者であることを。
 冒険者をしていた二人だ。ローレットの名前も噂程度には聞いたことがある。そんな人物がなぜ、と疑問を呈すると、エンヴィが状況の説明を加えた。
「黄泉返りは肉体があるように見えるけれど、そこに魂はないわ」
 殺害すれば、その肉は黒い泥へと変わり消えて行く。純粋な泥人形に記憶と意識が植え付けられているのだと。
「嘘! 知らないそんなの! ペティそんな人達の話を聞かないで! 一緒に――二人で一緒にまたぼうけ――」
 ガーネットにその言葉を続けさせないようにアトが鋭い剣幕で魔眼を向ける。鬼気迫る視線にガーネットは言葉を続けることができなかった。
「邪魔はさせないよ。君の狂気(ソレ)は広げ拡散して良い物じゃないんだ」
 『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)がガーネットを抑えるように立ちはだかってブロックする。
「邪魔立てするならば容赦はせん。そこで大人しく見ているのじゃ」
 『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)もまた力にて押さえつけるようにガーネットを牽制した。
「邪魔をしないで……! ボクはペティとの約束を……!」
「交わした約束は、かたわれを引き摺り堕とすようなものだったの?」
 違う、そんなことはないのだとサンティールは首を振る。
「ふたりは互いを尊重しあって、未来を、明日を夢見たんだ。
 そうでしょう、ペティ……そうでしょう、ガーネット!」
「例え此処で約束を果たしても、ガーネットさんとの約束を守った事にはならないから……」
 間違った対象と約束を果たしても意味が無いとエンヴィが言う。それはただの自己満足なのだと。
「……しかし、ガーネットとの約束は……二人だけしか知っていないことなのに……」
 エンヴィが首を振る。そうした記憶も植え付けられているのだと。
「貴方の大切だったガーネットさんは、”仕方ないから”と周囲に狂気を振りまく人だったの?
 約束を果たす為と言って、貴方を狂気に陥れるような……そんな人だったの?」
 問いに、ペティは「違う」と否定する。
「ダマされないで、ペティ。ボクはボクだよ。ガーネット・オルキスなんだ――!」
 そうして共に旅した冒険を、思い出話のように話始めるガーネット。その言葉にペティは懐かしさと共にガーネットを失った悲しさを思い出して――
「 冒険者だったなら、わかるだろう。
 生と死はコインの裏表、弾かれれば回りながら空を飛ぶ」
 ローグとは、宙を舞う鐚銭だ。
 冒険の度に己の命を賭け金にする最高の愚か者達の事だ、とアトは自身の冒険哲学を言って聞かせる。
「生きるも死ぬも超越して共にいた時間とは、それは冒険の星霜そのもの。
 なれば、冒険の日々、その瞬間の連続こそが、約束を果たしていた証明だ」
「違う! ボクたちの約束は、そんなものじゃ――」
「……君、ではない。ガーネット……君は本物ではないんだ。だから君が言う『約束』をぺティに強要する事は間違ってる」
 『Spica's Satellite』ニーナ・ヘルヘイム(p3p006782)はカリスマ性を帯びた声で聞かせる。自身が関わった黄泉返り事件の話を。悲しく寂しい話を聞かせながら、”本物”のガーネットの霊魂を探した。
 ペティとガーネット。死後も互いを想い合う、尊い思いを持つ二人。
「……生者は死した大切な人の分も懸命に生きなければならない。
 ……この様な心中に意味はない……貴様が狂気に堕ちるという事は、ガーネットとの約束を穢す事と同義だと知れ」
「約束を果たせなかったことが気になるか? ならば、その約束を果たせばよかろう」
 デイジーがガーネットから視線を外さずにペティへと言葉を投げかける。
「肉体は離れずとも、お主があの娘のことを忘れ続けずにいるならば、心は何時までも一緒じゃ。思い出は永遠じゃ。
 して、目の前のあれはお主の知るガーネットなのかの? お主の心にいる娘は親友の死を願うような奴なのかの?」
「……違う、ボクはペティの死を願ってなんか――一緒に、ただ一緒にありたいだけなんだ……」
「……ガーネット……」
 どうすれば良いのか。ペティは思い悩み首を振るう。
「約束は、既に履行されていたんだよ、ローグ。
 一人の死が定まった時に、それ以上果たせなくなっただけなんだ」
 アトの言葉は冒険者をしていたペティには腑に落ちるものだ。だが、そうだとしてもガーネットの姿で約束の履行を願うソレを、完全に無視することができない。
 そんな思い悩むペティを、アレクシアが叱咤する。
「彼女はあなたにとって大事な人なんでしょう!
 なら尚更、ここで言いなりになっていいの!
 大事な人が道を踏み外しそうなら、止めるのも役目じゃないの!」
 それはまさに、彼等が冒険していた頃の日常風景だ。
 天真爛漫に振る舞い、時に猪突猛進に振る舞うガーネット。それを嗜め、時に口論になっても、最後は互いに納得する。そんな風に一緒に過ごしていたのだ。
「……ああ、そうだ……」
 ペティは胸元のクロスを握りしめ、昔のようにガーネットへと言うのだ。
「お前が、偽物だとしても……そうであっても、ガーネットであるのなら、わかっているだろう?
 これは違う。こんなやり方は間違っている……そうだろう?」
「……ペティ……!」
 ペティの言葉に、ガーネットは俯いて――癇癪を起こすように地団駄を踏んだ。
「……わかってる! わかってるけど、ダメなの! こうしないといけないんだよ!!」
 逆らえないなにかに操られるように、ガーネットが腰の剣を抜いた。
「ガーネット!!」
「ごめん、ごめんなさいペティ……でも、すぐに終わらせるから――!」
「――これが魔種のやり方なのか……!」
 涙を流す人形は紛れもなくガーネットの意識を持っている。そこに生まれる苦しみ、悲しみを感じる『正なる騎士を目指して』シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)は歯噛みしながら武器を抜いた。

●狂気のままに
 戦闘が始まると同時、室内の壁が『煌雷竜』アルペストゥス(p3p000029)よって破壊される。
 室内での戦闘を嫌ったガーネットが屋外へと転がり出ると、イレギュラーズは後を追うように外へとでた。
「……グルゥゥ……」
 アルペストゥスがペティを確保し保護する。近距離圏内の攻撃技術しか持たないガーネットは手を出せない形だ。
 イレギュラーズ相手に大立ち回りを見せるガーネット。狂気の影響もあるのだろう、手を抜けるような相手ではなく、互いに生傷は増えていく。
 戦場を俯瞰しながらアルペストゥスは思う。
(生と死。いきる。しぬ。
 一度別れたのに、今また会いに来たのは、何故?)
 疑問の答えを知る者は、きっとガーネット以外にはいないのだろう。
 約束の履行。果たされるはずだったその約束を、死してなお求めたガーネット。
 アルペストゥスに守られているペティは、そんなガーネットを見て枯れ果てたはずの涙を今一度零していた。
「ねえ、かなしいね、ガーネット」
 自らを世界の円環から外れたものというサンティール。
(この世界で出来た、たくさんの――
 それはきっと……僕はきっと、いつかは、置いていってしまうのかもしれない)
 だからだろうか。
 ペティとガーネット。二人のことをひとごとのようには思えなかったんだ。
「ねえ、かなしいね、ガーネット」
 蒼き光を走らせながら、サンティールは泣きながら剣を振るうガーネットに語りかける。
「でも……『信じて、託す』こと。
 それこそがふたりの祈りのかたちなんじゃないかって思うんだ」
 今、果たすことの出来ない約束は――でもきっといつか。
「……ヘルヘイムの名において、『死』の権能を行使する……ガーネット、貴女に安寧を。
 願わくば約束を履行するその時まで穏やかな眠りを」
 ガーネットの放つ斬撃を受け流しながら、ニーナは自らの権能を解放する。
 黄泉返り――その性質の悪辣さに憤怒を覚えるニーナ。大事な者を喪いながらも、冥福を祈り懸命に生きようとする生者への冒涜だと。
 放たれた凍りの鎖がガーネットを縛り凍てつかせていく。
 永遠の眠りに誘うように、ニーナの鎮魂歌がガーネットの鼓膜を揺さぶった。
「泥人形だと理解して、それでも苦しむ程に大切に思われるだなんて……妬ましいわ」
 横目にペティを流し見て、エンヴィが呟く。呟きは魔力を帯びて弾丸となり、力を持って射出される。
 傷付くガーネットが、ペティを求めて泣き叫ぶ。
「ああ……神よ……」
 どうか早く楽にしてあげてくれと、ペティが瞳を伏せた。
 エンヴィの射かける死霊の矢が、呪いを持ってガーネットを穿つ。しかし狂気のままに身体を動かすガーネットは止まることもできず、ただただ剣を振るうのだ。
 アルペストゥスの放った雷撃に、ガーネットの足が止まる。
 これ以上はペティに近づけさせまいと、アレクシアがガーネットの身体を押さえ込む。
「大事な人を狂わせてあなたはそれでいいの!?
 少しでもダメだって想うなら、自分の意志を貫いてよ!
 あなたの想いはその程度なの!」
 その性質上、ガーネットが偽物であることは理解している。
 けれど、その意思は確かに本物を模倣しているのだ。性格や考え方に違いはないはずなのだ。
 アレクシアの訴えに、ガーネットは確かに抗って、剣を収めようとしてみせた。だがより上位の命令がガーネットの身体を動かす。大切な人――ペティを狂気に染めろと、ガーネットを動かすのだ。
 振るわれる剣閃をアレクシアが傷付き膝を付く。けれど、退くことはない。ガーネットを――辛そうにしているこの人に、ペティを手に掛けることはさせないのだと、アレクシアは道を阻んだ。
「親友と一緒にいたい気持ちはわかる。しかし、それを大切に思うのならば手を引くのじゃ」
 ガーネットを黒いキューブに閉じ込めて、デイジーがガーネットの進行を止める。
 二人の仲は簡単には言い表せないものだ。
 友達でも恋人でもない。けれど、幼き頃より共に生きてきた家族にも近い存在。
 いつまでも一緒にいたいという願いをガーネットは繰り返す。約束があるから――けれどそれ以上にもう一度会えたのならば、離れたくないという強い思い。
 その感情は、歳を重ねたペティにも残っている。傷付いていくガーネットが偽物であることは理解したのに、それでも助けたいと願ってしまう。
 だがそれは許されないことなのだ。
 死者は蘇らない。絶対の理を覆すことはあってはならない。
「ペティさんを救う為に、貴女をこれ以上苦しめない為に、僕達が必ず止めます……!
 だから、貴女も負けないで……貴女の望まない事を強制する声に、抗ってください!」
 ガーネットの振るう斬撃を盾でガードしながら、シャルティエが訴えかける。
 苦しむガーネット。作られた存在だとしても、その意思の在りようにもっとも寄り添ったのはシャルティエだろう。
 消滅させるしかない存在だとしても――それでも、ペティのみならずガーネットの意思も救ってあげたいのだ。
 狂気のままに操られもう一度死んでいくなど――そんなことは悲しすぎる。
「その流した涙……嘘偽りでないことはわかります……!
 ペティさんも我慢し祈っています。貴女がその狂気に打ち勝ち安らかに眠ることを――!」
「……ペティ……!」
 シャルティエがガーネットの斬撃を交い潜り肉薄する。全身をバネに振るわれたブロッキングバッシュが大きくガーネットの体勢を崩し、剣を持つ腕を痺れさせる。
 アトが走る。
 気配を完全に遮断した疾駆は、体勢を崩したガーネットを正しく奇襲する。一閃、そして不惜身命の一撃がガーネットの身体を黒く染めあげる。
「ガーネット――!!」
 ペティが叫ぶ。
 見送るのは二回目だ。
 もう二度と見送ることなどしたくなかった。けれど、絶対に目を逸らしてはいけないと、感じた。
「嗚呼……ペティ……」
 死期を悟ったガーネットが、小さく口を動かす。その光景は、ペティがガーネットを見送ったあの時と同じで――

 ――生きて。

 そうだ。あの時もガーネットはそう口にしていたんだ。声にせずとも唇は確かにそう動いていて――
 悲しみに暮れ何もかも忘れていた。忘れようとした。けれど忘れてはいけないのだ。
 ガーネットと共に生きた、その記憶と共に最後まで生きなくては――
 ペティが悟ると同時、黒に染まったガーネットの身体が、泥のように変わって潰れて落ちた。
 狂気の拡散は止まり、ただ黒い跡を残すだけだった。

●きっといつか
「ガーネットには……謝らないといけませんね」
 ペティはガーネットの墓前でそう呟いた。約束を守れずに、すまないと。
 けれどデイジーは首を振り否定する。
「何を言う、親でも兄弟でもなく奴は真っ先にお主に会いに来たのじゃ。
 礼を言わずして何とするのじゃ。謝罪ではなく礼をするのじゃ」
「そう、ですね……」ペティは薄く笑う。
「ガーネットさん。天真爛漫な人だと聞いたわ。きっと貴方にも笑っていて欲しいはずよ」
 エンヴィの言葉に、ペティは懐かしむように目を細めた。
 明るく良く笑う奴だったと、ペティは思い出の中のガーネットを追想する。
「きっと一人残したペティさんが心配だったんだね。
 でも……ペティさんはもう大丈夫だよ。
 それはきみがいちばん知っていることでしょう。
 ……ね、そうだよね」
 墓に眠るガーネットに話しかけるように、サンティールが言った。
「……ガーネットの魂はここにある……幸せに……そう告げている……」
「嗚呼……ガーネット」
 ニーナは見つけた魂へ鎮魂歌を歌い上げる。留まり続けることに意味は無い。二人は離ればなれになるけれど――それでも約束が二人を繋ぎ続けるのだ。
 次に出会うときは――きっといつか訪れるその時が約束が履行されるときなのだろう。
 ぼんやりと輝く残滓が空へと登っていく。
「うん、きっとこれで――ようやく安心して安らかに眠っていられるね。
 だから、ペティ君。君もそんな悲しげな顔はやめて、前を向いて歩いて行かなきゃ、ね」
「……ええ、そうですね」
 墓前で空を見上げるイレギュラーズ。
 彼らを遠巻きに見るアルペストゥスは、消えゆくガーネットの魂を見ながら思った。
(貴方は、きっと、やさしい。
 だから、自分の死を一番しっている人のところにきた。
 きっとやさしいから。誰かをびっくりさせないように)
 沢山の傷を受け、それでも最後は生きてと残して消えて行った。そんなガーネットへと安らかな眠りを促した。

「……」
 墓場近くの木の裏で、アトは一人空を眺めていた。
 冒険者――ローグには墓すら不要なのだと、アトは言う。
 けれど。
 涙に濡れる墓標があるのは、人としての幸福だろうか――
 仄かに輝き、立ち上っていく光の粒を眺めながら、アトは静かに息を吐いた。

成否

成功

MVP

アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女

状態異常

なし

あとがき

 澤見夜行です。

 皆さんのおかげでペティは狂気に染まることなくガーネットをもう一度見送ることができました。
 きっと、これからは前を向いて最後の時まで生きていけるはずです。

 MVPは二人を叱咤しその関係を思い出させたアレクシアさんに贈ります。

 依頼お疲れ様でした。素敵なプレイングをありがとうございました。

PAGETOPPAGEBOTTOM