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シナリオ詳細

<クレール・ドゥ・リュヌ>騎士の一念

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●許し得ぬ戦い
 天義首都における『黄泉帰り』事案は、もはや公然の秘密となって久しい。イレギュラーズが密かに潰してきた芽はしかし、氷山の一角に過ぎず。日々増え続ける案件とその噂は隠しきれぬ段階まで至っていた。……あるいは。『常夜の呪い』事件が落とした影が、『黄泉帰り』をすんなり信じさせるに足る下地となったというなら、それは酷い皮肉と言えよう。
「フォン・ルーベルグを中心に、狂気に侵された人間による事件が続発しています。規律を重んじる彼らが狂気を受け入れることは、普通ならあってはならない。さながら幻想の<嘘吐きサーカス>事件に酷似しています。<滅びのアーク>の高まりも当時に酷似している、とレオンさんがざんげさんに確認できています」
 つまり、魔種による本格的な攻撃行為。『原罪の呼び声』が強く影響している……旗印になる大きな出来事は無いはずだが、一体どうして?
「レオンさん曰く、戻ってきた誰かが『アンテナ』、つまり『原罪の呼び声』のキャリアーとして機能しているということです。<サーカス>と異なるのは、より周辺にとって分かち難い、親しい存在であるということ。協力を要請して正しく対応してくれるかといえば、大きな疑問符が付く相手ということです」
 魔種は魔種なりに狡猾に考えている、というわけで。前回以上に厄介で『冷たい』話である。
 だが、と情報屋は続ける。レオン曰く、『ローレットが対応していてマジで良かった。してなかったら水面下に潜んでた爆弾は今の比じゃなかったぜ』とのこと。今までの『黄泉帰り』事件への対処は、確実に正しい方向へと天義を導くに足るものであった。そういうことだ。
「皆さんに対処して頂きたいのは、首都北西部での騎士団の小規模蜂起、その対処です。彼らは元々、首都内でも多少は名の知れた規律重視の騎士団でした。ですが、彼らは度重なる正義の執行、その報復で少なからず家族を失っており、『黄泉帰り』を果たした身内を多く抱えているとのことです。彼らは首都のいち区画を制圧し、『黄泉帰り』を匿っています。流石に看過できぬと天義首脳陣が騎士団を放ち、一触即発の状態に陥っています。恐らくですが、皆さんが到着した頃にはその緊張もピークに達していることでしょう。
 ……今回、両騎士団の生死を不問とします。ですが、『徹底的にやるなら正体を隠してください』。顔が多少なり露見するというなら、首脳側の騎士は言葉を尽くすか皆さんの実力を眼前で示し、介入できぬと理解させるべきです。無論、狂気に落ちた側の騎士を殺さないで済むなら最上ですが、手加減できるかというと、ちょっと」
 そもそも、騎士団の二正面撃破などという行為自体がかなりの無茶を伴うのだ。どうにか楽をする方法を考えたほうが、無難と言わざるを得ない。
「『黄泉帰り』は区画内の3~4軒に集中して匿われています。彼らは基本的に戦闘力は低いでしょうが、いざ死ぬと分かれば話は変わるでしょう。単独突入は控え、2人以上で突入して各個撃破が安全かと思います」
 無論だが、首脳陣側の騎士を『黄泉帰り』に接触させるのは法度だ。彼らは首脳陣の言葉に忠実で、それらを信じていない。実在を目の当たりにして、果たして『原罪の呼び声』に抗えるか? 正気を揺さぶられた脳では無理だろう。
「以上となります。くれぐれも細心の注意を払い、行動してください」

GMコメント

 騎士同士のドンパチが起きないってことはないでしょう。止めるのが依頼内容ですけれども。

●成功条件
・黄泉帰りの全殲滅
・『騎士同士の武力衝突による』死者を出さない(武力衝突させてもいいが、トドメを刺させてはならない)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●注意事項
・首脳陣側の騎士に『示威行為を超える危害』を加える際、その場に居合わせ、尚且つ外見が露呈する状態にあったイレギュラーズの悪名が(報酬名声値とは別に)上昇する可能性が含まれます。
 行動一つが自分以外に影響することを承知の上、行動選択をお願いします。

●叛乱騎士×5
 『黄泉帰り』を匿い、狂気に陥った騎士達。基本的に「黄泉帰りを殲滅した上で不殺等で無力化すれば」狂気を脱する。
 その後どう裁かれるかは別として、彼らは救われるだろう。無論、騎士同士の衝突があれば戦死が既定路線であった。
 全員騎乗。槍2剣2弓1。機動5。
・騎士の連帯(パッシブ。叛乱騎士の戦闘可能な残数に応じて物攻と防技が上昇)
・銀の魂(精神無効、攻撃対象を決定後2ターンは別の相手を狙わない)
・チャージ(ランス、ソード):物近単移、致命、呪い
・騎乗射撃(弓):物遠単、流血、足止
・薙ぎ払い(槍):物近扇、麻痺
・後先翔撃(剣):物遠単:カ遠、Mアタック中、連

●首脳側騎士×5
 『叛乱騎士』と同程度の装備・技能を持つ(『騎士の連帯』の補正値がやや高い)騎士達。叛乱騎士と異なり、理ある行動や言説に耳を貸す程度の理性はあるが、飽く迄『天義として正義たる』言説でないと動かないことに留意されたし。
 共闘を申し出てもいいが、不殺で止めると彼らが殺しに来るのでさじ加減とかその他が面倒になる。

●黄泉帰り市民×20
 大体5人ずつ、区画内の民家に匿われている。
 彼らは騎士の蜂起に否定的な言葉を告げるが、死を間近にすれば必死に抵抗してくる。並の人間よりも頑丈。
 彼らを全員殺害した上で騎士を倒すと、正気に戻る可能性がある。
・原罪の呼び声:神特特(自分を中心にレンジ2以内)、不運(純種に対し不吉)、純種は狂気の影響を受ける可能性がある。

 割とアレでそれな話ですが、よろしくおねがいします。

  • <クレール・ドゥ・リュヌ>騎士の一念完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年05月27日 21時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
ライハ・ネーゼス(p3p004933)
トルバドール
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
ハッピー・クラッカー(p3p006706)
爆音クイックシルバー
ヴェーゼ(p3p007004)
言の葉に秘めし仮面
ビーナス・プロテウス(p3p007066)
渇愛の邪王竜
モルン(p3p007112)
浮雲

リプレイ

●汝、誰に傅く
 黄泉帰りを望み、剣を執った反逆者と。
 天義首脳部の言葉を是とし、神の教えのみを自らの糧とする愚直な騎士達。
 双方ともに一歩たりとも退く様子はなく、各々の間に言葉はない。すでに議論は尽くされた。或いは、最初からそんなものはなかったのか。
「討――」
「ちょおっと待ったー!!」
 首脳派の騎士、その頭目が騎士剣を掲げて戦わんとしたその時、割って入るように大音声が響き渡る。
 紛うことなき、『爆音クイックシルバー』ハッピー・クラッカー(p3p006706)の絶叫だ。両陣営が思わず身構え、手にとった武器を抜きかけたところで、ハッピーは高々と書面を――免罪符を掲げた。
「最近天義を騒がす一連の事件に対応する為、私達こんなものを貰ってるの!」
 突然現れたハッピーの言説に、騎士達は動揺を隠せない。だが、いずれの陣営も掲げられた免罪符がその場しのぎの偽物ではないことをよく理解している。天義首都において、天義の道理に忠実な騎士を前に偽りが通じるわけもなし。真実、正しき免罪符なのだ。
「……我らの正道を妨げてまで口にできる道理であろうな? 罪を除かれる事と道理を押し通すことは意を異にするが、如何に」
「それは僕が説明します」
 ぎろりとハッピーを睨んだ騎士の前に立ちはだかったのは、『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)である。対して、叛乱の騎士達の前には『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)、『トルバドール』ライハ・ネーゼス(p3p004933)の2名が威圧的に立ちはだかり、説得行為に水を差されぬよう警戒を強めている。
 さらに、周囲を固めるのは『祈る暴走特急』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)、『言の葉に秘めし仮面』ヴェーゼ(p3p007004)、『渇愛の邪王竜』ビーナス・プロテウス(p3p007066)の3名。どちらかと言えば、首脳陣側の騎士が暴走するのを危惧しているかのような隊列。さりとて叛乱側の騎士は『謎の闖入者』が決して味方になりえないことを肌で感じていた。何故か?
(正義! 正義! 正義! 正義! と言いながらやってる事はただの同族殺し……獣以下じゃないか!)
 ヴェーゼにとっては綺麗事を語りながら手を汚す騎士達が道化にしか見えない。いかに口で理屈を語ろうと、生きる為ではなく屈服させる為に命を奪う彼らの行為は獣のそれより無駄な行為だ。
(死んだ人が蘇るっていっても、泥人形が戻ってきたくらいで『死んだらおしまい』がひっくり返るわけじゃないでしょ? よくわからないな……)
 ビーナスはビーナスで、黄泉帰りの道理を理解している以上は微塵も相手に共感することが出来ない様子だった。『死んだらおしまい』、と理解した時点で彼女の思考は完結している。いかな相手であっても、死を覆すことなどできない、という真理に例外を許さない。残酷なまでの現実主義は、愛を渇望しながら得ることの出来ない事実と向き合った結果だろうか。
「叛乱騎士を倒すことは揺るぎない正義ですが、もっと重要な正義が存在します。それは、黄泉がえりなどという不正義が頻発する原因、それを操る黒幕を討つことです」
 幻は叛乱側の騎士を指差し、高らかに宣言する。正義のありようは正しくとも、討つべき不正義の大小を見誤るな、と。翻って、それは目の前の不正義を『瑣末事である』と、事態を矮小化した発言にも捉えられかねない。色めきだつ騎士達を制し、首脳側の頭目は顎をしゃくって先を促した。
「僕達はこの騒動を鎮圧するために派遣されたローレットです。ここは我々が貴方方に代わり正義を執行致しましょう」
 ――彼女の堂々たる正体の暴露に、泡を食ったのはヴェーゼである。あえて顔を隠してこの場に参じたことが無に帰す幻の暴露は、彼女には理解に苦しむものだ。……イレギュラーズの介入は兎も角、『ヴェーゼ』の介入は表沙汰にならぬかもしれないが。
「国家危急の折、あたら命を危険に晒すべきでは御座いません。これは自分の勘でありますが、きっとこの先、もっと大事な使い道が御座います。旅人を擁する我々が『呼び声』に立ち向かうのは道理であります。国が違えど、それは原理原則であります」
 エッダは少しだけ背後を、首脳側の騎士を振り返って告げる。彼女の出自は鉄帝、ここは天義。根幹となる道理を違え、いがみ合う両国であろうと、国家を最後に支えるのは残された人々の命であることは両国ともに変わることはない。命の賭けどころを間違えてはならぬのだ。
「……成る程、貴様達の道理は理解した。その免罪符に賭けて、偽りなき正義を手にした者と判断する」
 首脳陣の騎士を束ねる男は静かにそう告げる。説得は成功した――誰しもがそう思った。そしてそれは七割ほど事実である。だからこそ、惜しい、と言わざるを得ない。男は再度、騎士剣を抜いた。そして、空へと刃を振り仰ぐ。
「なればこそ、斯様な異物を放置して良しとすることは解せぬ。同じ理屈に立たずして主張を押し通そうとする浅ましさを、私は歪と断じざるを得ない」
 厳しい言葉と共に切っ先で示された『異物』――それは『浮雲』モルン(p3p007112)の姿だった。いかに高く上昇できようと、自律移動できない以上は隠れることも目立つことも自由には出来ない。加えて、本来の姿ならいざしらず、『見てくれ』と言わんばかりの異様な重鎧。正体を隠すことと、偽装することはイコールとはならない。
「ふえー……わしの方を見てるんかのう」
 モルンはぼんやりとその様子を見ていたが、遠巻きには声が聞こえないため事態の深刻さが理解できない。……いかに深刻かを理解したのは、飛来した矢と斬撃に貫かれ、地面と不運な接吻を交わした頃であろうか?
「ちょーっ!? 交渉決裂? 話し合う余地とかないの?」
 ハッピーは静観の構えだったが、仲間が当然のように危害を受ければ抗議の声を上げざるを得ない。表情一つ変えずモルンを撃ち落とした射手は、素早く弓を収め、無表情にイレギュラーズを見てきた。
「我々は『交渉を覗き見る不遜なる不正義』を断じた。幻想のローレットとことを構えるために射たという認識はない。……貴様達にこの場を任せる。くれぐれも失望させてくれるな」
 首脳側騎士の頭目はそれだけ言い添えると、隊列を整え踵を返す。いっそ機械的ですらある彼らの撤収を、道理と捉えるには些か以上に無理がある。……だが、形はどうあれ彼らはその場を任されたのだ。
「お前達も、首脳側も、殺すべからずと叫ぶ人道主義者がいるようなのでな。……律儀に待つとは思っていなかったが」
 ライハはことの顛末を見送り、叛乱側の騎士に笑みを見せる。いっそ挑発ともとれるそれに、しかし騎士の表情はこゆるぎもしない。
「我らの剣の下に生きる者を血の海に沈めんとするならば、敵であることに変わりはない。多少、心変わりを期待していたのだがな?」
 悪戯めかして笑った騎士の表情、その歪さに舌打ちしたライハは、得物を構え腰を据える。
「神の教えにあらがってまで得たのが僅かな夢物語……やるせないですが、だからこそ今、早急に終わらせて差し上げますわ!」
 ヴァレーリヤは『天の王に捧ぐ凱歌』を掲げ、神の聖句と共に己の決意をあらたにする。
 討たれるべきは不条理を蒔く黄泉帰りであり、彼らもまた被害者に過ぎないのだ。
「貴殿らにはここで自分達の相手をしていただきます。お覚悟を」
「ハッピーちゃんのライブが終わるまで他の事なんて考えさせない! ぜ!!!」
 槍騎士の一撃を打ち払いつつ、エッダは気を練り上げて叛乱騎士一同へと叩きつける。剣士の片割れが気合いで感情を制御するが、続けざまに叩きつけられた、ハッピーによる指向性の撹乱までは耐えきれない。
 果たして、イレギュラーズは叛乱騎士と対峙し、或いは黄泉帰りの鏖殺へと邁進する。

●何を懐き何を掲げて
 高高度から叩き落とされたモルンに動けるだけの体力があったのは、そして、世界の加護なくして動く余力があったのは、最早偶然と呼ぶのも烏滸がましい程度には奇跡的な状況であった。ひしゃげて潰れた鎧の合間から見えた世界。声を殺して静寂を偽装する家々。その中で、窓から見えた視線に……モルンは気付いただろうか? 違和感に突き動かされるままに放った魔力は間違えた、では到底済まされない火力で家屋を舐め、燻られた家から這々の体で現れた人々は、爛れた体に黒い影が垣間見えた。<月光人形>の本来の姿……では、ない。それらに巻き付いたビーナスの影触手だ。
「歌う前に燃えちゃうなんてつまんないの。……じゃあ、眷属の皆さん、後はお願いヤッちゃって」
 たまさか居合わせたのがその家屋だった、というだけだが。ビーナスは心底退屈そうに、影触手達に市民の殺戮を指示する。
 それらの辱めを受ける間もなく、市民だったものは黒い泥に変じて溶け消えていく。
「最後に言伝のひとつでもあれば、聞いてあげますわ」
 ヴァレーリヤの慈悲すら感じさせる物言いは、市民達にとっても救いとなるものであったろう。そこに死の影がなければ、彼らも額面通りに捉えたに違いない。
 神の従僕。人々の心に救いとなるはずのその外見は、今やただ自らを圧し潰す運命そのものだったのだ。悲鳴混じりに掴み掛かってきた市民の暴挙に、彼女は炎の鉄槌をもって応えるしかない。噴き上がる『呼び声』の狂気を打ち払い、彼女は炭化した床板と飛び散った泥の前で苦い顔を見せた。……炎の射線を逃れ、改めて襲いかかる市民の生き汚さも含めて『試練』なのである。

 エッダは槍の騎士の猛攻をいなし、手甲を叩き付ける。守りこそ力といわんばかりの逸品は、相手の攻勢すらも糧として跳ね返す如き勢いだ。
 都合4人が立ちはだかり、油断ならぬ実力で挑みかかってくる状況は、叛乱側の騎士達にとって忌々しいとしか言いようがない。――それでも、振るわれる得物の冴えは衰えず、怒りに身をやつすのも一瞬のこと。
 突進力をそのまま叩き付ける一撃は、守りに入ったエッダですら抑えるのが困難なレベルだ。
「加減は出来んぞ。死ぬ気か?」
「道を全うするために命を投げ出すならそれも本望。……だが所詮はどう転んでも地獄だ、付き合ってもらうぞ」
 ライハは両手の宝珠に全霊を込め、目の前の騎士に叩き付ける。確実性の高い一撃は確かに騎士の胴を穿ったが、相手もそれで止まるほどヤワではない。どころか、痛みなど感じぬかのような猛攻を加え、全盛の力を保った彼を追い詰めてくる。幾度も繰り返される剣戟は命を余裕で捨て置く狂気の所業。情けをかける余裕など許されない。――血にまみれながら笑って槍の柄を深く握った男に、飛びつくようにハッピーが抱きつかぬ限りは。
「悲しい夢だったね……ごめんね」
 自ら槍に飛び込むように頭を抱え、馬から崩れ落ちたその身を横たえる。血とも魂魄とも知れぬものが漏れ出る騒霊は、しかし『命の危機』というものにまるで頓着していない。あるとすれば、本領である騒音に、騎士達が思いの外乗ってこないことへの焦りぐらいか。
「槍は沈んだか」
「そーだね! 動きがちょっとくらい鈍ってもへっちゃらのへーな顔してるのは流石に自信なくすけどね! だいぶ楽だと思うよ!!」
 ライハは呼吸を整え、ボロボロの肉体に意思と世界の強制力が循環するのを感じ取る。ハッピーはエッダが剣の騎士を止め、幻が距離をとって撹乱している状況を一瞥すると、畳み掛けるべく突っ込んでいった。

「彼らの方がよっぽど人間ができていたな。だが、今からその愛する人達が始末されるのは動かぬ事実だ。この人達が死ぬのもまた、正義だよ」
 ヴェーゼは、建物の内側から響く声と物音を聞きながらその正面に立つ。内部から吐き出される怨嗟と嘆きはその身を狂気で満たそうと襲いかかるが、指先の動きを僅かに鈍らせた以外、、ものの数にも入らぬ程度にしか影響しない。
 よもや自分たちを守るための建物が、今まさに破壊とともに崩れ去る棺桶になるなどとは思うまい。ああ、人間というのは本当に度し難いほど愚かしい。『死ねば治る』なら愚かではなかったろうに。
 両手に嵌めた爪、指先から吐き出された魔砲は建物を大きくえぐり取り、逃げ場も与えず市民を蒸発させた。僅かに残った泥の跡が、生きていたことの証明か。
 腕をおろしたヴェーゼに近づいてくるビーナスは、喉をさすりながらスッキリとした表情だ。……ただの歌声で家屋一つ火の海に沈めた彼女のこの表情から、どれだけの犠牲が出たのかは想像に難くない。

「死んだ人間は、死んだのだ。もう立ち上がらないし、貴様らに笑いかけることもない。今頃は彼らも死に絶えただろう。エゴイズムとは所詮、自己満足。死人の魂も浮かばれん」
「知ったふうな口を利くな! 戻ってきた者達こそが我々にとっての真実、求めることを止めぬことこそ生きている証明なのだ! 望みに従うことの何が悪い!」
 エッダの拳を受け、血を吐きながらも騎士は抗弁する。言葉に道理が宿っていない……目に宿った狂気が僅かに薄れたように見えたのは、仲間が市民の排除を終えた証左であろうか? それでも挑みかかってくる姿は、哀れというほかあるまいが。
「正義と悪は分かちがたく、『不正義』という言葉でしか相手を断罪できないことこそがそもそも歪なのです。そして、求めるものがそもそもまがい物であるなら、生きていることも過ちになってしまいます」
 幻の言葉には哀れみが宿っていた。彼らの道理がそもそも通じない、その時点で正義も悪もありはせず。その生命が無駄に浪費されることこそ、この国にとっての損失なのである。
「愚かなお前達でも、死なせたくない者がいるようでな。何の意味があるのか、到底わからんが」
 ライハの言葉には心の底からの疑問が垣間見えた。死にたいなら死なせるままにすればいいのに。そんな感情すら感じられる。だが、結果として騎士達に命を奪われた者はない。死を覚悟しても、彼らは死に場所を選ぶことは許されなかった。
「……恨んで恨んで気が付いたら、かつて君達も正義の名の下、命令の下に誰かを処断した事を思い出して欲しい」
 市民達を殲滅したヴェーゼが、感情の読み取れぬ声で膝をついた騎士に告げる。それでこの戦いは終わりだ。つまらぬ顛末だった、と笑い飛ばせるそれである。
 騎士達がどのような末路を迎えるのか、あるいは別の道を歩むことがあるのか。それは、イレギュラーズが知るべきことではない。

成否

成功

MVP

夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師

状態異常

モルン(p3p007112)[重傷]
浮雲

あとがき

 お疲れ様でした。何とか首脳側騎士との交戦は避けられ、戦闘も……結構な難戦でしたが無事に終わったようです。
 なお、悪名も発生していますがごく一部。リプレイをご参照頂けばと思います。
 MVPは説得に言葉を尽くされたあなたに。
 同じ言葉なら誰でも、という行為ではないため、結果を出せたのは素直に良いことと捉えていただければ。

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