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シナリオ詳細

『卵』を求めて

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


『遊楽伯爵』と呼ばれるガブリエル・ロウ・バルツァーレクは温厚な人物だ。
 腐敗が進みつつある幻想の中でも民を想う貴族……勢力としては貴族間三大勢力の中で脆弱ではあるものの、その中でもなんとか最善をと奮闘する様は一定の支持を得ている。民にも、一部の貴族からも、だ。
 しかし。
 そんな彼だが『ある一点』において、人が変わる事があるのはご存じだろうか?
 美を愛し、人を愛し。
 そんな穏健たる彼が変わるその『一点』とは――


「卵です」
 遊楽伯の屋敷へと招待を受けた貴方達は、そんな言葉を聞いた。
 卵――? 香り豊かな紅茶を喉に通しながらその意味を反芻する。はて、卵とは一体何の。
「私、恥ずかしながら『食』に目がないものでして……商人ギルドなどを通じて世界各地の美食に繋がる情報を日々仕入れているのです。が、先日ある地方で入手困難な『卵』の情報が入ってきまして」
「ははぁ成程――つまりはローレットにその卵の奪取依頼をと」
 ええ、有体に言えばそうなりますね。
 微笑みを携えながら遊楽伯はそう紡ぐ。突然のお茶会に誘われ、どういう意図があるのかと思ったが……やはり依頼に繋がる事案があったという事か。これが黄金双竜に呼び出された結果なら最初から『そう』であろうとは推察出来たが、そこは遊楽伯という人物からの招待である。
 ただのお茶会である可能性は高く。もし何かあっとしても大事に繋がる事ではないだろう、と。
 そんな緩やかな思考を抱いて『しまって』いた。
「どうでしょう、お引き受けいただけますか?」
「勿論。このような紅茶まで御馳走になって、お断りなどできません。お引き受けいたします」
「そうですか」
 にこやかな雰囲気で流れる依頼の話。
 何も問題ない。いつもと変わらない。依頼を引き受け、卵を回収してそれで終わりだ。
 美味なる紅茶。もう一口、香りと共に飲み込んで――

「ではインペリアル・ワイバーンの卵の回収、よろしくお願いしますね」

 吹き出しかけた。
「――は、いッ?」
 ちょ、ちょっと待って? 今なんて言った――ワイバーン?
「はい。『ある地域』で確認されたのです彼らの産む卵が。しかも比較的『浅い』場所にあり、入手はいつも程困難ではないのですが……それでもやはり、信頼の無い者に任せる事は出来ない内容ですので」
 遊楽伯が笑みを絶やさない。先程とは意味が違って見え、いやそれより。待て待て待て!
 ワイバーン。ある地域。浅い場所。
 なんだ……濁しているが、まさか。まさか! その『ある地域』とは――!
「はい。つまり」
 行き先は『覇竜領域』
「――デザストルです。より正確に言うなら、彼等は混沌におけるメインプレイヤー達と領土定義を行っていない。
 我々がそう認識する領域の――近辺、となりますが」


 ワイバーンとは純粋な竜種ではない。所謂かな『亜竜』と呼ばれる存在だ。
 竜に似てはいるが非なる者。
 驚異のレベルとしては到底及ぶべくもない――文字通り竜と子犬程の差もあろう。
 しかし、侮るなかれ。それはそれでも『覇竜』の地域に住みしモノ。
「だが覇竜の中でも浅い所にその卵が確認されたって話だ。こりゃチャンスだぜ」
 言うはローレットに所属する者とは違う――冒険者達だ。もうすぐ覇竜の領域に入ろうとしている寸前の森林地帯で、かの地の様子を伺っている。ここならばワイバーン達の目もまだ届くまい。
「幾ら竜そのものじゃねぇって言っても、ワイバーンの卵だって希少なもんさ。鉄帝の金持ちに話は付けてる。無事入手できれば大金が手に入るぜ。タイミングは見計らうが、なんとか迅速に運び出すぞ」
「だけどインペリアル・ワイバーンの卵は結構な大きさって話よ? どうやって運ぶの?」
「馬車は用意してる。まぁ親に生物の気配を勘付かれたら終わるから、安全の為には近くまで馬車を持って行く訳にはいかねぇ……どうあっても途中までは人の手で運ぶ事になるだろうな」
 リーダー格の男だろうか、双眼鏡を仕舞いこんで皆に指示を出していく。
 かなりスムーズな動きだ。冒険者として手慣れている者達なのだろう……どうも彼らもワイバーンの卵を狙っている様子。遊楽伯の依頼を受けた者ではないので、イレギュラーズは彼らより先に卵を入手する必要があるだろう。或いは、奪ってもいいが。
「他にも動いてる奴がいるかもしれねぇからな。横取りされる前に行こう。
 騒ぎが大きくなったら周囲からワイバーンが増える可能性もあるからな……」
「――ところで、なんだけど『竜』はいないのよね?」
 あぁ、とリーダーの男は答える。
 ここは覇竜。手を出してはいけない存在――竜種達の住処。
「一応確認はされてねぇからな大丈夫だろ」
 まぁもし、よしんば出会ってしまったら。
「そん時は諦めた方が早いから気にするな」
「卵を?」
 馬鹿野郎。
「命をだよ」

GMコメント

 遊楽伯「よろしくお願いします」(ニッコリ)

■依頼達成条件
・ワイバーンの卵を破壊される事なく持ち帰る。
・森林地帯に入れればその時点で依頼達成とする。

■戦場
 覇竜の一地域。近くには深い森林地帯があるが、ワイバーンの住処は岩山の中。
 岩山では隠れられる場所は多くない。
 足元は非常に不安定かつ、十分な戦闘スペースがあるとは限らない。

 時刻は【昼か夜か選べる】モノとする。
 後述する冒険者達の行動時間もそれと同時刻に行動しているモノとする。

■インペリアル・ワイバーン×2
 覇竜に住まうワイバーンの一種。番で行動している。
 純粋な竜種の強さには全く及ばないが、それでも魔物として高い性能を誇る。
 強靭な身体能力、硬い鱗。空を自由に飛び回る能力は脅威。

 昼の場合、卵から離れて食料探し・周囲の警戒などをしている時間がある。
 夜の場合、二匹とも卵の近くで浅く寝ている。

 風を舞い起こす、衝撃波に等しい遠吠えを上げる等、複数人を攻撃する手段は多い。卵を取られている場合は怒り狂って襲ってくる可能性があるので非常に注意が必要。卵を壊す様な行動を意図的にはしないだろうが、結果として壊れる可能性は無きにしも……

・亜竜特権(P)
 飛行のデメリットを受けない。
 得物を見つける能力に優れ、非常に目が良い。同時に命中がある程度向上。
 飛行している時のみ、反応・機動・回避の値が大幅に向上する。

■冒険家達×6
 腕の立つ冒険家達。全部で六人メンバー。
 非戦を種類多く保持しており、中々のベテラン。探索慣れしている者達。
 戦闘面としては近・遠にバランスの良い編成をしている。

 馬車をどこかに用意しているようで、持ち出しの計画もしっかり立てている模様。
 彼らが持ち去りを成功すれば当然失敗になるので注意。
 イレギュラーズ達に対しどう行動に出るかは不明。

■ワイバーンの卵
 かなり大きめのワイバーンの卵。一個しかない。持ち運び注意!
 岩山の中、ちょっと広めの空間。ワイバーンの巣の中にある。

 運ぶには【合計でフィジカル35以上】の手が必要になる。
 ただし【運搬性能】を活性化している・フィジカルが単独で【35】以上ある。
 上記どちらかを満たしている場合【一人】で運ぶ事が可能。
(もしくは使用可能そうなギフトがあれば単独で運べる可能性もある)

 運んでいる人物はその最中、移動以外の行動は出来ないものとする。
【軍馬・馬車】に相当する物が一つでもあればそれに乗せて運べるものとする。
 乗用馬・ロバでは運べない。

■竜種
 亜竜とは根底からして何もかもが違う存在。
 今回の依頼の範囲においてはその存在は確認されていない。
 多分出会いませんのでご安心ください。

■情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • 『卵』を求めて名声:幻想30以上完了
  • GM名茶零四
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2019年05月25日 23時10分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
アルプス・ローダー(p3p000034)
特異運命座標
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
共にあれ
銀城 黒羽(p3p000505)
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)
死を齎す黒刃
アミ―リア(p3p001474)
「冒険者」
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
エリシア(p3p006057)
鳳凰

リプレイ


「比較的マシだと思っていれば――所詮、幻想貴族だったか」
 晴れ晴れとした天候の下で『静謐なる射手』ラダ・ジグリ(p3p000271)は呟く。
 忘れない。あの笑顔の下から発せられたとんでもない依頼内容を。今己らがいるのは覇竜地域の――端。更に言うならあくまでデザストルで『あろう』と推測されている程度の認識の場所だ。
 眼前に広がる光景。一体どこからが竜にとって明確な住処なのか……さて。
 生きる伝説たる『覇竜』というその存在は興味深くもある、が。
「今はとにかくワイバーンめの卵なのじゃ。おっと、妾達にとってはそれを狙う輩の所在をこそ先に、かの」
『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)が放つのはファミリアーにより造り出した動物だ。人では警戒しよう。姿を似せたモノで、森の動物達と意志を疎通させ先んじてこの森を訪れていたであろう冒険者達や――ワイバーンの姿を見ていないか調査を行えば。
「ん、むむむ? どうやら冒険者達は一歩先に向かっているようじゃ。急がねばならんかもしれんの」
 流石に相手は動物。繊細な情報、とはいかないが……しかしぼんやりと伝わって来るその『意志』からは、不審な人間達の姿が岩山へと向かうイメージが捉えられた。探索に慣れた者達であるが故にこそ、その歩は素早いという事か。
 そしてワイバーン達の情報だが――そちらに関してはほとんど情報が得られなかった。
 なぜならばワイバーンの生息地は森方面ではなく岩山……デザストルの方角だ。ここにいる動物達はワイバーンと普段近くでは接しないし、接しようとも思わない。竜に限らず、亜竜も彼らにとっても巨大なる存在。上位者に相違ないからだ。
 恐怖を抱かぬ『そこ』にあり続ける岩に問いかけた方がまだもう少し効果があっただったろうか? 動物は生物故にこそ、恐れからワイバーンを――知らぬ。
「少し、飛行して周囲を見てみたが。近くにはいない……様に見える」
 そして観察を終えた『鳳凰』エリシア(p3p006057)が地に降り立つ。
 飛行の能力を持つ彼女は空から様子を伺ってみたのだ。飛行時間は短時間。目の良いワイバーンに見つかってはたまらないし、こちらから冒険者が見えるという事は冒険者側からもエリシアが見えるという危険な行為だからだ。
 故に長居はしなかったが……しかし見つからなかった。前述したように時間をかけて十全に探した訳ではないが、冒険者たちが歩いているような姿は空から確認できず。
「迷彩というか保護色というか……そういう布でも纏っているのかもしれないな」
「隠れる場所が少ねぇからこそ、見つからねぇ様な工夫をしてるって事か? 成程な」
 あくまで確信はないが、己が目で確認した情報から素早く推理したエリシアの言に『暇人』銀城 黒羽(p3p000505)も頷く。岩山は隠れる場所が少ないとの情報があった。で、あるが故にこそ冒険者達なりの対応策と言う訳だ。
「……しかし覇竜領域、ねぇ」
 依頼内容は、ちと……うん言葉を濁しておくとするが。しかし彼にとって初の到来地。
 天を舞う。強靭にて、絶対的な存在。雄々しき竜が近くにいると感じれば――男心が擽られるものだ。勿論それは今回の依頼にとってのメインではない。あくまでもこれはワイバーンの卵を奪取する依頼である……と分かってはいるが。
「うんうん、分かる分かる! 覇竜領域は私も行ってみたかったんだよね!」
『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)も同様に。それはそれとして楽しみなのだ。存在だけは聞いていた竜の住処――覇竜領域デザストル。
 かつて読んだ。自身にとっては本の中にあっただけの筈の存在が、今目の前にある。
 これに心躍らぬ事があろうか。『兄さん』はここに来た事もあったのだろうか? 馳せる思いは溢れんばかり。無論、依頼という事を忘れている訳ではないが、未だワイバーンの姿も見えぬ場所。気を引き締めるほんの一瞬を――今少しと願って。
 そして自然会話によって情報収集だ。向こうは岩山。自然が必ずしも多い場所ではなく、岩が主体の地だ。効果が薄くなってしまうかもしれない故に、今の内にと効果を振るって。
「それにしても……ワイバーンの卵ってそんなに珍しいものなのかなぁ? いや、当然この世界じゃそこそこ珍しいモノなのかもしれないけど。んーなんとなくイメージが湧かないんだよね」
 そして一通りの探索行動を終えて、森から歩を進めた内の『「冒険者」』アミ―リア(p3p001474)が言葉を紡いだ。ワイバーン、純粋な竜種ではない存在。その個体の卵ですら珍しいものなのかと。まぁ覇竜地域に近寄ろうとする人間がそもそもいない故、流通する物でも無いか。
 ともあれ思いながらも彼らは前進する。卵を狙う事に置いて最大の障害がワイバーンである事は疑いようもないが……それを狙っている冒険者達も捨て置ける存在ではない。彼らの風貌等はラダが独自のコネクションをもって調べていた故大まかに分かっている。後はどう見つけどう対処するか、だが。
「くんくんくんくんくん――むっ! これはきっと近いですよ!!」
 跳び出すは『ロリ宇宙警察忍者巡査下忍』夢見 ルル家(p3p000016)だ。
 彼女は探る。優れた耳で。優れた鼻で。優れた目で。
 音に注意し、不審なる臭いを嗅ぎ分け、確かなる目で外敵の存在を察知するのだ。さすれば幾何か進んだ先にて、己らが身に迷彩を施し進んでいる冒険者達の存在をついに見つけ出す。
 あれはあくまでワイバーン用の迷彩。いると分かっているイレギュラーズ達には些か効果が薄く、見つかったのだろう。さりとて向こうも探索に優れる能力を持っている筈。となればこちらの接近に気付かれている可能性は高いが――関係ない。
「ふふふふふ拙者の目は欺けません! あなた達は卵泥棒ですね!
 宇宙警察忍者の長年の経験がそう告げています!」
 吶喊する。向こうの言や意志など関係なく、問答無用。悪善即斬。
 つまり何が言いたいかはただ一つ!
「こんにちは・死ね――ッ!」
「なんだおまえはああああ!!」
 辻斬る。武具を交わす金属音。

 ――されば、そこから少し離れた場所にて。

「向こうは始めたみたいだな。ならこっちも少し急ぐか。迂回する事にはなるけどよ」
「ワイバーンの習性なら知識にある。後は実際、見つからないように進むとしよう」
 腐っても覇竜領域。気を引き締めて行こうぜと『死を齎す黒刃』シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)は言い、それに頷く『沈黙の御櫛』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)が居た。冒険者側を襲った側を『誘導班』と仮定するならば――彼らは卵の『運搬班』だ。
 騒ぎ立てればワイバーンもいずれ察知しよう。その間に卵を奪取するつもりなのだ。エクスマリアはモンスター知識を持ち、ワイバーンの習性を察する事が出来る。巣の位置を類推し、冒険の心得にて岩山においても安全な経路を導き出さんとすれば。二人はバイクに乗る。
 厳密にはそれはバイクというか――『二輪』アルプス・ローダー(p3p000034)だ。ギフトにより生じた姿……否。こちらの方こそがアルプスの本当の姿だ。優れた運搬性能からシュバルツとエクスマリアを乗せて進んでいる。
 それにしても今回の相手はワイバーン。空中の機動に優れし者。
 奴らに追われ、逃げ切れるかはやってみなければ分からないが。
「まぁ……皆さん安心して下さい」
 僕の足の速さでダメなら。
「――全員ダメです。保証しますよ」
 駆動音が鳴り響く。
 地獄のマラソン開始まで、あと――


 アレクシアの保護結界が張られたと同時。
「すまねぇな、別に恨みも何もねーんだが……卵をお前らにやるわけにはいかねぇんだ」
 誘導班側。ルル家に続いて黒羽が放つのは――闘気だ。
 縛鎖の闘気。彼独特の気の操法であり、遥か遠方の敵すら捕らえんとする意思は鎖となる。範囲内の者を無差別に縛るので、味方の位置によっては使用に注意が必要だが……戦いが始まったばかりの今ならばそう影響はなく。
「チッ! 本当になんだお前達、同業者か!?」
 しかし向こうも超聴力か超視力でも持っていたのだろうか。対応の行動が早い。
 全員が巻き込まれないように即座に動きを見せているのだ。すぐさまに戦闘態勢を。
「成程。手慣れた動きだな――しかし」
 ラダの射撃が敵を穿つ。身の丈程あるライフルから放たれるその一撃は、精密。
 不安定な足場はジェットパックの推進力で軽減するのだ。短時間の低空飛行を繰り返し、繰り返し――陣取っていくは卵があるであろう方角側。これ以上は先に進ませんとする意思だ。
 足止めをしつつ派手に暴れよう。卵が回収されるまで。
「うーん同業者と言えば同業者、かな。多分『雇用主』は違うけれど」
 言うはアミーリアだ。冒険者たちの布陣の中になんとか飛び込み、そこで放つは月の魔力。
 ダークムーンだ。闇の月が周囲を押し潰さんとする勢いで暗き運命を敵に施す。可能ならば交戦前に戦闘を行いやすそうな適切な足場を見つけておきたかったが、中々にその余裕は無かった。しかし敵前衛の数から飛び込む事には成功して。
「くそ、待てやめろ! こんなに暴れてたらワイバーンが来て……」
「卵泥棒が戯言を述べないでください! ワイバーン? その前に殺します!!」
「と、とにかく卵は渡さないよ!!」
 そして飛び込んできたが故にこそアミーリアに集中した反撃。その一瞬に再びルル家の一撃が見舞われる。敵を的確に射抜かんとする集中から生じたのは――多重銀河分身。
 ルル家特有の宇宙力だ。心身の負担? 知らぬ知らぬ。ルル家に続いて行動したアレクシアの癒しの力も放たれれば、多少の反動など些細なものだ。花開く、白黄の輝きがルル家を照らす。
 冒険者の襲撃タイミングは複数の案があったが、可能だったのはこのタイミングだった。森から出る時、発見次第即、ワイバーンが片方遠くにいる段階で、適切な足場の後――結果としては岩山での発見後が一番自然な形となった訳だ、が。
 その時。
「――おぉう。来るぞ」
 ファミリアーを周囲の偵察に飛ばしていたデイジーが気付いたのだ。『気付かれた』事に。
 空を裂き。翼を広げて。凄まじい速度でこちらに向かってくる――ワイバーンを。
「ち、畜生! 親の片割れが気付きやがった! こうなったら一度退くしか……」
「ほほう逃げるのか? 逃げても良いが、妾達はお主達にずっとついて行くぞ? 死にたくなければ手を貸すのじゃ。それともずっと追いかけっこをするかの? 妾はそれでもいいがのー」
「お前らが仕掛けてきたから気付かれたんじゃねぇか――ッ!」
 くくくっと笑うデイジー。冒険者達の怒りは尤もだが、それはそれ。
 現実に目の前にワイバーンが接近してきている以上――どうする? と問うている訳だ。人心掌握術の会話を持って、彼らの心に影響を与えんとしながら。
「ここで我らがいがみ合っている場合ではなかろう? 敵が増えて、生き残れるか?」
「このまま全員死ぬのは流石に何の得にもならないんじゃない?」
 続いてエリシアとアレクシアの言も続く。三竦みに得は無い、と。
 ましてや相手は空を自在に闊歩する者。対応可能な攻撃手段がなければ空から一方的に攻撃されるだけの状況だ。少しばかり消耗した状況。互いに不利が大きくなるだけだと。故にエリシアは続けて。
「暫し停戦といこうではないか。何、ほんの一時の間だけだ。
 このワイバーンを先に倒し、互いに安全を確保するのが先決だと我は思うが?」
「一方的に仕掛けてきておきながら……ホントああくそったれ! 覚えておけよお前ら!」
 冒険者達の心証は非常に良くない所ではないが、まぁ元々彼らの依頼の邪魔をする立場なのだ。良い傾向にだけはどう足掻こうが向かう筈がない。例えばワイバーンを先に見つけて、それを引きつけつつ『偶発』を装って巻き込んだ形なら、まだ多少マシな心証だったかもしれないが。
「一時休戦――ていう事でね!」
 アレクシアとエリシア。双方の放つ癒しの力が冒険者をも捉える。
 とにかく今は襲来したワイバーンの対応をするとしよう。こちらの目的が、達せられる様に。


「さて――恐らくこの辺りの筈、だが」
 先程、ワイバーンが一匹どこぞへと飛んでいくのが見えた。岩山では森と違い、中々影になる所もない故、彼らの目を避けようとする動きは苦労したが。こちらに向かってこないという事は見つからなかったのだろう。ならば今の内、卵の在り処に進みたい――が。
「……二時の方を見ろ。ワイバーンがもう一匹飛んでるぞ」
 周囲の警戒をしていたシュバルツの目に、もう一匹のワイバーンの姿が捉えられた。なんとか見つけた大岩の隅から覗く様に向こうの様子を伺ってみる。
 すると……どうも空中で停滞しているようだ。見ている先は先程、飛んで行ったワイバーンの方角、か? もしかすると帰ってこない番の様子が気になって巣から離れているのかもしれない。いずれにしても先の一匹。そしてここにもう一匹いるという事は。
「今、巣には0って事だよな――チャンスか」
「ああ、陽動班の動きが始まっている以上もうあまり時間も掛けられない。
 一気に巣に突入すべきだろう。マリアもそう思う」
 時間を掛ければかけるだけ陽動班の負担が上がる。陽動の効果が効いている内に卵を奪取しなければならないのなら、今が最大の好機だとエクスマリア達は判断を下す。集中が別の方角に向かっている内に、視界に映らぬ様に移動を。さすれば。
「ビンゴ。ありましたね」
 アルプスが見た。進んだ先、岩山の中に少しだけ広いスペースが作られており――その中央にある、些か大きめの卵の存在を。あれが間違いなく、今回の依頼物だろう。
「全くホント、美食家ってどの世界でも大抵迷惑ですよね。仕入れさせる癖に仕入れた物にちょっとでも不備が合ったり味があれだったらすーぐ文句を付けたり……あっ、ここオフレコで」
 大丈夫ですアルプスさん。某・遊楽伯さんの耳には届かないようにカットしときます。
 ともあれだ。冗談を呟きつつも行動は迅速に。
 ワイバーンが突然戻って来る可能性にも備えて、念の為一度待機――した後。
「じゃあ行きましょうか」
 一手で到着。シュバルツとエクスマリアが卵をアルプスへ素早く積み込めば。

「――地獄のマラソン、スタートです」


『それ』を巣の近くのワイバーンが気付いたのは割とすぐの事だった。
 流石に夜と違って常に卵の近くに居る訳ではないものの、警戒まで全て捨てて離れている訳ではない。卵を狙う不遜な輩の存在に気付けば即巣に戻れる程度の位置にはいたのだ。
 故に、巣より全力で駆け出て来る運搬班の存在になど――気付く――のだが。
「――!?」
 人ならざる鳴き声が驚愕の色を示す。
 見えるは我が子。愛しき卵。それを運ぶは人域ならざる速度で岩山を駆け下りている――

 超速の無機物だった。

「流石に気付かれたか――二人共先へ行け。逃走ルートは先程示した通りに」
 視界がこちらを向いている。気付いたエクスマリアは、シュバルツとアルプスの二人を先に行かせ、ワイバーンの方へと向き直る。ギフトを用いて髪で多脚化。少しでも態勢を安定させんとすれば。
「全く、食べ物の恨みは恐ろしい……とはよく聞くことだが」
 怒り狂うワイバーンの姿。空舞うその姿は実に大きく。
 こんな輩の卵を取って来いとかのたまうあの美食家――もとい食への欲求という奴は。
「恨み辛みに関わらず、恐ろしい、な」
 放つ。それは不可視の刃。強靭たる外皮すら裂かんとする一撃。
 しかしワイバーンも怯まない。空より、邪魔をする者に放つは舞い起こした風の衝撃だ。翼を捻らせ繰り出したそれは、エクスマリアの領域をまるごと吹き飛ばさんとする勢いで。
「――くっ!」
 髪を地に捩じり込ませて強引に耐える。周囲の岩は舞い上げられ、衝撃と共に吹き飛ばされた物もあるぐらいだ。油断していれば、今の一撃で己もどこまで飛ばされていた事か……
「降りて来れば、まだやりようもあるのだがな……!」
 視界を確保。見ればワイバーンはこちらへと降りる気配無く、アルプスの方角を見据えている。降りて来れば様々な効果を宿す衝術でも叩き込めるのだが、手段がない。ワイバーンもまた降りる理由も無く。
「とはいえ、マリアの役目は先導と護衛だ。やりようと言うのは幾らかあるもの……精々、もう少しばかり――果たさせてもらおうか」
 攻撃を重ねれば幾何かの足止めにはなろう。本物の竜種が現れたのなら、逃げ一択なのだが。
 そうでもない限りは――己が全力を尽くすのみ。
「突き抜けますよ――僕にもしもの事があったら、シュバルツさんお願いします!」
 そして逃走モードに入っているアルプスはアルプスで己が全力を尽くしていた。
 その機動力はもはや常人の領域ではない。全力の移動も重ねて疾走。最悪ともいえる岩の足場を駆け抜ければ、身が思わずバウンドするが――輪動制御で即座に修正。アクロバットな動きと共に風の如き速さを渇望する。
 凄まじい機動力だ。誰がその逃走能力に本来なら追いつけるというのか。流石に岩山には崖の様な場所もあり、森まで直線最短距離を駆け下りられている訳ではない、が。もし直線で行けたのならば――ワイバーンとて追いつけなかっただろう。
「と言ってもまぁ――来るわな!」
 複数回行動でその移動距離を飛躍的に伸ばすシュバルツは、ついにエクスマリアの攻撃を振り切ったワイバーンの姿をその目に捉えた。向こうは飛行ペナルティ無しの全力直線移動でこちらに来れる。我が子を盗られた怒りをも力にして、恐ろしい形相でこちらを見据えていれ、ば。
『ガァアアア!!』
 咆哮が突き走る。衝撃波が周囲を揺らして。
「攻撃――? いや、違うな。今のってよ」
「あ。多分まずいアレじゃないですかねあの、アレですアレ――仲間を呼ぶ的な」


 少しだけ時を戻し場所を映そう――誘導班側だ。
 訪れたワイバーンは無数の『餌』を天より見つめ、風を巻き起こして。
「ッ――さぁ、餌はこっちだぜ」
 襲い来る暴風。されど黒羽は怯まない。
 再び放つは闘気だ。縛鎖の効力は、遥か天にいようとも逃さない。長距離にいるその体を捉え――
「――!!」
 しかしワイバーンの回避が早い。巨体でありながらも空は自在に。鎖を振り切り再度地上へ暴風を。
 これだ。これがインペリアル・ワイバーンの恐ろしい所だ。空中のペナルティが無く、空中でこそ本領を発揮する奴は決して地上には近付かない。故に遠方への攻撃方法が無ければ下手をすると完封される。中距離すら維持しない。それより下に降りる理由など無い。
 空中にいる場合は動きが良く、回避力も高い。命中にも一定の自信がなくば当てる事すら難しいだろう。
 だが。
「それだけで得物を狩れる気になっているのは――驕りがすぎるだろう」
 射撃音。引き金を絞り上げる音と共に、ワイバーンの羽を捉えた存在がいた。
 ――ラダだ。彼女ならば十分に届き、十分に当てる事の出来る腕前がある。その動きはなんだ? 翼に当てたぞ? もしや飾りなのか――? と、挑発めいた一撃はワイバーンの怒りを誘って。これ程の勢いの攻撃ならば奴も降りる――
 瞬間。
「と、ぉ、ッ!」
 ワイバーンがラダに突っ込んだ。
 文字通りだ。突撃の構えを取ったのではない、天より地へ。怒りのままに超速度で突っ込んできたのだ。躱す間が無かった。声を挙げる間もなく、されど。
 降りてきたのならば――戦える!
「それ、餌はこっちにもおるのじゃ――!」
「ややや最悪の場合! 貴方を食べさせて頂きます! ワイバーン・ミート!!」
 低空飛行を続けようとするワイバーンにデイジーとルル家が攻撃を重ねる。
 デイジーは夢へといざなう小さな月を魔力にて顕現し、ルル家は再度多重銀河分身。
 この機会を逃すまいと集中された攻撃は、ワイバーンを捉えて穿つ。さすれば渋々だが共闘している冒険者達の攻撃もワイバーンへと加わる。彼らは覇竜内という危険な場所で見つかった以上は逃げたい心境でもある故、些か防御的な構えを取っているが。
「全く――こんな怪物を相手にする依頼を出すなど……
 まぁ引き受けてしまった以上は成すべき事を成すだけだが……!」
「誰も死なせないよ――私がみんなを護るんだ!」
 次いでワイバーンからの攻撃によって疲弊した傷をエリシアとアレクシアが癒しの力を重ねるのだ。二人分の力による回復はイレギュラーズのみならず冒険者達をも捉えて。全体の被害を減らさんとしていく。
 しかし回復の力がそれだけ強いという事は、逆に言えばその分攻撃の手は少ないという事でもある。ワイバーンは――繰り返しになるが竜ではないものの、それでも覇竜地域に住まう亜竜の一種であり、非常に強い力を宿している。
 咆哮の衝撃波だけでも全体に被害を与え、ラダに放ったような単体への一撃は強烈極まりなく。冒険者達が当初、戦いを避ける事を前提にしていた理由が――ここにある。
「余所見してんじゃねぇよ。おい、こっちを見ろトカゲ野郎」
「くくっ、なんじゃ妾の美にまだ気付いておらんのか覇竜のお主は」
 それでも、言うは黒羽にデイジーだ。覇竜の導きがワイバーンの意思を擽る。
 龍種に興味を持たれやすいそのアイテム。幸という意味か、不幸と言う意味か。さて分からないが――視線を少しでも己に集中させることが出来るのならば良しと考えて身に着けている。そう簡単には倒れないぞと――

 と、その時だ。ここではない別の場所でワイバーンの雄叫びが聞こえてきた。

「――」
 ワイバーンの視線が『そちら』を向く。まさか、まさかという思考がワイバーンを埋め尽くし――飛び往く動きを見せる。愛する我が子の危機を前に、擽られる程度の興味を優先している場合ではない! 覇竜の導きは確かに竜の興味を引く効果があるが、興味を凌駕しうる事態が発生した時は些か力不足となるのだ。
「おい、ちょっと、待て……!」
 卵の側に気付いたのかと、ラダは血反吐を吐きつつも力を振り絞る。
 まだだ。まだ行かせる訳にはいかない。例え勘付かれようと、卵を狙う余裕を奪えればいいのだから。
「一瞬で良い」
 投げるは小さな袋。それはラサの『白牛』が作りし――特性火薬。
 殺傷能力はないが巨音を立てる事で有名な、それを。
「――怯め!」
 己がライフルで――撃ち抜いた。
 ワイバーンの至近距離で破裂したそれはダメージこそ与えないものの、強烈な音がワイバーンの耳に伝わり、一瞬だけ意識をその『音』に集約させて。
「まだだよ! まだ向こうには――行かせないよ!!」
 次いでアミーリアも。とっておきの一撃であるソウルストライクの魔力を集約させる。消費が激しい故にそう何発も放てるモノではないが、飛び立とうとしている今を置いてまで温存する意味はない。
 妨害する。ちょっかいをかける。意識の集中を少しでも奪えれば――と。さすれば。
「――グ、ル、ァアアア!」
 邪魔だと言わんばかりにワイバーンが飛んだ直後、尻尾で薙いだ。
 サマーソルトだ。岩を破壊しながら、薙ぎ飛ばしながらアミーリアの身体を狙う。
「ッ、ぅう!!」
 咄嗟に防御の構えを取るが――その上からワイバーンの尾が強烈な勢いで衝突した。
 弾き飛ばされるアミーリア。邪魔をされたことに憤慨しつつも飛び上がるワイバーン。ええい、もはやこいつらはどうでもいい。それよりも卵、卵だ。我が子を盗った不届き者共は、今どこに――

「うぉぉおおお! 突っ走りますよ! 罠とか包囲網とかあったら――」
「あったら――なんか策でも!?」
「はい! スピードで突き抜けます!!」

 いた。アルプスとシュバルツだ。例えば冒険者サイドが仕掛けていた罠があったとしても、非戦スキルによる探知があったとしても――速度で突き抜けてしまえば問題ないとアルプスはシュバルツへ言う。反応と機動は偉大だ。裏切らない。ハイオク寄こせよ遊楽伯!
 追ってくるワイバーン。時折自身らの前方や横の岩に放たれる風の嵐。とにかく道を塞いで卵を確保しようという腹なのだろう。直接攻撃してこないのは、やはり卵を背負っているが故か。森まであともう少し――なのだが。
「来やがった! 前からワイバーンだ!!」
 障害がやってきた。前門のワイバーン、後門のワイバーン――退くは許されず、進むは地獄。
 どうしたものか。シュバルツにしろアルプスにしろ攻撃を届かせる手段がない。自分の目の前に降り立ってくれれば交通事故を、失礼。攻撃を叩き込むことも出来ようが――その状況に至っているというのはもはや『絶体絶命』というヤツである。そして攻撃が届かないという事は注意を引くのも難しいという事で。
「――あーこれ仕方ないですね。じゃ、お願いしますねシュバルツさん」
 何を、と主語は言わず――アルプスは突っ込んだ。
 後ろは実はそこまで問題ないのだ。後ろから追われる事は想定内。問題は逃げる方角――前に敵が居るという事。迂回する? いやいや距離を伸ばしてどうするのだ。距離を延ばせば時間が増えて、結局不利になるだけだ。
 だから、往くのだ。アルプスの全力の移動。その少し前方に、足止めの為の一撃が放たれて。
「ガ、ァ!?」
 放たれて――その衝撃で、卵がアルプスから離れた。
 止まらず、突っ込んだアルプスにはダメージが。卵は無事で空を舞い、舞い――
 後方。連続行動で速度と機動を跳ね上げた無傷のシュバルツが卵をキャッチした。
「う、ぉ、ぉおおおお!!」
 シュバルツはアルプス程の機動は持たない。しかし連続的な行動力の技量が高い事により、運が良ければアルプスよりも移動力が高いのが彼の強みだ。ワイバーンの攻撃後の隙を縫って卵を受け継いでひた走る。
 逃走の力に集約を。大きな岩から跳躍の力で飛び降りて、その上で落とさぬ様にしながら。

 ――しかし高い技量にも限度というものがある。

 万一の対応策としてシュバルツが控えていたのは素晴らしかった。されどやはり二方面からワイバーンが来る、という事態は厳しい。あともう少し。ほんのもう少しワイバーン襲来が遅ければ――森まで辿り着いたかもしれないが。
 あまりに早い機動力。その前方を狙った一撃の衝撃が、卵を持つ手を揺らして――


「ううむ……無念だ。食べ物の恨みも、子を盗られた恨みも恐ろしいというか」
「ま、なんとかみんな無事ではあるから良かったんじゃないかな――死んだらそれまでだもの」
 言うはエクスマリアとアレクシアだ。あれから卵は……残念ながら落下した。
 その後は本当に全力で森へと全員駆け戻った。森まで入ると、あの巨体では細かい捜索が出来ないのだろう。入ってくる様子はなかったし、少しだけ空を駆けていたがやがて完全に見失ってしまったようだ。
 卵は残念だが……いつの日かまた機会もあろう。些か本物の『竜』の到来に思考と警戒を割いてしまっていたが、そういえばついぞ『竜』は現れなかった。
「ま、会えたら本当に幸運なレベルだろうしなぁ。いや幸運って言っていいのか分からねぇが」
「――正直、一目見てみたかった感があったのは、確かだな」
 覇竜だもの、と思考を続けるはラダで。後頭部を掻きながら『幸運』は今回なかったというは黒羽である。覇竜の導きも揃えていたのだが……竜の反応が無かったのは、遠かったからか?
「う~ん……可能だったなら世間話にぐらい花を咲かせてみたかったんだけどねー
 竜種の文化構造とか思考回路とかそもそもなんで引き籠ってるのとか……」
 アミーリアは――かつての世で竜と言う存在は散々相手をした存在である。殺し飽きるほどに接したので、経験からそこまで単体の竜には興味はないが……この世の竜。その存在という大きな枠組みには些かの興味を抱いていた。
 かなり話したかったのだが、まぁ会うのならば――もっと奥に行かねばならぬかと思考して。
「……竜、か。話を聞くに強大な存在。
 見逃してもらう様に頼むしか出来なかったかもしれぬ故、良しとするか」
 同時。安堵の感情を得るのはエリシアだ。
 彼女もまた興味が無かった訳ではないが……会えぬならば会えぬでと、決着させる。
「しかしもしかしたら、見られてはいたんじゃないかの?」
「姿は見えませんでしたけれど、不思議な力とかは持ってそうですよね。
 ……しかしワイバーンの卵ってどんな味がするんでしょうか。食べたかった……」
 デイジーの言はもしかしたら、だ。
 竜は不可思議なる存在。遠く、遠くより気配や存在だけを感知されていた可能性はあるし――ならば堂々と戦って偉大さをもっと見せつけてやるべきだったろうかと思考する。一方でルル家は……ワイバーンの卵の味に後ろ髪を引かれていた。かの遊楽伯が求めた味。どんな感じだったのか……
「シュバルツさん、ちょっとでも残ってないですか。白身とか白身とか」
「ん? いやまぁ手にちょっと付着したぐらいならあるが……やめとけ乾くだろこれ」
 アルプスの言に、右手に少しだけねばついている液体を見据えるシュバルツ。これだけで調理は出来ないだろう。幾らなんでも舐める気もない。そもそも落ちてしまったモノだ。

「――ま。いずれまた、かな。覇竜領域は」

 そろそろ行こうかと思った時。アレクシアは振り返ってもう一度だけ見据える――覇竜領域を。
 今回は浅い地点。端の端だったが……いつか、行くこともあるのだろうか。あの奥へ。

 真の意味での――覇竜領域デザストルへ。

成否

失敗

MVP

なし

状態異常

ラダ・ジグリ(p3p000271)[重傷]
灼けつく太陽
アミ―リア(p3p001474)[重傷]
「冒険者」

あとがき

お疲れさまでした。初めての覇竜、如何でしたでしょうか。

ワイバーンはワイバーンで結構強いです。竜と比べたら赤子ですが……

ともあれいずれまた覇竜への機会はあると思われます。
ご参加いただきありがとうございました。

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