PandoraPartyProject

シナリオ詳細

声が誘うスペクトラム・ブルー

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●かなしいかなしいにんぎょさま
 海の中はとても静かだった。

 ──い。

 見上げる海面はとても綺麗で。

 ──しい。

 けれど、それ以上に。

 ──さみしい。


 寂しい場所だった。

●誘い、抗い、救いを求め
「最近、海洋で船の沈没事件が相次いでいるのです」
 海洋の地図を広げながら『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が難しい顔で告げる。
 なんでも、件の海域を通ろうとすると──船が文字通り"沈んでいく"のだそうだ。
 初めは漁に出ていた船が帰ってこなかった。次にいくつかの島を周回する商船の連絡が途絶えた。初めは海賊の仕業とも思われていたが、その海賊船ですら沈んでいく光景を他の漁船が目撃したのである。
「元々波も穏やかで、漁には適した場所なのです。漁に出る船も多いですし、島から島へ渡っていく商船も通ります。
 その海路が使えなくなってしまうと、皆さんがとってもとーっても困ってしまうのです」
 へなりと眉尻を下げたユリーカ。その手に握られていた羊皮紙が机へ広げられる。そこに書かれているのは、過去起きた事故の概要のようだった。
「あの海域では以前、嵐で船が沈没したそうなのです」
 海洋貴族の所有する船で、決して小さくも粗末な造りでもなかった。しかしそれ以上に自然の脅威は大きいものだったのである。
 違うんだ、という小さな声にイレギュラーズたちはそちらを──ユリーカの隣で椅子に腰掛ける男を見た。意気消沈し、やつれた様子の彼が此度の依頼人らしい。
「船を所有していた方なのです。嵐の中助け出された、」
「置いていきたかったわけでは、なかったんだ」
 ユリーカの紹介に男の声が被った。ゆっくりとイレギュラーズを見渡す瞳に宿るのは、深い後悔の色。
「……あの日。私は船の上で結婚式を挙げていた。相手は貴族ではなかったが、私の家はそういった身分に関して寛容でね。──幸せだった。幸せだったんだ」
 幸せだったと言いながら、男の表情は悲しみに歪む。
 天候の良い日を選んだはずのその日。現れた嵐は船を飲み込み海へ沈めた。助かったのは男と、結婚式に招待されていた数人のみ。傍らにいたはずの女は──妻は、いなかった。
 それからどれだけの時間が過ぎただろうか。
「……最初は、気のせいかと。そう思うくらいに小さな声が私を呼んだ」
 必ず海の、その海域の方角から。声はだんだんと大きくなり、同時に沈没事件が頻発し始めた。
「彼女が呼んでいるんだ。けれど、私はその声に誘われるわけにはいかない」
 ──だからイレギュラーズ。どうか彼女の魂を、沈めてくれ。

●さみしいさみしいぼうれいは
 寂しいの。
 何故だっけ?

 悲しいの。
 何故かしら?

 何かが足りないの。
 どれ? 何? わからないの、わからないから──もう1度。

GMコメント

●成功条件
 亡霊『ルシリア』の沈静化

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●亡霊『ルシリア』
 海の底より目覚めし亡霊。真白いドレスを着た骸骨。件の事故で亡くなった花嫁です。
 夫となる男は生き、自らが死んだことにより欠けたピースを探し続けるような執念の塊となっています。会話はできているようで噛み合いません。倒せば沈静化させられることでしょう。
 他の亡霊たちを操り、船ごと人間を沈めています。泳げるという表現が正確かは定かでありませんが、水中に対して適性を持つとします。反応は遅めですが防御技術に優れます。

呼び声:神遠扇。ほら、おいで。底深くまで──寂しくないように。【無】【呪縛】【恍惚】

●骸骨たち×??体
 無数の骸骨たち。意思はなく、ルシリアに操られています。彼女が倒されない限り海の底から湧き続けます。
 時に船を沈め、時にルシリアを守り、時にイレギュラーズを倒す、海へ引きずりこむなどするでしょう。こちらも水中適性アリです。
 特筆するステータスはありませんが、只々数が多いです。

●ロケーション
 穏やかな海域です。戦闘中も変わらず、天気も良いでしょう。
 船は2隻まで貸し出せますが、船のアイテムがある場合はそちらの方が性能は良いです。
 どちらの場合においても操舵者は相談で決めてください。(どなたでも最低限操ることはできる、として構いません)

●ご挨拶
 愁と申します。久しぶりの海洋依頼です。
 どうか海に──そして声に引きずりこまれてしまわぬよう、お気をつけて。この海域の底は静寂に満ちた寂しい場所です。
 ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • 声が誘うスペクトラム・ブルー完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年05月24日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
マリナ(p3p003552)
マリンエクスプローラー
カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)
海淵の呼び声
ヴィマラ(p3p005079)
ラスト・スカベンジャー
プラック・クラケーン(p3p006804)
昔日の青年

リプレイ

●声が、歌が、きこえるの
 それはとても、とても穏やかな海域だった。
「水底へ誘う声、か……」
 『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は海の先を見つめながら、小さく目を細めた。深く、深く、海の底へと誘う亡霊はまだ姿を見せない。
 もしも、自分が幽霊になったら? どんな姿になるのか、どんなモノへとなるのか。興味はあれど、ゼフィラはまだ──少なくとも今は、幽霊になりたいとまでは思わない。生きている間にやるべきことはまだまだ沢山ある。簡単に死んでなどいられない。
(今は依頼の達成を第一に考えよう)
 舵をその両手でしっかりと握り、ゼフィラは船を進めていく。
「1人が寂しくて、愛した人に一緒にいてほしいって気持ち。それ自体は悪いものじゃないはずなのに、こういうことになっちゃうのね……」
 『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)の沈痛な面持ちを浮かべて海を見遣る。それは『祈る暴走特急』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)や『ほのあかり』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)も同じことで。
(きっと、よほど依頼人さんを愛していたのね)
 なればこそ、亡霊となってしまったのだろう──ヴァレーリヤは海を見下ろし、その下に在るであろうルシリアの魂を想う。
「けれど、だからこそ……これ以上悲しい人を増やすわけにはいきません」
 クラリーチェは伏せていた瞳を上げ、船の進行方向を見つめた。
 船上結婚式での沈没事件。もしも、自分が水底に沈みながら意識を手放していたら。或いは、沈む誰かを助けられなかったら。それはどちらも──とても悲しくて。だからこそ止めなければいけないのだ。
 そろそろ件の事件が起こる辺りだ。ゼフィラが辺りを見回すが、未だ海面にも異常はなく。
(まったくもって穏やかな海域ですね……こんな所で船が沈むなんて想像できねーですが……)
 海は様々な表情を見せる。普段人々へ見せているこの穏やかさも、この海のすべてではないということだ。
 『マリンエクスプローラー』マリナ(p3p003552)が海へ飛び込めば、コポコポと水が耳元を流れていく音と共に細かな泡沫が彼女を包み込む。
(私が、操舵手だったら──)
 世界がマリナに贈ったささやかなそれは、ルシリアたちも助けてくれただろうか。たらればであっても、そう考えずにはいられない。
 細かな泡沫が上がっていって、澄んだ青がマリナの視界を埋めた。船に随伴するように泳いでいた『幸運と勇気』プラック・クラケーン(p3p006804)は、マリナの表情に何かを感じ取ったのだろう。視線を海底へと向けた。
「残酷な現実の悲しい話……だな。やるせねぇ気持ちになるぜ」
「ええ。……けれど、不憫ではありますが……いつまでも海を荒らされるのは困ります……」
 関係のない者まで巻き込み、その悲しみを広げないように。そして、ルシリア自身を救うために。

 ──不意に歌が耳元を掠めた。いいや、それは歌うかのような言葉。

 来たぞ、とプラックが海底から視線を外さず告げる。その暗闇から浮き上がってくるのは幾つもの、何人もの白骨化死体。その中にはボロボロになったウェディングドレスを纏う女の姿。それは半透明で──おそらく、あの女がルシリアだろう。
 カラカラ、カラカラと骨が鳴る。楽しげに。愉しげに。『海淵の呼び声』カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)がエコーロケーションで骸骨たちの位置を把握していく中、そこへルシリアの唇から零れ落ちる歌が重なって。
「綺麗な声じゃねーか、惚れる男がいるのも分かるぜ」
 エレキギターを手に『ラスト・スカベンジャー』ヴィマラ(p3p005079)がニッと笑う。けれど、おイタはここまで。これ以上船を沈めさせるわけにも、依頼人を呼ばせるわけにもいかないのだ。
 そして何より依頼人──ルシリアの大切な人からの願いだから。
「とりあえず、まずは……
 ──1曲聴いてきな!」
 地獄めいた音は戦いの火蓋を切って落とす。ルシリアとイレギュラーズたちの間で壁の如く立ちはだかる骸骨たちの1体へ、マギ・インスティンクトで本能を覚醒させたマリナのグレイシャーバレットが被弾した。
「今日の私は生きとし生けるものの味方!! 沈まず鎮める者です!!」
 かかってきなさいと言うようにイリスの声が海へ響き渡る。骸骨の何体かがこちらへ向いたのがわかった。そこへ響き渡るはカタラァナの不思議な──理解してはいけないと、そうどこか思わせる歌。

 うたう ゆらめく なみのうた
 うたえ ゆりかご ゆらすうた
 われは わだつみ うみのかみ──

 カタラァナ自身の持つ溢れんばかりの魔力を乗せ、歌が敵を魅了し呪う。統率の微かな乱れが見えるそれを迂回するようにルシリアの背後へ回ったプラックは、彼女を追いかけるようにして海面に顔を出した。船を見遣れば、そこではヴァレーリヤたちが登ってきた骸骨たちと交戦している様子が見える。視線をルシリアへ戻したプラックはひと息に肉薄して行った。
「元の花嫁さんと、依頼人さんのためにも退治させてもらうぜ」
 これは最早、人の命を奪う悪霊だ。けれど──誰だって怪物になどなりたくないはずだから。
 プラックの剣脚が翻り、庇いに入った骸骨もろともルシリアへ叩きつけられる。その反対側にあった船、その上で海を見ていたクラリーチェは、しかし次々に上がってくる骸骨たちを見て表情に小さく険を浮かべた。
「ルシリアさんまでの道を開かねばなりませんね……」
 放たれし有毒ガスの霧が骸骨たちを包み込む。その隙にゼフィラは拳銃を構えると、ルシリアへ向かって牽制射撃を放った。庇いに入った骸骨の1体が、続けざまに放たれた2発目で頭蓋骨を割られ海へと沈む。この調子で、とゼフィラは再びルシリアへ銃口を向けて。
 ──唐突に、船体が揺れた。
 必死に縁へしがみつくイレギュラーズたち。見れば、1辺に骸骨たちが集まりしがみついて、傾かせているではないか。船とルシリアの間に陣取るイリスは更にこちらへ引きつけんと振り返るが、そこへ骸骨たちが引きずり込まんと邪魔をする。
「っ、私が戻ればギフトで──」
「大丈夫ですわ! こちらは私たちにお任せを!」
 海面ではっと船の方を向いたマリナ、その声を遮ったのはヴァレーリヤだ。片手で縁を掴んだまま、彼女は骸骨を見据えて口を開く。
「──主よ、慈悲深き天の王よ。彼の者を破滅の毒より救い給え。毒の名は激情。毒の名は狂乱。どうか彼の者に一時の安息を。永き眠りのその前に……!」
 天使の翼を思わせるメイスが突き出され、起こした衝撃波が骸骨をボロボロにしながら海へ沈める。クラリーチェのヴェノムクラウドが船体側面に張り付いた骸骨たちを一網打尽にし、船は少しずつ傾きを戻していった。
 しかし──響く短い悲鳴に2人ははっと振り返る。舵の前でルシリアを狙っていたゼフィラが、どこからか上がってきた骸骨たちに押しつぶされているではないか。
「一体どこから……!」
「それは後ですわよ! まずは助けないと!」
 衝撃波で海へと弾き飛ばし、黒の囀りが縛り呪う。それを遠目に見て、マリナは視線を巡らせた。骸骨の数は一向に減っている様子を見せない。実際には『減っているが、増えている』のだ。ルシリアの声か、存在か。それに釣られるように骸骨たちもやってくる。正直なところ、埒が明かない。
「これは、早期決着を狙った方がよいでごぜーましょーか……」
 そうして視線をルシリアへ向けた、その時だった。ぞっと悪寒がマリナの背を駆ける。自分が狙われたのではないけれど──死へ誘う声に、本能的な恐怖を感じたとでも言うのだろうか。
 ──おいで。おいで。こちらへおいで。
「プラックさん!」
 誰かから声が上がる。ルシリアの呼び声を正面で受けたプラックは──仲間へ向かってにっと笑みを浮かべて見せ、流水を纏った手足で亡霊へ格闘技を仕掛けた。
 ──どうして? どうして? 思い出せないの。だから、もう1度、水底へ。
「思い出せねーなら、思い切り歌ってやるぜ! 大事なのはフィーリング! 魂ってのは本当はもっと自由なんだぜ?」
 行きたい場所はどこだ。見たい景色は何だ。会いたい人は誰だ。魂が思うように望みを描け。思い出せ。
「それさえ思い出せたら、あんたは──」
 ──大好きな人と永遠に一緒に居られるよ、絶対にね。
 自信に溢れた物言いで、ヴィマラはエレキギターをかき鳴らす。その喉が出す絶叫にルシリアはいやいやをするように首を振った。そこへイリスのペネトレイト・バッシュが自らの引きつけた骸骨も、その先にいるルシリアも巻き込む。
(彼女は誰かが止めてあげないと。だから──)
「私たちが止めてあげます」
 イリスは傷だらけの体で、けれどまだ余裕はあると増える骸骨たちを引きつけにかかる。彼女を支援せんとヴァレーリヤのライフアクセラレーションがイリスの体力を回復させた。
「もうやめましょう、ルシリアさん……こんな事続けても、望むものは手に入りませんよ。貴女を待つ人がいます、私と一緒に帰りましょう」
 ダメ元でルシリアへ語り掛けるマリナ。彼女らの視線がかちあって、亡霊の唇から誘う言葉が零れ落ちる。目の前に靄がかかるような感覚に、一瞬だけ周りがわからなくなって──手元の発砲音にマリナはひゅっと息を吸い込んだ。
「……っ、すみません!」
「大丈夫だいじょーぶっ! 掠めただけさ!」
 問題ない、と笑ってみせるヴィマラは引き続きルシリアへとギターを構える。骸骨の邪魔が少ないのはイリスの引きつけと、何よりその歌で以って骸骨たちを魅了するカタラァナの尽力あってこそだろう。
 そんな彼女──カタラァナはルシリアの歌のような語り掛けに嬉しそうな笑みを浮かべて。
「ふふ、何だか嬉しいな。遠大な鎮魂曲のようで」
 だからこそ、自分も歌わないわけにはいかない。彼女が水底へ誘うように、カタラァナも夢見る呼び声を歌い続ける。
 しかし不意にルシリアの声が止んだ。忌々し気に睨みつける先は、船の上に佇むクラリーチェ。
「貴女の体は崩れても、貴方の魂は崩れない。……貴方の愛する人がいる限り。覚えている限り。ですから、また二人巡りあえる時まで……夢を見ましょう? 目を閉じて、幸せな夢を。
 ──ひとり、海の底に沈む日々はおしまいです」
 生ある者、いつかは還るべきところへ還るのだ。体は土へ。魂は空へ。それでも縁あって結ばれたのならば、2人はきっとどこかで、いつかまた会えるはずだから。
 狙いをクラリーチェへ定め、真っすぐ向かって行こうとするルシリア。けれどその背後から、剣脚によって放たれたオーラキャノンが迫って──その姿を、呑み込んだ。


●底へ。其処へ。此処へ。
 ──ほら、おいで。海は綺麗で、全てを包み込んでくれる。怖いものじゃないよ。
 明滅しながら底へ消え行こうとしていた魂をカタラァナが掬い上げる。それは不思議と視認できるもので、ふわりふわりと浮かぶ球体のようだった。
「沈む前にさ、最後に綺麗な思い出、作ってあげたくないかい?」
 ヴィマラが魂へ、ルシリアへそう告げる。消えてしまう前に、逝ってしまう前に。思い出したとき、涙が出るくらいのそれを。
「やるならワタシも、手伝ったげるからさ」
 笑顔を浮かべるヴィマラの声が、言葉がルシリアの心を震わせた。
「一緒に遺骨も回収して、あなたの大切な人にお渡ししましょー」
 探しますよ、とマリナが水底を見る。真っ暗で、骸骨たちが動かなくなった今となっては無音にも近い空間を。
 沈没事件の相次いだこの海域には死体と呼べるものが沢山で。ヴィマラが感知するそれを頼りに一同はルシリアの死体を探す。不意に見上げれば、遠くで水面が静かに揺らいでいた。
「──綺麗だよね。海は全てを包み込んでくれる。貴女は海が好き?」
 ルシリアに問いかけるカタラァナは「僕は好きだよ」と告げてみせて。同じように水面を見上げたヴィマラは「でも」口を開く。
「海は広いけど、結構孤独だよ。それでも寂しくならないのは、きっと帰る場所があるからさ」
 少なくともヴィマラはそう思う。其処に誰かがいること、居ても良い場所があること。それは独りでないということなのだろう、と。
 前を進んでいたプラックが不意にある方向をじっと見つめる。イリスはそれに気づくとどうしたの、と問いかけた。
「いや、あれがな……もしかして、と思ったんだが」
 指で示したのは船の残骸と、そこに積み重なる骸骨たち。──その中に、白い布が見えた。
「……ウェディングドレス……でごぜーますか?」
 かくりと首を傾げるマリナにヴィマラが「行ってみよーぜ!」と促して。
 こうして、ルシリアの遺骨は寂しい水底から掬い上げられたのだった。

 ディープシーの面々が次々に船へ上がってくる。ウェディングドレスであったそれが包んでいるのは、ルシリアの遺骨だ。
 ヴィマラの周りを漂うそれに、ヴァレーリヤはルシリアの魂だろうと当たりをつける。
「私たち、あの人の依頼を受けてここに来ましたの。貴女を置いて行く形になってしまったこと、悔やんでいるようでしたわ」
 嵐の中ではどうしようもなかったこと。これまでの日々が幸せだったこと。せめて魂だけでも救われるようにと依頼人の言葉を伝えれば、魂の声を聞いたヴィマラは「そっか」と笑ってみせて。
「同じ気持ちだってさ。……それじゃ、一緒に帰ろっか?」
「私が一緒なら絶対に沈みませんよ。必ずや貴女の求める場所へお連れします」
 任せてください、とマリナが帰りの舵を取る。船はゆっくりと、依頼人が待つ島へと向かい始めた。
 聖職者として、そして1人の人間として祈りを捧げるクラリーチェの傍ら、ヴァレーリヤもまた両手を胸の前で握る。
(主よ、どうかこの者を救い給え。その魂が、悲しみのままに朽ちることの無いように)
 願わくば──穏やかな眠りとならんことを。
「……長くなるかも知れねぇけど。旦那さんが真っ当にそっちに行くまで、待ってやってくれよ」
 プラックがそう告げると、魂はゆっくり明滅した。この様子なら、ルシリアはもう心配いらないだろうか。
 けれど、とイリスは小さく目を細める。
「彼女に関してはこれでいいとして……辛いのは依頼人さんの方よね」
 喪う悲しみは変わらない。せめて、時間が解決してくれるなら良いのだが。
 イリスの言葉にマリナは頷き、その瞳を見えてきた島へと向ける。その島で待っているであろう依頼人は、声が聞こえなくなったと気づいただろうか。
「……忘れろとは言いませんが、前を向いて生きてほしいもんでごぜーます」
 でないと、また呼ばれてしまうかもしれないから。

 彼らの去った後──波間にはゼフィランサスの花束が1つ、ゆらりゆらりと漂っていた。

成否

成功

MVP

カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)
海淵の呼び声

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした。
 ルシリアは皆様のおかげで、安らかに眠ることができたことでしょう。

 美しい声を持つ貴女へ。不思議な、そしてどこか危険を思わせてしまうような声。魅了された死人は数知れず。今回のMVPをお贈り致します。
 スカベンジャーの貴女へ。ルシリアの魂を誘ったことにより、称号をお贈り致します。ご確認下さい。

 またのご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

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