シナリオ詳細
罪と罰、対処と見せしめ~前門の虎~
オープニング
●些細な罪
いつも通る、道。そこに建っている大きなお屋敷。
そのお庭には、とても大きな木が生えていて、この時期になると、とてもおいしい果実をたくさんつけるのです。
見ていると、お腹が鳴りました。
私の住んでいる孤児院は、あまりお金がなく、こういったデザートのようなものを口にする事は夢のまた夢。
だから私は――悪い事とはわかっていました。それでも、その果実に手を伸ばし。
一つ、もぎ取りました。
●決裂
「では、どうしても、子供を引き渡してはくださらないと?」
男が言う。
派手な服を着た、壮年の男である。
「ええ、おっしゃることは理解しています。そして、それは正しいのでしょう。ですが、その罰は、あまりにも重すぎます」
『幻想大司教』イレーヌ・アルエは毅然と答えた。
中央大教会の応接室で、2人は対峙している。
発端は、中央大教会の管理、運営する孤児院、そこに住む一人の少女が引き起こした事件である。
と言っても、何のことはない。他人の敷地に生えていた木から、果実を一つ、もぎ取った。
敷地内にあるものの所有権は、当然敷地の所有者にあるので、この場合、盗んだ、ともいう。
さて、常なれば、子供のした事である。叱って終わり。そう言う類の物だろう。
だが、相手が悪かった。その果実の持ち主は、幻想貴族の一人、ロン・モース伯。金はあるが、プライドが高く性格が悪い。そして極めて悪徳貴族的な思想の持ち主である。
「殺そう。死罪だ。平民如きが、貴族の物に手を出していいはずがない」
顔色一つ変えず、モース伯はそう言った。
一応、彼にも言い分はある。国とは法によって管理されている。法とは国であり、国とは貴族である。つまり貴族とは法であり、法とは貴族が決めるものである。
滅茶苦茶であるが、誰も逆らえなかった。権力(ちから)と暴力(ちから)。両方を備えているものは厄介である。
もちろん、イレーヌは全力でこれに抗議した。当然のことながら交渉は決裂した。
今日は最後の話し合いの場であったのだ。モース伯は鼻を鳴らし、
「いえ、残念です。では、私はこれで。ああ、そうそう、最近は良く風が吹きます。火事などにはお気をつけて」
捨て台詞を残し、モース伯は応接室を後にした。
●火つけ
「ようこそ、イレギュラーズの皆様。お会いできてうれしいわ」
イレギュラーズを呼びつけた『暗殺令嬢』リーゼロッテ・アーベントロートは、やってきたイレギュラーズたちへ、にこにこと笑いながらそう告げた。
「お疲れでしょう、まずはお茶とお菓子を。そうそう、『シルク・ド・マントゥール』というサーカスが、幻想へとやってくるというお話をご存じかしら。皆様、サーカスはお好き?」
と、リーゼロッテが言う。ただの世間話だ。が、イレギュラーズたちの緊張はほぐれない。リーゼロッテが、ただの世間話の為にイレギュラーズ達を呼びつけるなど、ありえないのだ。
「ふふ。そう固くならないで。お望み通り、本題に入りますわ」
リーゼロッテが言うには、とある筋から、『孤児院の放火』の願いを受けたのだという。
「暗殺ではないというのが面白くありませんし、本来はこういったお願いを受けることはないのですけれど、それはそれ。件の『依頼主』は私たちにも大変よく奉仕してくださいますし、態度もとてもよろしい物。なれば日ごろの働きに報いて、ひとつくらいはお願いを聞いてあげてもいいか、と。然るべき働きには然るべき報いを。これは、ローレットの皆様も一緒のはずですわね?」
ブラックな内容の話題を、さもガールズトークめいたノリで笑いながら話すリーゼロッテ。
「さて、私が皆様を招待した理由は……もうお分かりですわよね?」
にこにこと笑いながら、リーゼロッテが言う。言われなくてもわかる。孤児院に火をつけてこい。そう言うのだろう。
リーゼロッテの招待を受けた時点で、ブラックな仕事を押し付けられることは分かっていた。そして、それを分かってなおここにいるという事は、つまりそういう覚悟を、イレギュラーズ達はしている、という事である。
イレギュラーズ達が頷くと、リーゼロッテは嬉しそうに手を叩いた。
「ふふ、よろしい。流石皆様。では、私が知りうる限りのお話をいたしますわ」
決行は夜。『依頼主』が派遣した6名ほどのゴロツキが、現場まで運んでくれるらしい。放火用の燃料などは、ゴロツキ達が用意している。ゴロツキ達は、イレギュラーズを運搬したのち、いずこかへと去ってしまうようだが詮索は不要。
孤児院には、中央大教会が派遣した僧兵が7名、待機している。イレギュラーズよりは格下の相手だが、念のため注意して欲しいとの事。
「以上ですわ。何か質問は?」
イレギュラーズは首を振った。仕事に必要な情報はそろってはいるだろう。後は、知る必要のない、知りたくもない情報だけだ。
「結構ですわ♪ ……ああ、そうそう」
と、リーゼロッテは含みのある笑顔を見せて、続けた。
「皆様にお願いするのは、あくまで『孤児院への放火』。私も、それ以上のお願いは受けておりませんので。勤勉は良い事ですが、報酬以上に働くのも、それはそれで問題と言えますわね。とりわけ、僧兵の皆様の命に関しては、私は何もお願いされていませんわ。私、無益な殺生は嫌いですの」
よよよ、等と泣いたふりをするリーゼロッテ。つまり、暗に殺すな、と言っているのだろう。僧兵――つまり、教会と何らかのやり取りがあったのか。
まぁ、良い。聞いても教えてくれぬだろうし、聞くような愚か者を、リーゼロッテは自身の手駒にしようなどとは考えまい。
そう言った意味では、君たちはリーゼロッテに『信用』されているのだ。まぁ、『駒としては使える』以上でも以下でもない『信用』ではあるのだが。
それに、とリーゼロッテは言うと、
「もし、仮に僧兵の救援など来てしまったら……きっと、逃げる者を追いかけるような余裕などもないでしょうし」
リーゼロッテは、さて、といって、軽く手を合わせると、
「それでは、皆様のお手際、拝見させていただきますわね」
そう言うのであった。
- 罪と罰、対処と見せしめ~前門の虎~完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常(悪)
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年02月26日 20時55分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●絶好の
風がびゅうびゅうと吹いていた。
北から吹く、強く乾いた風は、雲すら吹き飛ばして、大きく輝く月を夜空へとさらけ出す。
ああ、全く絶好の日和であった。
市街から少し離れた所に、その孤児院はあった。二階建て、木造建築の建物。その方へ向かって、一台の馬車が夜闇をかける。
孤児院から少し離れた場所に、馬車は止まった。馬車からは八人の男女が降り立つ。
「じゃあな、精々頑張れよ」
全員が下りたのを確認してから、御者の男が笑いながら、馬に鞭を入れた。帰り道とは違う方向、いずこかへと、馬車が去って行く。どこへ行ったのか? そんなことに興味はないし、詮索するような真似を、残された男女――イレギュラーズはするつもりはなかった。馬車がどこへ消えたのか。そんな事は、こちらの仕事とは何の関係もないのだ。
「さて」
馬車での移動中に、これから行う作業への準備を万端に終え、その荷物を担いだ『瓦礫の魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)が言った。仲間のイレギュラーズ達の顔を眺め、ふふん、と笑うと、
「念のため聞くが、今から降りる奴はいねぇよな? いや、別に降りたきゃ降りてもいいんだけどよ。葛藤っつーの? 罪悪感っつーの? そう言うのを持ったまま動きが鈍って、敵につかまったりしたら、そりゃぁおっかないことになりそーだしな。降りるなら今だぜ? って言う確認」
ことほぎの言葉に、
「なんじゃザイアクカーンとか言うのは。芋の種類か? 芋じゃなければわしに興味はないわ」
と返すのは、『螺羅乱』ラ ラ ラ(p3p004440)。背中には巨大な樽を背負い、足は何やらびちゃびちゃと濡れた脚甲をつけている。
「ナーちゃんは、みんなとアイがはぐくめれば、それでいいよー」
『アイのキューピット』ナーガ(p3p000225)が、元気に片手をあげて言った。
発言内容はプラスの物だが、その実態は如何いった物か、認識の違いを感じさせる。
「強いて言うならば、「不殺」という条件が、実に面倒かつ気にくわないくらいなのです」
『万古千秋のフェイタル・エラー』クーア・ミューゼル(p3p003529)が、不貞腐れたように言った。
「だって。だってだって。三界四方五感六腑、その悉くが赤黒く塗りつぶされる美しいあの感覚。アレを嘗ての私みたいに今際の景色に出来ないなんて勿体ないのです。まぁ、依頼だから仕方ない、と我慢するのですけれど」
前世にて失火が原因で命を失った、とはクーアの言であるが、何やら焼死には拘りがあるようである。
焼死。そう、炎。それが、イレギュラーズ達の、今夜の目的だ。
孤児院への放火。それが今回の依頼内容である。
「どんなに些細な事でも罪は罪。これは行動に対する結果に過ぎん」
フードで顔を隠し、『死を呼ぶドクター』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)が言った。
「なれば罪に待つのは罰のみ。これが罰なら、その執行に躊躇はないなァ」
「娼婦に説教する爺さんじゃないんだ。仕事は仕事。受けたからには確実に成功させるさ」
常とは異なり人の姿、黒い衣装でその身をすっかりと包んだ『断章の死音』ジェニー・ジェイミー(p3p000828)は、淡々と言葉を紡ぐ。
「そういう事ッスわ。仕事は仕事スしね。ちゃくっと終わらせちまいましょうか」
『侵森牢河』ロキ・グリサリド(p3p004235)が、ジェニーの言葉に同意する。
「魔王でありながら正義の心を持つ俺が、悪事に身を投じておいて、燃やしたくないなど言えぬ。言い訳はしない……が。これだけは訴えたい」
と、『黒陽の君』ルシフェル・V・フェイト(p3p002084)は、すぅ、と息を吸い、
「セカンドオーナーとして経営する裏路地のコスプレカフェがある。オーナーは年端もゆかぬ少女だ、放ってはおけなかった。経営は鬼だ、海水やトカゲがメニューのカフェは意外にも盛況だが、無尽蔵に増えた店員を養うにはまだまだ利益が足りぬ。切り盛りするにも俺のポケットマネーが必要だ、つまり仕事が選べない情況なのだ。店も客も店員も、笑顔を守りたい。守るということは、何かを守らないということだ。故に」
一気にそう言うと、
「俺は、孤児院を燃やす」
ルシフェルは言い切った。
「あー……つまり、燃やすんだな?」
ことほぎの言葉に、
「燃やす」
と、ルシフェルは力強く頷く。
「なら結構。それじゃあ、始めるか」
ことほぎはそう言って、梟を空へと放った。猛禽の瞳が、周囲を睥睨する。あたりを警戒しながら、イレギュラーズ達は孤児院へと向かい、そろり、そろりと移動を始めた。
●孤児院にて
「なるほど。情報通り、僧兵の数は七人か」
ジェニーが呟く。
孤児院へと近づいたイレギュラーズ達は、まず孤児院周囲の状況を確認した。事前情報通り、護衛についている僧兵は七名。その手にする武器から察するに、得手とする戦い方も、情報通りだろう。
「へぇ。まるで何もかも筒抜けみたいに話通りっスね」
ロキが言った。イレギュラーズ達の中にも、同様の違和感を覚えたものもいるだろう。
そもそも、幾ら『依頼主』がつまらぬ脅しをかけたとはいえ、ただの孤児院に七名もの護衛を派遣するだろうか? しかも、まるで『今夜事件が起こることが分かっている』かのように、僧兵たちの間にも緊張が走っているようにも見える。
「――まぁ、幻想三大貴族様のやる事だ。何か裏があってもおかしくはねぇなぁ」
ことほぎが言った。裏がある、とは言え、わざわざイレギュラーズを罠にはめて抹殺する、と言うような類の『裏』ではない事は、想像するに難くはない。と言うか、もし彼の暗殺令嬢がイレギュラーズを害するつもりなら、わざわざ罠にはめて抹殺するより、手駒の暗殺者を送り込んでくるだろう。
詰まる所、イレギュラーズは間違いなく『この局面においては有用な働きをする駒』であり、その役割は『孤児院のへの火付け』であり、『駒としての十全の働きを期待されている』ことに違いはないのである。
そして、この依頼を成功すれば、『駒として有用』と、幾ばくかの信用を得ることができるだろうことも。
それがどんな形のものであれ、信用、名声とは、価値ある報酬である。それが価値ある存在から与えられるのならなおのこと。
「さて、どこか火を付けられそうなところはあったか?」
尋ねるレイチェルに、
「ぶっちゃけ、何処にでもつけられる。ただ、相手も馬鹿じゃぁないから、数名でグループを組んで辺りを巡回してる。すぐに見つかるだろうぜ」
ファミリアからの情報を元に、ことほぎが言う。レイチェルは頷くと、
「なら、とりあえず火をつけてしまうか。こっちの目的は放火だ。火さえまわれば終わりだからな」
レイチェルの言葉に、イレギュラーズ達は頷いた。どうせなら風上が良い、と、風上の方へと移動する。巡回する僧兵の隙を縫って、一気に孤児院へと接近。
「じゃ、はじめるか」
と言って、ルシフェルが火種を取り出した。
「今日は風が凄いですから、良く燃えるのです」
クーアがどこか楽し気に、燃料をぶちまける。
「一応、少し離れて……じゃ、まずは一発目、っと」
ルシフェルが火種を放り投げると、まずは燃料に炎が着火した。ぼうぼうと燃える音に、やがてぱちぱちとはぜる音が混ざる。無事、壁面に着火したらしい。
と。
「何をしている!?」
声が響いた。巡回の僧兵がこちらに気付いて駆けつけてきたようだ。
「何って……見ての通り、放火、ッスね」
思わずロキが言う。
「放火!? では、お前達が例の……?」
僧兵の言葉に、
「おうよ、ちーっとばかし遊んでくれや」
ロキが答える。その言葉に、僧兵たちが一斉に武器を構えた。
「ソウヘイさんたち、ナーちゃんとあそんでくれるんだね!」
ナーガが、目を輝かせる。
「頼んだぞ、こちらは火付けを続行する」
ジェニーが言うのへ、
「まかせてほしいの! ソウヘイさんたち、ナーちゃんとあそぼう!」
ナーガが構えるのを見て、ジェニーは油を染み込ませた矢に火をともし、外壁へと狙いを定めた。
「これが果実一つの値段か……目だか頭だかがよっぽど……!」
放つ。外壁に突き刺さった矢が、煌々と炎を上げる。
「滅びの刻だ。魂さえ遺さず焼き切ってしまおうか!」
ルシフェルが鮮やかな火花を散らし、僧兵たちをけん制する。
一方、ことほぎも燃えやすそうな所へ向けて、火矢を放つ。
「嗚呼、殺せんのは面倒だな。だが、仕方あるまい……今の俺は忠実な狗だ」
レイチェルが殺傷力を抑えた一撃を僧兵へ向かって放つ。それを追う様に、
「そら、捕まえたぞ! 」
ロキが接近して攻撃。味方後衛、放火役への接近を阻止すべく立ちはだかった。
「ふふ、きれいなのです。もっともっときれいにするのです!」
クーアも燃料をぶちまけて、さらに火を放つ。
「ソウヘイさん、たのしい? ナーちゃんは、たのしいよ!」
ナーガは近接格闘で僧兵たちを抑える。ラ ラ ラもまた、蹴りによる攻撃を仕掛けた。
イレギュラーズ達は、僧兵たちを抑えつつ、出来るだけ素早く、火をつけて回る戦法をとった。イレギュラーズ達の勝利条件は、あくまで孤児院の焼失なのだから、それを狙うのは当然ともいえるだろう。相手となる僧兵は、こちらの邪魔をしてくるが、迂闊に排除する事もできない、厄介な存在だ。それ故に、積極的な攻撃は控え、敵の抑えに注力することにした。
兎に角素早くこちらの勝利条件を満たし、離脱する。実際火の手は僧兵たちの予想を上回る速度で広がり始めていた。
と、その時である。
「うむ、そろそろよかろう!」
と。叫んだのは、ラ ラ ラである。その後のラ ラ ラの行動は、僧兵たちも、恐らくイレギュラーズ達にとっても理解の範疇の外にあったかもしれない。ラ ラ ラは頷くと、両手にたいまつを携えるや、自らの両足を覆う脚甲に火を放った。
脚甲を濡らしていた液体は、油だったようだ。両足がぼうぼうと燃え盛るのを満足げに見やるや、
「では! 芋焼きに行ってくる!」
などと言いだし、適当な窓ガラスを突き破って、燃え盛る建物の中へと進入したのである。
「な――!?」
僧兵たちは唖然とした。口を開けて、閉じることもできずに、呆然とする者もいた。
「何を!? 何をしているんだ!?」
当然と言えば当然の疑問である。僧兵たちの叫びに、
「いや……俺も正直よくわからん……」
思わずルシフェルもぼやくが、すぐに気を取り直すと、
「……いやいや、愚かな人間がぁ! この炎がキサマらの罪であり罰だ!」
と魔王の姿をとり、僧兵たちを威圧する。
建物の中からは、何やら花瓶なのかガラスなのかを破壊する音、壁を破壊する音が響く。中で相当暴れているらしい。
「……呆けている場合じゃない! 中に入れるのはまずい!」
混乱から立ち直った僧兵たちが、慌ててその後を追おうとするが、既に火の手は広範囲を焼き始めた上に、よりにもよって内部からも火をつけて回っている奴がいる。とてもではないが、何の準備もなしに中に入れるはずもない。
とはいえ、僧兵たちに、自棄になって中に入られてもたまったものではない。
「へぇ? なーんかマズいモンでもあるのかねえ?」
ロキが言いながら、僧兵たちを遮る。
僧兵たちが歯噛みする様に呻くのへ、
「……わかるだろう? もう、あんたたちの負けだ」
ジェニーが言う。僧兵たちの間に、どよめきが走った。事実だ。もはや火の手は消化不可能な状態にまで燃え広がっている。
「よいしょぉっ!!」
と、気合の声ひとつ、ラ ラ ラが壊れかけた壁を破壊して、建物から飛び出してきた。全身は煤け、服はあちこちが焦げ、脚甲は未だに火を吹いていたが、無理矢理鎮火を試みる。
その様子を見て、何処か安堵の表情を、僧兵たちが浮かべる。
ラ ラ ラが『戻ってきた事』。それがある種の救いであったかのように。だが、すぐに僧兵たちは顔を引き締めた。その中、リーダーと思わしき僧兵が、口を開いた。
「……その通りだ」
イレギュラーズ達を睨みつけながら、僧兵が続ける。
「もはや我々に戦う意志はない」
「降参か。我々としても、そちらの命を奪うつもりはない」
ジェニーの言葉に、リーダーが頷いた。
「……撤退するぞ!」
リーダーの言葉に、僧兵たちは従った。無事な僧兵が、傷ついた僧兵を庇いつつ、撤退を開始する。
「ソウヘイさんたち、かえっちゃうの?」
ナーガが残念そうに言った。ナーガは、僧兵たちの背中に向けて手を振りながら、
「ばいばーい! またあそんでね、ソウヘイさんたちー!」
と、たのし気に言うのであった。
●罰と、見せしめ
それからしばらくして、孤児院は焼失した。もはや炭と化した骨組みだかがかろうじて立っている。
火は弱々しくくすぶってはいるが、いずれ消えてなくなるだろう。イレギュラーズ達は、役割を全うしたのである。
「そう言えば……ラララさんって、どうして建物の中に入ったのですか? もしかして、焼死してみたかったのですか?」
ちょっと瞳を輝かせつつ問うクーアへ、
「芋を焼いてくる、と言ったじゃろ。芋を置いてきたのじゃ」
こともなげにラ ラ ラは言って、焼け落ちた建物の残骸から、何かを掘りだした。
甘い、良い香りがした。焼き芋である。
「……滅茶苦茶っスね……それより」
ロキが呆れたよう言い、
「ホントに中には誰もいなかったんっスか?」
尋ねる。
ラ ラ ラが言うには、侵入した時点では、孤児院はもぬけの殻だったというのである。
「嘘などついて何になる。邪魔者が居たら蹴り飛ばしてやるつもりじゃったわ」
焼き芋を頬張りながら、ラ ラ ラ。
「おいしそーだね!」
と言うナーガへ、ラ ラ ラは焼き芋を分けてやった。ナーガは嬉し気に、それを頬張る。
「まぁ、つまり、そういう事なんだろうさ」
ことほぎが言った。
「オレ達の役割は、火をつける事。処刑は頼まれてない、ってな。まぁ、これで覚えが良くなるんなら、オレはそれでいいんだけどな」
そう言って、意地悪気に笑う。
「……ま、死人が出てないならそれはそれでいいんだけどよ」
ルシフェルが言う。
「とは言え、火をつけたのは事実だ。それ相応の名声が返ってくるだろうな」
ジェニーが言った。
「ま、憎まれ役を買って出たんだ。憎まれてやろうじゃないか」
レイチェルが言う。
「己の不幸を嘆く位なら、足掻け。生きている限り抗い続けろ」
誰にも聞こえぬように、レイチェルが呟いた。それは、ここにいる誰かに向けた言葉ではなかったから、誰にも聞こえなくても問題なかった。
――さぁ、『そこ』から這い上がれ。
内心で呟く。ここには居ない、誰かへ向けて。その言葉も、思いも、きっと届かないだろう。
だが、まぁ、それでいい。それでいいのだ。レイチェルは、薄く笑った。
その笑みが何を意味しているのかは、レイチェルにしかわからないだろう。
月が孤児院の残骸を照らす。そこにあったはずの何かは、もうない。
イレギュラーズ達は、与えられた役割を全うした。
その結果、誰が何を得、何を失ったのか。それはイレギュラーズ達にはわからない。
だが、もとよりそれは、イレギュラーズ達には関係のない事だ。
ただ、イレギュラーズ達の働きにより、ひとつの事件の幕が下りた事。
それだけが、はっきりとしている事実だった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
ご参加ありがとうございました。
リーゼロッテの話によれば、『依頼主』は大変満足しているとの事。
それから、皆様の報告を聞いたリーゼロッテは、それはそれは大層楽し気に笑っていたそうです。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
孤児院に火をつけてきてください。
罪には罰を。罰には最大限の物を。
これは秩序を守るための作戦です。
……と、『依頼者』は言っています。
●このシナリオについて
この依頼は悪属性依頼です。
この依頼を受けた場合は、趣旨や成功に反する行動を取るのはお控え下さい。
依頼は、必ず成功させる事。
それがローレットのルールです。
●成功条件
孤児院に火を放ち、焼け落ちるのを見届ける。
●情報確度
B。何らかの緊急事態が発生する可能性があります。
●敵データ
僧兵 ×7
近接戦闘を担当する、前衛の僧兵が5名。
治療などを担当する、後衛の僧兵が2名。
以上が、現在孤児院を防衛しています。
個々の戦闘能力は、イレギュラーズ(Lv1)に劣ります
僧兵たちについてですが、殺害に関しては、リーゼロッテより止められています。
無力化しておくのが無難でしょう。
●注意
このシナリオは、【罪と罰、対処と見せしめ~後門の狼~】の『別視点での物語』ではありますが、連携シナリオではありません。
キャラクターレベルではお互いの依頼に参加した人物は分からず、協力、協働などは出来ず、またキャラクター同士での戦闘は絶対に起こりません。ご了承ください。
また、その性質上【罪と罰、対処と見せしめ~前門の虎~】と【罪と罰、対処と見せしめ~後門の狼~】には、同時に同一人物が参加する事は出来ません。
万が一同時参加が見受けられた場合、両方の依頼から除外される場合がありますので、くれぐれもご注意ください。
以上となります。
それでは、皆様のご参加お待ちしております。
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