PandoraPartyProject

シナリオ詳細

そんな風に君が笑うから。
そんな風に君が笑うから。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●もう一度、わらって。
 おととしの冬のことを、僕は永遠に忘れられない。
 雪の降る日だった。聖教国ネメシスの聖都、フォン・ルーベルグの外れにある共同墓地に僕たちは立っていた。
 孤児院を管理してくれているシスターが、嗚咽をもらしている。
 母というより祖母に近い年齢の彼女が泣いているのにつられて、幼い子どもたちもしゃくりあげている。
 僕は茫然と、棺を見下ろす。

 白い別れ花に囲まれたベリィは、薄く化粧を施しているせいで生前より血色がよく見えた。
 長い睫毛に縁どられた目蓋を開いて、大きなあくびをして、おはよう、と言い出しそうなほどだった。
 聖職者がなにかを言っている。穴に入れられた棺に、蓋がされる。とっさに走り出そうとした僕の肩を、シスターが優しく、しかし強い力でとめた。
 待ってほしい。やめてほしい。ベリィは今にも動き出しそうな顔をしているのに。
 冷たい土の下は彼女に似合わない。陽だまりのように笑って、シチューをかき混ぜるベリィの姿が頭の裏側で繰り返し浮かんで消える。
 壊れてしまいそうなほど胸が痛かった。
 あまりにも痛くて、涙を流すことさえできなかった。

 それからの日々は、どこか虚ろだった。
 聖職者になるために勉強を欠かさず、同時に年下の子どもたちの面倒を見るというのは容易ではなく、つまるところ騒がしい日常を送っていた。
 それでも、折に触れてベリィを探す。
 なにかあれば彼女の名前を呼びそうになる。
 寝惚けた目が、踏み台を使って朝食をつくるベリィの後姿を幻視する。

 ある夜、高齢のシスターが目に涙を浮かべながら、僕たちに別れを告げた。
 僕たちは悲しんだが、たまに様子を見にくる、という言葉に欠片ほどの安堵を覚えて、彼女を笑顔で見送ることにした。
 新しい管理役は三日後にくる。僕はそれまで、孤児院のみんなの面倒を見ると約束した。
 貴方は本当にいい子ね、とシスターが笑う。
 僕も笑みを返す。ぎこちなく見えないように気をつけて。
 そして。

「おはよう、エクレウ」

 次の管理役が明日くる、という日の朝に。
 土の下にいるはずの少女が、当たり前のようにシチューをかき混ぜているベリィが、微笑んだ。 

●拝啓。
 ローレットの皆さん、こんにちは。
 あまり時間もないので言いたいことだけ言います。

 助けてください。

 おととしに死んだ女の子が帰ってきました。
 これが『よくないこと』なのは分かっています。でももうどうにもできません。
 エクレウはベリィを離さない。あいつはベリィのことが好きだから。
 でもおれはそういうの、違うと思うから。
 
 だから助けてください。エクレウがおかしくなる前に。おれたちがおかしくなる前に。
 こんなことだめなんだ。でも誰にも言っちゃいけない。
 言ったらおれたち、きっとただじゃすまないんだ。
 神様が決めた、寿命っていう決まりに逆らったベリィを隠してたって、知られちゃだめなんだ。

 ベリィが死んだとき、シスターたちは『ベリィはお星さまになった』って言いました。
 誰も信じていなかったと思います。棺桶に入れられて地面に埋められたベリィが、どうしてお星さまになるんでしょう。

 ベリィはお星さまにならなくていい。息が苦しくなる病気から解放されて、ゆっくり寝てくれたらいい。
 ローレットの皆さん、ベリィを寝かせてあげてください。
 エクレウを助けてあげてください。
 おれたちを許してください。

 天義 首都フォン・ルーベルグ ルタ聖教会
 第二孤児院 リュヌより。

GMコメント

 はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。
 死者を殺すだけなら簡単です。
 問題は、子どもたちが口をつぐむかどうかです。

●目標
・少女ベリィ(死者)の討伐。
・子どもたちがベリィをかくまっていた事実を、誰にも知られないようにすること。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●シチュエーション
 聖都フォン・ルーベルグの片隅にある孤児院。ルタ聖教会というところが管理している。
 三階建てで小さな庭がついている。五人の子どもたちと管理役の大人がつつましやかに暮らせる程度の広さ。
 前任の聖職者が高齢を理由に辞め、次の管理役が教会から派遣されてくるまで三日あり、その間は最年長であるエクレウが子どもたちの世話をしている。

 一階はキッチンやダイニング、お風呂などの共有スペース。
 二階に子どもたちが寝起きする大部屋と管理役の個室。
 地下には食料や日用雑貨などをストックしている。

●子どもたち
『ベリィ』
 享年10歳。
 おととしの冬に肺を患い、帰らぬ人となった。
 ふわふわした茶色の髪と優しそうな緑の瞳の少女で、孤児院の子どもたちから慕われており、管理役の手伝いもよくやっていた。
 戦闘能力はない。

『エクレウ』
 13歳。
 将来は管理役のように他者を思いやれる聖職者になりたい、と思っている少年。
 優しくあろう、正しくあろうとしている。
 しかし、ベリィの『黄泉還り』を次の管理役や近くの教会の聖職者に告白することができない。
 幼いながらにベリィのことを愛していた。

 ベリィをとられるだけでなく、他の子どもたちも罰せられると分かっているので、大人がくると彼女を隠す。

『他の子どもたち』
・リュヌ…11歳の少年。快活な少年。ベリィを眠らせてあげたい。
・アヴェ…8歳の少女。気が強くて好奇心旺盛。
・スカード…9歳の少年。ぼんやりしていて信じやすい。
・マタン…4歳の少女。素直。生前のベリィのことはよく覚えていない。

●他
 現場に到着するのは昼頃です。
 翌日の朝には新たな管理役がやってきます。
 子どもたちが少女の黄泉還りについて話せば、管理役は幼子たちを教会に渡してしまいます。

 以上、みなさまのご参加をお待ちしています!

  • そんな風に君が笑うから。完了
  • GM名あいきとうか
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年04月18日 21時20分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ルアナ・テルフォード(p3p000291)
守護の勇者
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
サンディ・カルタ(p3p000438)
アニキ!
リゲル=アークライト(p3p000442)
死力の聖剣
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
天才になれなかった女
武器商人(p3p001107)
闇之雲
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
さいわいの魔法
藤堂 夕(p3p006645)
小さな太陽

リプレイ

●昼下がり
 孤児院の扉を『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が叩く。
 十秒ほどの間があって、「はぁい」という幼い声とともに年季の入った扉が開いた。
「ごきげんよう、リュヌ。久しぶりね。新しい管理人さんがくるのに、掃除が大変だーって手紙をもらったから心配になって、皆と押しかけちゃった。明日には帰るから、手伝わせてちょうだい」
 イーリンは微笑んで待機させてあった漆黒の雌馬、ラムレイから荷物を下ろし始めた。
「こんにちは! 同い年くらいの子がいるって聞いて、ついてきたの。ルアナだよ」
 十歳程度の外見年齢の『命の重さを知る小さき勇者』ルアナ・テルフォード(p3p000291)が満面の笑みでリュヌの手を握る。
「……おれはリュヌ。後ろのは、右からアヴェ、スカード、マタン」
「初めまして、私はポテト。小さい子もいるのに、何事もなく過ごせてよかった」
「俺はリゲル。よく頑張ったね」
 目をわずかに細めた『優心の恩寵』ポテト チップ(p3p000294)に褒められ、『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)に労わられて、リュヌは一瞬だけ泣き出しそうに顔をゆがめた。
「アレクシアだよ。困ったこととかあったら、なんでも言ってね」
「夕です。よろしくお願いします!」
 小さな子たちと視線をあわせるように二人が屈んだのとほとんど同時に、五人目の子どもが姿を現す。
「……えっと」
「やァ。我(アタシ)のことは武器商人と呼んでくれたらいいよぉ」
 警戒している様子の彼に、『闇之雲』武器商人(p3p001107)がひらりと手を振る。
「俺はサンディだ、よろしくな。みんなで手伝いにきたぜ」
「……エクレウです。リュヌ、これはどういう……」
 快活に笑って見せた『アニキ!』サンディ・カルタ(p3p000438)にたじろいでから、エクレウは説明を求めかけ、
「エクレウ君……、君が一番お兄さんか。よろしくね」
 返答に窮しそうなリュヌをリゲルがさり気なく庇う。
 言外に含まれた褒詞にわずかに動揺したエクレウが、差し出されたリゲルの手をおずおずと握った。
「中に入ってもいいかしら? 土産話もあるのよ。あとこれは私の手作りジャーキー。夕飯に使いましょう」
 箒と花束を片腕に持ったイーリンが、逆の手に握っていたジャーキーの袋をリュヌに渡す。

 ポテトからもらったクッキーを、キッチンと間続きになったリビングで子どもたちがはしゃぎながら食べる。
 リュヌとこの部屋で唯一の扉を塞ぐように立つエクレウはどこか落ち着きがない。
好奇心に満ちた目をしている幼子たちに、ルアナが尋ねた。
「みんなはね、家族?」
「そうだよ」
 誇らしそうにアヴェが応える。ルアナは眩しそうに笑んだ。
「いいな! ルアナねー、家族いないんだよ。というか、名前以外、なんにも覚えてないんだよねー」
 えっ、と子どもたちが驚いた顔をした。
「五人家族かー、賑やかでいいね」
「んーん、いまは」
 言いかけたマタンがエクレウの視線に気づき、慌てて黙る。
「ここに住んでいるのは五人です。明日には管理役の方がきてくれます」
 強張った口調のエクレウに、ポテトは首を傾けた。
「精霊たちがもうひとりいると言っているけど、かくれんぼの途中だったかな?」
 エクレウの肩が大げさなほど跳ねる。
「異国にはいろんな人がいるのよ。目に見えない精霊と会話できる人、不思議な生き物を操れる人。迷子のお星さまもね」
 おとぎ話の始まりを語るようにイーリンが言う。
「……あなたたちは、何者ですか?」
「司書さんとは前に知りあって、連絡先を教えてもらってて、手紙出して、助けに来てもらったんだ。おれたちだけじゃ大変だから!」
 エクレウの声音は冷え切り、双眸には険悪な光が宿っている。リュヌが耐えきれなくなって立ち上がった。
 他の子どもたちは、いつもと違う年長者の雰囲気に怯えている。
「おやァ? そこに誰かいるようだねぇ?」
 闇商人が言い切るより早く、エクレウを押し出すように彼の背後の扉が開く。
 ぼんやりと立つ少女を見てエクレウが凍りついた。
「……ベリィ、なんで……。出てきちゃだめって、言ったのに……」
 困ったようにベリィは視線をさまよわせる。エクレウが気づく前に、闇商人はベリィの足元に落ちた札をひそかに回収した。
 少年が報告にあった死者を隠しており、接触を阻害する、と察した闇商人は、リビングの扉が閉められる前に札を媒介として白い子狐の従者を召喚、少女の捜索にあたらせていたのだ。
「……や、だ」
 震える指でエクレウがベリィの腕を掴む。
「いやだ、おとなたちは、ベリィをころ、すから、これは、ゆるされない、べりぃはしんで、だから、いきかえらない、いきかえって、もうはなれたくない、いやだぁぁぁっ!」
「エクレウ君!」
 少女とともに走り出そうとしたエクレウを、リゲルが後ろから抱き締めるようにとどめる。
 他の子どもたちまで恐慌状態に陥り始めた。
「正しくあることを願うなら、その声に従ってはいけない。君の正しさを見失ってはいけない!」
 少女の腕を折りそうなほど強く掴んでいた右手から、リゲルの腕を引っ掻いていた左手から、エクレウは徐々に力を抜いていく。
 呼吸を荒げ、ぐったりと脱力した彼が倒れないよう、騎士はしばらく少年の体を支えていた。
 子どもたちも我に返り、ゆっくりと調子をとり戻していく。
 ベリィはその様子を、感慨もなさそうに見つめていた。
「そうかぃ……」
 前髪に隠れた武器商人の目は、ベリィという『死者』をつぶさに観察する。
 その身に体温はなかった。それは解析できないものだった。
「昼食……には遅いな。おやつを作ろうか」
「おやつ!」
 軋むような空気をとりなすため、ポテトが立ち上がる。年少三人の表情が輝いた。
「じゃあ私は洗濯をしようかな」
「掃除も任せなさい」
「チビたち、お手伝いしろよ。ほら、ベリィも」
 リュヌがリゲルをちらりと見てから、ベリィを手招いた。
 リゲルはエクレウと視線をあわせる。
「俺たちはソファで少し休もうか」
 少年は静かに首肯した。

 キッチンに立つポテトを、アヴェ、スカード、マタンの三人がきらめく双眸で見つめている。
 パンケーキの生地を作ったポテトは、三人を見下ろして唇の前に人差し指をあてた。子どもたちは彼女の仕草を真似する。
「今からパンケーキを焼こうと思う」
 こくこくと子どもたちが頷く。
「美味しいのを焼いて、エクレウたちをびっくりさせよう」
 これは内緒の作戦だと、三人はすぐに理解した。
 いつも頑張ってくれている二人の『兄』と、帰ってきた『姉』に対する恩返しだ。

 ベリィと一緒に玄関の窓を拭いていたリュヌに、イーリンが声をかけた。
「リュヌ、シーツはどこに仕舞うの?」
「二階! ベリィ、ちょっと頼むぞ」
「うん」
 雑巾をバケツに引っ掛けて、リュヌはイーリンを先導し階段を上がる。
 最低限の家具しかない管理役の部屋に入り、扉を閉めたところで、少年はくずおれた。
「……ありがと、きてくれて」
 今にも泣き出しそうな少年の頭を、イーリンは軽く撫でる。
「おととしに死んだベリィが、今朝になって帰ってきたのよね?」
「うん。ベリィが帰ってきてから、誰かに欲望を解き放っていいって、命令されてるみたいなときがあって、エクレウが一番変で、ベリィも変なんだ」
 つたない言葉で、懸命にリュヌは状況を説明した。
「これはあってはならないこと。だから、私たちが解決するわ。でもそれには、貴方の協力が必要になる」
 イーリンの言葉にリュヌはしっかりと頷き、袖で涙を拭く。
「協力する。おれたちを助けて」
「ええ、もちろん」
 ふっとイーリンは口の端を上げる。
「貴方は強い子ね。シスターとも別れられて、なにが正しいかも知っている。だから、貴方が皆を導くのよ」
 彼女が差し出した手を、リュヌは決意をこめて握った。
「そのために、私たちはここにいる」

 ルアナは立ち尽くしていたベリィの、死者らしい冷たい手を引き、庭に向かっていた。
「やァ」
「ベリィ君、だよね?」
 猫の額ほどの庭では、闇商人とアレクシアが洗濯物を干していた。
「手伝います」
「いいよぉ。もう終わるからねぇ」
「ベリィ君はさ、どんな風にここで暮らしてきたの?」
「どんな……。シスターと、みんなと、普通に……?」
「楽しかった?」
「はい」
「最近で一番大変だったことはなんだぃ?」
「この前、エクレウが十一歳になったんですけど、そのとき……えっと、なにかが……なんだったかな……? シスターが子どもたちを怒って……泣きやませるの、大変でした」
 穏やかに、悲し気に、ルアナは笑う。
 三人は違和感に気づいていた。
「シスター、辞めちゃったんだよねぇ?」
「……え?」
「ベリィ君。君が死んで、もう二年が経つんだよ」
「……死?」
 記憶の欠落。経過した時間を知らず、『死を自覚していない』状態。
「知っているかもしれないけど、人が生き返るっていうのはあり得ないんだ」
 心をこめて言いつつ、アレクシアはベリィの魂の輝きを感じとろうとした。だが、そこにはなにもない。
 少女は、純然たる霊魂ですらない。
「あり得ない現象、あってはならない現象は、周りにも影響を及ぼす。エクレウ君たちがおかしくなってしまう前に、お別れをしないといけない」
 悪寒を隠し、アレクシアはベリィを見つめる。
「わたし、死んでませんよ?」
 少女は困惑したように微笑んだ。
 そういう表情があった、という記録をなぞっているだけのような、温度のない微笑だった。

「ベリィさんにどこか、違和感はないかな? 黄泉帰るということは、自然の法則に反しているんだ。だから、どこかで無理が生じているかもしれない」
 柔らかな声で問うリゲルに、少年は沈黙を返す。
 リゲルは考えるように天井を一瞥して、
「ベリィさんのことが好きなのかい?」
「ふぅぇっ!?」
 ばっと顔を上げたエクレウは、真っ赤になっていた。
「え、え、いや、好きっていうか、あの」
「彼女がどんな子か、教えてくれるかな?」
「うぅ……」
 にこにこと相好を崩しているリゲルに、エクレウは首を縮めながら、途切れがちに話す。
「ベリィは、シチュー作るのが得意で、シスターの手伝いもたくさんしていて、でも怒ると怖くて、笑うと」
 少年の目に、涙がにじんだ。
「笑う、と、温かいんです。お日様みたいな笑い方をするんです。でも、今のベリィは違う」
 黄泉帰った死者が持つ不完全性。
「でもお別れしたくないんです。あの子はベリィじゃないかもしれない。それでも、もう離れたくない。死んでほしくない……っ」
 キッチンの幼子たちに聞かれないようにするためか、エクレウは嗚咽を堪えた。
「悪いことをしてるって、分かってるんです。でも……!」
「ベリィさんは、君やみんなのことが心配で、戻ってきてくれたのかもしれないね」
 葛藤に心を傷つけ続けている彼の肩に、リゲルは手を置いた。
「だけど聖職者を目指す君が知る通り、生を終えた魂は、神の御許へ行くもの。それを捻じ曲げては、魂が路頭に迷ってしまう」
 とまらない涙を袖で拭いながら、エクレウは首肯した。
「愛しい人と離れるのはつらいだろう。……それでも、君の優しさや正しさを、ベリィさんのために向けてほしい。最愛の人を思いやり、聖職者への道を歩んでほしい」
「……はい」

●星に誓いを
 焼き上がったパンケーキでティータイムを終え、イレギュラーズは引き続き家事を行ったり、子どもたちと遊んだりした。
 夕飯はベリィを中心にシチューを作り、イーリンの手作りジャーキーを使用したサラダと温め直したパンですませる。
 片づけを終え、夕はまだ遊び足りなそうな子どもたちをリビングに集めた。
「みなさん、流れ星が去る前に三回願いごとを唱えると、願いが叶うというおとぎ話を知っていますか?」
 子どもたちが顔を見あわせ、首を傾ける。
「これは、そんな噂を聞いた旅人が、海を、山を、空をも超え、世界で一番、空に近いところまで行って、流れ星に願う物語です」

 夕が子どもたちとイレギュラーズに語り聞かせているころ、闇商人は密かに墓地を訪れていた。
 孤児院からはそう遠くない。イーリンが事前に調べてあった、ベリィの亡骸があるはずの場所だ。
「失礼するよぉ。……おやァ」
 月明かりが暴かれた墓を冷たく照らす。
 棺の蓋を開いた闇商人は、そこに『残る』少女の骨に、目をすがめた。

「ベリィちゃんは流れ星、迷子になったお星さまです」
「ほんと?」
「本当だよ。いい子にしていると、その魂はお星さまになるんだ」
 スカードに見上げられたアレクシアが言うと、子どもたちは口々にベリィを称賛した。エクレウとリュヌもその輪に入っている。
 マタンはあまり覚えていないが、他の子どもたちはベリィがどれほどいい子だったのか知っている。
 土の中に埋められた少女がなぜ星になるのか、シスターに諭されたときには納得しがたかったが、世界には様々な力を持った人がいるのだと知った今なら、信じることができた。
「私たちは、本当は、迷子の星をあるべき場所に還しにきました」
「リュヌが迷子の星を教えてくれたの」
 イーリンは静かな目でベリィを見る。話の中心にいるにもかかわらず、少女はぼんやりしていた。
「ベリィちゃんはお空ではお星さまになっていました。でもシスターがいなくなって、みんながちゃんとやっていけるか心配で、つい覗きにきちゃった……。それも、今日で終わりです。明日になる前に帰らないと、神様に怒られちゃうのです」
 天義という国で、教会が運営する孤児院で育った子どもたちだ。
 神様の怒りを買うということの重さは、四歳のマタンでも分かっていた。
「ベリィちゃんを心配させないよう、大丈夫だよって、言ってあげてほしいです」
 子どもたちの視線が、ベリィに集中する。
「流れ星に誓った言葉は、叶うものだから。……ただ、このお話には続きがあって。流れ星に願いごとをした夜のことを誰かに言ってしまうと、願いは叶わなくなります」
「だから、ベリィのことは秘密にしよう。大切な家族との別れは悲しいけど、もうお空に帰してあげよう」
 ポテトが促す。

 イーリンはリビングから抜け出して、戸口に佇む。
「どうだった?」
「あったよぉ」
 戻ってきた闇商人が、昼間のベリィの話と、たった今見てきた墓の情報をイーリンに共有する。
「あのベリィは、死体を媒介にしていない可能性が高いねぇ」
「そうね」
 煙草をくわえたイーリンは、冷淡に呟いた。
「私たちの仕事は、殺害と痕跡の抹消。手は全部、打つまでよ」
 どこか物悲しい声が、夜の空気に溶けていく。
「そのためにも、あれを試さないとねぇ」
「ええ」
 扉が開く。
 ルアナに手を引かれ、ベリィが出てきた。アレクシアがその後ろに続く。サンディも出てきたが、彼は門の外に向かった。
 闇商人は玄関に入る。リュヌの隣、まだ涙の残滓を頬に残しているエクレウに近づき、じっと目をあわせた。
 エクレウはすぐに瞬きすらできなくなる。声を上げようとしたリュヌをイーリンが視線で制した。
 ――ソレは、知っている。
 忘れて生きた方が幸せになれることもあるのだと。人間の強さと弱さを。選択の自由を、提示の公平性を。
「あ……」
 御伽噺の魔法使い。魔眼による催眠。エクレウという個人の中から、ベリィという存在を拭いとった。
「……なにも起こっていないようね」
 庭を覗いてきたイーリンの報告に、闇商人は肩をすくめる。
「ベリィを作るパスがあるとしたらここだと、思ったんだけどねぇ?」
 誰の手も汚さずに終わることも期待していたのだが、そうはいかないらしい。
 
 ルアナとベリィは並んで、庭に横たわっていた。アレクシアもベリィの隣に座り、少女の手を握っている。
 三人は、星を見上げていた。
「目を閉じて、ゆっくり、ゆっくり、眠ろう。……深呼吸して。ね?」
 不思議そうなままベリィは指示に従う。
 乾いていないからと干したままにしてある洗濯物が、風に翻った。ルアナは起き上がる。
 月光がナイフをきらめかせた。少女の薄い胸が上下している。
 息をしている。冷たいまま。肺の患いなどないように、穏やかに。
「ごめんね。ゆっくり休んでね」
 ルアナが振り上げたナイフは、少女の心臓にすとんと刺さった。
「……っ!」
 直後、ベリィの体が黒い泥のようなものに代わり、弾ける。それは地面に吸いこまれた――いや、還った。
「ねぇ」
 魂さえ残さない終わり方に拳を握っていたアレクシアは、ルアナの声で我に返る。
「少しだけ、泣いていい?」
「うん」
 ナイフを落としたルアナが、子どもたちに聞かれないよう、口を押えて泣く。アレクシアは死者を終わらせた少女を抱き締めた。

 夜が明けて間もなく、ひとりの聖職者が孤児院に近づいていた。
 眠れずに起きてきたエクレウと少し話し、「子どもたちが本当に黙っていられるか不安だ」という彼にエーベルヴァインの蜃気楼を渡して部屋に戻したばかりのサンディが、彼に声をかける。
 子どもたちを守る盾を、ひとつ増やすために。
「新しい管理役か?」
「そうですが、貴方は?」
「ちょっとここで事件があってな。事件解決にきたローレットのひとりだ」
「……事件?」
 まだ若い男が不安そうにサンディを見る。ローレットの名を出したことで、警戒は解かれていた。
「一昨日、聖騎士が押収した毒キノコが盗まれて、市場で売られた。急ぎ回収し、下手人も裁かれたが、孤児たちはすでに食べたあとだった」
「えっ」
「ああ、解毒対応は終わってる。健康に問題はないんだが、一時的に幻覚を見てたらしくてな? まだ幻覚と現実の区別が少し怪しいかもしれない」
「それは……」
「可哀想にな。そういうわけだから、一日二日は妙なことを言ってても許してやってほしい」
 聖職者は厳粛な面持ちで頷く。サンディは安心させるように小さく笑んで、懐から免罪符を出す。
「教会の方から、巻きこまれた不運な子どもたちのための正式な免罪符を頂いてる」
 手にとった聖職者はそれをしっかりと観察した。間違いなく、ネメシス正教会が発行したものだ。
「敬虔で素直な子どもたちだ。どうか守ってやってほしい」
「もちろんです。先に聞けてよかった。子どもたちを驚かそうと思って、少し早くきたんですよ」
「そうか。あの子たちのこと、よろしくな」
「はい」
 温和な表情で新たな管理役は孤児院の扉を開いた。
 光輝なりし都を朝日が染める。
 その白さの分だけ、影は濃さを増した。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。

死者は死に帰り、孤児院は元の平穏を取り戻しました。
子どもたちと新たな管理役の仲は良好、ときおり前任のシスターから手紙が届くようです。
夜がくると子どもたちは空を見上げ、その日一日の出来事を祈るように想い描きます。まるで誰かに報告するように。
管理役は「眠る前に神に祈りと感謝を捧げているのだろう」と、その敬虔さに感心し微笑んでいました。

ご参加ありがとうございました、お疲れさまでした!

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