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シナリオ詳細

零落するは高潔の騎士

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 一般的に――或いはここ以外のどこかから見て、異質・異様と呼ぶに足る、気味が悪い程に整然とした大都市。
 まま活気とも言い換えられる喧騒はなく、生活感と言われることもある塵もなく、誰もが純粋に、ひたすらに信仰を守り抜く。
 それは聖教国ネメシスの――そして白亜の都フォン・ルーベルグのあり触れた光景である。
 行きかう人々が皆、一様に己を律し、完璧を形作る、行き過ぎともいえる純真の国。
 掲げられた正義に対する忠誠は絶対、道を外れればどこかで誰かがソレを見つめている。
 もちろん、そんなことを口に出そうものなら即ち悪ではあるが、正義という看板を、おぞましい程まっとうに掲げる。何も考えなければ酷く苦しいだけの、それだけの国だ。


「……本当に、行くのか?」
 聖騎士団の詰所が一つ。
 一人の男性騎士が、同じ年齢ぐらいの壮年に問う。
 壮年の手には一つの封筒が握られていた。
「はい。もう、疲れました。前回の戦いで受けた傷で剣を握る手に時折力が入らなくなる」
 壮年は自らの利き腕を軽く握って、そのまま開く。
 手がわずかに震え、開かれる掌がひきつった。
「休養でもいいと言ったが……」
「――不忠不義不正を打ち破るに、うち漏らすような不正義を行なえません。私はそんなことは出来かねます」
 首を振った壮年がそう言って口を閉じる。男は壮年の意思の堅さに小さくため息をついて、差し出されている封筒を受け取った。
「分かっている。お前の事だ、受け取らんかもしれんが――退職金は出るぞ。奥さんが亡くなってからは一層その毛も強くなったが」
「……申し訳ございません」
 壮年がそう言って頭を下げて出ていく。
 その背中に視線を追わせる男は、哀愁さえ漂う背中から、耐えきれなくなったように視線を外すのだった。


「そうだ。嘘は言っていなかった」
 集められたイレギュラーズに対して、男がそう漏らした。
「あぁ。すまない。巷で話題になっているアレについて、こちらでも君達に対処してほしい」
 男性騎士は言葉を選び取るように君達へ願う。
「都の外れ、そこに一人の男が住んでいる。本来なら一人のはずだ」
「……だが?」
 歯切れ悪く、選び取って語る男性騎士に、君達が問えば、騎士は静かに目を閉じた。
「最近、噂になっているのだ。一人じゃなさそうだと。アイツは、奥さんを数年前に失ってな。最近になって引退したんだ。恋人なら、幸せになってほしい。だが――」
 最近、巷で噂になっている黄泉帰り。それを考えると“新しい恋人”ではない可能性ができてしまう。
 だから――と。
「あいつは俺が知る限り、天義騎士の中でもかなり高潔な武人だったと思う。得た報酬は民衆や兵士に下げ渡し、名声を得ることを望まず、上ともコネを作ろうとしなくてな。そのくせ腕は俺の部下で随一だった」
「……もしも抵抗したら?」
「不正義として処断してもらって構わない……ああ、だけれど、そうならない可能性が高いだろうな」
 男性騎士が沈痛な面持ちを見せる。何か、含みのある顔色だった。

GMコメント

こんばんは、春野紅葉です。
さて、そういうわけで黄泉帰りです。

では詳細をば。

●オーダー
・黄泉帰り対象の討伐

●元聖騎士カーティス
 首都フォン・ルーベルグが郊外に隠居した壮年男性。
 勇猛果敢で天義が掲げる正義だけでなく、天義という国家そのものへの忠誠心にも厚い武人だったそうです。
 戦闘する場合は普通に強いです。
 高反応、高火力、群を抜けた抵抗力、麻痺や崩れ、氷漬けなどのBSを有し、逆にEXA、EXF、回避はやや低め、HPと防技は普通。
 典型的な殺される前に殺す系、ガチガチの武闘派です。
 BS、HP、APを回復する術はありません。

 説得する場合は、天義が掲げる正義だけではなく、忠誠心にも訴えかけるといいかもしれません。
 私心なく、ひたむきに国と信仰に生きた騎士。そんな彼でも、死んだはずの最愛の妻との再会には揺らぐもの……なのかもしれません。

 なお、生死は問いません。説得の内容如何では自害さえあり得ると思われます。

●ダーナ
 黄泉帰りと思われる女性。
 病弱でこそあるものの穏やかで口数少なく、信仰に生きた人でした。
 彼女の生前はカーティスも彼女の薬代などに報酬を使っていたようです。
 夫婦仲は円満であったとか。
 カーティス自身も彼女に多少なり違和感を覚えているようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 零落するは高潔の騎士完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年04月23日 23時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
河津 下呂左衛門(p3p001569)
武者ガエル
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
津久見・弥恵(p3p005208)
薔薇の舞踏
ユー・アレクシオ(p3p006118)
不倒の盾
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト

リプレイ


 依頼人から手渡された地図に描かれていた場所へ訪れていた。
 フォン・ルーベングを出て、少し行ったところにある小さな森。
 そこにぽつんと、あるいはひっそりと佇む、小さな家。
 森の中の外観を損なわないためか、どうやら丸太を組み上げて作っているようだ。
「では、行ってきます」
「ええ、いってらっしゃいませ」
 ここだろうかと視線を合わせて伺っていると、家の中から女が姿を現わした。
 軽装の鎧を纏った男性が、やがてイレギュラーズのいる方へ視線を向け、少しばかり目を開いた。
「お客様、ですか?」
 先に声を出したのは、女性の方だ。
「どうやらそのようです」
 不思議と、両者ともに相手に敬語を使っている。
 他人行儀というよりは、本当に相手を尊重しているが故のように窺えた。
 恐らく、元々彼らはこうなのだろう。
(忠義に溢れた武人に対する疑惑でござるか……如何に武勇に秀でた者であろうと、私生活まで完ぺきとは限らぬでござるからな)
 そう考えていた『武者ガエル』河津 下呂左衛門(p3p001569)は、真正面から向き合うつもり出来ていた。
(一戦交えてみたい気持ちは確かにあるが、命は惜しいでござるなぁ)
 佇まいからも、相手が相当な実力があることはすぐわかった。ありがたいことに、自分達に敵意を持っていないようだ。
「お初にお目にかかります。私はリゲル=アークライトと申します。お二人にお話があって参りました」
 礼服を纏う『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)は礼を尽くして問いかける。
「ご夫妻にお話がございます。お戻りになられる間、ダーナ様を傷つけは致しません。私は天義の騎士です。嘘偽りは申しません」
「……分かりました。では、参りましょうか。ちょうどこの向こうに、よく散歩するときに休憩に使ってる開けた場所がありますので」
 頷いて、男――カーティスは素直にイレギュラーズと共に家から遠ざかる。淀みなく、自然体で進む彼には、どうにも逃げるという気はなさそうに見えた。
 リゲルが不思議そうに首を傾げていた女性――ダーナと言葉を交わす横で、 『死を呼ぶドクター』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)は思う。
(ダーナが本物なら、彼が断罪されるのは嫌じゃないのか?)
 依頼人に聞いた話によれば、目の前の女――ダーナと、カーティスは二人とも信仰心の厚い人だという。であれば――天義的に見て、ダーナを守るカーティスもまた、断罪の対象になりうる。
(――いや、そもそもダーナは、自分が死んでると知ってるのだろうか)
「騎士様、ということはカーティス様とも同僚であらせられるということでしょう? このようなところでは何ですし、中へどうぞ」
 そう言ってダーナは二人を家の中へ入っていく。リゲルとヨハンナは頷いて一緒に家の中に入っていく。
「近頃、都では黄泉返り、なる話が横行してるようなのです」
「……?」
 少し顔をひそめた様子を見る。聞きたくないところを衝かれた、言うのとは少し違う。
「黄泉返り……人は一度死んだら、もうそこまでのはず。そんなことがあったなんて、私は知りませんでした」
(どうやら、彼女本人に記憶はない、のだろうな)
 ヨハンナはその様子を見ながら推察すると、その金色の瞳をギラリと輝かせる。
 それは医師としての彼女が持つ、特殊能力。
 映された女性の傍には、何もいない。健常者――というべきか。
「少し、良いか?」
 試みたそれは、ダーナ――ではなく、ダーナという霊魂への直接的な意思疎通だった。
「はい、どうかなさいましたか?」
 不思議そうにするダーナには、通じているようには思えない。
(……霊、ではないのか?)
  いわゆる純粋な霊魂、というのとは違うのだろうか。
「……実は、今、ダーナさんとカーティスさんが一緒に居られるのは、奇跡が起きたからなのです」
 目配らせで状況をそれと無く合わせつつ、世間話を進めていたリゲルとヨハンナは、少ししてから本題へと入っていく。
「ですが、それは神の理に反する事。このままでは不幸を呼び寄せてしまう」
 ダーナが少しうつむいた。何かに悩むような――というより、想定していなかった事に機能不全を起こしたような、そんな。
「カーティスさんは断罪され、ダーナさんは無慈悲に調べられる恐れがあります」
「………………そういう、ことですか」
 少しだけ天を仰いで、大きくため息をついた。
「ああ、ごめんなさい、騎士様、このようなところをお見せしてしまって……」
 何が、どうして、まで言わなくとも、どうやらダーナは察したようだ。
「それに、黄泉返りは魔種が絡んでいる可能性が高い。……このままでは、カーティスさんが壊れてしまうかもしれないのです」
「あの人が……」
 少しだけ悲しげに、ダーナは呟けば、目を閉じて顔を伏せた。


 少しばかり、時は遡る。
「……愛するひとにかかわる葛藤は……分からないでもないのだがな」
  『『知識』の魔剣』シグ・ローデッド(p3p000483)は淀みない挙詐で行くカーティスを見ながら、静かに声を出した。
 昔ならば、斬って捨てただろう。けれど、レイチェルがいる今、それが出来るかは――。
「そうですね。黄泉返りした者が、再会を望んだ者だった時、拙であるなら……どうしたでしょうか」
 続けるようにその言葉に答えたのは、『朱鬼』鬼桜 雪之丞(p3p002312)だ。
(死者を愚弄する様でも、揺らぐ、のでしょうか)
 雪之丞は黙考する。
(自害などなさらずに、死を受け入れて少しずつでも前に進んで貰えれば嬉しいのですが)
 『銀月の舞姫』津久見・弥恵(p3p005208)は少しだけ進んで丸太に腰かけたカーティスを見ながら思う。
「……お話を、聞かせていただければと」
 ほうと息を吐いて、カーティスが言う。
「分かってるだろう?」
 『小さき盾』ユー・アレクシオ(p3p006118)が言えば、カーティス無言のままスッと目を閉じた。
(わかるべきとはいわんであります。守るべきものもなくなった後に、何が残るのか。見出しましょう)
 『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)はこうしてみると疲れているようにも見える男を見定めようと、静かに見つめた。

「奥方様についてお聞きしてよろしいですか?」
「ダーナのこと……ですか」
「出会いや、二人のことなど……信仰心の厚い方と聞きました」
 人の書く恋愛小説が好きな雪之丞は、少しばかり興味を覗かせて問う。
「きっと、正義のため国のため、剣を振るう貴方に惹かれたのでしょうか」
「そう、なのでしょうか。彼女とは私が騎士として国に仕えたばかりの頃、ある町の司教が不正義をやっていて……彼を討った時、そこのシスターに保護を願われたのが始まりでした」
 その後もぽつりぽつりと語るカーティスの言葉を聞いていく。
「奥様はどんな貴方が好きだったのでしょう。カーティス様はどんな自分こそが奥様に誇れる、向き合える者なのでしょうか」
 弥恵の言葉にカーティスは少しだけ考える様子を見せる。
「誇り、と思ったことはないのですが……そうですね。騎士として恥ずべきことがないように生きてきたつもりです」
「共に歩いてきた時間はきっと、私の想像を遥かに超える宝石のような時間だったのではと思います」
 弥恵はゆっくりと焦らず、真摯に向き合っていく。

「私は結局、研究者なのでな。『事実』と『可能性』でしか語れん」
 少しだけ話を進めてからシグはそう前置きを置いて、カーティスへ声をかけた。
「実情として、ダーナの復活の理由は、未だ解明されていない。そして少なくとも、天義に於いては未知の現象だ」
 シグはそういうとカーティスに事実を言い終えて。今度はあり得る可能性を提示していく。
「ダーナの復活が邪なる者の意思による物である場合、何らかしらのタイミングで操られる、または人間爆弾のような物と化す民衆へ害を成す可能性がある」
 カーティスへと問いかける可能性の話に、彼は何を言うでもなく目を閉じる。
「無論、そうならない可能性も否定はできないが、本当にそのリスクを負うべきなのだろうか? それに――民衆に危害を加える可能性を生前のダーナは望むだろうか」
「……そうですね、本当にそうだとして、彼女はそれを望まないでしょう」
 沈痛な面持ちで、淡々とカーティスは言う。
「カーティス殿。貴殿にとって忠義とは何なのでござろうか」
 それまで黙っていた下呂左衛門がカーティスの方へ出て、問うた。
「国がどうの、というわけではござらん。妻と、ご自身に対してな。人は弱い心を持つ者なれど、同時にそれを乗り越えられる強さも持っているはずだ」
「私にとっての忠義とは……人々に悪しきを強いる者を討ち、人々の糧になること――でした」
 “でした”そう、捨てるように答える。今はもう、違うのだろうか。
「黄泉返りは奥方様の信仰を、貴女の誓った忠誠を穢しているのではないでしょうか。捨て置けるものではないと考えます」
 雪之丞はカーティスに言いながらも何となく思い浮かぶものがあった。
「弱さと向き合い、それでもなお己に恥じぬ生き方を貫く。武の道とはそう言うものではござらんか?」
 下呂左衛門の言葉に、カーティスが少しだけ引きつったような顔をした気がする。
「もしかして、貴方が黄泉返りという不正義を正せないのは、討ち漏らす事を恐れているのですか?」
 雪之丞の言葉に、カーティスは目を見開いた。
「…………えぇ、そうです」
 声を押し出すように、苦しげな声だった。図星であったらしい。
「彼女が家に戻ってきたとき、そう言うモノなのだろうと思いました。病で亡くなる時、その死を看取りましたから、間違いありません」
 ――ですが、そうカーティスは口を閉ざす。
「彼女が死んでから少しした時、青年を討たねばならなくなりました。病に侵された恋人のために罪を犯した子でした。彼を討つ時、私は一瞬だけ手を緩めてしまって……利き手に重傷を負いました。それ以来、どうにも手が震えるのです」
 そんな震える手で、愛した者を殺す――その時に、手が震えて“一太刀で殺せなければどうしようか”――そして“彼女が苦しんで上げる声に、後悔しない自分でいられるだろうか”そう考えているうち、ずるずると日が経って行っていたと。
「この件に魔種が関わっている可能性があります。貴方ほど、国に忠誠を誓った方が揺らぐ。それこそが黄泉返りの意図であるかもしれませぬ」
 雪之丞はカーティスに対してソレを告げる。
「たしかに。この胸に日ごと湧くこ感情は、もしかするとそう言う事なのやもしれませんね……」
「貴方ほどの方が揺らげば、天義は程なく、騒乱に呑まれるでしょう」
 本来、信仰に厚いものであっても折れるという実例は、人々に大なり小なりの恐怖を与えかねない。
「皆様に、お願いがあります……どうか、彼女を――」
 その言葉は、ここまで聞いていた言葉のどれよりも重く、感情が乗っていた。


「カーティス様」
 家に帰還したイレギュラーズとカーティスに、ダーナが気づいて声を上げる。
「……ただいま、戻りました」
「おかえりなさいませ。その……私から言わせていただけませんか?」
「――――」
 曇った顔でダーナが言えば、カーティスは目を見開いていた。
「申し訳ございません。負担を、かけてしまいました」
「そのようなことはない。今も昔も、貴女が私の負担であったことなど」
「いいえ。その顔を見れば分かります。その顔を、私は初めてお会いした時に見ました」
「あぁ――そのような顔をしているのか」
「はい――カーティス様、手が……震えておいでですよ」
 息を呑んだカーティスが腕を抑える。
「……ええっと、レイチェル様、でしたか。お願いしてもよろしいですか?」
 振り返ってダーナがレイチェルの方を向いた。
「……あぁ」
 無言の後、彼女が魔術式を起こしていく。
「ヘル・カーティス。最後にフラウ・ダーナに何か言うことは?」
 エッダが問う。しんと佇み、騎士へ。
 彼自身の正義を見定めんとする鉄帝の騎士の願望に、カーティスが目を閉じる。
「そうです、何か、伝えたい事や心残りはありませんか?」
 弥恵もカーティスへ視線を向けた。
「……心残りは、ない――と言えば、嘘になるが」
 目を閉じていたカーティスはやがて双眸を開き、小さく首を振る。
「この言葉を口に出すには、歪すぎましょう」
「よろしいのですか?」
 リゲルが念を押すように言えば、カーティスは小さく頷いて、そのまま視線をダーナに向ける。
「――いつかきっと、君を迎えに行くとしよう」
 カーティスの言葉に、ダーナは首を傾げる。その直後――彼女の足元に浮かび上がった紋章が、その体を包み込んだ。
 その瞬間――パンッと、その身体が爆ぜ、黒い泥のようになって消えていった。


 ダーナが消えて、家の中がしんと静かになっていた。
「……そうですね、少しだけ、話をしましょうか」
 椅子に座ったカーティスが初めてため息をついた。
「声を聞いたと言っていたな?」
 ユーが聞けば、カーティスは頷く。
「ええ……肯定されている気がしました。彼女の形をしたナニカを受け入れることを」
「アンタはダーナが本物じゃないと気づいていたのか?」
「……えぇ、あの子の晩年はほぼ寝たきりだったのです。彼女の病は合併症が多くて。最期には病院ではなく、緑にあふれたこの地で、というのが二人の話し合いで決めたことだったのです」
 レイチェルの問いに、カーティスは昔を振り返るように目を閉じて、そう言った。
 ほぼ寝たきりだった妻が、生き返ったとはいえぴんぴんしていたのだ。
 黄泉返りという事情が未知のものとはいえ、それは確かに違和感たりえるだろう。
「これからどうするでござる?」
「どう、とは?」
 下呂左衛門が問いかける。愛した女性の黄泉返りを目の当たりにして、彼がどうしようとするのか、ここにいるイレギュラーズとしてはそれも懸念事項だった。
 この後、彼が死ぬのでは流石に後味が悪い。
「先にも申しましたが、今回の件、裏に魔種が関わっている可能性があります。奥方を利用した悪が、今もどこかにいるやもしれません」
「そうですね……たしかに、あの子を貶めたことは許すべきではないでしょう」
 雪之丞が発破をかけるように言い聞かせれば、カーティスは小さく頷いた。
 その言葉には、どことなく気迫が籠っている。静かに座っているはずなのに、ビリビリとこちらを圧するような気に満ちつつあった。
「……すいません、皆様。少しばかり、私に着いてきていただけますか? 妻に、報告をしたくて」
 そう言って立ち上がり、進みだしたカーティスが訪れた場所は――森の奥に、小さく存在する石組みの碑だった。
「ここが彼女の?」
 シグの言葉にカーティスが頷いて、そっと片膝をついて黙祷を始めた。
「最後に少し舞を贈らせていただいてもよろしいですか?」
 カーティスが黙祷を終わらせるのを待っていた弥恵は、そう問いかけて許諾を得ると、静かに舞を始めた。
 いつの間にか、日差しは傾き、森の静けさは終わりを知っているかのようで。
 それでも、この日が落ちた後、また日が昇るのだ。
 弥恵はその先を生きていく人へと、想いを捧げるように緩やかに踊っていく。

 酷く重く感じられた日が、ようやく終わろうとしていた。

成否

成功

MVP

ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした、イレギュラーズ。

無事、黄泉返りは終結し、カーティスも新たな目標を見出したようです。

MVPは色々と有益そうな情報を引き出したであろう貴方へ。

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