シナリオ詳細
銀河の産声を聴いたのです。
オープニング
●Echo
それは遠い遠い世界のお話のようだった。
広く荒廃とした土地で手向けた一輪の白百合の意味が解らぬ程に自身は莫迦ではなかった。
幼いながらに漠然と横たわる死と謂う存在が畏怖すべき対象である事は知っていた。神様のお導きこそが死でありながら、二度と俗世(ぼくらのばしょ)へと還れぬ片道切符であることも知っていた。
――おばあさまは、神様に選ばれたの。
病によるものでありながら、母は信心深き敬虔なる使徒の様にそう言った。
――おばあさまは、神様の許へ参りますのよ。
さめざめと泣きながら母はそう言った。ベッドの上で白いシーツに埋もれるようにして祖母の細い腕がぴくりと動く。ぼくがその手を掴もうとするその一瞬の挙動も見過ごさず、母はそっとぼくの手を取り「触れてはなりません」とそう言った。
もう目も耳も機能せず、頭もぼんやりとした祖母の切なる一瞬。いとおしいと頭を撫でてくれた掌を取る事すら母は赦さず、神の許へ行く手前なのだから汚してはなりませぬとさめざめと泣いていた。
そうして――そうして、少し経ってから、ぼくは神の徒とし、そして、『祖母』と再会した。
有り得ざる事象であることは知っていた。しかし、こうも考えられた。
祖母は神の徒として、ぼくたちの前へ啓示を持って訪れたのだ、と。
「ニコラス」
優しいその声音は変わらず、穏やかに微笑むその笑みは生前の苦し気なものとは対照的で。
「ニコラス」
母は、死とは神様の許へ行くことと言っていた。
漠然とした死の恐怖は確かな神の存在を思わせていたというのに――こうして『帰って』来られたならば、その権能のひとつが失われたようにも思える。
ああ、これは『なんだ』?
どうして、『かえってこれた』んだ?
愛おしい大切な祖母。
忌まわしい死者の帰還。
裏腹なそれが、死とは何かを考えさせる。
●introduction
「死とは、別離であり、二度とは戻らぬ路であり、そして、神が我々に与えたもうたいのちの終着点であると、思います」
手を組み合わせて『聖女の殻』エルピス(p3n000080)は静かに、そう言った。
「ある旅人が、『宇宙』という神秘を述べておりました。
それと同じくして、死者が戻ってきたならば――死とは何か、その疑問がうまれおちます」
淡々と、そうして言うエルピスは聖職者として過ごした日々を思い返す様に静かに告げる。
――死者を蘇らせてほしい。
――聖女さま! その力を! どうか!
繰り返されたその言葉。決して『死者は戻らぬ』事を知っているからこそエルピスはぎこちなく首を振り「ごめんなさい」と繰り返すしかなかったのだと唇を震わせる。
「わたしは、死というものが怖ろしく思います。
天義の――首都フォン・ルーベルグでの、噂話を、知っていますか?」
言葉にするのも悍ましい。
生と死。あわいを思わせ、恐怖心を感じさせる其れ。
「黄泉還り」
死者が元の姿で帰ってくる。その事象はエルピスにとって、否、天喜にとっては『有り得ざる禁忌』だ。神の与えたもうた死という事象を拒絶するに相応しい。
「……首都フォン・ルーベルグで聖職者として働く男のかたが、いるのです。
ニコラスさま。彼は一家そろって聖職者であり、敬虔なる神の徒です」
そのニコラスの許に『死んだはずの祖母』が帰ってきたのだという。
幼き日、亡くなった祖母・メアリアンヌはその身を不治の病に侵されていたそうだ。
彼の母は神がメアリアンヌをその膝許へとお誘い遊ばされたのだと、告げ、極力の接触を防いでいた――それは、今になって思えば『病を移さぬため』であったのかもしれないが、ニコラスにとっては死の認識は『清らかなる神の許への片道切符』であった。
しかし、忌まわしき死者の帰還という『ご法度』がその認識を揺るがせる。
愛おしい、大切な祖母。
その存在を無碍にすることも出来ず、そうして、『彼女を護る』事こそが必要であるかのように己を駆り立てた。
「ニコラスさまが『敬虔なる神の徒』であるだけならば、おばあさまを差し出すことは用意でしょう。
けれど、人とは神の所有物でありながら、そうではいられないのです。
……たいせつな人が、帰ってきたならば、わたしも、きっと、そうしてしまう」
祖母を護るために聖堂に閉じこもり、只、彼女と共に過ごしている。
幼い頃に失われた時間を取り戻す様に。大切に、じっくりと。
それを否定できるものか、とエルピスは首をふるりと振った。
「まだ、期間もそれほど長くはありません。
ニコラスさまには、おばあさまの死を受け入れてもらったうえで、みなさんには『禁忌の獣(おばあさま)』の討伐をご担当頂きたいのです」
風邪を引いていたとでも、嘘をつけば表沙汰にはならないだろうとエルピスは言う。
人の噂は何時かは消える。だからこそ、今ならばできる対応だ。
「銀河とは、無数の星が死するときにいっそう煌めき、美しいのだと言います。
ならば、死者が帰還するときも、いっそうの喜びを感じるのでしょうか?」
- 銀河の産声を聴いたのです。完了
- GM名日下部あやめ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年04月22日 21時35分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
そうして、産まれ堕つるは。
●
かつん、かつんと石畳に音鳴らす。白で塗り固めたカンバスのような世界を縫う様に。
錆付いた聖堂の鐘を見上げて『寄り添う風』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)は小さな鼠の頭を撫でる。指先に擦り寄る鼠は聡くミルヴィの望みを聞く様に尾を揺らす。
「ごめんね……貴方はとっても可愛いのにこんな真似させて……」
白き都に潜む様に、囁く声音は聖都に流れる噂の如く、昏い。暗澹たる思いを滲ませた彼女は数日開かれる事のない重い扉を見つめていた。
その日は、煌々と照らしてくれる月が重く圧し掛かる雲に隠されていた。
周囲を見回した『観光客』アト・サイン(p3p001394)はフードでその目元を隠し、新たな観光地――それは薄闇の白都であるが、流行病の如く伝播する噂は正しく新たなと称するだろうか――を見回した。
「神は悪の誘惑に陥るようなかたではなく、また自ら進んで人を誘惑することもなさらない、だ」
「……神ね」
小さな呟き。『繊麗たるホワイト・レド』クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)は胡乱に周囲を見回した。勇者王の角灯で照らされた墓地は何の変哲もなく、携帯用お祈りセットを手にしたクローネは金の瞳を細める。
「……私達がこうして、今から『やろうとする』行為は……。所謂、神への背徳……ってやつッスか」
彼女が腰を屈め墓石に刻まれた名を指先なぞる。
『極夜』ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)はその行いは一種の神聖なる儀式のようにも思えた。
「黄泉還りねぇ……人間が生き返るなんて珍しい。
どういう原理で生き返ったんだ? いや、本当に生き返っているのか」
「怪しい所なのは確かだ」
周辺警戒に当たった『五行絶影』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が息を潜める。クローネは黄泉還りの言葉を舌で転がして皮肉気に小さく笑った。
「……御伽噺はどうッスか……」
「例えば?」
ペッカートの言葉にクローネは墓石に刻まれたメアリアンヌの文字。
荒らされた形跡がないことはその美しく整った土と飾られた花で十分見て取れた。
「……ある愚か者は死にたくないと墓の下で喚いて、必死で生きようとして、願いは届いたのか墓は掘り返されて、死体が動いた化け物が動いたと言われました。……事実は小説より奇なり…本当にあったんッスよ……こういう事が……」
「ならば、その『御伽噺』からはこの現状は離れているのだろうか」
『Spica's Satellite』ニーナ・ヘルヘイム(p3p006782)は実と目を凝らす。
死の程近い場所にいるニーナにとっては、霊魂との疎通を試しみ、情報収集を行いながら墓地の様子を見回した。
死とは全てにおいての生の安らぎであり、終焉があるからこそ生きとし生ける者全てがその生を謳歌するが為、命の歩を進めるのだ。他者を慈しみ、魂を輝かせる事。それは死を司るニーナにとっての常識であり、この天義という国でも進行色からか大切にされてきている概念だ。
「黄泉がえり……それは懸命に生き、死を迎えた者、そして大事な者を喪いながらも冥福を祈り懸命に生きようとする生者への冒涜である」
呟き、見渡して。ああ、けれど――墓には何の変化もない。
夜の色に紛れるようにして得た情報は『墓は何も荒らされていない』だ。
「帰るはずのない死者。ワタシも実際に遭遇したら喜ぶんでしょうかぁ。
とにかく間違った理は正さないといけませんねぇ……」
周囲をきょろりと見回して聖堂の扉を見上げた『不運な幸運』村昌 美弥妃(p3p005148)は小さく口遊む。彼女の傍らの『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)は聖職者ニコラスの行動に対して一定の理解を示していた。
(愛する家族の蘇生、ですかー……それはもう、理屈を超えたところにあるのでしょうねー)
理屈で言われようと納得できないものがあるという事はユゥリアリアにも身に覚えがある事か。
しかし、それを赦さぬのが世界だ。父が死霊術士であり、死の近くに或る存在であったことから彼女の中の死生観はしっかりと固まっている。ユゥリアリアは聖堂より出る廃棄物を眺め、祖母の為に作られたであろう食事が手付かずの儘袋に詰められているのをぼんやりと見つめていた。
「お嬢さん?」
「はいー」
背に掛けられた声にユゥリアリアは人好きする笑みで振り返る。聖堂を心配した住民が彼女を礼拝に訪れた存在だと考えたのだろうか。
「ニコラス様を暫くお見掛けしてなくてね、聖堂も開かれてないのよ」
「そのようですねー。流行り病の噂をお医者様が仰っていたのでー」
気になって、と塵を見下ろした彼女の傍らで汰磨羈がこくん、と頷いた。
「私は、先生の助手なのだが、ニコラス神父が体調を崩しているため聖堂で休養しているので診察に来たんだ」
汰磨羈に促された様にクローネがそろりと歩み出る。医者役として彼女が整えたのはニコラスが祖母『メアリアンヌ』の死の切欠となった流行り病の事だ。じわりじわりと死に至る其れを口にしたクローネに住民の表情がみるみると蒼褪める。
「まだわからないが、感染症かもしれない。可能性は低いが万が一ということもある。
神父も心配をかけて申し訳ないと言っていたが――」
「あ、ああ、そうね。他の人たちにも近づかないようにって伝えて置くから」
おいたわしや、と小さく呟かれたその言葉から、彼が聖職者として人望ある人物であることを汰磨羈は感じ取った。
そそくさと去っていく背中を見送って汰磨羈はクローネをちらりと見遣る。
死生観は人それぞれ。柔らかに笑うユゥリアリアやクローネの心の内は見えやしない。
昨晩の調査では『祖母メアリアンヌの屍骸が動き出した』訳ではない事は分かっている。霊魂の影響でないことはペッカートとニーナも分かっている。
ペッカートは言っていた。背後に何らかの闇が存在している――例えば、魔種やそう言った存在――気にくわない訳ではないというその言葉よりも死生観は透けて見えた。
「死した星は、全てを闇へと墜とす重力の井戸と化す。
死者も同じだ。近づき過ぎれば、抗えぬ闇へと墜ちる。……早急な対処が必要だな」
墓荒らしに関してはまだ露見していない。今夜、月が隠れた夜に彼の許へ行こう。
●
鼠を伴い聞き耳を立てていたミルヴィは「可笑しいんだ」とぽつりと呟いた。
「おかしい?」
美弥妃はぱちり、と瞬いた。念入りに周辺を確認した美弥妃が住人たちの話で『不運の中の幸運』を見つけ出したのは日中の出来事。表は鍵がかかっていたが鍵のない裏口が存在していることを住民たちは言っていた。聖職者たちの通用門であるらしい。
「アンデッドとか、そういった類なら『生前のおばあちゃん』らしからぬと思ったんだ、けど」
「……普通におばあちゃんしてるんデスか?」
こくり、とミルヴィが頷いた。美弥妃は「生前通り、何事もない動きをしているなら思い入れも強くなりマスよねぇ」と強硬手段も捨て難いものかと肩を竦めた。
ぎい、と鈍い音たてて聖堂を進む。話し声が、聞こえてくる。
――うん、それで……。
祖母メアリアンヌの行動は無機質でありながら生前を思わせるようなのだろう。
遠目から見ても生者のように動いてはいるが無機質にデータをなぞるかのようであり、孫の奇天烈な動きには反応がないのが見受けられる。
(あの動きは……本人の霊では、ないのか……)
メアリアンヌを成仏させることができればと考えていたニーナが得たのは周辺の霊魂とそこに存在する『メアリアンヌ』が違うというものだ。まるで汚泥の様な、濁った気配を感じさせるではないか。
「……こんばんは」
月が隠れ、聖堂は暗澹に飲まれる。ただ、静かにそう呟いたクローネにニコラスは聖書を手にびくりと肩を揺らした。
「どッ――」
「……ああ、警戒しないでください。敵では……ないッスし……医者、ってところッスかね……」
「お医者様……」
「うん。ニコラスさんが体調悪いんじゃないかなって話が出てたから」
笑うミルヴィは地面を奔る鼠に怯えた様な表情を見せたニコラスに「こっちで少しお話しない?」と首を傾ぐ。
「アタシはカミサマの事なんて詳しくないし、貴方ほど信じちゃいない……。
けれど大切な人を無くした悲しさは分かるつもり。アタシは何度も大切な人達を無くしてどうして自分ばかりってカミサマを恨んだ事もある」
「――え」
指先が、静かに揺れる。聖書を握るニコラスは「神を、ですか」と呟いた。
彼は信ずる神が奪った祖母のいのちを何故こうして麓へ戻したのかと心を揺らがせていた。
「……いけね、こーいうのは天義の人には御法度か!
それでもそんなの関係なしに貴方の迷いと想いをアタシ達に守らせてくれる?」
ニコラスは無機質に笑うメアリアンヌを見遣る。生きている、そう見える――大切な祖母。聖職者である以前に肉親であり、自身を慈しんでくれた相手。
「ハッキリと言ってしまえばこれは在るべき形ではないはずデスぅ……心の中で少しは思ったのではないデスかぁ?」
「けれど、お祖母様は、確かにあって……傍に居たかったという思いが、あれ……?」
湧きあがる様に。彼にとっても理解不能な程に強い感情に変化していくのだという。
「このままでは2人は最悪な形で別れることになるかもしれないんデスよぉ?
何か心残りとかかけるべき言葉があるならそれを言うくらいの時間はきっとあるはずデスぅ」
美弥妃の言葉にニコラスの唇が小さく震える。ユゥリアリアはメアリアンヌの傍らに座り、その様子をぼんやりと眺めていた。
「命とは移ろうものであり、閉じた輪にあなたの祖母を閉じ込めてはいけないですよー」
ユゥリアリアが静かに言う。ニコラスの瞳が、ぼんやりとメアリアンヌを見遣った。
「いけないことだってわかってんだろ?
大切な人だもんなわかるぜ? ずっと一緒にいたいよな?
でもな死んだ人間は普通生き返らない。死んだやつは生きてるやつが手を加えない限りはな」
ペッカートの言葉はニコラスを大いに揺るがした。生きている奴が手を加えなければ生き返らない――それは神がいようといまいと関係ない。
「いや、しかし、神による奇跡で――」
「これは奇跡でも何でもないんだ。
お前の大切な存在はただ誰かの目的で利用されてるだけだ。お前が本当に彼女を護りたいと思うのなら……いや……俺達がなにを言おうと結局はキミ自身の決断なんだ。キミの判断に任せよう」
ペッカートに続くように美弥妃は項垂れるニコラスを覗き込んだ。
「踏ん切りがつかないなら……ワタシたちは強行手段を取らなければいけなくなるかもしれません」
その言葉はニーナの『権能』にも沿っているのかもしれない。彼女はメアリアンヌの霊は此処にいないのだと虚空を撫でる。
「祖母をどうやって隠し続け、ニコラス自身は自分の迷いをごまかしきれるのか。
……もしかしたらこの先永遠と生きる可能性のある祖母をどうするつもりか……」
厳しく言葉を投げかけたクローネにニコラスはメアリアンヌを見遣る。その瞳は、もはや揺らぎに揺らぎ、焦点は会わぬままとなって居た。
「……人をやめて、いつ終わるかも分からない苦しみを……?
………私怨が少し入ったか…兎に角…今の内に終わらせてしまった方がいい……身も心も腐る前に……」
距離が離れる。汰磨羈はメアリアンヌに「こんにちは」と静かに声をかけた。
「ええ、こんにちは。良い夜ね」
「質問しても?」
「あら」
穏やかな、只、穏やかさしかそこにはない。
「自分がどうやって蘇生しただとか、死んだ自覚だとか、手助けだとかは解るか?」
「あら」
――答えは帰らない。
違和感がそこには流れ続ける。
「……このままだと、ニコラスの立場は非常に悪くなる」
「あら」
静かに、違和感が横たわる。
「誰かが派遣され、罰せられるかもしれない、あなたは――?」
「あら」
柔らかに笑う。ミルヴィは「あれが、お祖母様?」とニコラスに静かに問い掛けた。
「……いや、お祖母様は、そんな――」
――出来れば、彼女自身が正しき眠りにつく事を選んでくれれば良いのだが。
呟く言葉に、返らない。笑っているメアリアンヌは生前をなぞる様に微笑んでいる。
「まあ、どうかなさったの?」
首を傾ぐ。その様子に首をふるふると振ったニーナは仲間を振り仰ぐ。
強硬手段――しかないのだろう。これは単純な霊魂の話ではなく、何か別のことか。
「メアリアンヌ……貴女の黄泉がえりが孫を結果的に傷つけるのなら……貴女はもう一度安らかに眠るべきだ。
……ヘルヘイムの名において、『死』の権能を行使する……貴女に安寧を」
振り翳して、そして、訪れたのは死なのであろうか。ばしゃり、と泥が広がっていく。
其処に或るのはもう一度の『祖母の死』ではなく――別の汚らしい何か、だ。
どさり、と聖書が落ちる。ニコラスは云う――道理では分かっていたと。
「そんなに辛いなら夢だったことにしろ」
囁くように、そう言って。ペッカートは暗がりに伸びる影を眺める。
心など、どうにもならないものを何故、神様は与えたもうたか。
「一時の幸せな夢だったのだ。死を恐れず、死を想い生きるんだ」
「……貴方が死を肯定しているのは解ります。しかし、来訪者(たびのかた)。
死を、受け入れられぬもまた、人なのではありませんか。ああ、神よ」
冷たい表情の内側にニーナの想いが揺らいでいる。ペッカートは夢だと告げた。
「だから、夢なんだ」
汰磨羈は囁く。
宇宙に瞬く星が死の刹那であるように。一時の喜びを感じた心は確かに福音をかき鳴らしていて。
「……強硬手段にと思ってまシタが、これでもいいかもしれまセンねぇ。
疲れていたんデスよォ。大丈夫、おやすみなさい。朝が来て、起きたらいつもの日常が待っている」
そうして。
そうして、産まれ堕つるは悲しみであったか。ただ、星が瞬くように、眠りに飲まれる。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
この度はご参加ありがとうございました。
生と死。両極端でありながら双璧たるそれ。
まだまだ騒がしい事件は続きそうですが、本件はこれにて。
MVPは全体を見据えての行動をしていたあなたに。
いいゆめでした。
GMコメント
日下部です。死と謂う漠然とした不安と、蔓延る噂について。
●成功条件
・祖母・メアリアンヌの討伐(死者の討伐)
・ニコラスの無事及びニコラスが聖堂に閉じこもっていた『事実』の隠蔽
●聖職者ニコラス
首都フォン・ルーベルグにある小さな聖堂にて勤めを担う神の徒。
聖職者一家の一人息子として生まれ、幼き頃から神々に祈りを捧げて来ました。
『死とは漠然とした恐怖』『死とは神の与えたもうた道』でありながら、愛しい祖母の帰還を『いけないことと知りながら人間として受け入れて』います。
誰とて、愛しい人の二度目の死を受け入れることはできないでしょう。
●祖母メアリアンヌ
不治の病に罹り、ニコラスが幼き頃に亡くなった元・聖職者。
心根は優しく、孫を傷つけられることを厭います。彼女自身が黄泉がえりを厭うそぶりは在りません。(そのことがニコラスの中の死と謂う定義を揺るがせています)。
●聖堂
首都フォン・ルーベルグにある小さな聖堂です。数人いる聖職者は皆、用事で出払っておりニコラスが閉じこもっています。
あまり表沙汰に大きく動くと聖職者が死と謂う汚物を匿っていたと事件になってしまいますので隠密での行動が必要になります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
どうぞ、よろしくおねがいします。
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