PandoraPartyProject

シナリオ詳細

霊話術師を討伐せよ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●処刑か慈悲か
「やあ、よく来てくれたね」
 ローレットに張り出された一枚の張り紙に従い集まったイレギュラーズ達に向けて、『黒猫の』ショウ(p3n000005)は酒と紅茶を差し出しながら不敵な笑みを浮かべた。
「大まかな内容は張り紙で把握しているだろうけれども改めて説明しよう。天義の神官の一人から直々に依頼が入った。邪霊を信仰する集団を何とかして欲しいってね」
 何とかして欲しいとはよくいったものだね、そうショウは苦笑を浮かべながら手に持った酒を一口飲む。天義においてそれが『懲らしめる』程度で済む訳がない事をよく知っていたからだ。
「その集団は天義の山深くに潜み、『霊話』なる不思議な呪術で数百年と繋ぎ止めた邪霊と交流をしているらしい。生前は知る人ぞ知る偉大な偉人だったみたいだけれども……ずっと繋ぎ止められている内に歪んじゃったんだろう」
 事実、その村があるとされている山の周囲では、天義の他の地域よりも人攫いや略奪と言った行為が多発している様だ。
 天義の腕利きの聖騎士が何度か調査に向かったそうだが、ある時ポツリと行方が途絶えてしまったそうだ。
「神に背く信仰をした上に聖騎士も失って神官達はカンカンさ。君達には聖騎士が残した情報からその集落があるとされる山へと向かい、邪霊と霊話の儀式を行う連中をやっつけて欲しいそうだよ……やってくれるかい?」
 もちろんやってくれるよね。ショウはそう再び笑みを浮かべてグラスを揺らすと残った酒を一気に飲み干し――「そう、それと」と付け加えた。

「神官達は村の中の様子を何も知らない。村人達がどうしたか、どうなったか。それは全部君達の報告に委ねられている――それを覚えていくといいだろう」

●歪んだ偉人
 悪臭の漂う暗闇の中。ローブを纏った男達が妖しく輝く魔法陣の上で一つのボロ布を囲んでいた。
『――来たれ我らが主。聖――よ』
 男達は利き手の甲に刻まれた聖痕をかざし、唄うように呪文を紡ぎ出す。最後にその名が唱えられた瞬間、彼らの足元に広がる魔法陣が輝き、中央のボロ布の下から影のような何かが盛り上がり、ボロ布を纏って浮かび上がった!
『……!』
 霊はポタポタと怪しげな液を垂らし名状しがたい唸り声を上げながら男の一人へと詰め寄ると、男は欠片もそれを嫌がる事なく微笑み、ある物を差し出す。
「はい。今宵は上質の贄を用意しております」
 それは四肢を縛られ恐怖に震える聖騎士であった。霊は瞬く間にその聖騎士へと飛びかかり生気を、そして命を吸い取れば、活気に満ちたように飛び回る。男達はその様子に恍惚とした笑みを浮かべながら、霊へ感謝の言葉を捧げるのであった。

 それはもう何万と行われたかわからない、世代を跨ぐに従って次第に歪んだ術式とその影響を受けた霊が作り出す悪夢の一つ――その景色であった。

GMコメント

 いつもありがとうございます。塩魔法使いです。素敵な元号が発表されましたね。

●依頼達成条件
・霊話術師の儀式の阻止。
・悪霊及び霊話術師達を討伐する。
 上記2点は必須です。
 また、天義の神官達より悪霊討伐後は信仰者の根絶を指示されていますが……彼らの意思に従い然るべき『後始末を行う』か改宗したと偽り『慈悲を与える』かは皆様に委ねられています。
(意見が割れた場合は多数派の意見が優先されますが、拒否した人が後始末に参加する事はございません)

●舞台
 天義のとある山奥、森の中に存在する小さな村落。住民の全員が指導者の霊を崇拝し、よそ者に敵意を示す。
 儀式は最奥の洋館らしき外観の建物で行われている。普通の住民にまともな戦闘能力はないため強行突破でも何ら問題はないが潜入を上手く行えれば最大HPにボーナスが付く。
 洋館の中は吹き抜けのある開けた二階建ての空間。儀式の影響か外観よりも広く感じられる。

●エネミー
◯ゴースト
『偉大なる指導者』の霊。長い年月の果てに邪悪な霊と化してしまった。
 防御能力は薄いが回避やHPが高いしぶとい敵。
・悪寒 自神域 【凍結】【副】【無】 その場に『居る』だけで恐怖を感じます。
・怨念 中神単 【不吉】 威力がやや高い怨念の一撃です。
・呪い 超神域 【怒り】+高命中 周囲に敵がいない場合に使用、敵を無意識に近寄らせます。

◯霊話術師x10
 ゴーストを崇拝、盲信する老若男女の霊能術師達。その行為に一切の疑問を持つことはなく、改心の余地も見られない。
・啓示 物至単 【弱点】 指導者の導きに従い異教徒を排除します。
・邪聖水 物中範 【痺れ】ゴーストが出す廃液をぶちまけます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●アドリブ頻度『やや多め』
 この依頼はアドリブ成分が多めに含まれる可能性があります。
 ステータスシートやプレイング内にアドリブに関する要項(歓迎や少なめ、或いは後始末に関する心境など)があれば出来るだけ反映したいと思います。

 それでは、よろしくお願いします。

  • 霊話術師を討伐せよ完了
  • GM名塩魔法使い
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年04月21日 23時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

透垣 政宗(p3p000156)
有色透明
セルウス(p3p000419)
灰火の徒
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)
片翼の守護者
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
ヴィマラ(p3p005079)
ラスト・スカベンジャー

リプレイ






●霊話の村
 月夜の中、草木をかき分け獣道を進み、物好きか遭難者でも無ければここまでは入らないであろう天義の山の森深く。不自然に切り拓かれた地にその集落は存在していた。
 その何かから隠れる集落の中央、長い潜入の後に漸く見つけた洋館の後ろで自らのギフトによって身を隠し、村の中心に存在する洋館への道を探っていた『しがない透明人間』透垣 政宗(p3p000156)と、その師である『闇之雲』武器商人(p3p001107)は、仲間を待ちながら呼吸を整えていた。
「これだから嫌だなぁ、宗教って……」
 感覚を張り詰めて侵入に当たった疲れからか、政宗は師に甘え半分の愚痴を言う。
「まあまあ、教え子のお陰で一度も見つからずにこれたのだからいいじゃないか」
「そうだな、随分と楽が出来た」「わっ!?」
 武器商人の言葉に続くように政宗の背後から突然『茜色の恐怖』天之空・ミーナ(p3p005003)の声が響き、政宗は思わず尻餅をつく。天井を飛んで追ってきたのだとミーナは政宗をちらりと見つめると、背後に聳え立つ洋館の方を見つめ静かに呟いた。
「ま、仕事ならば潰す。それだけだ」
 異変が続く天義にとっての悪しき存在、長き風習の故に歪んだ聖人の霊を潰す。その為に。

「それにしても、死人に口なしとは良く言ったもの……」
 ファミリア―によって侵入路を確保し、数分後3人に追いついた『蒼ノ翼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は大きなため息をつきながら館を眺める。
「まったくだね」――そう『夜星の牢番』セルウス(p3p000419)がルーキスに同意するように頷く。彼が交流した霊は、そのどれもが生命力を奪われ一瞬で息絶えた事にすら気付いて居ない生贄達の霊であった。これほどまでに犠牲を生む悪魔の様な術が存在するとあらば、天義にとって相当な不正義であろう。
「一応、死者の声を聞き、それを伝える……っていう事は、俺にもできてしまうけどそれも此処、天義じゃア、睨まれちまうのかねェ?おオ、怖い怖イ」
『D1』赤羽・大地(p3p004151)もまた来る途中に生贄達の霊と触れた事を思い出し、へらへらとおどけた顔で笑う。
「ま……異端者は排除される、って事ね、当然なんだろーけどさ」
 ネクロマンサーでもある『ラスト・スカベンジャー』ヴィマラ(p3p005079)にとっては尚更だろう。ただ、彼女はそれが天義にとっての幸福であると知っていたので深くは語る事は無かった。
「何処の世界も信仰やら宗教やらが絡むと碌な結果にならないのは同じ、と……今日もやるべき事をするとしようかね」
 依頼主も相手もロクでもない依頼ではあるが、仕事は仕事。そう割り切ったように『紅獣』ルナール・グルナディエ(p3p002562) は皆へ休憩を終える提案を投げかけると、イレギュラーズ達は戦闘への最後の準備を行うのであった。

 洋館の表へ回り込めば見張りが大勢いる。かといって今いる裏では、まともに侵入する方法は無い。
「さて、何処から入ろうかねえ?壁でもぶち破るか?」
「それは手間がかかるけど、窓なら使えそうだ」
 大地の言葉に対し、ルーキスが指し示したのは2階に繋がる小窓であった。

●呪いの儀式
「へえ、これは驚いた」
 慎重に2階の窓を蹴破りロープを垂らし、洋館の中へ降り立ったミーナは如何にも胡散臭そうに呟いた。
 外に広がる如何にもな洋館とは裏腹に、中に広がるのは無理な増改築を繰り返した結果残った2階のギャラリーと階段、そして1階に広がる巨大な魔方陣の浮かぶ広大な闇だけ。
 同じく次々と入ってきた他のイレギュラーズ達もまた、その館の内観に驚きつつも、闇の中にいるであろう存在に警戒心を高めていく。
「下の方、真ん中らへんに2個ある。きっと今日のご飯だぜ」
 ヴィマラもまた、その館の中にたむろする闇の方角へ向けて指を向ける。今日もまた彼等にとっての『異教徒』が生贄となってしまったのであろう。これ以上の猶予を彼等に与えてはならない。
 イレギュラーズ達はギャラリーの手すりから身を乗り出すと、次々とその闇の中へと飛び降りた――。
「我が主よ……新たな贄が参りました」
 闇の中、魔方陣のみが怪しく光り輝く空間――そこで見た物は、悪臭を放つ何かを讃える10人の男女であった。
 その男女――ローブを纏った『霊話術師』は奇襲を知っていたかの様にこちらの方へと向き直ると、魔方陣の中央にある『それ』にイレギュラーズ達を見せる様に輪の一部を開けた。
「上質な物が8名です……さあ、ご覧ください」
 魔法陣に照らされた『それ』は、どす黒いオーラが纏まって形を成し、辛うじて防御に使えるぼろマントを纏った虚ろな存在……まさしく悪霊の類であった。
「オ、ロ、ロ、ロ、ロ――」
 悪臭を放ち、圧倒的な威圧感と共にイレギュラーズ達へ唸りをあげる魔物に、ヴィマラは思わず一歩後ずさる。通訳するように呟く彼女達霊能を持つ仲間の言葉から、イレギュラーズ達はその意味を知ることができた。
《いきたい。いきたい。クルシイ。逝きたい。……ねば、導か……生きたい――》
 どう生きるのか、どう導くのか。その具体的な意味を失い、ただ無意味な方向へと導こうとする霊の姿に、武器商人も思わず首を振る。
「縛られ続ける内に魂ごと歪むとは……人間は脆いというのに気の毒に」
 そんなイレギュラーズ達をよそ眼に、霊話術師達は頷き、霊へ感謝の礼を捧げる。
「おお、我らが主よ、仰せのままに」
 そして懐より恐ろしい血みどろの拷問道具をイレギュラーズ達へと向けた瞬間――ヴィマラが怒号を飛ばした。
「何が仰せのままにだよ! 何もわかってないくせに!」
 ヴィマラは激しい感情を込めエレキギターを激しくかき鳴らしながら、術師達へ向け叫び声をあげる。
「あんたたちは知ってんのか? その人の食べたい物とか! その人が欲しいのは生贄なのかあんた達の幸せなのかとか! すげー力持ってんのに、なんで死んだ人に縋ることしかできねーんだよ!」
「っ……!?」
 ただ生まれてから言われるままに妄信して来た存在に対する問。術師達は一瞬その言葉に動揺し、喉を抑えむせる。彼女の言葉と心を乗せた術が、彼らの肉体を蝕みだしたのだ。
「おのれ……異端を滅ぼせぇ!」
「やってみろ! 囲んだくらいで死神の風を止めれると思うなよ!!」
 拷問道具を振り上げ、立ちふさがる術師達の懐にミーナが潜り込み、短刀を強く握りしめると、薙ぎ払う様に力任せに振り回す。強風とかまいたちによりローブを切り裂かれ、怯んだ術師達へと容赦なくルーキスの宝石術が降り注ぐ。
「あー気持ち悪い。信仰だか偉人だか知らないけど、ただの悪霊の類いじゃないか」
 不愉快な物を見たと容赦なくルーキスは神秘術を解き放つと、美しくも恐ろしい氷華が炸裂――術師達は大きく弾き飛ばされ、その隙を見逃さず飛び込んだルナールの双刀によって真っ二つに切り裂かれた。
「よし、一人落ちたな」
 ルナールは連携の出来に満足そうな笑みを浮かべると、そのまま弱っていた次の術師へ向けて勢いよく幻刃を振り下ろす。術師はよろめきながら次第に追いつめられると、辛うじて黒くどろついた液体の入った硝子瓶を取り出し、霊への感謝の言葉と共に投げつけた。
「我が主よ! 清めの水をお借りします!」
 痺れ毒の液体は硝子の破片と共に散乱し、激しい毒性と腐臭をまき散らす。その正体がこの館全体に広がる淀みと同じである事にイレギュラーズ達が気付いた瞬間――霊が放った悪寒と怨霊の玉が彼らを貫いた。
「きゃあっ!?」
 その霊の廃液を受け、膝を着いた政宗をセルウスは浄化しながらぼやく。
「今のが清めの水? 泥水の方がよっぽど聖水してるんじゃないかな」
 それを受けて政宗も「こんなのを聖水扱いしてるとか頭おかしいんじゃない!?」と怒りを必死に堪えた笑みで刻印を構えると、悪意を具現化する神秘術を術師達へとぶちかます。
「おじさん、僕からお返しだよ」
「な、がっ!?」
 この反撃は予想していなかったのか、術師はよろめくと武器を落とす。その術師を別の術師達が守るように取り囲むと、「どけろ!」と政宗の方を見つめ……彼を守る様に位置していた武器商人へと切りかかった。術師達の拷問道具は武器商人の身体へと確かに食い込む――が、痛がるそぶりも、避けようとする様子も見られない。
「な、貴様……!」
「何故避けないのか、そう考えているのかい?」
 武器商人は不敵な笑みを浮かべると、術師達へと静かに告げた。
「答えは簡単。『キミ達に我(アタシ)は倒せない』。絶対に」
 その言葉に術師達は硬直し、じっと武器商人の方を見つめる。ブラフにしても、事実にしても、それを伝える意味がわからない。一歩下がり、他の侵入者へとその視線を逸らそうとするも――ソレから目を逸らす事が出来なかった。
「なんてね、冗談さ……絶対冗談だ、そうだろう?」
 ――そうだ、倒せない敵等いるわけがない。そんなものがいるとしたら、存在させてはいけない。
 術師達は既に武器商人の術中に陥った事にも気付かずに武器を振り上げると、自らの意志で無間地獄へと駆け出して行く。そこに無慈悲にも大地が術式を展開し――一網打尽。
 容赦無く襲い掛かるイレギュラーズ達の毒の霧は、悪霊の信者達の肺を更なる悪の呪いで侵し尽くし……一人、また一人と倒れて行き。
「何故、こんな、目に」
 最後にはもはや立つ事すらままならず、虚ろな目で虚空を見つめる信者が残された。そこにゆっくりとセルウスが歩み寄り、トドメの一撃を放つ。
「キミ達だけが救われてるなら無視したんだけどさ、一般的文化圏じゃ誘拐も略奪も犯罪なんだよねえ」
『だから』、そこで言葉が終わり、紅蓮の業火が最後の術師を焼き払った。静かな断末魔を最後に館に広がる魔方陣が薄れ、消えていった。
「さて、君は何か言い遺した事はあるかい? ま、あろうがなかろうがこの世からさっぱり消えてくれるよね」
「オ、ゴ、ゴ、ゴ――!?」
 霊は魔方陣が消えるにつれ悶える苦しむ様な声をあげ、纏う布がボロボロと崩れ落ちる。彼を信仰する霊話術師が消えた今、彼と現世を繋ぎとめる鎖はもはやわずかに残った生命力のみ。
 止まらぬ自壊に霊は悶え苦しみ、こちらをギロリと睨みつけると――許すまじと無数の怨念を解き放った!
 暴れまわる霊は食い止めなければならない、武器商人は悪霊へと接近すると、その狙いを集中させるべく意識を自らへと繋ぎとめる術を行使する。
「喋らされ続けるのは疲れたろ。ゆっくり眠るといい」
「それにだ」
 霊が商人へ危害を加えようとしたその瞬間、ミーナが霊の背後より忍び寄り、ダガーを素早くその布へ刃を振り下ろす。
「死者が生者の世界に彷徨いでてんじゃねぇ!」
 目にも止まらぬミーナの乱舞は悪霊の布を切り裂き、魂を傷つけ、強制的に輪廻へと送るべく無慈悲に振るわれる。
「死神たる私が今一度、きっちりあの世に送ってやるよ!」
 一度では許さんとミーナは再びダガーを構え直し、激しい斬撃を叩きこむと、そのぼろ布は最早意味をなさない存在となり、中のオーラ体だけが噴き出した!
「……!」
 信者達を失い、身を守る布を喪い、それでも悪霊はしぶとく呪いと怨霊の玉を放ち続ける。
「二度目は、無いってば!」
 政宗はその怨念を防御術ではじき返すと両手を掲げ、恨みを込めた一撃を霊へと次々と撃ち込んでいく。無色透明の殺意は霊へ確実に向かうと、そのオーラへと大きな風穴を開け、その巨体を吹き飛ばす。
「思ったよりもしぶとい敵だ」
 ルーキスは偉大なる悪魔の天球儀を呼び出し、ルナールの傷を癒していく。
「ほらほら、休憩時間はまだ先だよ」
 ルナールはルーキスに礼を告げると生じた生命力を集中力に転換し、まさしく短期決戦、全身全霊の一刀を掲げると一気に悪霊へと振り下ろした!
「グ、ギャア、アアア!」
 ルナールの刻み込んだ切り傷は、これまでの戦いでイレギュラーズ達が刻み込んだ呪いを具現化する紋。生きる糧を完全に失った霊にとっては、もはや呪いすら彼の味方ではなかった。
「思ったよりもあっけなかったな」
 既に勝敗は決したような物、後は全力でこの死にぞこないを打ち滅ぼせばいい。赤羽は両手に村に漂っていた怨念を一気に束ねると、霊へ向けて全力でぶっ放す!
「とっとと失せろヨ、聖人さン!」
「ギ、ア……!」
 それは今まで悪霊が『喰らって』来た人間達の無念、呪われた魂に降り注ぐ更なる呪い。霊はオーラの内側から更に桜色の血文字の様なひび割れを浮かび上がらせながら、その寿命を高速ですり減らしていく。霊は力を振り絞り、一斉にイレギュラーズを薙ぎ払おうと術を行使するも、その力は長く続くはずもなく。最後はヴィマラの旋律によって、内側から弾け飛ぶように消滅。そして、深い深い闇の中から光が放たれると、それは弱弱しくもゆっくりとどこかへと昇って消えていった――
「お疲れさま、後は生きてる私たちに任せな」

 腐った信仰の根はこうして絶たれた。だが、まだすべき事は残っている。イレギュラーズ達は短い休息を取り傷を癒すと、静まり返った館を入った窓から脱出し――セルウスの術式で一気に吹き飛ばす!
 爆風が村中へ木霊し、館はガラガラと燃え盛りながら崩れ落ちていく。
「ふぅ~すっきりした~」
 陰鬱とした空気から抜け出し、外の爽やかな空気と煙の臭いを吸い込みセルウスが満足そうに伸びをする。突然の騒動に飛び出した村人達は、跡地に立っていたイレギュラーズ達の姿を見つけると、その誰もがその『よそもの』のした行為を確信し農具や包丁を片手に飛び掛かる。
「偉大なる指導者様をよくも……殺せ!」
 底なしの敵意を向け、数十人はいるであろう村人達はイレギュラーズ達を殺さんと一撃を振り下ろしていく。だがその全員が戦闘経験のほとんどない素人である事は火を見るよりも明らか、激戦を終えた後のイレギュラーズ達であってもその攻撃を躱すのは造作も無い事であった。
 最早彼等に抵抗する力は残されていない、だが、その歪みきった思考は変えられるかすら怪しい。
「さて、どうする? 更生するならそれでよし……危険だからって殺すならそれもよし」
 ミーナが短剣を両手に静かに仲間達へと問う。裁きか情けか……月光に照らされたイレギュラーズ達の得物の鈍い輝きが、その答えであった。
「若いのを1人くらい残しておいても面白そうだが……ま、無駄に不穏の原因を作ることもあるまい。一切合切灰燼へと返すとしよう」
 そして、彼らを代表するように、武器商人のその意地悪い笑みと魔術が村人達へと無慈悲に放たれて――

●揺れる正義
 深紅が全てを焼き払っていく。邪神の信徒共の家々は崩れ、灰が風で薙ぎ払われていく。そして村人達はただ地へと這いつくばり――沈黙する。
「ははッ、もうちょっとした山火事だナ!」
 たったの数分でこの世の地獄と化した村の中、赤羽が燃え盛る家々の中で笑い声をあげていた。生まれてから歪んだ風習を受け続け、根から腐った住民を中途半端に生かした所で問題を起こされるだけ。これで良いのだ。そんな意味を帯びた笑い声であった。
「さて報告どうしようか……神の身許へ向かわれました、とでも書いておく?」
「……報告はそれで構わんだろうさ」
 村の外れにあった切り株に腰掛け、羊皮紙と羽ペンを手にルーキスとルナールが談笑するかの様に語り合う。後味のいい依頼ではなかったが、これも天義にとってはれっきとした一つの仕事、正義の遂行でしかない。
「そんな事より、さっさと帰ってルーキスの焼いたケーキが食いたい」
 ルナールは苦笑いを浮かべながらそんな事を言うと、ルーキスも同じく苦笑いを浮かべ「それもそうだね」と立ち上がるのであった。
「……許すのって、そんなに難しーのかな?」
 ヴィマラは、村人達の死体を大きな岩の前の土の中へと丁寧に埋葬し、彼らへと祈りを捧げていた。彼女は天義の『正義』に従う事はできなかったが、その後始末をせずに帰る事も許せなかったのだ。それに既に失われた命だ、弔った所で天義的な『悪』に彼女が陥る事は無いだろう。
「……あんた達、行きたいところはあるかい?」
 かすかに漂う村人達の霊へヴィマラは手を合わせ、彼等が願った偉人の霊と同じ場所へと逝ける様に祈りをささげる。政宗は複雑な心境を抱え、その様子を眺めつづけるだけであった。
 この村に生まれた人々は確かに周囲に不幸をもたらす存在ではあったが、それは誤った教育と風習に生まれ育った事によるもの。この地に生まれ落ちてさえいなければ……彼らをこの手が殺めた自分自身がそう考えるのも不条理ではあるのかもしれないが、彼はそう思わずにはいられなかった。
 政宗はゆっくりと立ち上がると。
「せめて、安らかに」
 静かに村人達の墓へと言葉を投げかけ、摘んできた一輪の花をゆっくりと墓標の前へと置くのであった。

 イレギュラーズ達は生き残りが一切居ないことを改めて確認すると未だ燃え盛る村や森に背を向け、それぞれの帰路についていく。
 彼等の行為を知るものは無く、この事件は『魔物が起こした不幸な山火事』として処理されるであろう。
 その真相を知るものは依頼人たる神官とイレギュラーズ達のみ。そして、村の跡地にぽつりと残された岩の墓標だけであった――

成否

成功

MVP

透垣 政宗(p3p000156)
有色透明

状態異常

なし

あとがき

 リプレイは以上となります。プレイング提出お疲れさまでした。
 新元号にちなんだにしては少々血生臭い話でしたが……

 邪霊とその崇拝儀式は途絶え、歪んだ束縛術は闇へと葬り去られました。
 天義の神官達は報告を受けイレギュラーズ達の『正義』を称賛し、その『善き行い』を規範とするよう積極的に信徒達へ広めているようです。
 MVPは侵入、戦闘共に縁の下の力持ちだったあなたに。
 それでは、ありがとうございました。またの機会をよろしくお願いします。

PAGETOPPAGEBOTTOM