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シナリオ詳細

旅立ちはあの丘で

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●思い出の場所
 深緑東部アゼット村にその老夫婦は住んでいた。
「お爺さん、お加減はどうですか?」
 老婆ミュージーが尋ねると、病を患いベットに横になっていた老人ロペスが薄く瞳を開けた。
「……夢を見ていた」
「夢……ですか?」
「あの丘を覚えているか? 迷宮森林を……大樹ファルカウを一望できるあの夕日に染まった丘を……」
 ロペスの言葉にミュージーは懐かしむように目を細めてゆっくりと頷いた。
「えぇ、えぇ、覚えていますとも。
 私とお爺さんの大切なですものねぇ……。
 あの丘は……そう、クリャの丘……」
 クリャの丘は深緑の国境沿い、迷宮森林に入り込むように存在する小高い丘だ。
 幼なじみであった二人は、冒険にでも出るように様々な物をリュックに詰めて、その丘へと行った事があった。二人にとって初めての冒険であり、大切な思い出の場所だ。
 それからも、何かの記念があるたびに、二人はそこを訪れて、いつまでも共に在りたいと願っていたのだが――
「もう、何年も行ってないですね……あの丘には……」
 ミュージーが悲しそうに呟く。
 その原因は、明確だ。
 十年ほど前からクリャの丘に屯し始めた魔獣デトス。鋼殻な身体を持ち暴れ回る魔獣がどこからともなく現れてクリャの丘を根城にしたのだった。
「あの丘で、もう一度夕日を見る夢を見た……。
 婆さんと二人、穏やかに眠りにつくまで……あの丘で……」
 ロペスは酷く痛む身体をゆっくりと起こした。心配そうにミュージーが身体を支えると、ロペスは咳き込みながら言葉を紡いだ。
「儂はもう長くない……最後に我が儘を言っても良いだろうか?」
「ええ……」
「儂はもう一度あの丘へ……あの夕日を目に焼き付けたい」
 デトスがいる以上それは難しい。
 だが、ロペスの強い意思に、ミュージーはなんとか応えたいと考えた。その時、ふと耳に入った噂話を思い出した。
「そういえば……最近この国にいらっしゃる事が多くなった冒険者……なんでも屋だったかしら? がいるそうですよ。
 蓄えを切り崩せば……もしかしたらお爺さんの望みを叶えてくれるかもしれませんねぇ」
「じゃが、それは……」
 蓄えがなくなればそれは一人残す妻を不安にさせてしまうのではないか。言葉に詰まるロペスへと優しく微笑みかける。
「良いんですよお爺さん。私一人ならばどうとでも暮らしていけます」
 そう言って、ミュージーは早速行動に移る。
「連絡先を調べてみましょう……きっと良い知らせが帰ってくるはずですよ」
「……すまん」
 感謝と謝罪を言い含め、ロペスは今一度床に伏せるのだった。

 ミュージーからの手紙がローレットに届くのはそれからしばらくあとのことであった。

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 深緑に住まう老夫婦からの依頼です。
 老人の最後の夢を叶えてあげて下さい。

●依頼達成条件
 鋼殻魔獣デトスの群れを撃破する。

●情報確度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態はおこりません。

●鋼殻魔獣デトスについて
 群れの総数は十三体。
 鋼殻の名が付いているように、三メートルを越える巨躯の全身は硬い大盾のようです。
 そしてその硬さを維持したままの肥大化した両爪が、狙った獲物を引き裂き突き刺します。
 性格は極めて獰猛、そして好戦的。視界に入った動物は皆デトスのターゲットとなるでしょう。

 その名の通り防御技術、特殊抵抗が極めて高く生半可な攻撃は傷一つ付けられないでしょう。また巨躯に見合うだけの耐久力も保持、物理的な攻撃力も極めて高いです。
 弱点として反応、回避、命中が低く、素早い動きに対応する事ができません。またFB値が高いのもポイントです。
 機動力だけはそれなりにあるので、囲まれる前に対応できれば戦いの流れを掴む事ができるでしょう。

●老夫婦について
 ロペス老人とミュージー老婆は深緑生まれのハーモニアで、幼なじみです。
 幼き頃より共に成長し、恋をし、連れ添ってきた理想の夫婦と言えるでしょう。
 若い頃には二人で冒険にでたこともありましたが、その時の古傷が原因でロペス老人は病に伏せる事となりました。
 自身の命が尽きるのももはや目の前、そう感じ取った頃ロペス老人は妻と同じように愛した、クリャの丘の夢を見るのでした。
 願わくば、旅立ちは思い出のあの丘で。

●戦闘地域
 深緑国境に隆起する、クリャの丘になります。
 時刻は昼。開けた平原での戦闘になります。
 戦闘場所に大きな障害物はないでしょう。自由に戦闘が出来るはずです。

 そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。

  • 旅立ちはあの丘で完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年04月14日 21時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
アルム・シュタール(p3p004375)
鋼鉄冥土
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し

リプレイ

●思い出の場所
 夕焼けに染まるクリャの丘。
 大樹ファルカウと迷宮森林が深い橙に染まる、そんな光景を一望するのが好きだったとロペス老人は言った。
 いつも隣に居てくれた恋人と見る景色は、幼き頃より変わることはない。
 思い出の場所。
 いつまでも大切に残って欲しい場所。
 大型の魔獣に奪われてしまった今なお、ロペス老人の思いは変わることはない。
「これはわがままだ」と、老人は言う。けれど、同時に「最後の夢でもある」と懇願した。
 命の灯火が消えかけた老人とそれを支える妻からの願い。その思いをイレギュラーズは確かに受け取った。
 『闇夜の双刃』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)が老夫婦に語りかける。
「生あるものは何時かは死ぬ。
 命の流れは止められない――」
 身に迫る終末を覚悟しているロペス老人は静かに頷く。老夫婦の願いを叶える力はこの手にあると信じている。故に、
「――だから、死が二人を分かつともその時は決して邪魔させはしない。
 アンタらの願い、確かにこの”死神”が承った」
 そう力強く約束をし、願いの場所へと向けて出発した。

 クリュの丘へは老夫婦も同行する。多少距離のある道程だが、車椅子もありロペス老人の容態は安定しているようだった。
「思い出の場所かあ、そういうのっていいよね」
 仲睦まじい老夫婦を見つめながら、『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が呟く。
 自分にもいつかその様な事を考えるときがくるのか……思い出となる場所へ誰かと一緒に――
 隣に立つ誰かを想像しつつ頭を振ったアレクシアは、老夫婦の為にも頑張ろうと気合いを入れた。
 丘へと近づくと、老夫婦は指さしながら思い出を懐かしむ。その様子を見ていた『青き鼓動』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)が人知れず言葉を零した。
「二人にとってきっととっても大事な場所なんだね。
 おじいさんとおばあさんの思い出の丘、何としてでも取り戻したい」
 冒険者の旅立ちは、いつだって夢と希望に溢れている。そうシャルレィスは信じている。
 ロペス老人も元は冒険者だ。
 その人が最後の旅立ちにと決めた場所ならば尚更そうでなくては嘘だ。
「魔獣なんて怖くない。
 怖いのはこの剣で想いを、願いを守れない事の方だからっ!」
 携えた剣を強く握りしめ、シャルレィスもまた願いを叶えるために戦うと誓った。
 先頭を行く『Storyteller』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)は実に満足下に歩みを進める。
「我等『物語』は終を得る物語に美を齎すものだ。
 冗長以外の輝きならば如何なる最期でも素晴らしいものよ」
 自我を持った『暗黒神話体系』なれど、老夫婦の願いは尊きものと心得ている。
 故に、邪魔な獣には即刻退場願おう。
「世界が夫婦の一等星と理解可能で、理性が――在るとは言えぬ。
 盾には肉だ。己の肉を貪り食わせ骨の髄まで滅ぼすのみ。Nyaha」
 自らの特性を最大限発揮できる機会を、まさに楽しむようにオラボナが笑った。
 丘の麓へつく。
「ああ、ナルホド。ウジャウジャいるね」
 『無影拳』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が視線を向けた先、我が物顔で丘を占拠する魔獣の姿が見えた。
 老夫婦にはこの場所で待ってもらうことにする。周囲に敵意ある生物はいないし、丘からも様子が見えるこの場所であれば、安心安全だろう。
「まずはオレたちはあのマジュウを倒すのに専念しなきゃね。硬くて殴りガイがありそうだ!」
 イグナートの言葉に『五行絶影』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が頷く。
「人の恋路を邪魔する者は、馬に蹴られて死んでしまえ――などという言葉があるが。
 それは、恋が愛となった後でも変わらん。
 ……という事で。あの魔獣は全て、蹴り尽くすとしよう」
 武器を手に丘の頂上へと向けて歩み出す。
 周囲の風景が開け、大樹ファルカウがよく見えた。
「良い光景……。
 この思い入れの深い場所で最期の刻を過ごしたい、ね。素敵なことだわ」
 周囲を眺めていた『斜陽』ルチア・アフラニア(p3p006865)は視線の先の景観を壊す魔獣達を睨む。
「それを邪魔する連中は……そうね、倒してしまわないと。恨みがある訳じゃないけど、話してどうにかなる相手でもないし」
 近づくイレギュラーズにまだ気づいて居ないが、気づけばきっと喰らうために暴れ出すだろう。
 ルチアの言うように話が通じる相手ではない。恨むべくは”この場所”を根城にした己が習性を恨むべきか。
「さテ、老夫婦の最後の願い。
 叶えて差し上げられると良いのですガ――」
 『堅牢なる楯-Servitor of steel-』アルム・シュタール(p3p004375)が大地を踏みしめ盾と剣を構える。
 自分に出来ることは前に出て、楯となる。只それだけである、と。
「先ずは一つ、守り抜いてみせましょウ」
 鉄腕メイドたるアルムの気合い気迫は十分。それは共にする仲間達にも伝わって、全員が一丸となって依頼の達成――老夫婦の夢の実現へと向けられていた。
『グォォゥ……』
 そうして戦闘準備を終えたイレギュラーズを、丘を占拠する魔獣――鋼殻魔獣デトスの群れが捕らえた。
 巨躯に併せて見ても巨大な肥大化した瞳がイレギュラーズを射貫く。
『グガァァォォォ――!!!』
 強烈な殺気を宿した咆哮がクリャの丘に響き渡り、動き出す巨体が丘を揺るがした。
 丘の麓でその声を聞いたロペス老人達は祈るように空を見上げた。
「どうか、もう一度――」
 あの丘で過ごせるように。
 老夫婦は丘の頂上で戦うイレギュラーズの帰りを待ち続けるのだった。

●正面の盾
 三メートルにも及ぶ巨体が十三体。
 硬質の身体は自然に満ちた丘の上では異質に過ぎる。
 鈍重なれど、獲物へと向かう機動力は高く、強烈なプレッシャーを与えてくる。
 この鋼殻魔獣に対して、イレギュラーズは正面と側面からぶつかる二班に分ける作戦で行く構えだ。
 デトスが群がることが予想される正面筆頭にオラボナが立ち、その混沌たる身体をまさに魅せつけ、デトスの注意を引く。
「厄介な獣の群れよ。貴様等に害成す怪物は此処だ。否。肉の城壁は此処だ。
 貴様等の食料に成る可能性も高いな。如何だ。美味だと思うべきだ。
 何せ我等『物語』の蠢きは天にも昇る至高の馥郁。さあ。物語を始めよう。先ずは我等『物語』が前菜だ」
 歌うように言葉を走らせるオラボナの姿がブクブクと膨張し自分達へと襲いかかる――そんな光景にデトス達には映った。
 混沌たる肉の塊は無数の目玉が凝視して、本能的な恐怖危険を察知する。生存本能に狩られた獣であるデトス達はもはや訳も分からずオラボナへと一斉に襲いかかった。
「そうだそれで良い。喰えるときに喰わない獣などいないのだからな。
 我等『物語』の血肉はそう尽きることはない。存分に喰らい喰らわれるが良い」
 もはや無尽蔵にも思える耐久力を前面に押し出し、オラボナは堅牢な城の如く不動を貫き唯々デトスに嬲られる。
 それはイレギュラーズの中でも比類無き耐久力を持つが故の自信。決して倒れることはないと見越した上での暴挙である。極めて高い耐久力に非常に高い防御技術を持つオラボナだからこそできる芸当に他ならない。
「とはいえ過信慢心は厳禁だな。フォローはさせてもらうぞ――!」
 正面班の汰磨羈が大喝を放ってデトス達を吹き飛ばしていく。いかな巨体硬質な重量魔獣であっても、踏ん張りが効かなければダルマのように転がるというものだ。
「これはこれは。飛ばし甲斐がある相手だな!」
 予想外に良く飛ぶデトスに気を良くした汰磨羈が次々に吹き飛ばし、デトスを一箇所へ纏めて仲間の範囲攻撃を狙いやすくしたりした。
 汰磨羈がデトスを飛ばすことは、オラボナの体力管理を行うルチアに取ってみれば非常に助かる手段だ。
「体力が豊富と言えども限界は必ずあるもの。そこを突かれないようにしないと」
 治癒魔術を行使し、オラボナの身体を再生していく。極めて高い攻撃力を持つデトスが十三体も揃って攻撃を集中すれば、そのダメージは計り知れない。だが献身的なルチアの治癒によって、多くの時間を稼ぐことができた。
(思い出の場所だもの、荒れた様子を見たら悲しくなるものね)
 また、ルチアの保護結界は周囲の環境を守り、戦闘による余波を極力軽減していた。デトスの占拠によって、すでにやや荒れた周辺環境ではあったが、それ以上の傷を残さないようにするのは大変重要なことであっただろう。
「こっちに集中してるね……なら側面班が攻撃しやすいように注意を引くだけだ!
 舞い散れ、希望の黄花《フォーサイシア》!!」
 大気中の魔力を瞬間的、多量に取り込んでアレクシアが更なる魔力編む。狙いは汰磨羈が纏めた複数のデトス。
「君たちに恨みはないけど……ゴメンね!
 致命の優花《カルミア・ラティフォリア》――!!」
 アレクシアの周りに舞い散る黄色く鮮やかな粒子。その中より白と桃の優美なる毒花を思わせる魔力塊が生まれ、放たれた。
 魔力奔流は硬質な身体を持つデトスの内側にまで浸透し、蝕む。自身の硬い皮膚の護りを貫いてきたその攻撃にデトスが本能的な危険を察知する。
「こっちへ来る……!」
「柔らかい所を狙うのは獣の常か。だが、好きにはさせんぞ?」
 後衛へと近づき肥大化した爪を振るう。咄嗟にカバーに入った汰磨羈が受け止め、弾き、いなして行く。
 正面に構えた堅牢にして鉄壁の盾。
 如何に強力な武器を持とうと、獣如きには崩しきれぬ壁として聳え立つ。
 同時に、イレギュラーズは獣を屠る矛も備えていた――

●側面の矛
 正面班が戦闘を開始して、デトスの注意を引いたのを確認したと同時に、側面班はその名の通り側面――デトスの視界外――から突撃した。
「リーダーに思えるのはちょっとだけ大きいアイツかな。でも動きを見るとトウソツリョクはなさそうだね!」
 イグナートの言葉にクロバが頷く。
「なら、端から狩っていくぞ。オラボナに夢中になってる今がチャンスだ」
 高い反応を持つイグナートとクロバが同時にデトスへと向けて突貫する。
「燃え広がらなそうなカタイハダだけど、試すカチはあるかな――!」
 デトスの群れの中へ飛び込んだイグナートが全身の力を右手に宿して叩きつける。業炎齎す爆裂がデトス達を巻き込み燃えさかる。しかし、火は予想通り硬質の皮膚の上を走るだけですぐ消滅した。
「なら、コッチでどうだ――!!」
 全身を捻る勢いままに、デトスの身体へと叩き込まれるイグナートの左拳。『傲慢な左』は如何に強固な護りであろうとも貫き無効化する。
 受けたことのない衝撃にデトスの巨体がくの字に曲がる。イグナートの動きは止まらない。更に一歩踏み込んで右の拳を腰だめに構えれば、全身全霊の力が右拳に宿り雷撃を宿す。
 放たれる渾身のストレートが、稲光を放った。強大な力を誇る一撃は内部からその身体を焼き焦がす。口から黒煙を噴き上げたデトスがゆっくりと倒れた。
「――やるな。こっちも負けてられないか」
 言葉だけ残してクロバの気配が消失する。敵意が消えたことでデトスが周囲を窺うが、その気配を掴むことはできない。
 甲高い金属音が響く。一つではない、無数だ。音はやがて衝撃を伴ってデトスの身体を揺らしていく。
 気配を消失し高機動を活かしたクロバの斬撃が次々とデトスの身体に傷をつけていく。反応の鈍いデトスはこれを追うことはできない。
 ――やがて頃合いだ。
 デトスの背後へと現れたクロバの一刀が察知不可能な奇襲となって叩きつけられる。昏倒するように倒れたデトスにのし掛かったクロバはその左半身を邪悪に輝かせた。
「悪く思うなよ、早々加減が出来ないんでな――ッ!!」
 異形と化した左腕の魔爪が逃れようとするデトスの肥大化した爪を砕き、その醜い顔を穿つように叩きつけられる。
 絶体絶命に至る一撃は、逃れることの出来ない死をデトスに与えるのだった。
 側面側の攻撃が苛烈になれば、デトス達の視線もそちらに向くのは必然であり、正面側が再度敵視を取るまでに耐える必要も出てくる。
「ワタクシが出来るだけ抑えまス! 陣形を立て直してくださイ!」
 アルムはまさにそう言った場面で活躍を見せる守護者だ。
 持ち前の統率スキルを駆使し仲間と連携を密にすれば、誰よりも前に出てデトス達の視線を奪う。
 言葉の通じる相手では無い以上名乗りを上げるのは予想通りに効果的ではなかったが、無いよりマシと声を上げていく。
「”お食事”が口に合わないのでしたラ、こちらへどうぞいらっしゃいまセ。
 ワタクシが倒れるまデ、お付き合い致しましょウ」
 オラボナのような番外の耐久値は無いが、アルムには並び立てる程の高い防御技術がある。
 デトスの乱暴な爪の嵐を、その構えた大盾で防ぎ、受け流し、攻撃を如何様にも通さない。
 比類無き盾捌きがデトスを翻弄し、その傍若無人な暴力を無力化していった。
「皆頑張ってる。私だって負けてられないっ!
 おじいさん達の夢を叶えてあげるんだからっ!!」
 シャルレィスの握る蒼き刀身の剣が暴風を巻き起こす。気合いを入れてデトスへと突撃すれば、暴威の爪を交い潜り懐へと飛び込んだ。
「付いてこれるなら、防いでみなよっ!!」
 烈風の名の如し、蒼き剣閃が幾重にも風を巻き起こし、疾風怒濤の苛烈な斬撃を巻き起こす。
 蒼嵐と化したシャルレィスを止められるものなどおらず、魔獣たるデトスであってもその華麗な剣捌きに見惚れて隙を作り出す。
 その隙をシャルレィスは逃さない。
 無形の術は更なる切れ目のない刺突と斬撃へと変わり、如何な硬質の肌を持つデトス相手であっても、その綻びを的確に突き無数の傷を付けていった。
 連撃に次ぐ連撃。
 疾風の如き蒼き旋風が鋼殻魔獣を屠るのはすぐの事だった。

 ――野生の魔獣たるデトスは、本能に動かされるままに食事を行い、生存を求めた。
 自然の中に棲息する生物なれば、生存競争によって勝ち得たそれは自然のままの姿だ。
 であれば、それを排除しようと生存競争を仕掛けるのも、また自然の姿だろうか。
 そうかもしれない、が――いや、やはり今回に限っては人の我が儘だろう。
 ただ一度、最後にあの光景を見られれば――別れと旅立ちへの決心が付くというものだから。
 ――だから、大樹ファルカウよ。
 どうか彼等に力を、私の最後の我が儘を聞き入れてください――
 
●旅立ちはこの丘で
 夕焼けに染まるクリャの丘。
 大樹ファルカウと迷宮森林が深い橙に染まる、そんな光景を前にロペス老人は深い感銘の息を吐いた。
「周囲の安全を確認してくる。万が一があっては、ならないからな」
 用心深い汰磨羈はそう告げて、疲れをおくびも見せずにその場を離れていった。
「我等『物語』も去する時。この場に黒い貌は不要だ」
「ああ、そうだね」
 オラボナが去り、イグナートが去ると、一人また一人とその場を離れていった。
「二人きりの時間を邪魔するのも野暮というものね」
 ルチアの言葉にアレクシアが一つ頷く。そして老夫婦の背中を見て、
「素敵な光景だね……私も、誰かとああやって思い出に浸ったりできるのかな……」
 と、まだ見ぬ誰かの姿を幻視した。
 最後に残ったクロバがロペス老人に近づいて真摯に言葉を掛けた。
「――任せろ、アンタの大事なもんは守りきってみせる。だから――よい旅を」
「……ああ、貴方達なら安心だ」
 僅かに顔を歪ませて、ロペス老人は微笑んだ。
 立ち去るクロバが何やら行動を起こしたが……老夫婦は気づくことはなかった。

「嗚呼、最後にこの光景を見られて……本当に良かった」
「ええ、本当に……」
 一頻りの想い出を語らったロペスとミュージーは、沈黙こそが幸せなのだとやがて暗くなるその時まで大樹を見つめ続けた。
 そして、空に星が輝き始めた頃、ロペスの微かな吐息は静謐を迎え――
「ミュージー……君に出会えてよかった……」
 最後まで付き合ってくれてありがとう。
 ロペスは言葉を残すことなく、静かに眠りについた。
「いいえ、私の方こそありがとう。ロペス、愛しているわ」
 静かに、涙は零れた。

 ――ロペス老人との別れから数日後。
 ミュージー老婆の元を訪れたシャルレィスが笑顔で老婆に言った。
「私への報酬にお金は要らないよ。
 もし貰えるなら……そうだなあ――」
 二人が冒険者として過ごして手に入れたの思い出の品を。
 そう言うことならと、多数の品々を用意してくれた。初めて買ったナイフや魔除けのペンダント。少し臭いがキツいグローブなどなど。物持ちが良いとはこのことか。
 シャルレィスが品定めをするなかクロバが革袋一杯の貨幣をテーブルに置いた。それはローレットへ支払う報酬に近しいものだ。デトスの死骸から鋼殻や爪を剥ぎ取り売った物だという。
「受け取るわけにはいかない」というミュージーだったが「ロペスからの最後の贈り物さ」と言われれば、受け取る他なかった。
 クロバは思う。
 ロペス老人の最後の夢。その中にはきっと見送り残していく愛する者が健やかにいてくれること。そんな願いもあったはずだと。
 最後の瞬間。あんな幸せな別れをどこかで羨ましいと思いつつ、願いを聞き届け叶えた者達は帰路へと付くのだった。

成否

成功

MVP

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者

状態異常

なし

あとがき

 澤見夜行です。

 皆様のおかげで一人の老人は新たな旅路へと向かうことができました。残されたミュージー老婆も二人で見た最後の光景を忘れることなく生きていくと思います。

 MVPは大変悩みましたが総合判断でクロバさんに贈ります。
 シャルレィスさんには称号が贈られます。

 関係ないですがHP一万ってすごいですね。デトス君あと十体くらい欲しかったです。

 依頼お疲れ様でした! 素敵なプレイングをありがとうございました!

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