PandoraPartyProject

シナリオ詳細

狐火の舞う

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●赤の灯火
 ひらり、ひらり。
 紅が舞う。

 ゆらり、ゆらり。
 赫が揺れる。

 照らし、濡らす。
 ──一面の赤。

 赤に照らされた女が婉然と微笑む。
 見えるものも聞こえるものも感じるものも、嗚呼──何と心地よいことか。
 けれど彼女は知っている。これは長く続かない。
 だから彼女は移ろい行く。またこれを感じるために。

 ──いっそのこと、全てが赤に包まれてしまえば良いのに、ね?

●Emergency.
「誰か、急いで鉄帝へ行けるイレギュラーズさんはいませんかー!」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)の緊迫した声がローレットへ響く。バタバタと集まったイレギュラーズたちは「魔種なのです」というユリーカの言葉に息を呑んだ。
「最近天義に現れてるのとは別なのです。それに、もしかしたら皆さんの前には現れないかもしれません」
 暴れているのは魔種ではなくモンスターだ。しかし狂気に呑まれたらしき住民があることから、魔種が関与している可能性は高い。
「暴れているのは火でできた狐なのです。町の屋根に飛び移って火をつけてるのです!
 住民の皆さんは自分たちで避難しようとしていますが、少なからずパニックなのです。上手くいかないことも沢山あります。
 皆さんは急いでその町に向かって、救助のお手伝いと狂気にやられちゃった人たちをどうにかして欲しいのです!」
 依頼書と地図を渡され、移動用の馬車へ詰め込まれる。
「早くしないと真っ黒焦げなのですー! よろしくおねが……」
 ユリーカがローレットの前から手を振って見送る。その声はだんだん小さくなり、馬車が走る音に紛れて行ってしまった。

 ──が。
「あっ!」
 ユリーカがはたと気がついたことに愕然とする。
「い、言い忘れてました……! いえでも、そんなに大したことではないのです。ああでも情報として上がってくるくらいには大事なことなのです! どうしましょう、ボク依頼書に書いてあるの確認したでしょうか……!」
 オロオロと右往左往するユリーカ、取り敢えず暇そうなイレギュラーズをがっしと捕まえた。
「……は?」
 虚を突かれた『Blue Rose』シャルル(p3n000032)はまじまじとユリーカを見つめる。
「お願いなのです……」
「え、いや何、」
「シャルルさんお願いなのです! 念のためですが──今出て行ったばかりの皆さんを追いかけて、魔種に関するお話を届けてほしいのです!」

●阿鼻叫喚
 これは、と誰かが呟いた。
 遠目からでも見えた黒い煙。近づけば住民たちが一斉に逃げようと大荷物を持ってひしめき合い、上手く門を通らなくなっている。
 先に町の外まで逃げ延びたものは町を振り返って絶句し、泣き崩れ、絶望にひしがれて。
 火の手は一向に消える気配を見せず、このままならユリーカの言葉通り『真っ黒焦げ』であろう。
 動き出そうとしたイレギュラーズたちは、彼らの存在に気づいた住民たちに一時取り囲まれる。
「うちの子がいないの! 遊びに行ったままこの火事で……!」
「私のおばあちゃん、動けないから先に行きなさいって、それで、」
「大切なものを取りに行くって彼が町へ向かっていったの。でも無理よ、あのままじゃ死んじゃう」

 助けを呼ぶ声が連鎖する。
 助けて、助けて、助けて助けてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけて。

 助けて、イレギュラーズ。

GMコメント

●成功条件
 住民の避難

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、より詳細を突き詰めれば不明点もあります。

●住民
 老若男女問いません。基本的に自分たちで避難しようと試みていますが、火の狐や町へ移った火に妨害される事もあるでしょう。
 門は1つしかなく、馬車や大荷物を持った住民が互いを押しのけあうような状況です。何をするにしても、ここを攻略せねば徒歩で町に入るのは至難の技でしょう。
 またOPにあるように、何名かは救助が必要です。

『遊びに行ったうちの子』
 5歳程度の少年です。鉄騎種。ロボット的な頭と人間の体を持ちます。外遊びが好きな子供です。

『おばあちゃん』
 比較的長生きをしている老婦人です。足を悪くしています。
 自宅で最期を迎えるつもりのようです。

『大切なものを取りに行った彼』
 20代ほどの青年です。家に大切なものを置いてきてしまったそうですが、彼の自宅は火の回りが早い、危険な場所となります。

●狂気に呑まれた住民
 現時点で10人程度。町の中で分散しています。鉄帝の民であり、狂気にも呑まれていることから油断ならない相手となるでしょう。
 火から逃げることはせず、自ら町や人々へ火をつけようとしています。邪魔をすれば攻撃します。

●火の狐
 町中を飛び回り、自らの火を町へ移して回っています。現れては消える存在であり、どのような仕組みでそうなっているのか不明です。
PL情報:どんなに弱い攻撃でも(【不殺】スキルでも)一撃で倒せます。ただしコンスタントに湧きます。

●ロケーション
 特筆することのない、鉄帝にある1つの町です。火に包まれかけており、全焼は免れないでしょう。既にいくつかの家は崩れ落ち、道も何箇所か塞がれています。
 町の外は荒野となっており延焼の危険はありません。住民たちはここを目指して進んでいます。

●味方
『Blue Rose』シャルル
 皆さんを追いかけて下記情報を届けます。ついでと言わんばかりに依頼も手伝ってもくれるでしょう。到着はOP後すぐ、くらいに思ってください。
 戦力としては1対1なら放っておいても構わない程度です。

●魔種(シャルル通達情報)
 近頃、火事が起きた村や町で見かけられるブルーブラッドらしき女性です。彼女のいた先々に狂気の伝播が確認されていることから、魔種と考えられています。
 いつの間にかふらりと消えてしまうため、その行方はしれません。
 主にその姿が発見されるのは全焼後ですが、火が回っている間もどこかにいるかもしれません。
 今回のパーティ、且つ現状況で刃を交えることは多大な危険を伴います。例え彼女に遭遇しても、決して交戦しないで下さい。

●ご挨拶
 愁と申します。また何か燃やしてるなんてそんなことは。
 彼女との交戦はできませんが、彼女の気分次第で会話はできるかもしれません。伝えてみたいことがあれば試しに言ってみるのも良いでしょう。
 ご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。

  • 狐火の舞う完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年04月09日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

焔宮 鳴(p3p000246)
救世の炎
ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)
大悪食
アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
ヨルムンガンド(p3p002370)
暴食の守護竜
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
タマモ(p3p007012)
荒ぶる燐火

リプレイ

●揺らめく赤に飛び込んで
 助けを求める住民たちを宥めたイレギュラーズ。荒野にいる住民の数は決して少なくないが、まだまだ町に残されているのだろう。
 火の狐、魔種の関連性、エトセトラ。
「いろいろと気になる所はありますが、まずは人命救助が第一ですね」
 『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は既に荒野へと逃れた住民たちの中、見知った人影を見つけて情報収集へ向かう。『暴食の守護竜』ヨルムンガンド(p3p002370)はその背中を見届け、町を振り返った。
 立ち上る煙の量と、外からでも分かる程の赤が切迫した雰囲気を感じさせる。
(ユリーカたちが慌ててただけはあるな……)
 火が回りきる前に辿り着けたのは不幸中の幸いか。魔種絡みの可能性があるようだが、残された人々の避難が先決だろう。
「……ん? そういえば、魔種について何か書いてあったかぁ……?」
 小さく首を傾げたヨルムンガンド。その後ろから不意に──まさかここで聞くとは思っていなかった──声が届く。
「あ、ヨルムンガンド」
「シャルル……!? 会えて嬉しいが、どうしてここにいるんだぁ……?」
 『Blue Rose』シャルル(p3n000032)の姿にヨルムンガンドは目を丸くした。追加の情報を持ってきたと聞けば納得して、共に聞くため仲間を呼びにかかる。
 シャルルの持ってきた情報を共有し、『爆弾』ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)は視線を町の方へ向けた。
 あの中に、或いは周囲に魔種がいるのだろうか。その魔種は喰ってみたいと思わせる何かを、喰う価値を持っているのか。
 ヴェノムの興味はそれに尽きるが、勿論依頼を受けた以上オーダークリアには尽力する。ここに集ったイレギュラーズは皆がその思いを抱いており──しかして、原因であろう魔種に怒りを抱いている者が少なくないのは偶然だろうか。
「炎を使う俺のイメージが落ちちまうじゃねーか」
 全く、と後頭部をがしがし掻く『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)。「そうじゃそうじゃ!」と『荒ぶる燐火』タマモ(p3p007012)も怒り心頭と言った様子。
「妾の由縁とも言える狐火を、このような大惨事を引き起こす道具にするとは……!」
 ゆらりと尻尾に黒の炎が灯る。基本的に善性である彼女は人の笑顔を好み、泣くところなど見たくはないのだ。
「炎はとっても便利だけど……同じくらい怖くて危険なものだから、絶対に悪い事には使っちゃダメなのに」
 こんな事するなんて許せないよ、と眉根を寄せたのは炎神の子であり炎の巫女でもある『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)。その立場ゆえか、言葉はとても重たいものが含まれていて。
 彼らの言葉を聞きながら、『緋焔纏う幼狐』焔宮 鳴(p3p000246)はじっと町を見つめていた。
 大量の煙。揺らめく業火。それは真っ赤で、まるで煉獄のような。
(何かを思い出しそうな光景なの……)
 けれどやはり、思い出せない。もうすぐそこまで来ているような気がしているのに。
 しかし、ふるふると頭を振った鳴は仲間たちを振り返った。掴めないものに手を伸ばしている暇はない。
「さあ、1人でも多くここに生きる人を助けるのっ!」
「うむ、大事は人命じゃ」
 鳴とタマモの声に、ヨルムンガンドがさりげなく2人を見る。
(狐火……か)
 ここで狐火に縁の深そうな2人がいるのは、これも果たして偶然か。この大火事を引き起こしているのが狐火を操る魔種なのだとしたら、例えばどちらかの──。
(……いや、出会うかもわからない魔種の事を考えるのは後にしよう)
 視線を外したヨルムンガンド。その外した先から寛治が戻ってくる。
「地元の知人から情報提供して頂きました。先程助けを求められた3名ですが──」
 大体の居場所を仲間に伝える寛治。少年は奥の方にある公園で見かけられ、老婦人は町の中央近くにある家にいるらしい。そして大切なものを取りに行ったという彼の家は、門を入って右の大通りを進んだ場所のようだった。
「俺たちは門をどうにかしてから行くぜ。勇者としての威厳を見せつけてやらんとな」
「では、私たちは先に上空から」
「ああ、準備はばっちりだ……!」
「ま、壁なんて俺にとっては単なる遮蔽物だ」
 アランの言葉に寛治とヨルムンガンドが頷き、『風読禽』カイト・シャルラハ(p3p000684)が焔を確りと掴んで翼を広げる。
 舞い上がる4人を見送って、アランは「さて」と門の方へ向き直った。そちらでは皆が押し合いへし合い、鉄帝人は頑丈と言われるが流石に怪我人が出かねない。
 そこへすぅ──と息を吸い込んで。
「ぉぉぉぉおおおお!! お前らァ!」
 鼓膜をビリビリと震わせる大音量。なのー……と鳴が狐耳を必死に伏せ、ヴェノムとシャルルも手で抑える。当然、門に押し寄せていた住民たちもぴたりと止まった。タイミング良く上空からヨルムンガンドの声が降ってくる。
「ローレットが避難を助けに来た! 火の手を食い止めるから落ち着いて避難し、道を開けてくれ!」
「そうだ! 俺たちはローレットのイレギュラーズだ! 助かりたかったら話を聞きやがれ!」
 ざわつき始めた住民をすかさず静めるアラン。鳴も皆を誘導させるべく声を張り上げる。
「慌てず、落ち着いて行動すれば大丈夫なの! 皆で助け合って避難してなのー!」
 住民たちが互いの顔を見合わせ始める。その隙にヴェノムは門から見えやすい場所へ位置取り、確りと声を張って誘導のための演説を始めた。
「シャルル先輩、僕たちが中に入った後の誘導をお願いするっス」
「わかった」
 3人の言葉──そして上空を飛んでいったヨルムンガンドは見えなくなった後も声を張り上げていたのだろう──イレギュラーズからの指示に落ち着きを取り戻し、順に列をなして進み始めた住民たち。中へ入る程の隙間ができたことを確認し、タマモを含めた4人はシャルルにあとを任せて町へ入って行った。

「敵はいなさそうかな」
「ああ。俺は空から見渡してみるぜ」
 焔を下ろしたカイトが再び空へ舞い上がる。それを見届けた焔は周りに精霊がいないかと探した。
(やっぱり、いるなら火の精霊さんか)
 火事に集まってきているらしい。人が残っていないかと問えば、気ままにあっち、そっちと方向を示される。
「カイトくん! あっち探してみて!」
 空へそう叫ぶと焔はもう1つの方向へ。その進路へ火の狐が降り立った。すかさず槍を薙げば炎の斬撃が飛び、狐たちを掻き消していく。
(あれ? もしかしてすっごく弱い……?)
 なんて思ったのも束の間、今度は狂気に呑まれた住民が襲い掛かってくる。
「……っ、まだまだ! やぁっ!」
 攻撃を受けつつも焔は素早く切り返す。
 一方のカイトは指示された方を探しつつ、他の人物も探していた。無論、件の魔種である。
 警戒はしておくべきだし、何より不明な事が多いため興味が湧く。
(確か公園、だったか)
 家屋の中かと思ったが、先に公園を探した方が良さそうだとカイトは進路を調整する。
 それよりやや手前で降り立った寛治とヨルムンガンドは住民に門へ向かうよう指示しつつ、老婦人を探して無事な家の扉を開けていく。逃げまどう人々は、たとえ家に鍵が掛かれどそんな余裕はない。すんなりと開く扉たちに勢いよく中へ入り、誰もいないと知れば次の家へ。
「新田!」
「火をつけるつもりのようですね」
 向かってくる男に構える2人。どうしても威力が押さえられてしまうのは、助ける事を前提とする者が集まったからだろう。
 傷を負いながらも男を昏倒させ、新田のHMKLB-PMに乗せる。火の手が回ってくる中、次の家へ踏み入ったヨルムンガンドは「あっ!」と声を上げた。
 足が悪い、と頭を振る老婦人に新田がやはりHMKLB-PMへ乗せることを提案。しかし、2人分の重さに耐えきれるのか──。
「なら、私がどちらかを背負おう……! それなら問題ないはずだ……!」
「成程。それなら老婦人をお願い致します」
 軽いのは明らかに老婦人だろう。まだ敵や要救助者がいる可能性はあり、体力は温存しておきたい。
 こうして老婦人と男を確保した2人は火の粉を掻い潜りながら門へと急いだ。

「大人しく眠りやがれッ!」
 強烈な蹴りに、しかし1撃で沈まぬは流石鉄帝人。松明を振り下ろし、その打撃と共に火をつけようというのか──しかし、アランは不敵に笑ってみせた。
「きかねぇな」
 門を突入してから狂気化した住民や火の狐へ向かって行くアラン。その姿に自分は探索をとタマモは通りの影となる部分や焼け落ちそうな場所で声を上げ、救助者の捜索を行っていた。
 やがて見つかる小さな少年。外で聞いた少年とは違うようで、母親とはぐれたらしい。
「もう大丈夫、ここは危険じゃからさっさと避難するのじゃ」
 少年と目線を合わせたタマモの後ろで狐の尾が揺れる。びくりと肩を震わせた少年にタマモは安心させるように笑ってみせて。
「妾は良い狐で、良い狐火じゃ! 周りの奴らと一緒にするでないぞ!」
 少年を背負い、踵を返したタマモの前に火の狐たちが現れる。すっと表情を改めたタマモは顔を伏せておくよう少年に言い、その狐火を揺らめかせた。
 途端に現れる、大量の彼岸花。命をとらず、しかし力を奪う結界の中。
(まあ……それ以外は妾の与り知らぬところであるがのォ)
 命を持たぬのか、それとも別の理由か。火の狐は結界の中で掻き消えた。
「おう、誰か見つけたか」
「ああ。アラン殿は……狂気化していた住人じゃな」
 頷いたアランはタマモと共に門の方まで走る。生憎、まだ話に聞いていた者は見つかっていないが──。
(あくまで自分の範囲をしっかりと、だな)
 助けを求めているのはあの3人だけじゃない。新たな救助者を探すべく、2人は足を速めた。
 その更に手前。
「鳴先輩、あっちから声が聞こえるっス」
 ヴェノムは耳を頼りに鳴を先導していた。この大通りは風が吹き抜け、確かに火の回りは早いだろうと思わせる。
(あれは……無視っスね)
 屋根の上で飛び跳ねた火の狐に、しかしこちらへ実害はなさそうだとしてヴェノムは先を急ぐ。今回のオーダーは住民の避難だ。
「そっちはダメなの!」
「だって、だって……! 家がっ」
 火の移った家へ手を伸ばす女性へ、鳴が必死にしがみつく。それでもと女性は手を伸ばすことをやめない。しかし火の手は早く、家はあっという間に赤へ呑み込まれた。
 力を失って崩れ落ちた女性に、鳴は行こうと手を引っ張ってみせて。
「今が辛い状況でも、生きていればまた立ち上がれるの! 家だってまた建てればいいの! だから、皆で生きるのー!」
 その言葉にはっと目を見開いた女性。火に包まれた家を見てくしゃりと顔を歪め、けれども他の住民にも手を貸してもらい門の方へと歩み寄って行く。
 それを見送る鳴の横へ、不意にヴェノムが跳び退いてきた。
「来てるっスよ、鳴先輩!」
 松明を手に襲い掛かってくる男。恐らくは狂気に呑まれた者だろう。ただでさえ強靭な鉄帝人が狂気を受けているのだ、一筋縄でいくはずもない。
 2人がかりで倒し、更に進むと再びヴェノムの耳が声を聞き取る。こっちっス、という言葉に鳴が着いていくと、1人の青年が必死に火の粉を振り払おうとしていた。
「あんた、大切なものを取りに行ったって人?」
「君たちは……? すまない、時間がないんだ。早く入らないと家が」
 青年はイレギュラーズにかまけている余裕がないようだが、それでは困る。
「それ、代わりに探すっス。僕が命をかけた方が効率的だ」
「え? いや、でも」
「多分、あんたが死んだら誰か泣くんだろ?」
 恐らくは──青年を助けてくれと願った女性が。
「必ず。見つけてやるよ」
 この運命力(パンドラ)に代えてでも。


●炎と狐の女
「念のため、生存者がいないか確認いたしましょう」
 寛治の言葉にイレギュラーズたちは頷き、残った時間で町を見回る。
 ──最も、生存者の確認は建前であったが。
「俺は高所から探してみるぜ」
 カイトが緋色の翼を広げて舞い上がる。ヨルムンガンドは辺りを見回しつつ、小さく首を傾げた。
「本当にいるのかぁ……?」
「もういなくなっている可能性もありますが……たとえ契約を取れなくても、足繁く客先に通うのが良い営業というものですから」
 このまま撤収してしまえば、またどこかでこの大火事は起こるだろう。元凶の顔を拝むくらいせねば十分な成果とは言い難い。
 そうして捜し始めて暫し──その姿は、比較的容易に見つかった。
 未だ赤色の揺れる町に佇んだブルーブラッドの女。情報を探りたい面々と撤退を提案したい面々が混ざる中、尻尾に黒の炎を灯したタマモがくってかかる。
「この大惨事を起こしたのはそなたじゃな! お蔭で狐火の評判がガタ落ちじゃ! 謝れ!」
「謝る? こんなにも素敵な景色を作ってあげたのよ」
 謝る必要なんてないでしょう? と振り返った女の髪や露出した皮膚を、傍らの炎が妖しく照らす。タマモはきっと睨むものの、女は心底そう思っているようで。
 謝らせるのは無理であると早々に決断し、タマモは問いかけへと切り替えた。
「ならば……そなたの目的は何じゃ? このような街を燃やす行為……何の為にするのじゃ」
「燃やしたいから、ではダメかしら」
 かくり、と首を傾げながら事もなげに言う女。タマモは思わず言葉を詰まらせ、そこへ女の言葉が重なる。
「炎って綺麗で、熱くて、好きよ。ねえ、世界が炎と悲鳴で包まれたらとても素敵じゃない?」
「……そのためにてめぇは、こんな大火事を起こしたってのか」
「ええ。素敵なものは共有して然るべきよ」
 アランの低い声に微笑みを以って返す女。
 狂気に呑まれた住民が炎をつけに回っていたのは、この思想に感化されてのことのようだ。最も、女のしていることは『共有』というより『強制』に近いが。
(自分ならやれるって思ってんのか)
 随分と傲慢な考えではあるが──狂気の伝播を起こし、そして本人も生半可な強さでないだろうと窺える。願わくばここで止めたい所だが、この時点で相対するのは分が悪い。
「それで、次はどちらの町に向かわれるのですか?」
「次? 次は、そうね。どうしようかしら」
 寛治の言葉に頬へ手を当てて、女は視線をゆらりと彷徨わせ。しかしそれは、不意に寛治へと戻される。
「……本当に考えていないの。それに──女を暴こうなんて、無粋よ?」
「──!」
 鋭い視線に寛治は息を呑む。重々しく、昏い殺気。まるで、喉元に刀を突きつけられているような感覚。
「……これは、なるほど。鳴さんに似て眼福ですが──迂闊に触るとやけどをするタイプの美女ですね」
「鳴?」
 寛治の言葉に女が軽く眉根を寄せ、視線を外した。それはやがて狐のブルーブラッドである少女──鳴へと行きつく。その目が一瞬、すっと細められた。
 目が合ったことに気付き、鳴はゆっくりと口を開く。
「鳴は……あなたを、知っている気がするの」
 無くなった記憶。否、この身のずっと奥底に封じ込められているであろう記憶。手を伸ばそうとすれば、靄が掛かって掴めない。ただ脳裏に映るのは燃え盛る赤と、崩れていく屋敷。
 脳裏にある存在は酷く朧気で、不確かで。それでも──。
 ──知っている。
 それは本能かもしれない。夢かもしれない。不意に思い出した記憶の欠片かもしれない。

 知りたい。知りたくない。思い出したい。思い出したくない。忘れたままで。思い出して。

 ねえ、あなたは。
「……鳴の姉上……なの……?」

 ぎゅっと目を瞑って言い切った鳴。その言葉に女は優しく顔を綻ばせて。
「わたしは『鳴の姉上』ではないわね」
「え……?」
 頭の片隅にあったような確信が霧散した。確かに掴みかけていたと思った、欠片が。
 鳴はぱっと顔を上げ、同時に。
「──あなたは『鳴』ではないのだから」
「……っ!!」
 冷水を浴びせられたような心地がした。
「わたしは『あなたの姉上』ではあるわ。久しぶり……いいえ、覚えてないのね。『鳴』を名乗って、わたしを姉かと聞いたのだもの」
「じゃあ、鳴は、……鳴は……?」
 足元が揺らいでいるような。いいや、揺らいでいるのは心。鳴を射抜く視線はただただ優しさだけが見えて、それが酷く怖いものに見える。
「鳴は、わたしの名前。わたしは砕宮 鳴」
 歌うような声が運んできた『鳴』の名。鳴の名前ではなく、姉の名前。
「…………ぁ、」
 呆然と視線を彷徨わせた鳴は、イレギュラーズの面々が自分を見ていることに気付いて小さく吐息を漏らした。
 鳴に記憶はない。何と呼ばれていたのかは、思い出せない。けれど、鳴が何者であったってローレットのイレギュラーズであることに変わりはない。
 大丈夫。まだ、少なくとも今はちゃんと立っていられる。鳴は仲間へ頷いてみせた。
「皆、引こう」
 焔が押し殺した声音で告げる。その視線を女から離さないのは──いいや、離さないのではなく離せないのかもしれない。女は焔に視線を合わせ、鬱蒼と微笑む。
「賢明ね。わたしもお暇させてもらいましょう」
 案外忙しいのよ、なんて楽し気に告げた女はくるりと振り返った。イレギュラーズと女の間に火の狐達が出現し、その道を分け隔てる。

「それでは、またね──」

 孤を描いた唇が、『鳴』ではない鳴の名前を呟いた。

成否

成功

MVP

新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ

状態異常

ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)[重傷]
大悪食

あとがき

 お疲れさまでした。魔種を登場させるとリプレイ執筆時に毎回「EXの文字数が欲しい」となります。今回も文字数の壁は強大でした。
 魔種『砕宮 鳴』は逃亡したようですが、いずれ再開することもあるでしょう。……行き先は本当に考えていなかったようですが。
 姉妹の邂逅、大分アドリブをきかせてしまったのですが如何でしょうか。このような掛け合いになるだろうか、と想像を膨らませた次第です。

 ファンドマネージャーへ。その能力(スキル・アイテムの使い方)の采配や魔種への具体的な策に今回のMVPをお贈り致します。
 青年の探し物をした貴女へ。青年へのアプローチが恰好良かったので称号をお贈り致します。

 それでは再びのご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

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