シナリオ詳細
<Chaos Cherry Blossoms>春の聖餐祭り
オープニング
芽──それは誕生の表象である。
花──それは祝福の象徴である。
であれば、春が『天義』こと聖教国ネメシスの人々にとっていかに神聖なる季節であるのかは──もちろん夏も秋も冬も神の御業であり神聖なのだが──疑いようもない。そして、いかに贅を尽くした祭りを催すことにより神に感謝を捧げるに相応しい季節であるのかについても──これまた当然夏も秋も冬も神に感謝すべきなのだが──議論の余地はないだろう。
さて、ローレットの特異運命座標らの名は、もちろんこの天義においても轟いている。特異運命座標とは、世界を滅亡から救うため神の遣わしたパンドラ蒐集者たちであり、ある程度の例外はあれども基本的には、特異運命座標は天義人にとって敬愛すべき人々であると言えよう。
そこで天義のとある街では、特異運命座標らに感謝しつつ春の歓びを神に捧げるために、『春の聖餐祭り』を開催する運びとなったのであった。
……で、『春の聖餐祭り』って何よ?
まあつまり、山桜の花が咲いてる山に出かけて、聖餐の屋台で買い食いしながら花を愛でようってお祭りさ。
ついでになんだか変なコンテストもあるらしいから、よろしければそちらの参加もいかが?
- <Chaos Cherry Blossoms>春の聖餐祭り完了
- GM名るう
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2019年04月07日 21時55分
- 参加人数14/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 14 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(14人)
リプレイ
●春の歓び
天義にはどうしても厳格で堅苦しそうという印象が付き纏う。それはこの国が全てを神に捧げる国である限り、決して拭うことなどできはすまいし、また事実その通りですらある。
しかしそんな抑圧の中でさえ、春の訪れがもたらす解放感は、人々の情動を突き動かそうとする……『お花屋さん』アニー・メルヴィル(p3p002602)や『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が目の当たりにして驚いたその光景こそ、そんな人々が情動を無理矢理信仰にかこつけることで自分自身やお上を誤魔化して生まれた、ある種の理想と現実の妥協の産物だと言えた。
「随分たくさん買ってきたねえ!」
たとえば目を丸くしてアレクシアが見つめる先の、アニーの腕の中の戦利品もそれだ。
「これが聖ヴランジーナのオレンジジュース、こっちのパンは……えっと……」
長い名前のついた屋台の食品も、聖人たちの逸話を引用しながら売り込む店主たちの語り口も楽しくて、思わず山ほど仕入れてしまったせいで、幾つかはすでにうろ覚えになってしまった。
でもいいのだ。だってどれも、食べればご加護があるらしいってことだけは同じなんだから。
「すごいですねぇ、見た目は普通の食べ物なのに!」
「ふふふ、そうだね! これだけたくさんのご加護を得られたら、きっと怖いものなしだね! でも……普通に食べるだけでご加護になるのかな?」
気になったアレクシアが近くの店のオバちゃんに訊いてみたならば、お祈りしながらお食べなさいな、というゆるふわっとした返事が返ってきた。それじゃあ、花たちに訊いておいた眺めのいい場所で、美味しく、楽しくご飯にしよう!
たとえ春の気分に自制心を掻き乱されようとも、素敵な場所で皆と美味しいお料理を食べる――それは、とてもとても幸せなこと。きっとアニーが友人や天義の人々に感謝したくなる気持ち、それはこの天義においても人々が、こうした祭りを開く理由に違いないのだ。
祭りは、まだまだ始まったばかりだ。
「今日は、め一杯楽しもう!」
「はいっ! 思いっきり楽しみます!」
2人は、揃って駆け出してゆく。
そうして2人が駆け去った後に、怪しいローブ姿の人物がこっそりと姿を現した。誰にも見つからないように身を潜めながら、春という名の神の恩寵を、密かに見上げて我が身に浴びる。
他に比するもの無きゆえに、信仰は容易く歪んでしまう。この街の祭りがひとつの歪み方であるのだとしたら、『星頌花』シュテルン(p3p006791)の出生もまた、別の歪みに囚われていたに違いない。
もしも姿を見られれば、お父様に連れ戻されてしまうのではないか? 召喚を受けて初めて知った『大好きな人』を、自分は喪ってしまうのではないか?
そんな不安が尽きぬから、祭りの後はこの国から去らなくちゃならないけれど。
(また来て、今度は、大好きな人と、見るの!)
そのためにもきっと……強くなるのっ!
誓ったシュテルンの目の前を、不思議な集団が通りかかった。
先導するのは『小さな騎兵』リトル・リリー(p3p000955)。そして後ろに連れ歩くのは、馬に狼犬、鷹に飛行シャチ……もはや移動動物ふれあい広場だ。
「みんな、ちょっとまってて? おいしいたべものをとってくるからねーっ♪」
最初は遠巻きに見守るばかりだった人々も、動物たちが誰も彼も大人しく、きちんとリリーの言うことを聞いているのに気がつくと、最初は子供がひとり、次に大人たちもちらほらと、彼らとの距離を縮めていった。撫でられたり、ご飯を貰ったりして、動物たちもご満悦。
「みんな、ありがとーっ!」
小さなリリーもご満悦。
明日からは、きっとまた戦いの日々が始まるのだろう。でも、今だけは動物たちに、存分に休息を取ってもらわなくっちゃ。
●聖餐コンの開幕
そうやってお花見会場が盛り上がっている中で、『春の聖餐コンテスト』も開幕を告げていたのであった。
「……すなわち、食とは神の与え給うた恩寵のひとつであって……」
だが司祭が開会挨拶している最中、その事件は起こる。
「できたゾッ!!」
なんと……早くも圧倒的な一番乗りを上げた選手が登場ッ! その選手の名は『原始力』リナリナ(p3p006258)……そして素早い調理の秘密は、ずばり『ギフト』ッ! 調理済みのマンガ肉をいつの間にか手にしているだけッ! ……あっ違う、よく見るとソースで『せいさん』と書いてある。
「……キミねぇ」
「わかったゾッ! 字、カッコいい方がいいナッ!」
通行人たちの協力を受けて『凄惨』とか『青酸』とか(実際には漢字なわけないけど『崩れないバベル』を通すとこんな感じになる何かと思ってくれたまえ)と書かれた肉がぽこぽこ出てくるが違うそうじゃない。
「うんキミ、失格」
早くも1名の脱落者を迎え、残る選手たちは一斉にお花見弁当作りに取り掛かるのだ――。
●恩寵を求めて
さて……聖餐。
「それって感謝と祈りの食事のことよね?」
「ですね。お弁当で信仰心の表現……また微妙な難題で」
お互い難しそうな顔をした後で、『学級委員の方』藤野 蛍(p3p003861)と『要救護者』桜咲 珠緒(p3p004426)の“料理”は始まった。……といってもお互い、特に料理が上手いというわけでもない身。必要なものは主催者の用意したものから調達してゆくスタイルだ。
「神聖といえば無垢なる白よね」
炊き立てご飯を蛍が詰めたのは、ひとつの薄い木の箱だった。食べた後は特定の折りかたで畳むことができて、祈りの場を汚すことなく持ち帰れる容器。珠緒の発案のその“弁当箱”は、畳めることと、表面に何やら文字が書かれていることを除けば、凝った装飾も高価な宝飾もない。
「どうにも、聖餐にしては安っぽく見えるが……」
審査員のひとりが眉を顰めたが、珠緒は静かに首を振る。
「貧しい人々にも、味わっていただくためなのです」
ほう……審査員は一転、感心の表情を浮かべたようだった。その間にも蛍は光――太陽の象徴にして酸の試練を与える梅干を、そして数々の食材――贖罪をちりばめる。最後にご飯を桜田麩で彩れば完成! お召し上がりの際はゆかりふりかけで、お好みの聖句をお書きください!
「あら……お財布に優しいのに有り難いわ!」
ぺろりと平らげた中年女性が弁当箱を畳んで捨てようとした瞬間……彼女は急に血相を変えた。
「なんてこと……容器を畳んだら、文字が繋がって祈りの言葉が出てきたわ!」
そんな奇術のような弁当を見たら、『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)としては負けるわけにはゆかない。こちらでございますと彼女が差し出した包みは、冬の寒さの如く固く結ばれた竹皮製のものだった。
しかし厳しい冬は、いつしか終わりを告げるもの。
「お開きください。その中から現れるもの……それこそが春!」
審査員たちが言われるがままに包みを剥いたのならば、こちらもやはり、聖なる純白色が現れるではないか! しかもその白をさらに割ったのならば、信仰心の芽吹きを慶ぶ蕨などの芽の煮付け!
「しかも、この食べ物の名は『おにぎり』……鬼を斬ると書くのでございます」
それを組んだ指の上に乗せたなら……祈りを捧げながら、魔を祓う聖餐をいただけるのです。
……いやいや、確かに誰もが見事な工夫ではあるけれど、食べただけで信仰が高まるなんてことあって堪るか。
思わずそんな悪態を吐きたくなるのをぐっと堪えつつ、『鳶指』シラス(p3p004421)も弁当を審査員に見せた。
「肉を使わず不殺生、がこの弁当のテーマだ」
となると必然、食材は野菜と穀物に限られる。だが……シラスは野菜が苦手だ。天義にも、そんな子供たちはいるかもしれない。
「そんな時、スパイスで煮てカレーにすれば食べられる」
だというのに彼の弁当箱からは、スパイスの香りが漂うわけじゃない。一体どういうことかと首を傾げつつ、審査員たちが蓋を開ければ……そこには白桃緑の丸いもの!
「小麦の生地そのままの白に、桃色は桜、緑は枝豆。『春の三色華麗饅頭』は、手づかみでどうぞ」
「ほう……」
……と審査員たちが手を伸ばそうとした、その直後!
どーん!!!
突如、凄まじい音が辺りに轟いた。
「何事だ!?」
「魔種の襲撃か!?」
血相を変えた人々の間に、『魔法少女インフィニティハートH』無限乃 愛(p3p004443)は現れる!
「天へと通ず煌めく神秘の愛の光! 魔法少女インフィニティハート、ここに見参! 今の音は、愛のなる木の実の絞り汁を混ぜたご飯に桜の花びらを乗せ、耐圧容器に入れ上から魔砲で加圧した時のものです……この後ハイ・ヒールも照射すると甘みが出てまろやかな口当たりになって、2つの愛の魔力が……」
「ふざけんなビビらせやがってー!」
「今の衝撃で桜がかなり散っちゃったでしょ!!」
ずりずりずり。愛は神殿騎士に引きずられてどこかに姿を消して、あえなく2人目の失格者となったのである。合掌。
……さて口直し。
『魔法騎士』セララ(p3p000273)のお花見弁当を開けた審査員たちは、揃って驚きに目を見開いたのだった。
何故なら小さな弁当箱の中に、天義の聖騎士団長レオパルのご尊顔が輝いていたからだ。
その頭髪は金のオムレツ。チキンライスの精悍な顔には、グリーンピースの瞳が嵌まる……そして鎧は純白の米!
空きスペースに唐揚げやミートボール、プチトマトを詰め込んだその弁当は、食事バランスまで考慮されていた。これこそ日本のママたちの誇るお弁当……そう、『キャラ弁』である!!
「ほら、レオパルはこう言ってるよ。空腹なら俺の顔をお食べ、ってね!」
それが見事であることを、誰もが信じて疑わなかった。だがしかし……聖騎士団長の顔を崩して食べるなどという不敬、天義の誰ができるのだろうか?
審査員の誰もが手をつけるのを躊躇う弁当は、決して聖餐たりえない。ただの芸術品なのである。
●聖餐の栄光はどれに
……このように、いずれも、審査員もギャラリーたちもどよめくようなお花見弁当であったろう。ごく一部の参加者(だったもの)は例外として、そこに篭められた信仰心は、誰にも甲乙つけ難い。
だが……それらのメニューの数々を目の当たりにしたというのに、『トーンいらず』クリスティアン=リクセト=エードルンド(p3p005082)の表情から余裕が失われることはなかった。ビシッと決めるのはイケメン王子のポーズ。だけど……なんだかいつもよりふらついてない?
「フッ……この日のためにロク君と、三日三晩の断食を行ない身を清めてきたのだよ……」
「そうそう! こちらはわたしたちが欲に打ち勝ち、3日ぶんの食材から今朝がんばって作り出してきたお弁当!」
君も大丈夫か『クソ犬』ロク(p3p005176)! 口からよだれが垂れまくってるぞ!!
「「これが……『王子くんロクちゃん特製なんでも詰め詰め愛情具沢山おにぎり弁当』だ(よ)!」」
とりあえず天義の人々は、これは新手の断食行か何かなんだなと理解した。心配そうに見つめる子供たち。
「うっ……空腹な子供たちの潤んだ瞳……。……フッ……フフ……さあ、好きなだけお食べ……味は確かなはずさ……」
「さあ、お食べ……わたしたちのかわりにお食べ子どもたち……。わたしはいいの……だってそれは、神様へのお弁当!」
空腹のあまりそんな妄言を吐いた2人の姿は、そのお弁当が聖餐であるかどうかはともかく、確かに聖人に相応しく見えたかもしれない。
花が綺麗だ、おいしそう、と呟いて倒れた2人。その前に、ひとりの天使が降りてきて――。
――『天使』安慈 エリカ(p3p006298)の弁当は、幾分質素なものに見えた。
根菜の煮物に蕪の甘酢和えを少し。焼き魚と軟らかく煮た肉――彼女の種族の生態を知ると見る目が変わりそうだが――が、主菜として添えられている。
けれども……それらはあくまでも引き立て役だった。ならば……主役は?
聖なる美禄――すなわちお酒だ。未成年なら発酵させておらぬ果汁を薄めたものでよい……いずれにせよなるべく上質で、味は甘く、色は薄いものがいい。美しい花を眺めたら、目を閉じ瞼の裏に染ませて、そのまま舌にその液体を乗せる。胃を荒らさぬようつまむ弁当は、その美禄の味わいを引き立て、春を、神聖なる喜びを心に刻みつけるためのものだ。
天義にはどうしても厳格で堅苦しそうという印象が付き纏う。それはこの国が全てを神に捧げる国である限り、決して拭うことなどできはすまいし、また事実その通りですらある。
しかしそんな抑圧の中でさえ、春の訪れがもたらす解放感は、人々の情動を突き動かそうとする……そして天使様が直々に信仰にかこつけることで飲酒が正当化されたのであれば、飲兵衛たちは熱烈すぎる歓迎の意向を示すのである。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
……そうなるよね。
GMコメント
そんなわけで皆様は、天義のお花見イベントに招待されてしまいました。
どうも皆様、るうでございます。普通にお花見を楽しむもよし、同時開催される『春の聖餐コンテスト』に出場するもよし。是非とも楽しんでいってください!
プレイングの1行目に①または②、2行目に同行者IDまたは【グループ名】を添えて下さると迷子防止になります。
①お花見する
会場のある街の傍の山でお花見します。山からは山桜の間に、街の中央に聳え立つ神殿の、荘厳な尖塔が見てとれるでしょう。
山の中には『聖餐の屋台』が立ち並んでいます。実態はぶっちゃけ皆様が『お花見の屋台』と聞いて思い浮かべるような食品ばかりなのですが、どこぞの司教が褒めたとか、神殿に賄r……もとい喜捨をして敬虔さを証明してみせたとかの理由で聖餐認定を受けているようです。だいたい店名や商品名に聖人の名を冠してる模様(例:聖ジェロニモ牛ステーキ串)。
②『春の聖餐コンテスト』に出場する
お花見弁当の中でいかに信仰心を表現するか? それが『聖餐コン』の唯一の採点基準です。正攻法で食材の意味とかを考えるもよし、御節料理並みのこじつけと駄洒落で攻めるもよし。とにかく最も「食べたら聖なる力が宿りそう」と思わせる花見弁当を作った人が優勝です。
なお審査員は神殿関係者と一般市民から選ばれた10名の老若男女。彼らに危害を加えることは認められていません(でもやる人はやるんでしょるう知ってる)。
ところでもちろん、「どうやって食べるか?」まで含めてお弁当です。
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