PandoraPartyProject

シナリオ詳細

Objection!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●上をご覧ください、壁です。
「――以上!
 先んじて頂いておりました証言からするに……被告人の行いは明らかであります!」
 そこは幻想の裁判所であった。机を激しく叩く音がすると同時、検察側の男は声を荒げて。

「被告人、キッチュ・コリンズは――ドヤロウ伯爵を殺害したのです!!」

 証言台に立っている、幻想タイムズの記者……キッチュの罪状を述べた。
「そ、そんな! あたしじゃないです!! あの人は気付いたら刺されていて……」
「黙れ、そんな言い訳が通用するか!! 貴様は被害者と一時間も一緒にいたのだろう!」
「うぐ……でも、飲み物を飲んでからは眠ってしまって……」
 事は昨日。幻想のある地域を管轄するドヤロウ伯が殺害された。
 ドヤロウ伯はフィッツバルディ派の一人で、しかしながら幻想貴族としては珍しく人望の厚い、民に慕われる男だった。巧みな外交手腕で資金を蓄えており、貧富の差を無くそうと奔走していた人物。故に新聞社である幻想タイムズはそんな彼の人柄を取材しようと記者を派遣したのだ……が。
「被害者の死因となったナイフを持っていたのは彼女。事件当時、被害者と会っていたのも彼女一人。眠っていてナイフは知らない? 被告人の戯言であります裁判長! 大方取材の途中に口論となり刺し殺してしまったのでしょう!」
 そう。なぜか――ドヤロウ伯は死んでしまったのだ。『殺害』と言う形で。
 キッチュは記者として『記事は足で稼ぐもの!』という信念を持っている。故、様々な場面に突っ込んでいく性質を持っており……得てして時折とんでもない事件に巻き込まれたりするもする、のだが。まさか殺人事件の容疑者とまでなるとは予想外だった。
 まぁこういうトラブルは百万歩。百万歩譲って良いとしよう。今までにも色んなトラブルはあった。納得できないのはただ一つ。

 何故か『明らかに自分が犯人である』という証拠が次々と出てくる事である。

 当然だがキッチュには殺人など身に覚えのない事である。そもそもドヤロウ伯とは面識もなかったのだ。それでも法廷はキッチュが犯人である、という前提で進み続ける。何かがおかしい。判決そのものが急がれている。
 このままでは今日中に判決が出かねない勢いだ――と、その時。
「待った――ッ!!」
 瞬間。弁護席側に躍り出た一人の姿があった。弁護すると言いながらクソの役にも立たない弁護人を蹴り倒したのはローレットの一員――リリファ・ローレンツ(p3n000042)である。
「な、なんですかな貴方は……係官! その子を至急取り押さえて……」
「私はローレットの者です! 被告人、キッチュ・コリンズさんより……正式に弁護の依頼がありましたのでお引き受けした次第!! 判決は私達の弁論を聞いてからにして頂きたい!!」
「何、ローレット……だと!?」
 にわかに法廷がざわつき始める。まさかの乱入者の存在は思ってもいなかったのだろう。
 しかし『いざと言う時の』弁護の依頼があったのは事実だ。二日前、自分が逮捕された時点で嫌な予感がしていたキッチュは、今朝面会に来た『知り合い』伝いでローレットに依頼を掛けていたのだ。
 法廷で妙な動きがあった時は用意された弁護人を殴り倒してでも弁護に乱入してほしいと。特異運面座標の特権を考えれば多少の横暴は許される。流石に有罪を無罪にするには『証拠』が巧みな『弁舌』が必要となるだろうが……
 だが今はもう彼らだけが頼りだ。今は、彼らを信じて大人しくしておこう。
 不要な言は立場を悪くするだけ――
「フンッ、ローレットめが……貧相な体のガキを、粗暴なガキが庇うとはな。
 神聖な法廷をなんだと思っているのか……」
「貧……相……?」
 おい検察。それは一体誰の事を言っているのだ。
 未だざわつく法廷内に一瞬殺気が流れるが、それは裁判長の木槌により掻き消され。
「静粛に! 検察側は高圧的な言動をしないように! 彼らは年若き少年なれどだからといって……」
「な、なんですか少年って!! 私もキッチュさんも立派な淑女ですよ淑女! 見れば分か」
「えっ! 淑女!?」
 目を丸くする裁判長。あ、掻き消えた不穏な気配が、あ。あッ!
「い、いやこれは失敬……しかしですな、お二人共に女人としては」
 一息。
「随分と胸が慎ましかで」
「……すぞ」
「えっ? 今なんて」
 ――この後、ちょっとしたトラブルが発生して15分間場は休廷となった。

●『知り合い』とは
「え~とぉ……つまり、キッチュちゃんはやってないのよねぇ?」
「もッ、当然です!! あたしにとっては無実無根としか言いようがありません!
 ――助けてくださいよアーリアさん~!!」
 それは今朝の話。拘留されたキッチュに面会しているのはアーリア・スピリッツ(p3p004400)である。キッチュはよく酒場で情報収集と題して……いやいやうんうん仕事の一環でアーリアと親交を深める機会がよくあり、所謂飲み仲間であった。
 単純に言ってキッチュの依頼は二つだ。『自分を弁護してほしい』事と『証拠を集めて欲しい』と言う事。
「怪しいのはドヤロウ伯爵の弟なんですよ!! 兄と違って後ろめたい噂のある人で……常々兄の集めた財産を狙っている、とかいう話もあるんです。実際、子供のいないドヤロウ伯の遺産は弟に引き継がれることになると思います」
「んん~……成程。それは確かに怪しいわねぇ……」
 しかし証拠か。犯行現場は事件発覚後、即刻封鎖されたという話だ。
 ……だが、もし隠滅の類がされていない、もしくは不十分であれば屋敷にまだ何か痕跡は残っているかもしれない。憲兵たちがグルでない事が前提だが、隠蔽の後を暴き出せれば……
 ま、とにかく折角の飲み仲間の為だ。やれるだけやってみよう。
「――今度キッチュちゃんの奢りねぇ♪」
「うぐぐ……お手、お手柔らかにお願いします……!」

GMコメント

■依頼達成条件
 キッチュ・コリンズの無罪を勝ち取れ!

 本依頼では二つのパートがあります。【捜査】と【法廷】です。
 前半【捜査】後半【法廷】ですが、両方のプレイングを書かなくても構いません。捜査(法廷)用のスキルが得意ならば、片方だけでプレイングを埋めた場合そちらの方の効果の増大が見込めます。

 ちなみに。依頼達成条件は「真犯人の証拠を見つけろ!」ではありません。
 手段を問わなくてもこの依頼、成功させることは可能です。

■事件現場
 ドヤロウ伯の屋敷。かつ、犯行現場は一階のドヤロウ伯の私室。
 あまり無駄な家具や装飾品などは無い部屋となっている。窓は閉まっていた。机や、衣類を仕舞える大型のクローゼットぐらいはあるか。遺体と凶器は回収されたが他はそのまま。キッチュが飲んだティーカップも残っている。
 しかしなぜかティーカップには水は残っておらず綺麗な状態なようだ……

 クローゼット中を調べる、机の中・窓等、様々な箇所を調べてみてください。
 後述しますが色んなスキルと組み合わせる事で何かを発見できるかもしれません。
 発見したモノがあれば法廷にて提出しましょう……!

■人物
・ドヤロウ伯。被害者。
 非常にふくよかな体形の男性。最近髪の薄さを気にしており、やたらでかい帽子を被って隠している。室内でも。親族は弟以外にいない。胸を真正面から一突きにされて死亡した模様。公明正大で、人望のある人物だった。

・ドヤロウ伯の弟、リブル。
 ドヤロウ伯唯一の親族。やせ型の男。兄と違い『幻想貴族』らしい人物であり人望はあまりない。兄の財産を狙っている、と噂される程度には。【五つ】非戦スキルを持っているようであり【隠蔽工作】【ブロッキング】の他は不明。
 ただし五つ持っているだけ。条件は皆さんと等しく、一度に使用できるのは【三つ】まで。
 ぶっちゃけ犯人です。

・裁判長
 巨乳派裁判長。無罪を勝ち取ったら覚えてろよ……!!
 お金にも弱いが判決は明らかに無罪な者を有罪にする事は無い程度には公平。

・検察側憲兵
 高圧的な態度の憲兵。最初からキッチュが犯人だと決めつけている。
 ただし裁判で出した証拠は現場にあったものをありのままに提出しており、捏造の類は行っていないようだ。

・リリファ
 弁護席で暴れた人。
 イレギュラーズなので許されたが、とりあえず別室で取り押さえられ中。

■人物証言(全て裁判前に聞き取った内容)
 第一発見者:屋敷で務めるメイド
・キッチュを部屋の前に案内したのは自分。旦那様の声が聞こえて中に誘導した。
・その際に中を見てはいないが、あの声は間違いなく旦那様の声だった。
・隣室待機中。キッチュの叫び声が聞こえて慌てて事件現場に。
・事件発覚までに誰かが廊下を行き来する様な気配は一切無かった。
・なお、部屋にティーカップ(水)を自分は持って行っていない。

 親族:弟の証言
・兄のドヤロウ伯に用事があって事件発覚の一時間前には屋敷にいた。
・取材十分前にこれから取材があると話を聞いて屋敷を出た。(目撃者無し)
・その後屋敷には戻っていない。「新聞社員に刺された」という内容を聞いた。
・親族を殺したキッチュという女性新聞社員に対しては極刑を望む。

 被告人:キッチュの証言
・急に上司の男性が行けなくなったので代理で急行。取材開始一分前に屋敷に到達。
・差し出された飲み物を半分程飲んで強烈な眠気が。すぐに気絶してしまった。
・起きた時には目の前にドヤロウ伯の死体が。
・手には血塗れのナイフがあったが、当然身に覚えがない。
・屋敷には初めて訪れた。面識のある人物はいない。

■その他
 法廷パートでは『説得』『演説』『人心掌握術』『カリスマ』が役に立ちそうです。
 上手く使えば『言いくるめ』『袖の下』なども非常に有効でしょう。
『扇動』『一喝』『眼光』その他スキル・ギフトも有効なモノがあるかもしれません。
 証言の粗を突いたり、捜査で見つけた物を叩きつけてみましょう。


 捜査パートでは事件現場を調べるスキルが有効となります。
『捜索』『看破』が特に有効で『直感』も使えるかもしれません。

 屋敷周辺は封鎖されていますので『忍び足』『解錠』『ワイズキー』『物質透過』等、警備の目をかいくぐる様な事が出来そうなスキルも有効と言えるでしょう。やろうと思えば警備兵ぐらいはボコボコに出来ますが、応援を呼ばれるかもしれません。

 法廷の時間は迫っています。潜入・捜査に掛けて良い最大の時間は【一時間】とします。
 潜入方法によって掛けられる時間は変動します。必ず一時間使える訳ではないことをご留意ください。

『霊魂疎通』は残念ながら効果が見込めません。成仏したのでしょうか……
『無機疎通』や『植物疎通』は事件現場のヒントを得るのに役立つかもしれませんが、法廷で役に立つのは『人間による確かな証言』と『証拠』です。無機物などから得た情報は法廷自体では役に立たない事に注意してください。

  • Objection!完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2019年04月02日 21時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

御堂・D・豪斗(p3p001181)
例のゴッド
ウォリア(p3p001789)
生命に焦がれて
橘 零(p3p002765)
ひつまぶし
アニエル=トレボール=ザインノーン(p3p004377)
解き明かす者
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
ガーベラ・キルロード(p3p006172)
noblesse oblige
レインボー・マスク(p3p007053)
虹色パンツマン

リプレイ

●~捜査開始~
「な、なんだお前たちは! ここは封鎖中だ早々に……」
「ねぇ警備さん、私達リブル様にキッチュちゃ……あの容疑者にトドメを刺す証拠を探すよう言いつけられたのよぉ、入っていいかしらぁ?」
「分かっている事だとは思うが裁判まで時間が無い、速やかに通して頂きたい。リブル殿からは文書を見せれば即座に通して貰えると正式に聞いている――」
 無駄に時間を掛ける気ならば事が済んだ後にリブル殿に掛け合わせてもらう、と強気の口調で押し通すのは『終焉の騎士』ウォリア(p3p001789)だ。『宵越しのパンドラは持たない』アーリア・スピリッツ(p3p004400)と共に警備の者に詰め寄っている。
 見せつけるは偽造文書と鍵。さもこの屋敷の調査を委託されましたよ、と言わんばかりだ。ここにいるは所詮、現場保管の為に出向いている下っ端達。こんな連絡があったか!? と戸惑ってはいるものの、アーリア達の動きを止めるような仕草は見せない。
「ふむ……オレの世界とはやはり違うな。何事かの決着を、裁判などというまだるっこしい概念に委ねる様な文化は無い。勝った者こそ正義……敗北者は失うのみ」
「さて、各地各世界の文化に意を挟む気は無いが……さりとて今回の裁判。時間があまりにも足りないのはここの司法構造に疑問を感じる所ではある――これがまかり通るなら、裁判と言う概念は必要ないな」
 と、ウォリアの昔を想う言に言葉を重ねたのは『解き明かす者』アニエル=トレボール=ザインノーン(p3p004377)だ。数日で決着が付く裁判? 冤罪の助長制度か? と思わざるを得ない。あるいはあのリブルとやらが何か手を回したのか。キッチュに一刻も早く罪をなすりつける為に。
「フオオオオ! 幼女が無実の罪に着せられてると……そんなのこの俺が許さねぇ!」
 故に激怒。『虹色パンツマン』レインボー・マスク(p3p007053)は見た目幼女の味方である。君絶対それをキッチュの前で言っちゃだめだよ! いいか、絶対だぞ!
「女の子はこの世界全生物の宝! それを守らずして何が特異運命座標、そしてローレットか! 女性の価値は胸の大小ではなく可憐さと意志だぞ馬鹿裁判長――!」
 封鎖された扉をワイズキーで瞬時に解放――スムーズに辿り着く、事件現場。
 裁判に間に合うまでは時間が無い。一刻も早く手がかりを見つける必要があると皆駆けて。
「よし、時間がない……看破、捜索が出来る者は片っ端から怪しい所を。アーリアは加えて各所の透視、アニエルはファーマシーの観点からのカップの中身の断定を頼む。鍵が掛かった場所にはレインボーがワイズキーを」
 ウォリアが統制なる技能にて皆へと指示を出していく。一刻を争うのだ、監督役として俯瞰からの統制を試み、更には先の警備兵がこちらの様子を見に来ないか注意も張れば。
「ふむ――ティーカップには水一滴残っていないな。見た所、綺麗に洗われているようだ」
 レインボーと共に真っ先にティーカップを調べるアニエル。薬物の痕跡があればファーマシーの知識を用いて鑑定出来たかもしれないが……隠蔽工作されたのだろうか、何一つ痕跡が残っていない。
「だが油断かな? まっさらに綺麗と言う事は、これは何者かの手が入ったという事だ」
 あまりにも綺麗すぎる。これはこれで別の手がかりだと看破する。
 事件発覚後は即時封鎖されたと聞く。憲兵が来るまでに汚れがあってはいけぬとメイドが食器を洗った……などという馬鹿な事はあるまい。事件発覚『前』に誰かの手が入ったのだと。
「後はどこか別の所にも手がかりがないかしらねぇ……ううん、この厳重そうな金庫の中とか……」
 アーリアが見つけたのは机の下。小型なれど厳重そうな――金庫だ。
 これの中に、例えば死体を隠すなどは出来ないだろう。しかしリブルとの間に交わされた金銭トラブル……借用関係の書類、と言った『動機』になりそうなモノは無いだろうかと彼女は透視を用いて探っていく。
 無論リブルが犯人である、という絶対の確信・証拠は今の所無い。しかし。
「なぁんか節々から怪しいのよねぇ……女の勘、ってやつ?」
 ある意味で何よりも頼りになる確信は胸にあったのだと。
 透視をしながら同時。部屋の隅まで瞬間的に記憶に留めていく。写真の如く、あらゆる情報をその脳に。
「ちっ! 隠された血痕の類は……見た所ないな! だが絶対にこの部屋か、近くにある筈だぜ……!」
 レインボーは言う。キッチュが訪れる前にドヤロウが死んでいたのならば……発見現場以外の場所が本当の刺殺場所の筈だと。実際、ドヤロウが発見された場所には確かに血痕があるのだが――
「……些か妙だ。動脈を刺殺されたのならば如何なる角度であろうと大なり小なり飛散するのが道理だ。そして飛び散った形跡は確かにあるが……『溜まり』が小さすぎる」
 アニエルが見るは現場に未だ残されている血痕跡。の、血溜まり跡だ。
 飛び散った血痕には特に問題は見受けられないが、吹きだした大きな血流が形成する血溜まり。その面積が『小さすぎる』のだ。本来はもっと大きく円を描くはずなのに、精々バスケットボール程度分の面積しかない。これから導き出されるのは。
「犯人は刺殺した後、ナイフを抜かずにそのままどこかに死体を隠したのだろう。血溜まりが目立てば、後から来る新聞社員が眠るより先に発見し不審に思うかもしれない……となればある筈だ。どこか隠し場所に移動させた移動痕が」
 見るはクローゼット。怪しいのはあそこかとアニエルとレインボーは見る、が。

「おい貴様ら! やはり怪しいぞ、上に確認を取る……それまで大人しくッ」

 瞬間。部屋に近寄って来る警備兵……成程、少しは頭を働かせる者もいたらしい。
 だが警戒していたウォリアがアーリアへと瞬時に目配せすれば。
「あぁん……そんな硬い事だ・め・よ♪ ねぇお願い……私達リブル様からどうしてもと――」
 アーリアが腕へとしがみつく。密着させる肌と、挟まれる腕――キッチュちゃんには物理的に出来ない芸当である。が、まぁ流れ弾はともかくとして。我を忘れさせんとする領域の才知は警備兵の耳から脳髄へと。
 限りなく耳に近付けた口。くすぐる息と声。されば思わず揺らぐ、その意思の狭間で。
「一秒も無駄には出来ぬのだ、退け」
 ウォリアの魔眼が捉える。
 落とす催眠状態。時間をかけてなどいられるか――可能ならばリブルの事件当日の行動を聞き出しておきたい所だったが、彼らはただの警備兵。そこまで仔細は知らぬかと判断すれば。いいか、と一言念を押し。
「――此処には誰も来ていないし、異常は無い」
 繰り返させる言と命。元の位置へと戻させる、足取り。
 誰にも邪魔などさせぬのだと、ウォリアの鋭い視線が――外を捉えていた。

●~逆転法廷~
 所変わって裁判所。集められた証拠を手に、挑む弁護席。立ちはだかる検察。
「検察の主張は変わらない! そこの新聞社員が殺した、それで決まりだ!」
「異議あり!」
 強気の発言を放つ検察。真っ先に異を唱えたは『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)である。弁護席の机を両手で。顔を上げて真っすぐ見据えれば。
「それは強引な結論です。まず現場は鍵がかかっていた訳ではなく、密室空間ではありません。と言う事は第三者の入室・犯行が疑われます。これは用意された覚えのないカップの存在からも明らかです」
 横目に見るは証言席に控えるメイド。
 事件当日、現場付近にいた彼女の言は重要だ、一つ一つの事実を拾わねばならない。
「異議あり! 水はドヤロウ伯が用意していたモノかもしれないだろう、メイドしか水を注げぬ訳ではあるまい!」
「そうかもしれないっスね、でも『そうではない』かもしれないっス」
 次いで『ひつまぶし』橘 零(p3p002765)も参戦する。
 検察側の言葉に乗る形で、そのまま言を被せて。
「かもしれないと言ったっスね? 
 つまり検察は水がどこから用意されたモノか確認は取れてないという事っス」
「むっ、それは……だがカップに薬物は確認されていない!」
 アニエル達の調査。思い起こすティーカップの薬物反応――確かに無かった、が。
「しかし何も『なさすぎる』っス。あまりにも綺麗な状態、これは何者かの手が入った証拠っスよ!」
「異議あり! 水なら乾く、時間も相当に経過している!」
「異議あり! 純粋な水だったかどうか証明できていないのは――検察側っス!!」
 ぬぅ! と狼狽える検察側。ざわめく傍聴席。
 コレは重要な要素であると零は言いくるめているのだ。演技を交えて迫真の勢いと共に。実際の所『水に仕込まれていたか』は弁護側も立証出来ている訳ではない。それでも孫氏曰く『ピンチの時ほどふてぶてしく笑う』を実践。
 その笑みに、よもや弁護側が有利なのか? と雰囲気は流され始める。キッチュ有罪の流れから少しずつ……でも孫氏そんな事まで言ってたっけ?
「だ、だが……それは無罪の証拠にはならない! 凶器は奴が握っていたのだ!」
「御尤もです。しかし弁護側たった今、一つの可能性を示しました」
 再度続く寛治。鍵の有無、カップの水の存在、そして疑われる状況でキッチュが現場に残っているという不自然さ……指摘せどこれだけでは確かに無実たる証拠とは言えない。されど彼らは示したのだ。
「第三者の存在、犯行可能説を――
 これはつまり被告人キッチュ・コリンズを現時点において有罪だと判決を下すには!」
 再度叩きつける弁護席の机。同時、検察側を指差して。
「――あまりにも、早すぎるという可能性です!」
「うっ!」
 寛治の断定せんとする声に、ざわめきが更に大きくなる。
 静粛に、静粛に! という裁判長の声と槌の音が鳴り響けば。
「む、むぅ……しかし弁護側よ、それならば他に誰が……?」
 裁判長の目が泳ぐ。寛治の目をはっきりと見る事が出来ない。
 成程事前に仕掛けた『釘』は効いているようだ。なにせ寛治、法廷の前に裁判長と接触。ファンドした『実績』を見せ、巨乳派の同志として会話を行っていたのだ。無論、メインの目的はソレではない。
 袖の下に屈すれば如何なることが起こるか分からないと、黒幕に買収されぬ様に釘をさす為だ。自らには幅広いコネクションがあると、別なる実績をも示す。エグゼクティブマネージャの名を冠しているのだから。
「真実を求む為――弁護側は、リブル氏の証人尋問を要求いたします」
「な、なにィ!?」
 検察側の驚愕する声。それはそうだろう、被害者の身内を――などと。
「オーホッホッホ! 驚く事でしょうか! 当時屋敷に居た者の話を聞きたいなど当然の事では!」
 しかしその驚愕すら遮る様に高笑い。それは『農家系女騎士令嬢様』ガーベラ・キルロード(p3p006172)だ。彼女は名乗る。アーベントロート派キルロード男爵家の名に懸けて。
「この事件の真実をどのような手段を用いてでも明かす事に尽力致しますわ! 皆さんも異論はない筈! 明かされて困る様な――真実を持った者でもいない限り!」
 邪魔する者には容赦はしませんわ、と眼光も強める。
 ドヤロウ伯……所属派閥は違えど惜しい人物を失くしたものだ。しかしその不幸に終わらず、無実の民が疑われているというのならば全霊を持って対処するに異は無い。数多のカリスマの力を含んだ言に、皆の注目が集まって。
「調査班の報告をさせて頂きますわ。まず、クローゼット内部にてかなり消されてはいましたが――血痕が確認されています。つまり遺体はキッチュ様来訪前にクローゼットに押し込められていた訳です!」
 その後ドヤロウ伯の帽子を用いて顔を隠し、体形はシェイプシフトにより変化。その後、声はチェンジボイスかクローンボイスを用いて。その様に施せば姿を見ていないメイドは誤魔化せるし、初見のキッチュは気付かない。
「睡眠薬は自前で用意しておけばよいでしょう。後は部屋を工作し、キッチュ様にナイフを握らせ秘密裏に外へと出て行った……この条件で一番得をするのは『その時間帯に屋敷に居なかった』人物となりますわね――あら?」
「つまり私だと言いたいのかなガーベラ殿」
 鉄扇で口元を隠しながら、横目でリブルを見据えるガーベラ。
 しかし証言台へと立たされたリブルだが動じる様子は無い。そんな事かと首を振って。
「甘いな、それは私が犯人だという証拠ではない!」
「どうスかね? メイドさんは『声』を聴いているっス。ドヤロウ伯の声を。これがクローンボイスであれば可能なのは一時間以内にドヤロウ伯の声を聴いた人物――つまりリブルさん、貴方だけなんスよ」
「逃走の際も屋敷の構造に精通した人物……ええ身内の方などであればスムーズでしょうね!」
 零とガーベラがリブルへと追及を重ねていく。犯行が可能なのは貴方だけだと。
 調査班によりクローゼットの血痕跡、不審な点。リブルへの大きな借用書などが発見されている。動機もあるのだ。まだ言い逃れするのかと――
「くどい、私は被害者側だぞ! そのような追及を受ける覚えは……」
「オブジェクションである!」
 瞬間。叫んだのは――『神格者』御堂・D・豪斗(p3p001181)だ。
 弁護席、に跳躍。降り立った彼はゴッド立ち。右手を天に掲げたまま。
「諸君ゴッドである! ゴッドはトゥルースを見通しているが……ヒーローズ&エンジェルズのコレクトしたエビデンスを以ってゴッド真実をここに示そう!」
 なんて? なんて? と裁判長は慌てているが気にするな、ゴッドなのだから。
 ゴッドの見るトゥルース。そのまずワンポイント目はドヤロウの死因!
「フロントからの一突き……しかしファーストコンタクトの相手がナイフを持っていて、ファットなジェントルが無抵抗でやられるだろうか! 不意打ったのだとしても他の者をコールするスクリームをあげるとはキャント・ビリーヴ!」
 信じがたい! 確かにそうだ。キッチュが殺意を持っていたのなら悲鳴を上げるのは到底理にかなった行為ではない。ギルティを認めるならまだしも、イノセンスを訴えているのだから、それに。
「貧相とも呼ばれしそのボディーでジェントル殺害は――インポッシブル!」
「今なんて言いましたかそこの方ァ――!!」
「エンジェル・キッチュ、シャラップ!!」
 声を荒げるキッチュ。余裕面で指を鳴らす豪斗。しかし零もなんだかボディー発言に鋭い視線を向けているが、裁判終わった後大丈夫かな?
 しかし総じて弁護側の発言は『本当にキッチュが犯人なのか?』を思わせるには十分であった。少なくともこの場で有罪と断定するような事は……
「ところで先のコートだが」
 と、その時。豪斗は更に発言を続けた。
「法廷の最後までエンジェル達をレディとして扱っていたものは居なかった!
 『女性』新聞社員に対しては極刑を望む、と言ったそうだが」
「無論取材がある事は聞いていた! だからこそ私は……」
 ここだ、と豪斗は弁護机をゴッド蹴る。言動が遮られ、皆の注目が集まり故に――言う。

 Objection!

「裁判が起こる前に! ユーはいつ、どこでそれを知ったのかねっ!
 ――ドヤロウ伯の元には本来『ヒーローズ』が来る予定だったと言うのに!」
「あ、ああっ!?」
 それはドヤロウ伯すら知らなかった事。そう、取材者は急に変わったのだ。
『新聞社員に刺された』という話を聞いただけで、どうして女性とまで分かったのか。
「そうだ! どうして分かったんだぜ! どう見ても二人共淑女だが、見ずにどうして分かった!」
 傍聴席に紛れているレインボーの賑やかしと言う名の援護射撃が飛べば。
「さ、裁判長一度休廷だ、休廷しろ!」
「異議あり、休廷の必要はありません。裁判長殿、公正さを信じておりますよ」
 リブルの大声。遮るは寛治。脇より見せる悪魔の名。
 ――リッチモンド・コレクション。情報の渦。
 かの悪魔の名すら利用しよう。アンラック・セブンの影ぞある、と。
「む、む……リブル殿。貴方には少し、精密な取り調べが必要なようですな」
 疑惑の目はついにキッチュを超える。命ずるは逮捕。行われる身体検査。
 隠蔽道具でも出て来れば終わりだ。激しく抵抗するリブルだが、やがてついに――処分しきれなかった、血の付いたシャツが出てきて――

●後日
「アーリアさ――んッ! ありがとうございましたぁ~!!」
「それにしても……まったくキッチュちゃん、あちこち走る子だからいつか事件に巻き込まれるかも……って思っていたけど、まさかこんな大事件とはねぇ」
 ふぅ、と泣きかけのキッチュを前に、軽い溜息をアーリアは一つ。
 ここは行きつけの酒場。かの約束を果たすべく集った――無罪のお祝い。
「フッ、たまには大酒もいいものだ。奢りなら尚更だ……付き合おうじゃあないか」
「う、うぅ何卒お手柔らかに……!」
 給料が消える~とウォリアを前に嘆くキッチュ。とはいえ断頭台の有罪よりはマシだろう。
 かくして幻想タイムズに所属せし彼女の無罪は立証された。
 彼女は今日も駆け抜けるのであろう――裁判中、禁忌に触れた裁判長や一部の面々のあれやこれやを調べ上げ、そしてでかでかと掲げる大いなる目標はあるものの。ともあれ今日もタイムズの一角には彼女の名が乗る。

 取材者:キッチュ・コリンズ――彼女の名が。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 茶零四です。もっとキッチュちゃんの一部分の話を弄りたかっt

 ともあれ成功です、おめでとうございます!
 キッチュちゃんの無罪が証明されました、彼女は今後も幻想タイムズの一員として各地を走り回る事でしょう……また事件の折にでも出現するかもしれないですね……!

 それではご参加どうもありがとうございました!!

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