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シナリオ詳細

サラスヴァ霊樹三昼夜

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「これに罷り越したるはミルキーガーデンのアイボリィ・ホワイトにございます。
 サラスヴァ様におかれましてはご健勝のことお慶び申し上げます」
 膝を突き、樫木の鉢植えを手に翳す、乳白色の髪をした女がいた。名乗った通り、アイボリィという。
 対して、樫木の鉢植えを受け取り、わずかに頷く女。呼ばれたまま、サラスヴァといった。
「はい。よく来ましたね。ホワイトの一族は幻想の隠れ里に暮らしていたのでしたね。
 レガド・イルシオンでの暮らしはいかがでしたか」
「便利闊達とはいかないまでも、よき空気と土がございました」
「そう、それは。結構なことですね」
 見上げれば、空。
 足場は、太い枝。
 緑豊かな大木の、それは枝の一派であった。
 枝枝には植物を編んだ頑丈なロープと大樹から削り出した材木が橋のようにかかり、あちこちの枝にはどんぐりに穴を開けたような形をした家々がぽつぽつと並んでいる。
 家々は花を愛でるのを好むようで、軒先には木製の植木鉢が並び清らかな花が植えられていた。
「ところで」
 樫木に植わった白い雪のような花を見つめ、サラスヴァは目を細めた。
「幻想には、ローレットという、傭兵団がいたわね」
「はい。しかし恐れながらサラスヴァ様。彼らは傭兵ではございません」
「と、いうと?」
「なんでも屋にございます」

 アイボリィの語り聞かせた話は、ローレットというなんでも屋が幻想のにあったハーモニアの隠れ里ミルキーガーデンを救う依頼を受け、それを見事に達成した時の逸話であった。
「なんと、まあ。異種族と旅人の一団が、そこまで親身になるものなのですね」
「はい。噂以上に親切な方々でした。今は、ラサや練達や天義や、色々な所へ赴いては人々の依頼を受けて回っているとか」
「そう。そうなの。であれば、ラサの傭兵団から受けた推薦状も、あながち偽りではないのね」
 サラスヴァは、緑の宝石を一つだけ身につけた、薄いドレスを纏った美女であった。
 頬にてを添え、思案するように傾ける。
「わかりました。この先、彼らとよくやっていけるかどうか、私たちの一族でも見定める必要があるわね。彼らを一度里に呼びましょう。この霊樹が、気に入ればいいのですけれど」


 かくして、ローレットにある不思議な依頼が舞い込んだ。
 依頼書にある文言は、『三日三晩を我々と共に過ごすこと』。
「深緑(アルティオ=エルム)には沢山の一族が暮らしていて、ここサラスヴァの一族は霊樹サラスヴァの恩恵を受けて静かに暮らす一族なのです。
 今回の依頼は、その長から直々に寄せられたものなのですよ」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が話すには、深緑はなにも大樹ファルカウだけで暮らしているわけではないという。
 周辺に無数にたちならぶ霊樹には、人々が寄り添って暮らすだけの安全性と、恵みと、神聖なる力があるという。
 そんな彼らの暮らしに三日三晩触れ、共に過ごすことで、ローレットがどのような集団であるかを一族単位で見極めよう……という意図があるようだ。
「特別なことは求められていないのです。強いて言えば、ここの人たちをいたずらに怒らせるようなことや、危害を加えるようなことをしなければよいのです。
 観光旅行とご挨拶にいくつもりで、気楽にいって欲しいのです!」

GMコメント

 深緑(アルティオ=エルム)所属。霊樹サラスヴァの一族より依頼が入りました。
 内容は三日三晩を霊樹で共に過ごすこと。
 彼らの暮らしに触れ、その文化の中で過ごすことのできる珍しい機会です。
 普段から触れたことのない方も、その辺りが実家という方も、どうぞごゆるりとなさってください。
 自分なりの手土産などあると、きっとよい交流になることでしょう。
 そしてまた、この人々はどんな暮らしをしているのか、気になったことはプレイングに書いてみてください。

 今回はちゃんと『皆わざと無礼なことはしない』という判定フィルタを通しますので、石橋を叩くようなプレイングを書くこともございません。逆に、身長になりすぎてあれもしないこれもしない、どれそれを気をつけるといったプレイングだけで埋まってしまっては、とても勿体ないことでございますから。
 ぜひとも、自然体でこの依頼に触れて頂けると、深くお楽しみいただけると思います。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • サラスヴァ霊樹三昼夜完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2019年03月20日 21時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

鳶島 津々流(p3p000141)
かそけき花霞
Lumilia=Sherwood(p3p000381)
渡鈴鳥
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
札切 九郎(p3p004384)
純粋なクロ
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
鼎 彩乃(p3p006129)
凍てついた碧色
藤堂 夕(p3p006645)
小さな太陽

リプレイ

●ハーモニアの里
 馬車が森へと入っていく。
 しめった土と草の香りの中に、どこかミントに似た爽やかな感覚が混じった。
 それがサラスヴァ霊樹の放つ香りであることが、近づくにつれて分かるだろう。
 馬車の客席に座っていた『行く雲に、流るる水に』鳶島 津々流(p3p000141)は、分厚い本を閉じて顔を上げる。
「深緑といえばファルカウを連想しがちだけれど、色々な霊樹があるんだねえ」
 読んでいた本は深緑について書き記した旅人のものである。
 深緑(アルティオ=エルム)はハーモニアが多数を占める国で、彼らの持つ植物との親和性もあって自然と一体になった暮らしが特徴。
 特に魔術的反映が他国よりも優れ、迷宮森林の自然防衛力もあって他国からの侵略を受けづらい国でもある。
 中心となっているのは大樹ファルカウ(霊樹と呼ぶものも神樹と呼ぶものもいるが公式には『大樹』が正しい)で、内部は多重構造都市になっているという。
「けど、さっき話したように領地は迷宮森林だからねえ。ファルカウの周囲に点在する霊的な力の強い大樹をすみかにする一族も沢山いるんだねえ」
 こっくりと頷き、馬車から外へ顔を覗かせる『闇之雲』武器商人(p3p001107)。
「ひとときの間、楽しく語らおうか……サラスヴァと、そのコらよ」
 木々に隠れた視界がやがて開け、抜けるような空と巨大な樹木。その枝や周りで生活するハーモニアたちの姿が見えた。
 広大な、そしてどこか神々しいほどの光景に、同じように車窓から顔を出していた『お節介焼き』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)は目を丸くした。
「わあ……まさに異文化交流なのだわ! 知りたいこと、触れたいこと、沢山できたのだわ!」
「何も分からないので少し緊張しますけど……がんばりましょうね」
 となりでこっくりと頷く『純粋なクロ』札切 九郎(p3p004384)。
 膝に楽器ケースを置いた『白綾の音色』Lumilia=Sherwood(p3p000381)は、窓から入り込む爽やかな風を深く吸い込んだ。
 まるで気持ちが穏やかになるような、清らかなハーブの香りがした。
 いや、これ自体が霊樹サラスヴァの香りなのかもしれない。
「旅の中途、いろんな場所でいろんな生活に触れてきましたが……森林迷宮の中へと入れる機会はそうありません。貴重な招待、大切にしたいですね」
 かつてのローレットでは外までしか近づくことのできなかった場所である。
 ここまで招かれるということは、それだけローレット全体の働きが認められたということなのだろう。
「あれ? ちょっとまって、これってアタシたちの印象がそのままローレットの印象になるってことかしら? あらヤダ責任重大! お行儀よくしなくっちゃ」
 『調香師』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)は改めて手鏡を取り出すと、前髪やメイクの崩れがないかチェックしはじめた。
「けれどこちらの人柄や生活習慣を知りたがってもいるようですし……ある程度は普段通りに過ごしておくのも、大事そうですね」
 止まる馬車。扉を開き、『凍てついた碧色』鼎 彩乃(p3p006129)は改めてアルティオ=エルムの地を踏んだ。
 どこかふんわりとした感触のある土と草。
 きっとここら一体に広がる草がものの衝撃を和らげるクッションのような性質を持っているのだろう。
 枝からサラスヴァの民たちが次々に飛び降りては、彩乃たちの前に着地する。
 彩乃の故郷とはだいぶ違う環境だが、それでもこうして澄んだ空気に包まれていると落ち着くものだ。
 同じく馬車から降りてきた『圧倒的順応力』藤堂 夕(p3p006645)が、『きをつけ』の姿勢をとって頭を下げた。
「ローレットからきたイレギュラーズです! これから三日間、よろしくおねがいしますっ!」
「サラスヴァの民、巫女のサラスヴァでございます。遠渡はるばるようこそいらっしゃいました。馬車にも疲れたことでしょう。まずは、おくつろぎくださいな」
 見渡す限りのハーモニア。
 数にして五百人前後だろうか。
 それだけの人々が、この巨大な木で暮らしているのである。
「我らサラスヴァの民、皆様を歓迎しますわ」

●サラスヴァ
 現地に到着してまずはじめに行なったのが、挨拶である。
 白い衣と枝葉の冠を被ったハーモニアが霊樹サラスヴァの前に立ち、深く頭を垂れる。
 津々流たちも同じように頭を下げ、これから三日過ごすことになる霊樹に対して礼を通した。
 この時点で不思議だったのは、通常ではなんとなく意志を感じることしかできない植物疎通の能力に対しきわめて明確に歓迎の意志と暖かい優しさを感じさせたことである。
 それは植物疎通の能力を持たずとも直感で理解できるほど確かなもので、霊樹に対する強い信頼感と安心感をもたらした。
 まるで、自分がこの巨大な木の一部になったかのような、どっしりと広い心が自らの中に流れるのがわかる。
 サラスヴァの民が皆どこか落ち着いているのはこのせいだろうと理解すると共に、自分たちもまたその一族に一時的ながらも迎えられたのを理解した。
「わたくしは霊樹と最も深くつながり、端々の出来事や近づく危険、実りの季節といったものを民に伝える役目を持っております」
 それぞれの仮住居に案内される途中、巫女のハーモニアはそんな風に言った。
 巫女と名乗ったのはそのためだろう。神ではなく霊樹に仕え、霊樹の声をより深く聞くことを役割としているのだ。
 そしてそれが一族に一人だけであること。同じことができる人間はきわめて少ないことを語った。
 能力云々ではなく、霊樹そのものからの信頼と契約によって成り立っているものなのだそうだ。
「霊樹というのは、みなこういうものなのかな」
 武器商人がそんな風に尋ねると、巫女は小さく首を振った。
「『霊樹』とひとくくりにして語ることはできません。混沌に生きる人々が多様であるように、霊樹もまた多様です。
 樹木そのものが声を発し語るものもあれば、召使いの妖精を使役するものや、民と一切意志をかわさないものもあるといいます。
 けれど少なくとも、我々はそれぞれの霊樹にあった暮らしを選んでいます」
「なるほどねぇ……」
 ジルーシャはサラスヴァのことをなんとなくだが理解した。
 おおらかで他種族に寛容だが、個々人と深くつながったり対話に応じたりといったことをしないタイプの霊樹らしい。
 加えて述べるなら、サラスヴァの周囲に『精霊』らしいものの気配がなく、代わりに霊樹自体に精霊の気配を感じていた。
 死者は土へ還り、サラスヴァとひとつになり、生あるものの恵みとなる。そういったサイクルが、この土地では当たり前に行なわれているのだろう。『木に暮らす者』の独特な死生観である。
 まず連れてこられたのはどんぐりのような形をした家だった。
 中にはツタで作られたハンモックがあり、生活に必要そうなものがそろっている。
 元々は他部族からの客を入れるための部屋であったらしく、使い込まれた形跡は少ない。
 試しにハンモックに触れてみると、まるで綿のような弾力と絹のような肌触りがした。どうやら、こうして寝具に使われる植物素材があるらしい。
「何かあれば声をかけてください。出来るだけ皆に接していただけると、きっと喜ぶでしょう」

 喜ぶでしょうと言われて実行しない手は無い。
 彩乃と夕は早速野外に出て、自前の紙芝居を使ってこれまでの冒険のあれこれを語って聞かせた。
 ハーモニアの彩乃は自種族の視点から、日本人の夕は異世界人の視点から語る。
「マンボウと戦ったりとか、メイドをしたりとか……かなぁ?」
「案ずるより産むが易し。色々すっとばして、まずは片っ端から経験を聞かせるのです!」
 深緑の多くに共通することだが、森林迷宮内部の国家的安全さがゆえに国外へ出るハーモニアは少なく、また小規模なコミュニティだけで自給が可能であるため情報伝達が小さく遅い。
 そのため他の部族から人が来れば積極的に情報交換をはかり、世間話レベルのことですら何日もかけて語り合うという。イレギュラーズたちを三日間滞在させると聞いたときは少し長めのお泊まりになるかと夕は思ったが、語らっていると三日などあっという間に過ぎてしまいそうだった。一ヶ月いても、きっと語り足りないことだろう。
 だがその一方で、閉じたコミュニティの特徴として迷信やしきたりにとらわれがちという弱点を持ち、一族によっては他のコミュニティとの交流を絶っていつまでも閉鎖しつづけるところもあるという。

「この花は知ってるかな」
 津々流が集落の人々にお土産として見せたのは、桜の花を水彩画として描いたものだった。
 どうやら深緑にも同種の木が存在し珍しいものではないらしいが、その風景に描いた幻想の町並みがとにかく珍しく、赤い煉瓦屋根や時計塔を不思議がった。
 生まれてから老いるまでずっと木から離れたことが無いというハーモニアの老人に至っては、時計塔を大きな木だと勘違いするほどである。
「まさか、木よりもありふれた民家に興味を示すとはねえ」
 なんにせよ用意してきて良かったよ。と、津々流は笑った。
 二日目あたりから、武器商人と共にサラスヴァの資料を求めるようになった。
 サラスヴァは基本的に口伝でものを継承していく性質をもつらしく、本はとても少なかった。
 そのためあちこちの老人と茶飲み話をして、昔のことを聞くのがほとんどだった。老人たちは舌を巻くほど記憶力が良く、そして老いに対して強かった。
 サラスヴァの周りに流れる空気のせいか、皺が少なく話し声がしっかりしているのが印象的だと武器商人は語った。
 逆に、外から持ち込んだ本などはとても貴重なため、図書館のように一般公開される資料は希だった。(現代日本で暮らすと麻痺するが、タダで大量の書籍が公開される政治体制というのは非常に恵まれたことである)
「この集落の人々は、とてもゆっくり暮らしているんだねえ」

 華蓮やLumilia、そしてジルーシャたちは国から持ち込んだ茶葉や果実といったものを振る舞って、食文化の交流を図っていた。
 特にLumiliaは海洋の食べ物を中心に持ち込んでいて、海から遠い環境で暮らすサラスヴァの民にはとても新鮮に映ったらしい。
 といっても新緑に海が無いというわけではない。むしろ領地内で海に面した部分は多い。
 しかしラスト・ラストを対岸にもっていたりそもそもコミュニティが閉鎖的であったりする影響で海を見たことが無いという者も多く、海側で育つ植物にもあまり詳しくなかった。
「こうして異なる文化が交わるのは、楽しいですね」
「美味しい料理もいただけるし、ね。けれどこれ、どうやって作ってるのかしら」
 ジルーシャは芋と小麦粉を高度に混合させ表面から中にかけて均等に火を通したうえに長細く三つ編みにした……なんというのか、パンとも芋餅ともとれる不思議な食べ物をまじまじと見た。
「作り方が気になるなら、竈へ行ってみますか?」
 料理を振る舞ってくれた女性に案内されて木の下へとやってくると、硬い木の皮で作られた卵状の建物があった。
 きわめて耐火性の高い植物で作られているというこの建物の中には、粘土で作られた釜のようなものが置いてある。
 近づいてみて、ジルーシャはそれがマジックアイテムであることが分かった。
 新緑の民は自然と一体化した暮らしをする一方で、こうした魔術に関する技術は他国をしのぐほどに高いとも言われている。
 加熱したり刻んだり混合させたりといった高度な料理機材がごく普通に使われている。電化製品で例えるとフードプロセッサと万能電子レンジが高度に合成された何かである。名前を尋ねてみたが、うまく聞き取れない不思議な発音をしていた。バベルを用いてもネイティブに理解しづらいもので、あえてバベルを通して意味だけくみ取った場合『魔法釜』という言葉になるだろうか。
 先にここへ案内されていた華蓮は、部屋の魔法釜を使って里芋と豆を粗く混ぜ合わせ小麦と特殊な樹液をこねて固めて小判状にして両面を焼き上げるという……卵&肉アレルギーに配慮したハンバーグみたいなものを作り上げていた。
 華蓮はできあがったハンバーグ(?)を木の皿に盛りつけながら振り返った。
「私の持ち込んだ肉料理のレシピと、サラスヴァで普段から食べられている家庭料理のレシピを組み合わせてアレンジしたものよ。この樹液、鶏卵みたいに栄養価が高くて豊富にタンパク質を含んでるの。木に張り付いてるだけで生きてられるくらいだわ」
 ここでは毎日がお勉強ねと、エプロンをした華蓮は腕を組んで頷いた。

 一方で、九郎はサラスヴァの民とトランプ遊びを頻繁に行なっていた。
 森が深く居住スペースが比較的狭いサラスヴァの民はこうしたインドアスポーツに長け、頭を使ったゲームプレイを得意としていた。
 神経衰弱は言うに及ばず、ポーカーや七並べといった確率計算を用いるゲームにめっぽう強かった。そもそもカードゲーム自体がサラスヴァではそれなりに流行っているらしく、インディアンポーカーなどのゲームがたいそう盛り上がった。
 他にもアルティオ=エルム特有のタロットカードめいたものや、不思議な面数をしたサイコロの占いなどちょっぴりミステリアスな遊びも流行っているらしい。
 そうしてあちこちで交流を重ねたイレギュラーズたちはあっというまに三日目の夜を迎え、彼らの持ち込んだ紅茶の茶葉や元々サラスヴァで呑まれているお茶(魔力をもつ樹木の葉を乾燥・発酵させたもの)などを飲み交わしたり、果実酒を呑んだりといった具合に賑やかに過ごしていた。
「ここじゃあ豆や芋の料理が多かったけど、肉は食べないんですか?」
「獣の肉を食べないということはありませんが、進んで狩らなければならないほど必要にはなりませんね。動物が増えすぎてバランスをとらなければならないときなどに定期的な狩りをして、いただくことはありますよ」
 なるほどーといってニンジンと栗の中間みたいな蒸し料理をつまむ九郎。
 その横で夕は親指くらいの大きさをもつ豆をスライスしたものを夢中ではむはむしていた。
 食感がなんとなーくハムっぽく、どういうわけだか塩っ気があるのだ。
 恐らくこれがあるせいで肉がいらないんだろう、と思う夕である。
「そうだ。ローレットさんにうちに伝わる音楽を聴かせてやろう。おい、何か弾け」
 ハーモニアの男が手を叩くと、その家の子供が弦が一本だけついた弦楽器を取り出して器用に音を奏で始めた。
 この曲調は聞き覚えがある。
 ラサや幻想で時折吟遊詩人が奏でるケルトミュージックだ。
 Lumiliaは、吟遊詩人たちの間で伝わったこの音楽の出所を本能的に察し、そしてフルートで曲に合流し始めた。
 驚いた様子で、しかし楽しそうに演奏を始めるハーモニアの子供。大人たちは手拍子と歌で会わせ、気分の高揚するお茶でどこかほこほこしていた彩乃も得意の歌声でそれに合流しはじめる。
 ならばと武器商人は笛を吹き、ジルーシャはバイオリンを弾き始める。
「楽しくなってきたのだわ! 踊りましょ!」
 華蓮は夕やハーモニアたちの手を取って、草の上を踊り始めた。
 ランタンのように輝くほおづきの実と、薄緑に光る虫たちに囲まれて、華蓮たちは回るように踊り始める。
 いつの世も、音楽は文化を超えて交わるという。
 津々流はそんな風景をさかなに、お茶に口をつけた。
「いいねえ……心が、とても躍るよ」

 三日の滞在はあっというまに終わり、イレギュラーズたちは帰りの馬車へと乗り込んでいく。
 去りゆく馬車に、サラスヴァの民は手を振った。
 木の上で作業を続ける者たちも手を止め、こちらへ手を振っている。
 いずれまた、この土地に戻ることがあるだろう。
 その時はサラスヴァの霊樹を外敵から守るためか、それとも集落のお祭りか。
 いずれにせよ、楽しみに待つことにしよう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 おかえりなさいませ。よい滞在になりましたか?

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