シナリオ詳細
星竜は空を舞う夢を見るか?
オープニング
旅人たちの楽園、探求都市国家アデプトの首都セフィロト。その立ち並ぶ高層ビルの一室へイレギュラーズ達が足を踏み入れると中にいた白衣の男が歓迎の意思を示した。
「特異運命座標の諸君、ようこそ練達へ! そして実験への協力、感謝する!」
「寝られる人……8人、連れて来たよ……実験、だよね?」
『いねむりどらごん』カルア・キルシュテン(p3n000040)の言葉に白衣の科学者は大げさに頷くと、「君たちは飛空艇に興味はあるかね?」と静かにこちらへと問いかけた。
「飛空艇?」
聞き返したイレギュラーズに対し科学者は頷き両腕を広げると天井を見上げ、誇り高く演説を始めだした。
「全長30m! プロペラと風力で空を飛ぶ巨大な船だ! 風を受け、爽やかな青空の下、空島に眠る秘宝を求め冒険の旅に出かけるのだ! ……と、言いたいがそんな物は存在する筈がない。いくら我が国の技術とは言え、空を飛ぶ船などという異物を混沌が許す筈が無い。だがあの爽快感を知らずに人生を浪費する民を見るのは断腸の思い……そこでだ!」
大きく息を吸い込み――
「我々はこの『共通夢装置』を開発した!」
科学者が指を鳴らすと、彼のを取り囲むようにして並んでいたシャッターが開き、そこに隠されていた何かをライトで照らし出す。それは巨大な9つの棺桶の様なベッドに半球状のガラスの窓が取り付けられた装置であった。
それぞれの装置には人工呼吸器とヘッドギアの様な物が備え付けられており、異様な雰囲気を醸し出している。
「簡単に言えば……これはこの世に存在しないものを夢の中で体験する事ができるという優れものだ。とは言え少しバグが残っていてな……君達にはその調査と、修理をお願いしたい……いわゆるデバッグと言うやつだな」
バグは夢の中で『魔物』という形で現れ、それを退治する事で自動的にプログラムの修正が行われる……というものだそうだ。科学者は説明を終えると、こちらへ詰め寄る。
「なに、君達は魔物退治は慣れているだろう? それと同じ感覚でやればいい……それにせっかく話を聞いたんだ、協力してくれる、だろう?」
科学者は息を荒くし、さらに詰めよってくる……どうやら、嫌といっても帰してくれる雰囲気にはないようだ……。
●―PROGRAM STARTED―
科学者から『デバッグ』の説明を受けたあなた達は、カプセルに入り、深呼吸をする――そして意識がふと途切れた後、あなた達は幻想の遥か上空を飛ぶ船の甲板に横たわっていた自分の姿に気がついた。
ぐるぐると回るプロペラの音が、額に当たる冷たい風が、そして幻想のどこでも嗅いだことのない爽やかな風があなた達へと吹き付ける。立ち上がり周囲を見渡すと、遥か彼方に浮かぶ小島と、あなた達の周囲を警戒するように飛ぶ魔物の群れに気が付いた。
魔物達は威嚇するようにブレスを吐き、翼をしならせると、こちらへと警戒の鳴き声を放つ。
なるほど、これが科学者の言っていた『バグ』と言うものか。確かに見た目や動きは魔物と変わりがない。ならば何時もの様に早々と倒し、折角の夢の旅を楽しもうではないか。
イレギュラーズ達はいつの間にか持っていた自らの得物を取り出すと、空を飛ぶ魔物達へ向けて迎撃を開始した――!
- 星竜は空を舞う夢を見るか?完了
- GM名塩魔法使い
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年03月22日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●混沌の空に巣食う者
夢に再現された空駆ける機械船の上。向かうべき空の島は既に分厚い雲に覆われ、行方をくらませる。
イレギュラーズ達を夢に浸らせるまいと俗にいう飛竜の形を取ったその魔物《バグ》達はけたたましい鳴き声を放ち、鉤爪に唸り続ける鋼鉄でできた4つ足の魔物を重そうにひっかけながら飛び交っていた。
すぐに襲い掛かられてもおかしくない一触即発の状況。イレギュラーズ達がその殺気に警戒しつつ、手早く迎撃の準備を終えようとしたその時――飛竜達が吠え、鋼鉄の魔物達を次々と投下した!
その重量により飛空艇は大きくそのバランスを崩し、イレギュラーズ達が怯んだその隙に飛竜は容赦なく複合属性のブレスをお見舞いする。火は複数の仲間と共に飛空船の甲板を焼き焦がし、毒はこちらを確実に浪費させていく。
「せっかくのお船、鳥さん達には落とさせないのです!」
だが、機器の異常などに負けてはいられないと『特異運命座標』金鯱 統(p3p006085)は飛竜達の致死的な吐息を激流を切り抜ける様に通り抜けると、飛竜の群れへ向かって春を祝福する歌による神秘術を披露した。
歌により天に描かれる、鮮やかな桜色の鳥居。その輝きに飛竜達が目が眩んだ様に落下すると墜落地点には『カオスシーカー』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)が素早く仕掛けていたトリモチ付きの鋼糸。トリモチは瞬く間にその翼にべったりと張り付き、その飛行能力を奪っていく。
「ふむ、多少狙いは外れたが……何ら問題はないね」
ラルフは天へと自らの義手を構えると、全身全霊の魔力を解き放った。彼の持つすべての魔力を込めた渾身の一撃は渦を巻き、小賢しく空を羽ばたく飛竜の群れへとぶつかると激しく炸裂――解き放たれた凄まじい爆風が文字通り魔物達を飛行船へと叩きつけていく。鋼鉄の狼が落ちた飛竜を庇うように陣を取り、イレギュラーズ達へと飛び掛かれば、その一部を『青き鼓動』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)が非常に楽しそうな様子で食い止め、そして両手で握りしめた風の魔剣から放つ目にも止まらぬ連斬でその1匹を瞬く間にスクラップへと変えていった。
「冒険者として、冒険心がうずかずにはいられないよ! みんなでガツンとやっつけて、必ず秘宝を見つけよう!」
飛空艇、空島、そしてそこに眠る秘宝。シャルレィスにとってその浪漫溢れる言葉の前には今目の前にいる魔物の存在や、ここが夢の中の空間である事などは微塵の問題ですら無かった。そしてシャルレィスは明るい笑みを浮かべると、再び剣を構え直し、倒した狼の背後から不意に現れた1匹へと向け真空の斬撃をぶちかました。
必死に抗戦を続けるイレギュラーズ達。だが未だその数と勢いは脅威である事には変わりなく、地に落ち、這いずり回る飛竜が吐く悪あがきのブレスとそれに熱せられた狼達の爪は狭い甲板を所せましと暴れ回る。
魔法と吐息が飛び交い混沌とした状況の中、『探索者』浅木 礼久(p3p002524)は必死に周囲のサポートと治療に努めつつ、『星竜の稽古仲間』ウェール=ナイトボート(p3p000561)へと一つ作戦の提案をする。それは敵が攻撃を仕掛けるまでの短い時間に礼久の仕掛けた音爆弾を作動させ、敵の攻撃意識が一瞬浮いたその隙に決定的な不意打ちを叩きこむというものであった。
「わかった……やってみよう」
ウェールが快諾すると、礼久は礼を短く述べ、手に持っていた赤色のスイッチを力強く握り込む。
直後、アイアンウルフ達が通りすがった地点の音爆弾が次々と炸裂し、鼓膜が今にも破けそうな音波が飛空艇中を包み込む――読み通り狼や飛竜達が悶え、意識が途絶えたその瞬間――飛空艇の中央、大きなマストに捕まったウェールが神経を侵すウィルスを込めた遠吠えを解き放つ!
意識の隙間に入り込む自暴自棄にも似たその狂気の遠吠え、それは亜竜である飛竜は勿論金属生命体であるアイアンウルフ達をも汚染する。ほぼ全ての敵の視線がウェールへと向いた瞬間、彼は勝ちを確信した様な明るい遠吠えを今度はイレギュラーズ達へと伝えた。
各個撃破は集団戦の基本だ。だが狭い空間に攻撃対象が極度に寄る事は途端にそれは諸刃の剣となる。ウェールを取り囲むように同心円状に並ぶ狼と飛竜の群れは、他のイレギュラーズ達にとっては呑気に尻を向けたカモそのものであったのだ!
「後ろががら空きデス!」
『無敵鉄板暴牛』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)が傷ついたワイバーンの背後へと回り込み、全身全霊の致命打を叩きこむ。
「空飛ぶ船に空飛ぶ魔物……流石、練達は変わったもの作るよね」
さらにその背後からは『雪だるま交渉人』ニーニア・リーカー(p3p002058)が飛び出し、猛毒のガス入りの封筒を手際よく敵陣のど真ん中へ『配達』して行く。
「面白そうだし、普通は経験できない冒険が出来るなら、めいっぱい楽しませてもらっちゃおうかな!」
ウィルスと毒の相乗作用で苦しみ、嘔吐しながら倒れる飛竜達。鋼鉄の狼の一匹が危険を察知し、他の仲間へ怒りを鎮めようと走り回ろうとするも、その悪あがきは霊刀を手に精神を研ぎ澄ます『行く先知らず』酒々井 千歳(p3p006382)に遮られて。
「鋼鉄製か……良いね、俺もそろそろ鉄の一つは斬ってみたかったし丁度良かった」
夢の中とは言え五感は現実と変わらない、ならばこれはいい練習台になる。いつか超えなければならない強敵達をいつか乗り越えんと決意を固めた千歳が放つ桜の如き華麗な一閃は、刀より遥かに硬度の高い筈の鋼鉄の肉体を頭から真っ二つに切り開いた。他の仲間達もまたウェールが稼いだ時間を無駄にしないと、必死に狼達の装甲を打ち砕き続けて。
「これで、最後だよ!」
そして、最後に残った狼が狂気のウィルスから目が覚め瞳に捉えたものは、素早く懐に潜り込んだシャルレィスの疾風怒涛の魔剣が、粉々に自分の肉体を打ち砕く光景であった――
●無限に広がる空
激しくも、素早い戦闘劇であった。
ギイ、と金属が軋む音を立て、最後の鋼の狼は崩れ落ちた。その重量と衝撃により飛空艇は大きく揺らぐがすぐにバランスを取り戻し、空域をプロペラが勢いよく回転する音のみが支配する。イレギュラーズ達は傷ついた身体を休め、念のために魔物《バグ》達の亡骸をバランスを保つ様に動かすと――飛空艇には再び平穏が戻った。
「うわー! 風が気持ち良いね!」
シャルレイスが爽やかな笑顔を浮かべながら伸びをして、雲の中に隠れた空島を遠く眺めると飛空艇の内部へと続く扉へと勢いよく駆け込み、内部構造を一目見ようと飛び込んでいく。
「俺の世界で飛行機に乗った事がないから違いを比べられないが……機械仕掛けの大きな船とか男のロマンを感じるよな」
シャルレィスの勢いと知識欲からウェールもまた、思わず釣られかけそうになる――が、懐中時計を片手に冷静に思考を整えると『いねむりどらごん』カルア・キルシュテン(p3n000040)へとメンテナンスの助力を願い出る。カルアはそれに笑みを浮かべ「うん、行こう」と承諾の意志を見せると、共に扉を開けその機関部へと向かっていった。
統はその傍らで瞳をキラキラと輝かせながら、居ても立っても居られない様子で帆のヤードと飛び乗ると飛空艇全体を見渡して。
「改めてみれば、おお、おお――私、これ、この空飛ぶ船欲しいです。どんな地への人、物を運ぶことができる。良い、とても良いもの――」
すっかり虜になってしまった様子でその不可思議な構造を一つ一つ瞳に焼き付けていく。理論的には正しくとも存在が許されない飛行物。それでも、いつの日か練達が混沌の法則を打ち破り、現実に具現してくれるであろう事を夢見て。
「夢を冒険する。なかなか面白い技術があるんだね、ファンタジーというか、現代的というか……俺の世界にはなかった代物だなあ」
千歳はそんな事をつぶやきながら自らが葬った鉄の狼の残骸を観察するラルフへと声をかける。
「ラルフさん、どうかしたのかな」
「バグの事ならバグに聞くのが一番と思ってね」
ラルフはそう千歳へと言葉を返すとその鉄の塊をじっくりと眺めながら指を鳴らし、その金属質にしては若干虚ろな反響音を興味深そうに確かめる。そうして顔をあげると、夢かと、静かにこぼした。
「優れたテクノロジーとは夢から始まる物だ、そしてテクノロジーとは応用が利く物だ」
『夢』は使う者の悪意で簡単に悪夢へと姿を変える。そう、例えばこの夢装置であれば身体に一切の傷を付けることなく拷問をする事も……彼は掃いて捨てるほど、そういう物を見てきた。
「それこそ、夢の無い話だがね」
ラルフは立ち上がり空島の方角を見つめると、千歳へとニヒルな笑みを浮かべるのであった。
飛空艇は唸りをあげ、空島を包み隠している分厚い雲の中へと突っ込んでいく。雲は不思議な事に、まるで綿菓子の様に船に形をゆがめられると、ほのかな甘い香りを放ち開いていく。ニーニアが雲に対し願望を抱いていた事が夢に作用したのだろう。ニーニアはその光景に感激の声をあげながら飛空船から離れないように注意しつつ空を飛び雲をちぎってはその甘美な味に感動し、興奮のまま仲間達の分もと両腕に抱えきれないほどの雲を集めていく。
「風も景色も全てが眩しく楽しくて今なら何でも出来る気がします! 本当にわくわくの旅ですネ!」
リュカシスは操縦室から持ち出した航路図の写しを手にニーニアを楽しそうに眺めながら、自らもファミリア―で呼び出した小鳥をプロペラに巻き込まれぬよう練習がてらに飛ばし、風を全身で受ける感覚を共有しようとする。危なげながらも器用にふらふらと飛び回るその鳥の様子にカルアが興味を示し機関部から姿を見せると、リュカシスは彼女にある質問をする。
「空を、飛んで欲しい?」
「はい、コツとかあればと思いましテ」
カルアは不安の表情を見せる。彼女は混沌に呼ばれてから今までその翼を満足に使った事が無かったのだ。もしかすれば失敗するかもしれない、と。
それでも構わない、とリュカシスが応えれば、カルアはゆっくりと目を見開いて。
「頑張ってみる、ね」
その大きな翼を、力強くはばたかせ、ふわりと、宙へと舞い上がった――
●天空に浮かぶ空島、そして夢の終焉
魔物と雲の海を切り抜け空の船がたどり着いたその島は、まさに息を呑むほどの絶景であった。
荒々しい岩盤の上には穏やかな土と緑が山を形成し、草原と森林を作り出す。山の頂点からはどこから沸いたの川が流れ、巨大な滝となって遥か下の地上へと流れ落ちる夢の様な光景。
イレギュラーズ達は興奮を抑えながら飛空艇に備え付けられていた杭をその大地へと穿つと、太古の昔に埋められた宝を探しに次々と上陸、宝探しへと乗り出した。
「おお……感激です。夢とは思えないです」
島の概観のスケッチを終え感動を隠せない様子で降り立った統から地図とその写しを何枚か受け取った一行は、それぞれ探索に使えそうな物を用意しつつ、幾つかその島の怪しい部位に印をつけていく。
「シャルレィス君、何をしているのだね?」
金属板を加工し簡易的なソナーを即席で作り上げたラルフは、手をかざし何かと会話する様子のシャルレィスに気付くと声をかける。シャルレィスはその呼びかけに気付けば透明な精霊達へとお礼を言い、その成果を語る。
「精霊さんなら何かわからないかなと思ったんだけどね、ここには夢の精霊さんしかいなくて……でも、真ん中の方が何かいつもの夢と様子が違うって言ってたよ! 何か大きな力で動かされてるって」
真ん中の方。その意味に初めに気が付いたのは、この夢と類似した空間を作り出す事の出来るギフトを持つ礼久であった。
「中央だけ。きっとそのあたりに何かこの夢の中で『どうしても決めておきたいもの』があるんだと思うんです」
例えば、このプログラムの目標――自分達が今探し求めている『秘宝』とかが。
「そうと決まれば早速島の真ん中に行かないとね! そうと決まったら私の出番……あ痛っ」
ニーニアはその情報を聞くや否や、その地形記憶能力を生かし仲間を先導するべく双眼鏡を片手に空へと舞い上がり小鳥を召喚――しようとするも。何故かゴツンと天井に頭をぶつけた様な音と共に不意に少し落下し、おまけに何故か頭からピヨピヨと子供が落書きで書いたかの様なヒヨコが飛び立っていく有様となってしまった。それでも郵便屋としての意地か、ふらふらと目を回しながらも中央の方角を指さしていて。
「天井なんてあったんだな……思わず考えたのかもしれないけど」
礼久はそんなニーニアを心配そうに眺めながら、夢の中らしくとどこからともなく松明やロープ、鎌を取り出すと草木をかき分ける様に、進んで行く。そのマジックの様な自然な動きにリュカシスが興味津々と言った様子で食いつくと、自らもやってみようと虚空に振り向けば自分の持つ軍馬の名前を大声で叫んだ。
「レベルマックス、来て! 面白いから、出来れば空も飛んで!」
夢とはいえ流石になんでもありすぎでは?そんなイレギュラーズ達の誰かがツッコミを入れようとしたその瞬間……見事な筋骨隆々な軍馬が蹄の音を鳴らし、天から舞い降りて来るではないか!
「これは便利ですネ!」とリュカシスは仲間に合流する為の使役動物を預けると、颯爽と空の島を駆けまわるべく馬を走らせていくのであった。
空を掘り進む土竜、崖に巣を作る昆虫、羽の生えた奇怪なロバ――空島に住む様々な動物達とイレギュラーズ達は触れ合いながら、イレギュラーズ達は中心へと向かい続け……そして、そこへとついにたどり着いたのだ。
「ここ、何か見えるね……上手くは見えないけれど」
千歳が指を刺したのは島の中央、山の谷間となっていたそのど真ん中の地面であった。彼の透視能力で何かが見えるという事は、地中のそれほど深くない場所に目的の物が埋まっている事である。
「中心は中心でも、島自体の中心だったか……うおっ! なるほど、これは楽にすみそうだな」
ウェールは千歳のヒントと慎重な観察により位置を正確に特定するとポケットに手を入れ、削岩用のドリルをガチャリと取り出し、数秒のタイムラグの後その巨大さに思わず声を出す。ここは未知の体験を楽しませる夢の中、バグを取り除いた今、余程の無理強いでも無ければ通るのだろう。
ウェールは自分に言い聞かせ納得すると、ドリルの先端を大地へと押し当て、勢いよく発掘作業を開始する。
激しい振動と回転が大地を抉り、数分後。ドリルが突然激しい振動と共に安全装置が働き機能を停止させると、イレギュラーズ達は次にスコップを取り出し、その『何か』を地上に取り出そうと さらに十数分、悪戦苦闘を続け――土まみれのその塊を地上へと取り出す事に成功した。
「……よし、出てきたぞ!」
イレギュラーズ達はその『掘り出し物』の土を払い、その正体を確かめる。それは人が一人は入りそうなほど大きな白い宝箱、非常に頑丈なその箱の正面は簡単な知恵の環の形で施錠がなされており、人為的に開けようと試みなければ開かない仕組みが為されていた。
宝物を見つけ歓声をあげ喜ぶもの、箱の出来の良さに感心する者。
リュカシスは「いかにもと言った豪華な宝箱ですネ! 中身は一体どのようなものデショウ?」と舐めまわすようにその箱を見つめ、千歳は顎に指をあてその中身を推察する。
「さて、秘宝かあ……カルアさんはどんな物だと思う?」「枕?」
即答。彼女なりのブレない回答に千歳は軽く笑みを浮かべると宝箱に向かい、一つの提案をした。
「せっかくだし、みんなで開けよう」
その言葉に「悪くはないな」「いいとおもう!」「賛成です!」と次々とイレギュラーズの手が宝箱へとかかり、そして。
「せー、のっ!」
一つの合図を号令に、9人は一斉にその蓋を勢いよく開放した!
そしてイレギュラーズ達がその中を覗き宝物を確認しようとした次の瞬間。宝箱の中より眩いまでの光条が一斉に放たれ、視界が白く染まって――
『CLEAR』
気が付けば、緑色に輝くそんな文字が視界の中央に浮かんでいた。夢は覚め、再びこの混沌の現実にイレギュラーズは戻ってきたのだ。
目が覚める直前、一瞬見えたその箱の中身が何であったかは彼らは覚えているが、その『宝』が同じものである保証も、またそれを今確かめる事も無かった。
少なくともそれは、イレギュラーズそれぞれにとって、かけがえのない宝物であっただろう。
不思議な感覚と共にカプセルから次々と出てきた彼らを待っていたのは――鼻息を荒くし両腕を広げる、あの科学者の姿。
「今回は装置の体験、感謝する! これで研究も捗るだろう!」
科学者曰く、今後はバグを取り除きながら五感の共有機能をさらに高めつつ痛覚に関しては軽減し、よりリアルなファンタジー体験をできるようにするのだという。練達の科学者はそんな事を話しながら、何度も何度もイレギュラーズ達に感謝の言葉を投げかけていた。
「お宝とは程遠い品だが、これはほんの気持ちだ」
そして彼が懐からそう叫びながら取り出し、手渡したのは――空飛ぶ飛空船の姿が描かれた、広告用のポケットティッシュであった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
「……楽しかったね……本当に、ありがとう……」
リプレイは以上となります。参加ありがとうございました。
トンデモ超科学の練達とは一風変わった依頼となりましたが如何でしょうか。
予想以上に遥かにカルアに絡んでくれた方が多く、楽しく執筆する事ができました。ありがとうございます!
素敵な人が多くて誰に出そうかすごく悩みましたが、MVPは貴方に差し上げます。
それでは、ありがとうございました!またの機会をよろしくお願いいたします。
※カルアが非戦スキル『飛行』を習得しました。
GMコメント
こんばんは、塩魔法使いです。
超科学と超文明の旅人の国、練達へようこそ。
●依頼内容
・『共通夢装置』の被験者になり、デバッグに協力する。
襲い掛かる敵を倒し、空島の秘宝を見つけ出せば成功です。魔物を撃退するための戦闘力と、空島を探索するための非戦スキルやギフトが重要です。
●夢の内容
幻想の空、プロペラと帆を動力源として飛ぶ飛空艇の船員となり、宝が眠ると言う空島を目指す。
空島は宙に浮かぶ大地と森林から成り立ち、その中心に秘宝が眠るとされている。
全体的に爽やかな雰囲気。だが、探求の旅までさわやかとは行かないようだ。
●エネミー?
装置のバグによって発生したモンスター達。
・ワイバーン×10
飛空艇を空の棺桶にする為に襲い掛かる空の魔物。
R2以上の火や毒、雷の範囲ブレスを使い分け、常に上空10mを保とうとする卑怯な敵。
幸いHPは高くなく、ある程度の威力でどついて叩き落してやれば至近攻撃でも止めを刺すことができる。
・アイアンウルフ×10
ワイバーンが地上より運んで来た鋼鉄の狼といった見た目の魔物。見た目通りHPと反応が高い、防御技術はそこそこ。
攻撃に目立ったものは見られないが、その牙による失血死には注意せよ。
●『共通夢装置』
練達で開発されている有名?な装置の一つ。被験者の脳波を『ホスト』と呼ばれる一人とコントロール、同調させることで共通の夢を見る事が出来る。夢とは言え五感は現実のそれと変わらない。
夢の中なので不在証明を突破した物も不自由なく呼び出すことができるが……。
●カルア
「……私も、やるの……?」
竜の化身の旅人。何故か成り行きで夢装置のホストをやらされることに。
特にお呼びがかからなければ船の中を観察しながらひっそりメンテナンスや迎撃をしています。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●アドリブ率『夢』
この依頼はアドリブ成分高めです。
『アドリブ少なめ』などの指定、夢の中でありそうなトラブルの指定、カルアへの絡み、その他もろもろ大歓迎致します。
それでは、よろしくお願いします。
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