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シナリオ詳細

<Butterfly Cluster>ガルド盗賊団は逃げ出したい

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●蠍の果て
 幻想を襲った大盗賊団『新生・砂蠍』、そして鉄帝国との挟撃は、ローレットは特異運命座標の活躍を持って終結、砂蠍頭目である『キング・スコルピオ』は討たれた。
 砂蠍に恭順していた多くの盗賊団は、リーダーを失い行き場もなく逃げ出すほかなかった。
 この話は、それからしばらく後の話になる。
 ローレットに集まったイレギュラーズに『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)が静かに話し始めた。
「『ラサ傭兵商会連合』の有力な傭兵団『黒之衆(クロノス)』がラサ南部にある『アルダハ遺跡』で砂蠍残党の姿を捉えたらしいわ。
 幻想にもラサにも居場所を失った残党達だもの。無人の廃墟を根城とする他なかったのでしょうね」
 だが元々盗賊団として為らした連中だ。人畜無害で平和に暮らすという話にはならない。
「当然、食料もなにもない荒野ですもの。
 すぐに近隣の村落への略奪行為が開始されたわ。喰うために奪う。まさに盗賊って感じよね」
 ラサの傭兵にとってみれば『砂蠍』は逃がした獲物だ。
 傭兵団の長達によってすぐさま残党の討伐は決定した。しかし――
「ここで少し問題が発生したみたいね。
 残党達の中に、『魔種』の存在が確認されたみたいなの」
 残党達の士気や連携はいまいちだが、そのほとんどは生き残った砂蠍幹部や、魔種に従って行動しているようだ。
「ラサとしては残党達を生かしておく理由はないけれど、魔種の存在が彼等の行動に待ったをかけているようなの。
 そこで、お鉢が回ってきたのがローレットというわけよ」
 イレギュラーズは魔種との戦いに経験をもついわば専門家というものだ。それにラサの傭兵達も『噂のローレットと共闘してみたい』という素朴な下心を持っているようだ。
 断る理由もないローレットはこのラサからの初依頼を受け、ここにラサとの共同戦線が出来上がったのである。
「今回こっちで対応して貰いたいのはガルド盗賊団という盗賊団を討伐してもらうわ。
 砂蠍の残党の中では中堅というのかしら。なんとも特徴のない平凡な盗賊団だけど、どうにも魔種の女にその主導権を握られているようね。
 盗賊団の実力はそう大きな警戒は必要ないだろうけれど、魔種の実力が不明瞭だわ。
 しっかりと準備して、油断のないように挑んで欲しいわね」
 そういってリリィは依頼書を手渡す。確認すれば、なるほど確かに盗賊団に特徴がない。
 やはり注意すべきはこの盗賊団を牛耳っている魔種の女の存在だろう。対策を怠らないように、注意して準備を進めるとしよう。
 イレギュラーズは、依頼書を手に、席を立った。


 ガルド盗賊団頭目ガルドは、今、自分を取り巻く状況から逃げ出したかった。
 元々リーダーを努めるような器ではないのだ。いうなれば悪事に手を染める下っ端、三下な性格の自分なのだ、何をどう転んだのかいつの間にか盗賊団を率いることになってしまったのは、何かの間違いだったのだ。
 それを考えれば、砂蠍――キング・スコルピオというカリスマの元で働ける毎日は最高だった。あの日々は自らの立場を改めて自覚し、自分はやはり誰かの下に付くのがあってると思い直した。
(だがよぅ……こいつはちげぇ……こいつにだけはついて行っちゃならねぇんだ……!)
「どうしたんだい、アンタァ? そんな情熱的な瞳で見られたら疼いてしまうよぉ」
 ガルドは目の前で熱っぽい切れ長の瞳を自分に向ける狂気に染まりし女を見やる。
 魔種カラドナ。
 妖艶さを感じさせるこの魔種は何をどう間違ったの、ガルドのことを愛してしまったという。
(くそ……なんでこんなことになっちまったんだ……! 逆らえばきっと殺される、かといってこんな危ねぇ女のについて行ったらそれこそ仲間達全員、化け物に変えられちまう)
 奥歯を噛みながら蔓延る狂気に抗い続けるガルドは、すでに進退が窮まっていた。
「ここでの生活も飽きてきたねぇ。
 どうだいアンタ、アタイと一緒に街一つぶっ壊して見ないかい? 大丈夫さ、全部壊しちまったあとは、アンタが支配すればいい。そんでアタイは都市長婦人さ。アハハ、二人で無人の街の中ドロドロになるまでもつれ合うなんて最高かもしれないねぇ……!」
「……あ、ああ、考えて置くよ……」
 ガルドはそれだけ言うと、出口へ向かって走り出した。
 逃げ出したい。
 何もかも捨てて、ガルドはただただ逃げ出したかった。
(誰でもいい……もう、こんな状況を終わらせてくれ……!)
 祈るように瞳を瞑ったガルドは、もはや未来への希望など持ち合わせてはいなかった。

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 ラサからの初依頼です。
 遺跡を根城とする盗賊団、そして魔種を撃退しましょう。

●依頼達成条件
 ガルド盗賊団の討伐(生死は問わず)

■オプション
 魔種・『色欲』妖艶なカラドナの撃退。
 
●情報確度
 情報確度はCです。
 信用できる情報とそうでない情報の切り分けが必要でしょう。
 想定外の事態にも十分気をつけましょう。

●注意事項
 この依頼に参加する純種は『原罪の呼び声』の影響を受け、反転する危険性があります。
 また、この依頼では”パンドラの残量に拠らない死亡判定”があり得ます。予めご了承の上、ご参加ください。

●ガルド盗賊団について
 数は十五名。
 特徴という特徴がなにもない盗賊団だが、新生・砂蠍としてあの戦争を乗り越え生き延びていることから、『強くはないが、弱くもない』という実に扱いに困る連中である。
 武器種は短剣と弓を扱い、至近~遠距離までのレンジで戦う。
 リーダーガルドの傍には魔種カラドナが寄り添っているようで、ガルドと戦うことはイコール魔種カラドナとの接敵を意味するだろう。
 ステータスは平凡。唯一防御技術だけは自慢出来るかも知れない。

●『色欲』妖艶なカラドナについて
 常に発情するように熱っぽい瞳を向ける獣種(狐)の女。
 何をどう間違ったのか、毛むくじゃらのガルドに入れ込んでいるようだ。
 露出の高い和服を着込み、パイプをふかしてゆらりゆらりと盗賊団を指揮している。
 だが、その実恐るべき魔力を保有し、戦闘となれば狂気を孕み全てを破壊する。
 反応は低いが、神秘攻撃力、EXA、EXF値が特に高い。またCT、命中も高い。

 情報屋リリィのギフト及び遭遇することで把握できた情報は以下の通り。
 ・カースドウェーブ(神超貫・封印・魔凶・暗闇)
 ・トライフォックス(物遠扇・大ダメージ・崩れ・乱れ・懊悩)
 ・狂気拡散(物特レラ・狂気)
 特殊レンジ:遠距離以下は全て射程となる。
 ・EX妖気解放(特殊自己バフ・スキル、ステータスの大幅強化・変化)

 妖気解放が行われると、妖狐としての真の姿を現す。
 スキル及びステータスが大幅に変化向上する。その力は戦場全域に及ぶものとなる。
 ただ、その姿を現すことをカラドナは嫌っているようだ。
 何がトリガーとなって妖気解放を行うかは不明である。
 

●想定戦闘地域
 アルダハ遺跡周辺での戦闘になります。
 大きな障害物はなく戦闘は問題なく行えます。小さな崩れかけた壁などは障害物として利用できそうです。

 そのほか、有用そうなスキルには色々なボーナスがつきます。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。

  • <Butterfly Cluster>ガルド盗賊団は逃げ出したい完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2019年02月24日 22時35分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
共にあれ
巡離 リンネ(p3p000412)
魂の牧童
シキ(p3p001037)
藍玉雫の守り刀
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
Selah(p3p002648)
記憶の欠片
十六女 綾女(p3p003203)
毎夜の蝶
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
プラック・クラケーン(p3p006804)
昔日の青年

リプレイ

●逃走への道
 ガルド盗賊団の根城にその一報が入ったのは突然のことだった。
 ガルド盗賊団が潜むアルダハ遺跡の一角に近づく者達。それが自分達を討伐するために組織された連中だというのはすぐに察しが付く。
 盗賊頭であるガルドは、これを願ってもないチャンスだと、そう感じた。
(逃げ出すならここしかねぇ……! 仲間全員逃げられるなんて考えちゃいねぇが……それでもこのまま破滅へ向かうよりマシだ……!)
 めんどくさそうに陣頭指揮をとる魔種・カラドナを前にしながら、ガルドはそう考えを巡らせていた。
 その弱気な態度を知るものは――例えガルドに熱を上げるカラドナだったとしても――いなかった。

「あーあー。
 聞こえるかの、盗賊団共。
 これは降伏勧告じゃ。大人しく武器を捨ててお縄に付けば良し、抗うというのであれば、その命ここで果てる物と知るのじゃ」
 武器を構えるガルド盗賊団。彼等に対峙したイレギュラーズは、期待などせずに定型通りの降伏勧告を行った。
 『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)の良く通る声が空しく遺跡に響く。その声を聞いた魔種・カラドナは、ガルドにその肉感的な身体を寄せながら愉快そうに笑った。
「ひぃ、ふぅ、みぃ……たった十人でアタイらを捕まえる気だよ。くくくっ、ずいぶんと舐められたものだねぇ」
 そんなカラドナに視線を向けず、ガルドが言葉を零す。
「い、いや、何か作戦があるのかもしれないぞ。
 そ、そうだ。まず俺達が様子を窺ってくるから、お前はここで見ていてくれ、な?」
「あん。優しいねぇアンタ。アタイの為に戦ってくれるっていうのかい?
 そんな優しくされたらアタイ、ますますアンタのことが好きになっちまうよ」
 時と場所をわきまえず発情するカラドナはいつもの事だ。だが、ガルドは今はそのままでいて欲しいと、心の底から考えていた。
「ふむ。
 まるで聞き入れる気はなさそうじゃの」
 徹底抗戦の動きを見せるガルド盗賊団を前に、デイジーが一つ頷いた。
「魔種を前にそうせざるを得ないのかもしれませんね。
 まあ戦闘は想定していますし、やることは変わらないでしょう」
 『言うほどくっころしそうにない』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)の言葉に、『優心の恩寵』ポテト チップ(p3p000294)も頷く。
「まずは作戦通りに数減らしだな。
 魔種が居る以上、戦力を温存しながら盗賊達は撃破したいところだが」
 魔力を増幅し、祝福を纏うポテトは『蒼ノ翼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)にも同様に祝福を纏わせた。
「魔種の女はやや後方に陣取るようだね。
 傍観するとも思えないし、抑えは必要か」
 ルーキスがそう言うと、『魂の牧童』巡離 リンネ(p3p000412)は魔種カラドナへと視線を送り見る。
「盗賊達は任せるよ。私は積極的に魔種を狙うね」
「魔種との戦いは望むところですが……盗賊団の討伐が主目的で或る以上、それを疎かにはできませんね」
 魔種との対決を強く望む『藍玉雫の守り刀』シキ(p3p001037)はそう言葉にしながら戦意を高める。
「魔種と盗賊の関係も気になるけれど……――動き出した!」
 盗賊達を観察していた『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が、行動を開始した敵方の動きに反応し声を上げた。
「敵ながら悪くない動き方ですね。
 ――これより、状況を開始します」
「油断だけはしないように行きましょ。
 ただの盗賊とは言えあの戦いを乗り越えてる連中なのだしね」
 『大いなる記憶』Selah(p3p002648)と『毎夜の蝶』十六女 綾女(p3p003203)の言葉に全員が頷く。
「許されねぇ連中ではあるが……魔種に従わされてるってなら、助けてやりてぇよな。
 おっし! いくか!!」
 トレードマークであるリーゼントを整えながら気合いを入れた『幸運と勇気』プラック・クラケーン(p3p006804)の動きを合図にイレギュラーズも行動を開始する。
 ガルド盗賊団、頭領ガルドは逃げ出したかった。
 逃げ出した先に何があるかなんて考えもせず、ただ自分を取り巻く状況から――自分の背へと向けられる悪寒すら感じる熱っぽい視線からも。
 何もかも投げ出して、ただ逃げたかった。

●愚者の謀
 一斉に動き出した両者は、流れるように互いの間合いを奪い合い、狙い通りの陣形を組み上げた。
「ッラァ! かかってきなァ!!」
 飛び抜けた反応を見せたのはプラックだ。一直線にカラドナへと疾駆するとその注意を引くように気合いを放った。その間合いの取り方は絶妙で、周囲へと最大限の気を配っていた。
「暑苦しい奴だねぇ……タイプじゃないんだよ、ボウヤ」
 そう言葉にしながらもカラドナはプラックを注視せざるを得ない。目論見通りカラドナの注意を引けたプラックはカラドナの放つ呪波を仲間を巻き込まない位置へと誘導する。
 プラックがカラドナを押さえたのを確認すると、盗賊団担当のメンバーが一斉に盗賊団へと襲いかかる。
「フィールド展開。貴方達の相手はセラ達がします」
 盗賊対応チームの中心に位置するSelahは自らの再生能力を高めると、自身の生命力を犠牲に仲間達を大幅に強化する神子の饗宴を展開した。
 その支援を受けて、シフォリィが一足飛びに盗賊へと飛びかかる。
「シフォリィ・シリア・アルテロンド、参ります!
 かかってきなさい!!」
 可憐なる少女の名乗りは幾人かの盗賊の注意を見事に引いた。シフォリィは自身に向けられる殺意をいなしながら、燃えさかる炎を舞わせ反撃する。
 イレギュラーズと刃をぶつけ合ったガルドは、すぐに自分達との力量差を感じ取った。
「こいつら……、あの戦いの時にいた奴らか……!」
(くっ……強ぇ、こいつは敵いそうにないぜ……!)
 まともにやり合えば全滅は必至。或いはカラドナがイレギュラーズを倒してしまうかもしれない。
 逃げ出すことを第一に考えるガルドは、表面上抗戦の意思を見せながら、どう自分に都合良く展開させるか、それに思考のほとんどを費やしていた。
 それは考えれば考えるほどに、自分の都合の良い妄想となって――愚者の謀は現実を直視しない呆れたものとなる。
「纏まっている内に削らせてもらおうか。さぁ、吹き荒れて」
 ≪ロータ・サフィラス≫サファイアを用いた宝石魔術を行使するルーキス。戦場に咲き乱れる氷の花は、暗澹たる呪詛を持って盗賊達のみならずカラドナもその域に収めて苦しめる。
 状態異常を主力とするルーキスは、そうして戦場を支配する。
 同じように呪詛を用いるのはデイジーだ。
「悪いがお前達はまとめて薙ぎ払わせてもらうのじゃー」
 絶海の海を歌い上げる冷たい歌声は、セイレーンたる破滅の歌姫の力を帯びて、盗賊達を苦しみ悶えさせる。
 後衛の位置より放たれる攻撃に、盗賊達も対処を行うが、その攻撃は散発的であり大きな被害とはいかなかった。
 敵の攻撃を躱し、受け流しながらデイジーは立ち位置を入れ替えながら、攻撃を繰り返した。
「その行動、封じさせて頂きます――!」
 シキが盗賊の一人へと肉薄する。振り下ろされた刃を紙一重で躱すと、刹那の呼吸で”その身”を振り下ろす。劈くような悲鳴と共に、盗賊の武器持つ手が切り落とされた。
 止まる事無く次なる盗賊へと疾駆するシキは、潜り込んだ懐から最下段――足下を切り払う。
 相手の敵対行動を封じるように、その狙いを定めたシキは、その刃に血を啜り生き甲斐と至上の喜びを感じた。
「アンタッ! 大丈夫かい――!?」
 盗賊達の劣勢を感じ取ったカラドナがガルドへ向け声を上げる。幸いにしてイレギュラーズの狙いはガルドを除く盗賊団の構成員に絞られており、ガルド自体はそう大きな怪我をしていなかった。
「助けてやりたいけれど……しつこいねぇ!」
 カラドナの動きを封じるプラック。そして、攻撃の手を緩めないアレクシアとリンネ。この人数にやられるほど自身は弱くないが、かといって無視できる程の力量差があるわけではなかった。
 何より問題なのは――
「自由にはやらせないわよ」
 綾女がひらりひらりと夜蝶のように舞う。精気と運気を奪い取るその舞いを、カラドナは忌々しげに睨む。
 それだけではない。綾女の放つ簡易封印術式が見事にカラドナの能力を阻害していた。
 この嫌がらせ染みた綾女の行動によって、カラドナはその力を十全に発揮することなく苦戦を強いられていた。
「今度はこっちの相手してもらうよ! これ以上の非道は許さない!」
 アレクシアが赤き花の如き魔力塊を炸裂させる。花の魔力がカラドナに敵愾心を抱かせ注意を向けさせる。
 勝利を紡ぐ紫花を刻んだ結界は、アレクシアの抵抗力を向上させ、カラドナの攻撃による能力を封殺していく。注意を逸らさないように、アレクシアは攻撃を幾重にも続けた。
「狙わせてもらうよ!」
 リンネが前面に展開する盗賊達へとアクセルカレイドたる攻撃を浴びせ、幾重にも行動阻害を重ねると、カラドナの側面から攻撃を集中させる。
 自身の精神力を弾丸へと変えて打ち出せば、恍惚を齎す精神的油断を誘う。パーティー最大火力たるこの攻撃が幾度も放たれてカラドナの体力を確実に削っていっていた。
「状況は想定通りか。
 だがやはり魔種は強いな。回復に手一杯だ」
 戦況を正しく認識しながらポテトが言葉を零す。魔種と戦うメンバーの体力変動が大きいこともあり、ポテトの回復は生命線となっていた。
 それは当然敵側にも見えてくる線だ。ポテトを狙う攻撃も数多くあり、生傷が絶えない。リンネや綾女が回復をフォローし、どうにか状況的に優位を保てていた。
 盗賊達が、一人、また一人と倒れて行く。
 仲間がやられていくのを見ながらガルドは自らの保身のことだけを考えるようになっていた。
 どうすればこの状況から脱出することができるのか。
 考えに考え抜いているその姿に戦意を感じる事はできない。
 アレクシアがガルドの様子に気づき声を上げた。
「あなた達は戦いたいの!? 命のやり取りがしたいの!?
 魔種に従ってるだけならお願い、武器を下ろして! 私達が護るから!」
 カリスマ帯びた言葉に、ぴくりとガルドを含む盗賊達が硬直する。すぐにカラドナが声を重ねた。
「アンタ達、騙されるんじゃぁないよ!
 どの道投降すりゃ待っているのは地獄にも等しい牢獄だよ。こいつらにアンタ達を自由にさせる力なんてありゃしないのさ!」
「それでも人として生きる事はできる!
 けど魔種に従っていれば、その内人では無くなっちゃうよ! それはわかっているはずでしょ!」
「あはは、人で在る事にこだわる理由なんてないさ! 一度堕ちてみればわかる、人で或る必要なんてどこにもなかったってね!」
 互いに譲らぬ言葉の応酬。
 天使と悪魔の囁きは、両の耳からガルドを誘惑する。
 頭を悩ませるガルドにデイジーが言葉を重ねた。
「今降伏すれば命まではとらぬ。それとも、そのおなごに惚れ込みでもしたのかの?
 そのような危険な化物よりも妾の方がぷりちーなのじゃ。
 魔種の呼び声にすがれば、お主は瞬く間に化物へ早変わりじゃ。
 人として妾達に捕まるか、化物に身を落とし、苦しみながら殺されるか。選ぶが良い」
「俺は……俺は――ッ!!」
 ガルドは苦悩のままに、ついに決断を下すのだった。

●抗う心
「……すまねぇな、カラドナ。俺は、どうしようもなく小ぇけど”人間”なんだよ……」
「あ、アンタ……」
 ガルドの下した決断はイレギュラーズへの投降だった。
 武器を下ろしたガルドは陣地を入れ替えるようにイレギュラーズの裏へと回る。
「お前らが言ったんだからな、必ず俺等を生かせよ……!」
 それは投獄した後の話ではない。今、この時の話だ。
「わぁってるよ! この期に及んで逃げようなんて考えるんじゃねぇぞ! 下がってな!!」
 プラックが声を上げて、盗賊達を守るように前に出た。
「アァ……アンタ、嘘だろう?
 アタイを置いていくっていうのかい? あんなにも愛し愛された仲だって言うのに……!」
「冗談じゃねぇ……! 俺ぁお前さんにビビってただけだぁ! 逆らったら殺されるに決まってる! 今だってブルッちまって、こんな決断したのを後悔してるんだぁ!」
「だったら、いまからでも遅くないよ、戻っておいでよ!
 其奴等といたって、投獄のあげく極刑に違いないさ!」
「かもしれねぇ……ああ、でもだめだ。化け物になって惨たらしく殺されるより、惨めでも人と死ねる方がマシだ……!」
 ガルドは怯えた表情で、そう言い切った。人としての最後の一線を守ったのだ。
 そして愛を尽くしていたカラドナは、向けていた愛情が全て自分の一人よがりであることに気づかされた。
 恐怖心による偽りの対応をされていたのだと、気づかされ、悲しみに顔を歪めた。
「ああぁ……嘘だよ……アタイは本当にアンタのことを思っていたのに……!」
「貴女の愛は相手の事を考えない、独りよがりの愛です!
 相手を訝れない色欲の魔種の愛、私が否定します!」
 シフォリィの言葉に、カラドナが歯ぎしりする。それは次第に大きくなり、悲しみは怒りへと転じ始めた。
「嘘だ、嘘だ、嘘だよ……! そうさ、アンタ達が余計な事を言わなければガルドはアタイを好きで居てくれたはずなのに――!!」
 瞬間、空気が震動し背筋を悪寒が走った。
 カラドナを中心に発せられる狂気の波動。吐き気すら催すほどの強烈な狂気が脳を揺らし視界を回転させる。
「――純種は離れるんだ! ”呼び声”に耳を傾けるな!」
 ポテトが声を上げ、純種の四人が後ろに下がる。同時、ガルドが頭を押さえた叫んだ。
「グアァァ! やめろ、そんな声色で俺に愛を囁くなァ――!!」
 盗賊達が苦しむ様をみて、シキが一転カラドナへと攻撃を仕掛ける。
「少しでも影響を減らすために仕掛けます――!」
「援護するよ」
 その動きに呼応してルーキスが魔力を編んだ。
 二人の連携を受けながらしかしまるで効き目がないようにカラドナが小首を傾げた。
「さあ、アンタ。こっちへおいで。いつものように蕩けるような快楽の淵へと行こうじゃないか」
 魔力――否、妖気が膨れあがる。それを感じ取った綾女が、挑発するように言葉で牽制する。
「畜生に戻ったら折角のいい女が台無しよ。
 狐と寝たい男なんて早々いるものじゃないわ。
 愛しの彼が盗られてもいいのならどうぞ?」
 流し目でガルドを見る綾女は、自身の魅力の見せ方を熟知している。ギリリとカラドナが奥歯を噛んだ。
「死にたいようね、女ァ……!」
「あら、怖い」
 そんなやりとりがなされる中、盗賊達へと声を掛ける者達がいた。
「テメェら! 理由はどうあれ一度はキングなんてもんに着いてったんだろう!
 意志を強く持ちやがれ! かっこ悪い悪党より、かっこ良い悪党なれ!
 シャバい奴よりイカした奴になりてぇだろ!ほら、最後まで意地貼り続けろ!」
 プラックの言葉に情けなく顔を歪めたガルド。もう保たない、まるでそう言いたげだった。そこにSelahが言葉を重ねる。
「かの盗賊王は、絶体絶命の状況に置かれてもなお、原罪の呼び声を振り払ったそうです。
 自らの在り方を示すために。
 貴方は、盗賊王の部下達は"その程度"の誘いに屈するのですか?」
 Selahの言葉にガルドが歯を食いしばった。嘗て見た盗賊王の後ろ姿。あの背に従い生きた日々は悪党なりに幸せだったのだ。
 盗賊王と同じ場所へ行きたいとは思わない。けれどもしその背に近づけるなら――ガルドは大きく声を張り上げた。
「俺は、俺は人間だぁ! 化け物になんかならねぇ――ッ!!!」
 ガルドは呼び声を退けた。
 それは同時に、カラドナに落胆の色を見せることになる。
「……残念だよ、ガルド。
 アンタとだったら一生を添い遂げる事ができると思ったんだがねぇ……」
 膨れあがっていた妖気が霧散する。気が逸れたか、そう思った一同は次の瞬間、その考えを反転させる。
 張り詰めていた糸が切れたかのように、これまで以上の狂気、妖気、殺気が爆発的に広がった。
 カラドナの尾が九尾となって広がる。
「まずいよ、みんな――!」
 リンネの放つ精神力の弾丸、そして生者の足を引っ張る呪縛を者ともせず、ゆらりゆらりと歩み出す。
「ダメで元々なのじゃ、くらえー!」
 デイジーが虚無のオーラを放てばカラドナが纏う妖気を一瞬消失させる。されど、妖気はすぐに膨れあがって、まるで意味をなさなかった。
 反撃の妖気が膨れあがる。イレギュラーズを襲うように呪詛の波動、そして狐を思わせる九つの幻影が幾重にも飛び交った。
 盗賊達の幾人かが倒れたまま動かなくなり、イレギュラーズの多くの者がパンドラの輝きに縋る。劣勢を思わせる状況の中、抵抗は大きな成果を上げなかった。
「撤退だ!
 殿は旅人が務める。全員逃げろ!」
 仲間の半数が倒れ、その内幾人かが重度の怪我を負ったところで、ポテトが声を上げた。
 イレギュラーズは隠れていたガルドを引っ張り上げると必死に逃走する。
 アルダハ遺跡が見えなくなった所まで逃げたところで、追っ手がないことに気づいた。
 混濁する意識の中、一同はどうにかその命を生きながらえさせる事が出来たのだと、安堵のため息を吐き出すのだった――

成否

成功

MVP

Selah(p3p002648)
記憶の欠片

状態異常

デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)[重傷]
共にあれ
十六女 綾女(p3p003203)[重傷]
毎夜の蝶

あとがき

 澤見夜行です。

 魔種を倒すためには幾らかの工夫が必要でしたが、今回は魔種討伐を行わなかったのでリプレイのような結果となりました。
 とはいえ、盗賊団リーダーは無事に確保できており、皆様の活躍は素晴らしいものだったと思います。お見事。

 MVPは十分な支援とガルドを掬い上げた説得をしたSelahさんに贈ります。

 依頼お疲れ様でした! またいずれカラドナとは対決する機会があると思います。お楽しみに!

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