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シナリオ詳細

かかし in the rye

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●肥沃の番人
 大陸全土にその名を轟かせる軍事大国、鉄帝。
 そのアキレス腱とも言えるのが食糧自給問題である。
 寒地で育てられる作物は限られており、食卓を担う農家たちは常々頭を悩ませている。
 とある農村でもトラブルが相次いでおり……。
「ああっ、また根っこから掘り返されてやがる! 狸か猪の仕業だな!」
 早朝、ライ麦畑が荒らされている形跡を見て農夫の男は悔しそうに嘆いた。
 ライ麦は穀物の中でも寒冷な気候に強く、荒れた土地でも栽培できるので、鉄帝北部に位置するこの農村における主要産出物だった。
 なのに、この惨状。
 飢えているのは何も国民だけではないらしい。
 腕を組んで思い悩む農夫の元に、若い連中が血気盛んに乗り込んでくる。
「おやっさん! やっぱりこいつを使うしかねぇですぜ!」
 同じく農夫であると思われる格好の彼らは、数人がかりでリヤカーを引いてきていた。
 荷台の上にはなにやら怪しげなオブジェクトが積まれている。
「あいつらも学習してやがりますからね、並のかかしじゃもう効きやしませんよ。いよいよ倉庫に保管してあったこいつの出番がきたってことです」
 若い屈強な農夫たちにえっさほいさと担がれていき、ライ麦畑のド真ん中に設置されたのは、先日別の畑から出土した『かかし』であった。
 古代において、農業用に使われていたと考えられるそれは、すべてのパーツが重厚な金属で作られていた。
 そしてなにより目につくのが、各所に銃火器が搭載されている点。
 これらによって害鳥や害獣、場合によっては異形のものどもを物理的に撃退するという、若干やりすぎな、もっと言うとアホっぽい装置である。
「動作テストはやっておきましたぜ! 稼働期間の設定も済ませたし、弾の補充も万端! あとはおやっさんの承認待ちです!」
「ううむ、頼るしかないか……よし、決めたぞ! こいつに守ってもらおうじゃないか! このままじゃおまんまの食い上げだからな!」
「「「うおおおおおおおッ!!」」」
 背に腹は代えられない。これ以上被害が続けば自分たちの生活が先細るだけ。
 農夫衆のまとめ役であろう男もまた畑へと足を踏み入れ、自ら起動のスイッチを押す。
 ガシャガシャとかかしの内部構造が駆動する機械音が辺りに鳴り響く。
「……音だけで全然反応がないぞ。これ本当に動いてるのか?」
「テスト済みって言ったじゃないですか。任せてくださいよ」
 怪訝を払拭するかのように、若い農夫はポケットから取り出した紙製の円盤を投げてみせる。
 すると即座にライフルに換装された頭部が旋回し、速やかに撃ち落とした!
 放たれたのはわずか一発のみ。
「おおっ!」
「どうです、凄い精度でしょう。こんなふうにセンサーかなにかで侵入者を察知して、逃さずズドンと撃ち抜くってわけです。畑を荒らす不届き者はなんでも追い払ってくれますぜ。これでしばらくは安心ってもんでさぁ!」
「おお、そうか! そいつは頼もしいな!」
 男は手を打って喜ぶ。
 が、すぐに冷静になった。

「待て。畑に入ってきた奴を根こそぎ追い払うなら、俺たちはその間どうやって麦の手入れをすればいいんだ?」

 今更すぎる疑問が浮かんだ時には、もう既に銃口がこちらへと向いていて……。
「「「ぎみゃ―――――――!?」」」

●麦は強し
「……てな具合に、鉄帝の農村にて案件発生なのです」
 そう語る『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)の口ぶりは、死者多数の凄惨な銃殺事件を悼むような感じではなかった。
 というのも、充填されていたのは鳥獣撃退用のゴム弾なので致命傷にはならなかったらしい。
「でも死ぬほど痛かったみたいなのです。それでもなんとか逃げおおせたみたいですけど、かかしは見境なく射撃を繰り返すままだとか。で、領主さんにトラブルがバレると畑を取り上げられるかも知れないからって、わざわざこっちに協力を仰いだみたいなのです」
 さて仔細になりますが、と続けるユリーカ。
「活動場所はお話した農村のライ麦畑で、中央に設置されたメカメカしいかかしを止めてほしいとのことなのです。動作が完全フルオートなせいか時間の経過以外では停止しないようで、物理的な手段でしか止められないそうです」
 要するに、殴って止めろということか。非常にシンプルな話ではある。
「ですが近寄るのは大変なのです……センサーで標的を捕捉次第、片っ端から銃撃を行うみたいなので畑に入る時は警戒が必要なのです」
 耕地に及ぶと同時にかかしとの交戦になると見てよさそうだ。
 ただ身から出た錆とはいえ、せっかく育てたライ麦を踏みにじってもいいのか――その点が気になるところだが。
「ご心配なく! なんでも麦は踏むことで冬の間に降りた霜が取れて、根の張りがよくなるそうなのですよ。踏まれてなお強く育つだなんて、まったく逞しい植物なのです」
 ボクもそうありたいものです、と何かといじられがちな少女はしみじみ呟いた。

GMコメント

 OPをご覧いただきありがとうございます。
 寒さ厳しい毎日ではありますが、今回は寒さに負けない麦にまつわる依頼です。
 以下詳細。

●目的
 高性能かかしの機能停止

●場所
 『ライ麦畑』
 60m四方の畑です。
 フィールド全体に渡って本葉の出たライ麦が植えられていますが、OP中にあるように踏むことを気にする必要はありません。むしろある程度は推奨されます。
 足場は湿った土なのでやや悪く、回避に若干のマイナス補正がかかります。

●エネミー情報
 『固定式対鳥獣全自動要撃機・改二』 ×1
 ほーるどたいぷ・あんちびーすと・ふるおーといんたーせぷたー・まーくつー。
 見た目は、鋼鉄製のかかしです。
 ただし頭部は小銃に置き換わっていて、両腕には機関銃が据えられています。
 あくまで撃退用なので内蔵されている銃弾はゴム弾ですが、機械制御による広範囲・長射程・高精度の銃撃を繰り返してくるので非常に厄介です。
 防御面では物理に対する耐性が高めです。少々叩いたくらいではびくともしません。
 畑の中央に設置されています。

 『対地バルカン』 (A/物/中/列)
 『対空ライフル』 (A/物/遠/貫)

 『作物まもるくん七号』 ×4
 一般に市販されている量産品のかかしです。
 こちらにも簡単なギミックが搭載されており、センサーで侵入者を感知すると、農作物には害のない、かつ生き物が嫌がる臭いのガスを散布します。
 畑の四隅に設置されています。
 また、これらのかかしの撃破は成功条件には含まれません。

 『追い出しガス』 (A/物/近/域/識別/無) 【窒息】【足止】


 解説は以上になります。
 ご参加お待ちしております。

  • かかし in the rye完了
  • GM名深鷹
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年02月26日 21時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
セシリア・アーデット(p3p002242)
治癒士
リーゼロッテ=ブロスフェルト(p3p003929)
リトルリトルウィッチ
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
エリシア(p3p006057)
鳳凰
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫

リプレイ

●1000km/h
 もし、銃口を火器にとっての目とするならば、それは両雄睨み合う姿と呼べるに違いない。
 ライフルが射竦める視線の先では『雲水不住』清水 洸汰(p3p000845)が、その足に踏みしめた麦のように力強く生命力をみなぎらせて立っていた。
「オレは清水洸汰! その超イカすお前の装備、打ち砕きに来たぜ!」
 臆することなく堂々と。
 そしてのどかな田園風景にはちょっぴり不似合いな予告ホームランのポーズで。
 しかし鋼鉄のかかしが洸汰に照準を合わせたのは、エースがスラッガーの熱気に応じたというよりは、センサー感知による機械的な処理が下された結果であろう。
 樹脂の銃弾が放たれる!
「いって!? ……き、効くなぁ、やっぱ」
 洸汰は咄嗟に左手で防御し、腕にできた打痕をさする。
 評判通りの精密さだ。もし攻撃に対する備えと強靭な肉体、なにより旺盛な好奇心が原動力となっている精神力がなければ、農夫たちのように蹴散らされていたところだろう。
「……けどオレに注目が向いたってことはさぁ、攻め時は今、ってことなんだよね!」
 永遠の少年が口元に笑みを浮かべたのは、金属だけで作られたかかしのボディに、鮮血を思わせる赤黒い鎖が巻き付いたのを確認したからだ。
 発砲音と同時にいち早く標的の至近距離へと駆け寄った、『愛の吸血鬼』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)による一撃であることは言うまでもない。
 侵入口は逆方向。ライ麦畑の中を軽やかに疾駆する姿が見えていた。
「以前にも金属製のかかしを破壊する依頼があったんですよね。その時の経験、存分に活かさせてもらいます!」
 陥穽の憂き目に遭った敵が軽いショート状態となり、動きが鈍くなったと見るや、今度は自身が握る儀礼用の剣へと赤黒い瘴気をまとわせ始める。
 彼女だけではない。既にイレギュラーズは固定式対鳥獣(以下略)の包囲を始めていた。
 四方を取り囲み包囲戦を仕掛ける算段である。
 その中の一人の『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)は、瞼の降りかかった胡乱な目でかかしの全容を眺めていた。
「わたくし、海洋の出身ですから農業については全然分かりませんけど、こんな危ない物にも頼りたくなるだなんて、とても大変ですのねー」
「かつていた世界でもかかしは用いられておったが、このような阿呆な設計の代物は見たことも聞いたこともないぞ、我」
 一方でユーリエの肩越しに覗く『解華を継ぐ者』エリシア(p3p006057)は、フル装備の農業道具に対して興味深くというよりは、呆れたような眼差しを送っている。
「害獣との攻防戦についてはいろいろとお話をうかがっていますわー。きっとそれだけ戦いが過熱していった証なのでしょうー」
 海種の令嬢は間延びした口調はそのままに、戦闘態勢に入る。
 しなやかな所作で、踊り子風の艶美な衣装をはためかせながらナイフを振る――だが、その刃が直接かかしの喉元に突き立てられることはなかった。
 代わりとして浴びせられたのは、ナイフが描いた弧より生じた無数の氷の破片。
 それらは複雑に相互構築を繰り返し、一繋ぎの鎖のような形状を成す。
 そして一気に締め上げる!
「さあ、これでもう逃げられませんわー」
 絡まり合う二連の鎖。けれど怨嗟が渦巻くかのような血のごときユーリエの鎖とは対照的に、光の屈折を繰り返す氷の鎖は清冽な印象を残している。
 対照的、といえば、エリシアにも当てはまる。
 彼女が紡ぎ出している魔術の系統は氷とは真逆の性質を持つ火。更に言及するならシロイルカは大海原を泳ぐが、鳳凰は天を舞うのだ。
 鳳凰の力が地上に炎として顕現する。
「鎖に繋がれたならば、檻にも囚われるがよい」
 それがしかるべき姿だ、とばかりに煉獄の炎が噴き上がった。
 かかしの全身を覆い尽くすその火の有様はまさしく檻である。
 相手は鋼鉄、有機物のように消し炭となって燃え尽きるということはないが、負荷限度を超える灼熱の炎に焼かれて耐久力が削がれないはずもない。
 燃え盛る業火の煌きを目にして、ユゥリアリアの背後に陣取る『ピオニー・パープルの魔女』リーゼロッテ=ブロスフェルト(p3p003929)は発奮する。
 炎と聞いちゃ黙ってられない。リーゼロッテはとんがり帽子をかぶり直して。
「こんなポンコツかかし、わたしの魔術で盛大に燃やしてあげるわ!」
 と、勇ましく宣言してはみたが、なにぶんここはライ麦畑。
 最初に突入した洸汰が保護結界を展開しているとはいえ、火の手が広がらないよう用心しておくに越したことはない。
「えーと、頭のあたりにそっと突き刺す感じで……くっ、意外に難しそうなのよ!」
 とりあえずイメトレと共に魔力の感覚を研ぎ澄ませ、次の攻撃に備えた。
 その合間では。
「洸汰さんお手柄! 回復は任せてよ、大得意だから!」
 前に立つ洸汰を狙う直線的な攻撃からちょうど逸れる位置。そのポジションを外さないよう警戒しながら、『治癒士』セシリア・アーデット(p3p002242)が治癒の術式を紡ぐ。
 高い集中力と、患部を見分ける観察力を兼ね備えた彼女が唱える魔術だ。洸汰の腕の痣がみるみるうちに消え去っていったのは決して不可思議な現象ではない。
「ん、これでよし。だけどみんな注意してよね。あの銃、結構攻撃範囲広いよ。それにゴム弾だからって、下手したら死んじゃう可能性もあるんだから」
 看護できるのは一度に一人。万全の備えというわけではない。
 特に接近戦を挑んでいる面々はどうしても広範囲の攻撃に巻き込まれやすく――
「いったた! もー、青痣になったらどうしてくれますの!?」
 ひたすらにメイスを振り回している『祈る暴走特急』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)の悲痛な、というよりは愚痴っぽい叫びが木霊する。
 地面に突き立てられたかかしは決してその場から動くことはないものの、微妙に軸を旋回させながら、両腕の機関銃から弾丸をバラ撒いている。
 一発の重みこそ頭部の主砲には劣るが、しかし無視できるダメージではない。
 オールドワンの頑健な肉体があろうと、痛いものは痛いのだ。
「加えて、非常に堅固です。……自分の未熟もありましょうが」
 ヴァレーリヤと肩を並べる『特異運命座標』オリーブ・ローレル(p3p004352)の掌には、銃撃の間隙をぬって叩きつけた両手剣から、激しく跳ね返してくる感触が伝わってきている。
 だがそれで攻撃の手を止めるほど軟弱な精神はしていない。
 今回コンビを組んでいる同種の先輩であるヴァレーリヤに対して、憧憬の念があることをオリーブは認める。
 半人前の腕では彼女に負担をかけてしまうかも知れない――だからといって、その前で情けのない姿を晒すつもりなどないのだから。
 ゆえに柄を握る手は緩めない。
 むしろ今まで以上の力を込め、今まで以上に深く踏み込み、若武者は砲身という名のかかしの頭蓋へと大剣を振り下ろす。

●不撓不屈
 鉄帝の気候が食糧生産の面でもたらす弊害が大きいのは既知の事実である。
 農村部に暮らす人々の悩みの種になっていた。
 そんな中とある農村はライ麦に目をつけた。荒土でも育ち、寒気にも負けず、乾燥にも強い。村総出で生産に乗り出す価値があると、そう信じさせてくれる救世主だった。
 なにより踏まれても何度でも立ち上がるその姿に、人々は勇気づけられたのだ。

 極低温の氷の刃が、鋭く、局所的に突き立てられる。
 ユゥリアリアの代名詞とも呼べる『慈悲の氷刃』。
 しかし、その手数は決して多くはなかった。攻撃に割ける時間が絶対的に足りていない。
 本来アタッカーである彼女でさえ治療に回る場面が増えていた。
 高い射撃精度は、痛恨の一打の発生しやすさに繋がる。
 敵の攻撃対象は洸汰をメインに置き続けてはいるが、少しでも足並みが揃ってしまうと、機関銃による一斉掃射や、あるいは自動小銃で貫かれてしまう。
 それは洸汰自身も織り込み済み。可能な限り動き回って位置取りを工夫してはいるが、自分がターゲットになりつつ、前衛の仲間も、後ろのセシリアも巻き込まないようにするのは、簡単な話ではない。
「いっ!? てて……だから、マジで痛いっての!」
 なにより、めちゃくちゃ痛かった。
 魔導書を抱えたセシリアがすぐさま回復を施しているが、戦闘が長引き気味なこともあり、果たしていつまで持つか。
「ちょっと、これ、思ったより手一杯だね」
 なによりセシリア自身が慌ただしさに追われていた。洸汰が最優先ではあるけれど、治癒の術をかけたい味方は、狙撃の危機に晒され続ける自分も含めてそれこそ何人もいる。
 現状万全と言えるのはユーリエだけだ。
「大人しくしてくださいね!」
 呪術を交えた剣捌きに乱れはない。持ち前の反射神経で致命傷は防げているし、ペアのエリシアが頻繁に回復支援を行っているのもその理由。
 逆にお互いに近い距離で行動しているヴァレーリヤとオリーブは不安視された。
 ヴァレーリヤに魔術による治療の心得が備わっているのは好材料だったが、しかし、どこまで自分自身の状態にまで手が回るのだろうか?
 その懸念は的中し、度重なる斉射の末に二者の膝がガクンと折れる。
「……ええい、やられてたまるものですか!」
 気合一喝。ヴァレーリヤは信仰の証であるロザリオを握り締めながら立ち上がる。
「こんなカカシにのされたなんて噂が立ったら、いい笑い者ですわっ! オリーブ! ラストスパートかけますわよっ! これだけ殴ったのですからそろそろ弱ってるはずですわ!」
「しかし、敵は機械です。反応などから弱っているかどうかの判別は……」
「しかしもカカシもありませんわぁ! ぬおりゃああぁぁぁぁぁッ!」
 聖女はまったく怯むことなく、膝をつく出来事などなかったかのように戦線に復帰した。
 そのひたむきな姿にオリーブは改めて痛感させられる。
 ヴァレーリヤは鉄帝の民衆が豊かに暮らせる日を心から夢見ている。
 そして理解している。それにおいて自分がすべきことは、なによりも行動であると。
 民を困窮から救うことは、オリーブにとっての悲願でもある。
 今回派遣先となった土地は自身の故郷である鉄帝。更には他ならぬ民衆からの依頼。
 ならばなにを迷うことがあろうか。
(故郷のために強くなると決めた。それが俺の信念だったじゃないか……!)
 オリーブは手から零れ落ちた大剣を再び握り締め、体を起こす。
 まだ戦える。そう確信を持って。
 ただ視線を起こした先ではおおよそ戦闘とは思えない光景が広がっていた。
「ハイ、ターッチッ!」
 洸汰が退治目標のかかしと――手の平の代わりに両腕部位の銃身にではあるが――ハイタッチを交わしていた。
 ふざけているわけではない。挑発するためのエネルギーの回収にかかったのである。
「よっしゃ、これでまだまだ、戦え……!?」
 不意に洸汰は鳩尾に激しい痛みを覚えた。
 相手が生物であれば疲労感を与えられる洸汰のハイタッチ。
 だが無機物に過ぎない鋼鉄製のかかしは、冷然と反撃の一射で応じたのみ。
 胸を襲う疼痛に洸汰は顔を歪め、バタリと倒れる。先程まで受けていたダメージの蓄積もあり、立ち上がれない。
 銃口は洸汰のいた方角を向いたままだ。ペアで行動していたセシリアに照準が合わせられ、東部のライフルから銃弾が放たれる。
「きゃあっ!?」
 ゴム弾が直撃。呼吸が止まるほどの痛みに、セシリアは魔術を紡ぐことが困難となる。
「ううむ、間に合わなかったか」
 体力を一気に奪われては、対応が間に合わない。洸汰の余力に気を配っていたエリシアが険しい表情を作る。
 そして警戒を強める。攻撃の明確な指針を失ったかかしが次にどこに狙いを定めるかは、ほぼ予測不可能。
 軸が回転し、銃口は今度はユゥリアリアたちの方向へと向く。
 褐色の歌姫は避けない。放たれた銃弾を真っ向から受け止める。
 下手に動けば背後のリーゼロッテも自分ごと撃ち抜かれる可能性がある。そう判断してのことだ。しかし、直撃によるダメージは――
「ユゥリアリアさん!?」
「……大丈夫、まだまだいけますわー」
 呼びかけに応じるユゥリアリアは、薬指にはめられたリングを見つめ、そして苦笑いをする。我が身に奇跡が起きるたびに、皮肉な運命を感じざるを得ない。
「……こんのポンコツ! 返品できないくらい真っ黒焦げにしてあげるわ!」
 その瞳に紫焔を灯らせて、リーゼロッテは虚空に羽ペンを走らせる。
 宙に描き上げたのは複雑怪奇な模様で形作られた魔法陣。
「偉大なる巨人の王よ、輝きと共に破滅をもたらせ――『炎王の魔剣』!」
 言葉は魔力の櫃を解錠する鍵となり、魔法陣から溢れ出た炎は即座に剣の形状となる。
 使用者に反動をもたらすほどの制御困難な火。
 魔女の卵はそれでも操縦を試みる。狙いを定めたのは、金属製のボディのてっぺんに据えられた主砲。いわばかかしの頭部パーツである。
 ちょうど、自分をかばい続けた歌姫がそうしていたように。
 氷の刃に代わって自らの炎の剣を飛来させ――銃部分にピンポイントに突き刺す!
 リーゼロッテはよしっ、と小さく拳を握る。
 それは少女が頭の中で何度もイメージしたとおりの光景だった。
「ふふん、偉大な魔女……の予定者に不可能はないわ!」
 火の勢いで少しだけ焦げてしまった銀髪の毛先をフッと吹き消しながら、リーゼロッテは満足げな表情を浮かべた。
 それでもなお、かかしは停止していない。反撃態勢に入る。
 流石にこれ以上は、と身構えるが……奇妙なことに銃撃が発生しない。
「あ、あれ? 今ので倒せたのかしら?」
「いえ、そういうわけでもないみたいですよ。どうやら」
 おそるおそる近寄ったユーリエが耳を澄ませ、金属の反響音を頼りに探ってみた限りでは、銃の内部構造は確かに動いている。
 ということは。
「……弾切れ?」
 としか考えられない。だとすれば、この上ない『好機』である。
 コーリエは今度は動力部を探知し。
「えいっ!」
 その部位目掛けて勢いよく剣を突き立てる。
 元々こちらの集中攻撃によって全身にガタが来ていたこともあり、かかしに設定された防衛機能を停止させるトドメの一撃としては、十分すぎた。
「もしかして、これ、結構効いてた感じ?」
 畑で大の字になっている洸汰の手には、倒れる間際にハイタッチを通して吸い取った、かかしが射撃を行うために絶対に欠かせない物……要するに、ゴム弾の束が握られていた。

●収穫の春よ来い
 動作が完全に停止したのを確認した後、ようやく撤去作業が進められた。
「ぐぎぎぎ……いや、重いって!」
 持ち上げようとした洸汰が尻餅をつく。
 なにせ日々の農作業で鍛えられた農夫が数人がかりでやっと運び出せた代物なので、体格のいいオリーブ以外特に腕力自慢が集ったというわけではない今回の面子では中々厳しいものがある。
 ……とはいうものの、銃撃が止んだ以上は焦ることもない。
 ここから先は感謝の弁を伝えるべくやってきた村人に任せておけばいいだろう。
「あっちも抜いていったほうがいいのかしら。さっきから臭い酷いけど」
 プシュプシュとガスを噴射している『作物まもるくん七号』を横目でちらりと見るリーゼロッテ。今回は完全にその存在を無視して作戦を決行したため、まったくの無傷だ。
 首を横に振ったのはエリシアである。
「や、その必要はない。ここまで来たらついでだと撤去の旨を農夫どもに問うてみたが、残しておいてくれと頼まれたのでな」
「うん、それがいいよ。あんまり役に立ってなかったみたいだけど、壊しちゃったら今より動物の被害が増えるかも知れないから。後のことも考えないとね~」
 セシリアはくすくすと悪戯っぽく笑いながら言った。
 後のことを考えずよく分かってもいない出土品のパワーに飛びついた結果が今回の騒動の発端なので、それがおかしくなったらしい。
 動かなくなったかかしを見つめて、「こんなふうに危険なことが分かったから埋葬されてたのかな」と、ユーリエは一人推測を立てる。
「で、アレだ。他のライ麦も踏んでいった方が良いのか? 」
 畑全体を見渡しながらエリシアがぽつりとこぼす。 
 おのおのが活動した位置のことを考えると、かなりのムラがあることは推察できる。
 もっともその疑問が声に出される前から、既にユゥリアリアは眠そうな眼に好奇を宿らせて、後始末に精を出す農夫たちに申し出ていた。
「もしよければ、麦踏みを手伝っても良いですかしらー。興味があるので、やってみたいですわー」
 かかしと交戦する中で自然と踏んづけてはいたが、洸汰とセシリアが張っていた保護結界下では、どれほどの効果があったか分からない。
 なにより本来は海洋の人魚であり、そして貴族の出でもある彼女にとって、泥臭くも大地を踏み締めることには、どこか生命を謳歌するような喜びがあった。
「収穫の時が楽しみでございますわっ! 今度は収穫祭の時期に、皆で来ましょうね」
 そう語るヴァレーリヤの口元は、なんだかやけにニヤついていた。
 それもそのはずで、今の彼女の脳内では、ライ麦から作られたとろりとした口当たりのビールの味わいに思いが馳せられていたのだから――

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでした。
今回の依頼は成功となります。
回復の優先度が高く、非常に長期戦となりましたのでAP枯渇での決着とそれに基づくリプレイとさせていただきました。

ご参加ありがとうございました。

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