シナリオ詳細
クラースナヤ・ズヴェズダー
オープニング
●力なき祈りに力を、光なき者に光を
世界を見よ。
弱肉強食をうたう者の実態を見よ。
本当に力が全てであるならば、世界人類は数日と持たずに滅んでしまうだろう。
「生まれてから桑しか振ったことのない農夫は弱者かもしれません。
けれど彼らの育てた麦がなくてはパンは作れず、彼らの育てた牛がなくてはサンドイッチはできあがりません。
強い者がつよくいられるのは、弱者がのびのびとと生きているからこそなのです」
『クラースナヤ・ズヴェズダー』とは鉄帝を拠点とする宗教団体である。
戦う力によって王が決まる軍事国家ゼシュテル鉄帝国において、軽視されがちな弱者も豊かな暮らしをすべきだというのが、彼らの主張だ。
そういう意味では宗教団体というよりNPO法人に近いのかもしれない、とはあるウォーカーの弁である。
その司教、『聖女』アナスタシアが……今回の依頼人であった。
●暖かいスープ
イレギュラーズたちはアナスタシアに依頼され、スラム街の炊き出し作業を手伝っていた。
場所は鉄帝北部にあるスラム街『プアメタル』。
昔は古代遺産の発掘で栄えたが物資を掘り尽くした結果穴と廃墟だけが残り、力なき者はこの場所から外へ出ることができなくなった……そんな土地である。
それゆえ暴力支配や警察機構の腐敗が著しく、鉄帝の『よくない部分』がため込まれていた。
「皆さんが応募してくれて助かりましたわ」
ほっこりとした表情でポトフを木の椀によそっていくヴァレーリヤ。
炊き出しの手伝いを斡旋してきたのも彼女である。
ヴァレーリヤは『クラースナヤ・ズヴェズダー』の司祭。そして依頼人であるアナスタシアは司教。この関係から、事情を誰もが理解する。
「この時期は独自にボランティア活動をする方も多くて、人手が足りなくなりますの」
一方で、演説を終えたアナスタシアがイレギュラーズたちの元へと戻ってきた。
「同志ヴァレーリヤ。そして皆さん。スープを配りましょう」
皆さん待ちきれないようですよ。と、集まった人々を見やる。
スラムの子供たちや老人。
彼らは皆やせ細り、粗末な衣服を着込んでいる。
そしてどこか、誰かを恐れてびくびくしているように見えた。
何におびえているのか? そんな疑問は、すぐに解けることになる。
「おっと、悪いねえ。雑魚は目につかなくって」
赤いロングコートにサングラス。2メートルを超えようかという背丈の男が、子供を蹴倒していた。
地面にスープがまかれ、椀が転がった。
その様子に、集まっていた住民たちは目を背ける。
誰も『やめろ』と言えないのだ。
止めに入ろうとしたイレギュラーズの一人を、老人がそっと引き留める。
「やめたほうがいい。奴は『アイアンフット』ジャッキーだ。戦争帰りで、当時の兵隊崩れを引き連れてこの辺を仕切ってる男だ。逆らえば殺されてしまう」
椀をひもじそうに拾おうとする子供に向けて、男は大きく足を振り上げる。
「俺の前でうろうろするんじゃねえよ。踏んじまうだろう!?」
目を見開き、子供の腕を踏み抜こうとするジャッキー。
その足を。
がん、と金色のブーツが押し止めた。
誰あろう。
『聖女』アナスタシアのブーツである。
「なんだアンタ。俺と問答しようってのかい」
「いいえ」
ぶんと振り込まれるアナスタシアの腕。
鋼のような腕が、ジャッキーの顔面を狙った。
それを素手でキャッチし、ジャッキーはぎりぎりと握りしめる。
「『あなたのようなもの』は、力尽くで黙らせるほかないですから」
ジャッキーの後ろについていた部下たちが、それぞれライフルや軍刀を抜いて構える。
彼らの動きはチンピラのそれではない。訓練された兵隊の動きだ。
それでも、なお。
ジャッキーを牽制し飛び退くアナスタシア。
ヴァレーリヤを見て、こくりと頷いた。
「イレギュラーズの皆さん。依頼を追加してもよろしいですか。勿論コインは上乗せで」
それはもう、言うまでも無く。
- クラースナヤ・ズヴェズダー完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年02月05日 21時55分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●クラースナヤ・ズヴェズダー・革命派教条
蹴り転がされるアルミ製のゴミバケツ。軽い音がプアメタル地区の公園跡地に反響した。
いきをのむ声すら聞こえそうな、恐怖と不安による沈黙。
スラム育ちの貧しい者たちは暴力支配におびえ、その対象である『アイアンフッド』ジャッキーの視線と存在に対し服従の態度を取っていた。
「…………」
『静謐なる射手』ラダ・ジグリ(p3p000271)はそんな空気を肌に感じ、そして嘲笑するジャッキーの部下たちを見た。
「ジャッキーさんに逆らうのがどういうことか分かってんのか?」
「どうやら早死にしたいらしいな」
構えたライフルが『聖女』アナスタシアへと向いた。
その時である。
ラダの懐に入っていたピストルの鋭い射撃が、ライフルを持った部下のよこを掠めていった。
「コインの上乗せがコールされたんだ。見合った仕事をしなければな」
「一緒に死にたいってか? 上等だ」
部下たちとて訓練を受けた元兵士。射撃にひるむどころか即座に対応し、ラダめがけてライフルを連射してきた。
が、訓練を受けたというならこちらも同じ。
「殺せるものなら」
『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)の誇る鋼鉄の腕が弾を弾き、わずかにスライドした隙間から片目を覗かせた。
「我々の任務はあくまで炊き出し。彼らに暖かいスープを配ること。そのために狩るべき稲穂が……いいえ、かきだす泥が増えただけであります」
「ま、コインが上乗せされなくてもやっちゃうけどね!」
『青き鼓動』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)は剣を抜き、青い刀身を陽光に反射させた。
「こんなの捨ててはおけないよ。ジャッキーだかジャーキーだか知らないけど、みんなお腹空いてるんだから! 今すぐ帰って貰う!」
チッ、と舌打ちしながらサーベルを握り込む部下たち。
彼らが広い場所へ躍り出たシャルレイスを取り囲もうとするのを、『義に篤く』亘理 義弘(p3p000398)がゆっくりと歩いて割り込むことで牽制していく。
眉間に皺を寄せ、義弘をにらみ付ける部下たち。
対する義弘はひるむことなく部下たちを見回し、吐き捨てるように言った。
「どうも、炊き出しのまえにチンピラどもを片付けなきゃならねぇようだな」
「力による支配構造はともかく、暴力支配は感心せぬよ、な」
『解華を継ぐ者』エリシア(p3p006057)が拳に自らの炎を纏わせるように発生させると、それをエネルギーグローブへと変化させた。
「なんだ? その構え、どっかで……」
「が、力に屈服するしかないというのは分かりやすくていい。要するに、貴様らを屈服させればいいのだろう?」
突如始まった物騒な流れに、炊き出し用のおたまを握っていたフィリア・G・ユグドラル(p3p006965)はどう出るべきか迷っていたようだが……。
(『アイアンフッド』ジャッキー……粗野な方。力を持つことは悪いことではありませんが、弱者を虐げるために使うのは許せませんね)
おたまを鍋にひっかけ、火を止めて蓋をすると、フィリアもまたエリシアたちに加わった。
「助太刀します。力とは。剣とは、護るために振るわれるべきなのです」
まだ握るべき剣はありませんが、と魔法のことばを唱えるフィリア。
そんな彼女を守るように、『アニキ!』サンディ・カルタ(p3p000438)が前へと出て行く。
「スラムを支配するのは結構だが、そんな様子じゃ自分ごと飢えるだけだってのに。そこが分かんねぇんじゃどのみちダメだな、あんた」
アナスタシアの拳をぎりぎりと受け止めていたジャッキーが、彼女を振り払うように腕を振った。
飛び退くアナスタシア。
「皆さん……いいえ、同志。引き受けてくださるのですね」
「わたくしは、勿論はじめからこうするつもりでしたわ」
『祈る暴走特急』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)が、聖句の刻まれたメイスをホルダーからはずして構え、アナスタシアの横へ並んだ。
「一応聞いておくけれど、今から泣いて謝るつもりはあるかしら?」
答えなど聞いていない。
ぶつかる運命は、もはや決まっているのだ。
祈れ。正しき歩みを信じて。
「「『前進せよ。恐れるなかれ。主は汝らを守り給わん』!!」」
●暴力のありかた
「『クラースナヤ・ズヴェズダー』か……革命派の連中はこれだから困るぜ。ここにはここのルールってもんがある。俺に逆らうと死ぬ。そういうルールだ」
「従わないと言ったら?」
オーラソードを抜いて立ちはだかるサンディ。
「従わせるんだよォ!」
コートのポケットに手を入れたまま、豪快なキックを繰り出してくる『アイアンフッド』ジャッキー。
回避。いや、間に合わない。防御をしようと翳した盾ごしに、凄まじい衝撃がはしった。
サンディは派手に蹴飛ばされ、積み上げられたよく分からないがらくたの中へと突っ込んだ。
興味を無くして進もうとするジャッキー。だがそれを、『聖女』アナスタシアが差し止める。
「どけよ。同じ目にあいたいのか?」
「同じ? 我が同志サンディを甘く見てはいませんか」
アナスタシアに言われ、ちらりと背後に視線を送るジャッキー。
頬に傷を作ったサンディが背後をとり、剣を突きつけていた。
「そこを動くんじゃねえよ。暫く遊びに付き合ってやる」
「てめぇ……」
にらみ合うサンディとジャッキー。
エリシアはそんな彼らからやや距離を離しつつも、サンディの折れた骨や潰れかけた臓器を神の炎で活性化、強制修復していた。
ある世界で火の鳥は不死身の象徴であったというが、エリシアの炎はそれに近い神格であった。
エリシアは翳した手のひらに赤と青の入り交じった炎を螺旋状に吹き上げさせながら、しかし穏やかに言った。
「これは神の篝火だ。突風が吹いたとて消えることはない。少なくともこの戦いが終わるまで、私の炎が消えることはないと思え」
「だったらテメェごと殺せば済む話だ!」
サーベルを鋭く突き込んでくるジャッキーの部下。
さすがに訓練を積んでいるだけあって凄まじい速度と正確さでエリシアの胸を狙う――が。
「それを」
間に割り込んだヴァレーリヤの肉体が、サーベルを受け止めた。
細長いサーベルがヴァレーリヤの腕を貫くが、腕に力を込め絡めるように押さえつけることで、逆にサーベルを引き抜くことを許さなかった。
「『主よ、天の王よ。この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を。どうか我らを――』」
ヴァレーリヤのメイスに刻まれた聖なる文字が炎の輝きをもちはじめ、ヴァレーリヤの瞳にも同じ輝きが灯った。
まずいと察した相手が剣を強引に引き抜いた、が。
「『憐れみ給え』!」
ヴァレーリヤが炎の渦を走らせるほうが早かった。
相手を包み込んで走る炎のうず。
それは離れた場所でぶつかり合っていた義弘たちにも波及した。
咄嗟に飛び退き、道をあける義弘。
一方で義弘と戦ってた部下のひとりは、予期していない方向からの炎に巻き込まれ大きな円形シールドで攻撃を防ぎにかかった。
「ヤクザってのはカタギの皆さんに飯を食わして貰ってる生き物だ。お前らと大して変わらねえのかもしれねえが……だからこそ」
防御に気を取られている相手に、義弘はゆっくりと近づいていく。
更に防御を固めようとする相手の身体を、がしりと掴んだ。
「漢(おとこ)を張るんだろうが!」
強引に叩き込まれた義弘の拳が防御を貫き、相手を派手に吹き飛ばす。
盾を落として転がった所へ、義弘が追撃のように引っ張り起こす。
襟首を掴み、持ち上げる。
そんな彼のもとへライフルの射撃が浴びせられた。
直撃――はしたが、ゆらぐことなく振り返る。
「チッ」
ライフルを撃ったのはジャッキーの部下。ファウルという黒いローブの男だった。
物陰から射撃し、物陰に隠れる。そんな彼が再び射撃をしようと身を乗り出したところへ、唐突な銃撃が浴びせられた。
建物の二階。割れた窓縁から対戦車ライフルを突きだしたラダによるものだ。
射撃ポイントを捨てて走り出すファウルに、ラダは連続で銃撃を打ち込んでいく。
建物の屋内に飛び込んだファウル。同じく屋内に潜り込んでいた別の部下から治療キットを受け取り、反撃を始めた。
魔法によるガトリング射撃。
ラダは急いで身を伏せ、射撃をやりすごす。
「回復持ちと範囲持ちがいるが……分が悪いな。都合よく潰させてはくれないか」
そこへ、同じく治療キットを持ったフィリアが駆け寄ってきた。
植物で編んだバスケットから取り出した薬草を握りつぶすと、治癒と活力の輝きを手に纏い始める。
それをラダの傷口や背中へと押し当てた。
「助かる。鍋は下げて置いてくれたか?」
「はい。終わったら続きをしなくちゃいけませんから」
「……そう、だな」
ラダは手榴弾のピンを抜き、脳内でカウントしてから放り投げた。
相手の建物内に飛び込んだ手榴弾が、間もなくして破裂する。
爆発にゆれる建物内。
シャルレィスは二人組を相手に戦っていた。
「ほら、こっちだよ!」
ショットガンを水平撃ちしてくる相手に対し、風を纏って廊下をジグザグに走っていく。回避や防御にまわすリソースはそれほどないが、直撃をさけるだけなら充分にできた。
刀をもった相手が急接近をかけてくる。
シャルレィスは反転。風を纏った剣が刀を打ちはじき、激しい金属音が屋内に響いた。
(私は宗教とかはよくわからないけど、戦う人間の方が偉いなんて思わない。この剣を、防具を作ってくれた人がいて、食べ物を作ってくれる人達がいるからこそ、戦えるんだもん。みんなそれぞれ役割が違うだけ。だから――)
弾きあった一瞬。シャルレィスの動きが加速する。
「私は剣として、守るべきものを守るんだ!」
相手の腕を、青白い閃光が切り裂いた。
●剣は力となりて
剣の打ち合う音が灰色の通路に響く。
割れ窓から入る日差しを浴びて、シャルレィスは飛来する銃弾を打ち払った。
片手を強制的に止血した剣士が、左手だけで刀を掴んで突撃をしかけてくる。
恐ろしい速度で繰り出される連続攻撃を、シャルレィスは一歩ずつ後退しながらしのいでいく。
(攻撃が集中しはじめた。この二人、私を倒すつもりだ)
ジャッキーの部下たちはそれなりの戦闘力を持っていた。
相手の主力(ないしは首魁)であるところのジャッキーを押さえるためにアナスタシア、サンディ、エリシア、入れ替え候補にエッダ……と実に3.5人のリソースを割く一方で、切り離した部下たち8人の対応に残る5~6人を当てる形が出来ていた。
ジャッキーたちとしては、ジャッキーを起点に部下全員で集中攻撃を浴びせていけばサンディたちを一人ずつ倒すことも出来たはずだが、イレギュラーズたちを侮ったのかそれとも元からジャッキーが一人遊びを好んだからか、特に工夫をすることもなく切り離しが完了していた。
しかしその考えも、部下たちの中で少しずつ改まりつつある。
(サンディたちの元へ向かわせちゃだめだ。ここで決着をつけないと……!)
シャルレィスはキッと相手の剣士をにらみ付けると、暴風を纏って突撃した。
反撃が来る。が、避けない。
自らの身体を剣が貫いていくのを感じながらも、自らの剣を相手に突き刺していく。
相打ち。
では、ない。
シャルレィスは剣から吹き出した風の魔力を爆発させ、相手の剣士を吹き飛ばした。
窓枠にぶつかり、野外へと転がり出ていく剣士。
「こいつ、思ったより――!」
ショットガンの水平打ちをしかけてくるもう一人の部下。
かわすほどの身体能力は残っていないが。
それでいい。
シャルレィスはニッと笑って腕を広げた。さあ撃つがいいといわんばかりだ。
直後、銃声がした。
ショットガンの音と、ラダの対戦車ライフルの音だ。
シャルレィス一人のリソースを限界まで使い切ることで、二人を倒すことに成功したのだ。
「この好機、無駄にはしない」
ラダは再び狙いを相手のライフル使いにシフトさせた。
ラダたちは相手の回復担当らしき人物を優先的に狙う計画を立てていたが、相手の回復担当が最初から分かっていたわけではない。加えて、敵の前衛チームがマークをかけながら攻撃を仕掛けてきたことで回復担当へ攻撃を集中させずらく、攻撃対象が分散していた。
シャルレィスが作ってくれたのはその苦境をひっくり返すための隙であった。
「援護する。走って!」
鋭く声をあげるラダ。
義弘はそれまで殴り合っていた敵を蹴飛ばすと、一目散にラダの指示する方向へと走った。
敵はライフルでもって射撃。
治療キットを抱えた敵も拳銃を抜いて乱射してくる。
ライフル弾の直撃を受けた義弘は転倒するが、根性で再び走り出した。
退く選択肢もあるが、ここで退くとジャッキーから離れすぎる。
敵は窓枠を飛び越え、決死の突撃に出た。
ライフルを義弘めがけて乱射。しかる後銃底で殴りつける。
義弘はまたも直撃をうけたが、構わず相手の顔面に拳を叩き込んだ。
ガードが落ちた。
「弾を」
「はい……!」
ラダの銃が弾切れを起こす。フィリアが素早く予備弾を投げる。
リロード。
相手のヒーラーらしき人物の頭を吹き飛ばす。
その直前、彼の手から回復薬と思しき物体がジャッキーの手元へと飛んでいった。
「死に際に仕事をしたか……。先へ行ってくれ」
ラダのジェスチャーに応え、フィリアが頷きながら階段を駆け下りていく。
一方。義弘はがくりと膝を突いていた。
「無事か」
「生きてはいる」
エリシアがかけより、癒やしの炎で義弘の身体を包み込んだ。
完全回復とは流石にいかないが……。
「助かったぜ。仕上げといくか」
義弘はごきりと首をならすと、飛びかかってきたジャッキーの部下にカウンターの回し蹴りを繰り出した。
あばらと内臓を破壊された部下の男は吹き飛び、がらくたの中へと突っ込んでいく。
「……チッ。遊びすぎたか」
そこへ至ってようやく、ジャッキーは自らがきわめて不利な状況に立たされていることを自覚した。
「どうだ愚か者? より強い力で屈服させられればそれでお前は満足か?」
手から炎を上げるエリシア。
これまで必死に攻撃をしのぎ続けたサンディやアナスタシア。
……そして他の部下を殴り倒して顔面に追撃のパンチを入れたエッダが、ゆっくりと振り返る。
退路は既に失われている。
それを狙ったのかどうかは定かで無いが、『一人きりになってもジャッキーを逃がさない』という意味において、今回の作戦は大いにハマッたのだ。
「因果応報。弱肉強食。いや、どちらも違うでありますな……」
エッダは片手の拳を引き、手のひらを軌道上に添える。ロケットとそれを打ち出す筒のように構えると。
「自業自得、であります」
勢いよく飛び込んだ。
迎撃のキック。
それを見越した鋭いパンチ。
蹴りと拳が衝突し、ごがんという激しい金属音が鳴り響く。
あまりに重々しいゴング。
飛びかかる義弘とフィリア。
覚悟の拳と誓いの力がそれぞれひとつになり、ジャッキーの顔面を打った。
のけぞるジャッキーに、エリシアとラダによる集中砲火が浴びせられる。
「シャルレィス、ちょっと借りるぜ!」
サンディは剣を大いに振りかざすと、風の精霊を渦巻くように纏わせた。
ジャッキーは咄嗟の防御。しかし間に合わない。
豪快な打撃によって、ジャッキーは廃墟の塀を突き破って転がった。
「ハハッ、なんだよ。雑魚のご機嫌取りなんかしてるから雑魚仲間かと思ったら強えじゃねえか。おい、俺の部下になれよ。この町で好き放題でき――」
起き上がるジャッキーの顔に、燃えさかるメイスが突きつけられる。
聖なることばが光となって、ヴァレーリヤを包み込む。
同じく、アナスタシアの握り込んだ拳が光りに満ちた。
「『如何な犠牲を払おうとも戦わねばならぬ場面がある。子らよ、今がその時である。我らの主を疑うなかれ。信を持ちて進み凶暴な敵に当たれ。恐れるなかれ。神は我らと共にあり。我らの屍の先に聖務は成就されるであろう』」
「『主よ、力なきは罪なのですか。主よ、何故この子が吹雪に凍え、飢えて死なねばならなかったのですか。私はこの子に一欠片のパンすら与えられなかった。主よ、この子の死が無駄でなかったと仰るならば、どうかその証を』」
祈りが終わるまで、ジャッキーは一言も続けることはできなかった。
光に圧倒され、そして包まれ、跡形も無く消え去るまで。
力の美しさと、その意味について、死の直前になってやっと……理解した。
●革命の朝はいつかくる
「今日は助かりました、同志」
握手を求めるように手を出すアナスタシア。
ヴァレーリヤは当然のことをしたまでですわと首を振り、シャルレィスや義弘たちも同意するように頷いた。
そんな中で、黙って背を向けるエッダ。
「クラースナヤ・ズヴェズダー革命派……鉄帝国に徒なす存在。この先敵になっても味方になっても、面白そうでありますな」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お帰りなさいませ、イレギュラーズの皆様。
スラム街での炊き出しにトラブルがおきたと聞きましたが……どうやら心配はいらなかったようですね。
クラースナヤ・ズヴェズダーの革命派筆頭司教とも打ち解けたようで……なによりでございます。
鉄帝国の未来、まだまだ分かりませんね。
GMコメント
【これまでのあらすじ】
鉄帝で活動する宗教団体『クラースナヤ・ズヴェズダー』の司教アナスタシア。彼女の依頼で炊き出しの手伝いをしていたイレギュラーズは、現地で力を持つ『アイアンフット』ジャッキーとその手下たちとの戦いに巻き込まれました。
アナスタシアはその場のイレギュラーズに加勢を依頼。
いま改めて、暴力支配への抵抗が行なわれようとしています。
【シチュエーション】
炊き出しが行なわれているのは古い公園跡地。
雑草だらけでかつての風景は喪われ、家を失ったスラム住民たちが身を寄せ合う場所となっています。
この場所で今日、炊き出しボランティアが行なわれていました。
それをおもしろく思わない『アイアンフット』ジャッキーの乱入により、現場は一転して戦場となっています。
炊き出しを求めてきていた住民たちは戦闘の被害が及ばないところまで下がっています。
『アイアンフット』ジャッキーに抵抗すれば殺されると思っているので、皆絶望的な気持ちになっているようです。
【味方データ】
・『聖女』アナスタシア
豊富なHPと【反】能力を持ち、やや高めのヒールスキルを備える。
自己を回復しながら只管突っ込んでいくタイプのヒール&アタッカー。
ただし取り囲まれると弱いので、一人で突っ込ませず積極的に連携していくととても頼りになる。
【エネミーデータ】
・『アイアンフット』ジャッキー
鋼の足を持つオールドワン。高い回避と防御、そして防御依存の攻撃スキルを持っておりとても手強い。
他の部下たちを個人の暴力で支配できる程度に戦闘力がある模様。
・部下たち×8人
ライフル、拳銃、軍刀、ナイフなどで戦うジャッキーの手下たち。
過去に兵隊としての訓練を受けており、個々人の戦闘力もなかなか。
※ジャッキーの背景
戦争で小隊を率いていたが、補給のために村から略奪を行なった際に略奪の快感に目覚める。
その後問題を起こして軍を抜けたが、同じ趣味をもった兵隊たちを従えてスラム街で暴力支配を行なっている。
【アドリブ度】
ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。
Tweet