シナリオ詳細
鉄帝ふぁんたじー物語<荒ぶる人魚姫編>
オープニング
●それは海辺の恋
荒ぶる波が酷過ぎてまるで漁をする事も出来ない、モンスターすら闊歩する、名も無き浜辺。
鉄帝北部の崖に面したそこで漁業など見込める筈も無く。
冬季に至っては吹雪に包まれ人の姿が在る筈も無し。
如何に屈強な鉄帝の男だろうと、この海に誰が来るものか。身投げならばうってつけか。
しかしそんな事は金魚のフンの餌にでもすればよいとばかりに荒波から咆哮が上がる。
「フンッ!! ハッ!!」
突き刺すような冷たい海の中から突き出し、飛び出す丸太。
「HAW!! AHAN!!」
荒れ狂う大波を貫き、駆け行く砲弾。
──否、否。
”彼等”のそれは丸太や砲弾などではなく、逞しい剛腕が荒波を文字通り力とパワーとSTR値で制しているだけだった。
そしてそれは一つでは無い。一人のモノではない。
(ヌゥ……!! この荒い海の中で女!? 溺れているのか!? それとも、いや、まさか!?)
(Hmm……こんな冷たき海にて殿方が泳ぎける事有り得なし……救い手が必要なりけるのかしら)
出会ってしまった。
二人の男女が、運命の出会いが、猛吹雪と大津波連打する荒波の中で果たされてしまった。
これは今から二年前、鉄帝北部の崖から離れた名も無き海の中の出来事であった。
●なんだ今の冒頭の回想
依頼人が轟雷の如き低い声で語った『なれそめ』は、イレギュラーズの目を死んだ魚のような姿にするには充分だった。
「嵐の中、この俺にスーサイドアタックさながらにかましてきたタックルは中々の威力であった。
この! 俺ッ!! トスパホールゲッティマト・ブチマッケ男爵を退かせるほどだァ!!」
誇張に筋肉の膨張からのダブルバイセップス。2セット特盛一丁。
衝撃波が応接室内を揺るがす中、イレギュラーズは「はい」とだけ答える。
「それで、その海種の奥方といま喧嘩中だと」
「全くその通り!! ……痴話喧嘩というやつだ。スケールの小さな女々しい話で情けないが、城の……ひいては領地全体の危機である」
危機の規模は壮大だった。
このスパゲッティぶちまけ男爵は数日前、妻のアリエナィスに浮気を疑われた末に口論となり。遂にはボコボコにされてしまったのだ。
その証拠に見上げような背丈の彼は額に大きなバンソーコーをバッテンに貼りつけている。疑わしい事に重傷の診断らしい。
しかし当の彼を打ち負かすだけでは飽き足らず、数日後幾人かの手勢を引き連れて城を襲うと宣告したのだという。
あぶない薬というよりも超人化薬でも摂取してそうな筋肉が敗北する程の相手。イレギュラーズは息を呑んだ。
「……失礼を承知で伺いますがその話の真実は」
「勿論誤解だ。偶然、私の妹が顔を見せて来たので少し領地をエスコートしてやったまで……妻は、その時は別件で忙しそうにしていたので連絡を怠った事が原因で怒ってしまったのだろう
あれは嫉妬に狂うような女ではないからな。まさか本気で浮気を疑っているわけではないだろうと俺は言ったのだが照れ隠しにビームを撃たれてしまった」
奥さんはビームが撃てるらしい。イレギュラーズはメモした。
「このままでは妹だけでなく領民にまで迷惑がかかる。事は単純な話、俺が原因の痴話喧嘩に過ぎぬ! 兵を動かして大事にはしたくないのだ。
であるならば……先日の戦事では色々と世話になったと聞く諸兄等にこの問題の解決、または迎撃を依頼したい!!」
どうかこの依頼を受けてくれ。そう言った彼は頭を地面に勢い良く打ち付け、イレギュラーズ達も一緒に階下へと崩落して行ったのだった。
- 鉄帝ふぁんたじー物語<荒ぶる人魚姫編>完了
- GM名ちくわブレード(休止中)
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年02月01日 21時20分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●寒い、冷やす。
風吹けば水滴も凍る、猛烈な吹雪が覆う空の下。
荒波が唸る度に水平線上で白い噴煙が広がるのは、混沌でも早々見られる物では無いだろう。
しかして使命を受けた者達にとって、事実をそのまま飲み込むしかないのだ。
「うーむ、自分も鉄帝長いでありますがまだまだ懐が深いでありますなあ」
低温下ゆえに体内を巡る熱気が白んだオーラとして見えてしまうのを無視し、『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)は雪が降り積もっている浜辺を見渡す。
視界も悪ければ足場も悪い。
過酷な環境下への耐性ある者はともかく、諸々の精度を落とすだろう。尤も、それで泣きを言う者は一人もいないのだが。
「地球とやらから来た旅人達の格言ではこう言うらしいな? ……夫婦喧嘩は犬も喰わぬ、だったか。
犬が喰わぬからと言う訳ではないが、夫婦喧嘩の仲裁役の御鉢が回ってくると言うのも、何だかな」
くたびれる事必至の割を食う依頼に眉を潜める『白山猫』リュンクス(p3p006839)は「仕事だから真面目にやるが。うん」と頷く。
「犬も食べないものを担当したくは無いけれど……あそこまで頭を下げられてしまうと断れませんわよねー」
ブリーフィング後の崩落事故を思い出す『祈る暴走特急』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)もそれは同じく。
「あー、何ともうちの国らしい夫婦喧嘩だな。俺の両親の喧嘩でも家が吹っ飛ぶんだから貴族様のレベルともなれば……さもありなん」
「痴話喧嘩も鉄帝であればこうなるのであるな! いやはや闘争の機会に恵まれるは幸運であるが、痴話喧嘩は美少女も食わぬというもの。
大体敵前逃亡は美少女道不覚悟である。正さねば」
一瞬、オールドワンよりも逞しい姿で耳を疑う美少女語録が飛び出したが、恐らくは吹雪のせいだろうとヴァレーリヤは頭を振った。
『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)が降り積もる雪を踏み抜くのを『俺の冒険はこれからだ』クリストファー・J・バートランド(p3p006801)は遠巻きに眺めている。
今は良い所、寒さが敵だが。生身では渡る事も叶わないような荒れ狂う波を越え、怒れるデストロイ人魚姫が襲来するのだ。
聞く限りではその怒りの理由は何ともありがちな痴話喧嘩だという事。
イレギュラーズが目にした依頼人の様子では誤解から招いた事態だという事は確かだろうが。
「なんとなく、わかる。奥方さまは既に浮気については疑ってなどいません。けど、一度振り上げた拳を下ろす場所も見つからなくてこんな事に……乙女ですね
つまり私達の立場は、その拳の落としどころというあたり。ついでに、ただ体を動かしたいという意図もあるかもしれません」
「よーするに、誤解してる奥さんとそのオトモを止めればいいんだぬ? ゼシュテルらしく鉄帝的にいくんだお!!」
髪にへばりつく大粒の雪結晶を掃い落としながら『圧倒的順応力』藤堂 夕(p3p006645)はしきりに足元を動かす。
彼女の声に「うおー!」と腕を振り上げているニル=エルサリス(p3p002400)は例に漏れず、相手がマッスルと聞いて相応の気合いを入れて臨むつもりのようだった。
この場に集まった8人はいずれも、海岸線に対して直線上に並ぶ者はいない。
既に依頼人から聞かされている限りでも敵である『アリエナィス』は遠距離戦能力、近接膂力。僅かに散開した状態で迎撃するのが最善と判断しての作戦であった。
――――ッ……ドンッ……
「……この音色は」
荒波で白く染まる水平線の彼方から暴風の中で轟く、雷雲が如き音に百合子は気付いた。
聞き慣れた太鼓だ。
浜辺に展開していた一行が首を傾げる最中、波打つ水平線上にその音色の正体が露わとなる。
――――ドンッ! ドコドコドコッッ!! ドンッドコドコドコッッ!!!
「アアアァァーー!! アィニードゥモァパゥワァァアァアアァッッ!!!!」
――――ドンッ! ドコドコドコッッ!! ドンッドコドコドコッッ!!!
「ソオォォーー!! ギブミィモァパゥワァァアァアアァッッ!!!!」
「吻ッ!! 破ッッ!!」
「噴ッ!! 覇ッッ!!」
筋骨隆々の大男達が互いに抱き合い、組み付き、己が身で小舟を模した筋肉達は後部で水を蹴る役の者達が居る事で魚雷さながらの速度で荒波を貫いて駆け抜けていた。
小舟の上で翼(鰭)を広げる大男達は太鼓を打ち鳴らし、戦女神を讃える唄を雄叫びと共に大男達を上回る巨躯の女が絶叫している。
間違えようはずも無く、彼女こそブチマッケ男爵の妻アリエナィスだった。
●世界で一番人魚姫様
海を渡るマッスル達を遠目に見つつヴァレーリヤは引き気味に一歩退く。というか引いた。
「滅多に見られない光景だけれど、絶景とは言い難いですわね……」
「ふっ……やれやれだぜ……」
「何だかハードボイルドな顔つきに!?」
夕は天を仰いで「フッ」とキメるが、空に何が広がっているのかすら分からぬほどに吹雪いている環境だ。眼球に雪が入って蹲る。
それはそうと。いよいよアリエナィスとイレギュラーズ、互いの間合いに入る頃合いである。
太鼓の音は既に鳴り止み、ニンゲン魚雷の上で仁王立ちしていたアリエナィスが眩い閃光を放っているのが見える。
しかも、こう、光が収束する感じのアレだった。
「やべー奥さんのビームが来るおー!!」
ニルの警告と同時、その場からクリストファーがエッダと前へ出て行く。
しかし一同が動いた刹那。イレギュラーズの全身に鱗粉のような光の粒子が降り注いだ。
粒子の発生源は散開した彼等の中央。
「オーッホッホッホッ! 一途な恋は可愛らしいものですが、一途な誤解は解かねばなりませんわね! さあ、このわたくしっ!」
高らかに奏でられる様式美の旋律。
揮われる指パッチンはタクトが如く、舞う可憐なその姿は乙女の持つ優美で優雅な偉大なる祖先が伝えて来た、生けるアーティファクトの様に。
\きらめけ!/\ぼくらの!/
\\\タント様!/// <「タント様ー!」
「──が! 再び愛の花を咲かせてみせますわーー!」
何処からともなく拍手喝采大歓声が沸き起こる! 特にヴァレーリヤの辺りから!
その身から煌めきを、その高らかに謳う悠然不敵で素敵な声の主。『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント(p3p006204)が戦闘開始と同時、仲間達に何らかの意気を高揚させる。
きらめきを受け取ったヴァレーリヤが、夕が、百合子が構える。
「『主よ、天の王よ。この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を。どうか我らを憐れみ給え』」
煌めきに次ぐ閃き。
紡がれる聖歌の一節が不可視の帯となってメイスを包み。今、ヴァレーリヤの手の中から溢れる業火となって振り下ろされる!
吹雪の最中を貫く紅蓮の濁流が海上へと雪崩れ込んで行く。
「なんと物騒なのかしら。貴婦人を出迎えるというのに馬車も無く、燭台をひっくり返して見せるとは」
「てめえらッ!! 姐さんを守れィ!!」
「ケツの穴締めろや、くるぞぉ!!」
物の見事に炎の渦に呑まれる筋肉船・ウイリーマッスル号。
しかし小舟となっていた男達が一斉に盾となり、アリエナィスを完璧に守り切って見せたのだ。
「──私の夫君はこの様な野蛮な輩を雇い入れてしまったのね、余程この私が怖いと見えたるの」
焦げた手下のマッスルを踏み台にして跳ぶアリエナィス。
今の攻撃を受けて警戒したか、幾人かの手下は水中へ逃れたようだが。しかしそれをただ見ているだけではない。
「少ーし暖かくなったかも! 来た来た、行きますよ!」
追い打ちをかけるべく、夕がその手を一閃させた瞬間。彼女の眼前から鉄巨人が飛び出す。
大質量の顕現。海上へ叩き付けられる巨体によって巨大な水柱が突き立った。
間もなく霧散していく顕現物を前に、数歩。百合子が出る。
「いざ」
「Hmm……!」
余波で押し寄せる海水が足元を濡らすのも無視する百合子の構え。アリエナィスはその腰元で溜める拳の存在に気付き、収束を終えた光線の照準を一点に絞り込んだ。
水飛沫。筋骨隆々の大男達が水中から遂に陸上へと飛び上がったその瞬間、海岸線で閃光が衝突した。
否。百合子の放った美少女ビームが、『下々の者への愛ビーム』を打ち砕いてアリエナィスに手傷を負わせたのである。
「これは、この力は、そなた達もしや……夫君はたかが浮気を揉み消す為にローレットを頼ったと言いけるの!?」
「アリエナィス様は! トスパホールゲッティマト様のことを好いてらっしゃるのでしょう!
であれば分かるはず! 氏が浮気などするような御方とお思いですかッ! 愛する人を本気で信じられないと仰るならば、わたくし一寸怒りますわよ!」
「───!」
タントの怒声が木霊する。
その時、僅かにアリエナィスの動きが止まるが──一時の揺さぶりに動じる気質ではなかった。
しかし、これによって数秒巨躯の人魚姫を止めた事は間違いない。
「我らが鋼の筋肉の美しさ、『肉の秘密』に到達せし伝道者たるアリエナィス姐さんになんつー無礼な!」
「まったくだ……ッて、ぶべらァ!!?」
タントめがけ駆け抜けようとしたマッスルが一人、紙切れの如く吹雪に舞う。
ザン、と立ちはだかったのは騎士(メイド)の名を掲げし者、エッダの姿。
「片腹痛すぎて泣いてしまうでありますよ。この見せ筋どもめが。真の筋肉とは裡にて静かに潜むもの。真のゼシュテル筋を見せてやるであります……
さて自分は今何回筋肉って言ったでしょうか!! 正解した方には鉄拳をご馳走するであります。惜しくも不正解の方には参加賞として鉄拳をプレゼントであります!」
「何回……!? 筋肉しか聴こえていなかった……」
「待て、冷静に考えろ。筋肉しか聴こえていないのなら一度しか言っていないのでは?」
「ご馳走してくれると言っていたが」
「筋肉メイドのご馳走か、ささみのプロテインゼリー閉じかな?」
円陣を組んで相談し合うマッスル達の一人の肩へぽん、とエッダは手を乗せる。
「んんーんー。プレゼントのお時間でありますが、ひとつだけ」
「おお、やはり正解はささみジュース……
「騎士だから、メイドじゃねーっから」
螺旋状の衝撃波を撒き散らして吹き飛ぶマッスル。
表情こそ見えずとも怒気を滲ませたエッダの拳が唸り、瞬く間に二人の大男が錬鉄徹甲拳の餌食と化す。
「ッ噴……!」
巻き上がる土砂混じりの雪。そのカーテンを突き破り繰り出される筋肉に物を言わせた強打がエッダを、
「おっとその上腕三頭筋からの肩甲挙筋の鋭角なカーブは犯罪だお~」
「はむナプトゥらァッ!?」
打ち抜く寸前。クロスカウンターさながらのニルの割り込みがストレートにマッスルへ突き刺さった。
メギャァという壮絶な音から続いて大男が錐揉み回転する姿に他の手下達も息を呑む。
だが、そこへ。
「随分と余裕なりけるのね、メイドの分際で。分を弁えなさいッ」
突如飛来する巨躯の筋肉乙女。
「メイドじゃねーってんだろ……!」
爆撃の様な炸裂音が鳴り響き、衝撃が地を揺るがす。アリエナィスから繰り出された手刀をエッダは正面から受け流したのである。
「あら、随分とご立腹なのね。それだけ愛が深い、という事なのかしら? でもそろそろ本当に……ッ!」
横合いから飛び込んで来た手下を相手取るヴァレーリヤが再び業火を纏って迎え撃つ。
その刹那、深い亀裂を刻んだ筋肉乙女の隙を狙うクリストファーが打撃を見舞う。
(硬……ッ!?)
一呼吸の間のコンビネーション連打でさえ崩せない。その堅強さ、抵抗力に驚愕する。
エッダから迸る怒気を無視していたのは鍛え上げた芯の強さによるものだったというのか。クリストファーが顔を上げる。
石膏像の様な彫りの深さと艶のある肌は、確かに『人魚姫』を自称するだけの事はあった。
そんな事を思った矢先、彼を横殴りの一撃が襲った。
「クリストファー様!」
「しゃォラァァッ!!」
タントへ襲いかかる筋肉達。
次の瞬間、戦況は混戦を極める事となる。
●泡沫の一頁
────戦場に降り積もっていた雪は既に土砂に塗り替えられている。
「それにしても浮気に怒って大暴れとは、夫婦仲自体はよろしい様で。結構な事だが、お熱いが過ぎて暑苦しい……!」
「同意だぜ。夫婦喧嘩っていうのは誰にも迷惑かけない所で二人きりでやるもんなんで。頭に血が上り過ぎたっていうならちょいと此処で下げときましょうか……ねッ!」
掴み掛って来た男とニルが地面を滑る上を飛び越し、駆けるリュンクスの行く手を阻む手下の腕を取って瞬く間に絞め落とす。
地に膝を着くエッダに寄り添うタントに迫る変態を背中から夕が召喚物で殴り飛ばし、鉄腕の真下を白猫が潜り抜ける。
業火の絨毯が広がる瞬間、黒刃を一閃させて動きを止めた手下を足場に彼女は跳んだ。
猛る吹雪。滾る血潮。燃ゆる乙女たち。
「──その血の昇った頭を冷やして頂こう」
「Haaahhhhhh……!!」
最早人体が齎す音ではない。
咆哮と共に踏み込み、全力で振り抜かれる丸太の様な剛腕による猛攻。アリエナィスの巨体が一歩踏み込む度に砲撃の如き爆音が響いていた。
そんなバーサク全開淑女が対峙しているのは。
「シッ……!!」
何倍も体格差のある相手を前に一歩も退かず。金剛石の塊を思わせる拳と打ち合っている百合子が、無言でその細い体躯を奮っていたのだ。
人妻の妖しいフェロモンを塗り替える百合の香り。それはロリババア肉に添えられる香草のよう。
そこへ、水を差す輩は出て来る。
「姐さん……!」
百合子の後ろを取った手下がアリエナィスへ目配せをする。ここまでが……”リュンクスが跳んだ刹那の出来事”である。
「獲った」
「はッ!? な、がはァッ……!」
二刀の黒き刃が対閃を放った瞬間、手下の拳は百合子へ届く事無く沈んだ。
「夫婦喧嘩の始末の為に死人を出すのも阿呆らしい。オマエはそこで寝ていろ」
筋肉達磨を蹴り上げてから再びリュンクスは駆ける。まだ、手下は残っているからだ。
(アリエナィス女史は後だ、後。今はエッダと百合子が相手をしている)
「この、しぶといマッスル共……! どっせえーーい!!!」
ヴァレーリヤの叫びが轟いた直後にリュンクスの眼前を転がり横切る手下の男。否、凄まじい力技で突撃したヴァレーリヤに貫かれ身動きも出来ずにそのまま吹き飛んで行った姿だった。
たぶんイレギュラーズとも渡り合えそうな筋肉達磨達が正面からパワー負けしている図。ハレルヤ!
「はあ……はあ……そろそろ、気付いてるんじゃないでありますか? この闘いの無意味さを」
「ッ……何を」
百合子と並んで殴り合っていたエッダが息も絶え絶えに口を開く。アリエナィスが打つ。受ける。
「ちゃんと、男爵様の話を聞くでありますよ。愛は相手を慮ってこそのもの、
悲劇のヒロイン気取るようなしょぼ筋に惚れた旦那だと、思われたくないでありましょう?」
「…………それは、そこな娘が言いける。『言葉を聞く勇気』の事だと?」
(え? さっきから無言で殴り合ってなかったでありますかこの二人)
「うむ。吾と奥方はしっかりお話していたのである」
言いながら、組み合う百合子とアリエナィスが関節技の応酬を繰り返す。恐るべきは片手間にエッダの拳を足技で受けている所か。
「で、奥方の答えは如何に」
「私は……」
数瞬の間。
彼女達の背後でリュンクスとニルがダブルインパクトを決めている最中。
アリエナィスの瑠璃色の瞳に浮かんでいた迷いが、遂に消える。
「私はッ!! そなた達をこの拳で倒し、夫君に会うて話をもう一度聞くわ!!」
「よくぞ言った。それでこそ美少女道である!」
手刀を受けながら次いで繰り出される「蛮」という掛け声。アリエナィスの巨躯が僅かに宙に浮く。
筋肉で覆われた鎧の向こうへ衝撃波を通す諸手突きは間違いなく、彼女の筋肉で出来た心臓を打ち抜いた。だが心臓は止まらない、寧ろ加速するのが筋肉に通ずる者達の常識。
立ち処に剛健な顔つきの人魚姫がその表情を獰猛な物へと変える。
「そろそろ落ち着きましたかね?」
「全然でありますな」
「んじゃ、こっち片付いたんで──」
クリストファーが脇に抱え、手下を絞め落とした後に続き。吹雪の戦場のあちこちから集まって来たイレギュラーズがアリエナィスの下へと集う。
そこには、先の乱戦で僅かながら傷付いたタントの姿も。
「鉄帝乙女の貴女に話し合えとは言いませんわ……しかし! トスパホールゲッティマト様の謝意と純愛すら受け入れられぬ度量の貴女ではないはず!
頭が冷えましたらもう一度、氏の曇り無き目をちゃんと見に行くのですわよ!」
「……フフ」
肉体言語の方が効率が良いだろうが何だろうが、その輝きは真っ直ぐで。
とにかく頭に入る様に一喝しては柔らかく着地させる、緩急をつけた説得。アリエナィスにはタントがカリスマ性を持った人物だと映っていた。
そう、形こそ違えど自身と同じ存在だと彼女は考えていた。
「いくお、奥さん!」
「来い! 今の私は一撃クリティカルされたら死ぬぞォ!!!」
(いや、死んだら駄目なのだが……!?)
暫くの間、彼等の戦闘音は鳴り止まなかった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
……その後、イレギュラーズに敗北したアリエナィスは大人しく城へと戻り男爵と和解した。
男爵の妹君がまた来て暫く騒動を起こす事となるのだが、それはまた別のお話。
依頼は成功。皆様お疲れ様でした。
MVPは巨漢どもを惹きつけ続けた貴女に。
GMコメント
この寒さ。。。ジョーダンじゃないぜぇ!!
以下情報。
●依頼成功条件
問題の解決(難度高)、または敵勢力の撃破
●情報精度A
絶対に不測の事態は起きません。
●ロケーション
ブチマッケ城から北にある崖下の浜辺で海上から進軍して来る敵勢力を迎え撃ちます。
この時期は猛吹雪と荒波が浜辺周辺を襲うと予想され、命中と回避に僅かにマイナスの補正が入るでしょう。
『アリエナィス』
可憐な人魚姫。ではなく巨躯の精悍筋肉シーホース。声は結構ロリ声。
浮気に腹を立てていて手が付けられない。
城に送り付けて来た矢文には『私は泡になって消えるような乙女じゃない』と記されていたようです。
彼女の能力は、知られているだけでも【おそろしく速い手刀】と【中距離まで届く音波攻撃】、【遠距離にいる老若男女にダメージの入る光線】等が挙げられています。
耐久力も中々の物。恋破れた乙女の怒りが体現したかのような荒々しさを表現した強さとなっております。
『海種のオトモ達(マッスル)』
数は7人程度。武装は不明ですがあのアリエナィスの友人達ならば間違いなく筋力を活かした戦い方で迫るだろうと予測されています。
連携に長けたマッスルたちが踊り舞う!
●ロケーションに水中が存在するので
浜辺(地上)から海上(水中)の境界線までの距離は50m。境界線から10mの間は『浅瀬』として荒波の影響を受けない判定とします。
しかし境界線から10mを越えた先は荒波の影響を受ける為、水中戦闘に適したスキル等を有していても命中・回避・反応が半分になるペナルティを受けます。
敵勢力はこれらのペナルティを受けません。
本件における水中戦闘でのペナルティはこれだけとします。
以上。
皆様のエントリーをお待ちしております。
Tweet