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シナリオ詳細

霧の塔への誘い ーIー

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●霧がかった塔

 …………ブウゥゥ――ンン――ンンン………………。

 どこからとも無く蜜蜂の唸るような音が幻想の空へと響き渡る。
 そして、瞬間、その荒野に通り雨のような豪雨が降り出したかと思えば一瞬にして蒸発していく。
 霧。
 そう霧が生まれた。
 先も見えぬ程の濃霧がその場を支配し、迷い込めばきっと抜け出せなくなるだろうと思われた。
 そんな濃霧の中に、影が生まれる。
 聳え立つ影――それは夢か幻か。
 霧雨に巻き込まれたある冒険者が、後にこう告げた。
「霧の中に、聳え立つ塔があった」と。
 
 …………ブウゥゥ――ンン――ンンン………………。

 そうして、また同じ音を響かせて、霧と、霧の塔は瞬く間に姿を消した。
 跡にはそう、濡れた大地を残すのみだった。


●霧の塔への誘いI
 ローレットの依頼掲示板に張り出された一つの依頼に目が行った。
 霧の塔攻略メンバー募集。
 その妙な依頼は幻想西部のある領主から依頼された物のようだった。
「霧の塔攻略に興味があるのかしら?」
 依頼書を眺めていたイレギュラーズに気づいた『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)が声を掛ける。
「これはどういう依頼なんだ?」
 そも霧の塔とはなんぞや、ということでリリィが説明をしてくれる。
「幻想西部……いえ、幻想の各地に突如現れる霧と、その中にある塔。誰がどのように作ったかは不明。今は幻想西部に出現しては消えるを繰り返しているわ」
 幻にも思える霧の塔。
 だがそんな話が話題になると、トレジャーハンター達が意気揚々と乗り込んだようだ。
「けれど中は霧で作られた魔物に迷路。上へと至る通路を見つける前に時間切れ。攻略は一向に進んでないわ」
 そんな話を聞きつけた、不思議な物好きの領主がこの霧の塔攻略をローレットに任せてきたというわけだ。
「詳細は不明。一層は中央までは一本道、そこから四つの部屋に分かれているみたいだけれど、内部がどうなっているかはわからないわ。
 その四つの部屋のどこかに上へと繋がる通路があるはずよ。まずはそれを見つけ出すことね」
 探索時間に制限があるという霧の塔。時間を迎えればどんな状態にあっても霧の塔は言葉通り霧へと帰る。
 探索が上手くいかなければ当然依頼も失敗となってしまうだろう。
「とにかく持てるスキルを駆使して、次に繋がる情報――そう二層への到達方法を持ち帰ることね。
 そうすれば、次の機会もローレットを使ってくれるはずよ」
 遺跡や迷宮探索とはまた違ったダンジョンだが、どこか冒険心を擽られる存在だ。
 イレギュラーズは張り出された依頼書を剥がすと、霧の塔攻略に向けて思考を巡らせ始めるのだった。

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 突如現れた塔型ダンジョン。
 全四層のこのダンジョンを攻略しましょう。
 全五回くらいの連作です。

●依頼達成条件
 二層への通路を見つける。

■オプション
 お宝を見つける。

●情報確度
 情報確度はCです。
 詳細は不明。罠や謎解きもあります。
 想定外の事態も考慮にいれましょう。

●一層について
 入口を進み、真っ直ぐの通路を進むと塔の中央にでます。ここは十字路となっており、北は行き止まり、東西に合計四つの扉、南に出入り口となっています。
 皆さんの探索はここから始まります。
 とはいえ情報もなしだと探索の仕様がないので、以下塔に侵入して見た情報を記します。

・北の行き止まり
 手首から先の掌だけが入った台座が置かれている。他には何も無い行き止まりだ。
 左の掌は女性のもののように見えるが、どこか違和感があった。台座は開かず壊す事もできないようだった。

・①の部屋
 乱雑に本がバラ撒かれている。壁面は塔の外観と同じような印象を受ける。中央にテーブルが置かれており、一冊の大きな本が開かれている。
 近くのイスには手首を切り落とされた死体が座っていた。

②の部屋
 一段と濃霧が強い部屋だ。部屋の先に何か光るものが見える。スイッチだろうか?
 ただ気になるのは部屋に入ってから、なにやら空気を切り裂く音が聞こえる事だ。何かが動いている? だが先はあまりにも見えなかった。

③の部屋
 入って直ぐ貴方は鼻を押さえる事になる。水分を吸った死体がそこら中に転がっているからだ。腐敗臭に顔を顰めていると、どこか頭がフラフラしてくる。長居はできそうになかった。
 転がった死体にどこか違和感を覚える。どこか……変だ。

④の部屋
 扉を開けてすぐ気づく。濃霧が形となって魔物を姿を形作ることを。
 いまなら逃げ出す事も可能だが、逃げ出せばもう二度とこの部屋には入れない、そんな予感があった。
 虎穴に入らずんば虎児を得ず。はたまた君子危うきに近寄らずか。判断は一任された。

●戦闘地域
 幻想西部に出現した、霧の塔内部になります。
 かなり広大な塔です。障害物はなく戦闘に支障はありませんが、濃霧によって視界は不明瞭と言えるでしょう。

 そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。

  • 霧の塔への誘い ーIー完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年01月26日 00時40分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
銀城 黒羽(p3p000505)
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
シュリエ(p3p004298)
リグレットドール
クリストファー・J・バートランド(p3p006801)
荒野の珍味体験者
真菜(p3p006826)
脱兎の逃げ足

リプレイ

●霧の塔一層 ーIー
 その塔を誰が作ったのか。それは現段階では推測すらも困難だ。
 霧の塔に入った事のある冒険者はこう言った。
「制限時間は三十分。一度入ったら塔が消えるまで出る事はできない。一度の突入で謎を解かなきゃ次は一からやり直しだ」
 どんな謎があったって? そんなの何も分からないがわかっただけさ。そういって冒険者は笑った。
 来る者拒まず、侵入者を受け入れる霧の塔。その出現の前には深い霧が立ちこめるという。
 その出現予測を頼りに集まったイレギュラーズ八名。今回の霧の塔攻略に力を入れるメンバーだ。

 …………ブウゥゥ――ンン――ンンン………………。

 不意に蜜蜂の唸るような音が響きだした。
「来たわね――!」
 荷物を背負い直して『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が目を輝かせた。
 迷宮。そして迷宮に挑む者。
 ”旅人”ならば一度は憧れる謎に満ちた未知との戦い。
 さあ、挑まれよ! 冒険の扉は開かれた!

 霧の塔へ侵入してすぐ、八名は塔の中央と思われる場所に出た。
「先(北)は行き止まりに見えるな。左右の道はどこへ繋がっているだろうか」
「事前情報はねぇ。手探りになるが手分けして探索した方が良いだろう」
 『静謐なる射手』ラダ・ジグリ(p3p000271)と『暇人』銀城 黒羽(p3p000505)の言葉に一同は頷く。
 まずは全員で東の通路へと進む。すると行き止まりにぶつかるが、左右の壁にはご丁寧に扉が付けられていた。
「木の扉に鉄の扉だな。まとまって探索したいところだが時間が惜しい気もするぞ」
 『五行絶影』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)の言葉にイーリンが頷いて、
「なら二手に分かれましょう。確認するのはこの二つの部屋だけ。調べたら一度合流しましょう。手がかりがあればそちらを優先ね。メンバーはそうね――」
 そうして話し合いの上で分けられたメンバーはラダ、『『幻狼』灰色狼』ジェイク・太刀川(p3p001103)、汰磨羈、『俺の冒険はこれからだ』クリストファー・J・バートランド(p3p006801)の四人、そしてイーリン、黒羽、『【\私は花の騎士さんに怒られました二号/】』シュリエ(p3p004298)、『脱兎の逃げ足』真菜(p3p006826)の四人だ。
 便宜上二つのチームをそれぞれラダ班とイーリン班とする。
 二チームは二手に分かれて同時進行で探索を行う。
 まずは北側に付けられた木の扉を開けたラダ班の動きを追うとしよう。

 扉の先には細い通路が続き、そして曲がり角。慎重に警戒しながら角を覗き見る。
「こいつぁ……なにも見えねえな」
 ジェイクの言葉通り、先は濃霧によってなにも見えない空間が広がっていた。
 扉を押さえているラダに、ここまでは問題ないことを告げる。扉を壊してなにが起こるかわからないので、荷物を引っかけ閉じ込め防止とした。
 超聴力による鋭敏な聴覚を刺激するのは、空気を切り裂くような音だ。
「何かが動いているな……切り裂くような、そんな音だ」
「罠がある……と思ったほうがよいだろうな。だが、あまりにも前が見えん。この先に何かあるのか?」
 思案しているさなかクリストファーが音の反響を利用して空間の広さを調べる。透視による先の見通しは濃霧でさっぱりきかなかったが、空間の広さを大まかに知る事ができた。そして一点を指さす。
「あそこを見てくれ、何か反射していないか? 光が見える」
 言葉通り、部屋の奥に何かがある。それが分かった以上は進むしかない。
 これに挑むは死の危険を嗅覚で感じ取れるジェイクだ。ロープで自身を縛り、部屋の入口と結び命綱とした。
「厳しいなら一旦引き返せよ?」ラダが目印となるランタンを起きながら軽くジェイクの肩を叩いた。
 ジェイクは用意していた棒を伸ばし、身を屈めてゆっくりと前進する。
 命綱を管理する汰磨羈は罠を刃物と見定めていた。濃霧の流れに意識を集中し、罠の出所を探る。
 ジェイクの命を握るはその嗅覚に他ならない。空気を切り裂く音が近場に迫るのを感じながらしかし、聴覚に囚われることなく、自身のその嗅覚を頼りに少しずつ前進する。一歩先を行く棒が一瞬にして切り落とされた。
「――っと危ねぇ……!」
「ジェイク! ちょっと仕掛けるぞ! 注意してくれ!」
 汰磨羈が声をあげると同時、汰磨羈の放った飛翔斬が霧を薙ぎ払う。
 ギィィン! 甲高い音を立てて何かが崩れ落ちる音がした。
 だが空気の切り裂く音は止まっていない。まだ罠はあるようだ。ジェイクはまた慎重に進んでいく。
 縦に横に、斜めに配される罠。それらを躱し壊してを繰り返して、三度罠を壊したところで、ジェイクは奥の壁へと辿り着いた。もう罠は無いようだった。
 目の前にはスイッチがある。それをジェイクは覚悟して押した。特に変化は起きなかったが、どこかで何かが起きたはずだった。ジェイクは今一度慎重に仲間達の元へと引き返すのだった。

●霧の塔一層 ーIIー
 南側に取り付けられた鉄の扉を開けたイーリン班は、内部の様子に鼓動が跳ね上がるようだった。
 部屋の壁面は塔の外観と同じように何処か水気のある透き通る壁面で、部屋の床には乱雑に散らばる本の数々。その中央には一つのテーブルが置かれており、一冊の本が開かれていた。
 そして何より目を惹くのはテーブル傍のイスに座り込む人影――
「ひぇ……死体、ですか?」
「ええ、それも結構時間が経っていそう」
 水気を帯びて腐った死体というよりは、風化してミイラになったような死体に見える。
 異質な光景が広がる中、四人は探索を開始する。
「本はどれも難しい魔術大典のようなものばかりですね。
 乱雑に置かれている以外は特にめぼしいものはなさそうです」
「いえ、待って。これを見て。『霧の塔――現象化における問題点①』。この塔を作った人の記録かしら……あぁでも数が多すぎる。これじゃあ時間内に精査することは難しいわ」
 目に入った点で言えば、
 ・霧の塔は『モチャフ・レイヤスク』という魔道士が研究の末に生み出したものということ。
 ・『霧の塔は四層からなる迷宮である。これを乗り越えた者にこそ”あれ”を手に入れる機会を与えられるというものだ』
 といった内容だろう。
「ふー本の整理もだいたい終わったにゃ」
 上位練達式と共に本の整理に勤しんでいたシュリエだが、大凡の整理を終えるとこの部屋に置かれた本の種類は三つに大別できた。
 一つは魔術大典。次に霧の塔の記録。最後にテーブルの上に置かれた本――それは誰かの日記だった。
「死体は死後大分時間が経ってるな数年なんてレベルじゃねぇはずだが、どうも”新鮮”に見える。手首を見てくれ。切断されている。この切断面が妙に生々しいのが気に掛かるぜ」
「それとテーブルの上の日記ね。この日記だけは異常だわ」
「異常……ですか?」
「ものすごいこの塔に執着して書かれているわね……書いた人物はもしかして……」
「その人物って……にゃ?」
 近くのイスで息絶えた人物へと目が向けられる。女性と思われるが、その美しかったであろう容姿は今はもうない。
「ここを見てください。両手を失ったあとも文字を書いています。酷く読みにくい……恐らく口でペンをくわえて書いたんじゃないでしょうか」

 『この塔に閉じ込められてすでに六十余年が経過した。あの裏切り者にダマされてついに両手まで失ってしまった。憎い、許せない、この恨みは決して忘れはしない――(後には熟々と恨み言が記されている――そうだ、あの裏切り者がこんなことを嘯いていた。”お前の旦那がこの塔まで探しに来たぞ”。本当だとしたらこんなに嬉しい事はない、でもきっと旦那もあの裏切り者に良いようにされてしまうに違いない。嗚呼、なぜアイツはこんなことを行うのか。秘宝とやらに狂わされた狂人め! ああ、誰か助けて……助けて……。

「裏切り者は誰か……秘宝に狂わされた狂人……そしてこの女性とその旦那、か」
「解読するには少しばかり情報が少なすぎるな。こりゃヒントになるのか?」
「まだ見てない部屋があるかもしれないにゃ。そっちの方でもなにか繋がる情報が見つけられるかもしれないにゃ」
「そう、ですね……ひとまず戻りましょうか?」
 四人は得られた情報をまとめ、一度部屋から出る事にした。
 部屋の外では対面の部屋に入ったラダ班の四人がイーリン班の四人を待っていた。
 突入から十分の時間が経過していた――

●霧の塔一層 ーIIIー
 情報の共有を行った面々は、中央北の行き止まりに来ていた。
「見るからに妖しいという感じだな」
 行き止まりに置かれた透明な台座。内部には手首から先の掌が置かれている。
「二つの掌……私達の入った部屋には手首から先のない死体がありました」
 真菜の言葉にイーリンが頷く。
「と、いうことはその死体のものの可能性が高いわけか」
 クリストファーの言葉に、今度は首を横に振るうイーリン。イーリンの言いたい事を理解した黒羽が口を開いた。
「よく見な。この手状態は俺達が見た死体と同じように見える。だが、その実一番おかしな部分がある。
 両の手を見比べてみろ――左の掌は女性のものだが、右の掌これは細いが男の手だ」
 黒羽の言うとおり、その二つの掌は男性と女性のものだった。どちらも”左手側”である。
「切断面が見れないのが気になるな。これ台座は外れないのか?」
「そうだ、俺達の部屋でスイッチを押したんだ。それで開いたりはしないか?」
 ジェイクの言葉に「なるほど」と納得し、慎重に台座へと触れてみると、開かずの台座と思われたソレは、まるで鍵でも掛かってなかったかのようにパカりと音を立てて開いた。
「崩れるかもしれねぇ。慎重に取り出して観察しよう」
 黒羽の提案に頷いて、その二つの掌を取り出し観察する。すぐに違和感が首を擡げた。
「左手の薬指……他の指に比べて妙に細くないですか?」
「……確かに一段と肉が無くなっているわね。男性側は?」
「男性側もだ。”薬指から何かをとったように”細くなっている」
 男女の掌。薬指。すぐにインスピレーションは沸いてくる。
「指輪、か」
 汰磨羈の呟きにジェイクが頷く。
「ああ、だろうな」
「しかし、まだ指輪らしきものは見ていないぞ。それに山を付けて探すべきか?」
「焦りは禁物よ。一応一つの答えと見て、優先的に探してみましょ。別の答えだってあるのかもしれないし」
 イーリンの言葉に全員は頷いて、残る西の通路を探索することにした。

 西の通路も北と南に部屋が分かれている。北は横開きの重い扉だ。ちなみに南は格子状の扉だった。
 全員はまず北の部屋から探索することに決めた。慎重に扉を開き、それをイーリンの『紫苑教導』に仕込まれたワイヤーで固定する。
「うっ……」
 扉を開いてすぐ感じたのは臭いだ。慣れ親しむことはない強烈な腐敗臭に全員が顔を顰める。
 そうして霧が立ちこめる部屋の中を覗き込めば、そこに転がるブヨブヨにふやけた死体の数々。水分を吸って腐敗した死体が有毒なガスを発生させていた。
 イレギュラーズはまずシュリエの上位練達式を使い、一つの死体を運び出させる。そして口や目を用意した道具で覆って検分を開始する。
「切り刻まれて殺された後に水の中に沈められたのだろうか。水で苦しんだようには見えないな」
 ラダの言葉にクリストファーが頷いて言う。
「肺の中に泡だった水が確認できない。この死体は身体に付いている傷通り他所で死んでから水に満たされた可能性が高いな」
「おかしな点はそれだけではないわね。ほら手を見て、両方とも左手よ」
 またここでも左手だと、イーリンが目を細める。
「中の死体も確認してみよう。全員左手だけなのか……それとも」
 そうしてジェイクと汰磨羈が見張りに立ち、残りのメンバーでの死体漁りが始まった。
「臭いはなくともぶよぶよして気持ち悪いにゃ……にゃ、こいつハーモニアだにゃ」
「こっちはブルーブラッドだな。装備してるものから察するに冒険者か何かか?」
「けれど装備が凄く古いように見えますね。まるで何百年も昔のものみたい」
 真菜の言葉に思う。何百年も昔の水死体が今も形を維持できて居られるだろうか? 答えは否だ。だがもしも霧の塔に状態を保存する力があるのだとしたら――では風化した死体はいったい――?
 探索を続けたイレギュラーズはその多くの遺体を一つずつ調べ……そして。
「あった! あったわ!」
 イーリンが声を上げる。目にしているのは一つの男の死体だ。
「見て、この死体だけ両の手が右手よ」
「待ってくれ、この手何か変だぞ……」
 ラダが違和感に突き動かされるように両の右手を掴み回す。そして力を籠めると、まるで磁石で付いていたかのように二つの右手が死体から離れた。
「綺麗に取れたな……そして切断面はやはり生々しい」
「よく見てください、この両の右手、男と女の手――風化したあの手と同じじゃないですか?」
 真菜の指摘に一同は「確かに」と確認し合う。
 不自然な男と女の手が取り付けられていた死体。それがあったとするならばこの部屋に指輪があってもおかしくはないはずだろう。
「時間を決めて探索しましょう……そうね五分、五分で見つけましょう」
 イーリンはそう提案するが、霧の塔はそれを許容しないようだった。
「おい、まずいぞ床を見ろ」
 ジェイクが声を上げる。汰磨羈もまた周囲の様子を緊張のままに伺う。
「水だ。水が溜まってきている――!」
「そんな入口の扉は開いているのよ!?」
 咄嗟に入口を見れば、扉は確かに開いたままで、しかし水は入口でせき止められているかのように振る舞う。
「落ち着け、このペースなら三分、満水になるまで時間は時間はあるはずだ。探せるもんは探してから脱出だ」
 黒羽の言葉に一同は平静を取り戻して、今できる事をやり始める。
「にゃにゃ! これは……古めかしい金貨にゃ」
 限られた時間の中での探索、それも山ほどの死体の中でだ。集中力が削ぎ落とされてうまく見つけられない――そんな中、クリストファーの透視が光輝く二つの光を見つけた。
 部屋一杯までせり上がった水の中を潜るように底へ行き、排水溝と思われる場所を壊す。そうして奥へと手を伸ばせば確かな感触が帰ってくる。
「急いで! もう一杯よ!」
 入口から脱した面々の元へとクリストファーが泳ぎ着く。肺に空気を吸い込むと同時、部屋の中から不吉な音が聞こえた。
「見ろ……死体が……」
 作動したトラップが死体を粉々に粉砕する。あのまま水の中にいれば死をも免れなかっただろう。
 面々は服を乾かす暇も無く、移動を開始する。推測が正しければ――上層への扉は開かれるはずだった。

●霧の塔一層 ーIVー
 侵入してから二十分が経過している。残すは十分。制限時間が迫る中一同は北の行き止まりへと来ていた。
「風化した左手、薬指から奪い取られたもの、そして指輪」
 台座の上に並べた風化した手と指輪。それを一つずつ薬指へと嵌める。
「こういうのはどうにゃ。夫婦だったんだし手を繋ぎたいはずにゃ」
 指輪を嵌めた両の手をを重ねるように並べるシュリエ。
「よし、それじゃこれで……」
 緊張の面持ちで台座の蓋を閉じる。すると――
「見て、行き止まりの壁面の霧が晴れていく――」
 霧が晴れた先、二層へと登る階段が姿を現した。

 ――記録。ミストジグラット二層への扉が固定されました。
    現象化時間がワンアワーに変更されます。記録終了――

 二層へと至る道筋を見つけられたことに喜ぶ面々にその言葉は聞こえただろうか。
 二層への階段が見つかった以上、残るはお宝探しだけだ。
 面々は残る部屋へと足を踏み入れる。瞬間沸き立つ殺気と緊張感。濃霧が鋭い牙もつ魔物に姿を変える。
「そうそう、こういうトラブルも迷宮には付きものよね――!」
 とはいえすでにクリアしたも同じである。余裕の見て取れるイレギュラーズに逃げる選択肢はない。
「残り時間は五分強、一気に倒す――!」
 戦闘となれば水を得た魚のイレギュラーズだ、一挙攻勢に出る。
 黒羽が盾となってその鋭い牙を受け防ぎ、敵にコアがあると見定めた汰磨羈とシュリエが技を振るって追い詰める。そこをクリストファーと真菜が至近に持ち込んで攻撃を叩き込む。イーリンの回復によって体勢を整えて、ジェイクとラダの遠距離攻撃が霧の魔物を霧散させた。
 イーリンはクリストファーに許可を貰いつつ、『紫苑の魔眼・不条』たる眼光を魅せ吸収の効果を得る。そうして傷付いた皆を回復させた。
 大きく傷付いたのは黒羽だけだが、これも勲章という奴だろう。
「見て、奥!」
 そこには如何にもな宝箱が用意されており――中には霧で作られた石像が入っていた。
「あっ――!」

 …………ブウゥゥ――ンン――ンンン………………。

 それを入手すると同時、耳障りな音と共に辺り一面が一瞬にして霧に包まれる。視界はぼやけて行き――そして。
「消えた……」
 手にした情報と戦利品、それを残して霧の塔は文字通り霧散して消えた。
 霧の塔一層の攻略はこうして無事終える事ができたのであった。

 

成否

成功

MVP

クリストファー・J・バートランド(p3p006801)
荒野の珍味体験者

状態異常

なし

あとがき

 澤見夜行です。
 まずは霧の塔第一層の突破おめでとうございます。

 一層突破のポイントとしてはしっかりと調べるべき場所を調べたか(各種スキルも駆使して)でしたので難易度としてはかなり低めの入口になっています。
 特に有効と感じたのは超嗅覚による危機回避や、透視能力、上位練達式でしょうか。皆持てるスキルをフルに駆使したと思います。素晴らしい。

 二層は難易度が高くなります。各種ステータスも重要になるようなギミックも用意する予定ですのでお楽しみに。

 MVPは透視能力で指輪を見つけたクリストファーさんに送ります。ピンポイントなスキルでしたが、良い活躍に繋がったと思います!
 チームを良く纏めたイーリンさんには称号が贈られます。おめでとうございます!

 なお宝箱からでた霧の石像は依頼者の貴族が喜んでもらったそうです。これで次もスポンサー付きで探索ができますね。

依頼お疲れ様でした! 素晴らしいプレイングをありがとうございました!

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