シナリオ詳細
草木睡る丑三時に
オープニング
●影の者ども
漸く見つけた休息の場。
男達は乾いた汗でベタつく肌を見やり、湿らせた布で拭いていた。
彼等の装い、人相、鉄錆の臭いを漂わせるそれは文明を棄てた野盗の衆を表していた。
それもかつては武勇を収めていた筈の、没落した貴族である。
捨て置かれてから随分年月の経った廃墟の館に足を踏み入れた彼等は、『先客』の存在が無いことを確認した後に其処を新たな拠点とすべく腰を下ろしたのだ。
「旦那様。今宵は馬の疲労が酷い、万一の事が考えられるとはいえ一晩の休息が必要でしょう」
「仕方あるまい、馬の番をペイジにさせろ。道中持って来た村娘の質を見ながら今夜は旅の疲れを癒すとしよう」
「お戯れも程々に」
老騎士の言葉に小さく頷きながら「下がれ」と手を振る首魁の男。
見た目こそ優男の類であれど、その身を包む皮鎧を脱げば鋼の肉体を持った戦士であると分かるだろう。
傍らで震えていた村娘の少女は首魁の男を見て喉の奥で悲鳴を漏らした。
「叫んでもいいが、こちらも疲れている」
色褪せ、ボロボロになったベッドへ、少女を人形のように放り投げた男はその逞しい腕をゴキリと回して囁いた。
皆まで言わずとも少女には分かる。抵抗すれば殺されると。
震えながら少女は首に下げていた銀細工のアミュレットを抱いて目を閉じた。
「……? 幻想の聖職者が用いる物ではないな、そのネックレス。さては移民か、面白い」
舌舐めずりをする男は祈るように目を閉じている少女の肩に手を伸ばした。
──瞬間、辺りを闇のベールが覆い隠した。
「ひっ……!?」
少女と男を照らしていた筈のランプは消え、何か黒い布を被せられたのだ。
そして、目を閉じていた少女は何事かと瞼を開いたその時。闇の帳を模したベールの向こうで蠢く者達を見てしまったのだった。
声も出させず、音も無く忍び寄って来た『それ』は屈強な男の首を掻き切り、心の臓を貫き、頭蓋を叩き割っていた。
鮮やかな殺しの業。しかしその手口は人を人と思わぬ思想が見える、恐ろしい魔の物。
「ひ、ぁ……っ!!」
少女は逃げ出した。
古びて朽ちた廃墟から転がるように飛び出して行った。
その道中、当然彼女を引き止めようと迫って来た賊の姿もあったが、同じく少女を追いかけて来た『それ』に殺害される。
後ろをチラと振り返った少女はその光景を忘れもしないだろう。
少女よりも小柄な体躯のゴブリン達が、3倍以上ある体格の盗賊を相手に翻弄し、次々に暗殺していたのだから。
●ゴブリン・ニンジャー
『完璧なオペレーター』ミリタリア・シュトラーセ(p3n000037)は傍らにロバの様なババァを連れてブリーフィングを開始した。
「おはようございます、またよろしくお願いしますね。
さて……今回皆様に依頼するのはゴブリン討伐になります」
数枚の写真と地図の様な紙面を卓上へ彼女は並べていく。
そこに写っているのは廃墟の様な館だった。
「事の発端は数日前。盗賊に小さな村が襲われ、領主が私兵を向かわせた先で保護した少女の証言から始まります。
彼女は盗賊に一時攫われていましたが、そちらの廃館にて盗賊をゴブリンが襲撃し、運良く逃げ延びた様です」
本当に、運が良かった。そう呟いたミリタリアは頭を振る。
少女の言と調査の結果からゴブリン達の数は不明だが、少な過ぎず、多過ぎない程度には数がいるようだ。
ゴブリン達は何らかの技術を体得した者達らしく、高い敏捷性と隠密能力、そして不意打ちの際には致命的一撃を与える術に長けているらしい。
それら能力を高め、助けているのがこの廃館だった。
「こちらの図面に描かれているのは、かつてこの館を所有していた貴族から渡された内部構造です。
俯瞰図として、北西北東に棟が出っ張っている凹型の建物で、
二階構造ですが外から見る限り現在は一部崩落していて内部事情は変わっている事でしょう」
つまり、壁や天井が剥がれて支柱や梁が露出している可能性が高い。
夜目が効いて小柄な体躯のゴブリンが、『忍者』さながらに動き回って首を狙い忍び寄って来るのだ。
隠れる場所が多いという事はそれだけで脅威である。
「……でも、それって昼間に行けば問題無いんじゃ」
イレギュラーズの一人が首を傾げた。
「ええ、勿論先日まではその結論に達していました。
しかしこうしてローレットに話が来たのには理由がありまして、どうやら……」
次のミリタリアの言葉を聞いた一同は表情を曇らせる。
ゴブリン達は昼間は全く別の場所に移動し、その痕跡を消していると言うのだ。
それが意味するのはつまり、ゴブリン達にとってその廃墟とは『狩場』であり、寝蔵では無いという事を示していた。
- 草木睡る丑三時に完了
- GM名ちくわブレード(休止中)
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年01月23日 21時30分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●──下味を付ける。
崩れ落ちた屋根から一階内部の梁へ、『アニキ!』サンディ・カルタ(p3p000438)は剥がれ落ちた天井板を眼下に指を鳴らした。
「やっぱりな、一々道具なんか持ち運ぶわけねぇだろうな」
「何か見つかった?」
「あった。妙な布と飛び道具って所だな、頭上から狙う気満々だぜこりゃ」
下を探索していた『夢見る狐子』ヒィロ=エヒト(p3p002503)が「やったね!」とサムズアップする。
時刻は日の出から暫く。良く晴れた空の下、イレギュラーズは陽の射し込む廃墟を探索して回っていた。
依頼された『ゴブリン・ニンジャー』なる魔物の群れを討伐する事を目的に。”狩場”であるアドバンテージを覆すべく、下調べを兼ねて罠を張りに来たのである。
「忍者なゴブリンもいるんだね」
『そういう隠密に特化した生態なんだろう』
仲間の報せを聞きながら『穢翼の回復術師』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)は十字架の声に「取り敢えず殲滅しなきゃ」と答えた。
そうして片手間に瓦礫にそっと差し込む、小振りな酒瓶。
『盗賊は自業自得だと思うけど、ゴブリンも放っては置けないの。これは早めに退治しないと危ないの』
と、ティアが辺りを見回す際に背後から可憐な声が響いた。
緩やかな水流を伴って現れた、少女の姿をしたスライムは『溶融する普遍的な愛』Melting・Emma・Love(p3p006309)である。
『人に仇なすなら倒しておく方がいいだろうな』
頷くティアに代わって十字架の声が肯定した。
「今度はニンジャゴブリンだっけ? どれだけ独自進化独自適応したゴブリンいるの……」
「ゴブリンも色んなのが、いるんだね。自分達に有利な場所と、時間で戦ったりして、あたまも良いね……だれに教わったんだろう?」
『孤兎』コゼット(p3p002755)もティア達と同じく廃墟の内部を歩き回りながら、頭上のサンディを確認した上でせっせと壁際の亀裂へ藁を詰め込んでいた。
隣ではヒィロが「ん~?」等と唸って崩落して袋小路となった廊下の壁を叩いている。
彼女の脳裏を過ぎるのはイカしたサーファーなゴブリン。
「実はゴブリンってこの世界で進化的に一番多様化してる種族なんじゃ……勝ち組ゴブリン! って如月さんも忍者さんだっけ」
「む、如何にも。拙者は紅牙忍術継承者なれば。
同業者として親近感を抱かずにはおれぬが拙者も忍びの端くれ、忍術紛いの真似事に負ける訳にはいかぬでござるな」
ヒィロの声に反応したのか。大量の藁が舞う中から『黒耀の鴉』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)が飛び出してきた。
(いまのすごい)
忍者凄そう。コゼットは何処となく耳を立ててその様子を眺めていた。
「奇襲を得意とするゴブリンかぁ……地の利を含め、自身の能力を最大限に活かした状況で仕掛けてくるのは戦いにおいて定石だよね」
廃墟といっても、元は貴族が建てた館である。
『焼滅の魔人』フィーゼ・クロイツ(p3p004320)が指先で叩く壁。崩落した館といえども材質は確かな物であり、それなりに頑丈な作りだったと分かる。
戦闘中に咄嗟に壁を抜けるかと問われれば、恐らく数秒は手間取るに違いなかった。
「雑魚がっ。いかに殺人術を極めていようと特異点が九分九厘、勝つ!!」
厨房だったと思われる瓦礫に埋もれた場所を見つけ、指を鳴らして召喚した猫を瓦礫の隙間へ放つ『放課後のヴェルフェゴール』岩倉・鈴音(p3p006119)が拳を突き上げる。
確かにゴブリンといえば雑魚だという認識が混沌にもある。が、それが今回のケースにも当てはまる物かとフィーゼは訝しむ。
暫し壁を叩きながら、窓の位置を確認──
「ここかな」
籠手の装着を検めながらフィーゼが手を壁に添える。
直後。籠手型の魔具から魔力が僅かに放出され、壁に亀裂が走る。
亀裂を指でなぞる彼女は納得した様に頷いた。
「うん……でも、どう仕掛けてくるかが分かれば、それに対する手を打てるなら勝てない相手じゃない……かな」
────「たぁ!!」
別室から轟くヒィロの掛け声。外へ瓦礫が飛び散る豪快な音が鳴り響く。
「……これ以上は保たないか?」
「こっちも何ヵ所か開けたしね、手持ちの燃焼材も仕込み終わったし一度戻っても良いかも」
「それならファミリアーを呼び戻しましょう。”収穫”もあったことですしっ」
揺れる館を心配した鈴音に従いフィーゼはその場を立ち去って行った。
●──刃先で撫でる様に、
星が見えぬ曇天の下。青空広がる日中から一変して、濃い黒雲が地上を覆う様は夜の帳を重ね掛けするかのよう。
灯り一つ無い廃墟の館の筈だった。
「GBBB……GYAR?」
「シィィ……」
『其処』を狩場としていた者共は、厨房の瓦礫で隠された穴道(トンネル)から顔を出して気付いた。
微かに漂う甘い香り。鋭敏な鼻の奥を擽るそれは人間の女が来客した事を示していた。
何処からか迷い込んだとも知れぬ、哀れな迷い羊。
なんと浅はかで間抜けな種族なのか。自分達に技を教え込んだ老いた旅人の男もそうだった。
「GERBBB……」
殺意と快楽の入り混じった衝動が溢れ出す。
匂いの主を辿るべく、天井裏の梁へと上がったゴブリン・ニンジャーは、よく研いだ短刀へ舌を這わせながら歪んだ敵意を募らせた。
小柄なゴブリン達にとっては広い館だが、見つけるのにそう時間は掛からなかった。
匂いが分散しているのは館を探索でもしたか。濃厚な酒のような臭いも混ざっている。さては酔っているか。
(────……)
北西棟、崩壊した二階部分が通路の一方を塞いでいる脇部屋。窓の無い旧一階貴賓室。
ここは天井部が朽ちておらず、そして穴らしい隙間も見当たらぬ空間だ。
それはつまり奇襲するに向いていない場でもある。どうするか、芳しい香りを鼻一杯に吸い込みながら獲物が動くのを待つしかない。
(…………────)
できるか? そんな我慢が。
旅人は決まって武装しているが、貴賓室で楽し気に言葉を交わしている。恐らくは休息の一時、油断しているように見えた。
”6人の女達”を通路の陰から見つめ、欲望を滾らせた涎が滴り落ちる。
「GB?」
「……GLL」
気が付けば他の仲間も合流している。
4匹でかかれば、すぐに女どもを引き倒せるだろう。
懐から取り出した苦無、短刀を手にゴブリン・ニンジャー達は足音を忍ばせ、部屋へと殺到する。
──そして、視点は替わる。
●──一切炎上。
小さな灯りに揺れる刹那に交わされた目配せ。
漆黒の帳が、夜闇のベールが、対となった火線によって文字通り切り裂かれる。
「GER……!?」
「おいでませ! ボクが、君達の相手だよ!」
無音の襲撃に対し、外套を翻して背中の大装甲を振り抜いたヒィロがゴブリン・ニンジャー達へその闘気を叩き付ける。
傍らで宙を舞うコゼットが眼下へ踏み込んで来たフィーゼの手を取る。
「いくよ」
視界が反転を繰り返す。
横振りに投げ放たれたコゼットの小駆が砲弾の如く、ゴブリンを1匹巻き込んで通路へと蹴り飛ばした。それを呆気に取られ、飛来した苦無を弾いたフィーゼが応じる様に脇から抜き放った酒瓶を頭部に炸裂させる。
瞬く間に貴賓室へ広がるアルコールの香り。
それ以上に、完璧な奇襲が破られた事に対する動揺がゴブリン・ニンジャー達の中で溢れ出す。
「見せましょう真の連携を──前列右、筋力が高い。アタッカー! 左は脚に自信がおありのようだ、咲耶さん!」
一呼吸の間に隊列を組んだ前衛より後方、鈴音が叫ぶ。
「あいや承った!」
「GB……ッ、GAAA!!」
ティアから四色の閃光が煌めくも、それを難なく避けて突破せんとしていたゴブリンの懐へ咲耶の懐刀が踏み込む。
見覚えのある意匠を装う咲耶を目の当たりにし、小鬼から殺気が漏れる。
(この動き……足運びは、組み手を模したものでござるか。古い!)
懐刀が二枚に割れる……否。二組に分かれた直後瞬く間に変形して、湾曲した鉤爪となって右拳を包む。
ゴブリンの小柄ながら渾身の一振りで繰り出された短刀を、下からの突き上げで絡み取った咲耶が腰を落とすと同時、身を捻って肘鉄を勢い良く打ち込んだ。
「ゲハァッ!?」
身体の内側を掻き回されるかの如き耐え難い鈍痛。
頸椎を”抜いた”その一撃の凄まじさたるや。語るまでも無く、地に堕ちたゴブリンが証明して見せた。
「どのような御仁から業を掠め取ったか知れないが、『対人を想定』した物では『対モンスターを想定』した拙者の業には敵わんでござる」
深々と腰を落として構える咲耶がコゼットの元へと駆ける。
●
旧貴賓室が開戦したその時、剥がれ落ちた天井版の陰で黒い布を被っていたサンディは密かに嗤う。
「ここからが本番だ」
『うん。Loveもがんばるね』
通路奥の瓦礫を背にしていたMeltingが流動的な動きでその姿を現すと、貴賓室からゴブリンと共に転がり出て来たコゼットへ向く。
Meltingが徐に瓦礫の隙間から取り出した物がヒュンと音を立てて放り投げられる。
「GYAッ!? GRRR!!」
何とも間抜けな破砕音にゴブリンが水を浴びせられたように喚く。
それもその筈、水ではないが頭にぶつけられたのは酒瓶。キツイ香り漂う酒なのだ。
「追い風からの迎え酒ってのはゴブリンには贅沢だったか? っと!」
半ば抜撃ちの勢いでサンディから投擲された数本の酒瓶が小鬼を暗闇の中に薙ぎ倒した。
「……ちょっと、お酒臭いね、酔っちゃうかも」
「何せご禁制ってやつだからな」
『Loveは、好きかも?』
言いながら貴賓室へとコゼットが踏み込もうとしたその時。彼女に熱風が降りかかった。
「GBULRRRR!!」
「!」
貴賓室に燃え広がろうとしている炎から逃れるつもりか、飛び出して来たゴブリンが威嚇の声を挙げる。
直後に投げ放たれた苦無。コゼットは咄嗟に背中から後ろへ飛んで刃先を蹴り上げて躱した。
後転して身構えるコゼットの眼前で天井裏へと飛ぶゴブリン・ニンジャー。
逃げられる。そう考えたサンディが声を挙げるのと、貴賓室から鈴音の怒号が挙がったのは同時だった。
「「ティアさん!」」
刹那、轟音と共に四色の閃光が暴風となってゴブリンの背中を貫いた。
酒瓶を浴びていたゴブリン・ニンジャーが火達磨になって通路へ転がり落ちるのだった。
「これで襲って来たのは全部だね」
『一つ覚えの術ではこれが限界か、数でこちらが上回れたのも運が良い』
背から広がっていた二対の翼が折り畳まれる。
そうこうしている彼女達の背後では貴賓室の乾いた床板を焦がし行く。煙と炎が出て来た辺りで鈴音が、
「コゼットさん、サンディさんは索敵をっ」
「わかった」
言うが早いか、コゼット達が直ぐに意識を集中して館の何処かへと視線を巡らせる。
貴賓室から出たイレギュラーズは辺りを警戒しながら円陣を組む。
サンディとコゼットは互いに頷き合って鈴音へ報告した。
「ゴブリン共、こっちへ向かってるな」
「だね……でもまだ、何匹か迷ってる、気がする」
「一斉に来ないならまた好都合! 我々の連携を見せてやりましょう」
向かい通路に立てかけていた松明に火を着けた彼女は通路奥の瓦礫へと放り投げる。
敷き詰められていた藁に引火して炎が広がる。北西棟を端から焼き尽くすように、サンディがポイント毎に検めた上にコゼットがエコーロケーションで構造を把握した上で藁と酒瓶を置いていたのだ。
日中と変わらぬ熱気が、冷えた夜を照らし始める。
「さぁて、グズグズしてらんねえな! このままちょいと点火してやりながら出るとしようぜ!」
「ホント! ボクも……ゲホゲホッ、流石に長居はしたくないしね!」
──
────
──────
程なくして、館を内側から燃え盛る炎が包み込んで行った。
人の手から離れて幾年月。枯れ木同然となった廃墟に火種を加えれば、燃え尽きるのにそう時間は掛からないだろう。
「狩場が燃えてなくなっちゃった、ね」
「GU……GOLLBBBBッ!!」
当然、そんな事は知識無くとも生物の本能として理解できるのだろう。
散々館中を駆け回り、掻き乱してやったイレギュラーズが外へ出て来た後を追って。ゴブリン・ニンジャー達が息を切らして館から飛び出して来た。
それを見て、迎える様に手と耳を広げたコゼットが微笑んだ。
「ようこそ、ここがあたし達の狩場、だよ」
「Gッッ……! GOBァ 「前衛右端は盾役、左に脚、続いて2匹共に負傷! 後衛の飛び道具に注意!」
ゴブリン如きの口上を聞くとでも思ったか。最早一切を無視して鈴音の見識(スキャン)結果を叫んだのと同時、ヒィロが一気に駆ける。
「盗賊団相手に既に実績を見せている相手、ゴブリンだからって油断しないよ!」
「~~ッ!」
油断ならない相手だという事は理解していたのだ、先手を取らせるつもりなど毛頭無い。
片手で旋風を伴って振り回した大盾に煽られ。眼前でその身を躍らせて来たヒィロにゴブリンの殺意が向く。
繰り出される刃を弾く。刃先が届こうと、皮一枚で躱される。
焦燥感と苛立ちが小鬼共の頭を埋め尽くす。
だが、だが。ここでゴブリン・ニンジャー達は思い出した。
「──地の利を失えば、平野での戦は己が能力こそが砦」
「この期に及んで逃げなかったのは、結局はただのゴブリンだったのかな……何にせよ、力を取り戻す為の糧にさせてもらうよ」
大盾の影から這い出て来た咲耶の忍刀が一閃。ゴブリンの悲鳴が挙がったのに続いてフィーゼが投擲したガラス瓶の破砕音が鳴り響く。
直後その場から飛び上がったヒィロの後方で構える者達の姿が、その手に持つ炎がゴブリン・ニンジャー達の視界に映る。
「落ちてたの”借りた”ぜ、丁度これが欲しかったんだよな」
振り被った瞬間すら見せなかった。
見れば。サンディの手元から投擲されたであろう、数本の苦無がゴブリン達の肩口に突き立っていたのだ。
「GG……ギャァア!?」
紅蓮の炸裂。苦無に手を伸ばそうとした瞬間、小鬼の全身を火炎が包み込む。
「合体技みたいな手品だが、まあまあ効果はあるみたいだな……ま、取り回しはちょっと悪いが」
仲間が被った物を見たゴブリンが懐から短刀をサンディへ投げ放つも「ありがとさん!」とキャッチされてしまう。
気が付けばイレギュラーズに対してゴブリン・ニンジャー達は数の対比として半数。戦力の話になれば数倍の差へと落ちていた。
逃げようにも、彼等の巣穴へ続く穴道(トンネル)は鈴音が真っ先に火を放って埋まる様にしていた。場所をファミリアーが見つけていたのだ。
故に、最早ただのすばしっこいゴブリンへと戻ってしまった彼等は平野を逃げ回るしかない。
逃走を許すような相手ならばの話だが。
『傷を癒したら向こうの負傷した奴を狙ったらどうだ』
『ん、ティアが火を着けたらにするね』
「わかった……フィーゼさん」
Meltingとティアが並び、彼女達の前をフィーゼが駆け抜ける。
魔腕から弾き出された呪槍を一振りし、その穂先を紅い焔が包んで真っ直ぐにゴブリンを狙い投擲。フィーゼが放ったその一投は頭蓋を見事穿って見せた。
次いで降り注ぐ四色の閃光が次々にアルコールを被っていたゴブリン達を燃やし、駄目押しに撃ったMeltingの式符が1匹沈める。
「G……GBBB……」
「ッっ……!!」
2匹のゴブリンがその場から逃げ出す。
行く先に巣穴があるのか否かは分からないが、ここから逃げ果せた暁にはもうこれで彼等は人前に出て来ない事だろう。
だがこれで二度目。それらはあくまで逃走を許されればの話なのだ。
「どこに───!」
「───行くの、かな?」
ゴブリン達の眼前に立ちはだかるヒィロとコゼットの二人。
しかし回り込んだ瞬間、捨て身の一刀をゴブリン・ニンジャーから繰り出された。
「フ……ゥッ!」
胸元まで伸びて来た一突きを間一髪で後退ステップで避けたのと同時、背から大振りで振り下ろした大装甲が刃ごと腕を圧し折った。
その彼女の背中を軽やかに跳び越え、大盾を踏み台に跳躍したコゼットが後続のゴブリンの顔面を爪先で捉える。
一蹴。一撃。一打。
計三発の蹴撃が小鬼の顔面から頭部を蹂躙し、兎が如き身のこなしで着地する。
「ニンジャスレイヤーに、ボクはなる!」
剛のヒィロと柔のコゼットが並んだその時、館が一気に燃え崩れたのだった。
●
『みんなLoveが治してあげるの。みんな元気になるといいの』
「ありがとうMeltingさん、といっても今回そんなに怪我しなかったんだけどね!」
癒しの光を振り撒くスライムな彼女に遠慮がちに礼を言いながら、ヒィロは辺りを見渡す。
夜明け前、そこにはもう燃える館すら無かった。
「ふっ、個々の力や速度だけでは我らの連携を打ち砕くことはできません。完全勝利です!」
ゴブリンの残党もとい生き残りも、鈴音がファミリアーを駆け回らせて1匹もいない事は確認済みである。
「……そういえば今回のゴブリン、結果的に娘さん助けてるよね。娘さん、ゴブリンと何かご縁が……? 無いよね」
依頼が完了した事が分かり、ティアとMeltingが帰って行く中。ヒィロは燃え尽きた館を見やりながら首を振った。
きっと、その少女は運が良かったのだろう。
きっと。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
───成敗!
お疲れ様でしたイレギュラーズの皆様。
今回、幾つか色々と面倒な相手だったかと思うのですが全体の作戦方針がクリティカルしていたので被害が少なめです。
なので、MVPは燃え易い環境を整えた貴方に。
またのご参加をお待ちしております。
GMコメント
新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします、ちくわブレードです。
新年最初はゴブリンがニンジャなシナリオになります。
以下情報
●依頼成功条件
ゴブリンニンジャーの全滅、生死は問わない
●情報精度A
不測の事態は起きませんが、OPにある通り一定の警戒が必要です。
●ロケーション
幻想東部に位置する廃墟。
元々はとある貴族の有する館だったが、地盤に問題があると発覚後放棄。
十数年の時を経て現在は所々崩落し、地盤沈下により建物全体が傾いていたり、天井板が剥がれ落ちているようだ。
隠密を得手とする者にとってはその環境は間違いなく最良。今回の敵はそこを狩場としている以上、油断していれば大きな傷を負う可能性もある。
●エネミー情報
『ゴブリン・ニンジャー』
忍術を体得した集団。数は不明、推定6〜10体と思われる。
高い敏捷性と不意打ちに特化した暗殺技の組み合わせはロケーションも合わさって相応の脅威度を誇るため、注意が必要。
●特記事項
ロケーション情報提供者からのイレギュラーズへのメッセージ。
『「何だったら燃やしてもかまわんよ〜」』
以上。
皆様のご参加をお待ちしております。
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