PandoraPartyProject

シナリオ詳細

キラキラを辿って

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●今年もキラキラを
「おにーちゃん、ちゃんともってる?」
「もちろん。ほら、ここにあるだろ?」
 仲良く並んで歩く少年少女。兄と妹だろうか。
 兄が持つ小さな袋の中には、キラキラと煌めくキャンディが入っている。それを見て妹がほっとしたように笑顔を見せた。
「ことしはちゃんと、わたせるね」
「こ、今年も……だよ」
「えー?」
 目を逸らす兄に、にやりと悪い顔をする妹。気まずくなった兄は1人駆けだしていく。
「あっ、まってよー」
 追いかけようとした妹は雪に足を取られ、顔からぼすんとダイブした。しかし痛くはなかったようで、がばっと勢いよく顔を上げる。視界に入ってくるのは戻ってくる兄──と。
「おにーちゃん!!」
「え?」
 後ろから迫ってくるソレに、兄はまだ気づかない。
「おにーちゃん、にげて!」
「逃げるって、」
 巻き起こる強風に道行く人が悲鳴を上げる。ようやく兄は肩越しに振り返った。同時に、彼の体は持ち上がる。
「おにーちゃん!!」
 妹の声に、少年は遠くなっていくその姿を見下ろして。
「ローレットに──」

 その先は、風に紛れて聞こえなかった。

●ローレット
「大変なのです! 子どもが、モンスターに浚われちゃったのです!」
 ローレットに騒がしく飛び込んでくる『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)。その後を1人の少女が追いかけてくる。
 聞けば、大きな鳥が突然王都の通りを通り抜けて行ったのだと言う。それは一直線に飛んでくると少女の兄の服を掴み、空へと飛んで行ってしまったのだ。
「その他には、建物も人も無事だったのです。何故か、この子のお兄さんだけを狙ったみたいなのですが……」
 何故でしょうか、と首を傾げるユリーカ。そこへようやく息の整った少女が口を開く。
「あのね、あのとりたち、ひかるものがすきなの」
 その言葉に、視線が一気に少女へ集まった。一瞬怯んだものの、少女はイレギュラーズたちの先を促す視線に大きな鳥のことを話し始める。
「まえにキラキラを、……あ、えっと。キャンディをおとしちゃったことがあったの。そうしたら、うえからバサバサってきこえて。あのとりがきて、キャンディをもっていっちゃったことがあったの」
「なるほど、キャンディのキラキラにモンスターが反応したのかも……ってことですね」
 違うかもしれないけれど、と尻すぼみに言葉が消えていく少女。実際のところは不明だが、浚われた少女の兄もキャンディを持っていたと聞けば関連性があるかもしれないと思わせる。
「大きな鳥で、光る物が好き……もしかしたら、タカラスかもしれないのです」
「タカラス?」
 聞きなれぬモンスターの言葉に一同は顔を見合わせた。
「タカとカラスを足して2で割った感じのモンスターなのです。今聞いているお話だとそいつだと思うのです」
 そうイレギュラーズに告げたユリーカ。自らの言葉ではっと何かに気付いた表情を浮かべる。
「……い、急がないといけないかもしれません! きっと今回のタカラスには子供がいるはずなのです。タカラスは皆好戦的で──いじめっ子なのです!」

●上空
 耳元でひゅうひゅうと風が鳴る。少年は視線だけを落とし、その高さにごくりと唾を飲んだ。
 この高さから落ちたら──死ぬ。かといってじっとしていても生きていられる可能性はいかほどか。
 少年は鳥を刺激しないよう、ゆっくりと視線を動かす。そして手元にあるキャンディを思い出した。
 流浪の旅人に聞いたことがある──とある世界では、パン屑を落として道標にする物語があるのだ、と。
(これで、同じように……)
 気づかれないように。そっと、そっと。
 空から落とされた煌きは、眼下の森へ落ちていった。

GMコメント

●成功条件
 少年の保護
 タカラスの撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●親タカラス
 見た目は大柄な鷹です。好戦的で、光り物を好みます。
 爪や嘴で攻撃を加えてくる他、直線的な攻撃を得意とします。

 鎌鼬(物中扇):翼で風を起こし、範囲内の敵を鎌鼬で切り刻みます。
 突進(物超貫):物理攻撃力の上がった突進攻撃です。【万能】【出血】

●子タカラス×5
 タカラスの子どもたちです。やはり好戦的で、光り物を好みます。
 爪や嘴で攻撃を加えてくる他、直線的な攻撃を得意とします。序盤は少年を嘴でつついたりしていますが、親タカラスが危ないと察知するとそちらへ加勢してきます。その他、巣に近づく者がいれば攻撃します。

 突進(物超貫):物理攻撃力の上がった突進攻撃です。【万能】【出血】

●少年
 保護対象の少年です。キラキラキャンディは手元になく、袋のみが残っています。
 擦り傷程度の軽傷なので1人でも動くことは可能ですが、モンスターに怯えて動き出すことができない状態です。
 巣の中にうずくまっています。

●ロケーション
 森林地帯です。この地帯のある大きな木の幹と枝の間に大きな巣が作られています。地面から巣はたいした高さではありません。
 時刻は昼、天気は良好。
 (PL情報)少年はキラキラキャンディを空から1つずつ落としていったようです。

●ご挨拶
 愁と申します。
 シナリオコンテンツ開始から丁度1年、ということで1年前登場した兄妹に再登場してもらいました。
 巣のある木を探すところからがスタートです。
 ご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。

  • キラキラを辿って完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年01月26日 00時40分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

フェスタ・カーニバル(p3p000545)
エブリデイ・フェスティバル
主人=公(p3p000578)
ハム子
ジョゼ・マルドゥ(p3p000624)
ノベルギャザラー
宗高・みつき(p3p001078)
不屈の
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
エスラ・イリエ(p3p002722)
牙付きの魔女
エルメス・クロロティカ・エレフセリア(p3p004255)
幸せの提案者
ルア=フォス=ニア(p3p004868)
Hi-ord Wavered

リプレイ

●煌めく道標
「皆、これがキラキラキャンディだよ」
 『エブリデイ・フェスティバル』フェスタ・カーニバル(p3p000545)が袋に入ったキャンディを仲間へ見せる。その外見を記憶しようとまじまじ眺める『Hi-ord Wavered』ルア=フォス=ニア(p3p004868)たちの傍ら、かの兄妹に縁があった者はその懐にキャンディを忍ばせていた。
 ポーチにそれを入れている『幸せの提案者』エルメス・クロロティカ・エレフセリア(p3p004255)は梟を召喚し、自らの五感と共有させる。
「男の子を助けたいの。よろしくね」
 近くの枝に止まったその足に紙を結び付け、声をかける。きょろりと梟は目を合わせると枝から飛び立っていった。梟の後ろ姿を見ながら『ノベルギャザラー』ジョゼ・マルドゥ(p3p000624)はキラキラキャンディを空へかざす。
(あー、そっか。オイラの初依頼からもう1年も)
 それはあっという間の1年。けれどこれまでこなしてきた依頼を思い返せば納得できるものかもしれない。
 ここに来るまで可能な限り聞き込みをしていた『ハム子』主人=公(p3p000578)はその表情を小さく曇らせた。聞いてみれば、これまでにも幾度かタカラスの被害があったのだと言う。人的被害がなかったため放置されていたが──少年がさらわれた以上、ここで仕留めなければなるまい。
「妹さんも心配していたし、絶対助けてプレゼントを渡せるようにしてあげよう!」
「うん!」
「折角素早い行動で知らせてくれたんだ、出来るだけ早く助けてやらないとな」
 頷くフェスタに続いて 『かくて我、此処に在り』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)も首肯する。発端は光り物を持っていたことだが、それが飴となっては不運な事故──あるいは災難だったと言う他ない。少年のローレットへ助けを促すという行動は最善、もしくはそれに近いものであっただろう。
 助かる確率はローレットに情報が寄せられた時点で決して低くはない。それをさらに上げるか、もしくは下げるか。あとは──。
(──儂等次第じゃ)
 ニアはそう思いながら、タカラスが飛び立ったというその方向を見遣って。

 かくして、タカラスの巣捜索が始まった。

(攫われようって時になかなかできることじゃないわ。報いてあげなきゃね)
 妹と引き離された少年の行動を思い出し、『牙付きの魔女』エスラ・イリエ(p3p002722)は小さく目を伏せる。伝え聞いた限りでしかないが、その状況でやってのけるためにどれほどの勇気が必要か。一般人──それも、子供だ。
「森のみんな。男の子がキラキラの丸いものを落としていったのを見なかった? その子を連れて行く鳥を見なかったかしら?」
 エスラの問いかけに木々がさわ、と揺らめき言葉を伝える。それは少年もキラキラも見ていないというものだったが、鳥は見たという言葉にざわめきの示す方向を見る。
「タカラスが飛んでいったっていう方向と同じだね」
「ええ。もっと先のほうかもしれないわ」
 同じ方向を見たフェスタの呟きに頷くエスラ。その言葉に「よし、任せろ」と足を踏み出したのは『不屈の』宗高・みつき(p3p001078)だ。
 進む方向に積もった雪を──目印になりそうなものがないか確認しながら──踏み固め、皆が歩きやすいように均していく。仲間たちは捜索の手に優れた者ばかり、ならばみつきは彼らが探しやすいようにできる限りのサポートをするだけだ。
(機転の利く子じゃ、目印に何か落としたかもしれぬ)
 例えば手に持っていたキャンディとか──とニアは良く見える瞳で目印を探す。フェスタも反射して煌めかないかと南瓜ランタンを地面にかざして。
「フェスタ、そこは頭上に気をつけろよ」
「わ、本当だ! ありがとー!」
 下に注意が向いているフェスタへみつきが声をかければ、はっと視線が上へ向く。すぐそばに近づく枝を避けつつ、再びフェスタは目印の捜索へ。
「これは……」
 マカライトが拾ったのは大きな羽。木々の間から落ちてきたのだろうそれは、雪の上で重力に沈むことなく乗っていた。
 ほぼ同時、エスラが声を上げる。
「この辺りで何か落ちて来た、って言ってるわ」
 告げているのは木々たちだ。曖昧ながらも少しずつ掴んでいく情報に、イレギュラーズたちは徹底的に辺りを探し始める。
「ダチコー、どうだ?」
 ジョゼが手伝いにと連れて来た地元のダチコーはまだ見つからない、と頭を振る。だが仕方がない。そのための人海戦術である。
「……あった!」
 声を上げたのはフェスタだ。かざしたランタンの光に合わせ、つるりとしたキャンディの表面が煌めく。エルメスがポーチからキャンディの袋を取り出してみて見比べた。
「ええ、おんなじね」
「逆の道を探したら、次のキラキラが見つかるかな?」
「かもしれねーな。よっしゃ、気張っていこうぜ!」
 ダチコーを呼び、先行してもらうよう頼むジョゼ。共にみつきが先を行って道を踏み固め、エスラはその風景を一瞬の間に記憶しながら迷わぬよう先へ進む。
「む、あったぞ」
 優れた視力を持つニアがキラキラを次の見つけ出した。森での捜索に慣れ始めたからか、1度キャンディを見つけたからか。コツを掴んだらしいイレギュラーズたちは痕跡を1つ、2つと見つけていく。
「靴だ。おそらく少年のものだろうな」
 マカライトが子供用と思しき靴を拾い上げ、観察する。冷たいそれは落とされてから時間が経っていることを感じさせるが、長い間ここに放置されていたような風化の跡は見られない。片方を見つけてから間もなく、もう片方の靴も見つかるとマカライトは靴紐を結って纏めた。
「キャンディじゃなくて靴ってことは、落とす物がそれしかなくなったってことか」
 考え込むみつき。キャンディはなくなり、靴もなくなり。落とす物は既に限られてきたと見た。タカラスの巣に辿り着く前に標を見失ってしまうのではないか。
 しかし、その不安をエルメスの声が打ち消す。
「見つけたわ! 大きな鳥の巣が木の枝に乗っているの。タカラスじゃないかしら?」
 五感共有した梟の目を通し、エルメスが大きな巣を視認する。
「行ってみようぜ」
「うん、男の子を助けよう!」
 みつきと公が頷きあい、皆がそれに続く。ジョゼもまたダチコーへ酒を奢る約束を交わしつつ、腰元にある柄の感触を確かめながら森の中を駆けた。


●光り物を狙う瞳
「……あれね」
 視認できるほどになった巣に、されどエスラは瞳を眇めた。蠢くそれはおそらく鳥の頭──タカラスの子どもたち。それを大きなタカラスが見下ろしているから、あれが親なのだろう。しかしこの角度だと少年を視認することができない。
「大丈夫よ、任せて?」
 テレパスでこちらのことを知らせられたら、と考えていたエスラの隣でエルメスがふわりと微笑む。召喚していた梟を呼び戻している間にフェスタはキラキラキャンディをタカラスたちへ向けて投げつけた。
「ほらキラキラだよ! こっちにおいでっ!」
 かざしたランタンの光でキャンディがキラキラと煌めく。子タカラスがギャアギャアとわめき、親タカラスがそちらへ──フェスタへ視線を向けた。肉薄してくるタカラスの攻撃を双盾でしのぎ、自らより後ろへ行かせまいとフェスタは足に力を込める。
 2者に距離ができた隙に滑り込んだ公は掌をかざし、そこへ刻まれた魔術を発動させる。それを受けたタカラスは後退するが、マカライトの銃弾はそこへ追随した。放たれたそれは的確に狙った場所を──翼の根元を撃ち抜く。さらにタカラスをエスラのソウルストライクが襲った。
「そうら、仕置きの時間じゃ。派手にいくぞ!」
 ニアはタカラスを構成する物質から破壊しようと時流へ働きかける。数の利と言わんばかりに攻撃を重ねるイレギュラーズたちにタカラスは逃れようと体をよじり、大きくひと声鳴いた。その後方でざわり、と気配が揺らめく。そう──子タカラスだ。
 子の援護を受けてイレギュラーズへ向かおうとする親タカラス。けれどのその方法はエルメスによって封じられる。
「シーッ、暴れちゃダメよ?」
 しぃ、と人差し指を口元に当てて悪戯っぽく笑うエルメス。彼女によって攻撃方法を制限されたタカラスは単調な攻撃を繰り返す。
 一方の子タカラスたちは親譲りの突進攻撃を繰り返し、キラキラを持つフェスタやジョゼ、前衛を担う公を中心に襲い掛かった。そして彼らを蹴散らし、その直線状にいる後衛の仲間たちへも子タカラスの突進は続く。
「……っ行ってこい、ウェボロス!!」
 木々の間から狙撃していたマカライトは横へ跳びざま眷属を召喚して投げつける。鎖の塊をしたそれは命中と同時に子タカラスを戒めようと鎖を展開した。息をつく間もなくマカライトはライフルを構え、ラピットショットを放つ。
 不意に、子タカラスたちへ向けられたのは氷のように冷たく、鋭い──殺気。その先にはキラキラを持ったフェスタがおり、にっと挑発するように笑む。猛々しい魔力の炎を纏い、フェスタは双盾をナックルモードへ切り替えて子タカラスへ押し込んだ。
 子タカラスの突進から急所を守ったエスラは、敵が旋回して仲間の元へ戻ったタイミングを見計らって殺傷の霧を向けた。エルメスも同時に放った悪意の塊であるそれはタカラスたちを巻き込み、苦しめる。
 霧から逃れた子タカラスは再度エスラへその鋭利な嘴を向けるが──。
(──倒れるわけにはいかないわ!)
 彼女の秘める可能性は、倒されるという未来を覆す。
 惹きつけられなかった子タカラスへキラキラを見せるフェスタ。その傍らエルメスはその間に脳裏でイメージし、それを現実へ映し出した。
「ほら、こっちもキラキラよ!」
 ふわりとエルメスの周囲から光る蝶が飛び立ち、それに反応して子タカラスたちが群がって行く──だが、それはあくまで幻影。触れられないそれに偽物だと気づいたか、タカラスたちの興味はイレギュラーズへすぐに戻っていった。
 そこへ公の魔砲が飛び、タカラスたちを巻き込んでいく。みつきのメガ・ヒールが公へかかるが、その直後親タカラスが公へ肉薄した。
「……っ!」
 咄嗟にジョゼがエメスドライブを仕掛け、混乱を促す。さらにマカライトの銃弾が親タカラスの頭を掠めた。
 同時、帯状の高次精神領域が地面を滑る。その真上に迸る紅色の雷と、みつきの放った一条の雷撃。それらは親タカラスへと命中し──その体はゆっくりと、地面へ落ちた。

 親のタカラスが倒れ、子タカラスも負傷した様子が見られる。相手が全滅するのは時間の問題だろう。
「行っても大丈夫かしら?」
「ああ」
 木々を盾にライフルを構えていたマカライトが頷く。今のうちに、とエルメスは戦線を離脱し、木々に隠れながら巣の近くを目指した。仲間たちがこちらへ注意を向けさせないよう、派手に戦いを繰り広げているのが見える。
 魔法でふわりと巣まで浮き上がったエルメスは、音もなく巣の乗った枝へ足を下ろした。
「こんにちは。ふふ、お久しぶりね」
 ひょこりと巣を覗き込めば、蹲っていた少年が勢いよく頭を上げる。
「……魔女さん? これ、くれた……」
 少年がそう言って見せたのはメモ用紙。先程梟の足に括りつけていたものだ。

『1年ぶりの探し物、迎えに行くから良い子で待っててね 魔女より』

 そう書かれた紙にエルメスはええ、と頷いて微笑む。帰りましょうと手を伸ばすと、少年はおずおずとその手を取った。
(そういえば、この魔法だと一緒に降りられないわ)
 ならば杖を箒代わりに──いいや、これも重さに耐えられないだろう。エルメスは巣の上からそっと地面を見下ろした。
「魔女さん?」
「大丈夫よ。おぶってもいいかしら?」
 飛べないならば、落ちるか、降りるか。幸いにも地面までさほどの距離ではない。どちらにせよ大怪我は免れるはずだ。
 少年をおぶったエルメスは注意深く枝から降り、地面へ足をつけると急いで安全な場所まで移動する。タカラスたちとの戦闘はまだ続いているが、もうすぐ決着がつきそうだ。
「怪我はないか!」
 遠目に少年の姿を認めたみつきが声を上げる。エルメスが少年が軽傷を負っていることを伝えると、みつきは後で治すと言いながら子タカラスへアタックオーダーで襲い掛かった。
「男の子なら我慢できるよな?」
「……うん!」
「よし、良く言った! もうちょっと待ってろよ!」
 にっと笑うみつきを背に、エルメスと少年は木々へ紛れるように走って行く。2体の子タカラスが追いかけてくるが、ジョゼはその内1体に横から襲い掛かった。
「悪いが、オイラにとっちゃそっちの坊主の方が大事なんでね」
 残り1体。しぶとく追いかけてくるタカラスだが──2人との間に陽だまりのような金髪が広がった。
「恨みはないけど、私達はこの子を助けなきゃいけないの。ごめんなさいね」
 それは相手の力を接収し、自らをも蝕む暗黒魔法。意識が鈍くなるのを感じながらも、エスラは子タカラスが地に落ちたことを視界に映す。
 さらに森の先──タカラスたちが入ってこられないような木々の間にウロを見つけたエルメスは少年をそこへ隠した。
「すぐ戻ってくるわ。いい子で待っていてね」
 頷く少年を尻目にエルメスは踵を返す。仲間と合流すれば敵はあと、1体。
「いたいけな子を浚ったのが運の尽きじゃよ。残念ながらな」
 ニアはにた、と笑って見せて──子タカラスの周囲の時流をかき乱した。


●靴と、キラキラと
 危険が過ぎ去ったことを確認し、イレギュラーズは隠れていた少年と合流した。
「妹ちゃんがローレットに来て教えてくれたんだ。兄ちゃんも怖かっただろう、よく耐えたな」
 みつきとジョゼが治癒魔術を少年にかけ、みつきは労わるように肩を抱く。少年は目を1つ瞬かせ、緊張の糸が解れたのかぽろりと涙を零し始めた。
 声をあげて泣き始める少年はやはり、子供で。みつきはそんな姿に苦笑を浮かべ、わしゃわしゃと少年の頭を撫でた。
「いいか? お前らが元気でいることも、母ちゃんにとっては素敵なプレゼントになると思うぜ。今はたっくさん泣いて、ちゃんと笑顔でお祝いしてあげるんだ」
 できるな? と問えば嗚咽混じりに言葉が返ってくる。そのそばに片膝付き、マカライトは拾った靴を出した。ごしごしと目元を擦った少年は靴を見て目を丸くする。手元に戻ってくるとは思ってなかったようだ。
「すぐに助けを求めてくれたおかげで、俺たちも早く来る事が出来た」
「それに飴のお陰で、すぐに見つける事が出来たのじゃよ。うむ、機転の利く良い子じゃのぅ、汝は」
「キテン?」
 ニアの言葉は難しかったのか、少年はかくりと首を傾げる。けれども褒められたことはわかったようで、すぐに笑顔を見せた。
(キャンディを落として道標に……ふふ、物語の主人公みたいね)
 いつだったかに知った物語を思い出し、エルメスはくすりと微笑みを浮かべて。
「さぁ、残りの1年は運がいい様におまじないをかけてあげるわ」
 きょとんとする少年の手を取り、エルメスはその甲にキスを落とす。それは1年前──自らがかけてもらった『おまじない』のように。目を丸くした少年の反対の手へフェスタは新品のキラキラキャンディを握らせた。
「……え、あ、これって」
「贈り物が無いと困ってしまうものね? あと、これはわたしから」
 いつの間にかキスされた手にも何やら握らされており、目を白黒させる少年。手を開いてみればそこには『ハッピーバースデイ、素敵な1年を!』という言葉と雪だるまの描かれたメッセージカードがある。
「さぁ、お母さんと妹ちゃんが待ってるよ! 帰ろう♪」
 フェスタに手を差し出され、少年はその手を握る。

 ローレットで兄妹が再開するまで──もう少し。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした。
 皆様のおかげで少年は無事救出され、タカラスも撃破することができました。

 またご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

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