シナリオ詳細
雪狼と密猟者
オープニング
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幻想の山間部にある地方の一角。
ハラハラと綿雪が降り注ぐ中、白銀の毛並みを持つ狼の群れが足跡を刻む。
信心深き者なら、静謐に満ちた厳粛な雰囲気に祈りを捧げるであろう。
それ切り裂く、場違いな火薬の弾ける音、そして純白の雪原に零れる鮮血。
「ちっ、仕留めそこなったか」
「馬鹿野郎、無駄弾撃つんじゃねえ!」
猟銃を装填し直して再度構えて二度三度と銃声が響く。
しかし、手応えはない。
「くそっ、また見失っちまっただろうが! 奴らはバカに警戒心が強いんだ、やっと見つけたのによ!」
逃げていく獲物に、慌てて獲物がいた場所を見聞した男の一人が悪態を付く。
本来であれば足跡と血痕が残っているはずだが……静かに、しかし大量に降り注ぐ雪が狼達に味方した。
「へっ、でもあんだけカマしてやっても、こっちを襲ってくる事もねえ。狼だがいいカモ……七面鳥撃ちってか?」
「くだらねえ事言ってねえで出直すぞ。獲物が反撃してこなくても、銃声を聞きつけ村人が来るだろう、出くわすと面倒だ」
男達……密猟者は、その場を後にした。
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「密猟者から狼さんを守ってほしいのです!」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が、集まった特異運命座標達を前に告げる。
『雪狼』スノーウルフと呼ばれる狼がいる。
その毛並みは雪のように白く美しく、獣の毛皮でありながら滑らかな手触りは絹の如く……
より簡単に一言で言えば、『高く売れる』。
「その地方では、スノーウルフは神様の使いとも、守り神とも言われてるのですよ」
よくある地方信仰だが、事実森の新芽を食べ尽くす草食獣や、時に人を害をなす大型の肉食獣を狩る雪狼の群れは、人々の生活を守り理想的な共存関係を築いていた。
それを脅かすのが密猟者……今回のターゲットというわけだ。
狼達は人に媚びる事はないが、決して人を襲う事もない。
それが例え、自分達を狩る者でも。
「でもこのままだと、密猟者に狩り尽くされちゃうのです! そんなの可哀想すぎるのですよ……」
感情移入して瞳を潤ませてしまうユリーカ以上に、村人達も怒り心頭だが、銃を持ったならず者相手に立ち向かう力は持たない。
そこでローレットの出番というわけだ。
「もし怪我した狼さんを見つけられたら、助けてあげてほしいのです。どうかお願いするのです!」
ユリーカはぺこり、とお辞儀して特異運命座標達を送り出した。
- 雪狼と密猟者完了
- GM名白黒茶猫
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年01月08日 22時30分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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鉄帝の国境と近しい山の夜。
匂いを運ぶ風もなく、ただ静かに深々と綿雪が降り注ぐ。
こういう日には雪狼の姿がよく見られるという言い伝えがあるらしい。
当然、密猟者達はこの情報を知っているだろう。となれば狩りに出ているはずだ。
占拠している山小屋から離れたところで隠れ潜み、時期を待つ。
「雪山での依頼だし暖かい服で準備万端じゃないとだめよね」
『ふんわりおねーちゃん』メアトロ・ナルクラデ(p3p004858)が防寒着が行き渡っていることを確認して柔らかく微笑む。
ローレットのほうで手配されており、行動にも差支えないだろう。
「狼を狩るだなんて、随分恐れ知らずな人間も居たものだ。今も狩りをしていると思うと、虫唾が走る」
『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)は忌々しげに歯噛みする。
ボーイッシュな少女のその本質は悪魔であり、獣であり、狼により近い。
同胞が狩られる事に一番腹に据えかねているだろう。
「今確認できるのは、2人か3人だ。出払ってる連中が戻ってきたところを纏めて奇襲しよう」
『赤の憧憬』佐山・勇司(p3p001514)が、現場で判断した奇襲タイミングを確認するように頷く。
マルベートは『わかっているとも』と頷いて、ギリギリのところまで接近し、罠を探索して解除していく。
トラバサミや発見しやすい鳴子罠など獣用の罠に加えて、明らかに対人用の罠がいくつかある。
「悪事を為している自覚はあるのですね。人の世界における法を犯してまで行うとは、何とも度し難い」
対人用の罠。それは追手がかかる、ということも理解していることだ。水瀬冬佳(p3p006383)は静かに嘆息する。
密猟である以上、その領地で禁じられているということ。
それも捕縛時に生死を問わぬほどの重罪。
「それでも行う者がいる……この世界でも、そういう所は変わらないのですね」
冬佳の世界でもこの世界でも、人の欲や罪というのはどこへ行っても同じらしい。
「密猟ねぇ……まぁそうでもしなきゃ生けていけない事情もあるのでしょうけれども」
『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く天鍵の女王(p3p000665)は如何なる理由で密猟に手を出したか思う。
聞く限り、真っ当な狩人としてもやっていける腕前はありそうだ。
更にローレットの難易度査定もある。傭兵崩れといったところか。
「狩る狩られるは自然の摂理ではあるのですが」
『こげねこ』クーア・ミューゼル(p3p003529)は呟く。
狩る者と狩られる者。狩る者がいなくなれば、狩られる者は増大する。
狩られる者がいなくなれば、狩る者は飢えてその数を減らす。そう言ったバランスの上で成り立っている。
「しかし私はいちおうねこなのです。狼たちに味方したいのです。不届きものを討つ理由としては、それだけで十分なのです」
それほど難しい理由は要らない。
依頼されたからでも、自然の調停者としてでもなく、クーアはねことして、動物の脅威を討つ事を決める。
「まぁ依頼だしね。善良な一個人として? 悪人は許せないし成敗しなきゃねー」
『「冒険者」』アミ―リア(p3p001474)は若干冷めた目で見る。
雪狼や密猟者の安否は、アミーリアにとってはどうでもいいと言えばいい。
為すべき仕事を出来る範囲で、確実にこなすだけだ。
「人間が戻って来た時に怪しまれない範囲ではこのくらいかな。後はその場で対応しても十分だろう」
単独ではあるものの、周囲を検分する十分な時間は確保できた。マルベートが罠の対処を終えて戻ってくる。
見張りの目を避けるのは、この雪が絶好の隠れ蓑になってくれた。
マルベートが残した足跡も、薄らと雪が多い目立たなく消える。
あとは待つのみ、再び潜んだところで雪がやむ。
「まるで、雪が味方してくれるみたいなのです」
クーアが呟く。
雪がやめば、密猟者達も雪狼の足取りを追うのを諦めて戻ってくるだろう。
「あながち雪狼が守り神ってのも間違いじゃないかもな、と……来たみたいだ」
『荒野の珍味体験者』クリストファー・J・バートランド(p3p006801)が人影に気付く。
「建物入口前にもあるはずだ。それを避けて入った所で、いいかな?」
マルベートは獲物が自らやって来たことに獰猛な笑みを浮かべながら、問う。
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「ダメだ、今日は収穫なしだ。ったく、雪が降ってる時しか見つけられないなんて面倒でしょうがない」
「その分見つけたらデカい。それに襲われないんだからマシだろ」
身体についた雪をほろいながら戻ってきたぼやく男達。
そこに鳴子の音が山小屋の中に響く。
「あぁ? おい、誰だ罠に足引っかけたバカは」
男達が顔を見合わせると、全員戻ってきて荷物を置いている所。
今外に出ている者はいない。
「馬鹿野郎! 見張りは何やって……いや、外だ! 全員銃持って外へ出ろ、敵襲だ!」
男が声を張り上げる。
この異常に対して、見張りが一切声を上げない。
安否を確認するまでもない、つまりそういうことだ。
「見張りが一人なんてね、他愛ない」
「これで8対7、一気に山小屋まで距離を詰め数の優位を更に得ましょう」
レジーナと冬佳が、遠距離から狙いとタイミング合わせての奇襲。
物音は鳴子の音で紛れ、誤魔化せたはずだ。その判断に要した時間を稼げれば十分。
「村人か、あるいは雇われた傭兵か……?」
リーダー格の密猟者は、思考する。
全員を取り逃がさないよう、帰還したタイミングを狙って襲撃したのか。
しかし鳴子罠に気付かず引っかけて、慌てて見張りを仕留めたのか。
手際は良いが、甘い。これなら対処できるはず――
「なんて考えてることだろうね」
タイミングを合わせて『ワザと』鳴子罠を引っかけたマルベートが慌てて出て来たところに嗜虐的に微笑む。
完璧な奇襲を仕掛けられたイレギュラーズ達だが、上手く行き過ぎるのも問題だ。
初手から逃げの一手を決め込まれれば、狩り切るのは難しい。
扉から出てきたところをすぐ狙わないのも釘付けにする策の一つ。
「お前らの相手はこの俺だ!」
出て来た密猟者達へ、白い迷彩服から闘衣を纏った姿へ変身した勇司が名乗り口上をあげ注目を引く。
「小童が、舐めやがって!」
「小童一人にこれか。舐めてるのはどっちだ?」
奇襲に怒りを駆られた密猟者から攻撃が集中するも、その大盾でその全てを悉く防いで更に挑発する。
「他者を殺すのならば自身が殺される事も、覚悟してるのだろうね? 我が同胞達を討った罪は重い。きちんと贖って貰うよ」
「はっ、人間様が犬っコロの十頭や二十頭狩って何が悪いってんだ!」
マルベートはじっくりいたぶりながら狩ってやろうと唇を舐めたところに、男は侮ったのか。
運命を決定付ける余計な一言を言ってしまう。
「覚えたよ、その顔」
マルベートは短く。背筋の凍るような殺意を向けられ、その意味するところを男はまだ理解できない。
しかし戦鬼暴風陣によって振り撒かれる災厄は脅威。
勇司へと引き付けられた男達目掛けて強襲したマルベートの武器が、盾で身を固める勇司を掠める。
「ぐあっ、畜生コイツ、味方ごと巻き込みやがっただと!?」
味方を巻き込みかねない範囲攻撃は乱戦になれば使えない。
その定石を真っ先に崩され、狼狽が走る。
それは勇司の守りが鉄壁であればこその遠慮なく撃てるという信頼。
「言っておくけどこっちは『生死を問わず』って言われてるからね。生きてたら運がよかったねって事で」
アミーリアは式符・黒鴉を放ち、漆黒の鴉が密猟者を射抜く。
植え付けられた不吉は、言葉と裏腹にある種皮肉めいていた。
「お前ら散れ、散れ!」
「不届き者は、紅き明き焔へ還る時なのです」
冷静な判断を持つ男達に散開される前に、クーアが雪道を凄まじい勢いで駆けて放火する。
クーアが放った炎が踊る様に燃え盛り、業炎がその身を苛む。
「ひっ、クソ、こいつら手練れじゃないかッ?!」
動揺した男へ、雪に紛れ隠れ潜んでいたメアトロが一足で踏み込む。
納刀したまま踏み込むメアトロに不意を打たれ、一瞬で抜き放たれた刃が奔り腕を斬りつける。
「がぁっ?!」
男は腕をを抑えて苦悶の表情を浮かべる。
「畜生、手前ら、よくも……!」
「狩って狩られて命は巡る。自然の摂理だな」
逃げ道へと立ち塞がったクリストファーが、一抹の理解を示す。
「それで、お前らが狼を狩って金を得るとして、その後で森に何をくれるんだ?」
「はぁ?! なんだってそんな事俺達が考えなきゃならねぇんだ!」
「……何もないのか? お前らの懐が温まるだけか? それは駄目だな、均衡が乱れる。
均衡を乱すならお前らは害獣だ。害獣は駆除しないと駄目だよなぁ?」
クリストファーの笑みが獰猛に歪み、男を怯ませる。
「我(わたし)、狙う相手は選んだほうが良いと思うの」
会話で時間を稼ぎ注意を向けた隙に、背後に迫ったレジーナの奇襲攻撃が男の意識を刈り取る。
美味しい獲物には、必ず何かあるのだ。
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「逃げるなんて考えないほうが良いと思うよ。生きたいなら、だけどね」
じりじりと後退しようとする男へ、外周を周りながらアミーリアが立ち塞がり、雪の下から突き出た巨大な土塊の拳を叩き込む。
男が真下からの激しい一撃に吹き飛び落ちて来たところに、クーアが当身を叩き込んでその意識を刈り取る。
「この、小娘が侮ったな!」
「ええ、侮りましたね。貴方が私を」
行く手を遮った冬佳へと、男は猟銃を捨てナタを抜き斬り掛かる。
魔術師と見て懐に飛び込んだつもりだろうか。
代わりに見舞われたのは防御を崩す近接格闘術式。
「くそっ、話が違うぞ! たかが狼狩りで、何だってこんなヤバイやつらが出てくるんだ!?」
「あーあ、折角忠告してあげたのに」
「たかが、ね……アレは私が追うよ」
遮二無二逃げ出しながら続く放言に、マルベートが冷酷な笑みを浮かべて唇を舐める。
「さぁ、存分に逃げるといい。どこまでも追いかけよう。そして狩り立てられる恐怖を味わわせ、その挙句に死んでもらうよ。苦痛に塗れて無残に死んでバラバラに切り刻まれて、野山に撒かれて獣達の腹を満たす屑肉のアラカルトになるといい」
「ひっ、ひぃっ!? 来るな、来るな化け物ッ!!」
悪魔としての本性を見せたマルベートは駆ける。
『悪魔』は獲物を即座に捕まえない。慈悲を持たない故に。
『狼』は獲物は決して逃がさない。誇りを持つが故に。
「この領地の連中に取って、『たかが』じゃ済まなかったってことだ。
これ以上痛い思いをしたいか、大人しく捕まるか。好きな方を選びな」
逃げた男をマルベートへ任せ、残った者へ勇司が告げる。
怒りに囚われ襲い掛かった打ち据えられている。
「大人しく投降すれば、法の裁きで済みましょう。ですが、投降しないのであれば――生死は問われていません故、御覚悟を」
「大人しくしてくれれば理不尽には殺さないでおいてあげる。けど――逃げれば殺すわ」
冬佳とレジーナが改めて降伏勧告を行う。
脅しではない。その言葉は事実だと、その冷淡な表情が告げる。
「わ、わかった……降参だ」
「そう。なら少なくとも法の下で裁かれる余地は残してあげましょう」
レジーナは目を閉じ、敢えて無防備に近づいて見せる。
男は黙って武器を捨て両手を挙げる。
「よかった。もし嘘をついて騙し討ちするつもりなら、汝(あなた)を見せしめに殺さなけばならなかったのだわ」
レジーナは微笑み、僅かに歪んだ空間、『剣』をしまう。
それは初見では不可避の双撃の構え。
男は冷や汗を流し、硬直したまま縄で拘束された。
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「んっ……どうやらお出ましのようだ」
勇司の人助けセンサーが近づき助けを求める感情を感知する。尤もそれは人ではない。
「あれは……雪狼か?」
捕縛した密猟者を縛り、小屋で落ち着いた所に、雪狼が姿を現す。
『頼みがある』
「その前に、謝らせてほしい。同族が迷惑掛けて申し訳なかった」
動物疎通によって言葉を理解し、意志を伝えられるクリストファーは頭を下げる。
『人間は、狼全てを等しく見るのか?』
雪狼の問いに、クリストファーはすぐには否定できなかった。
数頭の狼が家畜に被害を出しただけで、山全ての狼を掃討しようとする人間もいる。
『……心得ている。同族だろうと群れが違えば考えも違う。お前達が責を負う必要はない』
しかし、雪狼はクリストファーの意図は分かっているのだろう。
むしろ意地悪な事を言ったかと恥じているように見える。
『怪我した同胞がいる。お前達の助けが必要だ、特異運命座標』
「もちろんなのです。私はねこですから」
クーアがぽふっと自分の胸を叩く。
同時に、村医者を連れて来ていいかと聞けば了承した。
『分かった。案内させよう』
木陰に潜んでいた雪狼が姿を現し、クーアの元へと駆ける。
「私は空を飛ぶのですが、ついてこれますか?」
『無論』
箒に跨りながら言うクーアに雪狼は強く肯定する。
全力で飛ぶクーアを追いかけ、雪道をものともせず俊敏に駆け出した。
「それじゃあ、こっちはわたしに任せて!」
「万一逃げようとしたら、遠慮なくどかんとやっちゃうからねー」
メアトロとアミーリアが、小屋の見張りを名乗り出る。
警告がてらちらりと向けた視線の先では、男達は身を震わせていた。
この分なら、心配ないだろう。
医者を呼ぶのはクーアともう一頭の雪狼に任せ、先んじて到着したイレギュラーズが傷付いた雪狼を見る。
トラバサミを踏んでしまったのだろう、脚を傷付けた雪狼が辛そうに横たわっていた。
「これで、ひとまずは安心です」
『また狩りに出れるか?』
「脚の消毒と応急処置はしておいた。何、もう少し休めばすぐ狩りに出られるさ」
『そうか……』
冬佳がハイ・ヒールで傷付き体力が落ちた雪狼を癒す。
クリストファーは救急箱から取り出した道具と薬で処置した。
自慢の脚を傷つけた雪狼は弱気な声をあげたものの、クリストファーの励ましに安堵して眠りについた。
魔法の癒しと併せた以上回復は早いだろう。
「けど、撃たれた狼は体内に残っていそうですね……表面の傷と何とかなりますが、やはり摘出しないと……」
そうなれば大がかりな外科手術となる。
麻酔やより専門的な知識と道具が必要になるだろう。
「お医者さんを連れて来たのです」
クーアが媒体飛行で迎えに行った村医者を連れてくる。
風も雪もない穏やかな天候のため、持ち前の機動力が遺憾なく発揮された。
クーアの速度に負けじと先行して案内した雪狼は、流石に息を切らせている。
「ありがとうなのです、後は任せてゆっくり休んでいてください」
疲れた様子を見せようとしない雪狼へねこの癒しを振りまいた。
「まさか本当に雪狼が人前に姿を見せるとは……」
医者もクーアの使い魔の合図を受けて、即座に支度を済ませて飛び出した早々に合流できたのも一因だろう。
「うむ、大丈夫だろう。獣の専門ではないが……任せたまえ」
「何か手伝えることはあるかしら?」
「では頼む。まずは温かいお湯の準備と、清潔な布で手術台代わりを――」
レジーナや勇司、手伝いを名乗り出た、指示に従って手早く準備と環境を整える。
「火は私がつけましょう」
ギフトの恩恵によって、クーアが付けた火は多少湿気を帯びた木にも難なく燃え上がる。
お湯を沸かすだけでなく、雪狼の巣全体を照らし暖める優しい炎が広がった。
「悪ィな、お前達には何の罪もねーってのに迷惑を掛けちまって」
「『罪がないのはお前も同じだ』、だってよ」
勇司が温かい湯を沸かし治療の手伝いをしながら、弾丸を摘出される狼へ言葉をかける。
麻酔と痛みで朦朧としてる雪狼の唸るような声を、クリストファーが通訳する。
誇り高い狼の言葉をより意訳するなら、『気にするな』だろうか。
「人も獣も、最期に還るべきは紅き明き焔。
ただ、雪狼さんにとっては、今はまだその時ではないのです。我々の全力を以て治療しましょう」
クーアと冬佳は手術で目減りする体力を癒していく。
それから傷口から小さな弾子一粒一粒を摘出する、神経の磨り減らす長い長い時間が過ぎた。
最後の弾丸が、トレーに落とされ音を鳴らす。
「これで最後だ。あとは、傷の治癒を待つだけだ」
冬佳が残った力で傷を癒す。
疼いていた傷の中から異物が取り除かれ、眠る雪狼の吐息が穏やかな吐息になった。
あとは雪狼自身の自然治癒力で何とかなるだろう。
「これ以上、野生の狼の巣に人がいるのもなんだ」
役目を終えた戻ろうと告げ。
『我々は決して人間を傷付けない。決して人間に媚びない』
それが雪狼たる自分達の誇りであると眼差しが告げる。
『だが今は伏して感謝する。特異運命座標』
「どういたしましてなのですよ」
「ああ、次は元気な姿で会いたいな」
言葉が分かるクーアとクリストファーだけではない、その様子から、その心は全員に伝わった。
雪狼達に見送られ、狼に怯える男達を連行しながら、山を後にする。
やがて静かに雪が振りだし、静かに雪狼達の姿と足跡が消えていった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
皆様、お疲れ様でした。
MVPは雪狼達を助けるべく奔走した貴女へ。
捕縛された密猟者は然るべき罰を受け、同時に命が惜しいなら手出ししてはいけないという噂も広まりました。
これで密猟者に脅かされる事なく、雪山に平穏が戻ることでしょう。
ご参加ありがとうございました。
GMコメント
白黒茶猫と申します。名前に猫と入っていますが狼も好きです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●密猟者×8人
山小屋を勝手に占拠し、周囲に鳴子などの罠を仕掛けています。
村人や傭兵などが襲撃してくるのを一応警戒しているのか、見張りもいるようです。
人殺しに手を染める気はないようですが、自分達に危険が及ぶとあれば応戦してきます。
どちらかといえば決死で戦うより逃げることを選ぶため、逃亡には注意が必要です。
生死は問われていませんが、捕縛すれば領主がしかるべき罰を与える事でしょう。
武器はレンジ2の猟銃と、レンジ0のナタの2種。
●雪狼
知性は比較的高いですが、あくまで動物の範疇です。
【動物会話】や内包する【ウィッチクラフト】、それに類するギフトがあれば、意思疎通が可能です。
※PL情報ですが、密猟者を捕縛できた後、雪狼は助けを求めるようにイレギュラーズ達の前に現れます。
銃弾に撃たれ怪我をした狼が何頭かいるようです。
手当するか、あるいは村の医師を呼べば助けられるかもしれません。
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