シナリオ詳細
さようならの剣
オープニング
●かつてのどこか
幻想と鉄帝は、幾度となく戦いを繰り返してきた。
「まだまだぁ!」
一人の武人が己が敵を薙ぎ払う。
敵は倒せた。だが、獲物がなかった。持っていた剣はもう何人も斬っていた。血を浴びていて、すでに使い物にならない。
「ウオオオオオ!」
それでも、敵は容赦なく斬りこんでくる。
「オラアアア!」
武人は荒っぽく吠えながら、相手を突き飛ばした。相手も自分も、ごろごろと地面に転がる。武人は戦場に転がっていた赤い刀に手を伸ばした。
どこからか、そこにあった赤い刀はしっかりと手になじみ、勢いよく敵の首を跳ね飛ばす。
それは妖刀の類であった。
絶大なる力を持ち主に与え、代わりに破滅を呼び込む刀だ。
『おお! 汝、我を呼び覚ましもの! さあ、この世に私を解き放て! 汝の願いを叶えてやろう! さあ、汝は我に何を望む!』
刀に封じ込められた悪魔は叫んだ。
何でも願いをかなえてやると。
だが、男はそれを笑い飛ばした。
『笑止千万! 片腹痛いわ! 己が信じるのは、己の腕のみよ!』
武人は、典型的な鉄帝の男だった。
『勝利はわが手でもぎ取るもの! 武器はただの道具に過ぎぬわ! さあ、かかってこい、幻想の腐れ貴族どもめ!』
悪魔は虚を突かれ、がっくりとうなだれ、それ以来、声を発することはなかったという。ただ、刀となって、それからは戦場でともにあったということだ。
●なんかいいことないかなっと
「ぶえっくし!」
ズボンの裾を膝までまくり上げ、網で水を救い上げるキータ・ペテルソン(p3n000049)。この季節となると川は結構寒い。
泥をより分けてみるが、期待のものはなにもなかった。
「おかしいな。ここで砂金が取れるって聞いたんだけどな……」
「また偽情報掴まされたのか、キー坊」
「その呼び方! 子ども扱いはやめろって!」
情報屋に教えられた場所は、小さな村だった。おかげで、みんなキータの顔を知っている。釣り人はキータにも砂金にも我関せず、静かに釣り糸を垂らしていた。
「たしかにここは、幻想でも鉄帝に連なる川だからな。たまーに金属が紛れ込んでくることもある、だがな、金が出るなんて聞いたことねぇぞ」
「俺だって一人前なんだからな。知らないだろうけど、最近は情報屋として結構活躍してるんだぜ?」
「オマエそうやってまた、前もガラクタ掴まされてなかったか?」
「……いやっ、あれはそのー、あれだ……掘り出し物というやつで……」
「まあ、せいぜい、誰かからの恨みは買わんようにな」
「……」
釣り人はため息をつき、再び糸を釣り糸を垂らし始めた。
見栄を張ったは良いものの、この前も曰く付きのものに触れ、イレギュラーズに助けてもらったばかりである。ちなみにあれからすっかり快眠だ。
「はあー……もうちょっと上流に行ってみるか……」
きらりと何かが光った。
それは、赤い刀。
「おお!? これは……これはもしかすると……もしかして?」
●憑依
『クハハハハハ! 我こそは鉄帝の最高の一振り、”栄火”であるぞ!』
「おっ、キー坊、新しい遊びか?」
村の広場。キータは怪しげな刀を構えて、何やら喚き散らしていた。
「くっ、俺に近寄るな!」
「何々? 今回どういう設定なの?」
「違うんだって、今回はこれマジで……俺の意思じゃないんだって!」
「わあっ」
腕が勝手に動き、振りかぶった。幸いにも住民を傷つけてはいない。
「おー、結構様になってるな」
「眼帯は14で卒業したんじゃなかったっけ?」
「違うんだってば!」
キータは叫ぶが、相手にされていない。目の奥に怪しい光がともる。
『ええい! 聞け! 愚か者どもが! 聞かぬというのならば……!』
ぶん。
キータが刀を一薙ぎすると、木箱が真っ二つになった。
「おい、なんかほんとに様子がおかしいぞ!」
「離れろ!」
キータは振り下ろそうとした腕を何とか堪えた。
「ぐうっ……右腕が疼くぜ!」
「大丈夫か、キータ?」
「ダメだ!」
「オイ!」
キータは勢いよく音を上げた。
「いいか、ぶっちゃけ死ぬほど情けねえけど! こういう時に頼るべき相手というのがいる!」
『聞け! か弱きものよ! 我は強いものを求めている!』
「た、頼む!」
妖刀とキータは同時に叫んだ。
「イレギュラーズ『いれぎゅらーずとやらを連れてこい!』きてくれ!」
- さようならの剣完了
- GM名布川
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年12月25日 22時00分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●暴れるキータ
「キータさんも運がないなぁ。でも剣の方までイレギュラーズを呼ぶなんてどういう事だろう?」
「まずは止めないと……。あっちだね!」
『特異運命座標』ヨルン ベルクマン(p3p006753)と『魔法騎士』セララ(p3p000273)は現場へと急いだ。
そこには暴れるキータと、刃物を振り回すキータに果敢に呼びかける『祈る暴走特急』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)がいた。
「こらー! 刀を振り回すなんて、遊びにしても度が過ぎますわよ!」
「ち、違う、体が勝手に……!」
キータの攻撃が人へと向かうが、この場合は相手が良かった。
『自称・旅人』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)は、キータの攻撃を悠々とマントで受け止める。印象に反して、金属が見事に攻撃を受けとめる。
『ううむ、仕込みナイフか!』
「刀に操られているよう、とは中々に面白そうな状況ですね」
「えっ、勝手に身体が動く? どういうことですの?」
「刀自身が意思を持っているように見えるが、はてさて。何はともあれキータ殿を助けねば」
『武者ガエル』河津 下呂左衛門(p3p001569)は雫丸を抜いた。
『貴様! ……名のある刀か!』
「それにしてもあの青年、慣れた様子にも見えるが」
「キータのやつ、また呪われたか」
『第二十四代目天狗棟梁』鞍馬天狗(p3p006226)は住民を避難させながら、事態の推移を見守る。キータがこのような目に遭っているのは珍しいことではない。
「……強いのが入り用だって?」
新しい気配に、栄火はぞくりと身を震わせた。
『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)だ。
『……!』
そして、いつの間にか、後ろには『養父は帰宅を決意する』ウェール=ナイトボート(p3p000561)が立っている。
「ここは通さない」
灰銀の毛並みが波打った。
『囲まれたか……』
「ククク……おもしれぇなァ。医者上がりの魔術師だが、そこそこやれるぜ?」
レイチェルの金銀妖眼が、栄火を見据えている。
周りをイレギュラーずに取り囲まれ、栄火は確信する。こいつらは、強い。
「やむを得ないでござるな」
「! 危ない……!」
キータの手から刀が離れた。
●攻防
栄火は早い。
だが、セララは誰よりも早かった。栄火の憑依をかいくぐり、セララソードを振り上げる。
『な、なんだと!?』
栄火に先んじて一手を食らわし、剣を弾き飛ばす。栄火はキータと共に吹き飛ばされる。
「うん、効いてる!」
「さすがですわ!」
ヴァレーリヤが司祭服をひるがえし、すかさずキータを取り押さえる。
しかし、突如としてセララの身体が動かなくなった。剣は宿主をセララに替えた。そして、刃をヴァレーリヤへと向ける。
「ボクは正義の魔法騎士。この剣は平和を守るためのもの!」
『ぐっ……我にあらがうか!』
「決して皆を傷つけるためじゃない! 妖刀に……負けるもんかぁ!!」
セララはぐるりと身体を反転させ、切っ先をウェールへと変える。
「来い!」
ウェールも事情を察し、重盾『海洋』を構える。下手をすれば後ろに吹き飛ぶほどの攻撃だったが、ウェールの卓越した防御技術が致命傷を防いだ。
好機を見つけて、ヘイゼルが走った。まほろば千一夜を思い切り振り上げ、栄火のみを狙う。栄火は弾かれ、セララの手を離れて飛んでいく。
「ふむ、このくらいで良いか」
鞍馬天狗は間合いを見計らい、オーラキャノンを放った。1射目が栄火の淵をかすり、続け様に放たれた2射目は見事に刀のど真ん中にぶち当たる。
「よし!」
栄火を受け止めたウェールが、盾を振りぬき攻勢へと転じる。
『なんの!』
「頼むぞ!」
ウェールの攻撃を避けたと思ったが、それは仲間の攻撃への誘導だった。不意に、栄火の足元が緋色の光を帯びた魔術式に包まれる。レイチェルだ。『術式・夜ノ牙』。噴出する闇から、鋭い牙が食らい付く。
『……! 面白い! 刀をもっておらずとも、このように刃を隠しているものか!』
(今だ……!)
静かに獲物の動きを狙っていたヨルンは、レイチェルに注意が向いた一瞬の隙を逃さない。剣先を矢がかすめる。
『ぐっ……』
「こちらでござるぞ!」
下呂左衛門は、雫丸を構えて井之中流・初段を放った。美しく研ぎ澄まされた型が、栄火を両断する。
『面白い、面白いぞ!』
栄火はその場から消え、ウェールの前へ現れた。
「空間転移とはちょこざいな」
怒りに身を任せ、ヨルンに攻撃を仕掛けようとするが、ウェールの脚は動かない。
『なぜだ……』
ウェールは目を閉じる。パパ、と呼ぶ声が鮮明に聞こえる。
脳裏に浮かび上がる、大切な我が子。思い描いて、踏みとどまった。
「俺は、他者を、大切な人を守るために武器を握る。仲間を斬るのはお断りだ!」
ウェールは抗い、行き場を失った刃をヘイゼルが咄嗟に受け止める。
「しっかり! 支援いたしますわ!」
ヴァレーリヤが素早くヘイゼルにメガ・ヒールを唱えた。
下呂左衛門が先ほどとは違った太刀筋を見せる。井之中流・三段。しっかりとした基礎の上に成り立つ一撃。
ヨルンが立て続けに二射を走らせた。レイチェルは、術式を整え仲間に攻撃を譲る。
「好機とみた」
「オッケー! ガンガンいくよ!」
鞍馬天狗の一射で動きを止めた妖刀に向かって、セララの聖剣ラグナロクが強く光り輝き始めた。
光り輝くオーラは、人を傷つけるための技ではない。誰かを守るための剣である。
「妖刀、キミは何でそんなことをするの? ねぇ何故?」
セララは打ち合いながら、栄火に問いかける。
『我は試しているのみだ!』
「それは人を傷つけてでも成したいことなの?」
『武器が傷つけあわずに、どうして分かり合えるだろうか!』
打ち合い、火花が舞い落ちる。
栄火は標的をレイチェルへと変え、姿を現す。
だが、やはり……その足は意のままには動かない。
「ーー俺はなァ。誰かに支配されるのが大っ嫌いなンだよ!」
レイチェルは移動し、範囲をそらす。
術式・夜ノ牙にも似た様子の陣が浮かび上がるが、レイチェルは傷つくことも厭わずに栄火の刀身をつかんだ。
血がしたたり落ちる。攻撃が逸れ、仲間は直撃を免れる。捨て身のキルザライトが、栄火を蝕んだ。
『ぐっ……』
栄火は、次にヘイゼルの前へと姿を現した。
ヘイゼルは導かれるように手を伸ばしたが、逆側の手でマントを握る。痛みに目を見開き、耐える。
「申し訳ありませんが、体は闘争を求めておりませんのです」
(ええい、なぜだ! どうして倒せん!)
栄火にとって予想外なことに、イレギュラーズたちは全く思い通りにはならなかった。一時的に自由を奪うことはできても、意のままに操ることはできない。
「させませんわっ……!」
ヴァレーリヤが抗い、仲間から射程を外す。聖句の刻まれた天の王に捧ぐ凱歌は、仲間を傷つけることはなかった。ならば、乗っ取る相手を変えればよい。
「そっちだ!」
レイチェルの使役するカラスが鳴き、それに反応したヨルンが素早くワイズシュートを食らわせる。
そして妖刀は、下呂左衛門の手に収まった。
「来たか……ウェール殿!」
「任せてくれ」
下呂左衛門は、美しい斬撃を繰り出した。ウェールはそしてそれを難なく受け止める。互いに力のあるものであるからだろう。実力は拮抗し、素晴らしい音を奏でた。
●栄火は語りき
『ぐっ……』
「終わりか?」
レイチェルが油断なく構えたまま、栄火を見据える。反応はない。
「終わりみたいだな」
ウェールはほっと一息つくが、盾を下ろすことはなかった。
「もう争う気はないようだが、はて」
鞍馬天狗はゆるやかに武器を下ろした。
「何か、話したいことがあるのですね?」
様子を察したヴァレーリヤはそっと近づいていく。だが、栄火は刀である。誰かの口を借りなくては喋れないようだ。
ヘイゼルが歩み寄り、栄火を掴んだ。
「大丈夫ですか?」
「闘争は求めておりませんが、面白い事は求めているのです」
ヘイゼルの口を借り、栄火は語り出す。
『つまり、だ。我は貴様らに依頼をしたいのだ』
「やるべき事があるはずなのに、思い出せない、か。大丈夫、君はまだ自分の名前を覚えてるし、きっと思い出せるよ」
ヨルンは優しく告げた。どこか寂しい響きを感じ取ったが、栄火はそれを上手く言葉にできなかった。……ヨルンには、”生前”の自身の記憶はない。
とはいえ、栄火は今さっきまで戦っていた相手である。
(妖刀が何か企んでいるのかもしれない。が……まぁ、悪さをする気ならば拙者達の手を借りずともできる感じか)
下呂左衛門は思慮を巡らせるが、頷き、ぽんと膝を叩く。
「話を聞いた以上は放ってもおけぬし、協力するのはやぶさかではないでござる」
「依頼っていうならな」
「まあ、魔法少女としてはほっとけないよね!」
レイチェルとセララが顔を見合わせる。
ほっとして去っていこうとするキータの腕をヘイゼルが掴んだ。
「キータさんが拾った物なのですから『当然』元の持ち主が気になりますよね
……良いですね?」
「うう……わ、わかった。もちろん、はい」
●国境を越えて
「それにしても、ややこしいものを持ってきやがって」
鞍馬天狗はぼやいた。
栄火が言うには、どうやらこれは鉄帝の刀らしいのである。
「鉄帝といや、時期的によろしくねぇ。今、戦争してるだろ。この辺りは、戦火が上がっていないから、まだいいが」
「だな……」
ウェールが心配そうに頷く。
「しかも、相手は、妖刀。『またしても』だな。この前だって、妖刀と鎧のセットだったわけだしよ」
「このままじゃ目立つよね」
ヨルンがそっと布を用意してきて、栄火をくるむ。
「おお、袋にすればいいんじゃないか?」
ウェールが器用に布をしばった。
『うむ、悪くない』
栄火はなんとなく満足そうでもある。
「抜き身のまま持ち歩くのは危ないしね」
一行は川をたどっていく。栄火の話はあいまいで、今とは大きく違う。かすかな手掛かりをもとに、歩みを進めていく。
「そこに大きな木があったなら、たぶんこれが……」
『うむ! 見覚えがある!』
目印を見つけたヨルンに栄火は嬉しそうに答えた。
「しかし、コレがややこしいところだ。まず、戦場は、鉄帝の領域ってことだな?」
鞍馬天狗が遠くをすがめる。
「鉄帝とは戦争中ですし、関所は避けたいですよね」
地図を見ながら、ヘイゼルが言う。
『遠回りするのか?』
「まあまあ、兵士さんも幻想の間諜を鉄帝に入れない為、日々の食い扶持の為にも真面目に仕事をしているんだ。お前さんの持ち主だって軍人なら上官の命令は基本守るだろう?」
不満そうな栄火を、ウェールがなだめる。
栄火は納得したらしく、それ以上は何も言わなかった。
「こっちに浅瀬がある。渡れそうだぜ?」
レイチェルの鴉が、上空から抜け道を見つけたようだ。
「浅い川……渡れなくもなさそうですね」
というわけで、イレギュラーズは川を渡ることとなった。
「まぁ、我らには簡単な方法だがな」
一足先に川を飛び超えて渡った鞍馬天狗は振り返る。
ヘイゼルは軍用踏空魔紋【Ventus】により空を飛んでいる。そしてこれまた謎の技術によって縒り合された縄を、すいすいと水面に渡す。
「うん、急いだら行けそう!」
セララは光翼のブーツで足元を踏みしめてみた。きちんと浮いている。
「荷物持ってあげるね!」
「助かりますわ」
ヴァレーリヤが微笑みを見せる。
「では、拙者は泳ぐでござるよ」
下呂左衛門は荷物を頭に乗せ、すいすいと河を渡っていく。
『ああ、これでは錆びないか?』
栄火はぶつくさ言ったが、そうはいってももともとボロボロの剣だ。
(古い剣だよね……50年は経過してそう)
セララはじっと栄火を眺める。
「どれ」
劣化具合を見ていられなかった下呂左衛門は、栄火を軽く磨き、清潔な布で巻きなおし、応急処置をほどこしてやった。満足そうな栄火は、ふと隣の刀に気配をやった。
「持ち主が見つかれば良いがな。刀は武人の魂。どういう形であれ、別たれたものが再び一つになれるのならば、それは救いとなろう」
『フン、……良い刀だな』
たぶん、礼のつもりだったのだろう。
「こちらですね」
ヘイゼルは地図をたどりながら、道なき道を進んでいく。
●訪問者
栄火はずいぶんと古い。栄火の言う様子からは、やはり景色はずいぶん間違っていた。だが、道を戻り、目印を定め直しながら根気よく進む。
少しずつ、少しずつ道は覚えのあるものとなり、ついに活気のある街にたどり着いた。
「骨董品店や武具を扱う店を訪ねてみるでござるよ」
「それがいいでしょうね」
イレギュラーズは、根気よく町中を尋ねて回る。
「持ち主だった方について、教えてもらえないかしら? 武勇伝や亡くなった際の状況、戦場の位置、慰霊碑の場所……何でも構いませんわ。今は少しでも情報を得たいの」
いくつかの店を紹介され、はしごしているうちに、一人の退役軍人にいきあたった。戦友が、これとよく似た刀を振るっていた覚えがあるという。
「なるほどねえ……」
レイチェルは頷いた。
亡くなっているようだ。
50年も前で、持ち主を尋ねて奥さんを紹介されるというのはそういうことなのだろう。ヨルンはただ、言葉もなく黙っていた。
ヴァレーリヤは屋敷を優しくノックをした。
ここに遺族がいる、というのである。
「急な訪問で御免なさいね。私達、この剣の持ち主を探しているのだけれど」
柔らかい態度のヴァレーリヤに、家主は警戒を緩めた。
「旦那さんが使用していた刀かもしれません。もしその刀だった場合、相棒に会えることは天国の旦那さんも喜ぶと思うんです。お話ししてくれませんか?」
どこか嬉しそうに、どこか懐かしそうに、老婦人は夫の最後を語った。
そして、しばらくの沈黙が満ちた。
『違う!』
栄火は叫んだ。
『違う! こいつは、我の持ち主ではない! 我の持ち主は……』
「真実から目を背けたままで居たいなら止めないけれど、本当にそれで良いのかしら」
ヴァレーリヤは真実を曲げることはしない。
「貴方の身体は朽ち果てる寸前。長らく連れ添った主人に別れを告げるのは、これが最期のチャンスだと思いますわよ」
ヴァレーリヤは、栄火に真摯に向き直る。
「貴方も後悔しながら逝きたくはないでしょう?」
『違う……』
「これはきっと神が与え給うた慈悲。無駄にすべきでは無いと思いますわ」
ウェールが、栄火を壊れないよう優しく強く抱きしめる。
「栄火……否定したくなるのは分かる。守りたかったのに守れなかった。大切な人が辛い時に傍にいてやれなかったのは辛いよな」
優しく頭を撫でるような言葉だった。
「でも、お前は持ち主さんの守りたかったものを守れたんだ。親族や同僚はお前と持ち主が頑張ったから平和に暮らしている」
「そうだよ。この街、退役軍人の人達、主の奥さん。全部キミと主が守ったものだよ」
セララは明るく言った。
「向こうに着いたら主に言ってあげなよ。大切なものは守り通したぞ、って」
『……』
「だから、このまま眠ってもいい……だけど、お前にしかできない事がある。持ち主さんの遺体は50年も見つかっていない。誰も見つけられなかった。でもお前が記憶を取り戻せば。持ち主さんも家族の元にようやく帰れる」
『それは……』
「それに、持ち主もお前を探しているんじゃないか? だから一緒に探しに行こう」
『それはムリだ』
同じ口から諦めが洩れる。
「違うよ」
ヨルンが否定した。
「確かにお前は主を守れなかったかもしれねぇ。だが、主が戦場で戦人らしく散れたのはお前が一緒に戦ったからだろ?」
レイチェルの言葉に、栄火は押し黙る。
ひび割れが走り、ぴしぴしと刀身が軋む。
「でも、まだ、君はやるべきことがあるはずだ。絶望するのは死んだ後だって出来るだろう! 言うんだ、君の持ち主の居場所を。僕らが君の英雄を迎えに行く」
栄火は話さなかった。何も。だが、その切っ先が震え、かすかに道を指し示した。
「行こう。栄火からの依頼はまだ終わっていない」
ヨルンは立ち上がった。
イレギュラーズもそれにならった。
●おかえりなさい
一行は、すっかり言葉少なになっていた。だが、希望は絶えていなかったと思える。街につくのと同じように根気よく栄火に付き合い、辛抱強く探っていった。
「あれではありませんの?」
ヴァレーリヤが見上げる。戦場の跡地に、ありふれた大岩が見えてくる。肯定するように、栄火は強く輝いた。
「戦い以外の事でも……私は色々な事が楽しい旅だったと思うのですよ」
「そうだよね」
セララが頷く。
栄火は黙ったままだったが、ちかりときらめきを返した。
ここだ。
鎧が落ちている。栄火は一層強く光った。すでに風化しかけていた。
「……もう、休め。無理しなくて良いンだよ」
栄火はイレギュラーズの手を離れ、落ちていた鎧の傍に横たわる。
「お疲れ様、よく頑張った……おやすみ。良い夢を」
「長いようで短い旅だったな」
「達者で」
鞍馬天狗と下呂左衛門が別れを告げる。
戦場をかける蹄の音。豪快な笑い声が聞こえた気がした。
「さようなら、栄火。楽しい旅だったよ!」
「お休みなさい。大丈夫、きっと旅立った先で会えますわ。主は、慈悲深いお方ですもの」
ヴァレーリヤは小さく祈りを捧げた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
朽ち果てた剣の持ち主探し、お疲れ様でした!
イレギュラーズたちのはからいにより、栄火も持ち主と再会することができました。
キータもなんとか安眠を取り戻したようです。
戦場で駆けずり回る夢を見ながら、おやすみなさい。
また一緒に冒険いたしましょう。
GMコメント
●目標
妖刀「栄火」を主の元まで送り届ける。
●登場
キータの体を乗っ取り、広場で暴れまわっています。強いものを出せと叫んでいるようです。
妖刀「栄火命鉄(えいかめいてつ)」
鉄帝製と思われる、古びた刀。
何らかのまがまがしいオーラをまとっている。
キータ(はた目から見ると中二)
魔剣「栄火命鉄」に乗っ取られた状態のキータ。
だが結構前に厨二病を発症していた状態と似通った姿であるのと、故郷の村が近いのと相まって、周りからはいまいち心配されていないようだ。
結構人を傷つけそうで危ない状態ですが、まだ未遂で済んでます。
取り押さえようとすると、剣は手近なイレギュラーズに宿主を変え、それ以降、栄火は毎ターン宿主を変える(射程に関係なくワープ移動する)。あ、キータは放置して大丈夫です。
<栄火憑依>
1名まで、憑依されて身体のコントロールを奪われる。
栄火に憑依されると、意思に関係なく味方を攻撃してしまう。乗っ取られたものの意識はある。
対抗に成功すれば副行動のみ任意に行動可能。基礎動作はそれなりに制限されるが、簡単なことならできるかもしれない。
●栄火命鉄
適度に暴れ回り、HPが4分の1以下になると、栄火は「汝の力、見たり……!」と動きを止める。(もっと攻撃しようとすると慌てて謝る)。
『我は栄火命鉄! 強者と共にある刀なり!』
剣の銘は栄火命鉄(えいかめいてつ)。しゃべれないので、誰かの口を借りて憑依してしゃべる。もともとは刀にとりつき、人を斬りながらも願いを叶えてきた小さな悪魔であったのだが、もうその力はないようだ。
栄火は激しい戦いの最中、川を流れていたことだけを覚えている。戦いが好きなのはおいておいて、それ以上に、なにか「やるべきこと」があったはずだが、思い出せないでいる。
道具である自分には、何をやるべきか分からないから、持ち主を探して欲しい、と頼んでくる。イレギュラーズはうろ覚えの『強者』と思って告げた。金は、見つけてくれれば持ち主が払うから、とのこと。
<栄火命鉄(えいかめいてつ)の情報>
鉄帝の刀匠が鍛えた刀。
イレギュラーズも、もし造詣が深ければ知っていてもいいかもしれない。悪魔が憑いているがごとき切れ味、不吉な刀だ。現存していないはずの幻の刀。
栄火の状態はかなり悪い。本体は、修復不能なほど損傷しており、どうして今ぴんぴんしているのか分からない。
見たところ、50年は経過しているのではないか……。
●結末(PL情報)
栄火の持ち主は、すでに戦場で亡くなっている。
それは50年も前のこと。彼は戦場で散った。
果敢に突撃し、敵の将を栄火で討ち取ったが、撤退時に敵の奇襲を受け、栄火で受け止めたが、かなわず亡くなっている。栄火もまたその時にひび割れ、ともに亡くなったのですが、そのことを覚えていないようだ。
記念碑はあるが、遺体は見つかっていない。
「そんな……それでは我は、守れなかったのか……武器でありながら!」
「我がここまで、やってきたのはなんのためだったのか!」
「我は……」
呆然自失となり、しばらくののちに栄火は元の傷ついた刀となり消滅するでしょう(消滅は、残念ながら防げません)。
どう声をかけようと自由です。
依頼料は、遺品を届けてくれたということで持ち主の親族がくれます。
●足取りについて
・幻想と鉄帝の国境
発見した場所である川をたどっていくと、橋のかかった国境沿いに出る。
兵士「今、鉄帝と幻想は結構危ない状態でありまして。しかもこの橋でちょっと、幻想とひと悶着ありましてね。残念ながら、許可を持った人以外は通せないであります」
栄火「ええい! 不届き者が! 急ぐというのに!」
放っておくとトラブルになりそうだ。
無理矢理川を渡るか、こっそり忍び込むか、何らかの手段で橋を渡りたいところ。
・街道
代り映えのしない鉄帝の岩場。
栄火はおぼろげに道を覚えているが、ところどころうろ覚えであり、間違っている。50年も前の事。
ずいぶんと実情は違っているようで、栄火が「林」と言っているところだが、良く痕跡をたどると町に出てしまう。だが、その町は50年前には林の地帯だったのだ。
・関係者
探せば、元の持ち主の関係者が見つかる。退役軍人や、親族など。
親族は高齢のおばあさんで、夫が死んで以来ふさぎ込みがちになり、待ち外れで気難しく屋敷でひとり猫を飼ってる。戦いの気配と客人はあまり歓迎しないようだが、刀については感謝する。
・慰霊碑
兵士たちを悼む慰霊碑に見覚えのある名前を見つけることができる。栄火は否定しようとする。
・遺体の場所
栄火が完全に記憶を取り戻し、持ち主の死を認めると、いくばくか光景を思い出す。外の岩場をたどっていくと、ここだという場所が見つかる。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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