PandoraPartyProject

シナリオ詳細

β観測IBM5XXX

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●シュペル・M・ウィリー
 ――ふむ? 観測の話がしたい?
 凡百にしては面白いセレクトだ。小生の砂金よりも貴重な一時を費やそうというのだから――莫迦げた用事ならば、身を以て購って貰おうと思ったが……
 ……面倒な。いちいち本気にしてくれるな。無論、本気だがね。
 まぁいい。未来観測についてだったな。
 今、小生と君が見ている『現在』は大枠で言えば唯一性のある絶対的な不変だ。
 そして次に何が起こるか――つまり未来というものは観測されるまでは絶対的に不安定なものなのだ。何らかの力によって未来を覗く力を用いれば『擬似的に未来を観測する事は出来るが、観測した未来はその時が訪れ、実際にその通りになるまでは不定だ』。
 訳が分からない? そうだろうな。重要なのは『未来は時の経過で現在となり、現在となって初めて正確に観測される』という事だ。即ち『如何なる観測が起きようとも、観測された時点で<現在>は観測された世界と、観測が行われなかった世界に枝分かれするから、実際に未来が現在になるまでは生じる爆発的な誤差が計算不能』。
 基本的に無意味なのだよ。実際の所。
 例えば例の『神託』だったか? 訳の分からん『神』なる概念が押し付けてくる不快な『結論』ならばいざ知らず。確率論で比較的高い結果を探す事は可能だが、正しい意味での絶対的観測というものは中々どうして難しい。
 少なくとも預言者なる胡散臭い連中に可能なレベルの話ではない。
 ……ふむ? 食い下がるな。それでも可能だとしたら?
 凡百め。意味のない問いだが簡単だ。パラレルワールド化による最終結果は兎も角として、嘘偽り無く完璧な観測を以て断言出来るのは小生か、『実際見てきた者だけに決まっている』!

●終末帰還者
「……最悪だ」
 リック・ローンは何度目か知れない恨み節を吐き出した。
 彼の頭の中を占めているのはままならない人生への不満ばかりだった。
 家族との不仲、碌な友人が居ない事、上手くいかない我儘な恋人。山のように積み上がった借金、今朝首にされた皿洗いの仕事の事――
「最悪だぜ。クソッタレ」
 ――荒れに荒れて痛飲し、遂には酒場も叩き出され。
 冬の寒空の下、フラフラと裏路地を行く彼は今まさに最悪の気分だった。安酒のチャンポンは胸焼けする程で、冷たい外気も不快な酔いを追い払うには到っていない。
 リックを取り巻く事情の大半は彼の怠惰や性格の問題によるものだ。
 裏返して語るならば、不仲な家族は荒れた生活を送る彼を何度も更生させようと努力した。少なくない援助も行い、その行動に胸を痛めてきた。友人が彼の下を去ったのは彼が借りた金を返さず、酷い暴言をお見舞いしたからだ。我儘と称した恋人は彼に何度も殴られた結果逃げ出しただけ。首にされたのは店の金を使い込んだからだ。
「どいつもこいつも――」

 ――ムカつくぜ、死んじまえ。

 そんな言葉を彼が吐き出さなかったのは良心が呵責したからではない。
 単に胸の奥から競り上がってきた吐き気が彼から言葉を奪っただけだ。
 路地の片隅に不快と一緒に吐瀉物を吐き出した彼はもう一度「最悪だ」とだけ呟いた。
 しかし今回、これまでと話が違っていたのは――
「そんなに最悪ですか?」
「……は?」
「最悪ですよね、この世界。
 碌な事は起きないし、誰を顧みる事も無い。
 いや、分かります。分かりますとも――間違いなく最悪ですもの」
 辛うじて顔を上げたリックの視界に飛び込んできたのは月下に佇む不思議な女の顔だった。何の気配も無く、気付いたらそこに居た。煙か何かのように現れたその女はリックの答えさえ待つ事は無く頻りに「うんうん」と頷いて一人で納得したような顔をしている。
「……何だよ、お前」
「何だと聞かれると難しいんですけど、ええと。
 ヨハナはですね、預言者――みたいなものでしょうか。
 ええ、見てきたように未来を語ります。それに、結構良く当てますよ」
「信じられるか。大体、そんなオカルトお呼びじゃないぜ」
「信じて下さいよう。私の場合、無責任なオカルトじゃないんですよ?
 アフターサポートバッチリで、確実に貴方にとっていい未来を預言しちゃいますから。
 んー、んー、んー。例えばそうですね、リックさんの場合……」
 眉根を寄せた『預言者』は難しい顔をした。
「……本当に碌な未来がないですね。
 孤独な野垂れ死にとか、女の人に刺されて死ぬとか」
「喧嘩売ってるのかよ!」
「あー、大丈夫です。アフターサポートバッチリですから」
 掴みかかりそうになったリックの腹から歯車が『生えていた』。
「え、あ……」
 ビチャビチャと路地裏に溢れる鮮血を眺めながら『預言者』は言った。
「観測先全てで碌な未来のない人生は今おしまい。
 サービスで貴方の嫌いなクソッタレ共も一人残らず一緒に消えてなくなりますからね。
 良かったですね。気楽で素敵な未来がやって来ました」
 返り血を浴びながら楽し気に笑った『それ』は限りない魔性を帯びていた。
 小さな足音が惨劇の現場から走り去る。口笛を吹いた彼女はそれに頓着していない。

●【悲報】ヨハナ・ゲールマン・ハラタ容疑者(p3p000638)『自分は未来人と意味不明な供述をしており……』
「すごい失礼な事を言われた気がしますよ!?」
「『殺人現場でオマエの顔を見たという証言がある』」
「……は!?」
 やぶからぼうな――寝耳に水。
『蒼剣』レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)の言葉にヨハナは目を見開いた。
 普段から冗談が服を着て歩いているようなレオンだが、その表情は真剣そのものでヨハナをからかっている風では無かった。
「見たと言われましても、ほら! 昨日も街角でお話してたじゃないですか!
 鉄壁のアリバイですよ、これはもうどんな探偵でも崩せませんよ!
 って言うか、証言者がレオンさん自身ですよ! どうするんですかそれ!」
「そうなんだよ。だから、おかしな話になる」
 ヨハナは目撃者の証言によって『容疑者』となっている。レオンは何度も目撃者に確認したようだが、結論は変わらなかったらしい。しかし同時に彼女には覆しようのない位確実なアリバイが存在し、まさに不可能状況が作られている。
「それ以前に何の事件が起きたんですかっ!」
「小さな街が一つ全滅した」
「うぇ!?」
「正確には一人――例の目撃者を除いてだがね。
 彼女はローレットで保護したが、犯人はオマエの顔をした誰か。
 たまたまオマエのデータを見た目撃者がとんでもねぇ顔をしたから発覚した訳だ」
「と、言われましても!」
「そう。オマエは犯人じゃない、だが犯人は間違いなくオマエの顔をしていた。
 この状況から導き出される――予測される結論は?」
「……その悪人が私のフリをした、とか」
「十分有り得る。だが動機が分からない」
「私に恨みがあるとか、ローレットを騙る目的とか……」
「有り得るが弱い。オマエに悪名を被せたいなら全滅させちゃいけない。
 目撃者が凶手を逃れたのは偶発的な出来事だろ。殺し尽くしちゃ意味がない」
「レオンさん、ただ街角で美人を口説き出すだけの人じゃなかったんですねっ!」

 ――ポカリ!

「………あいたっ! うっ、じゃあ、ええと。小説みたいになりますけどっ!
 ヨハナ、実は多重人格で知らない間にやっちまったとか……
 いや、でも昨日街角で会ってるし……そもそも犯人になっちゃうじゃないですかっ!」
「面白い話だがね。もうちょっとぶっ飛ばしてみるか。オマエ、自称未来人だったよな」
「自称が気になるんですけどっ!」
「まあまあ。案外それが本当だとして、こういう予測はどうだい」

 ――犯人はオマエじゃないオマエ。

「……何ですか、それ」
「『本来存在し得ない混沌に似た別の時間軸に特異運命座標にならなかったオマエが存在したとして』。その可能性と偶発的に生じた『起爆剤』が結びついて、別のオマエが現れた、とか」
「????」
「『もし本当にオマエが未来人で、時間を跳んだとしたならば』。
 その大いなる誤差からパラレルワールドが極狭い範囲で成立したとかそんな話だよ。
 ま、与太話だ。残念ながら言ってる俺がまず一ミリばかりも信じていない。
 信じていないし、有り得ないと思うが――残念ながら俺には『絶対にない』観測が出来ないのさ」
「……頭が痛くなってきました……」
「そういう顔をさせたかった」。言うレオンの顔は意地が悪い。
「実際、単なるドッペルゲンガーと思った方が話は早いけどな。
 その正体が何であれ、重大な事件が起きている――今後も起きかねないのは事実だ。
 俺が訳の分からん話をしたくなる程度には今回の相手はややこしい訳」
 レオンは肩を竦めて言葉を続けた。
「――何せ、こればかりは間違いが無い。相手は何せ何でもありの『魔種』だから」

GMコメント

 YAMIDEITEIっす。
 べーたかんそくあいびーえむふぁいぶえっくすすりー。
 ウォーカーだと思ったら違ったので構築難易度が激烈上がってしまったです><
 以下詳細。

●依頼達成条件
『終末帰還者』ヨハナ・タイターを観測し、撃破ないしは現場から撃退する事

●エヴェレット
 惨劇の起きた小さな街。
 ヨハナ・タイターは中央広場に存在します。
 中央広場は見通しが良く遮蔽が少なく戦闘するに適したロケーションです。

●ヨハナ・タイター
 名称はレオンが洒落を含んで付けた仮名。神出鬼没。
 魔種としては温厚な方だが致命的にズレている模様。その本質は対話可能な悪意、破綻した善意。未来を語る彼女は「まるで見てきた」ような口ぶりだが真偽は不明。
 以下、攻撃能力等詳細。

・神攻、回避、反応、EXAが非常に高い。
・重力制御:神自付、神攻、回避、反応、EXA大幅強化
・預言α:神至域、【災厄】【ショック】【崩れ】【停滞】
・預言β:神遠域、【狂気】【呪い】【恍惚】
・キルエッジギア:物近範:大威力、高CT、【連】【呪殺】
・EX 時間逆行:神自単・???(一回のみ)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

 ヨハナがカオスシードである以上、全ては与太話に過ぎないでしょう。
 混沌は全ての世界を統べ、包む最上位世界。
 時間移動はこの世界に観測されておらず、よしんば可能だったとしても人の業を超えている事でしょう。同時に確定的未来観測も同じ事。
 しかし、ヨハナ・タイターなる魔種は『確かに存在しているのです』。
 悪魔の証明、神への偽証、人の限界。
 解けないミステリーはどこの世界にも存在しているのです。

 以上、宜しければご参加下さいませ。

  • β観測IBM5XXX 完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2018年12月27日 21時40分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アルプス・ローダー(p3p000034)
二輪
ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)
爆弾
ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)
自称未来人
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
シグルーン(p3p000945)
自称カオスシード
アベル(p3p003719)
未来偏差
アニエル=トレボール=ザインノーン(p3p004377)
解き明かす者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
希望の蒼穹

リプレイ

●ダブル・ヒロインI
 その日、八人のイレギュラーズはミステリーに出会う事となった。
 ローレットに舞い込んだ一つの依頼は驚くべきか――或るイレギュラーズの鏡像(ドッペルゲンガー)の出現を告げていた。
 自身を未来人と称するそのイレギュラーズは、自身の姿を模し、なぞるような真逆の存在に困惑を覚えながらも、仲間達と共に『彼女』の討伐、撃退へと動いたのである。『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)のファミリアーによる走査も有効であり、幸いにも補足は容易かったが、イレギュラーズを『出迎えた』それは冷静だった。気取られるような動きをした覚えは全く無かったが『接近した時点で逆に声をかけられた』イレギュラーズは機先を制されたように仕掛けの機会を喪っていたのである。
「預言ね。星官僚の言葉を借りるまでもなく――
 論理を突き詰めるなら、現在の情報から未来を予測する高度な演算能力を持つか。
 又はコールドリーディングなら詐欺師の類」
 怜悧なその面立ちに幾らかの興味を滲ませた『特異運命座標』アニエル=トレボール=ザインノーン(p3p004377)が小さく呟く。
(未来から来たって本当かな? 過去を覗いたりもできるのかな?)
 自身の出自(なきどころ)を探られる事は『自称カオスシード』シグルーン(p3p000945)にとって耐え難い苦痛である。
 アニエルやシグルーンの見る敵の姿――全身に赤を纏った『彼女』のパーソナルカラーは見知った『彼女』のそれとは違う。
 ローレットに識別名『ヨハナ・タイター』の名を冠された『彼女』は魔種である。その名が示す通り――こちらは特異運命座標として日々を過ごす『自称未来人』ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)と鏡写しの姿を持った。
「何れにせよ、原理の解明には少なからぬ興味がある所だ。
 容疑者たる『ヨハナ』君がここに留まってくれていたのは僥倖だった。
 私も、明かすモノとして協力は惜しまないつもりでいるからね」
「皆さんは『真実』とか気にしたがりますけどね――
 実際、ヨハナはそういうの『どうでもいい』と思うんですよ」
 ……シグルーンにウィンクを投げた『ヨハナ』は意地悪く言った。
 ヨハナが普段から何処か掴み所のない性格をしていて、その真意をつぶさに拾うのが難しいタイプである事を友人知人は元より承知の上であるのだが……
「世の中に存在するミステリィの全てが明らかになる必要はないと思いますし。
 信じなくても明日はきっとやって来るっ!」
 しかして、二人のヨハナは似ているようでまるで違った。
 ヨハナが素も含め面白おかしくコメディリリーフを演じているかのような様子とは異なり、『ヨハナ』はまるでそれは世界や運命を軽侮し挑発しているかのようだ。
(行動の必要性から考えるに、『彼女』がヨハナさんに好意的な可能性はゼロに等しい。
 二人のヨハナの関係、あちらの思惑――成された時に何が起こるかはわかりませんが大凡碌な事ではないでしょうね……)
『二輪』アルプス・ローダー(p3p000034)のそれは直感に過ぎなかったが、アルプスは相応にこれに自信と確信を抱いていた。
 果たして『ヨハナ』はアルプスの考えた通りなのか、酷く楽しげである。
「やっほーそっくりさんっ! ごきげんようっ! でも、友達にはなれそうもないですね!」
「あはは。友達は難しいかも知れないですね。
 ねぇ、ヨハナ。自分を信じたいですか? そうやって明るく――『ヨハナ』を否定したいですよね。
 でも、『ハッキリしないからそれが出来ない』。出来てなくないですか? 本当に出来てますか?」
「そんなこ――」
「――厳密に言うなら出来ても、100%足り得ない。
 ……困ったもんです。『ヨハナ』はここに居るのに、ヨハナもまたそこに居るから――」
 肩を竦めた魔種の言葉に応じるようにギチギチと歯車が音を立てた。
「……目撃者を一人だけ逃がしたのは、ヨハナを誘っていたから――ですか?」
 見た目と饒舌な所ばかりやけに自分に『似た』その女に僅かに唇を噛んだヨハナが問うた。
「……ヨハナは自身の憶測や勘違いでなく『本当の未来人』なんでしょうか。
 ……………あなたがヨハナならなぜこんなことを?」
 成る程、ヨハナの瞳は困惑と不安の狭間に揺れていた。

 ――だって、そうでしょう?
   ヨハナは、世界が、そこで供に生きている人達が。
   現在、過去、未来の全部が愛おしくて大好きで……
   この混沌で産まれて、未来のために戦って、共に未来を背負えるんだって。
   自分に出来る事があるんだと思うと、それがなにより嬉しくって!
   だからどんな苦しみもへっちゃらなんです。へっちゃらなんですから――

「何て答えたら、喜ぶんでしょうねぇ」
「聞く必要は無いと思いますよ」
 愛らしい顔立ちに悪戯気な笑みを湛えた『ヨハナ』が次の言葉を発するより前に静かな『無鉄砲』アベル(p3p003719)の言葉が遮った。
「惑わせようとする心算しかない戯言を聞くのは身命の毒というものです。
 それに、『彼女』の言った事は或る意味で正しくもありますからね」
 素顔を隠すトレードマークに触れたアベルは続ける。
「『真偽が関係ない』のは事実です。
 俺達はイレギュラーズですよ、世界崩壊の未来を覆す存在だ。
 人一人の運命変えられなくてどうするんです。
 つまりね――彼女の正体が何であれ、俺達はヨハナちゃんの望むエンディングだけを見ればいいって――ね」
 彼の軽妙な物言いは決意は確かなれど、少なからぬ衝撃を隠せないヨハナを慮るものであり、同時に自身の決意表明であった。
 白い死神を嘲り笑う魔種へと構えたアベルに場が沸いた。
「未来から来たとか同一人物とかよくわかんないけど!
 少なくとも私の知ってるヨハナ君は街を滅ぼしたりはしない!
 これからそうなるのだとしても、そんな『可能性』は起こさせない――!」
 更に『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)がそう応じれば、肝心要の『ヨハナ』がまず「素敵!」と手を叩いていた
「……ま、確かに生きてりゃ何時か死ぬ。『未来』なんて、其れ以上でも其れ以下でも無いス。
 大切なのは、眼前の相手がどれだけ楽しませてくれるかス――やり合う為にここに揃ったんだから、そういう事でいいッスよね?」
 命をチップに危険から危険へ綱を渡る――『簒奪者』ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)の言葉は彼女であるが故にシンプルで、正鵠を射抜いていた。分からない事は山程あるが、仕事はその解明ではない。そちらはついでであり、問題は『ヨハナ』の処理である。
「つまらないですねー」と呟いた『ヨハナ』の気配が変わった事をイレギュラーズ全員が知覚した。
 お喋りの時間はこれでおしまい。
「未来から来た自称予言者、ね。
 こんなに愉快な事は無い。こんなに不思議な事も無い。
 では予言してもらいましょうか――我が未来、そして己の未来を」
 天鍵の女王(レジーナ)の名の下に緞帳は上がり、開幕のベルは鳴る。

●ダブル・ヒロインII
(短期戦、攻撃優先――でも絶対にケアは怠れない)
 何時になくその表情を真剣一色にしたヨハナは目前の敵を強く見据えて考える。
『ヨハナ・タイター』は強力な魔種である。
 対魔種戦における素直な実力同士のぶつかり合いはお世辞にも有利を取れるとは言い難く、極めて危険な性質を持つと推測されるその敵に対するイレギュラーズは今日も相応の覚悟を強いられる。
「今回はがんばるよ! 重傷だけどね――全力出すよ!」
 リスクは承知、痛む体を勇気で押して――前に出たのはシグルーンである。
 ローレットのイレギュラーズの中でも最高レベルに近い回避能力を持つ彼女はこの戦いの壁だった。
 敵の能力、その実力差から長期戦が許されないと判断したパーティの作戦は彼女や、
「実際、自分が『盾』というのは色々珍しい気もしますけどね!」
 嘯いたアルプスを回避壁に置き、
「僕は負け狗だ。だけど恵んで貰おうとは思わない。欲しいモノは奪う。喰らう――っていう事で」
 このヴェノム、狙撃距離からのダメージソースとなるアニエルやアベルの攻勢で『削る』寸法である。
 更に強力な状態異常を山のように備える『ヨハナ』への対策として、
「お手並み拝見といこうかしら。タイターさん」
(誰も倒させない、死なせない。絶対に揃ってローレットへ帰る――それだけだから!)
 レジーナ、決意を漲らせるアレクシア、更にヨハナが状況の立て直しと回復役を担う格好。特に後衛陣はその位置取りも含め、状況の死角(デッドアングル)を消す事が求められ、簡単な仕事にならない事は明白だ。
『時を操る』かのような『ヨハナ』が先手を取り、敵陣に切り込む事は易かっただろう。
 それが、通常の相手であるならば。
「トップギアで行きますよ。未来が予知できても――今の僕を追い抜けやしない!」
「!?」
『ヨハナ』にとって『先手を取られる』というのはほぼ想定外だったに違いない。
 誰よりも早く――まさに疾風弾丸のように瞬時に間合いを詰め切ったアルプスのエッジが鋭利に敵の影を襲う。
 時の狭間にそれを縫いつけようとするかのような速撃は『攻撃軌道を分かっていたかのようなヨハナ』に届かないが、スピードと威力を両立したこの先制攻撃は『先手を得て敵陣に切り込み、連携を破壊しようと考えていたヨハナ』の思惑を挫くものにはなっていた。
 虚仮威しとは言い難いエッジの威力が『ヨハナ』に防御を考えさせた事もあろう。
 宙空に生えたギアがキリキリと音を立て、元より半浮遊状態にあった彼女の全身を重力の楔から解放している。その身を覆う魔力の渦は禍々しい程に力を増し、赤い瞳をギラギラと輝かせた彼女の魔性が強まっている。
『ヨハナ』より先に動き、彼女を阻み得る可能性があったのはアルプスだけだっただろうが、アルプスの先制を受けたヨハナが防御と自己強化を優先したが為に、抑えにかかるシグルーンの動きが奏功した。
「さて、比較と検証も必要だろうしね」
「『ヨハナ』ちゃんは未来を見るとの事。そりゃあ弾を当てるのは難しそうだけど」
 ほぼ同時に難を逃れた後衛のアニエル、アベルがその高い精度を武器にした距離攻撃を展開している。
 横合いから『噛み付くように来た負け犬(ヴェノム)』の牙もまた『ヨハナ』の安全を脅かし――華やかなりし連続攻撃は凄絶に彼女を責め立てている。このパーティの連携(うごき)に『ヨハナ』はまた感心したかのような声を漏らした。
「『ヨハナ』じゃなきゃ死んでるかも知れませんよ!」
 だが、軽妙にして軽薄――軽侮の混ざるその口調が物語る。
『まるで少し先の未来を見ているかのような』彼女はすんでの所でそれら猛攻を一つたりとも有効打に届かせていない。
 異様な、という冠言葉をつけて語るべき精度を誇るアベルの狙撃こそ彼女を僅かに掠めたが、それ以外の攻撃は測ったような紙一重で避けられていた。
 だが、届かないならば届くまで重ねるのみ。
 攻防は一瞬の油断も許さない激しいものとなっていく。
 放たれた『ヨハナ』の預言が前衛達を捕まえた。
 しかし、これを即座にキャンセルしに動くのが――
「――させないから!」
『隠者』の加護を頼りに、戦場の楔となるアレクシアだった。
『ヨハナ』の脅威への耐性を持ち合わせ、同時に広範囲の支援を可能とした彼女の分析能力が危険な状況を打ち払わんとする。
 60%という幾らか心もとない可能性も、
「そういう事ね。まぁ、攻める方が好みと言えば好みなのだけれども――」
 レジーナのブレイクフィアーを重ねれば十全なものとなる。
 高い火力と危険な状態異常と併せ持つ『ヨハナ』の範囲攻撃は危険極まりないが『極短期間』の間であるならば――後衛支援役である三人の余力が持つ間であるならばその脅威を限定的に抑える事が可能である。攻め手は限られているものの、パーティがこの戦いを『短期決戦』としたのはそういう事なのだろう。有利の時間に優位を作り、そのモメンタムで敵を抑え込む――成る程、道理に叶っている。
「やりますね。でも、何時まで持ちますかね? 次の『預言』は避けられます?」
「全ての最悪を覆す――解法がないなら作る……」
『自身』とやり合うヨハナという人物は強い心を持っていた。
 状況に不安や困惑を覚えていない事等有り得ない。覚えない人間も居るかも知れないが、少なくともヨハナはそれ程の無神経では無い。
「全ての破滅に挑む。大丈夫です。これ以上、悪い事なんて絶対起こさせません!」
 ヨハナの放った虚無のオーラが『ヨハナ』を襲い、ヨハナは「下手くそ」と笑って彼女を煽ってみせた。
 熾烈なる戦いは続く。
 パーティは攻めながら、ギリギリの所で耐え忍んでいたが……
 宣言通り攻め手を強めた『ヨハナ』が自身の攻撃を連ね始めればそのバランスが傾くのも必然だった。
「――あ、そろそろ誰か死んじゃうかも知れませんね?」
『預言』ならぬ軽口から歯車が間合いを乱舞する。次々と連なった猛攻にシグルーンが目を見開く。

 ――見ろ、見て、見切れ、それがシグには出来る筈――!

 唸りを上げるギアの一つ一つがコマ送りになるかのように『視えた』。
 連なって前衛達を襲ったその猛攻は強かにヴェノムやアルプスを傷付けたが、シグルーンは驚くべきかその全てを見切って避けた。
 激しくなる動悸は自身が死と隣合わせの刹那に立っている事を告げていたが、
「――バルトロメイと、約束したんだ。
 これが終わったら、一緒にお酒飲もうねって!」
 啖呵を切る彼女はまさに――戦いの高揚、極度の集中力に包まれている。
 だが、常に危険と隣り合わせる前衛。全く休む暇も無く回転力を上げ続けねばならない後衛。
 その能力から有効打を取る事が難しい『ヨハナ』の厄介さは徐々にパーティの勢いを殺し始めていた。
(それでも機械は勝率があるのならば戦える――)
 そう、それでもアニエルの考える通り。
『この戦いは一瞬たりとてゼロベースの戦いでは有り得なかった』。
 彼我の実力差を考えたならば『それが当然』であったのかも知れないが――そうならなかった
「負け狗の牙は折れはしない。
 近しい者ほど、呼び声の影響強そうスし?そうなったら、たぶん。僕も悲しい。
 だからね、何よりも負けられない。僕は負けるのが死ぬほど嫌いだし――」
「しつこくいきますよ。止めたければ手早く倒す事ですね」
 ヴェノムの『牙』が『ヨハナ』を掠め、怯ませた。
 嘯いたアルプスは執拗に『ヨハナ』の力を絶たんとブレイクによる弱体化を試みている。
「魔種に堕ちたならば疾く往ね。ここに汝(あなた)の居場所はないのよタイター!」
 大罪女王の遣いがそんな彼女を続けて襲い、
「これで――」
 暴れに暴れる『自身』を封じんとヨハナが、力の限りの一手を放つ。
 アベルの集中力を極限まで引き出し、好機を作り出したのは場の全員が奮戦そのもの。
(未来を見られりゃ、当たらない。そりゃまさに当然ですよ。でもね――)
 スナイパーは嘯いた。
「――『現在』と『未来』を偏差し(うめ)たならそりゃどうです?」
 時の流れと認識のズレを埋めるのは超絶に達した彼が技量、そしてこの一瞬だけに研ぎ澄まされた集中力。
 初めて。初めてと言っていい。パーティの攻撃が『ヨハナ』を見事に撃ち抜いた。
 そして、それがこの戦いの終わりの合図となっていた。

●預言の成就
「うーん、ここまでですね」
 酷く身勝手な事を言う。
 アベルの狙撃にダメージを負った『ヨハナ』はそんな風に言って大きくパーティから距離を取った。
 パーティの仕事は彼女の観測であり、撃破ないしは撃退だ。
 故にそれでも仕事は成功なのだが……
「これからじゃないッスか」
 不満気なヴェノムに『ヨハナ』は言う。
「それです、それ。問題は貴方です」
「……僕?」
「そう、貴方。『ヨハナ』は未来を見れる訳ですが――このまま続けるとですね。
 皆さんは概ね半分位死ぬ事になるのですが、貴方がおかしなパワーを発揮して、『ヨハナ』も相打ちになっちゃう訳です。
『ヨハナ』は死ぬのも痛いのも嫌です。まだしたい事もあります。だから、これまで。嫌です、特異運命座標というヤツは!」
 提示された未来に衝撃が走る。信じるかどうかは別問題だが――ヴェノムは納得している辺り筋金入りかも知れない。
「それにね、『ヨハナ』の預言は達成されたんですよ」
 この言葉はパーティの誰にも分からなかった。
 追いすがるには状況は厳しく、パーティはローレットへと帰還する事になる。
 そして、或る事実をレオンから聞かされた。

 ――例の目撃者が心臓の発作で死んだ。
   ローレットが保護していた以上、この結果には事件的要因はない筈だが……

『ヨハナ』の預言――或る種の約束は『エヴェレットの全滅』。
「或いは、演繹的に未来を導き出す事は可能かもしれない
 或いは、未知の技術で過去に戻る事は可能かもしれない。でも」
「パラレルワールドは成立する、世界線理論。並行世界で汝(あなた)は一体何を見たのかしらね」
 アニエルの言葉、レジーナの問いに答える者は無い。
 目撃者が死んだのは丁度彼女が撤退を決めた時間であったと云う。

成否

成功

MVP

ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)
爆弾

状態異常

なし

あとがき

 YAMIDEITEIっす。

 うーん、良く頑張りました。
 極めて殺意が高い敵というか、撃退出来れば十分なので問題なしです。(パーティが攻撃重視ならば倒すルートもあったかも知れませんが、どっちかというと防御的であり、支援効果がきっちり効いていたので致命的に痛む前に『ヨハナ』が撤退を選択していますので、被害が今回無かったです)
 気合足りなかったら容赦なく失敗にしようと思っていたのですが、すごい気合ありました。
 後は未来観測が出来ると自称する『ヨハナ』であるが故にヴェノムさんの(自爆の)脅しが物凄い効いてます。(パンドラ13でPPP……)
 魔種でも死にたくないもんは死にたくないですからね。
 と言ってもこんな状況になるのは『ヨハナ』だから、なので他所では有り得ませんが。
 駆け引きもあって楽しかったです。
 ご機嫌に全員に称号ばらまきました。いぇあ。

 シナリオ、お疲れ様でした。

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