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シナリオ詳細

<ジーニアス・ゲイム>コアラアサシン

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●義理と人情で世界を廻すなら
「た、助けて! この子は、この子だけは!!」
 人生はままならない。そんなことは子供だって知っていることだ。
「いやっ! 誰か、誰かっ!」
 家々が赤く燃えている。誰かが消化しなければ、この村は炎に包まれ、夜明けには跡形もなく消え去るだろう。そういう命令だ。
 また悲鳴があがる。男は殺され、女子供は攫われる。そういう、命令だ。
「やめろ、母さんから手を離せ!」
 自慢の大きな鼻をひくつかせ、咥えていた葉っぱから口を離した。慣れ親しんだ香りが陶酔を誘うが、今はそんな気持ちになれやしない。
「五月蝿えぞクソガキ! ぶっ殺してやる!」
 腰のホルスターから得物を抜く。平均よりもちいさい手には大きくとも、長年連れ添えばこのグリップにも慣れたものだ。
 親指でハンマーを起こす。そうして狙いを定め、今まさに子供に向けて剣を振り下ろそうとしていた男の、後頭部を撃ち抜いた。
 カエルの潰れたような悲鳴をあげて、男が絶命する。
「手前ェ何考えてやがる!? なんで仲間を撃った!?」
 仲間を殺されて、火を放っていた暴漢が自分に吼えたてる。よく知らない間柄とはいえ、この態度で部下だというのだから、質もしれたものだ。
「命令は男は殺せ、女子供は攫え。そんな簡単なものも従えない阿呆が死んだからなんだってんだ。気に食わねえなら、相手になろうか」
 それだけで、吼えていた男も黙る。力の差くらいは理解しているのだろう。
 まったく、嫌になる。たかだかチンピラに、何をさせているというのか。元々、国盗りなど柄ではないのだ。叔父貴が蠍に加わると言い出さなければ、自分は今でもチンケな稼業で食い扶持を繋いでいたはずである。
「因果なもんだ……ん?」
 黄昏ていれば、先程殺されそうになっていた子供がこちらに駆けてきた。ああ言った手前、殺されることはないだろうが、勝手な行動をすれば殴られもするだろうに。この状況を理解していないのだろうか。
 目の前に立った少年を見上げてやる。その子供は満面の笑みを浮かべてこういった。
「ありがとうコアラさん!」
 その言葉に、思わず苦虫を噛み潰したような顔になる。やはり状況を理解していない。だから目の前の少年を見上げて、言ってやった。
「助けたわけじゃねえさ。寧ろ、今死んでおいた方が幸せだったと思う時が来るかも知れねえ。だから――」
「おい何してる!? 来いっ!」
 話の途中で、少年は無理やり連れられてしまった。
 自分が何を言いたかったのか。それすらもわからず、自己満足にも浸れず、ため息をついて、またユーカリの葉を口に咥えた。

●過ぎるだけの時間はなく
 建物内が非常に慌ただしい。
 二方面で同時展開される戦争。さらには北部に置いて双方の状況に対応する等、第三者的な立ち位置が認められていなければありえない方針でローレットが動き出した為だ。
 この部屋に集められたのは『新生・砂蠍』の一部隊への対処を依頼されたからである。彼らは確実に幻想王都メフ・メフィートを狙っており、今や強力な軍隊と化した彼らを放置してはおれないのだ。だが、
「――とまァ、村は完全に包囲されてんニャ。目標はその奪還。戦闘は避けらんニャアぜ。特に危険ニャのがこの男、パスコラだニャ」
 プランクマン(p3n000041)からそれぞれに配布された資料には、パスコラという男の顔写真がプリントされている。判明している情報の中には、殺し屋、ジョブキラーという極めて危険なステータスも記載されているが、その、なんだ、あのー……
「まァ、コアラだァニャ」
 うん、だよね。
 プリントされている写真はまさしくコアラだった。コアラが二足歩行をしており、なんというか、非常に愛くるしい。
「見た目で油断するんじゃニャアぜ。パスコラの殺害は依頼ニャ含まれニャアが、こいつとの戦闘は絶対に避けられニャい。腕もド一流ときてんニャぜ」
 真剣な物言いに、少しだけ気を引き締めた。

GMコメント

皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。
幻想のとある村が砂蠍の一部隊により略奪行為を受けています。
この部隊と交戦し、略奪を食い止めてください。

【エネミーデータ】
□殺し屋パスコラ
・二足歩行するコアラ。サイズも一般的なコアラ。
・拳銃を使用した攻撃・スキル使用に長けており、命中・回避・反応に優れている。
・身軽な格好(自前の毛皮のみ)であるため、防御技術は低い。
・義理人情に厚く、身内への思いからこの戦いに加わっており、彼との交戦は避けられません。

□部下の盗賊
・パスコラの部下、六名。
・即席の部隊として結成されたようで、力関係からパスコラに従っているが、忠誠心は低い。
・所謂ヒャッハーモヒカン。
・剣を持った前衛が三名。銃を持った後衛が三名。(!!!2018/11/30 修正!!!)

【シチュエーションデータ】
□燃えている村
・夜間。
・家々が放火されており、その炎により視界はよく通っています。
・現在も略奪行為の最中であり、戦闘の場には多数の村民がいると推測されます。
・この行為を止めない限り、火を消している時間の余裕はありません。

  • <ジーニアス・ゲイム>コアラアサシン完了
  • GM名yakigote
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年12月15日 22時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ジル・チタニイット(p3p000943)
薬の魔女の後継者
トリーネ=セイントバード(p3p000957)
飛んだにわとり
セティア・レイス(p3p002263)
妖精騎士
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
フォーガ・ブロッサム(p3p005334)
再咲の
不動・醒鳴(p3p005513)
特異運命座標
エメ(p3p006486)
カモミールの猫
アクア・フィーリス(p3p006784)
妖怪奈落落とし

リプレイ

●それが血よりも濃いと言うのなら
 殺す以外の仕事など、自分には出来なかった。それがどれだけ太陽に背く行為であるかは分かっていても、それ以外の手段などなかったのだ。ただ、値段だけはつけた。男は安く、女子供は高く。手前勝手に命の価値をつけたのだ。

 赤い。赤い。
 パチパチと音を立て、木造の住宅が燃えて崩れていく様は、とても赤かった。
 季節を感じさせる寒風と、ごうごうと燃え上がる熱気が同時に肌を刺す。
 嗚呼、ここは地獄だ。地獄であるのだ。痛ましさと悔しさに、奥歯を強く噛み締めた。
「どんな心境や理由があっても、やってる事は外道だってことは変わりないっす! それを止めさせるお手伝い、やるっすよ!」
『他造宝石』ジル・チタニイット(p3p000943)が固く拳を握りしめている。如何なる生い立ちがあったとしても、やっていることは戦争だ。殺し、奪い、蹂躙する行為だ。斬りつけ、撃ち、根こそぎにする行為だ。今まさに人命が奪われ、尊厳は汚されている。心があるならば、それを許せる筈がなかった。
 コアラアサシンVSニワトリビショップ。
 見世物小屋の看板にでもすれば、客席は端から端まで埋まるだろうか。そう、それは、
「世紀の対決よ! にわとり代表として……じゃなかった。今日は真面目に村の人達を助けないとね!」
『コケコッ砲』トリーネ=セイントバード(p3p000957)が張り切っている。うちの決戦はいつもアニマル多いなあ。誰だコアラとか出したの。
「……いや、いつも真面目じゃないわけじゃないけど!」
「ひどい……許さないから」
『妖精騎士』セティア・レイス(p3p002263)がぎゅっと、痕が残るほどに強く拳を握りしめた。赤々と燃える家々を見ると、消火活動に従事したい衝動に駆られる。まだ中に誰かいるのではないかという焦燥感に飛び出しそうになる。だが駄目だ。この炎の元を断たねばならないのだ。その為に、戦力としてある為に自分たちはここまで来たのだから。
「私達が来たからもう大丈夫」
「えぇと……蠍がコアラでコアラが蠍?」
『酔興』アーリア・スピリッツ(p3p004400)が首を傾げている。その言い方だと、敵の首魁が蠍怪人みたくなるけれど。酔っているのか素面なのか微妙なところだ。
「キュートな顔立ちと咥えユーカリの男前さのギャップにはときめいちゃうけど、殺し屋も盗賊もノーサンキューねぇ」
 それにしても、逼迫した事態に和むアニマルいれると、皆のテンションがまちまちだなあ。
「焼き討ちは確かに、侵略手段としては適切ですね」
 古来より、猛る炎こそが人々に恐怖を受け付ける随一のものだ。本能に刷り込まれた明確なる危険物。それを目の当たりにして、それに囲まれて、正常な判断が下せる人間は数少ない。丸ごと頂くのではなく、選別するのであれば有効な手段だと、『再咲の』フォーガ・ブロッサム(p3p005334)は頷いた。
「称賛している場合ではないことはわかっていますよ、迅速に片をつけなければなりません」
「なんてーか部下と頭で毛色が違いすぎね?」
 緊迫した空気であるのは分かっているが、そのあまりの落差に『特異運命座標』不動・醒鳴(p3p005513)は思わず呟いてしまった。見た目、という以上に敵の中での温度感の差が大きい。肝心の殺し屋、パスコラが規律や仁義を重んじようとしているそれに対し、部下の連中は只々暴れるだけの単細胞にしか見えない。ちぐはぐだ。なんというかこう、意図的に歯車が噛み合わされていない。
「私の過去をズタズタにした盗賊たちは絶対に許さない」
『カモミールの猫』エメ(p3p006486)の視線は、ただまっすぐに前を向いている。盗賊。盗賊。過去の苦い記憶がフラッシュバックする。喉の奥で、ただわけも分からず叫び出したい衝動が渦巻いている。
「ここで倒さないと。あいつらに搾取され殺される命が出てきてしまう」
 柄を持つ手に、自然と、痛いくらいの力が入る。
「そんなことはさせない」
「燃えてる、あっちも、こっちも……何で、何でこんな事するの……?」
『カースウルフ』アクア・フィーリス(p3p006784)が燃え盛る光景に苦しんでいる。
「こんなの許さない、許したらだめだよ……貶されて奪われて罵られて苦しめられて壊されて、そんなの、もうわたしだけでいいのに!」
 思わず耳を塞ぎたくなる。それが無駄な行為だとしても。
「だから、助けなきゃ……みんな、『助けて』って叫んでるから……!」
 少しだけ、開けた場所にいる。
 視界に入るのは、剣を振り上げている男。
 顔も確認せぬまま、思わず体を当てて突き飛ばしていた。
 鳴き声がする。悲鳴が聞こえる。哄笑が響いている。

●鉛玉のように冷たく、鉛玉のように重い
 仕事でヘマをして、しばらく身を隠そうかという時に、叔父貴から連絡が来た。渡りに船であったのかも知れないが、それでも国盗りと言われて気が進みはしなかった。叔父貴よ。育ての親よ。本当にそれは必要なものなのか。

 その男がどれなのか、見ればすぐにわかった。
 荒くれ共の中に、ひとりだけ、空気の違うコアラがいたからだ。
 それはこちらに目をやると、何かの諦観を帯びた視線で首を横に振り、咥えていたユーカリの葉を投げ捨てた。
 手は腰に。抜かれた一丁の拳銃。
 躊躇いもなく引かれたトリガーが、戦闘の号砲に相成った。

●見渡す限りが地獄みたいに
 女子供に手を出すような仕事はできない。その矜持に叔父貴は頷いてくれたが、到底信用できるような顔ではなかった。残念ながら、叔父貴はクズだ。奪うだけ奪い、犯すだけ犯してきた。それで自分も育ててもらったのだから、文句を言える立場ではないが。

「ローレットが助けに来たわよぉ」
 少しでも視線を集められたら。
 そう考えたアーリアの行動は功を奏したと言える。
 未だパスコラ以外が事態を把握せず、略奪行為を続け用とする中に響き渡った彼女の声は、その注目を集めるには十分だった。
 それは危険を一身に引き受けたことにもなるが、それでいい。これでいい。守りに来たのだ。救いに来たのだ。奪い返しに来たのだ。ならばこれ以上の宣言はない。
 アーリアに向けられた荒くれ共の目には、次いで下卑た者が混じり出す。色っ気のない村に向かわされ、飢えていたのも在るだろう。だがそれは、彼女の術を前にすれば自ら罠を踏みしめる行為に過ぎなかった。
 甘く、甘く。ここが獄炎の最中であることも忘れるほどの、甘美な囁き。脳にするりと浸透し、酒よりも薬よりも深く深く混ざっていく。
 ぐらりと傾く体。蕩けたように虚ろな顔。アーリアはその頭を思い切り、巨大な槌でぶん殴った。

 悲鳴に苛まれて、目を背けることが出来なくて。
 アクアは戦いよりも、未だ火に包まれた家屋へと身を投げだしていた。
 誰か誰かと声をあげる。幾ばくかの灰を吸い込んだが、それで胸の内を渦巻く衝動が、焦燥が回避されるわけではない。
 どうしてと、思う度に黒いものが自分の中に溜まっていくのを感じる。この炎は家々が焼かれているものか、それとも自分から出ているものか。
 苦しいと、苦しいと、この世の地獄のようなものが耳を苛んでいる。
 心の中が何かで塗り潰されそうになったその時に、微かな声を聞いた。
「だれ、か……たす、けて……」
 脳でそれが何かを理解する前に、足がそちらの方を向いていた。駆け寄って、焼け折れた重い柱を押しやって。見えた手を、伸ばされた手を、ギュッと握りしめた。
「大丈夫だよ……助かるから、絶対……助けるから……!」
 ぐいと、力を込める。消して離さないように。

「ハン、なんだ? 頭の悪そうなのがひーふーみーよー、6匹も!! ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー動物園みたいだぜ」
 醒鳴が盗賊共を束にして煽りにかかる。これでパスコラのことを馬鹿にされたと怒ってくるのならまだ見込みのあろうものだが。案の定、連中は揃いも揃って下品なスラングばかりを撒き散らした。
 視界の隅で、パスコラが溜息をつき、頭を振っているのが映る。余程呆れているのか、それとも脳足らずを確認して哀しくなっただけか。
 脇目もふらずに向かってきたゴロツキがひとり。振り下ろされた剣の腹を右の裏拳で叩いて逸らし、伸び切った腕と交差するように左の掌底を顎にぶち当てた。
 前に出した左足を軸に、右足を後方から振り上げて後ろ回し蹴りを脳天に命中させる。
 豪快で大振りなコンビネーション。回転のベクトルを無理に殺さず、着地した踵で地を削るように回る。一回転。
 止まった時には、剣と銃の両方を抜き、構えていた。

 正確に射抜いた筈の弾丸が、パスコラの頬の毛を僅かに散らしたに過ぎなかったのは、その小さな体躯によるせいか、はたまた歴戦の殺し屋が為せる技か。
 どちらにせよ、フォーガは見せぬように舌を巻いた。裏の側の住人でありながら、これほどまでに消化した技と、言っては何だが程度の低い部下を引き連れて、これだけの略奪行為を形作ったことに。
「これほどの手際でありながら、貴方はこの侵略を望んではいないようですね」
 手は止めていない。撃ち合いながら、殺し合いながら。それでも対話の出来る相手だと、そう感じたのだ。
「俺は引き金を引くことしか能が無い。人の命を食って生きているクズだ。国を盗るなんざ、ガラじゃねえのさ」
 嫌がっている筈なのに、狙いには全くの迷いがない。まるで殺すことに、まるで死ぬことに一切の躊躇がないかのようだ。
「死んだ後など、幸も不幸もありませんよ」
「生きている内にも、幸せにお目にかかったことはないね」

「まだ倒れないで下さいっす! 僕が全力で支えるっすよ!」
 ジルが走りながら、味方の銃創を癒やして回る。
 ゴロツキ共の攻撃は、ある程度無視していい。剣筋が通っていないことは、弾道に正確さがないことは、専門家でないジルにもわかる程だ。
 だが、この殺し屋、パスコラが不味い。
 正確無比な弾丸は、走ろうとすればその向かう先に、飛べば着地の足に、意識を変えればその鼻先に飛んでくる。
「でぃでぃでぃ、でぃーふぇんす、でぃーふぇんっす!」
 残ったゴロツキ共を無理矢理に盾で押し込んだ。少しだけ巫山戯たような声音は、自身の恐怖を抑え込むための猿叫のようなものだ。
 盾を抑える手の薬指先を銃弾が抉る。じんとした痺れと、遅れてやってくる激痛。その射撃精度に脳内で理不尽さを訴えて、叫びだしたくなる衝動を食いしばり無理矢理に抑え込んだ。
「……か、火事場の馬鹿力ってこれのことだったんすね」

 エメが突き出した槍の先を、首を傾けて回避するパスコラ。その返し、槍の柄をレーザーサイト代わりに拳銃を添え放たれた銃弾を、エメは逆上がりの要領で槍を軸に一回転して射線を逃れた。
 槍と銃。間合いの全く違う武器同士が中距離という空間で幾度も交じり合う。
「ねえ、もう辞めなよ。本当は国盗りなんて面倒なことしたくないんでしょ?」
 武器を交えることは、剥き出しの自分をぶつけ合うようなものだ。エメの感じたパスコラの弾丸は、殺意を持ちながらも、なんとも悲しいものだった。
「自分の意志で人生が決まることなんざ早々ない。今回もそうだった。それだけの話しだ」
 穂先が僅かに肉を抉る。代わりに銃弾が自分の肩に穴を開ける。これは会話だ。言葉をぶつけ合っているのだ。
「面倒なことして、傷増やして。その対価が義理立てした相手の信頼だけなら、命を張る価値なんて無い」
「違うんだお嬢ちゃん。こいつは貰った命を返しているんだよ」

「鶏は攻撃だけでなく回復も一流なのよー!」
 トリーネの鶏声には癒やしの力が含まれている。
 その力でコアラが撃ってきた傷を回復し、ついでに傷口に埋まった銃弾も取り出してしまうのだ。
 なんて出来る鶏。一家に一羽欲しい。世界初、卵と肉以外の目的の鶏。
 だがそんな出来る鶏も、攻撃はなかなかコアラに当たらない。
「なかなかやるわね。認めましょう、あなたは一流のコアラだと……けど私はアシストよ!」
 コアラアサシンvsチキンアシスト。チキンが生み出したぴよぴよな攻撃は、他の仲間の攻撃を本命とする目くらましの役目を負っていたのだ。
 事実、どれだけ素早いコアラでさえも、この雨あられの中じゃ無傷ではいられない。
「義理人情が大事なのはわかるけど。それって本当にやりたくない事をやってまで通すものなのかしら?」
「矜持を捨てて好きに生きられるほど、器用じゃないだけさ」
 なんか最後だけ急にシリアスだ。

 敵はもう、パスコラひとり。どれだけ強いコアラでも、正面切ってこの人数を相手にできる道理はない。
「たのしかった? 今のあなたは、ただのすごいつよい野盗。あいつらのボス。同類。まじでぱなく残念って思う、たぶん」
 いつの間にか、雨が降り出していた。
「楽しいなんてのは、生まれてこの方出会ったことがなかったさ」
 ざあざあと、ざあざあと、泣いているみたいに降り注ぐ。
「盗賊王に明日はない、このまま沈む泥船に乗り続けるのも、あなたの自由。たでくうむしもすきずき? 私は、おすすめしないけど」
「叔父貴も悪党だ。そいつに拾われたときから、俺も悪党だと決まっていたんだよ」
 刃で、銃で囲まれて、それでもコアラは手にした武器を離そうとはしない。
「ローレットなら、善悪なんて問わないけど」
「そいつはま懐が広いんだな。だが、育ての親を裏切る道理にはならないのさ」
 無理だと分かっていても、まだ引き金に当てた指を――
「ばかコアラ!」
 一閃。

●人生にユーカリひとつあればいい
 義理は果たした。もう何もかもが虚しいだけだ。

「兄貴! 兄貴!」
 一人の男が、倒れたコアラに駆け寄った。
 さっきまでは見なかった男だ。よもや新手かと身構えたが、どうにも戦意は感じられない。
「なんだ――叔父貴はどうした?」
 パスコラの顔見知りなのだろう。倒れて動けない程に消耗していたコアラが、視線を向けて返事をするくらいには。
「オヤジ、オヤジは……死んだよ。ここからそう遠くねえ、なんでもねえ村でさ」
 雨はまだ降り止まない。火を消して、影が差して。それでもまだ降り止もうとしない。
 パスコラは何も言わず、ユーカリの葉を一本取り出して、静かに口に咥えみせた。

 了。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

コアラハードボイルド。

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