PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ジーニアス・ゲイム>防遏任務

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 事態はめまぐるしく変動する。
 一分一秒たりとも同じ様相にはならず、刻々と情勢は動いていた。

 幻想南部を陥落せしめた『新生・砂蠍』は、その鋭い尾を深々と地に刺し拠点を築き上げた。狙いはそう、幻想王都メフ・メフィートまでをも呑みこむこと。
 幻想南部を橋頭堡とした砂蠍はもはや疑いようもなく強力な軍隊に成りあがり、虎視眈々と国盗りを狙っている。少しの隙も許されない状況だ。毒の尾は常に幻想を蝕まんと企んでいる。
 これに対抗すべく、幻想貴族も戦力をあげて準備を進めている――が、状況はこれだけに留まらない。
 北部戦線に動きがあった。
 幻想にとっては最悪のタイミングで『塊鬼将』ザーバが身を乗り出したのだ。
 幻想貴族は砂蠍への対応を余儀なくされながら、北部戦線への対応も上乗せされた。もはや手が回るものも回らなくなってくる状況である。
 猫の手も借りたい状況で貴族たちが頼ったのは、ローレット。
 砂蠍への対応がひとつと、鉄帝軍への対応がひとつ。特異運命座標の助力があれば、この絶望的な状況すらも覆す事が出来るだろうと幻想貴族たちは加勢を嘆願した。
 しかしそれは、鉄帝の名将ザーバの知るところでもある。凡そ、予測済みなのだ。ザーバはギルドの性質をよくよく知り、その条約を利用することとした。
 どのように、など、簡単だ。『鉄帝からも依頼を出す』、ただそれだけ。
 そしてザーバの予想通り、ギルドは『両方の依頼をそれぞれ受ける』形となった。イレギュラーズ同士の直接対決は巧みに避けつつ、二国の軍勢に対してはそれぞれの依頼で対抗する状態となる。
 北部戦線のふたつの助力、そして幻想南部での砂蠍との対決。
 事態は想像以上に複雑で、混沌の名に相応しくカオスの様相を為していた。

「君らにとっては複雑かもしれないけど……これも、何でも屋なんでね」
 ローレットは、『この世界事態の破滅を食い止めるための組織』だ。ギルド条約がこれを後押しする最大の武器であるならば、時には綱渡りも必要になってくる。
 苦虫を噛み潰したような表情の『勿忘草』雨(p3n000030)は騒がしいローレット内部を見渡して肩を竦めた。
「『それぞれの仕事を完璧にやる事』、それが今、君達がすべきことだよ」
 一通りの現状を説明し終えた雨は、さて、と一息ついて尾を揺らした。自身もまた、与えられた仕事を完璧にやる時だ。


「兵糧攻め、って知ってる?」
 ぱたりと手帳を閉じた雨は相対するイレギュラーズへ向けて疑問を投げかけた。
 兵糧攻め。
 意味を知る者も多いだろう。兵糧とは一般に食料を差す。長く人間が活動するにあたって外せない物品のひとつだ。
 兵糧攻めとは、食料の補給経路を攻め落とす事によって供給を断ち、敵の士気を著しく損害する作戦である。籠城戦となった際にはより効果的だが、通常の戦線でも有効であるとされている。それもそうだ、――腹が減っては戦が出来ぬ。
 しかし、補給経路となるのは凡そ戦場の中心よりも逸れた場所であることが多い。大群で押し寄せてはメインのフィールドに割く人数が減り、敗戦に追いやられる可能性が高まる。
 また、堂々と「今から補給品を狙います」だなどと顔に書いてあれば敵も経路を変えるというもの。少数での動きが重要となる。
 そこで、イレギュラーズの出番と言う訳だ。
「少数精鋭、俺達の強みが生きてくる」
 そうだろう? と同意を求める雨は確信を得ているようだった。
 貴族共にはない身軽さと、少数での戦い慣れ。まさに領分とするところだ。
「今回狙うのは鉄帝の支援物資だよ。食料含め、武器や防具も積まれていると思われる」
 言いながら雨が広げてみせたのは、戦場近辺の地図のようだ。しかし細かいところまでは記載されていない。精々がわかって山川の分布ぐらいだろうか。足場の如何や見晴らしまでは分からない。
 急場で用意したのであろう地図に、雨は黒いペンで丸を描く。広く幻想と接する面において、端の方にその丸は存在した。いくつかある戦場の内、狙うのはこの丸の地点のようだ。
「遠い戦線へと赴くにあたって、物資を運ばなければいけないことは確かなんだ」
 ただ、と雨は言い淀む。
「どこに届くか、までは分からない。敵地のどこか、とだけ……」
 凡その範囲は割り出せてはいるが、実際の補給拠点、あるいは補給経路を割り出すには実地に赴いて探索する必要がある。
 この地では友軍150人前後の貴族軍出陣予定であり、彼らが鉄帝軍の一部軍隊を引き付けることになる。
 任務開始時には交戦中ではあるが、鉄帝側も全員が全員殴り合いに参加しているという訳ではないだろう。諜報部隊や散発的な奇襲部隊との遭遇にも気を配らなければならない。
 敵軍を見つけた際には友軍への情報共有を推奨するが、絶対ではない。息を潜め、イレギュラーズに与えられた任をこなすことだけを優先しても構わないということだ。
 我々が絶対にすべきことは、支援物資の流入阻止。
「彼ら鉄帝は『武力』の国だ。でも、いかに闘争に身を焦がそうとも、エネルギーなしには戦い得ない」
 幻想側が武力に劣るとは言い切れないが、愛好精神の差はあるだろう。その気持ちは軍隊の士気へと直結し、勝敗を決することもままある。
 なれば、まずは肉体を支える物資から。搦め手というには明快すぎるが、有用性の高さは否めない。
「――……どうか、無事で」
 いつになく落ち着かない様子の雨は、ローレットの喧噪に混ぜてひとりごちた。

GMコメント

お久し振りです。祈る雨と書きまして、キウと申します。
こちらは【VS鉄帝】シナリオとなっております。幻想側の依頼です。
以下、情報の捕捉です。

==========================
 このシナリオは成功失敗の他に『戦果』を数字判定します。
 これは幻想側と鉄帝側の有利にイレギュラーズがどれだけ貢献したかを示す数値であり、各GMが判定を行います。
 全ての対応シナリオで積み上げられた数字によって北部戦線の最終戦闘結果に影響が出る場合があります。
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●シナリオ成功条件
 鉄帝側の支援物資の流入を阻止すること。
 いくつか点在する鉄帝軍のうち、端の方に位置する軍隊への支援物資を狙います。
 補給部隊の撃破、補給経路の横断、補給拠点の破壊、なんでも構いません。
 『支援物資が担当する鉄帝軍に届かない』と判定された時点で成功となります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 事前情報が少なく、不測の事態が起きる可能性があります。

●事前情報
 雨によって鉄帝側の補給拠点がどの範囲にあるかはある程度絞られています。
 ・鉄帝軍の背面のどこかに拠点が置かれている
 ・補給部隊は荷物の総量から、なるべく無駄のないルートを使うだろう
 ・開けた場所では狙われるため、人目につかないルートに修正する可能性がある
 このほか、鉄帝軍は幻想軍とほぼ同規模であること、こちらと同様の少数部隊が存在する可能性があることが言及されています。

  • <ジーニアス・ゲイム>防遏任務完了
  • GM名祈雨
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2018年12月14日 21時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
共にあれ
巡離 リンネ(p3p000412)
魂の牧童
八田 悠(p3p000687)
あなたの世界
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
エト・ケトラ(p3p000814)
アルラ・テッラの魔女
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
桜坂 結乃(p3p004256)
ふんわりラプンツェル

リプレイ


 枯れ木の道を、イレギュラーズが駆けて往く。
 彼らの目的は、補給物資及び補給拠点を破壊する事。
「軍隊相手にこういう作戦ですと、召喚される前を思い出しますね」
 ギルドに舞い込んだ依頼は、鉄帝軍と幻想軍両者のもの。『自称・旅人』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)らが受けた依頼は、幻想軍の方だ。敵方には戦友の姿もあるが、交戦する事は避けられた。『蒼剣』もそれぐらいの采配はするらしい。
 駆ける度、カラカラと瓶が擦り合う音が鳴る。今回の作戦に必要な物資はそれなりだが、かさばる物を選ばなかった。火種に油、それが基本だ。
 また、ヘイゼルが手にした瓶の中の液体は特殊な色の煙を立たせる。狼煙の件は既に伝えてあった。
「正直、結構好きなんだよね、搦め手」
 大き目の洞を見つけイレギュラーズは一旦立ち止まる。凡その位置の把握すれば、一堂に緊張が走った。もはや幻想の元を離れ、鉄帝――敵の軍が近い。
 周りを警戒しながら『祖なる現身』八田 悠(p3p000687)は一息つく。工作員を任された状況は気が引き締まるものではあるが、直接ぶつかるよりかは好ましい。
 枯れ葉を退け、『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)が敵の痕跡を探す。この近くには見当たらないようだが、それはそれで情報のひとつだ。ここは安地という事になる。
「みんな、うごくためには食料がいる。戦うには武器や傷薬がいる」
 自らに確認するように桜坂 結乃(p3p004256)はぽつりぽつりと零す。初めて知った事ではない。マスターが結乃に教えてくれた知識の中にあった。
「鉄帝の人たちが戦う気をなくしてくれれば……」
 この戦いは、収束する。
 ぽうと指先に光が灯る。『灰譚の魔女』エト・ケトラ(p3p000814)が何事か唱えると、光は一瞬膨張し、ぽんと小さな鳥を生んだ。ふわり揺れて指先へ留まる。
 結乃もまた、エトの小鳥と似たファミリアーを生み出して手のひらに収める。翼で顔を洗う小鳥はとても自然に見えた。
「いってらっしゃい」
「よろしくね」
 二羽の小鳥は空へと送り出されると、二方向へと飛び立った。
「どの世界でも人は争うのね」
 例え、獅子身中の虫に食い荒らされようとも、人が欲望を抱く限り変わらない。蒐集された物語からも聞こえ得た音が、目前に繰り広げられている。
 目を伏せたエトが溜息を零す。いくつもの年を経ても、不変の事象に憂いを覚えた。
「あちら、囁いて御座います」
 無機疎通により得た情報を元に『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)が北東を差す。問いかけには様々な答えが返ってくるが、全くバラバラという訳ではない。
「ふむ。そのようであるな」
 同じく無機疎通を行っていた『神話殺しの御伽噺』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)もまた同じ結論に至った。一人が走査するよりも、二人で行う方がより精密となる。
 戦略眼持ちがパーティに居る事は幸いだった。より効率的に拠点位置を絞る事が可能となる。活用できるものは活用していくに限る。
「補給を断つのは、士気を下げる為にも兵を後退させる為にも重要なことで御座います」
「うんうん、補給がない軍は烏合の衆だからねー」
 エクスマリアと同じく、戦略眼持ちの『魂の牧童』巡離 リンネ(p3p000412)にも情報を共有し、補給拠点の場所や至るまでの経路を算出していく。
 まだまだ情報は足りなさそうだ。
 事前に受け取っておいた地図にマーカーをつけ、凡その場所を割り出していく。進行方向の見当はついた。敵に見つからぬよう息を潜めながら、再度移動を開始する。
 遠く、火薬のにおいが流れ着いた。戦争はもう始まっている。


 奥深く、イレギュラーズは進んでいく。不気味な程に静かな林の中を駆け抜け、不毛の地を目前にした。
 立ち止まり、推測する。鉄帝本軍からこちらの軍への最短距離を算出した時、この木々のない平地を突っ切ることになる。――が。
 ヘイゼルと悠は敵部隊がいないか周囲に気を張り巡らせる。敵拠点の割り出しを行っている時が一番手薄だ。息を潜め、微かな音すらも聞き逃さない。
 その横でデイジーは視界から外れない程度に距離を置き、トラバサミを設置していく。既に敵の陣地内だ。どこが経路になるか分からない以上妨げとなる罠を設置しておくのは問題ない筈で。
「んー、どうだろー。こっちかなー」
「ファミリアーの情報はあるか?」
 リンネが持ち込んだ地図を広げ、戦略眼持ちのエクスマリアと共に拠点の割り出しを進める。既に通ってきたであろう道にはラインが引かれていた。
 場所が変われば得られる情報も変わる。幻が地面へと再度無機疎通をして、少しでも有益になりそうな情報を拾い集めていた。
「それらしい影は見えます」
 エトが感覚共有したファミリアーを通じて見たのはいくつかの兵の塊だ。前線に出るには装甲も薄い群れは、輸送に適した格好である。もしかすれば、付近に補給部隊がいる可能性も考えられた。見えたもの、数、特徴をリンネとエクスマリアに共有する。
 エトとは違う方面へと飛んだ結乃のファミリアーは鉄帝軍本体を視界に捉えた。戦声が方々からあがり、剣を交える音が超聴力下の結乃まで届く。
「たくさんいる。情報がないか、聞いてみるね」
 軍とあらば、指揮官がいる筈。彼らが補給物資の事について語る事もあるだろう。不用意に近付く事は避け、聴力を活性化させて傍耳を立てる。結乃だからこそできる事だ。
 情報を編纂する仲間を背に、ヘイゼルははっと息を呑む。
「あまり長居はしていられなさそうですね」
 緊張感張り詰める声は嫌でも意識させられた。推測を語る口が閉ざされ、八人の間に静寂が訪れる。
 足音がした。
 イレギュラーズが発したものではない音だ。
 なるべく音を立てぬように身支度を済ませ、各々武器を構えた。後方でリンネは結乃の言を聞き、少数部隊討滅後のルートを探る。邪魔が入らぬよう悠が補佐に入った。
 少数部隊は撃破する。
 予め共有していた方針を元に、足音が近づく時を待った。徐々に近づいてくる音に耳を澄ませ、全員が息を止める。
「全く、早くデカイとこで暴れて雑用卒業してえなあ」
「そうですか、叶わぬようで残念です」
「なッ!?」
 がさり、一歩踏み出した鉄帝兵の前へとヘイゼルが踊り出る。木の影になって見えなかった全貌が明らかになった。目視でざっと三人程度。足音の数からも少数である事は窺えた。
 ヘイゼルは名乗りをあげれば一歩引く。まとめて焼きやすくするには囲ってしまうのが一番だ。あまり騒がれても面倒である。
 注意を引きつけ背を向ける。あからさまな隙に食い付いた敵兵を無数の糸が絡め取った。
「お前が下っ端の理由、マリアには分かるぞ」
 エクスマリアの広い袖が糸で釣り上げられる。透明な死の線に敵の血が伝い、ようやく彼らは何によって行動を阻害されたのか理解した。
「おや、これは失礼を」
 幻が用意した馬車を蹴り倒す。先ほど、エトが感知した集団のうちのひとつであろうことは得られた情報から推測に容易かった。軽めの装甲。少数での偵察。
 一目見て斥候部隊と思わしき兵がここにいるのなら、この地点が補給路の途中である可能性もあった。補給ルートが一本なら儲けもの、複数のうちの一か所であれば、それはそれで選択肢を減らせたという事になる。
 速攻を仕掛けられ戦いへの備えが不十分だった鉄帝兵は、痛みに顔を歪めながらも馬車を破壊し立ち上がる。
「貴様ら、幻想軍だな!?」
 喚き散らす様はなるほど確かに下っ端である。しかし、彼とて鉄帝軍の一人だ。いつまでも蜘蛛の巣に掛かったままである筈がなく、糸を引きちぎり得物をとる。うっそうと茂る森でも取り回しの易い小刀だ。愚痴に付き合わされていた兵卒もまた武器を構えた。
 幻へと振りかぶった小刀はヘイゼルの腕へと吸い込まれる。切りつけられた箇所から血が滲んで僅か顔を歪めた。
 刃が交錯し赤が散る。人数的優位はこちらにあるが、如何せん隠密活動中だ。派手な技は控え、かつ拠点物資破壊に使う物品を傷物にしては使い物にならない。縛りがある状態での戦闘は取り回し辛かった。
 守備は捨てて攻めに走る。短期戦による選択は、正しかった。
 エトの癒しを受けたヘイゼルが雑兵の一撃を堪え、得物を地面へと突き刺す形で受け流す。
 好機。
「退けい退けい! 邪魔者は引っ込んでおれ!」
 動きを止めた一瞬を狙ってデイジーが敵兵へと指を突き出した。まるで銃の様な形をとる手から放たれたのは精霊の輝き。まばゆい光が鋭い一撃となって鎧ごと兵を貫いた。
 鉄帝に撤退の二文字は存在しなかった。援軍を呼ぶ為に一人去るなど、彼らのプライドが許さなかった。お陰で遭遇した斥候は全員地を這う事になる。
 素早く敵兵を退けたイレギュラーズはリンネの先導に従いその場を後にする。戦闘音を聞きつけ敵兵が集ってきては対処しきれない。多少傷は痛むが、休んでいる暇などないのだ。
 しかし、一方でこれは重要な情報となる。
「目的地が近い」
 誰もがそう確信した。


 チチ、と小鳥の声がした。
「おかえり」
 偵察へと出した小鳥を手のひらに収め、結乃は再び空へと放つ。今度は、幻想軍の方へ。先の戦闘中にリンネへと情報を渡した結乃はファミリアーを呼び寄せていた。
 ファミリアーを使役し、友軍への情報伝達を行う事はエトも結乃も備えにあった。より補給拠点に近いであろうエトのファミリアーはなおも空を滑空している。戦略眼より導き出された可能性をリンネから聞き、エトはより絞って探索を進める。
 そうして、彼らは到達した。
 補給拠点だ。
「随分な、荷物があるね」
 声を潜め、拠点を視界に収める悠の手にはこの時の為に用意した酒に油に毒物に。物資の破壊を第一に考えた時に有効そうな手段がずらりと並んでいた。
 拠点周りに他の隊の気配はない。
 拠点には先の斥候撃破を受けてか、ひっきりなしに連絡を取り合っている兵が窺えた。補給部隊を率いる長だ。加え、隊員と思しき兵が見える範囲に十ほど。まともに相手とってはこちらが不利になる数だ。
 しかし、イレギュラーズの目的は最初から敵兵の撃破ではない。なればそう、勝機はある。
「さて、思いっきり嫌がらせをしようねー」
 無事、補給拠点へと辿り着いたイレギュラーズは懐から、鞄から、あるいは括り付けた腰ひもから、次々と油と火種を取り出した。
 作戦は簡単だ。物資を燃やして、燃やして、燃やし尽くす。
「行きましょう」
 ふわりとヘイゼルの身体が浮いた――次の瞬間、拠点に身を晒して物資へ肉薄する。弾いた油瓶が逆さに返り、落とした火種が油に触れた。
 ぽっ。
 それは開戦を告げるものにしてはあまりにも小さい火だった。しかし、充分すぎる切欠だった。
 火が弾けると同時、デイジーは待ってましたとばかりに遠距離術式を展開させては目に映る大量の物資に攻撃を仕掛けた。連続して繰り出される遠術は木箱を抉り、破壊し、木端へと変えていく。綺麗に整頓された荷が並ぶ場所へは、その足で瓶を投げ入れ火を放った。轟轟と燃え盛っていく様は見る者を圧倒した。てらてらと、猛る炎がデイジーを照らす。
 ポン、と油入りの瓶が空をとぶ。口が下を向けば重力に従って中身を垂らした。
 ポン、と小さな火種が空をとぶ。真っ逆さま、とろけた油にちょいと触れた。
 弾ける。火は周囲の酸素を燃やして益々膨らんだ。その傍を歩く少女の姿。愛嬌たっぷりの笑みを浮かべ、掌から瓶と火種を放り投げた。
「はいはーい、避けてねー。それとも輪廻にご招待~?」
 その姿はまるで死神の様に見えたとか。
 酒と油を手に、悠は物資を見分けて適切なものを振りかける。中身の見えない木箱には、とりあえずと油をかけた。火種の用意はしてあるが、自ら炎上させるまでもないようだ。全破壊を目指すのも容易いように思えた。持ち込んだ腐り物は、持ち帰っても仕方がないので適当に火の中へと放り込む。無事鎮火したとしても、残っていれば効果はあるだろう。単純なようでえげつない。
 目に余る凶行を呆然と目にして、数秒。
「あ、ああ、ああああ!!」
 手に持っていた端末らしき物をぶん投げた兵長が目を剥いた。今まさに話題に上がっていた、斥候を壊滅させた部隊が目の前で大団円を繰り広げている。
 喚き散らすように呆然とする配下を叱咤し、自らもまた武器を手に取った。
 さて、兵長はどうしたかというと――硬直した。
 物資の消火が先か、敵の討伐が先か、判断に迷ったのだ。火の勢いが強すぎた事も原因のひとつだった。
「し、消火、いや、敵も、なんとかしろォ!」
 取り乱す兵長を尻目に、イレギュラーズは淡々と任務をこなす。可哀想な彼に構ってやっている暇はないのだ。


「情けないな」
 慌てふためきろくな指示も出せずにいる鉄帝の兵を眺め、エクスマリアはそんな一言を零した。追い打ちをかけるように、もりもりと地面から巨大な拳を生やせば積み上げられた荷へと無慈悲な一撃をくれてやる。飛び散った破片の中には、この先必要になってくるであろう食材の欠片が見受けられた。
 消火に回る兵もいれば、イレギュラーズを排そうと刃をむけてくる兵もいる。
 エトは物資の破壊に尽力する仲間の背を守るべく、遠術とライトニングを使い分けて敵兵の足元をさらった。
「お気を付けて」
「助かる」
 物資の破壊に割く人員は充分そうに見える。なればとエトは人員撃破へと回った。頭が機能しない集団相手は楽である。今のうちに、削れるものは削っておくべきだ。
 炎に煽られた髪を抑え、エトはじっと警戒する。依頼は成功ではあるが、未だ気は抜けない。
 カタカタと小さな爆弾が動いていた。
 この兵糧だけは守らねばと敵兵が集う一帯へと忍び込ませれば、幻はカチリとスイッチを押し込む。瞬きした、その後は、悲鳴のような声をあげる敵兵と、はじけて燻る木の破片に変わっていた。
 ファミリアーの見る先で幻想軍を見据えた結乃は、作戦が成功した事を確信した。上がる煙の一部は色を変え、空へと一本の線を描いている。黒煙に紛れてはいるが、幻想からも充分に見えた。
「引き際だ」
 経過時間、エトのファミリアーからの情報等々からリンネはぽつりと零す。
 元より多勢に無勢、物資の破壊を最優先に行っていたからこそ、敵もその対処に追われてまともに戦いとならなかったが、いよいよもって兵が増えればそうもいかない。
 結乃もまた、近付いてくる敵の足音を聞きつけたらしい。険しい表情で来た道を振り返る。敵は包囲網を完成させつつあった。
「通させて……貰います!」
 退路となりうる可能性の高い方面へとリンネが仲間を導けば、ヘイゼルが注意を引きつけ包囲網に穴を開ける。口の中を血の味が満たすが、ここで踏み止まらなければ後がない。捕虜となれば、折角破壊した物資の代わりを得る為の交渉材料にでもされる可能性は否めなかった。
「さらばじゃ、鉄帝の」
 にんまりと口の端に笑みを張り付けたデイジーが息を吸う。迫る手をものともせずに、大いなるディーは高らかに冷たい呪いの声で切り裂いた。

 ――遠く、狼煙が上がっている。追手はない。

成否

成功

MVP

巡離 リンネ(p3p000412)
魂の牧童

状態異常

なし

あとがき

プレイングお疲れさまでした。
戦争という派手な舞台ではありますが、こういった隠密もつきものだと思いまして。
皆さまがどのように対策をし、どのような事に警戒し、どのように拠点を割り出すか。
色々な視点から楽しませて頂きました。
それでは、ご参加ありがとうございました!

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