PandoraPartyProject

シナリオ詳細

隷属するモノ拒むモノ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 いつか奪われた者は、いずれ奪う者へと変わっていく。
「年寄りは殺せ。男もだ。女は好きにしろ。ガキは捕まえて奴隷として売り飛ばすから、壊すなよ」
 そいつは知っていた。
 荒事を荒いまますれば足が着く。奪う側から転落してしまうということを。
 だから慎重に、事を運んでいた。
 幻想に起こった事件にも手を付けず、大規模な南部の侵略を幸いと東に拠を構え、小さな村、町を少しずつ消費して行く。
 村はまるごと攻め落とした。
 町は少しずつ人をさらい、噂にはなっても決して大騒ぎにしなかった。
「少し西へ移る。不要な物は処分して痕跡を残すなよ」
 かつて盗賊に全てを奪われた彼は、奴隷商となった。
 手駒も奴隷だ。よく懐き、従い、戦える者を側に置いた。
 そうして彼は、目立たず、しかし確かな被害を起こして、幻想という国に住む人々の営みを、少しずつ消費していくのだ。


「仕事をお願い出来るかな」
 いつもより少し声のトーンが低い。
 そう察したイレギュラーズの前で、『黒猫の』ショウ(p3n000005)は言葉を続ける。
「幻想南部での戦いから間をおかずに集めてすまない。今回、出来れば潰しておきたい集団がいる」
 長く水面下で活動していた奴等だ、と補足を入れるショウの顔に笑みはない。
「敵は奴隷商人、スレイブと名乗っているふざけた奴。事件の尻尾を見せず、本当に存在するのかとまで言われる相手だが、その被害は実際にある。だから今回、その拠点を見つけられたのは幸運だった」
 場所は幻想から東。森の深い、とある洞窟だ。そこに、敵の隠れ家がある。
「調査は慎重にならざるを得ないが、時間をかければすぐ場所を移され見失う。そこで、情報の少ない相手だけど……君達にはそこへ襲撃をかけてほしい」
 洞窟内部は一本道だと予想されるが、抜け道がないとは思えない。慎重な敵だ、行き止まりの洞窟を隠れ家に選ぶ筈がない。もしもに備えた脱出手段を用意していると考えるべきだろう。
 そして、迎撃用の罠もきっと、ある。
「いつも以上に気を配って戦ってくれ。向こうは頭が逃げれば勝ち、逃げられればこちらの負けだ」
 側にいる戦闘員は戦えるだろうが、全員が強いとは考えにくい上、集団でもないはずだ。
 なぜなら。
「なぜなら人の群れは目立つ。恐らく少数……5から10人、そしてスレイ。そんな編成と思われる」
 どう戦うのか、強さは。
 わからない。
「スレイや他戦闘員の生死は問わない。敵は賢く冷静だ、ただ突っ込むだけじゃ勝てないだろう。どうか、気を付けてくれ」
 そう言ってショウは、いつものようにイレギュラーズを送り出した。

GMコメント

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 ユズキです。
 いつもの通りに以下補足。

●依頼達成条件
 スレイブと戦闘員の撃破、生死不問。

●現場
 洞窟。道中は幅にして成人男性三人分、高さ約3m。スレイブ達の居る場所は奥で、広さは十分にある。
 罠や脱出道もあると予見されているが詳細は不明。

●敵情報
 スレイブ:
 奴隷商人。実力は未知数だが、戦えるのは確か。

 戦闘員:
 数は5から10人。奴隷でありスレイブに忠実。説得による無力化は、出来ないことは無いが非推奨。

●その他
 何をしてきてもおかしくない、そんな心理で事に当たるといいかと思われます。
 状況に有利なスキルはきっと有利です。
 突入に時間をかけたりすると察知して逃げる可能性があります。

 それでは、お気をつけて。

  • 隷属するモノ拒むモノ完了
  • GM名ユズキ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年11月30日 21時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘルモルト・ミーヌス(p3p000167)
強襲型メイド
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ヴィンス=マウ=マークス(p3p001058)
冒険者
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
想星紡ぎ
アト・サイン(p3p001394)
観光客
ニーニア・リーカー(p3p002058)
辻ポストガール
九重 竜胆(p3p002735)
青花の寄辺
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏

リプレイ


 イレギュラーズは洞窟へと侵入する。
 そこは、幅こそ狭いが、高さは余裕のある縦穴式洞窟だ。
 入り口は森の中、草むらと木々の間にある目立たない窪みにあって、中は光が届かない。ともすれば、自然に出来たただの洞窟としか思えない、そんな場所だ。
 当然灯りも備わっていない。
 だが、居る。
「気を付けて」
 先頭を任された、カンテラを掲げる『観光客』アト・サイン(p3p001394)が振り返らずに言った。
 視線は足元から灯りが照らすギリギリの先までを撫で、そして確信を得る。
 人の痕跡は確かにある、と。
「罠に気を付けないとだね」
 そしてその事実は、他の皆にも伝わる。コクリと頷いた『絆の手紙』ニーニア・リーカー(p3p002058)は、間違いなくあるはずの罠を警戒した。
 敵対する対象の察知と捜索は、『一刀繚乱』九重 竜胆(p3p002735)と 『示した力で仲裁を』久住・舞花(p3p005056)に委ねている。だから、自身のすべきことは二つだと、彼女はそう思う。
 第一は、ギフトによる道の記憶だ。進む道は自然と頭に落とし込まれ、思い描く平面上のダンジョンマップとして想像が出来る。
 そして第二は、罠の探知。
 コツン、と、足音を一つ鳴らした。
 狭く前に伸びる岩肌を、音は跳ねて進む。エコーによる周囲の探知だ。
「どうだ、なにかわかりそうか?」
 アトと共に前に立つ『冒険者』ヴィンス=マウ=マークス(p3p001058)が、成果を伺う。自分の持つ聞き耳スキルで、遠くまで反響する音の消え去りまで聞こえてはいるが、結果としては使用者に聞かなければわからない。
「……ちょっとわからない、けど、横道とかは今のところ、無いみたいだよ」
 答えは、思ったよりは心許ないものだろう。音で周囲を探るといっても、細部までを完璧に理解する程の便利さではないのか、もしくは、
「音の影響を受けない仕掛けをしてあるか、だ」
 そうアトは判断する。
 かなり慎重な相手なら、その可能性は十分有り得るだろうと思う。逆に目に見えて罠があるならば、それはフェイクで本命は別にあるなども、考えられるだろう、と。
「今の音で、気取られてはいないでしょうか」
 抑揚のない囁き声で懸念を示した『強襲型メイド』ヘルモルト・ミーヌス(p3p000167)の声に、返事は二つ。
「私の探知には、反応しないわ」
「こちらに向く敵意も感じませんね」
 竜胆と舞花の物だ。
 それぞれが、人の発する特定の波長を察知するスキルの所有者で、竜胆は幅広い負の感情、舞花は自分に向けられた敵対心と、差違のある探知能力だ。
「どちらにせよ、100m内に敵が居る可能性は少なくなったわけね? それなら、エコーロケーションは少し控えた方がいいかもしれないわ」
 便利な能力ではあるが音を伴う探知は、やはり気付かれるリスクを背負いやすいと、竜胆は思う。
「光源もホントはリスクがあるだろうけど、仕方ないよな」
 首に暗視機能を備えたゴーグルを下げた『天翔る彗星』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)が呟く。肩には、ファミリアーとして召喚したネズミを一体乗せ、戦闘直前に抜け道探索用としてある。
「……道中の探索は任せきりになるけど」
 ウィリアムやヘルモルト、それに『尾花栗毛』ラダ・ジグリ(p3p000271)。気取られない用意と索敵の補助はするが、メインで言えば罠の看破と解除、広範囲探知を持つメンバーに任せるのが適役だ。
「……進もう。怪しいところがあれば、教えてくれるかい?」
 それらを踏まえた上で、前へ。
 敵の領域内へと、アトは一番に踏み込んで行った。


「さて」
 進むヴィンスは、腕を上げ、指先から糸を垂らしていた。糸の先には石を結び、何かあれば体より先に糸が当たるという、簡易な探知機の役割だ。
「……大掛かりな物を仕掛けるのは難しいと、思ったんだけど」
「そうでもないみたいだね」
 手を上げて制止を伝えたアトの屈む場所に、それはある。
 重さを感知して作動する、言わば地雷だ。大きさから見て、作動すれば今イレギュラーズが居る位置は崩れてしまうだろう。
 地雷の解除は、少し時間がかかる。洞窟への侵入から、時間はどれくらい経っただろうか。
 糸の探知でわかる、張られた極細のワイヤートラップや、注意してようやく目視で確認出来る地雷、単純に侵入者の存在を知らせる鳴子。
「灯りを消して」
 それらの罠を一つずつ解除して進む八人の先、微かな色合いの変化がある。
 灯りだ。
 カンテラを付けたままでは気付かれると思い、持参した厚布を被せてから、さらに慎重に八人は少しずつ進む。
 サイバーゴーグルを持ってきた者は安全に、無い者は、布の隙間から微かに漏らした灯りで足元をなんとか確認して。
 進む。
 先の灯りはどうやら曲がり角の向こうらしく、途切れた光と影がはっきり見て取れる。静かに角へ身を寄せ、そっと覗いて確認すると、縦穴の終点と大きく開けた広場の入り口がある。そして、その境目に、監視と思わしき敵が一人。
「少し待って」
 言ったのはウィリアムだ。肩のネズミを地面に下ろし、密かに見張りの横を抜け、先んじて奥へ行く。
 目的は抜け穴、つまり逃げ道の探索だ。
「……まず一人、あの見張りを不意打ちで仕留めましょうか……?」
「いえ」
 刀の鯉口を切る舞花を、静かに止めたのはヘルモルトだ。一歩を進み、突撃しやすい軸足を前にする。
「舞花様と竜胆様は、敵を引き付ける役があるはずです。なので、私が行きましょう」
「それなら、私が援護する。遠近で一手ずつある方がいいだろう?」
 言葉を作りながら、ラダは大型ライフルを両手に握る。ようやく銃手として動ける、とは心中で呟き、息を整え、一拍。
 飛び出して行くヘルモルトを追い、半身を出してライフルを水平に照準を向ける。短く息を吸い、吐いて、止め、
「!」
 引き金を引いた。
 発射された銃弾は監視の胸へ届き、あばらの骨を砕きながら貫通。それだけでもひどいダメージだが、そこへヘルモルトが止めを刺しに行く。
 普通なら、何が起きたのかわからない内の決着となるだろう。
 だがその監視者は違った。自分が受けた傷の深さを理解し、襲撃してくる敵影を認めたそいつは、立ち向かわなかった。
 壁の方へと手を伸ばしたのだ。
 その動きの意味を、ヘルモルトは解せないが、どちらにせよ銃声がした時点で気づかれている。ならばはやく始末をつけようと、接触する、その瞬間。
「ーー」
 カチッ、と、監視者の手が壁を押し、ヘルモルトを巻き込んで、爆発した。


「覚悟完了しすぎでしょ……!」
 角から飛び出して行く竜胆は、悪態の様に吐き捨てながら爆煙を突き進み、広場へ踏み込む。
 死なばもろとも、ヘルモルトが巻き込まれた爆発はつまり、そういう事なのだろう。咄嗟の事によく調教されているものだ。
「とにかく、逃がさない様に乱戦へ持ち込むわよ」
 追従する舞花と先へ。侵入する広場は円形で、入り口から正反対の位置に人が集まっているのが見て取れる。
 一人を除いて、麻布を巻いただけのひもじさを思わせる格好だ。恐らくそれらが奴隷であり、そしてそれに守られる位置にいる上等な服を着た一人こそ、スレイブという今回の最大目標だろう。
「私たちはギルドから来た!」
 だから言う。
「ここで大人しく討たれなさい」
 刀を抜き、切っ先を突き付け、討伐の宣言だ。二人の刃が真っ直ぐスレイブに向けば、刷り込まれた【主に害なすモノを挫く】と言う意思が、奴隷を行動させる。
「ーー動くな!」
 掛かった。これでスレイブの守りは薄くなる。そう思った初動を、しかし、男の一喝が打ち消した。
 敵の言葉より主の命。それも、刷り込まれた意思。二人の名乗りの効果を、それで吹き飛ばしたのだ。
「まずい、後ろに抜け道がある! 逃げられるぞ!」
 そして、ウィリアムがファミリアーで見つけた脱出経路は、スレイブの背後だ。奴隷の壁を使い、このままでは敵は逃げ出してしまうだろう。
「あ、ごめんなさい」
 そんな緊張感の中。投じられる物がある。
 それは、ニーニアの放った、封をされた手紙。
 戦場をふわりと通過し、スレイブを守る壁の前で開かれ、
「お届け物だよ~!」
 毒の霧を吐き出して襲いかかった。


 逃げる背中に、素早く動くイレギュラーズの中。
 ラダは一人、動かなかった。
 いや、正確に言えば移動をしなかったというだけで、動き自体はあるのだ。
 銃口を前に、腰を落としてブレを抑えた彼女は、特殊な弾を込めてトリガーに指を掛ける。
「……取り扱うものは違えど、同じ商売人。まともな仕入れ先のない品を選んだ時点で、いずれこうなったのだろうに」
 感傷でも無く、事実として思いながら、奴隷兵の向こうに逃れる商人を狙う。
 見えないが、視えている。だから、撃つ。
「ぐぉおッ」
 貫通する一撃は壁の腹に風穴を空け、目標の足をぶち抜いて転がせる。
「逃がさない……!」
 強い意志の言葉。それはウィリアムの声だ。
 杖の先端を頭上に向け、示す上空に魔力を集束させる。
 星の瞬きを思わせる煌めきは蒼く、固まる魔力は剣の形を作り、切っ先をスレイブへ。
「スレイブ……その名は」
 一瞬、余分な思考が入る。それを直ぐに静め、振り下ろす杖に連動して剣は落ちた。
「ちっ……」
 鋭角に迫る攻撃に、スレイブの取った行動は単純なものだ。
 近くに居た奴隷兵の首根っこを掴み、前へ差し出す。それだけだ。
「使い捨てやがった……!」
 胸へ突き刺さる。びくん、びくんと、幾度かの痙攣を経て絶命するそれを、文字通り使って捨てたスレイブは、足を引きずりながら抜け道の影へと姿を隠した。
「行くわ」
 壁はまだある。そして、逃げようとするスレイブへの道は遠い。
 斬魔刀を握り直し、舞花は一歩を前へ。
「貴方達の相手は私がしてあげるわ!」
 竜胆は奴隷兵の引き付けの為に息を吸い、再度の声を上げる。今度は傷のせいか、逃げに徹したのかスレイブの喝はない。
「引き付けは任せて、追って!」
 押し寄せる奴隷兵の攻撃が、竜胆に押し寄せる。しかし、それは覚悟の上だ。
 意識は防御にすべて回し、追撃は仲間に任せると、そういう覚悟。
「一人ではお辛いでしょう」
 けほっ。
 と、軽い咳をして戦線に復帰したヘルモルトが言う。
 爆発に巻き込まれて汚れた服を手で少し払いつつ、竜胆の声に引かれなかった敵の方へ歩みを進めていく。
「なら、私が追うぞ」
 体を前に落とす。倒れる体が地面スレスレになった瞬間、ヴィンスが地を蹴り跳ぶ。
 ロケットスタートだ。
「血を追って! 罠があるところを通らないはずだ!」
 その行く先を塞ぐ壁を、リボルバーで撃ち抜きながらアトが言う。
 経験と、これまでの仕掛けられていた罠を観察しての所感だ。そして、それは正しい。
「ーー!」
 だからこそ、それを止めるべく奴隷はあるのだ。
 走るヴィンスの横手から、飛び込んで止める為に軸足を一歩ーー
「させません」
 踏み込んだその足を、舞花が鞘で思いきり押さえ付ける。初動を潰す動きだ。
 そうして止めた体を続けざまに斬魔刀で斬り払い、完全に食い止める。
「お気を付けて」
 奴隷兵の中心で、踊るように回って暴れながら、ヘルモルトは抜け道に消えるヴィンスを送り出した。


 スレイブ、か。
 続く血溜まりを追いながら、ヴィンスは思う。奴隷商人が奴隷という意味の名を使う、その意味を。
「……まあ、何者であれ、外道であることに違いはない。それなら、逃がしはしないだけだ。なぁ?」
「……」
 対面する男は、血の気の薄い青い顔をしている。
 ナイフを構えるヴィンスに対し、拳を握ったファイティングポーズを取って、
「来い!」
 相対が始まった。
 振りかぶる拳がヴィンスに向けられ、斜めに落とす軌道で行く。
 それに対しては、開けた片手を使う。
 軽く潜り込む様に一歩を踏み込んで、相手の腕を外側へ弾く。
 そうして作り出した隙で、スレイブの胸へナイフを向けた。
「ぐっ」
 だがそれに、カウンターを合わされる。胸に浅く届いたナイフと、腹に突き立つ拳。そんな構図だ。
 双方とも、決定打が決まらないまま、戦いは続く。

 奴隷兵の数は、入り口で爆死したのを含めて八人居た。
 盾にされた兵を減らして残りは六人。
 アトと舞花に攻撃された兵は、手負いだが健在だ。
 ラダの銃弾に貫かれた兵は、ニーニアの猛毒の影響で崩れ落ちて絶命し、それで五人。
「捨てられても尚、忠義を尽くすのね。もう戻らない主の為に従う奴隷で、いいのね」
 守りに入っていた竜胆の確認に、奴隷兵は答えない。いや、彼女は薄々気づいていた。感情を探知するスキル等なくても、敵対する彼らの顔、瞳に、自我等無いことに。
 きっともう、心が死んでしまっている。
「なら、わかったよ」
 だから、両手に握った刀を縦に振り下ろす。一人を裁断し、血を払った。
 残り、四。
 竜胆の残心を、狙って迫る兵もいる。
「いけません」
 それを、ヘルモルトが静かに止める。
 走る脚に軽い蹴りを与え、つんのめって暴れる腕を絡めとって首の関節を極める。
「大人しく降るなら丁重に扱う用意もありましたが。その染み付いた犬根性では無駄でしたね」
 ゴキリ。
 そのまま砕いて落とす。
 残りは三ーーいや、
「投降しないのであれば、仕方ありませんよね」
 舞花が先程の敵に止めを刺して、二。
 突き刺した刀を引き抜いて、ナイフを振り上げて迫るそれを鞘で受け止める。
「げぼっ」
 苦悶したのは、襲ってきた方だ。見れば大分顔色が悪く、口の端からは血を流していて、
「屈んで!」
 それはニーニアが先に放った毒の影響だ。猛毒が、経過する時間に比例して奴隷の命を削っていた。
 言葉の通りに舞花は腰を落とし、その頭上をニーニアのハンマーが通過する。
 それは彼女の魔術によって構築、生成されたもので、敵の顔面に消印をスタンプしてしまうものだが、威力は見た目通りにちゃんとある。
 砕いて叩く、確かな破壊の一撃だった。
 残存戦力、一。
「悪いな、俺達は生死問わず……つまり殺しても構わないとして送られたんだ」
 大人しくしてくれれば、殺す必要も、なかったはずだけど。と、そう思うが、向かってくる敵は止まってはくれない。
 だからウィリアムは、敵の攻撃に対して体を横にズラし回避。背中に回り、倒す様に杖を押し当てて転ばせる。
 そのまま緩やかに、敵の生命の流れを狂わせ、静かな破壊を与えて命を絶った。
「これで全員? なら、急いでヴィンスをーー」
「私なら、居るよ」
 殲滅の完了を確認して、アトが踏み出そうとする先から、傷だらけのヴィンスが現れる。
 目立つ外傷は、主に青アザ等だ。衣服に染み込む赤色は恐らく、
「殺したのか」
 ラダの言葉に、壁を背にして座り込んだヴィンスは頷く。
「一応、確認をしてくるよ。罠とか、囚われた人が無いかも見てくる」
 そう言って抜け道へ行くアトを見送り、溜め息を一つ。
 辺りに倒れる死体を眺める。
「恨むな、とは言わん。存分に恨んで、憎んでもいい」
 だって俺は、全てを救える神様じゃないのだから。
 と、目を閉じて、彼はそう思った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

ユズキです。
大変お疲れ様でした。
次の依頼でもよろしくお願いしますね。

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