PandoraPartyProject

シナリオ詳細

誰がための挽歌

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 そこは血の曠野だった。
 敵味方関係なく延々と死体が転がり、焼け跡の瓦礫からは未だ煙が燻っている。

 村を襲う盗賊団を見事撃破したイレギュラーズ達だったが、その代償として少なからぬ犠牲を出した。
 そう、ローレットに所属する者達の中からも。

 幻想のある村に派遣されたイレギュラーズ達は、村人を守り避難させる班と、盾となって盗賊団と対峙する班とに分かれて戦った。
 結果、村人が皆殺しにされることは避けられたが、敵の刃に立ち塞がった者達は劣勢の中を一歩も引かずに勇敢に立ち向かい、そして命を散らした。

 仲間の死を目撃したあるイレギュラーズは嗚咽を漏らして大地に拳を叩き付けた。
 またある者は仲間の亡骸を抱きしめて嘘だ、嘘だと繰り返す。

 遠き異世界より無辜なる混沌へとやってきた者達。
 だが元の世界へ戻れぬままこの地に眠ることになった者もいるのだ。

 だが泣いてばかりもいられない。
 イレギュラーズに仕事の内容を伝えた『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)からは、『後片付けして帰るまでがお仕事なのですっ!』と、事後処理してから帰るよう厳命されていた。

 瓦礫の山を片付けること。
 負傷者の手当をすること。
 遺体を回収して弔うこと。

 ただ想定外だったのは、そこに仲間の死まで含まれていたということだ。

「仕事をしよう」

 誰かが涙を拭いながら言った。
 『仕事』という言葉がまるで魔法のように聞こえた。
 否、その言葉に縋ることで悲しみに身が竦むのをかろうじて奮い立たせているだけ。

 生き残ったイレギュラーズ達は一人、また一人と動き始める。
 悲しみを隠して粛々と。
 あるいは悲しみに涙を寄り添わせて。

GMコメント

 まずはお目にとめて頂きありがとうございます。
 このシナリオは戦闘終了後の事後処理を取り扱います。
 事件を取り扱うシナリオは多々あれど、後始末を重点にしたシナリオというのはあまり見かけません。
 しかし家に帰るまでが遠足です。
 皆様の手で物語を締めてください。

●目的
 このシナリオではPCとしての目的と、PLとしての目的の二つがあります。

 ・PCの目的
  盗賊団に襲われた村で、瓦礫を片付けたり死者を弔うなど、事後処理をする。
 ・PLの目的
  仲間に犠牲者(死者・重傷者)が出たことに対し、貴方のPCの想いを語る。

●立ち位置
 この村に派遣されたイレギュラーズは、「村人の護衛班」と「盗賊団と戦闘班」に分かれて行動していました。
 護衛班か戦闘班かを最初にご申告の上、プレイングを書いて下さい。

 ・護衛班
 自分は無傷か軽傷という状態です。
 ・戦闘班
 重傷ながら命拾いしましたが、仲間(モブNPC)の死を目の当たりにしています。

●村の状況
 幻想にある人口300人ほどの村ですが、村道沿いの村から村への中間に位置するため宿場としても栄えていました。
 宿屋や商店のある村の中心部から火の手が上がり、中心部は壊滅的な状況です。
 しかし中心部から離れた農地や牧地、また村人を避難させた教会は無事でした。
 死者は中心部で宿舎や商店を営んでいた人、宿屋に泊まっていた旅人など50人前後というところで、イレギュラーズの奮闘でこの程度で収まったと言っていい数です。

●書いて欲しいもの
 1・戦いの最中にどんな行動を取っていたか
 2・戦いが終わった後どんな行動を取るか。何を想うのか。

 何をするかは勿論ですが、心情もしっかり絡めてプレイングを書いて下さい。
 仲間の死を間近に見て死を身近なものとして感じたり、あるいは過去の異世界での出来事を思い出したりするかもしれません。
 またこの仕事を続けて行くにあたっての覚悟を新たにしたり、むしろ戦うことに疑念を抱いたりするかもしれません。
 そう言った心情部分もこのシナリオの見所の一つにしたいと思います。

 なお心情には呟きを含めて声に出すものと出さないものがあると思います。
 それを見分けるために、決して口にはしない想い、心の呟きの類いは括弧でくくって頂けますと助かります。

 例:(死んじまったら終わりなんだよ)

 また、やりたいことは複数書いていただいて構いませんが、メインでやりたいことを一番最初に書いてください。
 メイン以外は全体の描写バランスの偏りを見て不採用となる場合もあります。

●描写
 盗賊団の討伐終了直後から帰還するまでの数日間の出来事を描きます。
 事後処理メインで心理描写多め。
 討伐中のことも回想として描くかも。
 アドリブ多め、設定多めなので、ご了承の上ご参加下さいませ。

  • 誰がための挽歌完了
  • GM名八島礼
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2018年12月10日 21時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談10日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

鳶島 津々流(p3p000141)
かそけき花霞
銀城 黒羽(p3p000505)
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
御堂・D・豪斗(p3p001181)
例のゴッド
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
ナセールディン(p3p004739)
砂塵の王
カティア・ルーデ・サスティン(p3p005196)
グレイガーデン

リプレイ

●神のダイアローグ
 覗きこんだ仲間の胎は暖かで、シャイネンナハト間近の冷気に湯気が立っていた。
 冷たくなった仲間の腹は鮮やかで、正義の在り方と生き様を寒空に晒していた。

 それはこの骸がかつて人であり、紡がれた『物語』が確かに在ったという証。

 『Storyteller』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)は骸の前に跪き、その湯気を暗黒の顔面に浴びて思い切り吸い込んだ。
 どこにあるとも知れぬ眼に、鮮烈な血と肉の色を焼き付けると赤い口唇を綻ばせて。

 人の倍もあろうかという闇黒の人影は『死』そのもののように見えた。
 だがこの男とも女とも知れぬ影に血と肉と熱とがあったなら、その腹に同じ印を見ただろう。

 影であるが故の強靱な体力はオラボナの武器であり防具。
 闇黒の壁は仲間の分も、村人の分も、刃をこの身に一つに受け続けた。

 それでも──

 庇うには手──触手が足りなかった。
 動き続けるには意識が曖昧であった。

 役割をこなせぬ糞たる身に壁を自称する資格はないと、オラボナは嗤う。

「貴様の逝った所以は我等『物語』で在る。冗長に沈むより華々しくも輝かしい生命の歌声だった。『登場人物』にも到達せざるものの類にはきっと優しい結末だろう。嗚呼、何だって──?」

 ──死にたくなかった

 耳を近づけると男の腹はそう言っていた。

 ──生きていたかった

 耳を澄ますと女の胎はそう言っていた。

 だが彼らの『物語』は終わった。

 一度異世界で潰えた『物語』の登場人物たる我らが、何故混沌に呼ばれたのだろう。
 終えたはずの『物語』を再び紡がせるくせに、何故自らの世界の人物を踏み躙るのだろう。

「そいつを教会裏に運んでくれ。津々流が墓を作るんだってさ」

 『暇人』銀城 黒羽(p3p000505)が盗人の遺骸を運びながら声をかける。
 オラボナも仲間を抱いて立ち上がった。

 死したる仲間の名を刻むため。
『物語』の冗長として追記するため。
『物語』を終わらせた上位存在への復讐のため。

「おやすみなさい、闇黒の最下で」

 流れぬ涙、聞こえぬ声を知るのは、ただ闇黒に抱かれた骸だけだ。

●神のモノローグ
 『神格者』御堂・D・豪斗(p3p001181)は神である。
 だが混沌世界においては人の子と何ら変わらない。

 ゴッドワールドをクリエイションせしゴッドエネルギーは、ここでは片鱗を覗かせるのみ。
 本来のゴッドパゥワーの全貌を知る者はない。
 仮に豪斗の権能が健在だとしても、その力を異界たる混沌で行使することは憚られた。

「これをゴッドが彼のヒーロー‥‥と共にあらなかったゆえの悲劇と、そう呼ぶのは難しいところだ! ヴィレジャーと共にあった故にレスキューが間に合ったのも事実である!」

 神の呟きを聞くのは威光の前にひれ伏す民ではなく、ただ死したる屍のみ。

「しかしその為のサクリファイスと呼ぶのは少々趣味が悪いな!」

 如何なる死でも悲しくない筈はなかろう。
 己が側にいればと思わぬ訳はなかろう。

 だが豪斗はゴッドであるがゆえに復活を禁じていた。

 如何なる理由があろうとも。
 例えそれが悲劇であろうとも。

 このワールドにあっても。
 パンドラの輝きがあっても。

 それはゴッドである豪斗とて同じ。
 死ねるゴッドなれば完全なるデッドがやがて訪れる。

「はてさて、ゴッドがこのケイオスで死したとすれば、如何なるエンディングを迎えるのか‥‥興味があるが、まだその前にやらねばならぬことがあるが故なぁ!」

 仲間の骸をオラボナが、盗人の屍を黒羽が運んでいく。
 村人は未だ悲しみに暮れ、余所者であるイレギュラーズや外敵である盗人共にまで手が回らぬからだ。

「ライフのエンドはフレンズであろうとエネミーであろうと悲しい! ゆえにゴッドが手を貸すのは当然である! 今は目の前のワークをサクサクこなすがゴッド!」
「ああ、いつまでも野晒しにしてちゃ申し訳ねぇよ」

 黒羽はそう言って生き残った仲間が待つ教会へと誘う。

「ヒーローズ&エンジェルズに此度の事が如何なるインパクトを及ぼすか‥‥それを見届けるのもやらねばならぬ事の一つ!」

 豪斗は独り言を繰り返し黒羽に続く。
 かつてヒーローと呼んだ仲間の亡骸が、葬られるのを見届けるために。

●名も無きエピタフ
 黒羽の足下に屍が転がっている。

 村人であった女も。
 盗賊であった男も。

 ギフト『剛毅の魂』により苦痛を感じなくなった身体はマッスルパワーで筋力が増強され、不倒の闘気は倒れることも能わず。
 村人を逃がす為の盾となり奮戦するものの、防ぎはしても攻撃はせぬ己に、誰かが叫んだ。

 殺せ、殺せ、殺してしまえ、と。

 その声はいつしか黒羽への非難、重圧となって木霊する。

 例えそれが村人に仇為す悪であったとしても、殺すことなぞ出来はせぬ。
 例えそれが矜持と偽った自己満足だとしても、反撃することすら許されぬ。

 理由は記憶と共に抜け落ち、意味は追憶の果てに葬られ、過ぎた嵐に命の残骸が黒羽を苛む。

 もし自分が盗賊を斬っていたならば、村人の幾人かは死なずに済んだであろうか。
 もし自分が盗賊を討っていたならば、仲間が身代わりに散ることはなかっただろうか。

 だけど黒羽は信じたかった。
 自分のこの手は誰かを殺すためにではなく、何かを守る為にあるのだと。

(死んだら何の意味もねぇと言うヤツもいるだろう‥‥。だけどお前達の命は確かに村人達の命を繋いだぞ‥‥!)

 黒羽は死んだ仲間を担いで心に呟く。
 屍の重みは生命の重みなのだと。

(全部護りたいって絵空事を、本気で思っているなんて、傲慢で強欲な莫迦だと思っているだろう。でも俺は誰にも死んで欲しくねぇんだよ。どんなヤツでも生きて幸せになって欲しいんだ)

 黒羽は盗賊の遺体をも集めて運ぶ。
 骸の重みは責念の重みであると。

「この人達の墓も必要だね。村の外れに埋めたほうがいいかな。墓碑には何と刻めばいいだろう?」

 墓標を用意していた『行く雲に、流るる水に』鳶島 津々流(p3p000141)が尋ねる。
 黒羽はしばらく考えてから答えた。

「こいつらの名前なんざ知らないからな‥‥」

 黒羽は津々流と共に村の外れの林の中に、名も知らぬ盗賊達をまとめて葬った。

 やがて土へと返り、木を育み、花が咲くだろうそこに、碑はいらない。
 ただ土の上に刺した冬の枝だけが彼らの墓標である。

●花とエピタフ
 何故僕は生きて、彼は死んだのだろう──
 目を覚ました時には『白き歌』ラクリマ・イース(p3p004247)が津々流を見下ろしていて、カティア・ルーデ・サスティン(p3p005196)と『サイネリア』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は傷ついた人達の治療を始めていた。

 ああ、そうか。
 僕は回復役なのに先に倒れて仲間に助けられたのだ。

 ああ、そうか。
 僕の援護攻撃は届かず仲間は先に逝ってしまったのだ。

(形ある物はいつか崩れる。命あるものはいつか永久の眠りにつき、全てが遠い夢となる──)

 津々流は四季告というあやかしである。
 人としての生を終えれば頭に生えた小枝が延び、樹として大地に太い根を張って第二の生を生きる。

 だけど死んだ仲間はどうなると言うのだろう。

「人の子にリザレクションは許されぬよ。如何なる理由があろうともデッドとなった者はただ大地に還るのみ!」

 ゴッドを名乗る男は亡骸を下ろしながら言った。

 人は土に埋められ肉は大地に溶けるのだと。
 新たな生命を育むための土壌となるのだと。

「でもそれだと土の下に誰が眠っているのか、誰であったのか分からなくなるんじゃない?」
「だからこそ人はエピタフに名を刻むのだ!」

 津々流はエピタフという言葉を不思議な心地で聞き、納得すると墓標にするための木を選んで一人一人の名を刻み込んだ。

 その名も。
 二つ名も。

 死んだ日も。
 生きた証に。

 津々流が込み上げる感情を抑えながら名を刻んでいると、途中から寄り添うようにオラボナも加わった。
 そして最後にスティアが摘んできた冬の花を、出来上がった十字の墓標へと捧げる。

 それは四季告の木に花が咲くようだった。
 誇らしげに勲章を下げているようだった。

「君達は確かにここにいた。ここで勇敢に戦って死んだ。僕は忘れない。例えこの木が朽ち、刻んだ文字が消えようとも」

 死など怖れぬあやかしは、この日初めて人の死というものを知った。
 執着を持たぬあやかしは、この日初めて人を想うということを知った。

 溢れる感情を風花が攫う。
 津々流が綴ったその名を、優しく撫でながら。

●花とバンデイジ
 戦いなぞ蛮族のやるものだと王は言う。
 王の前で無駄に命を散らすことは許さぬと。

 『砂塵の王』ナセールディン(p3p004739)は今なお王であった。

 村で尤も堅牢な建物である教会へと村人を逃がし、盗賊共に追われる者あらば間に割って入った。
 戦意なき者を無益に殺すのが愚かな行為なら、それを眼前で見せられるのも面白くはない。

 我はこの世界の王となる身なれば。
 この小さな村のこの一人の民とて我が物なれば。

 我がものに手を付けようとした罪は重く、王自ら断罪するに値した。
 覇道を妨げる物は全て、ギフト『王者の風格』の光輝の前に打ちのめして。

(死体なぞ見慣れている。今さら何の感傷も湧く物か。我は誓ったのだ。いつか王になり、一族を再興させてみせると‥‥!)

 信じていた叔父に裏切られたあの日のことを忘れない。
 虫けらのごとく家族を殺されたあの日の誓いが甦る。

(‥‥だから、俺は泣く訳にはいかないんだ)

 ナセールディンは母親の死体の前で蹲り泣く子に王として命じる。

「この女の子供か? どけ、教会へと運ぶ。死んだ者は戻らぬ。泣いている暇があれば備える花でも摘んでこい」

 カティアが役割を与えた方が悲しみを紛らわせると言っていた。
 今頃スティアが教会裏手の林に花を摘みに行っているはずだ。

 ナセールディンが励ますと、幼子は小さな切れっ端を差し出した。

「む‥‥我にこれを? 絆創膏ではないか。この傷か? フン、ただの掠り傷だ。我が玉体に傷つけた愚か者は既に成敗しているが‥‥貢ぎ物と言うなら受け取ろう」

 貼れば傷が治ると信じて家から持って来たものであろう。
 鄙には貴重な品を捧げられれば受け取らずにはおれぬ。
 幼子が絆創膏を貼りたい相手は既に亡いのだから。

 獅子の獣人は逞しい腕に小さな絆創膏を貼ると、まだ若い女の遺体を抱き上げた。

「さあ行くぞ。はぐれるなよ。お前の手で母を花で飾ってやるのだ」

 幼子は鼻水を啜り、拳で涙を拭う。
 ナセールディンはその姿にかつての自分を重ね見たのだった。

●灰のラクリモーサ
 カティアは教会で避難してきた人々を手当てしながら思う。
 人の死にそれほど心が動かないのはどうしてだろう、と。

 仲間の死も。
 村人の死も。

 旅芸人の一座で裏仕事していたときも。
 孤児院で子供達を始末したときも。

 曖昧に霞む記憶の向こうに感情を置き去りにしてきたのか、それとも生来薄情な性質なのかは分からぬけれど。

「スティア、また花を摘んできて貰えるかな?」

 共に生き残った人々の手当をしていたスティアは微笑んで立ち上がる。
 その目は涙を堪えて潤んでいた。

 やる事があれば悲しみから目を背けられる。
 出来る事があれば悲しみから立ち上がれる。

 戦い最中は逃げ遅れそうな女子供、老人を先に逃がし。
 戦い終われば誰をどの順番で診ていくかを考える。

 効率を考え、優先順位を付け、カティアもまた淡々と役割をこなすのだ。

「それと死者を送るためには歌も必要だね。ラクリマ、お願い出来るかい?」

 死者の身を拭い清めていたラクリマも頷いて立ち上がる。
 その白き衣には死んでいった者達の血が、冬花のようにこびり付いていた。

「雪? ああ、灰か‥‥」

 流れてくる鎮魂歌の旋律に耳を傾けると、風に攫われ焼け跡の灰が舞う。
 それはかつて幸せを育んだ家だったもの、賢明に生きた人だったものの欠片。

 カティアは自分の髪と同じ色をした脆きものへと手を伸ばすと、壊さぬようにそっと掬う。

 今頃オッドアイの少女はどこかで一人涙しているのだろう。
 死したる仲間のために泣いてくれる者も必要だろう。

 ラクリマという名は異世界の言葉で『涙』だと聞く。
 泣けぬ皆の涙を集め死者を見送ってくれるだろう。

 感傷は小波のようにカティアの足下に忍び寄り、白にも黒にもなれぬ鴉の羽毛が灰に混じって冬空に舞う。

「お疲れ様、おやすみ」

 いつかは自分も誰かにこうして見送られるのだろう。
 紡いだ物語の結末が、後悔少なきものであれはいい。

 カティアは先往く仲間を想い、灰降る空に別れを告げた。

●雪のラクリモーサ
 死したる者が教会の裏に掘られた穴に、一人また一人埋められていく。

 血にまみれた顔も、焼け爛れた身体も。
 カティアと共に清めて白い布に包み、せめてもの手向けにスティアが摘んだ冬花を添えた。

(俺はまた助けることが出来なかった)

 ラクリマは、ギフト『白き歌の呪文』を歌って仲間と村人を見送った。

 前線を駆け回り戦う仲間を回復し、時には仲間へと襲い掛かる敵を退けたが、力を使い果たすと為す術もなく仲間は目の前で命を散らした。

 嗚呼、俺はまたしくじったのだろうか。
 力の使いどころを見誤ったのだろうか。

 無力感に苛まれるラクリマの脳裏に、かつて失った友の顔が浮かび上がる。

 他愛もない話を飽きもせず話し合った人。
 言葉もなき時間も苦痛にはならなかった人。

 楽しいという感情をたくさんくれた人。
 いつまでも共に在りたいと願った人。

 幸福な日々は自らの過ちで失われ、時を経てもまた同じ過ちを繰り返す。
 深緑の教団『エルムの梟』を離れても、戦いに身を投じては「悪」を断じて殺す。

 何も出来なかった。
 あの時も死者への手向けに歌うだけ。

 何も変わらない。
 今もただ生者の慰みに歌うだけ。

 争いを嫌い教団を離れても、過去を隠してギルドにいても。
 結局は人を殺し、人を死なせ、自分は何をしたいのだろう。

(俺は‥‥なんて無能なのか。‥‥灰? 嗚呼、雪か──‥‥)

 焼けた瓦礫から生まれた灰は、いつしか白い細雪に変わる。
 凍った涙の破片を一身に浴びながら、ラクリマは今は亡き友の名を呼ぶ。

(ノエル──‥‥貴方がここにいたら、今の俺を見て何と言うのでしょうか?)

 ノエル。

 それは今は亡き愛しき友の名。
 雪のシャイネンナハトに歌われる歌。
 希望に満ちた誕生を意味する言葉。

 人の心を慰み癒す歌は誰がための挽歌か。
 悲しみは雪のように降り積もり、冷たさが悔やむ我が身を責め苛む。

 いつか雪解けに花が咲くのだとしても。
 目を覆う白い薔薇を外す日が来るのだとしても。

●花のラクリモーサ
 誰もが必死だった。

 村人を守ろうと。
 仲間を庇おうと。

 だけどスティアが必死になればなるだけ、魔力の残滓は花のように咲きこぼれ、捨て身の百花繚乱は仲間によって逆に庇われた。

 戦いを前に強ばる自分を笑って励ましてくれた人も。
 自分には一指も触れさせないと豪語した勇敢な人も。

 共に行動した誰も彼もが動かなくなり、気づけば辺りにはスティアだけが残されていた。

 どうしてこうなったのだろう。
 何が悪かったのだろう。

 失われた記憶が甦った訳ではないけれど、誓った言葉だけは覚えている。

 強くなりたいと願ったのに。
 今度は守ると決めたのに。

 傷つき痛む身は心まで苛み、自らを手当することさえ罪な気がした。
 人前で泣かないと決めたのに、涙を耐えきれなくなって持ち場を離れる。

「ダメだなぁ‥‥やるべきことに専念しないといけないのに、いつも誰かに庇われてばかりで‥‥」

 カティアはやることがあった方が悲しみを紛らわせると言っていた。
 花を摘んでくれと頼んだのは、泣きそうなのに気づいたからだろう。

 ラクリマの歌はどこまでも優しく、降り始めた雪に涙が凍り付く。

 向こうに幼子を連れたナセールディンが花を摘む姿が見えると、泣いていると気づかれたくなくて慌てて涙を拭った。

「戻って手当の手伝いしてお墓にも花も飾ってあげないとね。でも‥‥全てが終わったら我慢しないでまた泣いてもいいよね」

 籠一杯に花を抱え、スティアは教会へと向けて歩み始めた。
 今頃津々流が墓標を用意してくれていることだろう。

 スティアは死んだ仲間と交わした言葉を一つ一つ思い出した。
 異世界から混沌に召還されて一人なのだと言っていた人に、花にと共に涙を手向けてあげるために。

(手の届く人くらいは守れる力が欲しいなぁ。頑張らないといけないね‥‥)

 摘んだ花はやがて朽ち、悲しみの涙は雪となって降り積もる。
 だけど溶けた涙は水となり、春芽吹く花の糧となるのだろう。

●挽歌
「安らかに眠れますように」

 鎮魂歌が響き渡る中、死者の墓標にスティアが花を添えていく。
 墓標には津々流によってそれぞれの名が刻まれていた。
 惨劇を引き起こした盗賊も、名は刻まれぬものの村外れにひっそりと葬られている。

 オラボナは『物語』の冗長‥‥記録に残らぬ顛末を心に追記する。

 黒い顔に白い雪を積もらせながら。
 誰のためにでもない挽歌を口ずさみながら。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 このたびはご参加いただきありがとうごさいます。
 皆様のPCの普段はあまり見せぬ姿、語られぬ想いを、私なりに解釈し、一つの物語として綴らせていただきました。

●構成について
 基本はお一人ずつクローズアップして描く断章の形式ですが、他の人との絡みも少し意識しました。
 また黒で始まり、灰を経て白で終わる、黒から白へという色彩構成を採用し、個の物語から全体の物語への視野拡大させています。

●描写について
 プレイングを元にしていますがそのままではなく、他の人のプレイングや全体のテーマに合わせて適宜意味が変わってしまわない程度に改変しています。
 過去を匂わせる内容については、はっきりと書かれていないものは想像できる範囲でぼかしています。

●テーマについて
 黒は死の象徴、白は悲しみの心象と思って見ていただければ分かりやすいかなと思います。
 ストーリー的には、前半は遺体回収と墓標、後半は弔いと鎮魂歌中心で纏めています。
 また今回は普段シナリオでほとんど扱われない後日談を見せるもので、物語の追記であるといったことを意識してまとめました。

 PCそれぞれの胸に、そして皆様のご記憶に残るシナリオになっていれば幸いです。

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