PandoraPartyProject

シナリオ詳細

炎の鉄槌

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 白衣を着た女は、細い指で銀のフレームを押し上げた。レンズに人工的な明かりが当たって一瞬、目が隠れる。
 提示された結果はクロ。
 缶詰の中身は致死性の毒物で汚染されていた。
 女は分析結果についてあれこれと専門用語を並べ立てて説明してくれたが、『未解決事件を追う者』クルール・ルネ・シモン(p3n000025)にはさっぱり内容がわからなかった。ほうしゃせん照射も、360度の高温をも生き延びる。いでんしを操作された云々、聞き慣れない言葉が右耳から左耳へ、脳になにも残さず抜けていく。
 ただ、その謎のういるす、仮にXとしよう。Xで汚染された食品を摂取すると、急激に脳が海綿と化し、次いで全身の肉が溶けて白骨化するということだけは、頭にしっかりと叩き込み、調査結果を記した紙の束を掴んで、探求都市国家アデプトのとある調査会社を出た。
 その足でクルールは真っ直ぐゼシュテル鉄帝国へ向かった。
 依頼主と一緒に、この検査結果を鉄帝のしかるべき筋に届け、毒入り缶詰を製造する工場を訴えるためだった。

 事は数か月前、海洋の沖で船員全員が白骨化して彷徨っている船が見つかったことに端を発していた。
 海賊に襲われたあと、放置され、長らく海を彷徨っていた。それこそ死体が白骨化するほど長く。発見当時はそう思われていたのだが、直にそれが間違いであることが判明した。その船は発見される数日前に、鉄帝のとある港から出港した商船であることが、船籍を確認してわかったのだ。
 一方、同じ時期に鉄帝のとある地方では不審死が相次いでいた。死んだのはとある缶詰工場の従業員、多くはその工場で働く貧しい子供たちとその家族だった。
 一夜にして白骨化という怪死事件を、その地方の憲兵はろくに調べもせず魔物、あるいは魔種の仕業ときめつけた。
 怪死は貧民街でしか発生していないことを幸いに、憲兵たちは事件を無視しした。社会の底辺にいる者たちのために、魔種退治なんてとでもない、と。
 幽霊船事件を追っていたクルールは、ひょんなことから鉄帝怪死事件の遺族と知り合い、二つ返事で調査を請け負った。犠牲者の死に方が幽霊船の船員たちと同じ死に方だったからだ。
 当初は魔物あるいは魔種の情報を集め、ローレットで討伐依頼を出すつもりだったのだが、調査を進めるうちにとある缶詰工場に行き当たった。犠牲になった貧民たちが全てとの工場で働いていたことがわかったのだ。幽霊船が最後に荷を積み込み、出港したのも、その缶詰工場の私港だった。
 クルールが工場内部に忍び込んだとき、ちょっとした騒ぎが起こった。その騒ぎを発端として、工場側はなんとローレットに毒入り缶詰の始末を依頼している。もっとも、依頼は「ラベルが剥がされて売り物にならない缶詰を『捨てるのはもったいない』ので食べて欲しい」という内容でだされたのだが。
 その依頼でイレギュラーズたちが工場の倉庫から盗み出してくれた缶を、クルールはアデプトのとある調査会社に持ち込んだ。
 ちなみに商船を襲撃したと思われる海賊船は、文字通り幽霊船と化し、別の依頼でイレギュラーズたちが退治している。


 検査結果はもみ消されてしまった。というよりも、端から相手にされなかったというほうが正しいだろう。毒入りと結論付けたのは他国で、しかもその時検査に使った缶詰が、鉄帝の缶詰工場で作られたものという証拠がなにもなかったからだ。
 国のしかるべき法機関はもとより、訴えられた工場側の対応も冷ややかで、逆に名誉棄損と脅迫の罪で訴えてやると息巻いた。実際、クルールたちを訴える手続きにかかっているらしい。
「前置きが長くなっちまったな。要はお前たちに缶詰工場の襲撃を手伝ってほしいってことだ。正攻法でいこうとしたオレがバカだった」
 クルールはジョッキを煽った。テーブルを揺らすほど、空になったジョッキを強く叩きつけて置く。
「もちろん金は出す。オレのじゃない。貧民街の連中がなけなしの金を出し合って報酬を作った……工場は自分たちが何を売っているのか分かった上で、缶詰を出荷しようとしている。金を儲けられれば、それを食った他国の人間がどうなろうと知ったことじゃないんだろう。騒ぎになって缶詰が原因だと疑われても、陰謀論をぶちあげて自分たちこそ被害者だと言い逃げる気でいる」
 そうはいくか、と情報屋は集まったイレギュラーズを前に気勢を吐いた。
 働き場所を失っても悪を正して欲しいと願う人々と、これまでの犠牲者たち、そして犠牲になるかもしれない人たちのためにも、工場を潰す。
「手伝ってくれるな?」

GMコメント

●成功条件
 ・工場を焼き討ちし、二度と缶詰を生産させないよう徹底的に破壊する。
 ・倉庫内の缶詰をすべて処分する。
 ・鉄帝の憲兵に見つかる前に撤収する。
 ※工場が爆破炎上してから30分後に、鉄帝の憲兵と武装消防隊がやってきます。

●日時
 ・鉄帝(ゼシュテル鉄帝国)北部のとある港町に建つ缶詰工場。
 ・夜です。月はありません。
  ※工場は稼働していません。
 ・港から山側へ常に潮風がふいています。

●敵
 ・工場全域を警備する傭兵……9名/鉄騎種(オールドワン)
  3人一組で工場の鉄柵に沿って、敷地内を左巡回しています。
  屈強な鉄帝の戦士で、筋肉モリモリです。
  両刃剣、カンテラを装備しています。
  『鉄騎』『過酷耐性』『拳闘』『蹴戦』『一刀両断』『飛翔斬』を活性化。
  ※どの組みも軍用犬を一頭ずつ連れています。
  ※イレギュラーズ到着時、工場の東、西、南、にそれぞれ一組ずついます。
   工場敷地内を一周するのに約一時間かかります。   

 ・倉庫を警備する傭兵……ラノとララ/人間種(カオスシード)
  倉庫の入口の左右に立っています。
  双子の姉妹です。
  某世界の巨石像、モアイによく似た風貌をしています(※女性です)。
  『聞き耳』『スピーカーボム』のほか、『アドレナリン』『バーサーク』
  『肉薄戦』『ブロックパージ』『ナッシングネス』を活性化しています。
  ※倉庫の入口付近はガス燈で照らされいます。

●缶詰倉庫
 生産された缶詰は、いったん巨大な倉庫に運び込まれ、出荷まで管理されます。
 現在、倉庫内にある缶詰はおよそ1万個。
 大部分は5両編成のトロッコに積まれています。
 路線は港に続いていますが、トロッコを動かすためには『動力』が必要です。
 
●NPC
 『未解決事件を追う者』クルール・ルネ・シモン(p3n000025)が同行します。
 彼は爆発物と火種の用意、実際に建物に仕掛けて回ります。
 特に指示がなければ戦闘には加わりません。

●注意
 工場が爆破炎上してから30分後に、鉄帝の憲兵と武装消防隊がやってきます。

●その他
 工場内には警備兵の他、人はいません。
 昼間、工場で働いている子供たちはいないので避難誘導を行う必要はありません。
 工場内には北側から入ることになります。
 北側の一部が工場の私港になっています。朝には商船が入りますが、夜は空です。
 通用門はクルールが予め細工してあるので、侵入に手間取ることはありません。

●GMより
 言い分はあれど、やることは『火つけ』に『強盗』……悪依頼です。ご注意ください。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『鉄帝(ゼシュテル鉄帝国)』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

  • 炎の鉄槌完了
  • GM名そうすけ
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年12月01日 22時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

テテス・V・ユグドルティン(p3p000275)
樹妖精の錬金術士
リア・ライム(p3p000289)
トワイライト・ウォーカー
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
ウォリア(p3p001789)
生命に焦がれて
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
Briga=Crocuta(p3p002861)
戦好きのハイエナ
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
梯・芒(p3p004532)
実験的殺人者

サポートNPC一覧(1人)

クルール・ルネ・シモン(p3n000025)
未解決事件を追う者

リプレイ


「生物兵器内蔵の缶詰もヤバいけど、それを海洋の船の事件から鉄帝まで追ってきたシモン先輩の執念もヤバいよね」
 手の中でカードを切る『Code187』梯・芒(p3p004532)に向かい、クルールは「オレのなにがヤバいんだ」、と問い返した。
 芒はそれには答えず、闇の中でクスッと笑い、デッキの上から一枚カードを切ってオープンする。カードは赤枠の中に燃える隕石が落下する図だったが、暗すぎて芒以外のものには何が描かれているのか分からない。
「まあ、そのおかげで後は元を断つだけだね。だったら徹底的に行こうじゃないかな、徹底的にね」
 このカードのように、と嬉しそうに独りごちる。
「僕にはシモン様の憤り、よく分かります。偽善者の顔を装い、貧民を安価で雇い、貧民に缶詰を配ることで、貧民を実験動物にしたのですから」
 『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)が、クルールの心中を慮った。まったくひどい話だ。加えてこの工場は、年端もいかぬ幼い子供を労働力としてタダ同然の安い賃金でこき使っているというではないか。怒りは決して上っ面だけのことではなく、幻は心の底から憤っていた。
 『無影拳』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が、手綱を木の幹に括りつけながら、話の穂を継ぐ。
「マッタクだ、許せないね。だから今回はトクにキアイを入れてきたよ。ゼシュテルのモメゴトはゼシュテルの民が付けなきゃならないからね。ああ、そうだ……」
 イグナートは馬の首を軽く叩いて落ち着かせてから、情報屋に顔を向けた。
「缶詰はどうショリする?  水没させるだけで良さそうなら海に捨てるし、つぶす必要があるなら港にバクヤクを置いて行かないと」
 ひとつひとつシェイクハンドでつぶすには数が多すぎる。時間があればやってやれないことはないのだが、一万個も握りつぶしたら、しばらくは指がこわばって開かなくなりそうだ。それはちょっと困る。
「海に捨てるだけで十分だと思うけど」
 クルールの代わりに『トワイライト・ウォーカー』リア・ライム(p3p000289)が答える。リアもまた乗ってきた馬を木につないだ。馬たちにはトロッコを引くという大仕事があり、その後は人を乗せて全速で駆けてもらわねばならない。しばし、草でも食んでいてもらおう。
「海水につかって錆びれば売り物にならないでしょうし」
「だけどよ、錆びるほど長い間、水ン中に沈めたままにしておくかねェ?」
 疑問を呈したのは『戦好きのハイエナ』Briga=Crocuta(p3p002861)だ。予備動作なしに軽く飛び上がり、爪先で弧を描くように足を回す。
 戦うのが待ちきれない様子に、『終焉の騎士』ウォリア(p3p001789)が低く笑った。
「最近はどうも相手を殺さないオーダーばかりだったからな……。戦とは言えんが、こういう趣向も悪くは無い___今宵が工場の終焉だ、塵殺させてもらうとしよう……とと、いいパンチだ」
 ウォリアは、Brigaが不意に繰り出した拳を胸の前で受けた。お返しに右ストレートを放つ。もちろん、二人とも本気ではない。
「じゃれあってないで荷卸しを手伝ってくれ」
 『樹妖精の錬金術士』テテス・V・ユグドルティン(p3p000275)が、幻の馬車から火薬の詰まった小樽を膝の上に乗せて運んできた。『こげねこ』クーア・ミューゼル(p3p003529)と一緒だ。転げ落ちないように車イスと樽を結えてあった紐とく。
「クルール、ここに樽を置くぞ。分配をたのむ。みんなも、ほら。取りに行って」
 馬車は人に見とがめられないように、港の外に置いてきていた。数名が馬車へ向かう。
「ああ、ありがとう。すまないが一人で樽を二つ、できれば三つ持ってくれないか? 火薬の詰まった筒の束はオレが持っていくから」
「はい! クルールさん、火をつけるのは私に任せてくださいなのです。こう見えても放火のプロですから。芸術的な火災を起こすことで、特定の支持と評価を得ているんですよ!」
 ニコニコと笑いながらクーアが恐ろしいことをいった。自身の能力を最大限に生かせる楽しい仕事を前に、猫目がちょっと飛んでいる。
「……頼む。クーアに任せた。で、さっきの話だが」
 クルールは腰のベルトに火薬の詰まった小樽を下げると、準備を整えたイレギュラーズたちと向き合った。すっと前に拳を突きだす。
「港に破棄された缶詰を引き上げる気力をなくすほど、完膚なきまでに工場を吹き飛ばすぞ」
 みんなで、おう、と低く声を出し、拳を突きあわせた。
 工場のオーナーに沈んだものを引き上げる気力が戻るころには、缶も錆びるだろうし、悪いうわさが鉄帝どころか諸外国にまで広まっているだろう。


 クレーンの影に身を隠し、一人組の警備兵が行き過ぎるのを待つ。海から吹く風が匂いを飛ばしてくれるおかげで、軍用犬はイレギュラーズたちに気づかなかったようだ。身震いに似た木の葉のおののきに、犬のハッ、ハッという呼吸音が紛れ、遠ざかっていく。カンテラが二つ、三つ、東の方へ去ってゆくのを見送った。
 クルールが素早く駆け寄ってゲートを開いた。イレギュラーズたちが次々と工場の敷地に駆け込み、黒い柵を越える。
「あれ、もしかして倉庫? あの木と植え込みの向こうにガス燈の明かりが見えるんだけど?」
 リアに言われて顔を向けると、左手に明かりが見えた。
 そうだ、とクルールが返す。よく見ると、少し離れたところにもう一つ、門があった。港に物資を運ぶトロッコ用のものだろう。
「あぶねえ、あぶねえ。でも、まあオレたちは元々、反対の右回りって決めていたし」
 Brigaに「そうだね」と小さく頷いて、芒は小樽のコルク栓を抜いた。樽を傾けて少しずつ、火薬を撒いていく。導火線だ。芒の後ろを歩く者たちは、火薬のラインを踏み消さないよう、すこし横にずれた。
 角を曲がっていくらも進まないうちに、クルールは足を止めて建物の壁に張りついた。壁よりも一段暗い色――裏口のドアを開けるために、鍵穴にピックを差し込こむ。中に押し入り、爆弾を仕掛けるつもりなのだ。
 ウォリアはためいきをつくと、押し殺した声で言った。
「後回しにはできんのか?」
「警備の連中はお前たちにまかせる。先に行け。時間はあるようでないからな」
 そういうわけにはいかない。ここに一人で残していって、不測の事態が起こればどうする。
「例えば私たちが捕まっちゃうとかしたらなのです」
「それはねぇ。オレたちはやる側だ」
 Brigaは自信たっぷりに言い切ると、クーアの髪の毛をわしゃわしゃと乱した。
「や、やめてくださいなのですぅ」
「……ここは私が見張っています。なるべく早く済ませてください。ですが爆発させるのは缶詰を処理した後にしてくださいね」と、幻。
 もちろん、と低いところから声が返ってきた。もとより、練達にあるような時限爆弾は用意されていなかった。着火は手動だ。
「火をつけるのは、さっきクーアの仕事と決まった。爆破のタイミングも任せる」
 カチャカチャと小さな音がやけに耳を突く。一秒、二秒、三秒……。
 見かねたリアがクルールの肩を叩いた。
「代わって。私の方が上手くやれるわ」
 暗殺を生業としているだけあって手際がいい。あっという間に鍵を開けてしまった。
「ちょっと待て」
 中に入る前に、無機物とぼんやりとだが意思疎通ができるテテスが鉄柵に手をあて、警備兵の位置を探る。
「まだ南側にいるようだ。この感じなら、連中がそこの角に差しかかるまで五、六分はあるな」
「僕のギフトでいくらか時間を稼げそうですが……急いだ方がよさそうですね。みなさんで手分けして爆弾を仕掛けてきてください。カンテラの灯りが見えたら合図します」
 幻を裏口のドア前に残し、イレギュラーズは順に暗い一次加工場の中に入った。
 暗い。窓がないため、外の光がまったく入ってこないのだ。たえず体から炎を吹きだしているウォリアの回りだけがほんのりと明るい。テテスが、手の届く範囲にあるものに触れて、手探りで進む仲間をサポートする。
 イグナートは嫌な臭いを吸い込んで、鼻だけをぴくりと動かした。
「ココは?」
 暗視ゴーグルを装着し、中をぐるりと見渡す。
「一次処理場だ。主に港で水揚げされた魚介類を捌いている」
「どうりで魚クサイと思ったよ」
 魚の他にも様々な原材料がここで加工され、手動のベルトコンベアで運ばれていくようになっていた。毒物が混ぜられたとしたら、ここか、食品を缶に詰める建物のどちらかだろう。
 リアは渡された爆弾を柱や機械に取りつけながら、事件の背景にあるものを見極めるため、ここで行われている悪事の証拠を探した。
「こう暗いと見つかるものも見つけられないわね」
 もし見つかるとすれば事務所かもしれないが、書類の類を見たところで門外漢にはまったくわからないだろう。
「あ、書類ならクルール先輩と芒さんにお任せだよ」
 その時、コッコッと、ドアを小さく叩く音が加工場に響いた。見張りに立っていた幻からの合図だ。
「でよう」
 イグナートはテテスの車イスを押して、ドアに向かった。
 

 路地先を照らす光が、次第に明るさを増していく。幻は頭をフル回転させた。この場に相応しいものを出さなくてはならない。
(「一時しのぎにしかなりませんが――」)
 裏口のドアの手前に、鉄柵とその後ろの植え込みを作りだした。角を曲がる警備兵からみて、数メートルほど次の曲がり角が近づいた形だ。近づけばすぐにばれてしまうが、遠くから僅かな明かりを頼りに見る分には十分錯覚させられるだろう。
「早く出て! 最初のターゲットが角を曲がります!」
 仲間たちが次々と体を低くして出てきた。
 もっと遠くにあるはずの鉄柵が近く感じる。その後ろの植え込みが、騒がしく揺れている――いや、違う。あれは、賊の影ではないか?!
 警備兵はカンテラを揺らして走りだした。いち早く軍用犬が偽の鉄柵に飛びかかる。
 夜の間に芒が振るう銀色の刃物がひらめいた。
 ギャンと短い犬の悲鳴。偽の鉄柵は瞬時に掻き消え、カンテラの投げる明かりの中にイレギュラーズの姿が浮かびあがった。
「き、貴様ら!?」
 武装した集団がいきなり目の前に現れたものだから、警備兵たちは大いに慌てた。頼りになるはずの軍用犬は虫の息で、賊の女の足元で手足を震わせて――と、トドメを刺されて絶命した。
 それを見て、いきなり一人が逃げ出した。続いて他の二人もイレギュラーズたちに背を向け走りだす。
「ゼシュテルの誇りはドコに捨てたッ!」
 イグナートは吼えた。ありえない。鉄帝の者が戦わずして敵前逃亡するなど。こいつら、性根まで腐っている。
 一気に駆けて二人を抜き去り、角の手前で最初に逃げ出した腑抜けに追いついた。手刀を憎悪の爪牙に変えて、その背を切り裂く。
 たたらを踏んで立ち止まった二人の警備兵を、後ろからリアとテテスが狙い打つ。
「ふんっ!!」
 ずん、とウォリアが重々しく大地を踏んで、大上段から左の兵の肩に魔剣ラスアルグルを振り下した。その隣でBrigaが、黒鉄鋼をはめた拳で右の兵士を乱れ打つ。
 警備兵は遅まきながら、「ゼシュテルの誇り」の残り粕を見つけたらしい。密接する三人のイレギュラーズを手と足を振るって突き離すと、血まみれの手で剣を抜いた。
「イマさら遅い!」
 イグナートは警備兵の背に素早く回り込むと、太い首に腕を回して落とした。右にいる敵の懐深く入り込んだクーアが、妖気を纏う不知火の刃を脇腹に深くつき刺し、幻の作りだした槍が左の敵の胸を貫いて仕留める。
「先を急ぐぞ」
 ウォリアが屍を踏み越えていく。ふと、振り返り――。
「邪魔だ」
 死体の首根っこを掴んで脇へ押しやり、テテスの車イスが通る道を作った。
「お、気が利くな。ありがとう」
「どういたしまして、だ」
 角で立ち止まり、顔だけを突きだして様子を窺う。遠くにカンテラの灯りを見つけた。
 ウォリアは懐から『海鳥の勝手亭』のお弁当を取りだすと、包みを開けてそっと下へおろした。まず、軍用犬を先に誘い出すのだ。本来なら弁当ごときにつられるはずもないが、先ほどの警備兵同様に、犬も堕落している可能性がある。
 おい、まて。遠くで声がした。
 タッタッと土を蹴る足音が近づいてくる。
「……情けねぇな、おい」
 弁当箱に躊躇なく鼻ズラを突っ込んだ軍用犬の頭に、Brigaが拳を叩き込む。
 追いかけてきた警備兵たちを、猛烈な魔弾掃射が襲った。クーアたち肉体派が素早く角から飛び出して乱打、三人に声をあげる暇すら与えず倒した。
「向こうの角まで走りましょう。ここと同じように仕留めれば双子に気づかれずに済むわ。クルールは中に入って爆弾を仕掛けてきてちょうだい」
 倉庫は敷地の北西にあった。回りはひらけて見通しがいいうえに、ガス燈の明かりがある。リアの提案に従って西南の角で最後の組を仕留めることになった。
 最後の警備兵たちをあっけなく倒して、イレギュラーズたちは缶にラベルを添付する作業場の角まで進んだ。ちょうど、東の辺の真ん中あたりだ。
 倉庫の横から鉄柵まで芝が広がっていた。芝地の隅に野外バーベキュー用のかまどがあるが、あれは身を隠す障害物にはならないだろう。
「ここから双子までのざっと見積もって、二十メートルだな。一気に詰めるか」
 大声で叫ばれても構わない。警備兵たちはすべて倒し切っている。テテスは車輪を勢いよく回し、芝の上を走った。
「「何者! 止まれ!」」
 鋭い制止の言葉を無視して速度を上げる。
 双子の姉のラノが、倉庫の入口目がけて突っ込んできた車イスの前へ飛び出した。
「ぬうん!」
 テテスに覆いかぶさり、太い腕に血管を浮き上がらせながら、車イスごと持ち上げる。テテスは体から植物の蔦を伸ばし、投げ飛ばされないようにラノの腕と車イスを縛った。
「御免!」
 がら空きになった胴を、ウォリアが大剣を一閃させて横に薙ぐ。幻は指先から無数の見えない糸を放ち、車イスからラノを切り離した。がしゃん、と音をたてて車イスが落下する。
 テテスはすぐさまバックすると、蔦を束ねた人形を作りだしてラノにけしかけた。隙をついて芒がトドメを刺そうと近づくが、アドレナリンを全開にして立ちあがったラノに足蹴りを見舞われそうになり、下がった。
「あらま、可愛い坊や……ジュテーム」
 姉のピンチにも関わらず、ララは目をハートにして殴りかかってきたイグナートに抱きつき、持ち上げた。背の丈はイグナートと変わらないが、体格はまるで巨大な熊のよう。全身筋肉だ。金色の髪を後ろで束ね、石のような肌をした顔に白い歯を見せながら笑う。
 バキバキと骨折りの音を辺りに響かせながら、シャドウステップを踏んだリアに対抗するかのように、くるくると狂い踊りながらイレギュラーズたちにぶつかってきた。
「おほほほ、ごめん遊ばせ」
「いってーな!!」
 Brigaはララに拳を振るうが、仲間の体が盾になって思うように打てない。しゃがみ込んだクーアが妖刀を振るってアキレスけんを切り、動きをとめた。
 ララは痛みのあまりに叫び声をあげると、イグナートを手放した。すかさず幻が生命の蝶を放って治癒する。
「さっさと死んで。私たち、忙しいのよ」
 リアがララの額を撃ちぬいた。
「よし、そいつを倒せば終わりだな!」
 Brigaは血を撒き散らしながら暴れまわるラノに駆け寄ると、右のストレートを放った。体重の乗った重い拳が頬骨を砕く。
 芒が芝に膝をついたラノの首筋にナイフを当てて横に引き、息の根を止めた。


 倉庫に入ったイレギュラーズは、手早く中を検めた。
「ふむふむ。動力は蒸気機関ですか。さすが鉄帝……壊れてなければ水と火の精霊に助けてもらえましたのに。残念なのです」
 クーアがぼやく。そこへ港の外れにつないでいた馬を連れて、イグナートとウォリア、Brigaが戻ってきた。
「リアたちはまだ戻ってきていない?」
 芒とリア、幻、それにクルールの四人は、さらなる悪事の証拠を探しつつ、残りの建物に爆弾を仕掛けて回っていた。
「まだだ。缶詰めを運び出そう。テテスは先に港に戻って見張にたつ」
 テテスと入れ違いに四人が倉庫に戻ってきた。事件の黒幕に繋がるような物証は見つけられなかったらしい。
 トロッコに馬を繋いで、引かせた。人も後ろから押す。さすがに重い。港に運び終えた時は、馬も人も息を荒げ、冬だというのに汗をかいていた。
 積み残しの分はリアがザックに詰め込んで、港と倉庫の間を往復した。
「急げ、急げ!」
 テテスが投棄をせかす。
「あっちに停泊している船に灯りがついた。気づかれるかもしれない」
 クルールがクレーンを動かして台ごと持ち上げて海へ捨てる。イレギュラーズも台を肩で押して倒し、缶を捨てた。
 一缶残らず海に沈めると、イレギュラーズは馬車と馬にまたがった。
「それでは火の精霊さんたち。打ち合わせ道理、よろしくお願いしますですよ。芸術的爆発を起こすのです」
 精霊たちが工場へ飛んで行くと同時に、イレギュラーズたちは馬に鞭を入れた。
 走りだしてすぐ、後ろで大爆発が起こり、あたりが昼のように明るくなった。巨大な爆煙と轟音が、凄まじい熱量と爆風とともに道々を走り、去っていくイレギュラーズの背を押した。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

成功です。
缶詰め工場は大爆発を起こし、跡形もなく吹き飛びました。
再建には莫大な費用と時間がかかります。再建される頃には海に捨てられた缶も腐食して、売り物にならなくなっているでしょう。

今回、この事件の背景を突き止めるまでには至りませんでしたが、この爆発テロにより、動きだす者がいるかもしれません。
もしも動きだしたなら、必ずローレットに仕事が持ち込まれるでしょう。

ご参加ありがとうございました。

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